説明

ガスバリア性フィルムの製造方法、有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】 本発明の目的は、不純物粒子の混入がなく、非常に安定した製造を可能とし、かつ過酷な環境下で保存されても密着性に優れ、良好な透明性、ガスバリア耐性を備えたガスバリア性フィルムの製造方法と、それを用いた有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂フィルム上に、該樹脂フィルム側から密着膜、セラミック膜及び保護膜を順次形成するガスバリア性フィルムの製造方法において、該密着膜、該セラミック膜及び該保護膜が、同一組成物から構成されている薄膜形成ガスを用いて形成されていることを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の積層構造を有するガスバリア性フィルムの製造方法と、それを用いた有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチック基板やフィルムの表面に酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物の薄膜を形成したガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。また、包装用途以外にも液晶表示素子、太陽電池、有機エレクトロルミネッセンス(EL)基板等で使用されている。
【0003】
この様な分野での包装材料としてアルミ箔等が広く用いられているが、使用後の廃棄処理が問題となっているほか、基本的には不透明であり、外から内容物を確認することができないという課題を抱えており、更に、ディスプレイ材料では透明性が求められており、全く適用することができない。
【0004】
一方、ポリ塩化ビニリデン樹脂や塩化ビニリデンと他のポリマーとの共重合体樹脂からなる樹脂フィルム、あるいはこれらの塩化ビニリデン系樹脂をポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂にコーティングしてガスバリア性を付与した材料が、特に包装材料として広く用いられているが、焼却処理過程で塩素系ガスが発生するため、環境保護の観点から現在問題となっており、更にガスバリア性が必ずしも充分ではなく、高度なバリア性が求められる分野へ適用することができない。
【0005】
特に、液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)素子などへの応用が進んでいる透明樹脂フィルムには、近年、軽量化、大型化という要求に加え、長期信頼性や形状の自由度が高いこと、曲面表示が可能であること等の高度な要求が加わり、重く割れやすく大面積化が困難なガラス基板に代わって透明プラスチック等のフィルム基材が採用され始めている。例えば、特開平2−251429号公報や特開平6−124785号公報には、有機エレクトロルミネッセンス素子の基板として、高分子フィルムを用いた例が開示されている。
【0006】
しかしながら、透明プラスチック等のフィルム基材はガラスに対しガスバリア性が劣るという問題がある。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子の基板として用いた場合、ガスバリア性が劣る基材を用いると、水蒸気や空気が浸透して有機膜が劣化し、発光特性あるいは耐久性等を損なう要因となる。また、電子デバイス用基板として高分子基板を用いた場合には、酸素が高分子基板を透過して電子デバイス内に浸透、拡散し、デバイスを劣化させてしまうことや、電子デバイス内で求められる真空度を維持できないといった問題を引き起こす。
【0007】
この様な問題を解決するためにフィルム基板上に金属酸化物薄膜を形成してガスバリア性フィルム基材とすることが知られている。包装材や液晶表示素子に使用されるガスバリア性フィルムとしてはプラスチックフィルム上に酸化珪素を蒸着したもの(例えば、特許文献1参照。)や酸化アルミニウムを蒸着したもの(例えば、特許文献2参照。)が知られており、いずれも2g/m2/day程度の水蒸気バリア性、あるいは2ml/m2/day程度の酸素透過性を有するにすぎないのが現状である。近年では、さらなるガスバリア性が要求される有機ELディスプレイや、液晶ディスプレイの大型化、高精細ディスプレイ等の開発により、フィルム基板へのガスバリア性能について水蒸気バリアで10-3g/m2/day程度まで要求が上がってきている。
【0008】
これら高い水蒸気遮断性の要望に応える方法の1つとして、緻密なセラミック層と、柔軟性を有し、外部からの衝撃を緩和するポリマー層とを交互に繰り返し積層した構成のガスバリア性フィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、セラミック層とポリマー層とでは、一般に組成が異なるため、それぞれの接触界面部での密着性が劣化し、膜剥離等の品質劣化を引き起こすことがある。特に、この密着性の劣化は、高温高湿等の過酷な環境下や紫外線の照射を長期間にわたり受けた際に顕著に現れ、早急な改良が求められている。
【特許文献1】特公昭53−12953号公報
【特許文献2】特開昭58−217344号公報
【特許文献3】米国特許第6,268,695号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、不純物粒子の混入がなく、非常に安定した製造を可能とし、かつ過酷な環境下で保存されても密着性に優れ、良好な透明性、ガスバリア耐性を備えたガスバリア性フィルムの製造方法と、それを用いた有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0011】
(請求項1)
樹脂フィルム上に、該樹脂フィルム側から密着膜、セラミック膜及び保護膜を順次形成するガスバリア性フィルムの製造方法において、該密着膜、該セラミック膜及び該保護膜が、同一組成物から構成されている薄膜形成ガスを用いて形成されていることを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【0012】
(請求項2)
前記セラミック膜の密度は、該密着膜及び保護膜のそれぞれの密度よりも高いことを特徴とする請求項1記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【0013】
(請求項3)
前記密着膜、前記セラミック膜及び前記保護膜を構成する物質が、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、酸化アルミナ及びそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【0014】
(請求項4)
大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスおよび放電ガスを含有するガスを供給し、該放電空間に高周波電界を印加することにより該ガスを励起し、基材を励起した該ガスに晒すことにより、該基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法により、樹脂フィルム上に、密着膜、セラミック膜及び保護膜の少なくとも1層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【0015】
(請求項5)
大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスおよび放電ガスを含有するガスを供給し、該放電空間に高周波電界を印加することにより該ガスを励起し、基材を励起した該ガスに晒すことにより、該基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法により、樹脂フィルム上に、密着膜、セラミック膜及び保護膜の全ての層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【0016】
(請求項6)
前記放電ガスが窒素ガスであり、放電空間に印加される高周波電界は、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、該第1の高周波電界の周波数ω1より該第2の高周波電界の周波数ω2が高く、該第1の高周波電界の強さV1、該第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さIVとの関係が、V1≧IV>V2またはV1>IV≧V2の関係を満たし、該第2の高周波電界の出力密度が1W/cm2以上であることを特徴とする請求項4または5に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【0017】
(請求項7)
請求項1〜6のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法により製造されたガスバリア性フィルムの保護膜上に凹凸形状を有する膜を設け、更にその上にゾルゲル反応で造膜する屈折率が1.9以上、2.1以下の高屈折率膜を湿式コーティング法で設け、更にその上に透明導電膜を形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法。
【0018】
(請求項8)
請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法により製造された有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材上に、燐光発光有機エレクトロルミネッセンス材料及び陰極となる金属膜を設けて封止することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、不純物粒子の混入がなく、非常に安定した製造を可能とし、かつ過酷な環境下で保存されても密着性に優れ、良好な透明性、ガスバリア耐性を備えたガスバリア性フィルムの製造方法と、それを用いた有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、樹脂フィルム上に、該樹脂フィルム側から密着膜、セラミック膜及び保護膜を順次形成するガスバリア性フィルムの製造方法において、該密着膜、該セラミック膜及び該保護膜が、同一組成物から構成されている薄膜形成ガスを用いて形成されていることを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法により、不純物粒子の混入がなく、非常に安定した製造を可能とし、かつ過酷な環境下で保存されても密着性に優れ、良好な透明性、ガスバリア耐性を備えたガスバリア性フィルムを製造できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0022】
更に、上記で規定する構成に加えて、セラミック膜の密度を、その上下に位置する密着膜及び保護膜のそれぞれの密度よりも高く設定すること、本発明に係る密着膜、セラミック膜及び保護膜を構成する物質が、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、酸化アルミナ及びそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種であること、本発明に係る密着膜、セラミック膜及び保護膜の少なくとも1層あるいは全層を、大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスおよび放電ガスを含有するガスを供給し、放電空間に高周波電界を印加することにより該ガスを励起し、基材を励起したガスに晒すことにより、基材上に薄膜を形成する大気圧プラズマCVD法を用いることにより、本発明の上記目的効果がより一層発揮されることを見出したものである。
【0023】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0024】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法においては、樹脂フィルム上に、該樹脂フィルム側から密着膜、セラミック膜及び保護膜を順次形成するガスバリア性フィルムの製造方法において、該密着膜、該セラミック膜及び該保護膜が、同一組成物から構成されている薄膜形成ガスを用いて形成されていることを特徴とする。
【0025】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法においては、樹脂フィルム上に密着膜、セラミック膜及び保護膜を形成する方法としては、スプレー法、スピンコート法、スパッタリング法、イオンアシスト法、後述するプラズマCVD法、後述する大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法等を適用して形成することができる。
【0026】
しかしながら、スプレー法やスピンコート法等の湿式法では、分子レベル(nmレベル)の平滑性を得ることが難しく、また溶剤を使用するため、本発明で適用する樹脂フィルムにおいては、使用可能な基材または溶剤が限定されるという欠点がある。そこで、本発明においては、プラズマCVD法等で形成されたものであることが好ましく、特に大気圧プラズマCVD法は、減圧チャンバー等が不要で、高速製膜ができ生産性の高い製膜方法である点から好ましい。上記密着膜、セラミック膜及び保護膜を大気圧プラズマCVD法で形成することにより、均一かつ表面の平滑性を有する膜を比較的容易に形成することが可能となるからである。尚、プラズマCVD法の各薄膜の形成条件の詳細については、後述する。
【0027】
上記のようなプラズマCVD法、あるいは大気圧プラズマCVD法による薄膜形成においては、薄膜形成ガスがは、主に、薄膜を形成するための原料ガス、該原料ガスを分解して薄膜形成化合物を得るための分解ガス及びプラズマ状態とするための放電ガスとから構成されている。従来の方法では、複数の薄層を積層しながら形成する場合には、各薄層を形成する際には、組成の異なる原料ガス等を含む各薄膜形成ガスを用いて、薄膜形成ガスを順次交換しながら、同一のプラズマ放電発生装置を用いて積層体の形成を行っていたが、この方法では、所望の薄膜を形成する際に、その前で薄膜形成を行った原料ガス等の残留によるコンタミあるいは装置壁面等に付着した不純物粒子等による異種組成粒子の混入により、均質性の高い薄膜を形成する上で、大きな障害となっていた。
【0028】
本発明では、上記課題に対し、樹脂フィルム上に密着膜、セラミック膜及び保護膜を順次形成する際に、密着膜、セラミック膜及び保護膜の形成を、同一組成物から構成されている薄膜形成ガスを用いて行うことを特徴としており、この結果、不純物粒子の混入がなく、非常に安定した製造を可能とし、かつ過酷な環境下で保存されても密着性に優れ、良好な透明性、ガスバリア耐性を備えたガスバリア性フィルムを製造できる。
【0029】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法において、同一組成物から構成されている薄膜形成ガスを用いて、所望の構成からなる密着膜、セラミック膜及び保護膜を形成する方法としては、特に制限はないが、最適な原材料を選択すると共に、原料ガス、分解ガス及び放電ガスの組成比、プラズマ放電発生装置への薄膜形成ガスの供給速度、あるいはプラズマ放電処理時の出力条件等を適宜選択することが好ましい。
【0030】
同一組成物から構成される本発明に係る密着膜、セラミック膜及び保護膜において、薄膜間の分離、あるいは確認方法としては、例えば、各薄層間での密度差、原料化合物の含有量差、各薄膜の硬度差、あるいは密度に関連する炭素含有量差等を測定することにより、密着膜、セラミック膜、保護膜の分離を行うことができる。
【0031】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法においては、セラミック膜の密度を、その上下に位置する密着膜及び保護膜のそれぞれの密度よりも高く設定することが、本発明の目的効果をいかんなく発揮できる観点から好ましい。
【0032】
本発明で規定する各構成層の密度は、公知の分析手段を用いて求めることができ、本発明においては、X線反射率法により求めた値を用いている。
【0033】
X線反射率法の概要は、X線回折ハンドブック 151ページ(理学電機株式会社編 2000年 国際文献印刷社)や化学工業1999年1月No.22を参照して行うことができる。
【0034】
本発明に有用な測定方法の具体例を以下に示す。
【0035】
測定装置としては、マックサイエンス社製MXP21を用いて行う。X線源のターゲットには銅を用い、42kV、500mAで作動させる。インシデントモノクロメータには多層膜パラボラミラーを用いる。入射スリットは0.05mm×5mm、受光スリットは0.03mm×20mmを用いる。2θ/θスキャン方式で0から5°をステップ幅0.005°、1ステップ10秒のFT法にて測定を行う。得られた反射率曲線に対し、マックサイエンス社製Reflectivity Analysis Program Ver.1を用いてカーブフィティングを行い、実測値とフッティングカーブの残差平方和が最小になるように各パラメータを求める。各パラメータから各積層膜の厚さ及び密度を求めることができる。本発明における各積層膜の膜厚評価も上記X線反射率測定より求めることができる。
【0036】
また、本発明に係るガスバリア性フィルムにおいては、低密度膜は高炭素含有膜と相関を持ち、また高密度膜は低炭素含有膜と相関を持つため、上記説明した密度差の他に、炭素含有量差により、各層の境界部を確認することができる。
【0037】
本発明において、各薄膜の炭素含有量は、公知の分析手段を用いて求めることができる。
【0038】
本発明において炭素含有率を示す原子数濃度とは、下記のXPS法によって算出されるもので、以下に定義される。
【0039】
原子数濃度%(atomic concentration)=炭素原子の個数/全原子の個数×100
XPS表面分析装置は、本発明では、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。具体的には、X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定した。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定したとき、1.5eV〜1.7eVとなるように設定した。
【0040】
測定としては、先ず、結合エネルギ0eV〜1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで測定し、いかなる元素が検出されるかを求めた。
【0041】
次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンをおこない、各元素のスペクトルを測定した。
【0042】
得られたスペクトルは、測定装置、あるいは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを生じせしめなくするために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM (Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同ソフトで処理をおこない、各分析ターゲットの元素(炭素、酸素、ケイ素、チタン等)の含有率の値を原子数濃度(atomic concentration:at%)として求めた。
【0043】
定量処理をおこなう前に、各元素についてCount Scaleのキャリブレーションをおこない、5ポイントのスムージング処理をおこなった。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps*eV)を用いた。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いた。また、Shirley法については、D.A.Shirley,Phys.Rev.,B5,4709(1972)を参考にすることができる。
【0044】
次いで、本発明に係るガスバリア性フィルムの構成要素に次いで説明する。
【0045】
《密着膜、セラミック膜及び保護膜》
はじめに、本発明に係る密着膜、セラミック膜及び保護膜(以下、総称してガスバリア層という)について説明する。
【0046】
本発明に係るガスバリア層は、それぞれの薄膜が酸素及び水蒸気の透過を阻止する層であれば、その組成等は特に限定されるものではない。本発明に係るガスバリア層を構成する材料として具体的には、無機酸化物が好ましく、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化窒化珪素、酸化窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ等を挙げることができる。また、本発明におけるガスバリア層の厚さは、用いられる材料の種類、構成により最適条件が異なり、適宜選択されるが、1〜1000nmの範囲内であることが好ましい。ガスバリア層の厚さが、上記の範囲より薄い場合には、均一な膜が得られず、ガスに対するバリア性を得ることが困難であるからである。また、ガスバリア層の厚さが上記の範囲より厚い場合には、ガスバリア性フィルムにフレキシビリティを保持させることが困難であり、成膜後に折り曲げ、引っ張り等の外的要因により、ガスバリア性フィルムに亀裂が生じる等のおそれがあるからである。
【0047】
本発明に係るガスバリア層は、原材料をスプレー法、スピンコート法、スパッタリング法、イオンアシスト法、プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法等を適用して形成することができるが、好ましくは大気圧プラズマCVD法で形成することが、均一かつ表面の平滑性を有する膜を比較的容易に形成することができる観点から好ましい。
【0048】
プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法により得られるガスバリア層は、原材料(原料ともいう)である有機金属化合物、分解ガス、分解温度、投入電力などの条件を選ぶことで、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物、金属硫化物、金属ハロゲン化物、またこれらの混合物(金属酸窒化物、金属酸化ハロゲン化物、金属窒化炭化物など)も作り分けることができるため好ましい。
【0049】
例えば、珪素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、珪素酸化物が生成する。また、亜鉛化合物を原料化合物として用い、分解ガスに二硫化炭素を用いれば、硫化亜鉛が生成する。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
【0050】
このような無機物の原料としては、典型または遷移金属元素を有していれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても構わない。気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール,エタノール,n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用できる。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響は殆ど無視することができる。
【0051】
このような有機金属化合物としては、
ケイ素化合物として、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。
【0052】
チタン化合物としては、例えば、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンテトライソポロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−エチルアセトアセテート)、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンアセチルアセトネート、ブチルチタネートダイマー等が挙げられる。
【0053】
ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ジルコニウムトリ−n−ブトキシドアセチルアセトネート、ジルコニウムジ−n−ブトキシドビスアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムヘキサフルオロペンタンジオネート等が挙げられる。
【0054】
アルミニウム化合物としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、トリエチルジアルミニウムトリ−s−ブトキシド等が挙げられる。
【0055】
硼素化合物としては、ジボラン、テトラボラン、フッ化硼素、塩化硼素、臭化硼素、ボラン−ジエチルエーテル錯体、ボラン−THF錯体、ボラン−ジメチルスルフィド錯体、三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体、トリエチルボラン、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ(イソプロポキシ)ボラン、ボラゾール、トリメチルボラゾール、トリエチルボラゾール、トリイソプロピルボラゾール、等が挙げられる。
【0056】
錫化合物としては、テトラエチル錫、テトラメチル錫、二酢酸ジ−n−ブチル錫、テトラブチル錫、テトラオクチル錫、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、ジエチル錫、ジメチル錫、ジイソプロピル錫、ジブチル錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、錫ジブチラート、錫ジアセトアセトナート、エチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫アセトアセトナート、ジメチル錫ジアセトアセトナート等、錫水素化合物等、ハロゲン化錫としては、二塩化錫、四塩化錫等が挙げられる。
【0057】
また、その他の有機金属化合物としては、例えば、アンチモンエトキシド、ヒ素トリエトキシド、バリウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、ベリリウムアセチルアセトナート、ビスマスヘキサフルオロペンタンジオネート、ジメチルカドミウム、カルシウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、クロムトリフルオロペンタンジオネート、コバルトアセチルアセトナート、銅ヘキサフルオロペンタンジオネート、マグネシウムヘキサフルオロペンタンジオネート−ジメチルエーテル錯体、ガリウムエトキシド、テトラエトキシゲルマン、テトラメトキシゲルマン、ハフニウムt−ブドキシド、ハフニウムエトキシド、インジウムアセチルアセトナート、インジウム2,6−ジメチルアミノヘプタンジオネート、フェロセン、ランタンイソプロポキシド、酢酸鉛、テトラエチル鉛、ネオジウムアセチルアセトナート、白金ヘキサフルオロペンタンジオネート、トリメチルシクロペンタジエニル白金、ロジウムジカルボニルアセチルアセトナート、ストロンチウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、タンタルメトキシド、タンタルトリフルオロエトキシド、テルルエトキシド、タングステンエトキシド、バナジウムトリイソプロポキシドオキシド、マグネシウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、ジエチル亜鉛、などが挙げられる。
【0058】
また、これらの金属を含む原料ガスを分解して無機化合物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気、フッ素ガス、フッ化水素、トリフルオロアルコール、トリフルオロトルエン、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、塩素ガスなどが挙げられる。
【0059】
金属元素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで、各種の金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物、金属ハロゲン化物、金属硫化物を得ることができる。
【0060】
また、これらの金属を含む原料ガスを分解して無機化合物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気、フッ素ガス、フッ化水素、トリフルオロアルコール、トリフルオロトルエン、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、塩素ガス、などが挙げられる。
【0061】
金属元素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで、各種の金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物、金属ハロゲン化物、金属硫化物を得ることができる。
【0062】
これらの反応性ガスに対して、主にプラズマ状態になりやすい放電ガスを混合し、プラズマ放電発生装置にガスを送りこむ。このような放電ガスとしては、窒素ガスおよび/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも特に、窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられる。
【0063】
上記放電ガスと反応性ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。放電ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、放電ガスの割合を50%以上として反応性ガスを供給する。
【0064】
本発明に係るガスバリア層においては、ガスバリア層が含有する無機化合物が、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、酸化アルミナ及びそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特に水分の透過性、光線透過性及び後述する大気圧プラズマCVD適性の観点から、酸化珪素であることが好ましい。
【0065】
本発明に係る無機化合物は、例えば、上記有機珪素化合物に、更に酸素ガスや窒素ガスを所定割合で組み合わせて、O原子とN原子の少なくともいずれかと、Si原子とを含む膜を得ることができる。
【0066】
よって、本発明に係るガスバリア層は、透明であることが好ましい。上記ガスバリア層が透明であることにより、ガスバリア性フィルムを透明なものとすることが可能となり、有機EL素子の透明基板等の用途にも使用することが可能となるからである。
【0067】
《樹脂フィルム》
本発明係るガスバリア性フィルムで用いられる基材は、上述したバリア性を有するガスバリア層を保持することができる樹脂フィルムであれば特に限定されるものではない。
【0068】
具体的には、エチレン、ポリプロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)樹脂、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン樹脂(APO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリビニルブチラート(PVB)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等を用いることができる。
【0069】
また、上記に挙げた樹脂以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリルレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。さらに、これらの樹脂の1または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを樹脂フィルムとして用いることも可能である。
【0070】
これらの素材は単独であるいは適宜混合されて使用することもできる。中でもゼオネックスやゼオノア(日本ゼオン(株)製)、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルムのARTON(ジェイエスアール(株)製)、ポリカーボネートフィルムのピュアエース(帝人(株)製)、セルローストリアセテートフィルムのコニカタックKC4UX、KC8UX(コニカミノルタオプト(株)製)などの市販品を好ましく使用することができる。
【0071】
また、樹脂フィルムは透明であることが好ましい。樹脂フィルムが透明であり、樹脂フィルム上に形成するガスバリア層も透明であることにより、透明なガスバリア性フィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
【0072】
また、上記に挙げた樹脂フィルムは、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。
【0073】
本発明に係る樹脂フィルムは、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の基材を製造することができる。また、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、または基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0074】
また、本発明に係る樹脂フィルムにおいては、蒸着膜を形成する前にコロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理などの表面処理を行ってもよい。
【0075】
さらに、本発明に係る樹脂フィルム表面には、蒸着膜との密着性の向上を目的としてアンカーコート剤層を形成してもよい。このアンカーコート剤層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を、1または2種以上併せて使用することができる。これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により樹脂フィルム上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5g/m2(乾燥状態)程度が好ましい。
【0076】
樹脂フィルムは、ロール状に巻き上げられた長尺品が便利である。樹脂フィルムの厚さは、得られるガスバリア性フィルムの用途によって異なるので一概には規定できないが、ガスバリア性フィルムを包装用途とする場合には、特に制限を受けるものではなく、包装材料としての適性から、3〜400μm、中でも6〜30μmの範囲内とすることが好ましい。
【0077】
また、本発明に用いられる樹脂フィルムは、フィルム形状のものの膜厚としては10〜200μmが好ましく、より好ましくは50〜100μmである。
【0078】
本発明のガスバリア性フィルムの水蒸気透過度としては、有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイ等の高度の水蒸気バリア性を必要とする用途に用いる場合、JIS K7129 B法に従って測定した水蒸気透過度が、1×10-3g/m2/day以下であることが好ましく、さらに有機ELディスプレイ用途の場合、極わずかであっても、成長するダークスポットが発生し、ディスプレイの表示寿命が極端に短くなる場合があるため、水蒸気透過度が、1×10-5g/m2/day未満であることが好ましい。
【0079】
《プラズマCVD法》
次いで、本発明の透明ガスバリア性フィルムの製造方法としては、本発明に係る低密度層、中密度層及び高密度層の形成に好適に用いることのできるプラズマCVD法及び大気圧プラズマCVD法について、更に詳細に説明する。
【0080】
本発明に係るプラズマCVD法について説明する。
【0081】
プラズマCVD法は、プラズマ助成式化学的気相成長法、PECVD法とも称され、各種の無機物を、立体的な形状でも被覆性・密着性良く、且つ、樹脂フィルム温度をあまり高くすることなしに製膜することができる手法である。
【0082】
通常のCVD法(化学的気相成長法)では、揮発・昇華した有機金属化合物が高温の樹脂フィルム表面に付着し、熱により分解反応が起き、熱的に安定な無機物の薄膜が生成されるというものである。このような通常のCVD法(熱CVD法とも称する)では、通常500℃以上の基板温度が必要であるため、プラスチック基材への製膜には使用することができない。
【0083】
一方、プラズマCVD法は、樹脂フィルム近傍の空間に電界を印加し、プラズマ状態となった気体が存在する空間(プラズマ空間)を発生させ、揮発・昇華した有機金属化合物がこのプラズマ空間に導入されて分解反応が起きた後に樹脂フィルム上に吹きつけられることにより、無機物の薄膜を形成するというものである。プラズマ空間内では、数%の高い割合の気体がイオンと電子に電離しており、ガスの温度は低く保たれるものの、電子温度は非常な高温のため、この高温の電子、あるいは低温ではあるがイオン・ラジカルなどの励起状態のガスと接するために無機膜の原料である有機金属化合物は低温でも分解することができる。したがって、無機物を製膜する樹脂フィルムについても低温化することができ、プラスチック基材上へも十分製膜することが可能な製膜方法である。
【0084】
しかしながら、プラズマCVD法においては、ガスに電界を印加して電離させ、プラズマ状態とする必要があるため、通常は、0.101kPa〜10.1kPa程度の減圧空間で製膜していたため、大面積のフィルムを製膜する際には設備が大きく操作が複雑であり、生産性の課題を抱えている方法である。
【0085】
これに対し、大気圧近傍でのプラズマCVD法では、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために製膜速度が速く、更にはCVD法の通常の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて平坦な膜が得られ、そのような平坦な膜は、光学特性、ガスバリア性共に良好である。以上のことから、本発明においては、大気圧プラズマCVD法を適用することが、真空下のプラズマCVD法よりも好ましい。
【0086】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法においては、大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスおよび放電ガスを含有するガスを供給し、該放電空間に高周波電界を印加することにより該ガスを励起し、基材を励起した該ガスに晒すことにより、該基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法により、樹脂フィルム上に、密着膜、セラミック膜及び保護膜の少なくとも1層を形成することが好ましく、更には、大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスおよび放電ガスを含有するガスを供給し、該放電空間に高周波電界を印加することにより該ガスを励起し、基材を励起した該ガスに晒すことにより、該基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法により、樹脂フィルム上に、密着膜、セラミック膜及び保護膜の全ての層を形成することが好ましい。
【0087】
また、放電ガスを窒素ガスとし、放電空間に印加される高周波電界は、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、該第1の高周波電界の周波数ω1より該第2の高周波電界の周波数ω2が高く、該第1の高周波電界の強さV1、該第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さIVとの関係が、V1≧IV>V2またはV1>IV≧V2の関係を満たし、該第2の高周波電界の出力密度が1W/cm2以上であることが、本発明の目的効果をより奏する観点から好ましい。
【0088】
以下、大気圧或いは大気圧近傍でのプラズマCVD法を用いたガスバリア層を形成する装置について詳述する。
【0089】
本発明の透明ガスバリア性フィルムの製造方法において、密着膜、セラミック膜及び保護膜の形成に使用されるプラズマ製膜装置の一例について、図1〜図4に基づいて説明する。図中、符号Fは樹脂フィルムの一例としての長尺フィルムである。
【0090】
図1は、本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【0091】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置は、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電界印加手段の他に、図1では図示してない(後述の図4に図示してある)が、ガス供給手段、電極温度調節手段を有している装置である。
【0092】
プラズマ放電処理装置10は、第1電極11と第2電極12から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極11からは第1電源21からの周波数ω1、電界強度V1、電流I1の第1の高周波電界が印加され、また第2電極12からは第2電源22からの周波数ω2、電界強度V2、電流I2の第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源21は第2電源22より高い高周波電界強度(V1>V2)を印加出来、また第1電源21の第1の周波数ω1は第2電源22の第2の周波数ω2より低い周波数を印加できる。
【0093】
第1電極11と第1電源21との間には、第1フィルタ23が設置されており、第1電源21から第1電極11への電流を通過しやすくし、第2電源22からの電流をアースして、第2電源22から第1電源21への電流が通過しにくくなるように設計されている。
【0094】
また、第2電極12と第2電源22との間には、第2フィルター24が設置されており、第2電源22から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源21からの電流をアースして、第1電源21から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0095】
更に、本発明の大気圧プラズマ放電処理装置の第1電源は、第2電源より大きな高周波電圧を印加できる能力を有していることが好ましい。
【0096】
本発明における放電条件としては、対向する第1電極11と第2電極22との間に、高周波電圧を印加し、該高周波電圧が、第1の高周波電圧V1及び第2の高周波電圧V2を重畳したものであって、放電開始電圧をIVとしたとき、V1≧IV>V2、またはV1>IV≧V2を満たす。更に好ましくは、V1>IV>V2を満たすことである。
【0097】
ここで、本発明でいう高周波電圧(印加電圧)と放電開始電圧は、下記の方法で測定されたものをいう。
【0098】
高周波電圧V1及びV2(単位:kV/mm)の測定方法:
各電極部の高周波プローブ(P6015A)を設置し、該高周波プローブをオシロスコープ(Tektronix社製、TDS3012B)に接続し、電圧を測定する。
【0099】
放電開始電圧IV(単位:kV/mm)の測定方法:
電極間に放電ガスを供給し、放電が始まる電圧を放電開始電圧IVと定義する。測定器は上記高周波電圧測定と同じである。
【0100】
なお、上記測定に使用する高周波プローブ25、26とオシロスコープ27、28の位置関係については、図1に示してある。
【0101】
このような放電条件をとることにより、例えば、窒素ガスのような放電開始電圧が高くなる放電ガスであっても、放電が開始され、高密度で安定なプラズマ状態を維持することが出来、高性能な透明導電膜形成が行うことができるのである。
【0102】
上記の測定により放電ガスを窒素ガスとした場合、その放電開始電圧IVは3.7kV/mm程度であり、従って、上記の関係において、第1の高周波電圧を、V1≧3.7kV/mmとして印加することによって窒素ガスを励起し、プラズマ状態にすることができる。
【0103】
ここで、第1電源の周波数としては、200kHz以下が好ましく用いることができる。またこの電界波形としては、サイン波でもパルスでもよい。下限は1kHz程度が望ましい。
【0104】
一方、第2電源の周波数としては、800kHz以上が好ましく用いられる。この第2電源の周波数が高い程、プラズマ密度が高くなり、緻密で良質な透明導電膜が得られる。上限は200MHz程度が望ましい。
【0105】
このような二つの電源から高周波電圧を印加することは、第1の周波数ω1側によって高い放電開始電圧を有する放電ガスの放電を開始するのに必要であり、また第2の周波数ω2側はプラズマ密度を高くして緻密で良質なガスバリア層を形成するのに必要であるということが本発明の重要な点である。
【0106】
第1電極11と第2電極12との対向電極間(放電空間)13に、後述の図2に図示してあるようなガス供給手段からガスGを導入し、第1電極11と第2電極12から高周波電界を印加して放電を発生させ、ガスGをプラズマ状態にしながら対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と樹脂フィルムFとで作る処理空間をプラズマ状態のガスG°で満たし、図示してない樹脂フィルムの元巻き(アンワインダー)から巻きほぐされて搬送して来るか、あるいは前工程から搬送して来る樹脂フィルムFの上に、処理位置14付近で薄膜を形成させる。薄膜形成中、後述の図2に図示してあるような電極温度調節手段から媒体が配管を通って電極を加熱または冷却する。プラズマ放電処理の際の樹脂フィルムの温度によっては、得られる薄膜の物性や組成等は変化することがあり、これに対して適宜制御することが望ましい。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、幅手方向あるいは長手方向での樹脂フィルムの温度ムラができるだけ生じないように電極の内部の温度を均等に調節することが望まれる。
【0107】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置を複数基接して直列に並べて同時に同じプラズマ状態のガスを放電させることができるので、何回も処理され高速で処理することもできる。また各装置が異なったプラズマ状態のガスをジェット噴射すれば、異なった層の積層薄膜を形成することもできる。
【0108】
図2は、本発明に好ましく用いられる平板電極型の大気圧プラズマ処理装置の他の一例を示す概略構成図である。移動架台電極(第1電極)8と角形電極(第2電極)11、12により対向電極(放電空間)が形成され、該電極間に高周波電界が印加され、放電ガス及び薄膜形成ガスを含有するガスGがガス供給管を通して供給され、角形電極11、12間に形成されたスリット13を通り放電空間に流出し、ガスGを放電プラズマにより励起し、移動架台電極8上に置かれた基材Fの表面を励起されたガスG′に晒すことにより、基材表面に薄膜が形成される。
【0109】
図3は、本発明に有用な対向電極間で樹脂フィルムを処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【0110】
本発明に係る大気圧プラズマ放電処理装置は、少なくとも、プラズマ放電処理装置30、二つの電源を有する電界印加手段40、ガス供給手段50、電極温度調節手段60を有している装置である。
【0111】
図3は、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との対向電極間(放電空間)32で、樹脂フィルムFをプラズマ放電処理して薄膜を形成するものである。図4においては、1対の角筒型固定電極群(第2電極)36とロール回転電極(第1電極)35とで、1つの電界を形成し、この1ユニットで、例えば、低密度層の形成を行う。図4においては、この様な構成からなるユニットを、計5カ所備えた構成例を示しあり、それぞれのユニットで、供給する原材料の種類、出力電圧等を任意に独立して制御することにより、本発明で規定する構成からなる積層型の透明ガスバリア層を連続して形成することができる。
【0112】
ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との間の放電空間(対向電極間)32に、ロール回転電極(第1電極)35には第1電源41から周波数ω1、電界強度V1、電流I1の第1の高周波電界を、また角筒型固定電極群(第2電極)36にはそれぞれに対応する各第2電源42から周波数ω2、電界強度V2、電流I2の第2の高周波電界をかけるようになっている。
【0113】
ロール回転電極(第1電極)35と第1電源41との間には、第1フィルタ43が設置されており、第1フィルタ43は第1電源41から第1電極への電流を通過しやすくし、第2電源42からの電流をアースして、第2電源42から第1電源への電流を通過しにくくするように設計されている。また、角筒型固定電極群(第2電極)36と第2電源42との間には、それぞれ第2フィルタ44が設置されており、第2フィルター44は、第2電源42から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源41からの電流をアースして、第1電源41から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0114】
なお、本発明においては、ロール回転電極35を第2電極、また角筒型固定電極群36を第1電極としてもよい。何れにしろ第1電極には第1電源が、また第2電極には第2電源が接続される。第1電源は第2電源より高い高周波電界強度(V1>V2)を印加することが好ましい。また、周波数はω1<ω2となる能力を有している。
【0115】
また、電流はI1<I2となることが好ましい。第1の高周波電界の電流I1は、好ましくは0.3mA/cm2〜20mA/cm2、さらに好ましくは1.0mA/cm2〜20mA/cm2である。また、第2の高周波電界の電流I2は、好ましくは10mA/cm2〜100mA/cm2、さらに好ましくは20mA/cm2〜100mA/cm2である。
【0116】
ガス供給手段50のガス発生装置51で発生させたガスGは、流量を制御して給気口よりプラズマ放電処理容器31内に導入する。
【0117】
樹脂フィルムFを、図示されていない元巻きから巻きほぐして搬送されて来るか、または前工程から搬送されて来て、ガイドロール64を経てニップロール65で樹脂フィルムに同伴されて来る空気等を遮断し、ロール回転電極35に接触したまま巻き回しながら角筒型固定電極群36との間に移送し、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との両方から電界をかけ、対向電極間(放電空間)32で放電プラズマを発生させる。樹脂フィルムFはロール回転電極35に接触したまま巻き回されながらプラズマ状態のガスにより薄膜を形成する。樹脂フィルムFは、ニップロール66、ガイドロール67を経て、図示してない巻き取り機で巻き取るか、次工程に移送する。
【0118】
放電処理済みの処理排ガスG′は排気口53より排出する。
【0119】
薄膜形成中、ロール回転電極(第1電極)35及び角筒型固定電極群(第2電極)36を加熱または冷却するために、電極温度調節手段60で温度を調節した媒体を、送液ポンプPで配管61を経て両電極に送り、電極内側から温度を調節する。なお、68及び69はプラズマ放電処理容器31と外界とを仕切る仕切板である。
【0120】
図4は、図3に示したロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0121】
図4において、ロール電極35aは導電性の金属質母材35Aとその上に誘電体35Bが被覆されたものである。プラズマ放電処理中の電極表面温度を制御するため、温度調節用の媒体(水もしくはシリコンオイル等)が循環できる構造となっている。
【0122】
図5は、角筒型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0123】
図5において、角筒型電極36aは、導電性の金属質母材36Aに対し、図4同様の誘電体36Bの被覆を有しており、該電極の構造は金属質のパイプになっていて、それがジャケットとなり、放電中の温度調節が行えるようになっている。
【0124】
なお、角筒型固定電極の数は、上記ロール電極の円周より大きな円周上に沿って複数本設置されていおり、該電極の放電面積はロール回転電極35に対向している全角筒型固定電極面の面積の和で表される。
【0125】
図5に示した角筒型電極36aは、円筒型電極でもよいが、角筒型電極は円筒型電極に比べて、放電範囲(放電面積)を広げる効果があるので、本発明に好ましく用いられる。
【0126】
図4及び図5において、ロール電極35a及び角筒型電極36aは、それぞれ導電性の金属質母材35A及び36Aの上に誘電体35B及び36Bとしてのセラミックスを溶射後、無機化合物の封孔材料を用いて封孔処理したものである。セラミックス誘電体は片肉で1mm程度被覆あればよい。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工し易いので、特に好ましく用いられる。また、誘電体層が、ライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体であってもよい。
【0127】
導電性の金属質母材35A及び36Aとしては、チタン金属またはチタン合金、銀、白金、ステンレススティール、アルミニウム、鉄等の金属等や、鉄とセラミックスとの複合材料またはアルミニウムとセラミックスとの複合材料を挙げることができるが、後述の理由からはチタン金属またはチタン合金が特に好ましい。
【0128】
対向する第1電極および第2の電極の電極間距離は、電極の一方に誘電体を設けた場合、該誘電体表面ともう一方の電極の導電性の金属質母材表面との最短距離のことを言う。双方の電極に誘電体を設けた場合、誘電体表面同士の距離の最短距離のことを言う。電極間距離は、導電性の金属質母材に設けた誘電体の厚さ、印加電界強度の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.1〜20mmが好ましく、特に好ましくは0.5〜2mmである。
【0129】
本発明に有用な導電性の金属質母材及び誘電体についての詳細については後述する。
【0130】
プラズマ放電処理容器31はパイレックス(登録商標)ガラス製の処理容器等が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウムまたは、ステンレススティールのフレームの内面にポリイミド樹脂等を張り付けても良く、該金属フレームにセラミックス溶射を行い絶縁性をとってもよい。図4において、平行した両電極の両側面(樹脂フィルム面近くまで)を上記のような材質の物で覆うことが好ましい。
【0131】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置に設置する第1電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
A1 神鋼電機 3kHz SPG3−4500
A2 神鋼電機 5kHz SPG5−4500
A3 春日電機 15kHz AGI−023
A4 神鋼電機 50kHz SPG50−4500
A5 ハイデン研究所 100kHz* PHF−6k
A6 パール工業 200kHz CF−2000−200k
A7 パール工業 400kHz CF−2000−400k
等の市販のものを挙げることが出来、何れも使用することができる。
【0132】
また、第2電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
B1 パール工業 800kHz CF−2000−800k
B2 パール工業 2MHz CF−2000−2M
B3 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
B4 パール工業 27MHz CF−2000−27M
B5 パール工業 150MHz CF−2000−150M
等の市販のものを挙げることが出来、何れも好ましく使用できる。
【0133】
なお、上記電源のうち、*印はハイデン研究所インパルス高周波電源(連続モードで100kHz)である。それ以外は連続サイン波のみ印加可能な高周波電源である。
【0134】
本発明においては、このような電界を印加して、均一で安定な放電状態を保つことができる電極を大気圧プラズマ放電処理装置に採用することが好ましい。
【0135】
本発明において、対向する電極間に印加する電力は、第2電極(第2の高周波電界)に1W/cm2以上の電力(出力密度)を供給し、放電ガスを励起してプラズマを発生させ、エネルギーを薄膜形成ガスに与え、薄膜を形成する。第2電極に供給する電力の上限値としては、好ましくは50W/cm2、より好ましくは20W/cm2である。下限値は、好ましくは1.2W/cm2である。なお、放電面積(cm2)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0136】
また、第1電極(第1の高周波電界)にも、1W/cm2以上の電力(出力密度)を供給することにより、第2の高周波電界の均一性を維持したまま、出力密度を向上させることができる。これにより、更なる均一高密度プラズマを生成出来、更なる製膜速度の向上と膜質の向上が両立できる。好ましくは5W/cm2以上である。第1電極に供給する電力の上限値は、好ましくは50W/cm2である。
【0137】
ここで高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側(第2の高周波電界)は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0138】
また、本発明で膜質をコントロールする際には、第2電源側の電力を制御することによっても達成できる。
【0139】
このような大気圧プラズマによる薄膜形成法に使用する電極は、構造的にも、性能的にも過酷な条件に耐えられるものでなければならない。このような電極としては、金属質母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。
【0140】
本発明に使用する誘電体被覆電極においては、様々な金属質母材と誘電体との間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、金属質母材と誘電体との線熱膨張係数の差が10×10-6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10-6/℃以下、更に好ましくは5×10-6/℃以下、更に好ましくは2×10-6/℃以下である。なお、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
【0141】
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、
1:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がセラミックス溶射被膜
2:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がガラスライニング
3:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がセラミックス溶射被膜
4:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がガラスライニング
5:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がセラミックス溶射被膜
6:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がガラスライニング
7:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がセラミックス溶射皮膜
8:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がガラスライニング
等がある。線熱膨張係数の差という観点では、上記1項または2項および5〜8項が好ましく、特に1項が好ましい。
【0142】
本発明において、金属質母材は、上記の特性からはチタンまたはチタン合金が特に有用である。金属質母材をチタンまたはチタン合金とすることにより、誘電体を上記とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることができる。
【0143】
本発明に適用できる大気圧プラズマ放電処理装置としては、上記説明した以外に、例えば、特開2004−68143号公報、同2003−49272号公報、国際特許第02/48428号パンフレット等に記載されている大気圧プラズマ放電処理装置を挙げることができる。
【0144】
次いで、本発明の有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法について、説明する。
【0145】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法においては、上記説明した方法に従って作製されたガスバリア性フィルムの保護膜上に、凹凸形状を有する膜を設け、更にその上にゾルゲル反応で造膜する屈折率が1.9以上、2.1以下の高屈折率膜を湿式コーティング法で設け、更にその上に透明導電膜を形成することを特徴とする。
【0146】
本発明に係る凹凸形状を有する膜と屈折率が1.9以上、2.1以下の平滑な高屈折率膜により、光取り出し効率が向上する。
【0147】
本発明に係る凹凸形状を有する膜の屈折率nは、樹脂フィルム上に密着膜、セラミック膜及び保護膜を有するガスバリア性フィルムの屈折率が一般に1.45〜1.60程度であることから、それと同等であることが好ましい。
【0148】
一方、凹凸形状を有する膜の厚みは、回折の効果から、有機EL発光層から発光する光の波長と同程度以上であることが好ましい。これは、凹凸形状を有する膜の厚みが、発光する光の波長程度となる、エバネッセントで染み出した電磁波としての光がガスバリア性フィルム内に入り込む厚みと同等又はそれ以下になると、回折による凹凸形状を有する膜の効果が薄れてくるからである。
【0149】
従って、凹凸形状を有する膜での回折の効果を十分に発揮させるためには、中心波長より十分長い、3倍以上とするのがよい。尚、厚みの上限は効果の点からは特にないが、製造上の観点から20μm程度が好ましい。
【0150】
次に、凹凸形状について説明する。散乱効果を生じさせる方法として、例えば、ランダムの周期の凹凸をランダムに配置する方法がある。膜の面上のこのランダム凹凸へ入射する光は透過光と反射光とに分かれる。透過光は、上述した通りに凹凸形状を有する膜に取り込まれ、反射光は、陰極による反射により再びランダム凹凸に入射され、最終的には凹凸形状を有する膜に取り出される。
【0151】
この場合、光の進行方向を回折の法則に従わない方向に変えることは前述の回折格子によるものと変わらないが、レリーフ型回折格子による光の進行方向の変化は規則性を持つのに対して、このランダム凹凸の場合は、光の進行方向の変化に規則性を持たない。従って、観察者は有機EL素子発光面の視野角が比較的広いと感じる。
【0152】
上記のランダム凹凸は、膜面に凹部又は凸部を投影してできる形に外接する円の直径を0.2μm以上とすると散乱の効果が十分得られる。これは直径0.2μmの円を敷き詰めた状態での円の最短中心間距離と媒質中の光の波長との関係からである。また、投影形の外接円の直径が、投影形状にもよるが、100μm近くになると凹凸が透明基板201を通して目視で確認できるようになり、観察者に不快感を生じさせることが予想される。これを防ぐためにこの直径は50μm以下とするのが好ましい。従って、投影形の外接する円の直径は0.2μm以上50μm以下が好ましい。
【0153】
また、この投影形の形状は、円、多角形等の制限は特になく、また深さ方向の凹凸の断面形状はU字、V字、円柱などの柱状などでもよく、制限は特にない。
【0154】
また、ランダム凹凸の深さは100nm以上とする場合、散乱の効果が十分得られる。更に、深さの上限は、効果の観点からは特に制限がないが、深くなりすぎると製造上困難となることから、投影形の外接円の直径の2倍以下が好ましい。従って、深さの範囲は100nm以上でこの直径の2倍以下が好ましい。
【0155】
また、凹凸を設ける面全体の面積における凹部又は凸部の投影形面積との割合は、おおよそ10%から90%が好ましい。
【0156】
本発明に係る凹凸形状を有する膜を形成する材料としては、上述の凹凸の形成を容易にすることも考慮して、例えば、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エアロゲル、多孔質シリカなどが挙げられる。
【0157】
凹凸を形成する方法としては、例えば、一般的な樹脂成形法やゾルゲル法の過程で形成する方法等がある。
【0158】
例えば、ガラス基板にフォトレジストをスピンコート法などを用いて塗布し、一般的なマスク露光、電子ビーム、又は干渉露光等を用いてパターニングを行う。その後、ガラス基板をエッチングしたものをガラス型とし、このガラス型を用いて、例えば、以下のような方法にて凹凸を形成することができる。
【0159】
(1)光硬化性樹脂にて凹凸形状を有する膜を形成する
ガスバリア性フィルム上に凹凸形状を有する膜として、例えば、光硬化性樹脂の一つであるUV硬化性樹脂を直接塗布した後、上記のガラス型を用いてプレスし、その状態を維持し、UV照射することで樹脂を硬化させ凹凸を成形する。
【0160】
(2)熱硬化性又は熱可塑性樹脂にて凹凸形状を有する膜を形成する
ガスバリア性フィルム上に膜として熱硬化性樹脂を直接塗布した後、上記のガラス型にてプレス成形後、加熱硬化させて凹凸を形成する。
【0161】
また、熱可塑性樹脂であれば、上述のプレス成形を加熱プレス成形に置き換えて、その後冷却して凹凸を形成する。このガラス型をニッケルの電鋳などの手法で金型に転写して使用しても良い。
【0162】
(3)ゾルゲル法にて凹凸形状を有する膜を形成する
ガスバリア性フィルム上に膜として液体ゾルを直接塗布した後、上記(2)のガラス型を用いてプレス成形する。その後、加熱等で乾燥させて乾燥ゲルとして凹凸を形成する。このガラス型をニッケルの電鋳などの手法で金型に転写して使用しても良い。
【0163】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法においては、上述の凹凸形状を有する膜を設けた後、その上部にゾルゲル反応で造膜する屈折率が1.9以上の高屈折率膜を湿式コーティング法で設けることを特徴とする。
【0164】
本発明に係る高屈折率膜の屈折率は、1.90以上、2.1以下であることを特徴とし、好ましくは1.90〜2.1である。高屈折率膜の厚さは、5nm〜1μmであることが好ましく、10nm〜0.2μmであることが更に好ましく、30nm〜0.1μmであることが最も好ましい。高屈折率膜のヘイズは、5%以下であることが好ましく、3%以下であることが更に好ましく、1%以下であることが最も好ましい。高屈折率膜の強度は、1kg荷重の鉛筆硬度でH以上であることが好ましく、2H以上であることが更に好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0165】
本発明に係る高屈折率膜においては、下記一般式(1)で表される有機チタン化合物のモノマー、オリゴマーまたはそれらの加水分解物を含有する塗布液を塗布し乾燥させて形成させた屈折率1.90以上の層であることが好ましい。
【0166】
一般式(1)
Ti(OR14
式中、R1としては炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基がよいが、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基である。また、有機チタン化合物のモノマー、オリゴマーまたはそれらの加水分解物は、アルコキシド基が加水分解を受けて−Ti−O−Ti−のように反応して架橋構造を作り、硬化した層を形成する。
【0167】
本発明に用いられる有機チタン化合物のモノマー、オリゴマーとしては、Ti(OCH34、Ti(OC254、Ti(O−n−C374、Ti(O−i−C374、Ti(O−n−C494、Ti(O−n−C374の2〜10量体、Ti(O−i−C374の2〜10量体、Ti(O−n−C494の2〜10量体等が好ましい例として挙げられる。これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。中でもTi(O−n−C374、Ti(O−i−C374、Ti(O−n−C494、Ti(O−n−C374の2〜10量体、Ti(O−n−C494の2〜10量体が特に好ましい。
【0168】
本発明においては、高屈折率膜を湿式コーティング法で設けることを特徴とするが、その形成に用いる高屈折率膜用塗布液は、水と後述する有機溶媒が順次添加された溶液中に上記有機チタン化合物を添加することが好ましい。水を後から添加した場合は、加水分解/重合が均一に進行せず、白濁が発生したり、膜強度が低下する。水と有機溶媒は添加された後、良く混合させるために攪拌し混合溶解されていることが好ましい。
【0169】
また、別法として有機チタン化合物と有機溶媒を混合させておき、この混合溶液を、上記水と有機溶媒の混合攪拌された溶液中に添加することも好ましい態様である。
【0170】
また、水の量は有機チタン化合物1モルに対して、0.25〜3モルの範囲であることが好ましい。0.25モル未満であると、加水分解、重合の進行が不十分で膜強度が低下する。3モルを超えると加水分解、重合が進行し過ぎて、TiO2の粗大粒子が発生し白濁するため好ましくない。従って水の量は上記範囲で調整する必要がある。
【0171】
また、水の含有率は塗布液総量に対して10質量%未満であることが好ましい。水の含有率を塗布液総量に対して10質量%以上にすると、塗布液の経時安定が劣り白濁を生じたりするため好ましくない。
【0172】
本発明に係る有機溶媒としては、水混和性の有機溶媒であることが好ましい。水混和性の有機溶媒としては、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、スルホン類(例えば、スルホラン等)、尿素、アセトニトリル、アセトン等が挙げられるが、特に、アルコール類、多価アルコール類、多価アルコールエーテル類が好ましい。これらの有機溶媒の使用量は、前述したように、水の含有率が塗布液総量に対して10質量%未満であるように、水と有機溶媒のトータルの使用量を調整すればよい。
【0173】
本発明に用いられる有機チタン化合物のモノマー、オリゴマーまたはそれらの加水分解物は、塗布液に含まれる固形分中の50.0〜98.0質量%を占めていることが望ましい。固形分比率は50〜90質量%がより好ましく、55〜90質量%が更に好ましい。この他、塗布組成物には有機チタン化合物のポリマー(予め有機チタン化合物の加水分解を行って架橋したもの)或いは酸化チタン微粒子を添加することも好ましい。
【0174】
本発明に係る高屈折率膜は、微粒子として金属酸化物粒子を含み、更にバインダーポリマーを含む。
【0175】
上記塗布液調製法で加水分解/重合した有機チタン化合物と金属酸化物粒子を組み合わせると、金属酸化物粒子と加水分解/重合した有機チタン化合物とが強固に接着し、粒子のもつ硬さと均一膜の柔軟性を兼ね備えた強い塗膜を得ることができる。
【0176】
高屈折率膜に用いる金属酸化物粒子は、屈折率が1.90〜2.80であることが好ましく、1.90〜2.70であることが更に好ましい。金属酸化物粒子の1次粒子の重量平均径は、1〜150nmであることが好ましく、1〜100nmであることが更に好ましく、1〜80nmであることが最も好ましい。層中での金属酸化物粒子の重量平均径は、1〜200nmであることが好ましく、5〜150nmであることがより好ましく、10〜100nmであることが更に好ましく、10〜80nmであることが最も好ましい。金属酸化物粒子の平均粒径は、20〜30nm以上であれば光散乱法により、20〜30nm以下であれば電子顕微鏡写真により測定される。金属酸化物粒子の比表面積は、BET法で測定された値として、10〜400m2/gであることが好ましく、20〜200m2/gであることが更に好ましく、30〜150m2/gであることが最も好ましい。
【0177】
金属酸化物粒子の例としては、Ti、Zr、Sn、Sb、Cu、Fe、Mn、Pb、Cd、As、Cr、Hg、Zn、Al、Mg、Si、P及びSから選択される少なくとも一種の元素を有する金属酸化物であり、具体的には二酸化チタン(例、ルチル、ルチル/アナターゼの混晶、アナターゼ、アモルファス構造)、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、及び酸化ジルコニウムが挙げられる。中でも、酸化チタン、酸化錫及び酸化インジウムが特に好ましい。金属酸化物粒子は、これらの金属の酸化物を主成分とし、更に他の元素を含むことができる。主成分とは、粒子を構成する成分の中で最も含有量(質量%)が多い成分を意味する。他の元素の例としては、Ti、Zr、Sn、Sb、Cu、Fe、Mn、Pb、Cd、As、Cr、Hg、Zn、Al、Mg、Si、P及びS等が挙げられる。
【0178】
金属酸化物粒子は表面処理されていることが好ましい。表面処理は、無機化合物または有機化合物を用いて実施することができる。表面処理に用いる無機化合物の例としては、アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム及び酸化鉄が挙げられる。中でもアルミナ及びシリカが好ましい。表面処理に用いる有機化合物の例としては、ポリオール、アルカノールアミン、ステアリン酸、シランカップリング剤及びチタネートカップリング剤が挙げられる。中でも、シランカップリング剤が最も好ましい。
【0179】
具体的なシランカップリング剤の例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシエトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(β−グリシジルオキシエトキシ)プロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポシシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びβ−シアノエチルトリエトキシシランが挙げられる。
【0180】
また、珪素に対して2置換のアルキル基を持つシランカップリング剤の例として、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルフェニルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン及びメチルビニルジエトキシシランが挙げられる。
【0181】
これらのうち、分子内に二重結合を有するビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシエトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及びγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、珪素に対して2置換のアルキル基を持つものとしてγ−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン及びメチルビニルジエトキシシランが好ましく、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及びγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン及びγ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシランが特に好ましい。
【0182】
上記金属酸化物粒子は、媒体に分散した分散体の状態で、高屈折率膜を形成するための塗布液に供される。金属酸化物粒子の分散媒体としては、沸点が60〜170℃の液体を用いることが好ましい。分散溶媒の具体例としては、水、アルコール(例、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル)、脂肪族炭化水素(例、ヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例、メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素)、芳香族炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン)、アミド(例、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン)、エーテル(例、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラハイドロフラン)、エーテルアルコール(例、1−メトキシ−2−プロパノール)が挙げられる。中でも、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びブタノールが特に好ましい。
【0183】
また金属酸化物粒子は、分散機を用いて媒体中に分散することができる。分散機の例としては、サンドグラインダーミル(例、ピン付きビーズミル)、高速インペラーミル、ペッブルミル、ローラーミル、アトライター及びコロイドミルが挙げられる。サンドグラインダーミル及び高速インペラーミルが特に好ましい。また、予備分散処理を実施してもよい。予備分散処理に用いる分散機の例としては、ボールミル、三本ロールミル、ニーダー及びエクストルーダーが挙げられる。
【0184】
本発明に係る高屈折率膜は、架橋構造を有するポリマー(以下、架橋ポリマーともいう)をバインダーポリマーとして用いることが好ましい。架橋ポリマーの例として、ポリオレフィン等の飽和炭化水素鎖を有するポリマー(以下、ポリオレフィンと総称する)、ポリエーテル、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミン、ポリアミド及びメラミン樹脂等の架橋物が挙げられる。中でも、ポリオレフィン、ポリエーテル及びポリウレタンの架橋物が好ましく、ポリオレフィン及びポリエーテルの架橋物が更に好ましく、ポリオレフィンの架橋物が最も好ましい。また、架橋ポリマーがアニオン性基を有することは更に好ましい。アニオン性基は無機微粒子の分散状態を維持する機能を有し、架橋構造はポリマーに皮膜形成能を付与して皮膜を強化する機能を有する。上記アニオン性基は、ポリマー鎖に直接結合していてもよいし、連結基を介してポリマー鎖に結合していてもよいが、連結基を介して側鎖として主鎖に結合していることが好ましい。
【0185】
本発明に用いられるモノマーとしては、2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーが最も好ましいが、その例としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼン及びその誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)及びメタクリルアミド等が挙げられる。アニオン性基を有するモノマー、及びアミノ基または4級アンモニウム基を有するモノマーは市販のモノマーを用いてもよい。好ましく用いられる市販のアニオン性基を有するモノマーとしては、KAYAMARPM−21、PM−2(日本化薬(株)製)、AntoxMS−60、MS−2N、MS−NH4(日本乳化剤(株)製)、アロニックスM−5000、M−6000、M−8000シリーズ(東亞合成化学工業(株)製)、ビスコート#2000シリーズ(大阪有機化学工業(株)製)、ニューフロンティアGX−8289(第一工業製薬(株)製)、NKエステルCB−1、A−SA(新中村化学工業(株)製)、AR−100、MR−100、MR−200(第八化学工業(株)製)等が挙げられる。また、好ましく用いられる市販のアミノ基または4級アンモニウム基を有するモノマーとしてはDMAA(大阪有機化学工業(株)製)、DMAEA,DMAPAA(興人(株)製)、ブレンマーQA(日本油脂(株)製)、ニューフロンティアC−1615(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0186】
次いで、本発明に係る透明導電膜について説明する。
【0187】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法においては、湿式コーティング法で設けた高屈折率膜上に、更に有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極となる透明導電膜を形成することを特徴とする。
【0188】
本発明に係る透明導電膜は、蒸着法、プラズマCVD法、前述の大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法等により得ることができる。また、ゾルゲル法(塗布法)等によっても得ることができる。
【0189】
しかしながら、前記の大気圧プラズマ放電処理装置により形成されることは好ましく、例えば、工業的には、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて比抵抗値で10-4Ω・cmオーダーの優れた導電性を有するインジウムチンオキシド(ITO)膜を得ることができるが、これらの物理的製作法(PVD法)では気相中で目的物質を基板に堆積させて膜を成長させるものであり、真空容器を使用するため装置が大がかりで高価なうえ原料の使用効率が悪くて生産性が低い。また大面積の成膜も困難であった。さらに、低抵抗品を得るためには製膜時に200〜300℃に加熱する必要があり、樹脂フィルムへの低抵抗な透明導電膜の製膜は困難である。
【0190】
透明導電膜の形成において使用するガスは、高屈折率膜上に設けたい透明導電膜の種類によって異なるが、基本的には、不活性ガスと透明導電膜を形成するためにプラズマ状態となる反応性ガスの混合ガスである。ここで不活性ガスとは、周期表の第18属元素、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン更には窒素ガス等前期と同様であるが、アルゴンまたはヘリウムが特に好ましく用いられる。
【0191】
本発明で用いる反応性ガスは複数用いることが可能であるが、少なくとも1種類は、放電空間でプラズマ状態となり、透明導電膜を形成する成分を含有するものである。このような反応性ガスとしては特に制限はないが、有機金属化合物が好ましく用いられる。有機金属化合物の種類は問わないが、分子内に酸素を有する有機金属化合物が好ましく、特にβジケトン金属錯体、金属アルコキシド、アルキル金属等の有機金属化合物が好ましく用いられる。より好ましくは下記の化合物から選ばれる反応ガスであり、例えば、インジウムヘキサフルオロペンタンジオネート、インジウムメチル(トリメチル)アセチルアセテート、インジウムアセチルアセトナート、インジウムイソポロポキシド、インジウムトリフルオロペンタンジオネート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル3,5−ヘプタンジオネート)インジウム、ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオネート)スズ、ジ−n−ブチルジアセトキシスズ、ジ−t−ブチルジアセトキシスズ、テトライソプロポキシスズ、テトラブトキシスズ、ジンクアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0192】
この中で特に好ましいのは、インジウムアセチルアセトナート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル3,5−ヘプタンジオネート)インジウム、ジンクアセチルアセトナート、ジ−n−ブチルジアセトキシスズである。これらの有機金属化合物は一般に市販されており、たとえばインジウムアセチルアセトナートであれば東京化成工業(株)から容易に入手することができる。
【0193】
透明導電膜の形成においては、これら分子内に少なくとも1つ以上の酸素原子を含有する有機金属化合物のほかに導電性を向上させるために行われるドーピング用のガスを用いることができる。ドーピングに用いられる反応性ガスとしては、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、ニッケルアセチルアセトナート、マンガンアセチルアセトナート、ボロンイソプロポキシド、n−ブトキシアンチモン、トリ−n−ブチルアンチモン、ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオネート)スズ、ジ−n−ブチルジアセトキシスズ、ジ−t−ブチルジアセトキシスズ、テトライソプロポキシスズ、テトラブトキシスズ、テトラブチルスズ、ジンクアセチルアセトナート、6フッ化プロピレン、8フッ化シクロブタン、4フッ化メタン等を挙げることができる
また、透明導電膜の構成元素を含む反応ガスの他に水を反応ガスとして用いることで、高い電導性と大きなエッチング速度を有する透明導電膜の製造が可能である。反応ガス中に混入する水の量は反応性ガスと不活性ガスの混合気体中0.0001から10%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは0.001から1%の範囲にあることが好ましい。
【0194】
本発明における反応ガスとしては透明導電膜を構成する元素を含む有機金属化合物及び水の他、酸素などの酸化性を有するガス、水素などの還元性を有するガスその他、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化炭素、二酸化炭素などを適宜用いることも可能である。
【0195】
透明導電膜主成分として用いられる反応性ガスとドーピングを目的に少量用いられる反応性ガスの量比は、成膜する透明導電膜の種類により異なる。例えば、酸化インジウムに錫をドーピングして得られるITO膜においては得られるITO膜のIn:Snの原子数比が100:0.1〜100:15の範囲になるように反応性ガス量を調整する。好ましくは、100:0.5〜100:10の範囲になるよう調整する。In:Snの原子数比はXPS測定により求めることができる。酸化錫にフッ素をドーピングして得られる透明導電膜(FTO膜という)においては、得られたFTO膜のSn:Fの原子数比が100:0.01〜100:50の範囲になるよう反応性ガスの量比を調整する。Sn:Fの原子数比はXPS測定により求めることができる。In23−ZnO系アモルファス透明導電膜においては、In:Znの原子数比が100:50〜100:5の範囲になるよう反応性ガスの量比を調整する。In:Znの原子数比はXPS測定で求めることができる。
【0196】
更に、反応性ガスには透明導電膜主成分となる反応性ガスとドーピングを目的に少量用いられる反応性ガスがある。更に、本発明においては透明導電膜を構成する主たる金属元素、ドーピングとなる金属元素の他、ケイ素を導入する。ケイ素の導入方法には制限はないが、透明導電膜を形成する際、反応ガスとして透明導電膜の抵抗値を調整する為に反応性ガスを追加することも可能である。透明導電膜の抵抗値を調整する為に用いる反応性ガスとしては、有機金属化合物、特にβジケトン金属錯体、金属アルコキシド、アルキル金属等の有機金属化合物が好ましく用いられる。具体的には以下のものを挙げることができる。ケイ素化合物としてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラペンタエトキシシラン、テトラペンタ−iso−プロポキシシラン、テトラペンタ−n−プロポキシシラン、テトラペンタ−n−ブトキシシラン、テトラペンタ−sec−ブトキシシラン、テトラペンタ−tert−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、へキシルトリメトキシシラン等が挙げられる。この中でもテトラエトキシシランが安定性、蒸気圧の点で好ましい。
【0197】
透明導電膜の膜厚としては、0.1nm〜1000nmの範囲の透明導電膜が好ましい。
【0198】
透明導電膜の場合大気圧近傍の圧力下で形成された後、熱を加え、透明導電膜の特性を調整することも可能である。この熱処理によっても膜中の水素の量を変える事ができる。熱処理の温度としては50〜300℃の範囲が好ましい。好ましくは100から200℃の範囲である。加熱の雰囲気も特に制限はない。空気雰囲気、水素などの還元性ガスを含む還元雰囲気、酸素などの酸化性ガスを含有するような酸化雰囲気、あるいは真空、不活性ガス雰囲気下のうちから適宜選択することが可能である。還元、酸化雰囲気をとる場合、還元性ガス、酸化性ガスを希ガスや窒素などの不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。このような場合、還元性ガス、酸化性ガスの濃度は0.01から5%が好ましく、より好ましくは0.1から3%である。
【0199】
また、本発明に係る透明導電膜の形成方法によって得られる透明導電膜は、反応性ガスとして有機金属化合物を用いるため、微量の炭素を含有する場合がある。その場合の炭素含有量は、0〜5.0原子数濃度であることが好ましい。特に好ましくは0.01〜3原子数濃度の範囲内にあることが好ましい。
【0200】
次いで、上記方法により作製した本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用樹脂基材(以下、有機EL用樹脂基板ともいう)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法について説明する。
【0201】
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、上記の方法に従って作製した本発明の有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材上に、燐光発光有機エレクトロルミネッセンス材料と、その上に陰極となる金属膜を設けて封止して有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することを特徴とする。
【0202】
以下、本発明に係る有機EL素子の構成層について詳細に説明する。
【0203】
本発明において、有機EL素子を構成する燐光発光有機エレクトロルミネッセンス材料(正孔輸送層、燐光発光層、正孔阻止層、電子輸送層、陽極バッファー層、陰極バッファー層)及び陰極の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0204】
(1)陽極を含む有機EL用樹脂基板/燐光発光層/電子輸送層/陰極
(2)陽極を含む有機EL用樹脂基板/正孔輸送層/燐光発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極を含む有機EL用樹脂基板/正孔輸送層/燐光発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(4)陽極を含む有機EL用樹脂基板/正孔輸送層/燐光発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(5)陽極を含む有機EL用樹脂基板/陽極バッファー層/正孔輸送層/燐光発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(陽極)
前述の方法で作製された有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の最表層に設けられた透明導電膜が陽極として作用する。
【0205】
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられ、この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を60%以上とすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0206】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0207】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0208】
本発明においては、金属膜からなる陰極は、有機EL素子の封止材料としても機能する。
【0209】
次に、本発明の有機EL素子の構成層として用いられる、注入層、阻止層、電子輸送層等について説明する。
【0210】
(注入層:電子注入層、正孔注入層)
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0211】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0212】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0213】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0214】
(阻止層:正孔阻止層、電子阻止層)
阻止層は、上記の如く、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0215】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係わる正孔阻止層として用いることができる。
【0216】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。
【0217】
(発光層)
本発明に係る発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0218】
本発明の有機EL素子の発光層には、以下に示すホスト化合物とドーパント化合物が含有されることが好ましい。これにより、より一層発光効率を高くすることができる。
【0219】
発光ドーパントは、大きく分けて、蛍光を発光する蛍光性ドーパントとリン光を発光するリン光性ドーパントの2種類がある。
【0220】
前者(蛍光性ドーパント)の代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、または希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
【0221】
後者(リン光性ドーパント)の代表例としては、好ましくは元素の周期表で8属、9属、10属の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくは、イリジウム化合物、オスミウム化合物であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。具体的には以下の特許公報に記載されている化合物である。
【0222】
国際公開第00/70655号パンフレット、特開2002−280178号公報、同2001−181616号公報、同2002−280179号公報、同2001−181617号公報、同2002−280180号公報、同2001−247859号公報、同2002−299060号公報、同2001−313178号公報、同2002−302671号公報、同2001−345183号公報、同2002−324679号公報、国際公開第02/15645号パンフレット、特開2002−332291号公報、同2002−50484号公報、同2002−332292号公報、同2002−83684号公報、特表2002−540572号公報、特開2002−117978号公報、同2002−338588号公報、同2002−170684号公報、同2002−352960号公報、国際公開第01/93642号パンフレット、特開2002−50483号公報、同2002−100476号公報、同2002−173674号公報、同2002−359082号公報、同2002−175884号公報、同2002−363552号公報、同2002−184582号公報、同2003−7469号公報、特表2002−525808号公報、特開2003−7471号公報、特表2002−525833号公報、特開2003−31366号公報、同2002−226495号公報、同2002−234894号公報、同2002−235076号公報、同2002−241751号公報、同2001−319779号公報、同2001−319780号公報、同2002−62824号公報、同2002−100474号公報、同2002−203679号公報、同2002−343572号公報、同2002−203678号公報等。
【0223】
その具体例の一部を下記に示す。
【0224】
【化1】

【0225】
【化2】

【0226】
【化3】

【0227】
発光ドーパントは複数種の化合物を混合して用いてもよい。
【0228】
〈発光ホスト〉
発光ホスト(単にホストともいう)とは、2種以上の化合物で構成される発光層中にて混合比(質量)の最も多い化合物のことを意味し、それ以外の化合物については「ドーパント化合物(単に、ドーパントともいう)」という。例えば、発光層を化合物A、化合物Bという2種で構成し、その混合比がA:B=10:90であれば化合物Aがドーパント化合物であり、化合物Bがホスト化合物である。さらに、発光層を化合物A、化合物B、化合物Cの3種から構成し、その混合比がA:B:C=5:10:85であれば、化合物A、化合物Bがドーパント化合物であり、化合物Cがホスト化合物である。
【0229】
本発明に用いられる発光ホストとしては、構造的には特に制限はないが、代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族ボラン誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、または、カルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの炭素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。
【0230】
中でもカルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体等が好ましく用いられる。
【0231】
以下に、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体等の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0232】
【化4】

【0233】
【化5】

【0234】
また、本発明に用いられる発光ホストは低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもいい。
【0235】
発光ホストとしては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
発光ホストの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が好適である。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0236】
さらに公知のホスト化合物を複数種併用して用いてもよい。また、ドーパント化合物を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。リン光性化合物の種類、ドープ量を調整することで白色発光が可能であり、照明、バックライトへの応用もできる。
【0237】
本発明の有機EL素子の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0238】
発光層は上記化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により成膜して形成することができる。発光層としての膜厚は特に制限はないが、通常は5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で選ばれる。この発光層はこれらのリン光性化合物やホスト化合物が1種または2種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0239】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0240】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0241】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0242】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0243】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0244】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0245】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号、特開2000−196140号、特開2001−102175号、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0246】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0247】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0248】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0249】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0250】
また、不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号、特開2000−196140号、特開2001−102175号、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0251】
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し効率は1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
【0252】
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0253】
このようにして得られた有機EL素子を用いた多色の表示装置に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0254】
本発明の有機EL素子を用いた表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることにより、フルカラーの表示が可能となる。
【0255】
表示デバイス、ディスプレイとしてはテレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリックス(パッシブマトリックス)方式でもアクティブマトリックス方式でもどちらでもよい。
【0256】
本発明に係る有機EL素子を用いた照明装置は家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではない。
【0257】
また、本発明に係る有機EL素子に共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよい。このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザ発振をさせることにより、上記用途に使用してもよい。
【実施例】
【0258】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0259】
実施例1
《ガスバリア性フィルムの作製》
〔ガスバリア性フィルム1の作製〕
樹脂フィルムとして、厚さ100μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人・デュポン社製フィルム、以下、PENと略記する)上に、下記の大気圧プラズマ放電処理装置及び放電条件で、密着層、セラミック層、保護層を積層したガスバリア性フィルム1を作製した。
【0260】
(大気圧プラズマ放電処理装置)
図3の大気圧プラズマ放電処理装置を用い、誘電体で被覆したロール電極及び複数の角筒型電極のセットを以下のように作製した。
【0261】
第1電極となるロール電極は、冷却水による冷却手段を有するチタン合金T64製ジャケットロール金属質母材に対して、大気プラズマ法により高密度、高密着性のアルミナ溶射膜を被覆し、ロール径1000mmφとなるようにした。一方、第2電極の角筒型電極は、中空の角筒型のチタン合金T64に対し、上記同様の誘電体を同条件にて方肉で1mm被覆し、対向する角筒型固定電極群とした。
【0262】
この角筒型電極をロール回転電極のまわりに、対向電極間隙を1mmとして10本配置した。角筒型固定電極群の放電総面積は、150cm(幅手方向の長さ)×4cm(搬送方向の長さ)×10本(電極の数)=6000cm2であった。なお、何れもフィルターは適切なものを設置した。
【0263】
プラズマ放電中、第1電極(ロール回転電極)は120℃、第2電極(角筒型固定電極群)は80℃になるように調節保温し、ロール回転電極はドライブで回転させて薄膜形成を行った。上記10本の角筒型固定電極中、上流側より2本を下記第1層(密着層)の製膜用に、次の6本を下記第2層(セラミック層)の製膜用に、次の2本を第3層(保護層)の製膜用に使用し、各条件を設定して1パスで3層を積層した。
【0264】
(第1層:密着層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約50nmの密着層を形成した。
【0265】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 94.5体積%
薄膜形成性ガス:ヘキサメチルジシロキサン(表1には、HMDSOと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.5体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈電源条件:第1電極側の電源のみを使用した〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第1層(低密度層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、1.90であった。
【0266】
(第2層:セラミック層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約30nmのセラミック層を形成した。
【0267】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 94.9体積%
薄膜形成性ガス:ヘキサメチルジシロキサン(表1には、HMDSOと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.1体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈電源条件〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
第2電極側 電源種類 パール工業社製高周波電源
周波数 13.56MHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第2層(セラミック層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、2.20であった。
【0268】
(第3層:保護層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約200nmの保護層を形成した。
【0269】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 93.0体積%
薄膜形成性ガス:ヘキサメチルジシロキサン(表1には、HMDSOと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 2.0体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈電源条件:第1電極側の電源のみを使用した〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第3層(保護層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、1.95であった。
【0270】
〔ガスバリア性フィルム2、3の作製〕
上記ガスバリア性フィルム1の作製において、密着層、セラミック層及び保護層形成時の各ガス組成比及び電源条件(放電条件)を適宜調整して、各層の密度が表1に記載の値となるように変更した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム2、3を作製した。
【0271】
〔ガスバリア性フィルム4の作製〕
上記ガスバリア性フィルム1の作製において、密着層及び保護層の薄膜形成性ガスをテトラエトキシシラン(表1には、TEOSと略記)に変更した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム4を作製した。
【0272】
〔ガスバリア性フィルム5の作製〕
上記ガスバリア性フィルム4の作製において、密着層の薄膜形成性ガスをアルミニウムアセチルアセトナート(表1には、AAAと略記)に変更した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム5を作製した。
【0273】
〔ガスバリア性フィルム6の作製〕
上記ガスバリア性フィルム1の作製において、密着層及び保護層を下記の方法に従って形成した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム6を作製した。
【0274】
(第1層:密着層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約50nmの密着層を形成した。
【0275】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 99.5体積%
薄膜形成性ガス:テトラメチルジシラザン(表1には、TMDSと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.5体積%
〈電源条件:第1電極側の電源のみを使用した〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第1層(低密度層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、1.85であった。
【0276】
(第3層:保護層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約200nmの保護層を形成した。
【0277】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 98.0体積%
薄膜形成性ガス:テトラメチルジシラザン(表1には、TMDSと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 2.0体積%
〈電源条件:第1電極側の電源のみを使用した〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第3層(保護層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、1.85であった。
【0278】
〔ガスバリア性フィルム7の作製〕
上記ガスバリア性フィルム1の作製において、密着層、セラミック層及び保護層を下記の方法に従って形成した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム7を作製した。
【0279】
(第1層:密着層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約50nmの密着層を形成した。
【0280】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 94.5体積%
薄膜形成性ガス:テトラメチルジシラザン(表1には、TMDSと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.5体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈電源条件:第1電極側の電源のみを使用した〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第1層(低密度層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、1.90であった。
【0281】
(第2層:セラミック層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約80nmのセラミック層を形成した。
【0282】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 94.9体積%
薄膜形成性ガス:テトラメチルジシラザン(表1には、TMDSと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.1体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈電源条件〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
第2電極側 電源種類 パール工業社製高周波電源
周波数 13.56MHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第2層(セラミック層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、2.20であった。
【0283】
(第3層:保護層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約200nmの保護層を形成した。
【0284】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 93.0体積%
薄膜形成性ガス:テトラメチルジシラザン(表1には、TMDSと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 2.0体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈電源条件:第1電極側の電源のみを使用した〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第3層(保護層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、1.95であった。
【0285】
〔ガスバリア性フィルム8の作製〕
上記ガスバリア性フィルム7の作製において、密着層、セラミック層及び保護層形成時の各ガス組成比及び電源条件(放電条件)を適宜調整して、各層の密度が表1に記載の値となるように変更した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム8を作製した。
【0286】
〔ガスバリア性フィルム9の作製〕
上記ガスバリア性フィルム7の作製において、セラミック層の薄膜形成性ガスを、ヘキサメチルシクロトリシラザン(表1には、HMCTSと略記)に変更した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム9を作製した。
【0287】
〔ガスバリア性フィルム10の作製〕
上記ガスバリア性フィルム1の作製において、密着層、セラミック層及び保護層を下記の方法に従って形成した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム10を作製した。
【0288】
(第1層:密着層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約50nmの密着層を形成した。
【0289】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 96.5体積%
薄膜形成性ガス:テトラメチルジシラザン(表1には、TMDSと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.5体積%
添加ガス:水素ガス 3.0体積%
〈電源条件:第1電極側の電源のみを使用した〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第1層(低密度層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、1.90であった。
【0290】
(第2層:セラミック層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約30nmのセラミック層を形成した。
【0291】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 96.9体積%
薄膜形成性ガス:テトラメチルジシラザン(表1には、TMDSと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.1体積%
添加ガス:水素ガス 3.0体積%
〈電源条件〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
第2電極側 電源種類 パール工業社製高周波電源
周波数 13.56MHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第2層(セラミック層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、2.20であった。
【0292】
(第3層:保護層)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約200nmの保護層を形成した。
【0293】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 95.0体積%
薄膜形成性ガス:テトラメチルジシラザン(表1には、TMDSと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 2.0体積%
添加ガス:水素ガス 3.0体積%
〈電源条件:第1電極側の電源のみを使用した〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm2
上記形成した第3層(保護層)の密度は、前述のマックサイエンス社製MXP21を用いたX線反射率法で測定した結果、1.95であった。
【0294】
〔ガスバリア性フィルム11の作製〕
上記ガスバリア性フィルム10の作製において、密着層、セラミック層及び保護層形成時の各ガス組成比及び電源条件(放電条件)を適宜調整して、各層の密度が表1に記載の値となるように変更した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム11を作製した。
【0295】
〔ガスバリア性フィルム12の作製〕
上記ガスバリア性フィルム10の作製において、セラミック層の薄膜形成性ガスを、ヘキサメチルシクロトリシラザン(表1には、HMCTSと略記)に変更した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム12を作製した。
【0296】
〔ガスバリア性フィルム13、14の作製〕
前記ガスバリア性フィルム1、3の作製において、それぞれ薄膜形成性ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDS)に代えて、アルミニウムアセチルアセトナートに変更した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム13、14を作製した。
【0297】
〔ガスバリア性フィルム15の作製〕
上記ガスバリア性フィルム13の作製において、セラミック層の薄膜形成性ガスをアルミニウムイソプロポキシド(表1には、AIPと略記)に変更した以外は同様にして、ガスバリア性フィルム15を作製した。
【0298】
《ガスバリア性フィルムの評価》
〔品質評価〕
(膜均一性の評価)
上記作製した各ガスバリア性フィルム面の100点について、原子吸光法による元素分析を行い、異種粒子の混入による組成変化を測定し、下記の基準に従って膜均一性の評価を行った。
【0299】
◎:測定した100点間で、組成変化は全く認められなかった
○:測定した100点のうち、1、2点で組成変化が認められるが、実用上は許容される品質である
△:測定した100点のうち、3〜5点で組成変化が認められるが、実用上は許容される品質である
×:測定した100点のうち、6点以上で明らかな組成変化が認めら、実用上問題となる品質である
(密着性の評価)
上記作製した各ガスバリア性フィルムを、JIS K5400に準じて碁盤目試験により、密着性の評価を行った。具体的には、ガズバリア膜形成面に縦横に11本の切れ目を入れ、1mm角の碁盤目を100個作製し、この上にセロハンテープを張り付け、90度の角度で素早く剥がし、剥がれた部分の有無を目視で下記のようにランク評価した。
【0300】
◎:まったく剥がれない
○:一部の碁盤目で極僅かな浮きが認められるが、良好な品質である
△:1、2個の碁盤目で剥離が認められるが、実用上は許容される品質である
×:3個以上の碁盤目で剥離が認められ、実用上問題となる品質である
(保存性の評価)
上記作製した各ガスバリア性フィルムを、98℃の熱湯に48時間浸漬した後、密着性評価と同様にJIS K 5400に準拠した碁盤目試験により密着性の評価を行い、密着性の評価に記載の評価ランクに従って保存性の評価を行った。
【0301】
(紫外線耐性の評価)
上記作製した各ガスバリア性フィルムを、メタルハライドランプで1500mW/cm2の紫外線を96時間照射した後、密着性の評価と同様にJIS K 5400に準拠した碁盤目試験により密着性の評価を行い、密着性の評価に記載の評価ランクに従って保存性の評価を行った。
【0302】
〔ガスバリア性の評価〕
(水蒸気透過率の測定)
未処理の各ガスバリア性フィルム及び上記保存性及び紫外線耐性で作製した各試料について、JIS K 7129Bで規定の方法に準拠して水蒸気透過率を測定した結果、いずれの試料も0.01g/m2/day以下であった。
【0303】
(酸素透過率の測定)
未処理の各透明ガスバリア性フィルム及び上記保存性及び紫外線耐性で作製した各試料について、JIS K 7126Bで規定の方法に準拠して酸素透過率を測定した結果、いずれの試料も0.01ml/m2/day以下であった。
【0304】
上記各評価結果のうち、品質評価に関する結果を、表1に示す。
【0305】
【表1】

【0306】
表1に記載の結果及び上記ガスバリア性の評価結果より明らかなように、密着膜、セラミック膜及び保護膜を、同一組成物から構成されている薄膜形成ガスを用いて形成した本発明のガスバリア性フィルムは、良好なガスバリア性を備えると共に、比較例に対し、密着性、保存性及び紫外線耐性に優れていることが分かる。
【0307】
実施例2
《有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の作製》
実施例1で作製したガスバリア性フィルム1〜15を用い、その上に下記の各薄膜を形成して、有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材1〜15を作製した。
【0308】
〔膜の形成〕
実施例1で作製した各ガスバリア性フィルムの保護膜上に、下記の方法に従って凹凸形状を有する膜を形成した。
【0309】
各ガスバリア性フィルムの保護膜上に、光取り出し層の形成材料として熱可塑性樹脂(ポリメチルメタクリレート(n=1.48))を使用し、スピンコート法にて厚み約2μmとなるように塗布した後、周期300nm、高さ100nm、直径150nmの円形突起が複数設けられた下記のガラス型を用いて、公知のプレス法にて形状を転写した。これで、凹凸として周期300nm、深さ100nm、直径150nmの円柱形状の複数の窪みを熱可塑性樹脂からなる膜を形成した。
【0310】
(ガラス型の作製)
ガラス基板(石英ガラス、大きさ:30mm×30mm、厚み:1.0mm)上にレジストを塗布した後、電子ビームリソグラフィーとドライエッチングを用いて、回折格子として正方格子状に300nmの周期を持つ直径150nmで、ガラス基板の平面部から突起の頂部までの高さ100nmの円柱形状の突起をガラス基板面に形成して、ガラス型を作製した。
【0311】
〔高屈折率膜の形成〕
〈高屈折率膜塗布液の調製〉
まず容器に下記割合で混合溶媒を調製した。
【0312】
プロピレングリコールモノメチルエーテル 4900質量部
イソプロピルアルコール 8900質量部
この混合溶媒に下記を順次添加して混合し、高屈折率膜組成物とした。
【0313】
テトラ(n)ブトキシチタン 310質量部
末端反応性ジメチルシリコーンオイル(日本ユニカー(株)製L−9000)
0.4質量部
アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBE903)
4.8質量部
紫外線硬化性樹脂(旭電化工業(株)製:KR−500) 4.6質量部
〈高屈折率膜塗布液の塗布〉
上記形成した各試料の光取り出し層上に、上記調製した高屈折率膜塗布液を押し出しコーターを用いて乾燥膜厚が60nmになるように塗布した後、乾燥を行って、高屈折率膜を形成した。この高屈折率膜の屈折率は2.02であった。
【0314】
〔透明導電膜の形成〕
各試料の上記の様にして形成した膜上に、以下の方法により透明導電膜を形成して、有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材1〜15を作製した。
【0315】
プラズマ放電装置としては、図2に記載の電極が平行平板型のものを用い、この電極間に上記各試料を載置し、混合ガスを導入して薄膜形成を行った。
【0316】
なお、アース(接地)電極としては、200mm×200mm×2mmのステンレス板に高密度、高密着性のアルミナ溶射膜を被覆し、その後、テトラメトキシシランを酢酸エチルで希釈した溶液を塗布乾燥後、紫外線照射により硬化させ封孔処理を行い、このようにして被覆した誘電体表面を研磨し、平滑にして、Rmaxが5μmとなるように加工した電極を用いた。また、印加電極としては、中空の角型の純チタンパイプに対し、アース電極と同様の条件にて誘電体を被覆した電極を用いた。印加電極は複数作成し、アース電極に対向して設け放電空間を形成した。
【0317】
また、プラズマ発生に用いる電源としては、日本電子(株)製高周波電源JRF−10000を用い、周波数13.56MHzで、5W/cm2の電力を供給した。
【0318】
電極間に以下の組成の混合ガスを流し、プラズマ状態とし、上記の各試料を大気圧プラズマ処理し、膜上に、透明導電膜として錫ドープ酸化インジウム(ITO)膜を100nmの厚さで成膜した。
【0319】
放電ガス:ヘリウム 98.5体積%
反応性ガス1:酸素 0.25体積%
反応性ガス2:インジウムアセチルアセトナート 1.2体積%
反応性ガス3:ジブチル錫ジアセテート 0.05体積%
《有機エレクトロルミネッセンス素子の作製》
上記のITO膜を形成した各有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の100mm×100mmを基板とし、これにパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥した。この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方、モリブデン製抵抗加熱ボートにα−NPDを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにホスト化合物としてCBPを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにバソキュプロイン(BCP)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにIr−1を100mg入れ、さらに別のモリブデン製抵抗加熱ボートにAlq3を200mg入れ、真空蒸着装置に取付けた。
【0320】
次いで真空槽を4×10-4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明支持基板に蒸着し、正孔輸送層を設けた。さらにCBPとIr−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.2nm/秒、0.012nm/秒で前記正孔輸送層上に共蒸着して発光層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。さらにBCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層の上に蒸着して膜厚10nmの正孔阻止層を設けた。その上に、さらにAlq3の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔阻止層の上に蒸着して、さらに膜厚40nmの電子輸送層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
【0321】
引き続き、フッ化リチウム0.5nm及びアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子1〜15を作製した。
【0322】
【化6】

【0323】
《有機EL素子の評価》
以下のようにして作製した各有機EL素子について、温度23℃、乾燥窒素ガス雰囲気下の測定条件下において、10V直流電圧を印加した時の発光輝度(cd/m2)の測定と、10mA/cm2の一定電流で駆動したときの初期輝度が半分に低下するのに要した時間、即ち、半減時間(発光寿命)を測定した結果、本発明のガズバリア性フィルムを用いて作製した本発明の有機EL素子は、比較例に対し、発光輝度が高く、かつ発光寿命も長いことを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0324】
【図1】本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【図2】本発明に好ましく用いられる平板電極型の大気圧プラズマ処理装置の他の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明に有用な対向電極間で樹脂フィルムを処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【図4】ロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【図5】角筒型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0325】
10 プラズマ放電処理装置
11 第1電極
12 第2電極
20 電界印加手段
21 第1電源
22 第2電源
30 プラズマ放電処理室
25、35 ロール電極
36 電極
41、42 電源
51 ガス供給装置
55 電極冷却ユニット
F 元巻き樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム上に、該樹脂フィルム側から密着膜、セラミック膜及び保護膜を順次形成するガスバリア性フィルムの製造方法において、該密着膜、該セラミック膜及び該保護膜が、同一組成物から構成されている薄膜形成ガスを用いて形成されていることを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記セラミック膜の密度は、該密着膜及び保護膜のそれぞれの密度よりも高いことを特徴とする請求項1記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記密着膜、前記セラミック膜及び前記保護膜を構成する物質が、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、酸化アルミナ及びそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項4】
大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスおよび放電ガスを含有するガスを供給し、該放電空間に高周波電界を印加することにより該ガスを励起し、基材を励起した該ガスに晒すことにより、該基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法により、樹脂フィルム上に、密着膜、セラミック膜及び保護膜の少なくとも1層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項5】
大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスおよび放電ガスを含有するガスを供給し、該放電空間に高周波電界を印加することにより該ガスを励起し、基材を励起した該ガスに晒すことにより、該基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法により、樹脂フィルム上に、密着膜、セラミック膜及び保護膜の全ての層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記放電ガスが窒素ガスであり、放電空間に印加される高周波電界は、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、該第1の高周波電界の周波数ω1より該第2の高周波電界の周波数ω2が高く、該第1の高周波電界の強さV1、該第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さIVとの関係が、V1≧IV>V2またはV1>IV≧V2の関係を満たし、該第2の高周波電界の出力密度が1W/cm2以上であることを特徴とする請求項4または5に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法により製造されたガスバリア性フィルムの保護膜上に凹凸形状を有する膜を設け、更にその上にゾルゲル反応で造膜する屈折率が1.9以上、2.1以下の高屈折率膜を湿式コーティング法で設け、更にその上に透明導電膜を形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材の製造方法により製造された有機エレクトロルミネッセンス用樹脂基材上に、燐光発光有機エレクトロルミネッセンス材料及び陰極となる金属膜を設けて封止することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−299373(P2006−299373A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126312(P2005−126312)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】