説明

ガスバリア性フィルム及び製造方法

【課題】焼却時に塩素ガスを発生せず、温度湿度の変化や屈曲によるガスバリア性の低下がなく、かつボイル処理後も高いガスバリア性を保持するガスバリアフィルムを、複雑な工程を経ることなく取得すること。
【解決手段】プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、ポリアミンとポリカルボン酸と膨潤性薄片状無機物の、ポリアミン/ポリカルボン酸=12.5/87.5〜27.5/72.5、かつ(ポリアミン+ポリカルボン酸)/膨潤性薄片状無機物=100/5〜100/50(重量比)の混合物が塗布されてなるガスバリア性フィルム。ポリカルボン酸は重量平均分子量が10,000〜150,000のポリアクリル酸及び/又は1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることが望ましい。該フィルムは、沸騰水によるボイル処理を30分行った直後の20℃×90%RHの酸素透過度が20cc/m2・atm・24h以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、医薬品、精密電子部品等の包装分野等に用いられる透明性を有するガスバリア性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食品、医薬品、精密電子部品等の包装分野に用いられる包装材料は、内容物の変質、特に食品においては油脂の酸化や蛋白質の変質等を抑制して味や鮮度を保持するために、また医薬品においては有効成分の変質を抑制して効能を維持するために、さらに精密電子部品においては金属部分の腐食を抑制して絶縁不良等を防ぐために、包装材料を透過する酸素による影響を防止する必要があり、気体(ガス)を遮断するガスバリア性を備えることが求められている。
【0003】
そのために、従来から塩化ビニリデン樹脂をコートしたポリプロピレン(KOP)やポリエチレンテレフタレート(KPET)或いはエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)など一般にガスバリア性が比較的高いと言われる高分子フィルムをガスバリア性フィルムとして用いた包装フィルム、あるいは酸化珪素(SiOx)などの珪素酸化物薄膜を透明高分子からなる基材上に真空蒸着などの手段によって設けた蒸着フィルムをガスバリア性フィルムとして用いた包装フィルムが一般的に使用されてきた。
【0004】
ところが、上述のEVOHを用いた包装フィルムは、温度や湿度の影響を受け易く、その変化によっては更にガスバリア性が低下することがあった。
さらにKOPやKPET等の塩化ビニリデン樹脂を用いた包装フィルムは、使用後の廃棄において焼却処理すると塩素ガスを発生するため、これが酸性雨の原因の一つになると言われ、最近では敬遠される傾向があった。
また、珪素酸化物薄膜を透明高分子からなる基材上に真空蒸着などの手段によって設けた蒸着フィルムは、屈曲等によって蒸着膜にクラックが入りやすく、結果としてガスバリア性が低下することがある。
【0005】
よってこれらの課題の解決を目的として、塗膜上にポリアクリル酸とポリアクリルアミド等の窒素含有官能基を有するポリマーの混合物を塗布後、2価以上の金属イオンのアルカリ性水溶液に浸漬することを特徴とするガスバリアフィルム(特許文献1)。塗膜上での有機高分子の架橋反応を利用するポリアクリル酸と、ポリアミンおよび/またはポリオールから製膜されたガスバリア層を有し、ポリカルボン酸の架橋度が40%以上であるガスバリアフィルム(特許文献2)。これらのガスバリア性フィルムが提案されている。しかし、前者は金属イオン水酸化物による2段目の架橋工程を必要とし、また前者後者ともに沸騰水によるボイル処理を30分行った後も十分にガスバリア性を発揮するガスバリア性フィルムではなかった。レトルト包装に用いられることの多いガスバリアフィルムにおいては、ボイル処理後もガスバリア性が低下しないことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−171468号公報
【特許文献2】特開2005−225940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、焼却時に塩素ガスを発生せず、温度湿度の変化や屈曲によるガスバリア性の低下がなく、かつボイル処理後も高いガスバリア性を保持するガスバリアフィルムを、複雑な工程を経ることなく取得することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の組成のガスバリアコート剤を用いることで、目的とするガスバリアフィルムを得た。
すなわち本発明は、
(1)プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、ポリアミンとポリカルボン酸と膨潤性薄片状無機物を重量比で、ポリアミン/ポリカルボン酸が12.5/87.5〜27.5/72.5、かつ、(ポリアミン+ポリカルボン酸)/膨潤性薄片状無機物が100/5〜100/50となるように混合してなる混合物が塗布されたフィルムであって、沸騰水によるボイル処理を30分行った直後の20℃×90%RHの酸素透過度が20cc/m2・atm・24h以下であることを特徴とするガスバリア性フィルム、
(2)前記ポリカルボン酸が、ポリアクリル酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)記載のガスバリア性フィルム、
(3)前記ポリカルボン酸の重量平均分子量が10,000〜150,000であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のガスバリア性フィルム、
(4)前記ポリアミンがポリアリルアミン、ポリエチレンイミンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム、
(5)前記膨潤性薄片状無機物が膨潤性スメクタイト、膨潤性マイカから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム、
(6)前記プラスチックフィルムからなる基材が延伸ポリアミドフィルムもしくは、延伸ポリエステルフィルムであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム、
(7)前記混合物の塗布の後に、140℃以上、前記プラスチックフィルムの融点以下の温度で熱処理されて得られたものであることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載のガスバリア性フィルム
に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ボイル処理後もガスバリア性、特に酸素遮断性に優れ、かつ可撓性、透明性、耐湿性、耐薬品性等に優れたガスバリア層を有し、また環境負荷も小さい包装用材料を、複雑な工程を経ることなく提供することができた。本発明の包装用材料は、あらゆる分野の包装用材料として利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のガスバリア性フィルムは、プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、ポリアミンとポリカルボン酸と膨潤性薄片状無機物との混合物からなるガスバリアコート剤が塗布されたフィルムであり、沸騰水によるボイル処理を行った後も高いガスバリア性を保持するものである。
【0011】
本発明で使用されるポリアミンは、分子中にアミノ基として第一級、第二級から選ばれる少なくとも1種のアミノ基を2個以上有しており、その具体例としては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、分岐状ポリエチレンイミン、線状ポリエチレンイミン、ポリリジン、キトサンのように側鎖にアミノ基を有する多糖類、ポリアルギニンのように側鎖にアミノ基を有するポリアミド類などを例示することができる。分子量に関しては、重量平均分子量で5000〜150000の範囲であることが好ましい。分子量が低すぎる場合は塗膜が脆弱になり、分子量が高すぎる場合はハンドリング性を損ない、場合によってはコート剤中で凝集しバリア性を損なう可能性がある。
【0012】
本発明で使用されるポリカルボン酸は、分子中にカルボキシル基を2個以上有しており、これらのカルボキシル基が無水物を形成していても良く、その具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−メタクリル酸共重合体、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、ポリマレイン酸、エチレン−無水マレイン酸共重合体、アルギン酸のように側鎖にカルボキシル基を有する多糖類、カルボキシル基含有のポリアミドもしくはポリエステルなどを例示することができる。ポリカルボン酸が重合体の場合、その分子量は、重量平均分子量で1,000〜1,000,000が好ましく、より好ましくは10,000〜150,000、さらに好ましくは15,000〜110,000の範囲である。分子量が低すぎる場合は塗膜が脆弱になり、分子量が高すぎる場合はハンドリング性を損ない、場合によってはコート剤中で凝集しバリア性を損なう可能性がある。
本発明で使用するポリカルボン酸は、金属水酸化物による部分中和処理を行わなくてよい。
【0013】
本発明でポリアミンとポリカルボン酸を混合する際、混合物のゲル化が起こる可能性があるため、ゲル化の抑制を目的として、ポリカルボン酸に塩基を添加しておくことが望ましい。この時、使用する塩基としては、ガスバリア性を阻害しなければ何れでも良く、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムのような無機物、アンモニア、メチルアミン、ジエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、ピリジン、p−フエネチジン、フェニルヒドラジン、p−トリイジン、ベンジジン、キノリン、m−トリイジン、アニリン、ο−フエネチジン、ο−トリイジン、m−フエネチジン、β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、ベンジジン、尿素のような有機物の中から少なくとも1種を選ぶことができる。乾燥、熱処理で揮発する物が好ましく、具体例としては、アンモニアを例示することができる。使用する塩基の量としてはポリカルボン酸のカルボキシル基に対し0.6当量以上、好ましくは0.7当量以上、より好ましくは0.8当量以上である。添加するアンモニアが少なかった場合、コートの途中で混合物がゲル化し目的とするガスバリア性フィルムを造ることが困難となる。
【0014】
本発明におけるガスバリアコート剤の調製は、まずポリアミンとポリカルボン酸をそれぞれ重量比でポリアミン/ポリカルボン酸=12.5/87.5〜27.5/72.5となるように混合する。アミノ基の量がこれより少ないとカルボキシル基の架橋が不十分となり、逆に、アミノ基の量がこれより多いとアミノ基の架橋が不十分となり、沸騰水でボイル処理を30分行った直後の20℃×90%RHの酸素透過度が20cc/m・atm・24h以下とならない。
【0015】
前述のポリアミンとポリカルボン酸の反応を速やかに、もしくは穏和な条件で完了させるために、触媒や縮合剤を添加しても良い。触媒や縮合剤としては、オクチル酸スズ(II)、ジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ(IV)などのスズを含有する化合物。三酸化アンチモン、シュウ酸チタン酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、次亜リン酸、次亜リン酸マンガン、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、酢酸亜鉛、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタニウムジ−2−エチルヘキソキシビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、ポリヒドロキシチタンステアレート、2,4,6−トリクロロベンゾイルクロリド、ジフェニルリン酸アジド、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリスジメチルアミノホスホニウム塩。N,N‘−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシスクシンイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などのカルボジイミド系化合物。4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロライド(DMT−MM)などを例示することができ、これらのうちから選ばれる、1種類以上を添加しても良い。
【0016】
本発明で使用される膨潤性薄片状無機物は、水に分散することで膨潤し、アスペクト比(薄片状無機物の直径/厚み)が25以上であることが好ましく、25未満であれば良好なバリア性が得られにくい。膨潤性薄片状無機物は、天然物もしくは合成物のいずれであっても良く、これらの混合物であっても良い。天然物としてはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト等のスメクタイト系の粘土鉱物。モンモリロナイト含有量の高いベントナイト。純雲母、脆雲母等のマイカ系粘土鉱物。合成物としては、合成ヘクトライト(ケイ酸ナトリウム・マグネシウム)、合成ベントナイト、合成サポナイト、合成マイカなどを例示することができ、これらのうちから選ばれる少なくとも1種を添加することができる。
【0017】
本発明で使用される膨潤性薄片状無機物の分散方法は、特に限定されるものではなく、分散後の膨潤性薄片状無機物のアスペクト比25以上になれば良く、ポリアミンとポリカルボン酸との混合物に添加後分散しても、膨潤性薄片状無機物を事前に分散してからポリアミンとポリカルボン酸との混合物に添加しても良い。また、必要に応じて膨潤性薄片状無機物の分散性を向上させる添加剤を添加しても良い。分散に用いる装置も特に限定されず、攪拌、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、ナノマイザーなどを選ぶことができる。
【0018】
膨潤性薄片状無機物は、ポリアミンとポリカルボン酸の混合物に、重量比で(ポリアミンとポリカルボン酸の合計の重量)/(膨潤性薄片状無機物)=100/5〜100/50となるように添加して混合し、ガスバリアコート剤とする。所定の量の膨潤性薄片状無機物を添加することにより、ガスバリア性が向上するため、添加しない場合に比べるとガスバリアコート膜の厚みを薄くすることができ、経済性、生産性の観点で非常に優れる。が、膨潤性薄片状無機物の量がこれより少ないと十分な迷路効果が得られず、膨潤性薄片状無機物によるガスバリア性の改善効果が不十分となる。逆に、膨潤性薄片状無機物の量がこれより多いと、ガスバリアコート膜中にボイドが形成されるためガスバリア性が低下する。
【0019】
本発明のガスバリアフィルムのガスバリア層には、前述したポリアミン、ポリカルボン酸、膨潤性薄片状無機物以外に、そのガスバリア性を損なわない範囲で、他の成分を含有させてもよい。
【0020】
本発明において基材として用いられるプラスチックフィルムとは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンなどのポリエーテル系樹脂;ポリアミド−6、ポリアミド−6,6、ポリメタキシレンアジパミドなどのポリアミド系樹脂;ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルスルフォン;ポリスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルケトンケトンなどの熱可塑性樹脂を主成分とする。これらの熱可塑性樹脂は単独重合体であっても共重合体であってもよい。なお、本発明に用いられるプラスチックフィルムは、上記熱可塑性樹脂に限定されることなく、セロファンに代表される非熱可塑性フィルムも用いることが出来る。本発明の基材とはこれらの樹脂をフィルム状に成型したものが用いられる。未延伸フィルムや一軸または二軸に延伸したものいずれも使用できるが、バリア層をコートするときのコートしやすさ、バリア材の強度の観点から延伸ポリアミドフィルム、もしくは延伸ポリエステルフィルムが最も好ましい。
【0021】
上述の方法で調製したガスバリアコート剤を用いて、プラスチックフィルムからなる基材に塗布するには、通常のコーティング法を用いることができる。例えば、リバースロールコーティング法、ディップコーティング法、メイヤーバーコーティング法、ナイフコート法、ノズルコーティング法、ダイコーティング法、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法、スクリーン印刷、グラビアコート、などの各種印刷法などが挙げられる。これらを組み合わせてもよい。乾燥後のバリアコート層厚みは、0.01〜3.0μm、好ましくは0.05〜1.5μmがよい。乾燥後の厚さが0.01μm未満であると、充分なガスバリア性が発現しない。一方、乾燥後のコート層厚さが3.0μmを超えると、クラックの発生や不十分な密着強度によって、ガスバリア性が低下するし、コストアップともなるので好ましくない。
【0022】
本発明において、プラスチックフィルムからなる基材とガスバリアコート剤塗布層との間に接着層を設けても良い。この接着層を形成する接着剤の具体例としてはカルボキシル基、酸無水物基、オキサゾリン基、チオイソシアネート基、エポキシ基を含む化合物を含有したものが挙げられる。接着剤中に無機フィラーを添加しても良く、添加する無機フィラーとしては、接着層中に均一に微分散し透明性を得る事が出来れば特に限定はされず、具体的にはシリカ、タルク、アルミナ、ウンモ、炭酸カルシウム等が挙げられる。無機フィラーは、表面未処理のもの、表面処理したものともに使用できる。
【0023】
前述の接着剤を、プラスチックフィルムからなる基材に塗布するには、通常のコーティング法を用いることができる。例えば、リバースロールコーティング法、ディップコーティング法、メイヤーバーコーティング法、ナイフコート法、ノズルコーティング法、ダイコーティング法、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法、スクリーン印刷、グラビアコート、などの各種印刷法などが挙げられる。これらを組み合わせてもよい。接着剤をコート後、乾燥することで、接着層が形成される。
乾燥後の接着層の厚みは、0.02〜0.40μm、好ましくは0.06〜0.20μmがよい。乾燥後の厚さが0.02μm未満であると、充分な接着力が発現しない。一方、乾燥後のコート層厚さが0.40μmを超えると、コストアップともなるので好ましくない。
【0024】
ポリアミン、ポリカルボン酸、膨潤性薄片状無機物の混合物からなるガスバリアコート剤を塗布後は、バリアコート層の乾燥および熱処理を行い、高湿度下においても高いガスバリア性を有するバリアコート層を形成させる。具体的には、乾燥後、140以上260℃以下で1秒以上、好ましくは180以上215℃以下で45秒以上の熱処理を行う。140℃よりも低いと十分な熱処理効果が得られにくく、沸騰水によるボイル処理を30分行った直後の20℃×90%RHの酸素透過度が20cc/m・atm・24h以下であるガスバリア性フィルムを得ることが困難となる。また、基材フィルムの融点付近であれば基材の強度が著しく低下するため好ましくない。
【0025】
以上の工程により得られたガスバリア性フィルムは、沸騰水(98〜100℃)で30分以上ボイル後でも良好なガスバリア性を有している。
本発明のフィルムは、沸騰水で30分間ボイル処理を行い、水滴を拭き取った直後の20℃―90%RHでの酸素透過度が、20cc/m・atm・24h以下となる。酸素透過度が、20cc/m・atm・24h以下であれば、包装材料を透過する酸素による被包装物に対する酸化劣化等の影響を防止することができる。
【実施例】
【0026】
実施例および比較例を用いて、本発明の有用性について具体的に説明する。なお、各物性の測定に用いた装置および条件は以下の通りである。
【0027】
<酸素透過度測定>
イリノイ社製酸素透過度測定装置model8000を用いた。測定に際しては、前処理として沸騰水(98〜100℃)で30分間ボイル処理を行い、水滴を拭き取った後、直ちに20℃―90%RHでの酸素透過度の測定を行った
【0028】
<コート剤調整に使用したポリマー>
(1) ポリアミン
・ポリアリルアミン:日東紡績株式会社製ポリアリルアミン10wt%水溶液「PAA−10C」。
・ポリエチレンイミン:純正化学株式会社製「ポリエチレンイミン 10000」1.25重量部に純水11.25重量部を加え、10wt%に希釈した水溶液。表1では「PEI」と表記。
(2) ポリカルボン酸
・ポリアクリル酸:重量平均分子量20000〜30000。東亜合成株式会社製ポリアクリル酸40wt%水溶液「ジュリマーAC−10L」10.0重量部に25wt%アンモニア水3.03重量部、純水7.00重量部を加えて20wt%に希釈した、カルボキシル基に対するアンモニアの添加量が0.8当量である水溶液。表1では「AC−10L」と表記。
・ポリアクリル酸アンモニウム:重量平均分子量100000。東亜合成株式会社製ポリアクリル酸アンモニウム30wt%水溶液「アロンA−30」10.0重量部に純水10.0重量部を加えて15wt%に希釈した水溶液。表1では「A−30」と表記。
・ポリアクリル酸アンモニウム:重量平均分子量100000。東亜合成株式会社製ポリアクリル酸アンモニウム30wt%水溶液「アロンA−30」10.0重量部に純水17.2重量部を加えて11wt%に希釈した水溶液。表1では「A−30−2」と表記。
(3) 膨潤性薄片状無機物
・合成ヘクトライト:アスペクト比25のROCKWOOD ADDITIVES LIMITED製Laponite RD3.0重量部に純水97.0重量部を加えて3.0wt%に希釈し、特殊機化工業株式会社製T.K. HOMOMIXER MARK II fmodelを使用して10000rpmで1時間攪拌した水溶液。表1では「Laponite RD」と表記。
・合成ヘクトライト:トピー工業株式会社製のナトリウムヘクトライト5wt%分散液「NHT−ゾルB2」60.0重量部に純水40.0重量部を加えて3.0wt%に希釈し、特殊機化工業株式会社製T.K. HOMOMIXER MARK II fmodelを使用して10000rpmで1時間攪拌した水溶液。表1では「NHT−ゾルB2」と表記。
・合成マイカ:アスペクト比が1000以上であるトピー工業株式会社製のナトリウム四ケイ素雲母6wt%分散液「NTS−5」50.0重量部に純水50.0重量部を加えて3.0wt%に希釈し、特殊機化工業株式会社製T.K. HOMOMIXER MARK II fmodelを使用して10000rpmで1時間攪拌した水溶液。表1では「NTS−5」と表記。
【0029】
<実施例1〜17、比較例1〜2、参考例1>
表1に示す、ポリアミンとポリカルボン酸と膨潤性薄片状無機物を、表1に示す重量比となるように混合して、表1に示す濃度のガスバリアコート剤を得た。この時、ガスバリアコート剤中にゲル状物や塊状物が見られた場合は、50℃の水浴で加温しながらゲル状物や塊状物が無くなるまで30分から1時間撹拌を行った。得られたガスバリアコート剤を「ボニール−HR」(株式会社興人製 耐熱性二軸延伸ナイロンフィルム。厚み15μm)上にメーヤーバーを用い塗布後、100℃で15秒乾燥した。乾燥後、熱処理中にフィルムが収縮しないように木枠に固定し、215℃で60秒間熱処理を行った。こうして得られたガスバリア性フィルムに関し、塗膜厚みの測定、酸素透過度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例、比較例、参考例の結果より、バリアコート剤であるポリアミン、ポリカルボン酸、膨潤性薄片状無機物の混合物において、ポリアミンとポリカルボン酸の重量比がポリアミン/ポリカルボン酸=12.5/87.5〜27.5/72.5、かつ、(ポリアミン+ポリカルボン酸)/膨潤性薄片状無機物が100/5〜100/50となるような範囲であれば、乾燥後の塗膜(バリアコート層)の厚みが1μm未満であっても、沸騰水によるボイル処理を30分行った直後の20℃×90%RHの酸素透過度が20cc/m・atm・24h以下である良好なガスバリア性フィルムが得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本願発明のガスバリアフィルムは、沸騰水中でボイルした後でも十分なガスバリア性を保持し、被包装物の酸化劣化を防止できるため、一般的なガスバリアフィルムの用途のほか、レトルト包装などにも好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、ポリアミンとポリカルボン酸と膨潤性薄片状無機物を、重量比で、ポリアミン/ポリカルボン酸が12.5/87.5〜27.5/72.5、かつ、(ポリアミン+ポリカルボン酸)/膨潤性薄片状無機物が100/5〜100/50となるように混合してなる混合物が塗布されたフィルムであって、沸騰水によるボイル処理を30分行った直後の20℃×90%RHの酸素透過度が20cc/m・atm・24h以下であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記ポリカルボン酸が、ポリアクリル酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸の重量平均分子量が10,000〜150,000であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記ポリアミンがポリアリルアミン、ポリエチレンイミンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記膨潤性薄片状無機物が膨潤性スメクタイト、膨潤性マイカから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記プラスチックフィルムからなる基材が延伸ポリアミドフィルムもしくは、延伸ポリエステルフィルムであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記混合物の塗布の後に、140℃以上、前記プラスチックフィルムの融点以下の温度で熱処理されて得られたものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。


【公開番号】特開2013−59930(P2013−59930A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200233(P2011−200233)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000142252)興人ホールディングス株式会社 (182)
【Fターム(参考)】