説明

ガスバリア層形成用塗工液およびガスバリア性積層体の製造方法

【課題】従来に比べてより短時間で、必要な場合、より高濃度のガスバリア層形成用塗工液(多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液)を形成し得るガスバリア層形成用塗工液の製造方法を提供し、これにより全体として合理的なガスバリア性積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】エチレン性不飽和カルボン酸を、該エチレン性不飽和カルボン酸の0.05〜0.75化学当量の多価金属化合物と水性媒体中で混合後に重合させ、多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)を形成することを特徴とする、ガスバリア層形成用塗工液の製造方法。更に、支持体の少なくとも片面に、上記の方法により得られた多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)をそのまま、あるいは必要に応じて希釈して形成した塗工液(B)を、塗工した後に乾燥させてガスバリア層(a)を形成し、次いで多価金属化合物を含有する塗工液(C)を塗工し、更に乾燥させて、ガスバリア層(a)上に多価金属化合物含有層(c)を形成して、ガスバリア性積層体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素等の影響により劣化を受け易い、食品、飲料、薬品、医薬品、電子部品等の精密金属部品の包装材料、ボイル、レトルト殺菌等の高温熱水条件下での処理(加熱殺菌)を必要とするガスバリア性積層体(例えばフィルムないしシート状)を形成するに適したガスバリア層形成用塗工液の製造方法、ならびに得られたガスバリア層形成用塗工液を用いるガスバリア性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスバリア性重合体としてポリ(メタ)アクリル酸やポリビニルアルコールに代表される分子内に親水性の高い水素結合性基を含有する重合体が用いられてきた。しかしながら、これら重合体からなるガスバリア性積層体は、乾燥条件下においては、非常に優れた酸素等のガスバリア性を有する一方で、高湿度条件下においては、その親水性に起因して酸素等のガスバリア性が大きく低下するという問題やガスバリア性積層体の湿度や熱水に対する耐性が劣るという問題があった。
【0003】
これらの問題を解決するために、国際公開第WO03/091317号(特許文献1)には支持体上にポリカルボン酸系重合体層と多価金属化合物含有層とを隣接させて積層し、層間反応により、ポリカルボン酸系重合体の多価金属塩とすることが開示されており、このようにして得られるガスバリア性積層体は、高湿度条件下でも高い酸素ガスバリア性を有することが開示されている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているガスバリア性積層体では、冷水にさらされると、ガスバリア性が低下したり、白化したりするといった問題があった。
【0005】
そこで、冷水にさらされた際に、ガスバリア性が低下せず、白化も起きないガスバリア性積層体を形成するために、本出願人は、ポリカルボン酸の水溶液に多価金属化合物を添加し、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシル基の一部を多価金属(およびアルカリ金属)で中和した、多価金属(およびアルカリ金属)部分中和ポリカルボン酸系重合体からなるガスバリア層を支持体上に形成する方法を提案している(下記特許文献2〜4)。
【0006】
しかしながら、上記方法では、ポリカルボン酸水溶液に多価金属化合物を添加して、両者間の反応により、部分中和ポリカルボン酸の水性溶液ないし分散液(以下、両者を包括的に「水性分散液」と称する)を形成する過程に、極めて長時間を要し、しかも得られる水性分散液中の部分中和ポリカルボン酸濃縮を上昇することが困難なため、製造装置の容積効率が低いこと、また塗工液の製造場所とその塗工によるガスバリア性積層体の製造場所とが異なる場合には、塗工液運送コストの増大に伴うガスバリア性積層体製造コストの増大が無視できないという問題点がある。
【特許文献1】国際公開第WO 03/091317号明細書
【特許文献2】特開2006−121602号公報
【特許文献3】特開2006−121604号公報
【特許文献4】特開2006−326062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の主要な目的は、ガスバリア層形成用塗工液調製工程の合理化を通じて、全体として合理的なガスバリア性積層体の製造方法を提供することにある。
【0008】
より具体的には、本発明は、より短時間で、必要な場合にはより高濃度の、ガスバリア層形成用塗工液を形成し得るガスバリア層形成用塗工液の製造方法を提供し、もって全体として合理的なガスバリア性積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的の達成のために開発された本発明の第1の観点によれば、エチレン性不飽和カルボン酸を、該エチレン性不飽和カルボン酸の0.05〜0.75化学当量の多価金属化合物と水性媒体中で混合後に重合させ、多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)を形成することを特徴とするガスバリア層形成用塗工液の製造方法が提供される。
【0010】
上記本発明の方法により形成される多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)(以下、「ガスバリア層形成用塗工液(A)あるいは単に「塗工液(A)」ともいう」は、多価金属による部分中和ポリカルボン酸の水性分散液であるという点で、上記特許文献2〜4で形成されるものと本質的に異なるものではない。特許文献2〜4の方法に比べて、本発明方法が合理的(塗工液の製造が短時間で可能であり、必要な場合、塗工液の高濃度化ができる)になった理由について、若干説明する。両方法の効率の差異は、端的に云って、特許文献2〜4の方法では、多価金属による中和前のポリカルボン酸水性分散液の粘度が、本発明方法における多価金属による中和前のエチレン性不飽和カルボン酸の水性分散液の粘度に比べて極めて高いことに起因する。従って、特許文献2〜4の方法では、ポリカルボン酸水性分散液と中和のために加えられる多価金属化合物との混合過程で、水性分散液中において高中和度ポリカルボン酸部分が形成され、ゲル状の不均一な分散不安定物が生成しがちなため、これを避けるためには温和な混合ならびに反応条件を採用することが必要となって塗工液調製に長時間が必要となり、しかも、水性分散液が不安定化し易いため、高濃度化も困難となる。これに対し、本発明方法によれば、比較的高濃度であってもポリカルボン酸水性分散液に比べて遥かに低粘度なエチレン性不飽和カルボン酸水性分散液を用いて、多価金属化合物との混合および部分中和反応が極めて速やかに且つ均一に進行する。そして形成された水性分散液中の部分中和エチレン性不飽和カルボン酸の重合反応は速やかに進行することが確認され(後記実施例)、しかも均一濃度且つ中和度のエチレン性不飽和カルボン酸水性分散液であるために、重合の進行に伴って生成する部分中和ポリカルボン酸の水性分散液における分散不安定化も起りにくくなると考えられる。本発明のガスバリア層形成用塗工液の製造方法は、このような知見に基づくものである。
【0011】
また、本発明の別の観点に従えば、支持体の少なくとも片面に、上記の方法により得られたガスバリア層形成用塗工液(A)をそのまま、あるいは必要に応じて希釈して形成した塗工液(B)を、塗工した後に乾燥させてガスバリア層(a)を形成し、次いで多価金属化合物を含有する塗工液(C)を塗工し、更に乾燥させて、ガスバリア層(a)上に多価金属化合物含有層(c)を形成することを特徴とする、ガスバリア性積層体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の製造≫
(エチレン性不飽和カルボン酸モノマー)
エチレン性不飽和カルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が用いられる。中でも、得られるガスバリア性積層体のガスバリア性の観点から、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸モノマーは、1種単独で、あるいは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
(共重合成分モノマー)
本発明においては、必要に応じて、エチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和単量体(共重合成分モノマー)を併用してもよい。例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリルが挙げられる。中でも、得られるガスバリア性積層体のガスバリア性の観点から、アクリルアミド、アクリロニトリルが好ましい。これらの共重合成分モノマーは1種を単独であるいは、2種以上を混合して用いることができる。これらの共重合成分モノマーの含有量は、得られるガスバリア性積層体のガスバリア性の観点から、エチレン性不飽和カルボン酸と共重合成分モノマーの総重量に対して50重量%以下が好ましく、40重量%以下がさらに好ましく、30重量%以下が最も好ましい。
【0014】
(モノマー成分濃度)
上記モノマー成分は、重合後に得られる多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)中の固形分濃度が、後述するように1〜50重量%の範囲となるような量とすることが好ましい。
【0015】
(多価金属化合物)
本発明で用いる多価金属化合物は、金属イオンの価数が2以上の金属(すなわち多価金属)を含む化合物である。多価金属化合物に含まれる多価金属としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属;チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属;アルミニウムなどが挙げられ、多価金属化合物としては、例えば、これら多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩が挙げられる。
【0016】
これらの多価金属化合物の中でも、得られるガスバリア層(a)のガスバリア性、高温水蒸気や、熱水に対する耐性、および製造性の観点から、2価の金属の化合物を用いることが好ましく、アルカリ土類金属、コバルト、ニッケル、銅または亜鉛の酸化物、水酸化物または炭酸塩を用いることが好ましい。特に耐水性、透明性の観点からカルシウム化合物または亜鉛化合物を用いることが好ましい。中でも、工業的生産の観点から、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、または酸化亜鉛を用いることが特に好ましい。
【0017】
(アルカリ金属化合物)
多価金属化合物とアルカリ金属化合物の併用は、多価金属化合物の使用量を増大して、得られる多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の分散安定性を向上する作用を有するので好ましい。アルカリ金属化合物としては、特に限定はなく、アルカリ金属化合物に含まれるアルカリ金属として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられる。またアルカリ金属化合物としては、例えば前記アルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩が挙げられる。これらのアルカリ金属化合物の中でも、得られるガスバリア性積層体のガスバリア性の観点から、ナトリウム化合物またはカリウム化合物を用いることが好ましく、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物や、ナトリウムまたはカリウムの炭酸塩を用いることがより好ましい。また、多価金属化合物の使用量を増大して、得られる多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の分散安定性を向上するためには、アルカリ金属以外にも、アンモニアを使用することができる。
【0018】
(金属化合物添加量)
多価金属化合物を単独で用いる場合には、エチレン性不飽和カルボン酸中のカルボキシル基に対して、0.05〜0.30化学当量の多価金属化合物を用いることが好ましく、より好ましくは0.07〜0.28化学当量、特に好ましくは0.10〜0.25化学当量である。多価金属化合物が0.05化学当量未満であると、ガスバリア性積層体の耐水性が不良になる場合があり、0.30化学当量を超えると多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の安定性が不良になる場合がある。
【0019】
他方、多価金属化合物とアルカリ金属化合物とを併用する場合には、エチレン性不飽和カルボン酸中のカルボキシル基に対して0.01〜0.35化学当量のアルカリ金属化合物と、エチレン性不飽和カルボン酸中のカルボキシル基に対して0.05〜0.75化学当量の多価金属化合物とを使用する(ただし、アルカリ金属化合物と多価金属化合物との合計が1.00化学当量未満とする)ことが好ましく、得られるガスバリア性積層体の耐水性、多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の安定性の観点から、アルカリ金属化合物は0.02〜0.25化学当量、また多価金属化合物は0.10〜0.50化学当量、特に0.10〜0.35化学当量がより好ましい。上述したようにアルカリ金属化合物が上記範囲であると、アルカリ金属化合物を用いない場合と比べて、多量の多価金属化合物を用いることができるため好ましい。また、アルカリ金属化合物が0.35化学当量を超えると、ガスバリア性積層体の耐水性が不良になる場合がある。また、多価金属化合物が0.05化学当量未満であると、ガスバリア性積層体の耐水性が不良になり場合があり、0.75化学当量を超えると多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の安定性が不良になる場合がある。
【0020】
本発明のガスバリア層形成用塗工液(A)(部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A))は、上述したモノマー成分と多価金属化合物を水性媒体(殆どが水であるが後述する連鎖移動剤を含み得る)中で混合し溶解して形成された部分中和エチレン性不飽和カルボン酸水性溶液を重合することにより得られる。
【0021】
(重合開始剤)
重合開始剤としては水溶性のラジカル開始剤が用いられる。具体的には、過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルパーオキシドなどの過酸化物の一種または二種以上が用いられる。また、これら過酸化物と、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、遷移金属塩、アスコルビン酸などの還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤およびアゾ化合物などが用いられる。開始剤添加量はモノマーに対して0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜1重量%である。
【0022】
(重合条件)
重合温度は、開始剤の選択および目標分子量によって変わる。一般に、重合温度は50℃から重合系の沸点温度の範囲が好ましい。重合時の温度を50℃未満にすると重合開始剤の分解効率が悪くなり、得られる重合体における単量体の残存量が多くなる可能性がある。
【0023】
(総固形分濃度)
上述のようにして得られる本発明の多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)においては、固形分の含有量が、多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)100重量%あたり、1〜50重量%の範囲が好ましい。多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の生産性および輸送コストの観点から、3〜45重量%の範囲がさらに好ましく、5〜40重量%の範囲が特に好ましい。
【0024】
(重量平均分子量(Mw)、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))
本発明の多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)中の多価金属部分中和ポリカルボン酸の重量平均分子量(Mw)は5,000〜5,000,000の範囲であることが好ましい。Mwが5,000未満では得られるガスバリア性積層体は十分な耐水性を達成できず、水分によってガスバリア性や透明性が悪化する場合や、白化の発生が起こる場合がある。またMwが5,000,000を超えると粘度が高いため、塗工性が損なわれる。分子量分布(Mw/Mn)は1.5〜4.0が好ましい。Mw/Mnが1.5未満である多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)は製造が煩雑となり、生産性が悪化する。また4.0を超えると多価金属で部分中和した際に不均一な溶液となり、沈殿が生じやすくなる可能性がある。
【0025】
上記Mw、Mw/Mn比は、一般に開始剤の種類および量、重合温度の変化および必要に応じて連鎖移動剤を使用することにより調整される。なお、本明細書中に記載する、これらの値は、ゲルパーミエーション法による測定値に基づき、その測定条件は、後述する、実施例中の評価方法の記載中に含める。
【0026】
(連鎖移動剤)
上述したMwおよびMw/Mn比を与え、得られる部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の分散安定性を維持するために、多くの場合において、水性媒体中に連鎖移動剤を含ませることが好ましい。連鎖移動剤としては、イソプロピルアルコールのほか、メルカプトエタノール、チオ尿素などのメルカプト系、アリルアルコール、アリルスルホン酸ナトリウム、メタアリルスルホン酸ナトリウムなどのアリル系などが用いられる。これらの連鎖移動剤の添加量は、モノマーに対して0.01〜90モル%、好ましくは0.1〜50モル%である。連鎖移動剤が0.01モル%未満であると、粘度が著しく高くなり、白色沈殿を生じる場合があり、90モル%を超えると分子量分布が著しく広くなる場合がある。
【0027】
≪塗工液(B)≫
上記のようにして得られた部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)は、そのまま支持体上に塗布して、本発明のガスバリア性積層体の形成に用いることもできるが、多くの場合において、水および/または有機溶媒で希釈して、塗工性を改良した塗工液(B)とし、比較的薄いガスバリア層(a)の形成を容易とすることが好ましい。
【0028】
(多価金属部分中和ポリカルボン酸の含有量)
本発明の塗工液(B)においては、多価金属部分中和ポリカルボン酸の含有量が、塗工液(B)100重量%あたり0.1〜30重量%の範囲であることが好ましい。含有量が0.1重量%未満であると得られるガスバリア性積層体において充分なガスバリア性を達成できない場合がある。一方、30重量%を超えると、塗工液(B)が不安定となり、均一なガスバリア性積層体を得ることができない場合がある。さらに、塗工液(B)の安定性、塗工性の観点から、このような多価金属部分中和ポリカルボン酸の含有量が、塗工液(B)100重量%あたり、0.5〜20重量%の範囲であることがより好ましく、1〜10重量%の範囲であることが特に好ましい。
【0029】
(有機溶媒)
塗工液(B)の溶媒としては、水および有機溶媒の混合溶媒が、塗工性の観点から好ましい。有機溶媒としては、例えば、炭素数1〜5の低級アルコールおよび炭素数3〜5の低級ケトンからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、中でも、メチルアルコール、エチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトンを用いると塗工性に優れるため好ましい。生産性、安全性の点でイソプロピルアルコールがより好ましい。また、これらの有機溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。混合溶媒中に水が20〜95重量%の量で存在し、該有機溶媒が80〜5重量%の量で存在する(ただし、水と有機溶媒との合計を100重量%とする)ようにすることが好ましい。
【0030】
混合溶媒中の有機溶媒が80重量%を超えると、温度の影響等により塗工液(B)が不安定(塗工液(B)の増粘や凝集物沈殿)になる場合があり、5重量%未満であると塗工性不良が発生する場合がある。塗工液(B)の長期安定性およびガスバリア性積層体の製膜性の観点から、混合溶媒中に有機溶媒が70〜8重量%、水が30〜92重量%の量で存在することが好ましく、有機溶媒が60〜10重量%、水が40〜90重量%の量で存在することが特に好ましい。
【0031】
(分散粒子の割合)
本発明の塗工液(B)において、水性媒体(すなわち、水または水と有機溶媒との混合溶媒)中に含有される、多価金属部分中和ポリカルボン酸は一部が溶解し、残りが分散粒子として存在する。通常分散粒子の割合は、5〜80重量%であり、好ましくは10〜70重量%、特に好ましくは15〜60重量%である。塗工液(B)の長期安定性および塗工性、ガスバリア性積層体の製膜性の観点から、前記分散粒子の平均粒子径が500〜4000nmであることが好ましく、600〜3500nmであることがより好ましい。
【0032】
≪ガスバリア性積層体≫
(支持体)
ガスバリア性積層体は、支持体上に、上記多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)(塗工液(A))または塗工液(B)の塗工、乾燥により得たガスバリア層(a)を単独で、あるいは後述する多価金属化合物含有層(c)と積層して形成することにより得られる。
【0033】
ガスバリア層(a)や後述する多価金属化合物含有層(c)を順次積層させるためのものである支持体の形態としては特に限定されず、本発明のガスバリア性積層体の良好なガスバリア性を有効に利用するために、例えば、フィルム、シート、ボトル、カップおよびトレー等の、いずれにしても厚さに比べて面積が相当に大なるものが用いられる。
【0034】
支持体の厚さは、その用途などによっても異なるが、通常は、5μm〜1mmである。フィルムやシートの用途では、5〜700μmが好ましく、10〜100μmがさらに好ましい。また、ボトルやトレーの用途では、100〜300μmが好ましく、150〜250μmがさらに好ましい。支持体の厚みが上記範囲内であると、各用途での作業性および生産性に優れている。
【0035】
また、このような支持体としては、例えば、金属類、ガラス類、紙類、プラスチック類(金属蒸着プラスチックスを含む)が挙げられる。さらに、これらのうちのプラスチックス類(金属蒸着プラスチックスを含む)の材質としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系重合体やそれらの共重合体、およびそれらの酸変性物;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコール等の酢酸ビニル系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリε−カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート等のポリエステル系重合体やそれらの共重合体;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6,66共重合体、ナイロン6,12共重合体、メタキシレンアジパミド・ナイロン6共重合体等のポリアミド系重合体やそれらの共重合体;ポリエチレングリコール、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド等のポリエーテル系重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の塩素系およびフッ素系重合体やそれらの共重合体;ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル等のアクリル系重合体やそれらの共重合体;ポリイミド系重合体やその共重合体;アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、塗料用に用いるエポキシ樹脂等の樹脂;セルロース、澱粉、プルラン、キチン、キトサン、グルコマンナン、アガロース、ゼラチン等の天然高分子化合物が挙げられ、これらプラスチック類の未延伸フィルム、1軸延伸フィルム、2軸延伸フィルムが、支持体の好適例として挙げられる。
【0036】
また、このような支持体としては、前述した塗工液(A)または(B)から形成されるガスバリア層(a)又は後述する多価金属化合物含有層(c)との接着性を改良するという観点から、支持体の表面に、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理等で表面活性化処理を施したものを用いてもよく、さらには、支持体の表面に接着剤層(本明細書において、アンカーコート層とも記す)を設けてもよい。このような接着剤層に用いられる樹脂としては、ドライラミネート用やアンカーコート用、プライマー用として用いられている樹脂であればよく、特に限定されないが、例えば、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂を用いることができる。
【0037】
(塗工液(A)または塗工液(B)から形成されるガスバリア層(a))
本発明のガスバリア性積層体を構成するガスバリア層(a)は、前述した多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)(塗工液(A))または塗工液(B)を前述の支持体や、後述する多価金属化合物含有層(c)等へ塗工し、乾燥することにより形成されるガスバリア層である。
【0038】
(多価金属化合物含有層(c))
本発明のガスバリア性積層体のガスバリア性の一層の向上を図るために、ガスバリア層(a)と隣接して多価金属化合物含有層(c)を積層することが好ましい。多価金属化合物含有層(c)は、多価金属化合物を支持体上や塗工液(A)または塗工液(B)から形成されるガスバリア層(a)上に、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の気相コーティング法を用いて形成してもよいが、通常は後述する塗工液(C)を塗工し、乾燥することによって形成される。
【0039】
(塗工液(C))
本発明にかかる塗工液(C)は、多価金属化合物を含有するものである。このような多価金属化合物としては、前記多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の形成のために用いることができる多価金属化合物が挙げられる。また、本発明にかかる塗工液(C)においては、このような多価金属化合物の形態は粒子状であることが好ましい。また、このような多価金属化合物の粒子の平均粒子径としては、ガスバリア性、コーティング適性の観点から、平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。
【0040】
塗工液(C)に用いる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、ジメチルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの中でも、塗工性および製造性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、水が好ましい。なお、本発明のガスバリア性積層体を構成する、塗工液((A)または(B))から形成されるガスバリア層(a)は耐水性が優れているために、ガスバリア層(a)上に塗工液(C)を塗工する場合にも、塗工液(C)に用いる溶媒として水を用いることができる。また、これらの溶媒は1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0041】
塗工液(C)には、樹脂、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、アンチブロッキング剤、粘着剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0042】
また、塗工液(C)には、塗工性、製膜性を向上させる目的で、用いた溶媒系に可溶又は分散可能な樹脂を混合して用いることが好ましい。このように用いた溶媒系に可溶又は分散可能な樹脂としては、例えば、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等の塗料用に用いる樹脂が挙げられる。
【0043】
(積層構成)
本発明の好ましい態様に従い形成されるガスバリア性積層体(D)は、前述した支持体の少なくとも片面に、前述した塗工液(A)または塗工液(B)から形成されるガスバリア層(a)と、前述した多価金属化合物含有層(c)とが、互いに接触した積層単位を有するものである。
【0044】
<ガスバリア性積層体(D)>
このようなガスバリア性積層体(D)の製造方法には、前述の支持体の少なくとも片面に、前述の塗工液(A)または(B)を塗工した後に乾燥させてガスバリア層(a)を形成し、次いで前述の塗工液(A)または塗工液(B)をガスバリア層(a)に塗工した後に乾燥させてガスバリア層(a)上に多価金属化合物含有層(c)を形成する態様と、前述の支持体の少なくとも片面に、前述の多価金属化合物を含有する塗工液(C)を塗工した後に乾燥させて多価金属化合物含有層(c)を形成し、次いで前述の塗工液(A)または塗工液(B)を、多価金属化合物含有層(c)に塗工した後に乾燥させて多価金属化合含有層(c)上にガスバリア層(a)を形成する態様とが含まれる。
【0045】
前記塗工液(A)または塗工液(B)を塗工する方法としては、特に限定されないが、ディッピング法やスプレー、およびコーター、印刷機を用いて塗工する方法が挙げられるコーター、印刷機の種類、塗工方法としては例えば、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーターおよびノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーターを用いて塗工する方法が挙げられる。
【0046】
さらに、前記塗工液(A)または塗工液(B)を乾燥させる方法としては、特に限定されないが、自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤー等を用いる方法を挙げることができる。また、乾燥の条件としては、乾燥させる方法により適宜選択することができるが、例えばオーブン中で乾燥させる方法においては、乾燥温度が40〜300℃であることが好ましく、45〜200℃であることがより好ましく、50〜160℃であることが特に好ましい。また、乾燥時間が0.5秒〜10分間であることが好ましく、1秒〜5分間であることがより好ましく、1秒〜1分間であることが特に好ましい。
【0047】
また、前記塗工液(C)を塗工する方法及び乾燥させる方法としては、前記塗工液(A)または塗工液(B)を塗工する方法及び乾燥させる方法と同様の方法を挙げることができる。
【0048】
なお、前記塗工液(A)または塗工液(B)及び前記塗工液(C)を塗工する順序としては、前記支持体の少なくとも片面に塗工液(A)または塗工液(B)を塗工して乾燥しガスバリア層(a)を形成した後に、前記塗工液(C)を塗工して乾燥し、多価金属化合物含有層(c)を形成してもよく、前記支持体の少なくとも片面に前記塗工液(C)を塗工して乾燥し、多価金属化合物含有層(c)を形成した後に、前記塗工液(A)または塗工液(B)を塗工して乾燥し、ガスバリア層(a)を形成してもよい。
【0049】
なお、ガスバリア性積層体(D)の製造方法の別の態様としては、塗工液(C)を用いず、支持体上またはガスバリア層(a)上に多価金属化合物を蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の気相コーティング法を用いて形成する方法が挙げられる。
【0050】
本発明のガスバリア性積層体(D)の、温度30℃、相対湿度80%で測定した酸素透過度は、特に限定されないが、1000cm(STP)/m・day・MPa以下、好ましくは500cm(STP)/m・day・MPa以下であり、更に好ましくは100cm(STP)/m・day・MPa以下である。ここで(STP)は、酸素の体積を規定するための標準条件(0℃、1気圧)を意味する。また本発明のガスバリア性積層体(D)の、温度30℃、相対湿度0%で測定した酸素透過度は、特に限定されないが、1000cm(STP)/m・day・MPa以下、好ましくは500cm(STP)/m・day・MPa以下であり、更に好ましくは100cm(STP)/m・day・MPa以下である。
【実施例】
【0051】
<多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の調製>
(実施例1)
攪拌機および還流管付きガラス反応槽(容量:3000cm)に、イオン交換水233gを入れ、十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で、アクリル酸モノマー(日本触媒製)144g、多価金属化合物として酸化亜鉛(関東化学製試薬)16.27g、連鎖移動剤としてイソプロピルアルコール(関東化学製試薬 以下、「IPA」と略す)15.8gを投入し、室温で5分間攪拌することによりアクリル酸亜鉛35.2重量%水性分散液を調製した。次に、上記アクリル酸亜鉛水性分散液の入ったガラス反応槽を70℃のウォーターバスに入れた。水性分散液が液温70℃になったところで、重合開始剤として5重量%過硫酸カリウム水溶液(和光純薬製試薬)2.3gを投入した。70℃で2時間保持して重合を行った後、室温で反応槽から取り出し、亜鉛部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A)A−1を調製した。
【0052】
(実施例2)
実施例1のイオン交換水を1233g、IPA(関東化学製試薬)を47.5gに変更した以外は同様にして、亜鉛部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A)A−2を調製した。
【0053】
(実施例3)
アクリル酸モノマー(日本触媒製)を72mgにし、添加する多価金属化合物を酸化亜鉛(関東化学製試薬)12gと水酸化ナトリウム(純正化学製試薬)6.4gに、開始剤を過硫酸カリウム(和光純薬製試薬)0.057gと亜硫酸水素ナトリウム(関東化学製試薬)0.35gに、連鎖移動剤をメタアリルスルホン酸(MAS)(和光純薬製試薬)1.4gに変更し、ウォーターバスの温度を60℃にした以外は実施例2と同様に操作し、ナトリウム−亜鉛部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A)A−3を調製した。
【0054】
(実施例4)
イオン交換水を770g、IPA(関東化学製試薬)を24gに、添加する多価金属化合物を炭酸カルシウム(関東化学製試薬)20gに、重合開始剤を過酸化水素(関東化学製試薬)0.12gとホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(SFS)(関東化学製試薬)0.12gとFe−EDTA(ナガセケムテックス製)0.038gに変更し、ウォーターバスの温度を50℃にした以外は実施例1と同様に操作し、カルシウム部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A)A−4を調製した。
【0055】
(実施例5)
イオン交換水を525g、IPA(関東化学製試薬)を36g、酸化亜鉛(関東化学製試薬)を14.7gに、アクリル酸モノマーをアクリル酸(日本触媒製)129.6gとアクリルアミド(関東化学製試薬)14.4gにし、開始剤を過硫酸カリウム(和光純薬製試薬)0.12gと亜硫酸水素ナトリウム(関東化学製試薬)0.69gに変更し、ウォーターバスの温度を60℃にした以外は実施例1と同様に操作し、亜鉛部分中和ポリアクリル酸共重合水性分散液(A)A−5を調製した。
【0056】
(実施例6)
イオン交換水を319g、酸化亜鉛(関東化学製試薬)を14.7gに、アクリル酸モノマーをアクリル酸(日本触媒製)129.6gとアクリルアミド(旭化成製)14.4gにし、重合開始剤を過酸化水素(関東化学製試薬)0.12gとホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(SFS)(関東化学製試薬)0.12gとFe−EDTA(ナガセケムテックス製)0.038gに、連鎖移動剤をメタアリルスルホン酸(MAS)(和光純薬製試薬)2.4gに変更し、ウォーターバスの温度を50℃にした以外は実施例1と同様に操作し、亜鉛部分中和ポリアクリル酸共重合水性分散液(A)A−6を調製した。
【0057】
(比較例1)
ポリアクリル酸25重量%水性分散液(東亜合成製、アロンA−10H、数平均分子量:200,000)40gに水60gを添加して1分間攪拌し、ポリアクリル酸10重量%水性分散液を調製した。次に、上記ポリアクリル酸水性分散液の入った容器を70℃のウォーターバスに入れて攪拌した。液温が70℃になったところで、酸化亜鉛(和光純薬製試薬)1.11gを5分間かけて少量ずつ添加し、その後24時間攪拌を行い、亜鉛中和ポリアクリル酸水性分散液(A)A−7を調製した。
【0058】
(比較例2)
ポリアクリル酸粉末(和光純薬製試薬、数平均分子量:250,000)35gに水61.1gを添加して5分間攪拌し、ポリアクリル酸36.4重量%水性分散液を調製した。次に、上記ポリアクリル酸水性分散液の入った容器を70℃のウォーターバスに入れて攪拌した。液温が70℃になったところで、酸化亜鉛(和光純薬製試薬)3.90gを5分間かけて少量ずつ添加し、その後24時間攪拌を行い、亜鉛中和ポリアクリル酸水性分散液(A)A−8を調製した。
【0059】
(比較例3)
攪拌機および還流管付きガラス反応槽(容量:3000cm)に、イオン交換水248gを入れ、十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で、アクリル酸モノマー(日本触媒製)144g、酸化亜鉛(関東化学製試薬)2.44g、IPA(関東化学製試薬)16.4gを投入し、室温で5分間溶解することによりアクリル酸亜鉛36.9重量%水性分散液を調製した。次に、上記アクリル酸亜鉛水性分散液の入ったガラス反応槽を70℃のウォーターバスに入れた。水性分散液が液温70℃になったところで5重量%過硫酸カリウム水溶液(和光純薬製試薬)2.3gを投入した。70℃で2時間保持して重合を行った後、室温で反応槽から取り出し、亜鉛部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A)A−9を調製した。
【0060】
上記実施例および比較例で得られた多価金属化合物部分中和水性分散液(A)については、以下の評価を行った。実施例および比較例の概容および評価結果をまとめて、後記表1に示す。
【0061】
[多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の評価方法]
(1)調製時間
エチレン性不飽和カルボン酸を原料とした場合には、重合開始から重合が完了するまでの時間を調製時間とした。また、ポリカルボン酸を原料とした場合には、多価金属化合物添加後から目視で水性分散液が無色透明になるまでの時間を調製時間とした。
【0062】
(2)外観
調製した水性分散液の外観を目視で評価した。
【0063】
(3)重量平均分子量(Mw)分子量および分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によった。分離カラムは「Shodex Asahipak GF−7M HQ」(昭和電工株式会社製)を使用し、溶離液流速0.6mL/min、カラム温度40℃の条件で、検出器には赤外分光器を用いて測定した。溶離液はNaHPO/CHCN=90/10を用い、検量線の作成には分子量の異なるポリアクリル酸(和光純薬製試薬)を使用し、測定するポリアクリル酸と同じ中和度となるように酸化亜鉛(関東化学製試薬)で中和したものを用いた。サンプルは、1mg/mLの濃度となるように溶離液で希釈し、20μLを注入した。
【0064】
【表1】

【0065】
<塗工液(B)の調製>
(実施例1B)
実施例1で調製した亜鉛部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A−1)30gに、塗工性を確保するため水209.8gとIPA(関東化学製試薬)150.2gを添加して、2時間攪拌を行い、塗工液(B):B−1を調製した。
【0066】
(実施例2B)
実施例2で調製した亜鉛部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A−2)30gに、塗工性を確保するため水38.9gとIPA(関東化学製試薬)42.1gを添加して、2時間攪拌を行い、塗工液(B):B−2を調製した。
【0067】
(実施例3B)
実施例3で調製したナトリウム−亜鉛部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A−3)30gに、塗工性を確保するため水4.8gとIPA(関東化学製試薬)22.0gを添加して、2時間攪拌を行い、塗工液(B):B−3を調製した。
【0068】
(実施例4B)
実施例4で調製したカルシウム部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A−4)30gに、塗工性を確保するために、水67.4gとIPA(関東化学製試薬)60.6gを添加して、2時間攪拌を行い、塗工液(B):B−4を調製した。
【0069】
(実施例5B)
実施例5で調製した亜鉛部分中和ポリアクリル酸共重合水性分散液(A−5)30gに、塗工性を確保するために、水104.9gとIPA(関東化学製試薬)83.1gを添加して、2時間攪拌を行い、塗工液(B):B−5を調製した。
【0070】
(実施例6B)
実施例6で調製した亜鉛部分中和ポリアクリル酸共重合水性分散液(A−6)30gに、塗工性を確保するために、水170.1gとIPA(関東化学製試薬)126.9gを添加して、2時間攪拌を行い、塗工液(B):B−6を調製した。
【0071】
(比較例3B)
比較例3で調製した亜鉛部分中和ポリアクリル酸水性分散液(A−9)30gに、塗工性を確保するため水37.9gとIPA(関東化学製試薬)43.1gを添加して、2時間攪拌を行い、塗工液(B):B−7を調製した。
【0072】
上記実施例および比較例で得られた塗工液(B)については以下の評価を行った。塗工液の概容および評価結果をまとめて、後記表2に示す。
【0073】
[塗工液(B)の評価方法]
(1)外観
調製した塗工液(B)の外観を目視で評価した。
【0074】
(2)分散粒子の散乱強度および平均粒子径
サブミクロン粒度分布測定装置「コールターN4 Plus」(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて、上記のようにして調製した塗工液の希釈液の散乱角62.5°での散乱強度(秒あたりのカウント数)を測定した。また単分散モードで分析することにより、強度で重み付けした分散粒子の平均粒子径を求めた。尚、平均粒子径の測定には各塗工液を同様組成の混合溶媒(水/IPA重量比=6/4)で希釈して測定する。多価金属部分中和ポリカルボン酸系重合体の含有量が0.005〜0.020重量%の範囲になるように希釈し、測定することが好ましい。
【0075】
(3)分散粒子の割合
株式会社トミー精工製高速冷却遠心機(「CX−250」)を用いて、調製した各塗工液(B)を、回転数25,000rpm(遠心加速度50,000G)、遠心時間150分の条件で遠心分離処理することにより、分散粒子が沈殿した白濁沈殿物と上澄み液とに分けた。前記白濁沈殿物と上澄み液とを分離し、白濁沈殿物と上澄み液とをそれぞれ90℃で1日間真空乾燥した後、その重量を測定する。測定した重量を下記式(1)に当てはめることにより、塗工液(B)中の多価金属部分中和ポリカルボン酸系重合体の分散粒子の割合を算出した。
【0076】
多価金属部分中和ポリカルボン酸系重合体の分散粒子の割合[重量%]
=白濁沈殿物の乾燥重量[g]/(白濁沈殿物の乾燥質量[g]+上澄み液の乾燥重量[g])
……(1)
【0077】
【表2】

【0078】
<ガスバリア性積層体(D)の作製>
(実施例1D)
ウレタン系ドライラミネート用接着剤(大日本インキ化学株式会社ドライラミネート、アンカーコート兼用接着剤:ディックドライTM LX−747)10gにイソシアネート系ドライラミネート用硬化剤(大日本インキ化学株式会社ドライラミネート、アンカーコート兼用硬化剤:TM KX−75)1.5g、酢酸エチル(和光純薬製試薬)185gを添加して、30分間攪拌を行い、アンカーコート溶液を調製した。
【0079】
2軸延伸ポリエステルフィルム(東レフィルム加工株式会社製ルミラーP60、厚さ12μm、以下「PET」と表記する)のコロナ処理面に、メイヤーバーを用いて、上記アンカーコート溶液を塗工し、90℃で30秒間乾燥して、厚みが0.1μmのアンカーコート層を得た。
【0080】
続けて、実施例1Bで得られた塗工液B−1をアンカーコート層面に、メイヤーバーを用いて、塗工し、90℃で30秒間乾燥して、0.3μmの亜鉛部分中和ポリアクリル酸層)を得た。
【0081】
さらに、亜鉛部分中和ポリアクリル酸層面に、塗工液(C)として酸化亜鉛微粒子トルエン分散液(住友大阪セメント株式会社製、酸化亜鉛分散塗料 ZR133、多価金属化合物および添加剤の含有量:33重量%、酸化亜鉛粒子径:0.01〜0.03μm)を、メイヤーバーで塗工し、90℃で30秒間乾燥して、厚みが0.5μmの酸化亜鉛微粒子含有層を得た。
【0082】
以上のようにして、PET(12μm)/アンカーコート層(0.1μm)/亜鉛部分中和ポリアクリル酸層(0.3μm)/酸化亜鉛微粒子含有層(0.5μm)のガスバリア性積層体(D):D−1を得た。
【0083】
(実施例2D)
実施例1Bで得られた塗工液B−1に代えて、実施例2Bで得られた塗工液B−2を用いた以外は、実施例1Dと同様にしてガスバリア性積層体(D):D−2を得た。
【0084】
(実施例3D)
実施例1Bで得られた塗工液B−1に代えて、実施例3Bで得られた塗工液B−3を用いた以外は、実施例1Dと同様にしてガスバリア性積層体(D):D−3を得た。
【0085】
(実施例4D)
実施例1Bで得られた塗工液B−1に代えて、実施例4Bで得られた塗工液B−4を用いた以外は、実施例1Dと同様にしてガスバリア性積層体(D):D−4を得た。
【0086】
(実施例5D)
実施例1Bで得られた塗工液B−1に代えて、実施例5Bで得られた塗工液B−5を用いた以外は、実施例1Dと同様にしてガスバリア性積層体(D):D−5を得た。
【0087】
(実施例6D)
実施例1Bで得られた塗工液B−1に代えて、実施例6Bで得られた塗工液B−6を用いた以外は、実施例1Dと同様にしてガスバリア性積層体(D):D−6を得た。
【0088】
(比較例3D)
実施例1Bで得られた塗工液B−1に代えて、比較例3Bで得られた塗工液B−7を用いた以外は、実施例1Dと同様にしてガスバリア性積層体(D):D−7を得た。
【0089】
上記実施例および比較例で得られたガスバリア性積層体(D)については、以下の評価を行った。ガスバリア性積層体(D)の概容および評価結果をまとめて、後記表3に示す。
【0090】
[ガスバリア性積層体(D)の評価方法]
(1)耐水性
後記(2)に示す酸素透過度試験器を用いて、30℃両側相対湿度0%の条件で、作製したガスバリア性積層体(D)の酸素透過度を測定した。得られたガスバリア性積層体(D)を温度20℃の冷水に3分間浸漬し、取り出したものをガスバリア性積層体試料として、外観の目視による観察および酸素透過度を測定し、その測定値に基づいてガスバリア性積層体(D)の耐水性を評価した。得られた酸素透過度の測定値が50cm(STP)/m・day・MPa未満の場合を○、50cm(STP)/m・day・MPa以上の場合を×とした。
【0091】
耐水性が良好であれば、冷水への浸漬前後で酸素透過度は変化しないが、耐水性が不良であれば冷水への浸漬後の酸素透過度が大きく増加する。
【0092】
(2)酸素透過度測定
得られたガスバリア性積層体(D)を温度30℃、相対湿度80%条件下で24時間保持して調湿処理を行ったものをガスバリア性積層体試料として、MOCON社製酸素透過度試験器「OX−TRAN 2/20」)を用いて、30℃、両側相対湿度80%RHの条件で酸素透過度を測定した。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0093】
上述したように本発明によれば、従来に比べてより短時間で、必要な場合、より高濃度のガスバリア層形成用塗工液(多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液)を形成し得るガスバリア層形成用塗工液の製造方法が提供され、これにより全体として合理的なガスバリア性積層体の製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和カルボン酸を、該エチレン性不飽和カルボン酸の0.05〜0.75化学当量の多価金属化合物と水性媒体中で混合後に重合させ、多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)を形成することを特徴とする、ガスバリア層形成用塗工液の製造方法。
【請求項2】
前記多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)中の多価金属部分中和ポリカルボン酸の重量平均分子量(Mw)が5,000〜5,000,000であることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア層形成用塗工液の製造方法。
【請求項3】
前記多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)中の多価金属部分中和ポリカルボン酸の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn:分子量分布)が1.5〜4.0であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスバリア層形成用塗工液の製造方法。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和カルボン酸が、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸およびイタコン酸の中から選ばれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア層形成用塗工液の製造方法。
【請求項5】
前記多価金属化合物が、カルシウム化合物または亜鉛化合物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア層形成用塗工液の製造方法。
【請求項6】
多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)の形成を連鎖移動剤の存在下で行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア層形成用塗工液の製造方法。
【請求項7】
前記連鎖移動剤が、イソプロピルアルコール、メルカプトエタノール、チオ尿素、アリルアルコール、アリルスルホン酸ナトリウムおよびメタアリルスルホン酸ナトリウムの中から選ばれることを特徴とする、請求項6に記載のガスバリア層形成用塗工液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の多価金属部分中和ポリカルボン酸水性分散液(A)を、水および/または有機溶媒で希釈して、塗工液(B)を形成することを特徴とする、ガスバリア層形成用塗工液の製造方法。
【請求項9】
前記有機溶媒が、炭素数1〜5の低級アルコールおよび炭素数3〜5の低級ケトンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒であることを特徴とする、請求項8に記載のガスバリア層形成用塗工液の製造方法。
【請求項10】
支持体の少なくとも片面に、請求項1〜9のいずれかの方法により得られたガスバリア層形成用塗工液から形成されるガスバリア層(a)と、多価金属化合物含有層(c)とが、互いに接触した積層単位を有することを特徴とする、ガスバリア性積層体。
【請求項11】
支持体の少なくとも片面に、請求項1〜9のいずれかの方法により得られたガスバリア層形成用塗工液を塗工した後に乾燥させてガスバリア層(a)を形成し、次いで多価金属化合物を含有する塗工液(C)を塗工し、更に乾燥させて、ガスバリア層(a)上に多価金属化合物含有層(c)を形成することを特徴とする、ガスバリア性積層体の製造方法。

【公開番号】特開2008−248062(P2008−248062A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90581(P2007−90581)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】