説明

ガスバリア性フィルム及びその製造方法

【課題】良好なガスバリア性を有し、光、熱、水等の外的要因に対して、無機層と下地の有機層間、又は有機層と基材間の剥離が抑制され、長期信頼性に優れたガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】基材2と、基材2上に設けられた有機層3と、有機層3上に設けられた無機層4とを有し、有機層3が、ケイ素がウレタン結合を介して共有結合しているアクリル系樹脂を含有し、無機層4と接する有機層3の面にケイ素が0.3原子%以上存在することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性フィルムは、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、太陽電池、タッチパネル、電子ペーパー等の装置において、それらの性能を劣化させる酸素又は水蒸気等の化学成分の透過を防ぐために好ましく用いられている。特に最近の電子デバイスの高性能化と高品質化に伴い、ガスバリア性フィルムにおいても高いガスバリア性が求められている。
【0003】
近年のガスバリア性フィルムには、プラスチックフィルム等の基材と、その基材上に設けられた有機層と、その有機層上に設けられた無機層とで構成されているものがある。有機層は、無機層の下に設けられてガスバリア性を高める役割を担っている。
【0004】
(特許文献1)には、プラスチックフィルムの少なくとも一方の面にバリア層を有するガスバリアフィルムであって、バリア層が、有機層、膜密度が1.7以上である第一無機層、及び第一無機層よりも膜密度が0.5〜1.5高い第二無機層から構成されているガスバリアフィルムに関する発明が開示されている。
【0005】
同文献によれば、有機層及び無機層を含むバリア層を有するガスバリアフィルムにおいて、有機層と無機層との間に、この無機層とは物性が異なる他の無機下地層を導入することにより、その上層に形成される無機層のバリア性が高まるとされている。
【0006】
同文献においては、有機層に関し以下のように記載されている。まず、ガスバリアフィルムの有機層は硬化性樹脂で構成されることが好ましいとされている。また、硬化性樹脂であるエポキシ樹脂及び放射線硬化性樹脂に対して、さらにポリマー分子との相互作用を強めるために、アルコキシシランの加水分解物やシランカップリング剤を混合しても良い旨が開示されている。シランカップリング剤としては、一方にメトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基等の加水分解可能な反応基を持ち、もう一方にはエポキシ基、ビニル基、アミノ基、ハロゲン基、メルカプト基を持つものが好ましいとされ、具体例として、信越化学工業(株)製のKBM−503、KBM−803、日本ユニカー(株)製のA−187等が挙げられている。そして、シランカップリング剤の添加量は、0.2〜3質量%であることが好ましいとされている。
【0007】
また、同文献の実施例においては、有機層を形成する際にシランカップリング剤として信越化学工業(株)製のKBM−503を0.5g(2.4質量%)用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−95989号公報(請求項1、段落0009、段落0022〜0024、段落0066)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
最近の高性能化の要請はガスバリア性フィルムに対しても同様であり、必要十分なガスバリア性を確保した上で、光、熱、水(湿度)等の外的要因に対する耐久性(耐光性、耐湿熱性)を向上させることが望まれている。具体的には、本発明者らの検討によれば、高温・多湿の環境下においてガスバリア性フィルムを長期間使用した場合に、無機層と下地の有機層間、あるいは有機層と基材間が剥離し、ガスバリア性が大きく悪化するという新たな課題が見出された。ガスバリア性フィルムは、上記のとおり多種多様な用途に使用されつつ今度もその用途が拡大すると予想され、種々の過酷環境下に保持されることが想定される。したがって、ガスバリア性フィルムの耐湿熱性を改善することは、実使用可能なガスバリア性フィルムを得る上で重大な課題となっている。
【0010】
そこで本発明は、良好なガスバリア性を有し、光、熱、水等の外的要因に対して、無機層と下地の有機層間、又は有機層と基材間の剥離が抑制され、長期信頼性に優れたガスバリア性フィルム、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、有機層として、アクリル系樹脂に対しイソシアネート基を有するシランカップリング剤を多量に添加して硬化させた層を採用することにより、層間の密着性が高く、かつガスバリア性にも優れるガスバリア性フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するための本発明に係るガスバリア性フィルムは、基材と、該基材上に設けられた有機層と、該有機層上に設けられた無機層とを有し、前記有機層が、ケイ素がウレタン結合を介して共有結合しているアクリル系樹脂を含有し、前記無機層と接する前記有機層の面に前記ケイ素が0.3原子%以上存在することを特徴とするものである。
【0013】
この発明によれば、ケイ素が、有機層と無機層との界面(有機層表面)に十分に存在し、ケイ素と無機層の表面とが反応して結合するため、有機層と無機層との密着性が向上し、良好なガスバリア性及び耐湿熱性を示すガスバリア性フィルムが提供される。
【0014】
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいては、有機層が、ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を構成単位中に含む樹脂をさらに含有することが好ましい。
【0015】
この発明によれば、ケイ素がウレタン結合を介して共有結合しているアクリル系樹脂に加えて、ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を構成単位中に含む樹脂をさらに共存させることにより、ガスバリア性が向上する。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法は、基材上に有機層を形成する工程と、該有機層上に無機層を形成する工程とを有し、前記有機層を形成する工程が、ヒドロキシ基を有するアクリレート系モノマー又はオリゴマー、及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する有機層形成用塗布液を用いて行われ、前記シランカップリング剤は、有機層の固形分全質量に対して25質量%以上含有されることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、ヒドロキシ基を有するアクリレート系モノマー又はオリゴマー自体の重合反応と同時に、そのモノマー又はオリゴマーのヒドロキシ基と上記シランカップリング剤のイソシアネート基とが反応し、強固な共有結合(ウレタン結合)が形成される。また、シランカップリング剤を多量(25質量%以上)に含有させることにより、ケイ素が有機層表面に多く存在し、ケイ素と無機層の表面とが反応して結合するため、有機層と無機層との密着性が向上し、良好なガスバリア性及び耐湿熱性を示すガスバリア性フィルムを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、良好なガスバリア性を有し、光、熱、水等の外的要因に対して、無機層と下地の有機層間、又は有機層と基材間の剥離が抑制され、長期信頼性に優れたガスバリア性フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るガスバリア性フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0021】
本発明に係るガスバリア性フィルム1は、図1に示すように、基材2と、基材2上に設けられた有機層3と、その有機層3上に設けられた無機層4とを有する。そして、有機層3が、ケイ素がウレタン結合を介して共有結合しているアクリル系樹脂を含有し、無機層4と接する有機層3の面に上記ケイ素が0.3原子%以上存在する。これによって、上記ケイ素が、有機層3と無機層4との界面(有機層表面)に十分量存在し、ケイ素と無機層4の表面とが反応して結合することとなり、その結果、有機層3と無機層4との密着性が改善され、良好なガスバリア性及び耐湿熱性を示すガスバリア性フィルムを得ることができる。なお、ここでいう「無機層4と接する有機層3の面」あるいは「有機層表面」とは、無機層4と接する有機層3の最表面から深さ1nmまでの領域を指す。
【0022】
本発明者らは、ガスバリア性フィルムの層構成について鋭意検討を行う過程で、有機層を用いない場合や従来の有機層を用いた場合には、製造直後(初期)におけるガスバリア性や有機層と無機層との密着性が良好であっても、経時的にガスバリア性フィルムの劣化が進み、無機層と有機層との間、あるいは有機層と基材との間が剥離してガスバリア性が悪化するという問題があることを見出した。具体的には、ガスバリア性フィルムの耐久性を加速的に試験するために、ガスバリア性フィルムを高温高湿環境下で保持する(耐湿熱試験を行う)と、上記問題が顕著に発生することがわかった。そして、この問題の解決のために、本発明者らは、無機層と有機層との密着性の向上が必須であると考え、検討をさらに行ったところ、以下の知見を見出した。
【0023】
まず、有機層を硬化型のアクリル系樹脂で形成した場合に、このアクリル系樹脂と結合しつつも無機層とも化学結合するシランカップリング剤由来のケイ素を、有機層と無機層との界面に存在させることで、有機層と無機層との密着性を確保しやすくなり、ひいては有機層と基材との剥離をも防止できることがわかった。シランカップリング剤は、有機物とケイ素とから構成される化合物であり、分子中に、加水分解によりヒドロキシ基となって無機材料と化学結合する反応基(以下、「加水分解性基」という場合がある)と、有機材料と化学結合する反応基(以下、「反応性官能基」という場合がある)の2種以上の異なった反応基を有する。そのため、通常では非常に結合しにくい有機材料と無機材料とを結合させる機能を発現する。
【0024】
もっとも、シランカップリング剤は、上記の通り有機層と無機層との界面で機能を発現するものの、分子量が100〜300程度の低分子材料であるため、有機層中で移動しやすい傾向にある。このため、どのような種類のシランカップリング剤でも適用可能というわけではなく、採用するシランカップリング剤の構造を検討しないと、製造直後(初期状態)では良好な密着性を有していても、経時的には、シランカップリング剤又はシランカップリング剤により形成されるケイ素を有する基が有機層と無機層との界面から有機層中に潜り込む現象によるものと思われる密着性の低下が発生することもわかった。
【0025】
そこで、本発明者らは、有機層中でシランカップリング剤又はシランカップリング剤により形成されるケイ素を有する基が自由に動き回るのを抑制して、時間が経過してもシランカップリング剤又はシランカップリング剤により形成されるケイ素を有する基が有機層と無機層との界面に留まるようにするために、アクリル系樹脂と、シランカップリング剤の反応性官能基とを共有結合させることが必要であると考えた。そして、その中でも特に、ケイ素をウレタン結合を介してアクリル系樹脂に共有結合させることが好ましいことを見出した。これによって、紫外線や熱によりシランカップリング剤の反応性官能基が重合性化合物と反応し、有機層中に共有結合として強固に取り込まれやすくなる。
【0026】
このように、ケイ素とアクリル系樹脂とをウレタン結合を介して共有結合させることにより、ケイ素を有する基が経時的に有機層中へ潜り込む等の現象が発現しにくく、有機層と無機層との界面に存在し続けるため、初期の良好なガスバリア性及び密着性を確保することができた。しかし、それでもなお、長期間使用すると、無機層が有機層から剥離しガスバリア性が大きく低下するという問題を生じる場合があった。
【0027】
このため、さらに検討を行った結果、有機層と無機層との界面に存在させるケイ素を有する基(より具体的には、シランカップリング剤の加水分解性基)の絶対量(無機層との結合反応点)を多くすることで、経時的な密着性が改善されることを見出した。具体的には、を0.3原子%以上存在させることが有効である。以上の検討を経て、本発明者らは発明を完成させたのである。
【0028】
なお、経時的な密着性改善のためには、無機層と接する有機層の面におけるケイ素の量は多いほど好ましく、上限値は特に限定されるものではない。しかしながら、ケイ素の量が多すぎると、シランカップリング剤自体がガスバリア性を有しないことに起因すると考えられるガスバリア性の低下が観察される可能性がある。そこで、無機層と接する有機層の面に存在する上記ケイ素量は1原子%以下であることが好ましい。これにより、有機層表面に存在するケイ素の量が適正な範囲となり、その結果、ガスバリア性フィルムのガスバリア性を高いレベルで維持しやすくなる。
【0029】
ここで、無機層と接する有機層の面に存在するケイ素の量の分析方法について説明する。まず、ガスバリア性フィルムを製造する前の分析方法としては以下の方法が挙げられる。すなわち、基材上に有機層を形成したサンプルを作製し、有機層の表面をESCA(X線光電子分光法)により分析して、有機層の表面(この面が無機層と接する有機層の面となる)に存在するケイ素の量(原子%)を求める分析方法である。次に、製造されたガスバリア性フィルムについて分析する場合には、例えば以下の2つの方法が考えられる。第1は、無機層を酸でエッチング除去して有機層の表面を露出させ、同表面に対してESCA分析を行う方法である。エッチングの方法は無機層の材料によって適宜選択され特に限定されないが、例えば無機層が酸化ケイ素から形成される場合には、フッ酸によるエッチングを行えば良く、無機層が亜鉛を含む場合には塩酸によるエッチングを行えば良い。第2は、ガスバリア性フィルムの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、無機層と有機層との境界及び無機層の厚さを特定した後、ESCA分析装置を用いて無機層の厚さ分だけアルゴンエッチングを行い、有機層表面を露出させてケイ素の存在量(原子%)のESCA分析を行う方法である。両者について、優先順位をつけるならば、第1の方法(エッチングによる方法)が優先され、第1の方法が難しい場合に第2の方法(断面のTEM観察による方法)が用いられる。これは、第1の方法(エッチングによる方法)が容易に実施できるためである。もっとも、無機層の材料によっては、エッチングができないか、もしくは無理にエッチングすると有機層までエッチングされる場合があるので、この点については注意する必要がある。第1の方法(エッチングによる方法)が難しい場合には第2の方法(断面のTEM観察による方法)を用いるが、第2の方法(断面のTEM観察による方法)は、ESCAで掘り下げる際の装置条件を慎重に選ぶ必要がある。
【0030】
また、シランカップリング剤のケイ素と、アクリル系樹脂とが共有結合しているか否かは、以下の2つの方法を用いることで確認することができる。
【0031】
第1の方法は、有機層の表面を洗浄する方法である。例えば、有機層の表面に対して純水による超音波洗浄を行うと、遊離ケイ素のようなアクリル系樹脂と結合していないケイ素を除去することができる。そして、洗浄後にESCAによる表面元素分析を行うことで、消失したケイ素はアクリル系樹脂と共有結合をしていない遊離ケイ素であり、残留するケイ素はアクリル系樹脂と共有結合しているケイ素であることがわかる。
【0032】
第2の方法は、ESCAにより化学結合状態を分析する方法である。ケイ素とアクリル系樹脂との間がイオン結合である場合、通常は上記第1の方法による洗浄で除去できるが、結合状態によっては除去できない場合もあり得る。この場合には、ESCAによる化学結合状態の分析を行う。具体的には、ESCAによる各元素のピーク位置が結合状態に応じて数eVの範囲で変化するので、この現象(化学シフト)を利用して、原子の化学結合状態に関する知見を得ることができる。そして、結合している元素の種類や、イオン・共有結合に関する知見が得られるために、共有結合とイオン結合とを区別することが可能になる。
【0033】
次に、ガスバリア性フィルム1の構成要素についてさらに詳しく説明する。
【0034】
(基材)
基材2は、有機層3及び無機層4を形成することができる樹脂シート又は樹脂フィルムであれば特に制限はない。基材2の構成材料としては、例えば、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン(APO)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、シクロポリオレフィン(CPO)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPA)等を挙げることができる。
【0035】
また、上記の樹脂材料以外にも、ラジカル反応性の不飽和化合物を有するアクリレート化合物よりなる樹脂組成物、上記アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、メタクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解した樹脂組成物等からなる光硬化性樹脂、及びこれらの混合物等を用いることができる。さらに、これらの樹脂の1種又は2種以上をラミネート、コーティング等の手段により積層させたものを基材2として用いることもできる。また、樹脂シート又は樹脂フィルムに代えて、ガラスやシリコンウエハを基材2として用いることもできる。
【0036】
基材2の厚さは、通常3μm以上500μm以下、好ましくは12μm以上300μm以下である。厚さがこの範囲内である基材2は、フレキシブルであるとともに、ロール状に巻き取ることもできる点で好ましい。
【0037】
基材2は、長尺材であっても良いし枚葉材であっても良いが、長尺の基材を好ましく用いることができる。長尺の基材2の長手方向の長さは特に限定されないが、例えば10m以上の長尺フィルムが好ましく用いられる。なお、長さの上限は限定されず、例えば10km程度のものであっても良い。
【0038】
基材2には、種々の性能確保のために添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、従来公知のものを適宜用いることができ、例えば、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、塩素捕獲剤等を挙げることができる。なお、基材2を、透明性が必要とされるOLED等の発光素子の基板として用いる場合には、基材2は無色透明であることが好ましい。より具体的には、例えば400nm〜700nmの範囲内での基材2の平均光透過度が80%以上の透明性を有するように構成することが好ましい。こうした光透過度は、基材2の材質と厚さに影響されるので両者を考慮して構成される。
【0039】
また、基材2の表面は、必要に応じて、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、及び易接着処理等の表面処理を行っても良い。こうした表面処理の具体的な方法は従来公知のものを適宜用いることができる。また、基材2の、有機層3を直接形成しない側の面には、他の機能層を設けても良い。機能層の例としては、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0040】
(有機層)
有機層3は、基材2上に設けられ、無機層4とともにガスバリア層を構成する。なお、図1は、基材2と有機層3とが接している例であるが、両者は必ずしも接している必要はなく、必要に応じて、その間に他の層を設けても良い。
【0041】
有機層3は、ケイ素がウレタン結合を介して共有結合しているアクリル系樹脂を含有しており、無機層4と接する有機層3の面にはケイ素が0.3原子%以上、好ましくは0.3原子%〜1原子%存在している。有機層3中のケイ素の含有量は、無機層4と接する有機層3の面におけるケイ素の量が上記範囲となるように適宜設定される。具体的には、有機層3中のケイ素の含有量は、本発明の効果を確実に得るという見地から、0.5質量%〜0.6質量%とすることが特に好ましい。これにより、有機層3と無機層4との密着性が改善され、良好なガスバリア性及び耐湿熱性を示すガスバリア性フィルムが得られやすくなる。
【0042】
有機層3中のケイ素の含有量は、例えば、原料として用いるシランカップリング剤の量から算出することができるし、また、ESCAによって有機層3の深さ方向の組成分析を行い、各断面での組成を積算することによっても求めることができる。
【0043】
ケイ素がウレタン結合を介して共有結合しているアクリル系樹脂は、例えば、ヒドロキシ基を有するアクリレート系モノマー又はオリゴマーと、イソシアネート基を有するシランカップリング剤とを反応(グラフト反応)させ、ウレタン結合を形成することによって得ることができる。アクリレート系モノマー又はオリゴマーからなる重合性化合物としては、熱硬化型及び放射線硬化型のものが挙げられる。工業生産性を考慮すると、放射線硬化型の重合性化合物を用いることが好ましい。熱硬化型の重合性化合物の場合、硬化のために例えば160℃程度の加熱を要するため、耐熱性を有する基材2を用いる必要があり、基材2の材質の選択が若干狭まることとなる。また、熱硬化型樹脂では、一定の硬化時間(例えば30分程度)が必要となるので、ロールトゥロール方式の生産工程上で十分な乾燥時間を確保することが難しくなる場合がある。この場合、より確実に硬化させるためにロールに巻き取った状態で加熱オーブンに投入することがあるが、ロールに巻き取った巻物状態では、ブロッキングの問題や、ロールの外側とロールの中心付近とで硬化ムラが発生しやすくもなる。これに対して、放射線硬化型樹脂は、必要露光量を照射すれば十分に硬化可能であることから硬化が短時間で済み、工業生産上、基材2上に良好な有機層3を形成しやすくなる。
【0044】
このようなヒドロキシ基を有するアクリレート系モノマー又はオリゴマーとしては、シランカップリング剤と反応するヒドロキシ基を有する化合物であれば適用可能であり、例として、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート(HPPA)、フェノキシエトキシエチルアクリレート(PEEA)、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエステルアクリレート(東亞合成社製アロニックスM−8030、M−8530、M−8060、M−8530、M−5400、M−6100、M−6200、M−6250、M−6500)等を挙げることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0045】
また、イソシアネート基を有するシランカップリング剤は、分子内に1個以上のイソシアネート基及び1個以上の加水分解性シリル基を有する化合物であれば特に限定されないが、具体的な化合物としては、下記式[1]で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【化1】

(式中、nは1〜3の整数であり、Rは置換基を有しても良い炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、置換基を有しても良い炭素数6〜10のアリーレン基、及び置換基を有しても良い炭素数5〜6のシクロアルキレン基から選択される。n個のRは同一であっても、異なっていても良い。Rは加水分解性基であり、炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、及びヒドロキシ基から選択される。4−n個のRは同一であっても、異なっていても良い。)
【0046】
上記Rにおける置換基の例としては、ポリフルオロアルキレン基が挙げられる。特に、式[1]において、n=1である化合物が好ましく、具体的には、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。また、OCN−R−基以外の基は、全て加水分解性基(R)である必要はなく、場合によっては1〜2個のメチル基等の別の置換基がSiに結合していても良い。
【0047】
有機層3は、必要に応じて、ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を構成単位中に含む樹脂をさらに含有することができる。有機層3がヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を構成単位中に含む樹脂を含有することで、ガスバリア性がさらに向上する。ここで、有機層3中のヒドロキシ基の有無は、JIS K 1557−1970に準拠して測定することができる。すなわち、試料を、無水酢酸を含むピリジン溶液とし、ピリジン還流下で、ヒドロキシ基をアセチル化する。イミダゾールを触媒にして、この反応を促進させ、過剰のアセチル化試薬を水によって加水分解し、生成した酢酸を水酸化ナトリウムの標準液で滴定して計測することができる。
【0048】
上記のヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を構成単位中に含む樹脂として、好ましくは、下記一般式[2]で表される樹脂を用いることができる。
【化2】

【0049】
一般式[2]中、n及びnは互いに同値又は異値の0又は正の整数であり、n+nは1〜20である。また、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基であり、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基である。特に、R、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0050】
+nを1〜20とした樹脂を含有することで、均質な無機層4が形成され、良好なガスバリア性を発揮することができる。n+nが0であると、樹脂の結晶性が高くなって溶解し難く、有機層形成用の樹脂組成物の塗料化が困難になったり塗工適性が低下したりする。一方、n+nが21以上であると、有機層中にアルキレンオキサイドの直鎖状の分子鎖が増大し、その分子鎖中に低分子成分を取り込みやすくなる恐れがある。
【0051】
+nが大きくなると、有機層3のガラス転移温度Tgが低くなり、有機層3上に無機層4を形成する際の熱やプラズマの影響によって、有機層3の結晶化が進み、有機層3が白化する恐れがある。白化すると、有機層3の透明性が低下し好ましくない。また、白化すると、有機層3の表面が粗くなり、有機層3上に形成する無機層4にクラックが生じやすくなり、ガスバリア性が低下することがある。このような観点から、n+nは1〜6が好ましく、これにより有機層3のガラス転移温度Tgを高くすることができる。その結果、良好なガスバリア性と有機層の良好な透明性とを安定して得ることができる。
【0052】
有機層3に、前記一般式[2](一般式[2]中のn+nは1〜6)で表される構造を有する樹脂を含有させることで、有機層を紫外線等で架橋させて形成した後に、その有機層上に、基材2の両面のうち前記有機層が形成された面とは反対側の面を冷却しながら、熱負荷の加わるイオンプレーティングで無機層4を形成した場合に、無機層4の表面に凹凸を形成することが可能となる。無機層表面に凹凸を形成することによって、無機層4とその上に形成される層との接触面積が増加するため、例えば、無機層4の上に、さらに接着層を介して透明フィルムを積層させ太陽電池モジュール用フロントシートを作製する場合に、無機層4と透明フィルムとの間の密着性を向上させることができる。無機層表面に凹凸が形成される理由は定かではないが、下記のように推察される。すなわち、紫外線等で架橋させて形成した有機層3には未反応成分が残存している。そして、イオンプレーティングで無機層4を形成する際に、有機層3に衝突するイオンの熱負荷によってその未反応成分の硬化が促進される。ところが、前記一般式[2](一般式[2]中のn+nは1〜6)で表される樹脂はTgが高く、かつ基材2の両面のうち有機層3が形成された面とは反対側の面を冷却しているので、未反応成分の硬化は専ら有機層3の表面近傍で起こる。その結果、有機層3の表面近傍が歪んで凹凸が発生し、その有機層3の凹凸に沿って無機層4が形成されるので、無機層4の表面に凹凸が形成されるものと考えられる。
【0053】
冷却する場合、基材2の、有機層3が形成された面とは反対側の面の表面温度を少なくとも室温より低い温度にすることを要する。室温の一般的な目安は約25℃である。さらに、透明性の低下をきたすことなく十分な凹凸を形成するためには、有機層が形成された面とは反対側の面の表面温度が5℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることがさらに好ましく、−20℃以下とすることが特に好ましい。有機層が形成された面とは反対側の面の冷却は、例えば、有機層が形成された基材2を、エチレングリコールや液体窒素等の冷媒を用いて冷却した金属製ロールや金属製ホルダーに対し、有機層が形成された面とは反対側の面と金属製ロールや金属ホルダーの表面が接触するように配置する方法により行うことができる。
【0054】
凹凸は、具体的には、P−V値が200nm以上、かつRaが35nm以上であることが密着性向上効果の点で好ましい。P−V値及びRaは、JIS B0601(2001年版:ISO4287の1997年版)に基づく表面粗さの特性値であり、P−V値は基準長さにおける粗さ曲線の山高さの最大値と谷深さの最大値との和としての最大高さRz(JISの1994年版ではRy)を意味し、Raは算術平均粗さRaを意味する。P−V値及びRaは、原子間力顕微鏡(AFM)と光干渉式表面形状測定装置により測定することができる。
【0055】
なお、一般式[2]で表される樹脂は、例えば、下記一般式[3]で表される化合物をモノマーとして重合することによって生成することができる。
【化3】

【0056】
一般式[3]中、n及びnは互いに同値又は異値の0又は正の整数であり、n+nは1〜20である。また、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基であり、R及びR はそれぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基である。特に、R、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0057】
一般式[3]で表される化合物は、公知の方法で合成することができる。例えば、アルキレンオキサイド鎖の末端にヒドロキシ基を有するアルキレンオキサイド変性ビスフェニルフルオレン系化合物に対し、そのヒドロキシ基を、アクリル酸又はアクリル酸クロリドを用いてエステル化することにより得ることができる。
【0058】
アルキレンオキサイド変性ビスフェニルフルオレン系化合物は、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシエチルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシエチルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシエチルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシエチルオキシフェニル)フルオレン等の化合物である。
【0059】
アルキレンオキサイド変性ビスフェニルフルオレン系化合物は、ビスフェニルフルオレン系化合物、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(これはビスフェノールフルオレンとも呼ばれている)、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等の化合物において、フェニル基に結合したヒドロキシ基に対し、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加することによって得ることができる。
【0060】
また、一般式[3]で表される化合物は、市販品として、例えば、新中村化学工業株式会社製のNKエステルシリーズ、大阪ガスケミカル株式会社製のオグソール(登録商標)EAシリーズとして入手することもできる。
【0061】
なお、上記樹脂には、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を含む構成単位以外の構成単位を含んでいても良い。ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を含む構成単位とそれ以外の構成単位との割合としては、ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を含む構成単位とそれ以外の構成単位の質量比が、100:0〜50:50程度、好ましくは、100:0〜75:25である。この範囲であれば、本発明の所定の目的を達成し、ガスバリア性の良いフィルムを得ることができると考えられる。
【0062】
有機層3における、ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基構成単位中に含む上記樹脂の含有割合は、ケイ素がウレタン結合を介して共有結合しているアクリル系樹脂とのバランスを考慮して適宜設定することができる。具体的には、有機層3中0質量%〜35質量%とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0063】
また、有機層3は、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、上述のような(1)ケイ素がウレタン結合を介して共有結合しているアクリル系樹脂、及び(2)ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基構成単位中に含む樹脂、以外の樹脂を含んでいても良い。これら(1)及び(2)以外の樹脂の含有割合は、有機層3中35質量%以下とすることが好ましい。この範囲であれば、本発明の所定の目的を達成し、層間の密着性及びガスバリア性に優れたフィルムを得ることができると考えられる。
【0064】
さらに、有機層3には、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて、各種添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、赤外線吸収剤、光拡散剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料等が挙げられる。特に、有機層3には、紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。有機層に紫外線吸収剤を含有させることで、有機層及び基材を紫外線による黄変や白化から保護することができる。これらの各種添加剤の含有割合は、有機層3中10質量%以下とすることが好ましい。
【0065】
有機層3は、一回の成膜回数で形成してなる単層でも、2回以上の成膜回数で形成してなる2層以上の層であっても良い。有機層3の厚さは、単層又は2層以上に関わらず、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、さらに表面性や生産性の観点からは0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0066】
(無機層)
無機層4は、水蒸気等のガスを遮断する機能層として有機層3上に形成され、有機層3とともにガスバリア層を構成する。無機層4の形成材料としては、例えば、無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、無機酸化窒化物、無機酸化炭化物、無機窒化炭化物、無機酸化炭化窒化物及び各種金属等から選択される1又は2以上の無機化合物を挙げることができる。具体的には、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、セリウム及び亜鉛から選択される1種又は2種以上の元素を含有する無機化合物を挙げることができ、より具体的には、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、ケイ素亜鉛合金酸化物及びインジウム合金酸化物等の無機酸化物;ケイ素窒化物、アルミニウム窒化物及びチタン窒化物等の無機窒化物;酸化窒化ケイ素等の無機酸化窒化物;を挙げることができる。特に好ましくは、無機層4が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、及び酸化ケイ素亜鉛から選択される1種又は2種以上からなる層である。無機層4は上記材料を単独で用いても良いし、本発明の要旨の範囲内で上記材料を任意の割合で混合して用いても良い。
【0067】
無機層4の厚さは、使用する無機化合物によっても異なるが、ガスバリア性確保の見地から、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、クラック等の発生を抑制する見地から、通常5000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。また、無機層4は1層であっても良いし、合計厚さが上記範囲内となる2層以上の無機層4であっても良い。2層以上の無機層4の場合には、同じ材料同士を組み合わせても良いし、異なる材料同士を組み合わせても良い。
【0068】
(その他の構成)
ガスバリア性フィルム1は、上述の通り、基材2、有機層3及び無機層4で構成されているが、例えば、これら以外の層を、有機層3と基材2との間に適宜挿入したり、基材2の有機層3が形成されていない側の面に積層したり、無機層4上にさらに積層したりしても良い。基材2、有機層3及び無機層4以外の層としては、本発明の特徴を阻害しない範囲で任意の層を適用することができ、例えば、従来公知のプライマー層、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等を挙げることができる。
【0069】
次に、ガスバリア性フィルム1の製造方法について説明する。
【0070】
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法は、基材2上に有機層3を形成する工程と、有機層3上に無機層4を形成する工程とを有し、有機層3を形成する工程が、ヒドロキシ基を有するアクリレート系モノマー又はオリゴマー、及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する有機層形成用塗布液を用いて行われる。以下、各工程について説明する。
【0071】
(有機層形成工程)
有機層3は、有機層形成用塗布液を用いて行われる。有機層形成用塗布液は、上述のヒドロキシ基を有するアクリレート系モノマー又はオリゴマー、及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有しており、シランカップリング剤の含有量は、有機層の固形分全質量に対して25質量%以上とすることが好ましい。シランカップリング剤の含有量を25質量%以上とすることにより、シランカップリング剤由来のケイ素が有機層と無機層との界面に十分量存在することとなり、湿度や熱に対する層間の高い密着性を得ることができる。なお、シランカップリング剤の含有量は、25質量%以上であれば上限値は特に限定されるものではないが、ガスバリア性を良好に維持することとのバランスを考慮して適宜設定される。具体的には、シランカップリング剤の種類にもよるが、35質量%以下とすることが好ましい。また、ヒドロキシ基を有するアクリレート系モノマー又はオリゴマーと、イソシアネート基を有するシランカップリング剤との配合割合は、アクリレート系モノマー又はオリゴマー:シランカップリング剤=3:2〜13:14(重量比)とすることが好ましい。
【0072】
有機層形成用塗布液は、上記以外の重合性化合物をさらに含んでいても良い。
【0073】
また、有機層形成用塗布液には、重合開始剤や光増感剤を含有させることが好ましい。具体的には、重合開始剤として、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類を挙げることができる。また、光重合開始剤として、例えば、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(メチルビニル)フェニル]プロパノン]等を用いることもできる。さらに、光増感剤としては、例えば、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等を挙げることができる。有機層形成用塗布液中の重合開始剤及び光増感剤の含有量は、特に制限はなく、良好な硬化が行われる程度の含有量であれば良いが、通常、有機層形成用塗布液100質量%に対して重合開始剤及び光増感剤の合計が0.1〜5質量%程度に設定することが好ましい。
【0074】
有機層形成用塗布液には、塗布液の粘度調整の見地から溶剤を含有させても良い。溶剤としては、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;又はこれらの混合物を挙げることができる。これらの溶媒は、本発明の要旨の範囲内において、任意の割合で混合して用いることができる。
【0075】
有機層形成用塗布液には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、必要に応じて添加剤を加えても良い。添加剤としては、例えば、熱安定剤、ラジカル捕捉剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料、光拡散剤等が挙げられる。
【0076】
有機層3は、基材2上に有機層形成用塗布液を塗布し、塗布後の塗膜に電離放射線を照射して架橋重合等させて形成することができる。塗布方法としては、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスロールコート法、リバースロールコート法、ミヤバーコート法、グラビアコート法、スピンコート法、及びダイコート法等を挙げることができる。
【0077】
有機層形成用塗布液を塗布した後は、必要に応じて乾燥を行う。乾燥温度は、常温であっても良いが、有機層形成用塗布液が溶剤を含有する場合には、溶剤の沸点以上の温度として溶剤を除去するための乾燥を行うことが好ましい。
【0078】
電離放射線の照射は、従来公知の方法・装置を用いて行うことができる。例えば、電離放射線として紫外線を用いる場合には、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯等の光源を用いて照射することができる。なお、電離放射線としては、代表的には紫外線又は電子線を挙げることができるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、あるいはα線等の荷電粒子線を挙げることができる。こうした電離放射線を照射して重合性化合物及びシランカップリング剤を重合等させることにより、有機層3が形成される。
【0079】
(無機層形成工程)
無機層形成工程は、有機層3上に無機材料(無機層の形成材料)を堆積して無機層4を形成する工程である。無機層4の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法又はプラズマ化学気相成長法等を挙げることができる。こうした各種形成方法における成膜条件は、得ようとする無機層の物性及び厚さ等を考慮し、従来公知の成膜条件を適宜調整して行えば良い。
【0080】
より具体的には、(1)無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物、金属等の原料を基材上に加熱蒸着させる真空蒸着法、(2)原料に酸素ガスを導入して酸化させ、基材上に蒸着させる酸化反応蒸着法、(3)ターゲット原料にアルゴンガス、酸素ガスを導入してスパッタリングすることにより、基材上に堆積させるスパッタリング法、(4)原料をプラズマガンで発生させたプラズマビームで加熱させ、基材上に堆積させるイオンプレーティング法、及び(5)有機ケイ素化合物等を原料とし、酸化ケイ素膜を基材上に堆積させるプラズマ化学気相成長法等を利用することができる。
【0081】
無機層形成工程では、無機層が有機層上に形成される際に、有機層の表面にケイ素が十分に存在するとともに、これらケイ素を含むシランカップリング剤の加水分解性基と無機層の材料とが反応して結合が形成されるものと考えられる。これによって、無機層と有機層との間の密着性が確保され、ひいては有機層と基材との間の密着性も向上し、初期だけでなく長期間使用した後でも安定したガスバリア性能を発揮するガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0082】
なお、ガスバリア性フィルムが、上述した他の機能層を有する場合には、それらの層の形成工程が任意に含まれる。
【0083】
本発明に係るガスバリア性フィルムは、従来公知の用途に適用することができる。例えば、各種の表示装置又は発電装置において用いられ、これら装置の品質特性を低下させる水蒸気等のガス成分の影響を低減することができる。
【0084】
表示装置としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、タッチパネル、電子ペーパー等を挙げることができる。また、これらの表示装置をアクティブマトリックス駆動する薄膜トランジスタも、この表示装置に含まれる。なお、各表示装置の構成は特に限定されず、それぞれ従来公知の構成を適宜採用することができる。また、これらの表示装置に適用するガスバリア性フィルムによる封止手段も特に限定されず、従来公知の手段と採用することができる。
【0085】
具体的には、例えば、有機EL素子の場合、本発明に係るガスバリア性フィルム上にそれぞれ陰極及び陽極を形成し、両電極の間に、有機発光層(単に「発光層」ともいう)を含む有機層を有する構成とすることができる。発光層を含む有機層の積層態様としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。さらに、正孔輸送層と発光層との間、又は、発光層と電子輸送層との間には、電荷ブロック層等を有していても良い。また、陽極と正孔輸送層との間には正孔注入層を有しても良く、陰極と電子輸送層との間には電子注入層を有しても良い。また、発光層は一層だけでも良く、第一発光層、第二発光層及び第三発光層等のように発光層を分割しても良い。さらに、各層は複数の二次層に分かれていても良い。なお、有機EL素子は発光素子であることから、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明であることが好ましい。
【0086】
発電装置としては、例えば、太陽電池素子(太陽電池モジュール)を挙げることができる。発電装置の構成は特に限定されず、従来公知の構成を適宜採用することができる。さらに、そうした発電装置に適用するガスバリア性フィルムによる封止手段も特に限定されず、従来公知の手段とすることができる。例えば、ガスバリア性フィルムを太陽電池素子の裏面保護シートとして用いることができる。
【0087】
具体的には、例えば、太陽電池モジュールにおいて、本発明に係るガスバリア性フィルムを太陽電池バックシートとして使用する場合を挙げることができる。こうした太陽電池モジュールは、太陽光側から厚さ方向に順に、前面基材(ガラス又はフィルム等の高光線透過性を有するもの)、充填材、太陽電池素子、リード線、端子、端子ボックス、太陽電池バックシートの構成であり、それらがシール材を介して両端の外装材(アルミ枠等)に固定されている。そのような太陽電池バックシートとして、裏面封止用フィルムと、外層側に配置されるフィルムとの間に、本発明に係るガスバリア性シートを挟んで構成する例を挙げることができる。裏面封止用フィルムとしては、太陽電池モジュール側で太陽光を反射して電換効率を高めるべく、高度な反射率を有するフィルム、例えば白色のポリエステルフィルム等を使用することができる。また、外層側に配置されるフィルムとしては、耐候性、耐加水分解性フィルム等が使用される。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0089】
(実施例1)
有機層を形成するプレポリマー1及びプレポリマー2として以下の材料を用いた。
プレポリマー1:ポリエステルアクリレート(多価アルコール及び多塩基酸からなる重合体の末端に、アクリル酸が結合した3官能以上のポリエステルアクリレート;東亞合成株式会社製、商品名:M−8030)
プレポリマー2:一般式[3]においてn=1、n=1、R〜Rが水素原子である化合物
【0090】
プレポリマー1/プレポリマー2が1/1(重量比)となるように配合された組成物(DNPFC株式会社製、商品名:OELV30)に、全固形分量に対し30質量%となるようにシランカップリング剤(3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−9007)を配合し、さらに、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACURE ONE)及び溶剤を配合して有機層形成用塗布液を作製した。有機層形成用塗布液中の光重合開始剤の配合量は2質量%とした。
【0091】
基材フィルムとして、片面に易接着層が形成された厚さ100μmの2軸延伸PENフィルムを使用した。このPENフィルム表面に、上記の有機層形成用塗布液をスピンコートにより厚さ1μmで塗布し、乾燥させ、300mJ/cmの紫外線を照射し硬化させて有機層を形成した。さらに、イオンプレーティング装置を使用し、SiOZn(酸化ケイ素と酸化亜鉛の質量比10:3)を蒸着材料として、PEN基材の有機層が設けられていない側を−10℃で冷却しつつ、有機層上にSiOZn膜を50nmの膜厚で形成し、ガスバリア性フィルムを製造した。
【0092】
<ガスバリア性評価>
ガスバリア性の評価として、温度40℃湿度90%の条件にて、下記耐光試験前後の水蒸気透過率(g/m・day)を、米国MOCON社製水蒸気透過率測定装置(PERMATRAN)を使用して測定した。耐光試験は、試料に対し、紫外線劣化促進試験機を用いて、紫外線照射強度100mW/cm、槽内環境:60℃50%RH、照射時間:168時間の条件にて紫外線を照射することにより行った。
【0093】
<密着性評価>
密着性評価として、PCT試験72時間、又は85℃85%RHダンプヒート試験1000時間を行った後、引張試験機(株式会社エー・アンド・デー製のテンシロン万能材料試験機)を使用して、幅15mmの試料の有機層と無機層の密着性を評価した。評価は、有機層と無機層を90度方向に速度5mm/sで剥離したときの引張張力を測定し、測定値が5N/15mm以上の場合を可(○)、5N/15mm未満の場合を不可(×)とした。
【0094】
(実施例2)
プレポリマー2(ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を構成単位中に含む樹脂)を含有しない以外は、上記実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0095】
(実施例3)
シランカップリング剤を、全固形分中35質量%になるよう配合した以外は、上記実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0096】
(実施例4)
シランカップリング剤を、全固形分中25質量%になるよう配合した以外は、上記実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0097】
(比較例1)
シランカップリング剤を、全固形分中20質量%になるよう配合した以外は、上記実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0098】
(比較例2)
シランカップリング剤を、全固形分中15質量%になるよう配合した以外は、上記実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0099】
(比較例3)
シランカップリング剤を、全固形分中10質量%になるよう配合した以外は、上記実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0100】
(比較例4)
シランカップリング剤として、メタクリロキシ基を有するもの(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−503)を配合した以外は、上記比較例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0101】
(比較例5)
シランカップリング剤として、メタクリロキシ基を有するもの(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−503)を配合した以外は、上記実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0102】
(比較例6)
シランカップリング剤として、エポキシ基を有するもの(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−303)を配合した以外は、上記比較例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0103】
(比較例7)
シランカップリング剤として、エポキシ基を有するもの(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−303)を配合した以外は、上記比較例1と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性及び密着性を評価した。
【0104】
上記実施例1〜4、及び比較例1〜7についてのガスバリア性及び密着性の評価結果を表1にまとめて示す。
【表1】

【0105】
表1から明らかな通り、イソシアネート基を有するシランカップリング剤を用いて有機層を形成し、なおかつそのシランカップリング剤の含有量を、有機層の固形分全質量に対して25質量%〜35質量%に設定した場合(実施例1〜4)にのみ、良好なガスバリア性を維持しつつ密着性が向上することがわかった。これにより、長期信頼性に優れたガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0106】
(参考例)
参考例として、有機層の固形分全質量に対する、イソシアネート基を有するシランカップリング剤の含有量(質量%)を変化させたときの、無機層と接する有機層の面におけるケイ素の量(原子%)の値を表2に示す。ケイ素量はESCAにより測定したものである。
【表2】

【0107】
表2から明らかなように、シランカップリング剤の含有量を25質量%〜35質量%に設定することによって、ガスバリア性フィルムの無機層と接する有機層の面のケイ素の量を0.3原子%以上に維持することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 ガスバリア性フィルム
2 基材
3 有機層
4 無機層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に設けられた有機層と、該有機層上に設けられた無機層とを有し、前記有機層が、ケイ素がウレタン結合を介して共有結合しているアクリル系樹脂を含有し、前記無機層と接する前記有機層の面に前記ケイ素が0.3原子%以上存在するガスバリア性フィルム。
【請求項2】
有機層が、ヒドロキシ基を有さないオキシアルキレン基、及びフルオレン基を構成単位中に含む樹脂をさらに含有する請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
基材上に有機層を形成する工程と、該有機層上に無機層を形成する工程とを有し、前記有機層を形成する工程が、ヒドロキシ基を有するアクリレート系モノマー又はオリゴマー、及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する有機層形成用塗布液を用いて行われ、前記シランカップリング剤は、有機層の固形分全質量に対して25質量%以上含有されるガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−977(P2013−977A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134252(P2011−134252)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】