説明

ガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム

【課題】 包装用、特に食品包装の包装材料として好適に利用される、透明かつ高度なガスバリアー性を有する優れた易引裂き性ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエチレンテレフタレート(PET)と、ポリブチレンテレフタレート(PBT)80〜95%質量%と分子量600〜4000のポリテトラメチレングリコール5〜20質量%とを共重合した変性PBTとを、PET/変性PBT=70/30〜95/5(質量比)の割合で混合した原料を用いて製造した二軸延伸フィルムの少なくとも片面にガスバリアー性を有した有機物層が形成され、その有機物層が、分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)とを含有し、かつAとBの質量比(A/B)が65/35〜15/85であるガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムの優れた強度、寸法安定性、透明性を併せ持つと共に、高いバリアー性を有し、包装用、特に食品包装用の包装材料として好適に利用される、ガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品を長期間保存するためには、腐敗や変質を促進する外気の酸素や水蒸気を遮断するために、ガスバリアー性に優れた包装材料を用いることが必要である。ガスバリアー性を有する素材としては、アルミ箔、アルミ蒸着フィルム、ポリ塩化ビニリデンコートフィルムなどが知られているが、近年の環境問題により、ポリ塩化ビニリデンの使用は制限されつつある。アルミ箔やアルミ蒸着フィルムは高度のガスバリアー性を発揮するが、不透明であり内容物を外から見ることが出来ない、電子レンジによる加熱処理が出来ないといった欠点がある。また、アルミ箔は、焼却時に残渣が残るという欠点もある。
【0003】
そこで、透明で高度の酸素バリアー性を持つフィルムとしては、ポリビニルアルコールフィルムやそのコートフィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム等のポリビニルアルコール系フィルムが用いられている。しかしながら、ポリビニルアルコール系フィルムは水蒸気バリアー性に劣り、高湿度の条件下においては酸素バリアー性も急激に低下するという性質を有する。また、特許文献1には、熱可塑性樹脂フィルムにガスバリア性を付与するために、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸の部分中和物とポリビニルアルコールからなる水溶液を、熱可塑性樹脂フィルムに塗布して、熱処理する方法が提案されている。しかしながらこの方法では、ガスバリア性を高めるために高温で長時間の加熱を行う必要があり、生産性に劣るという問題がある。また、高温で長時間の加熱を行うことによりフィルムが着色して外観が損なわれるため、食品包装用途などに使用するには改善が必要となる。
【0004】
一方、包装袋に要求される特性としては、強度と開封する時の易引裂き性の一見相反すると思われる二つの特性を兼備している事が要求される。従来の易開封技術は、Vノッチ、Uノッチ、Iノッチあるいはティアテープ、ミシン目、またはフィルム表面に微細な傷を付ける等の工夫で易開封を付与していた。しかしこのような従来の技術では、引裂けたとしても必要以上に力を要したり、直線的に引裂けないというトラブルがしばしば発生し、衣類や調度品を汚したりするなどの問題があった。
【0005】
また、フィルムを引裂いた際の引裂直線性に優れる易開封性材料としては、一軸延伸ポリオレフィンフィルムを中間層としてラミネートしたものがある。この様な構成としては、たとえば、二軸延伸ポリエステルフィルム/一軸ポリオレフィンフィルム/無延伸ポリオレフィンフィルムの3層ラミネートフィルムがあるが、わざわざ中間層を設けなければならずコスト的に問題があり、用途が限定されていた。
【特許文献1】特開平10−237180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決するためのものであり、特に、食品包装材料として好適な、透明かつ高度なガスバリアー性を有する優れた易引裂きポリエステルフィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリエチレンテレフタレート(PET)と、ポリブチレンテレフタレート(PBT)80〜95%質量%と分子量600〜4000のポリテトラメチレングリコール5〜20質量%とを共重合した変性PBTとを、PET/変性PBT=70/30〜95/5(質量比)の割合で混合した原料を用いて製造した二軸延伸フィルムの少なくとも片面に、分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)を含有し、かつAとBの質量比(A/B)が65/35〜15/85である有機物層を形成すると、透明性、ガスバリアー性、易引裂き性に優れたポリエステルフィルムが得られることを見出し本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)と、ポリブチレンテレフタレート(PBT)80〜95%質量%と分子量600〜4000のポリテトラメチレングリコール5〜20質量%とを共重合した変性PBTとを、PET/変性PBT=70/30〜95/5(質量比)の割合で混合した原料を用いて製造した二軸延伸フィルムの少なくとも片面にガスバリアー性を有した有機物層が形成され、その有機物層が、分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)とを含有し、かつAとBの質量比(A/B)が65/35〜15/85であることを特徴とするガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
(2)化合物(A)がポリビニルアルコールであることを特徴とする(1)記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
(3)化合物(B)が1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする(1)記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
(4)化合物(A)がポリビニルアルコールであり、化合物(B)が1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする(1)記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
(5)有機物層に化合物(B)中のカルボキシル基に対して0.1〜20当量%のアルカリ化合物を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムを少なくとも1層含む積層体。
(7)(6)記載の積層体を用いた包装袋。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、包装用、特に食品包装の包装材料として好適に利用される、透明かつ高度なガスバリアー性を有する優れた易引裂き性ポリエステルフィルムを工業的に容易に提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムに用いられる易引裂きポリエステルフィルムは、フィルムの長手方向(MD方向)に直線的かつ容易に引き裂かれ得る性能(易引裂き)を有している。
【0011】
直線易引裂き二軸延伸ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)と、ポリブチレンテレフタレート(PBT)80〜95%質量%と分子量600〜4000のポリテトラメチレングリコール(PTMG)5〜20質量%とを共重合した変性PBTを、PET/変性PBT=70/30〜95/5(質量比)の割合で混合した原料を用いて製造した二軸延伸ポリエステルフィルムであることが必要である。
【0012】
具体的には、PETは、公知の製法、すなわち、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとからのエステル交換反応法、あるいは、テレフタルとエチレングリコールとからの直接エステル化法によりオリゴマーを得た後、溶融重合、あるいは、さらに固相重合して得られたものであり、さらに他の成分を共重合して得られたものであってもよい。他の共重合成分としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、摩レイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、などのジカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン、乳酸などのオキシカルボン酸、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのグリコールや、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多官能化合物が挙げられる。
【0013】
本発明において変性PBTは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)80〜95%質量%と分子量600〜4000のポリテトラメチレングリコール(PTMG)5〜20質量%とを共重合したものである。
【0014】
PTMGの分子量は、600〜4000であり、好ましくは1000〜3000、さらに好ましくは1000〜2000である。分子量が600未満の場合には引裂直線性が得られず、4000を超える場合には、機械的強度、寸法安定性、ヘーズなどの性能が低下し、また、安定したフィルムの引裂直線性が発現しない。
【0015】
PTMG単位の含有量は5〜20質量%であり、好ましくは10〜20質量%、さらに好ましくは10〜15質量%である。PTMGの含有量が5質量%未満の場合には、得られるフィルムの引裂直線性が発現せず、20質量%を超える場合には、得られるフィルムの機械的強度、寸法安定性、ヘーズなどの性能が低下し、また、安定したフィルムの引裂直線性を得ることが困難となる。また、PTMGの含有量が20質量%を超える場合には、特に量産スケールで生産した場合に押出時にフィルムが脈動する現象(いわゆるバラス現象)が発現することがありフィルムの厚み斑が大きくなるという問題が発生する。
【0016】
変性PBTは、PBTの重合工程においてPTMGを添加して重縮合して得ることができるが、より簡便な方法としては、PBTとPTMGを押出機で溶融混練することによっても得ることができる。
【0017】
本発明において直線易引裂き二軸延伸ポリエステルフィルムを製造するためには、PETと変性PBTの混合比率を、PET/変性PBT=70/30〜95/5(質量比)、好ましくは80/20〜90/10(質量比)、さらに好ましくは85/15〜90/10(質量比)とすることが必要である。変性PBTの混合比率が5質量%未満の場合には引裂直線性が得られず、30質量%を超える場合には、フィルムの厚み変動が大きくなったり、得られるフィルムの引裂直線性が低下するのみならず、機械的強度、寸法安定性、ヘーズなどの性能が低下して実用性能に問題が生じる。
【0018】
また、本発明における直線易引裂き二軸延伸ポリエステルフィルムの原料樹脂には、本発明の効果を損ねない範囲であれば、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートなどの他のポリマーを混合することができる。また、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、蛍光増白剤等や、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル 、スチレン等を構成成分とする有機粒子を必要に応じて適宜含有してもよい。
【0019】
本発明における直線易引裂き二軸延伸ポリエステルフィルムを製造するには、たとえば、変性PBTとPETを混合したものを押出機に投入し、加熱溶融した後、Tダイのダイオリフィスからシート状に押し出し、未延伸シートを製造する。次に、Tダイのダイオリフィスから押し出されたシートを、静電印加キャスト法などにより冷却ドラムに密着して巻きつけて冷却し、温度90〜140℃で、縦横にそれぞれ3.0〜5.0倍の倍率で延伸し、さらに温度210〜245℃で熱処理し、二軸延伸フィルムとする。
【0020】
延伸温度が90℃未満の場合には、均質な延伸フィルムを得ることができない場合があり、140℃を超えると、PETの結晶化が促進されて透明性が悪くなる場合がある。延伸倍率が3.0倍未満の場合には、得られる延伸フィルムの強度が低く、袋にしたときにピンホールが発生しやすくなり、延伸倍率が5.0倍を超えると延伸が困難となる場合がある。また、熱処理温度が210℃より低いと、得られる延伸フィルムの熱収縮率が大きくなり、製袋後の袋が変形する場合があり、また、熱処理温度が245℃より高いとフィルムの溶断が発生する場合がある。
【0021】
二軸延伸方法としては、テンター同時二軸延伸法、ロールとテンターによる逐次二軸延伸法のいずれでもよい。また、チューブラー法で二軸延伸フィルムを製造してもよい。
【0022】
本発明において直線易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されるものではないが、通常、5〜50μmの範囲であり、10〜40μmの範囲内が好ましい。
【0023】
本発明において直線易引裂き性二軸延伸ポリエステルフィルムは、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の各種添加材、例えば他の高分子、滑剤、無機フィラー、酸化防止剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。滑剤はフィルムのアンチブロッキング性、透明性の観点から平均粒子径0.1〜4μmの不活性粒子、例えばシリカなどを0.005〜1.0質量%、好ましくは0.01〜0.5質量%添加することが好ましい。
【0024】
また、フィルムと有機物層の接着性を向上するためにフィルム表面にコロナ放電処理をしてもよく、アンカーコートをしてもよい。
【0025】
本発明における分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)としては高分子、オリゴマー、低分子化合物の何れでもよい。高分子化合物としては例えばポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレートや、これらの共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、糖類、あるいは水酸基変成された各種高分子化合物や、ポリエチレングリコールのように両末端が水酸基である高分子化合物などが挙げられる。オリゴマーとしては例えばオリゴ糖や上記高分子化合物における分子鎖の短いものが挙げられる。低分子化合物としては例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、単糖類、糖アルコールなど、さらには芳香族化合物としてカテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン)、レゾルシノール(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)などが挙げられる。これらの化合物の中でも特にポリビニルアルコールがガスバリアー性の点で最も好ましい。
【0026】
本発明において好ましく用いられるポリビニルアルコールは、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化するなどの公知の方法を用いて得ることができる。ビニルエステルとしては、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に最も好ましい。
【0027】
本発明の効果を損ねない範囲で、ビニルエステルに対し他のビニル化合物を共重合することも可能である。他のビニル系モノマーとしては、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸およびそのエステル、塩、無水物、アミド、ニトリル類や、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩、炭素数2〜30のα−オレフィン類、アルキルビニルエーテル類、ビニルピロリドン類などが挙げられる。
【0028】
なお、ケン化方法としては公知のアルカリケン化法や酸ケン化法を用いることができ、中でもメタノール中で水酸化アルカリを使用して加アルコール分解する方法が好ましい。ケン化度は100%に近いほどガスバリアー性の観点からは好ましい。ケン化度が低すぎるとバリアー性能が低下してくる。ケン化度は通常約90%以上、好ましくは95%以上で、平均重合度は50〜3000、好ましくは80〜2500、より好ましくは100〜2000のものがよい。
【0029】
また、フィルムに積層されるポリビニルアルコール中の水酸基の比率が低すぎると、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)とのエステル化反応率が低下し、本発明の目的とするガスバリアー性フィルムを得ることができない。そのためには、ポリビニルアルコールにおけるビニルアルコール単位と他のビニル化合物単位のモル比は10/90〜100/0が好ましい。
【0030】
分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)とは、例えば分子内に下記構造式(1)で表される構造を含む化合物のことである。
【0031】
【化1】

ここでRは原子または原子団を表し、全て同じでも、全て異なっていてもよく、またいくつかは同じ原子または原子団であってもよい。Rとしてはたとえば水素や、塩素や臭素といったハロゲン原子のほか、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、エステル基、フェニル基等でもよく、メチル基やエチル基などのアルキル基でもよい。また、化合物(B)は環状になっていてもよく、芳香環であってもよい。そのような場合には構造式(1)におけるRの数が少なくなることもある。
【0032】
さらに、化合物(B)のカルボキシル基のうち、2つのカルボキシル基の間で作られる無水物構造を少なくとも1つ有する化合物も本発明においては構造式(1)で表される化合物と同様の効果を発現する。
【0033】
この様な化合物としては高分子、オリゴマー、低分子化合物の何れでもよい。高分子やオリゴマーとしては、ポリマレイン酸やポリマレイン酸無水物、およびこれらの共重合体、例えば(無水)マレイン酸とアクリル酸の(交互)共重合体、などが挙げられるが、コート剤としては粘度が低い方が取り扱いやすいので、なかでも数平均分子量が10,000未満であるオリゴマーが好ましい。
【0034】
低分子化合物を用いればさらに粘度が低く取り扱いやすいので、より好ましく用いられる。その様な化合物としては1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、クエン酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、あるいはこれら化合物の無水物などが挙げられるが、特に1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸が反応性の点で好ましい。
【0035】
本発明で好ましく用いられる1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸は部分的にエステル化もしくはアミド化されていてもよい。なお、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸中のカルボキシル基は、乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造となりやすく、湿潤時や水溶液中では開環してカルボン酸構造となるが、本発明ではこれら閉環、開環を区別せず1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸として記述する。
【0036】
本発明において有機物層は、化合物(A)と化合物(B)とからなる。有機物層には、その特性を大きく損わない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤などが添加されていてもよい。熱安定剤、酸化防止剤及び劣化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。強化材としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、ゼオライト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、フッ素雲母、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、フラーレン(C60、C70など)、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0037】
有機物層を溶解する溶媒としては、化合物(A)、化合物(B)を溶解することが可能であれば、有機溶剤・水系溶剤などは単独または混合液として用いることができるが、特に、水を使用することが生産上好ましく、疎水性の共重合成分を多量に含有させると水溶性が損なわれるので好ましくない。
【0038】
本発明の有機物層には、アルカリ化合物を加えることが好ましい。特に化合物(B)のカルボキシル基に対して0.1〜20当量%のアルカリ化合物を加えることが好ましい。1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸は、アルカリ化合物を適正量添加することにより水に対する溶解度が増し、ガスバリアー性が格段に向上される。
【0039】
アルカリ化合物としては、化合物(B)中のカルボキシル基を中和できるものであればよく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、有機水酸化アンモニウム化合物等が挙げられる。また、上記アルカリ化合物として、またはアルカリ化合物と併用して、アルカリ金属塩を加えることにより、アルカリ化合物と同様にガスバリアー性が向上する。このようなアルカリ金属塩としては、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩等が好ましく、特に、次亜リン酸ナトリウムが好ましい。
【0040】
本発明において、有機物層に架橋剤成分を少量添加することによって、得られる有機物層のガスバリアー性をさらに向上させることができる。架橋剤としては、イソシアネート化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、ジルコニウム塩化合物などが挙げられる。
【0041】
本発明は、易引裂きポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、化合物(A)と化合物(B)よりなるガスバリアー性を有した有機物層が積層されたガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムであり、有機物層の化合物(A)と化合物(B)の質量比(A/B)は65/35〜15/85である必要があり、好ましくは60/40〜20/80、さらに好ましくは50/50〜20/80の範囲である。この範囲を外れる場合には、特に高湿度雰囲気下におけるガスバリアー性を発現させるために有効な架橋密度が得られず、本発明の目的とするガスバリアー性を得ることができない。また、後述する熱処理条件において、短時間の熱処理でガスバリアー性を発現させるためにはA/Bが65/35〜15/85である必要がある。
【0042】
本発明において、ポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の質量比も65/35〜15/85である必要があり、好ましくは60/40〜20/80、さらに好ましくは50/50〜20/80の範囲である。この範囲を外れる場合には、特に高湿度雰囲気下におけるガスバリアー性を発現させるために有効な架橋密度が得られず、本発明の目的とするガスバリアー性を得ることができない。そして、短時間の熱処理でガスバリアー性を発現させるためにはポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の質量比が65/35〜15/85である必要がある。特に、二軸延伸フィルムの少なくとも一方の面に、化合物(A)がポリビニルアルコールであり、化合物(B)が1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であり、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸中のカルボキシル基に対して0.1〜20当量%のアルカリ化合物を含有してなる有機物層が積層された二軸延伸フィルムが好ましい。
【0043】
本発明の代表的なガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムは、ポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の混合水溶液を作製し、これを易引裂きポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗布後、加熱乾燥によって得られる。溶解性の向上や乾燥工程の短縮、溶液の安定性の改善といった目的により、水にアルコールなどの有機溶媒を少量添加することもできる。
【0044】
本発明における有機物層の厚みは、ガスバリアー性を得るためには少なくとも0.01μmより厚くすることが望ましい。上限としては特にないが、あまり厚すぎるとベースフィルムの特性が活かせなくなるので、通常、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下であることが望ましい。
【0045】
また、ポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸からなる混合溶液をフィルムに積層する際の溶液濃度は、液の粘度や反応性、用いる装置の仕様によって適宜変更されるものであるが、あまりに希薄な溶液ではガスバリアー性を発現するのに充分な厚みの層を積層することが困難となり、また、その後の乾燥工程において長時間を要するという問題を生じやすい。一方、溶液の濃度が高すぎると、混合操作や保存性などに問題を生じることがある。この様な観点から、本発明の有機物層を積層する際、固形分濃度は5〜60質量%の範囲であることが好ましく、10〜50質量%の範囲であることがより好ましい。
【0046】
有機物層を形成させる方法としては、特に限定されないが、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング等といった周知のコーティング方法を用いることができる。
【0047】
本発明においては、有機物層を形成するために、コーティング後にフィルムを120℃以上、好ましくは150℃以上で熱処理する必要がある。熱処理温度が低いと有機物層における架橋反応を充分に進行させることができず、充分なガスバリアー性を有する有機物層を得ることが困難になる。熱処理時間があまり短すぎると上記架橋反応を充分に進行させることができず、充分なガスバリアー性を有する有機物層を得ることが困難になる。熱処理時間は通常1秒以上、好ましくは3秒以上がよい。ガスバリアー性を高めるためには高温で長時間熱処理する必要がある。たとえば200℃で3分以上、あるいは220℃で15秒以上熱処理すれば非常に高いガスバリアー性を示す有機物層が得られる。
【0048】
本発明のガスバリアー性易引裂き性ポリエステルフィルムは、必要に応じて印刷、ラミネートされて積層体として用いられる。
【0049】
本発明の積層体は、前記ガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムを少なくとも一層含み、二層、三層等何層であってもよい。例えば、ガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムとヒートシール性樹脂層から構成される二層構成の積層体がある。ヒートシール性樹脂としては、従来から包装材料のシーラント層として用いられているものと同様の素材から構成することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー等を使用することができる。また、ヒートシール性樹脂層の厚みは特に限定されず、必要に応じて適宜選択することができる。
【0050】
また、二軸延伸ポリエステルフィルムや二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム等別の延伸フィルムや紙などをラミネートして積層することもできる。
【0051】
ラミネート方法としては、特に制限はないが、ドライラミネート法、押出ラミネート法などの方法を用いることができる。
【0052】
本発明の積層体の構成としては、例えば、次のような構成が挙げられる。
本発明のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムを(F)、その他延伸フィルムや紙などを(D)、ヒートシール層を(S)とすると、F/S、F/D/S、D/F/S、F/F/S、F/D/F/S、F/F/D/S、D/F/F/S、D/F/D/S、D/D/F/Sなどである。ただし、前記構成の中で、Sは、S/Sであってもよく、F/D、D/F、F/F、D/Dの間に接着層として、S層が存在していてもよい。
【0053】
本発明の包装袋は、上記積層体を用いたものであり、その形態は、特に制限されるものではないが、例えば、三方袋、四方袋、ピロー袋、ガセット袋、スティック袋などが挙げられる。引裂き方向がガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムの長手方向となるようにすることにより、ガスバリアー性に優れた易開封性袋が得られる。
【実施例】
【0054】
以下実施例により本発明を説明する。
なお、実施例及び比較例の評価に用いた測定方法は、次の通りである。
【0055】
〔引裂き直進性〕
二軸延伸フィルムより長手方向(MD)に205mm、巾方向に(TD)に20mmの短冊状のフィルム片を採取し、このフィルム片の一方のTD辺の中央部に長さ5mmの切り込み(ノッチ)を入れた試料を10本作製し、次にノッチよりMD方向に手で引裂き、引裂き伝播端がノッチを入れた辺の向かい合うTD片に到達した試料本数を評価値とした。
【0056】
〔酸素透過度〕
MOCON社製ガス透過性測定器(OX−TRAN2/20)を用いて、温度20℃、湿度90%RHで測定した。
【0057】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET)と、ポリブチレンテレフタレート(PBT)と分子量1100のポリテトラメチレングリコール10質量%とを共重合した変性PBTを、PET/変性PBT=85/15(質量比)の割合で混合した原料を用いて、樹脂温度280℃で押出し、20℃のキャストロールに密着急冷させ、ロール縦延伸機で90℃で3.5倍に、テンター横延伸機で120℃で4.5倍に延伸し、横方向の弛緩率を3%として235℃で熱処理し、厚さ12μmの直線易引裂き二軸延伸ポリエステルフィルムを製造した。
【0058】
コート剤として、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(和光純薬工業社製、試薬一級)を、カルボキシル基に対して10モル%の水酸化ナトリウムを含む水溶液に溶解し20質量%溶液とした。この溶液と、ポリビニルアルコール(ユニチカケミカル社製 UMR−10HH)の20質量%水溶液とをポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の質量比が30/70となるように混合し、攪拌して固形分濃度20質量%のコート剤を調製した。
【0059】
このコート剤を上記直線易引裂き二軸延伸ポリエステルフィルム上に乾燥後の塗膜厚みが約0.5μmになるようにマイヤーバーで塗工し、100℃で2分間乾燥した後、200℃で15秒間熱処理し、ガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムを得た。本フィルムの評価結果を表1に示す。
【0060】
実施例2
コート剤の組成を変えた以外は実施例1と同様にしてガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムを得た。本フィルムの評価結果を表1示す。
【0061】
実施例3
フィルムの組成とコート剤の組成を変えた以外は実施例1と同様にしてガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムを得た。本フィルムの評価結果を表1示す。
【0062】
実施例4
コート剤を二軸延伸易引裂き性ポリエステルフィルム上にコートした後に、100℃で2分間乾燥し、200℃で5分間熱処理した以外は実施例1と同様の手順でコートしたガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムを得た。本フィルムの評価結果を表1に示す。
【0063】
比較例1
直線易引裂き二軸延伸ポリエステルフィルムの代わりに二軸延伸PETフィルム12μmを用いて実施例1と同様の方法により有機物層を形成した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0064】
比較例2、3
コート剤の組成を変えた以外は実施例1と同様にして有機物層を形成した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0065】
比較例4
有機物層を形成していない直線易引裂き二軸延伸ポリエステルフィルムの評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート(PET)と、ポリブチレンテレフタレート(PBT)80〜95%質量%と分子量600〜4000のポリテトラメチレングリコール5〜20質量%とを共重合した変性PBTとを、PET/変性PBT=70/30〜95/5(質量比)の割合で混合した原料を用いて製造した二軸延伸フィルムの少なくとも片面にガスバリアー性を有した有機物層が形成され、その有機物層が、分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)とを含有し、かつAとBの質量比(A/B)が65/35〜15/85であることを特徴とするガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
【請求項2】
化合物(A)がポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
【請求項3】
化合物(B)が1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項1記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
【請求項4】
化合物(A)がポリビニルアルコールであり、化合物(B)が1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項1記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
【請求項5】
有機物層に化合物(B)中のカルボキシル基に対して0.1〜20当量%のアルカリ化合物を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリアー性易引裂きポリエステルフィルムを少なくとも1層含む積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体を用いた包装袋。


【公開番号】特開2006−21378(P2006−21378A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200309(P2004−200309)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】