説明

ガスバリア性密閉容器

【課題】簡便かつ安価に、目的のガス濃度に調整する容器、該容器を用いたガス濃度調整方法、及び該容器を用いた細胞等の培養方法を提供する。
【解決手段】雰囲気調整剤及び雰囲気調整剤と内容物とを隔離する機構を備え、容器内のガス濃度を調整可能としたガスバリア性密閉容器、前記容器を用いたガス濃度の調整方法、並びに前記容器を用いた細胞培養方法、ガス濃度を、酸素濃度0〜5容量%、二酸化炭素濃度2〜10容量%に調整する、ガス濃度調整方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気調整剤、及び雰囲気調整剤と内容物とを隔離する機構を備えたガスバリア性密閉容器、前記容器を用いたガス濃度の調整方法、並びに前記容器を用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
容器内のガス濃度を調整する方法の1つに、雰囲気調整剤を用いる方法がある。例えば、食品、医薬品、電子材料部品等の品質保持のためには、脱酸素剤や乾燥剤が用いられている。また、植物の生育制御を目的としてエチレン等の植物ホルモン等の濃度を調整する雰囲気調整剤が、抗菌目的では、ヒノキチオールやアリルイソチオシアネート等の抗菌効果を有する揮発性ガスを発生する雰囲気調整剤が、それぞれ用いられている。さらに、細胞等の培養の際は、酸素濃度と二酸化炭素濃度と、場合によってはアルデヒド濃度とを調整する雰囲気調整剤が用いられている。特に、近年では、多くの研究分野で細胞等の低酸素培養が注目されており、特許文献1にはこれらの例が多数報告されている。例えば、体外受精胚は酸素濃度5容量%下、癌細胞は酸素濃度1〜2容量%下、虚血実験や虚血再灌流実験は酸素濃度0.1容量%下で行われることが多い。
【0003】
しかし、この方法の場合、ガス濃度は雰囲気調整剤の種類と量、及びガスバリア性密閉容器の容積との組み合わせによってガス濃度が決まるため、ガス濃度の微調整が困難であり、任意のガス濃度に調整することが難しい。また、真空ポンプ等の脱気装置と、ガスボンベ等のガス供給装置を備えたガスバリア性密閉容器によりガス濃度を調整する方法もあるが、装置が大掛かりになり、手間とコストがかかる課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/065363号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、簡便かつ安価に、目的のガス濃度に調整する容器、該容器を用いたガス濃度調整方法、及び該容器を用いた細胞等の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、雰囲気調整剤、及び雰囲気調整剤と内容物とを隔離する機構を備えているガスバリア性密閉容器を用い、目的のガス濃度に到達した時点で雰囲気調整剤と内容物とを隔離することにより、内容物の存在する空間のガス濃度を簡便に調整できる事を見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、任意のガス濃度に簡便かつ安価に調整することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のガスバリア性密閉容器は、少なくとも、雰囲気調整剤、雰囲気調整剤と内容物とを隔離する機構、及びガスバリア性密閉容器本体から構成される。
【0009】
[ガスバリア性密閉容器本体]
本発明のガスバリア性密閉容器本体は、その内外の気体の流通を妨げ、容器内の雰囲気調整剤により調整されたガス濃度を長期間維持する事ができるものであれば特に制限はなく、材質、形状、容積等いずれも適した任意のものを採用することができる。
【0010】
容器本体の材質は、例えば、硬質の容器であれば、ガラス、金属、ポリカーボネート等のプラスチック、等を用いることができる。また、軟質の容器であれば、ガスバリア性を付与する層及びシーラント層を有するガスバリア性多層フィルム等を用いることができる。
【0011】
ガスバリア性を付与する層には、例えば、(1)一軸ないし二軸延伸された、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、MXD6等のポリアミドフィルム、又はビニルアルコール共重合体フィルム、(2)アルミニウム箔、(3)一軸ないし二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリオレフィン系フィルムなどの延伸フィルム上にアルミニウム等の金属薄膜を蒸着した金属蒸着プラスチックフィルム、(4)一軸ないし二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリオレフィン系フィルムなどの延伸フィルム上に、酸化アルミニウムや酸化ケイ素などの無機化合物の薄膜を設けた無機化合物蒸着プラスックフィルム、(5)上記のプラスチックフィルムに塩化ビニリデン樹脂、無機層状化合物とポリビニルアルコール等の水溶性高分子の混合物等を適量塗工したバリア層コーティングプラスチックフィルム、等を用いることができる。更に、ガスバリア性を付与する層を構成する材料は、単層として、または組み合わせて多層として用いることもできる。
【0012】
シーラント層には熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル等を用いることができる。調整対象のガスが酸素である場合は、該容器の酸素透過度は10mL/(m・day・atm)以下であることが好ましい。また、該容器内で細胞等を培養する際には、該容器は透明な材質である方が好ましい。これは、容器外部から内容物の視認を可能とするためである。
【0013】
[雰囲気調整剤を隔離する機構]
雰囲気調整剤と内容物とを隔離する機構は何ら限定されず公知の機構を用いることが出来る。例えば硬質容器の場合、容器内を2以上の区域に分け、境界部にバルブ等の繰り返し開閉可能な機構を取り付け、開放していた前記機構を閉めることで雰囲気調整剤と内容物とを隔離する機構を用いることができる。また、軟質容器の場合は、雰囲気調整剤を含む箇所をヒートシールする事で雰囲気調整剤と内容物とを隔離することが出来る。また、クリップ、若しくはチャック等、あるいはこれらを組み合わせて隔離する機構は、繰り返し開閉できるため好ましく用いられる。凹部と凸部の組み合わせで構成されるクリップ等は密封した際の密閉性が高く好ましい。また、チャックは、ダブルチャックとするとより高い密閉性を保って剤を隔離することができるため好ましい。
【0014】
本発明の容器には、撹拌羽根等のガスの拡散効率を上げるための機器やガス濃度を測定するための機器を入れてもよい。また、容器内のガスの採取や外部から容器内にガスを注入するための機構を設けてもよい。この機構を設けた場合、外部からガスを注入することで、雰囲気調整剤により調整されたガス濃度をさらに調整することができるため、例えば、内容物によるガスの発生や吸収によるガス濃度の変動を調整することが可能となり、好ましい。
【0015】
[雰囲気調整剤、調整対象ガス]
本発明に用いる雰囲気調整剤及び調整対象ガスには特に制限はなく、調整対象ガスに適した雰囲気調整剤を使用できる。例えば、酸素濃度の低減には脱酸素剤を、二酸化炭素濃度の低減にはアルカリ成分を含有した雰囲気調整剤を、水蒸気濃度調整には乾燥剤や調湿剤を用いることが出来る。また、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、エステル類、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、テルペン類、チオール類等の有機物低減には活性炭などの吸着剤や化学反応を利用した各種除去剤を、それぞれ使用することができる。更に、ガス濃度を高める場合、各種のガス発生剤を用いることが出来る。ガス発生剤としては、目的のガスを吸着させたものや、化学反応によりガスを発生させるものを用いることが出来る。特に、細胞培養の際には、酸素濃度と二酸化炭素濃度とを調整することができるアスコルビン酸等の有機物を主剤とする雰囲気調整剤が好ましく、特許文献1にはこれらの雰囲気調整剤の例が多数報告されている。本発明のガスバリア性密閉容器により、酸素濃度を0〜5容量%に、かつ二酸化炭素濃度2〜10容量%に、±0.2容量%の精度で調整する事が可能となり好ましい。
【0016】
[ガス濃度分析方法]
容器内のガス濃度分析方法に特に制限はなく、容器内に蛍光式のセンサー部を取り付け、密閉した容器の外部からその蛍光の消光量を測定することでガス濃度が分析できる非破壊式の分析機器を用いる方法や、容器に取り付けたガス採取機構からガスを採取し、ガスクロマトグラフィー等の分析機器で分析する方法、あるいは、小型のガス濃度分析機器を容器内に入れる方法や、検知剤等を用いてもよい。小型のガス濃度分析機器や検知剤等を用いた場合は、ガス濃度変化を連続的に観察できるため、雰囲気調整剤を隔離するタイミングを把握しやすく好ましい。
【0017】
[ガス濃度調整方法、細胞培養方法]
本発明のガス濃度調整方法を用いると、既存の雰囲気調整剤を用いたガス濃度調整方法や、炭酸ガスインキュベーターやマルチガスインキュベーターでは実現が困難であった、酸素濃度0〜1容量%の範囲においても酸素濃度を調整することが可能となる。したがって、簡便かつ安価に上記酸素濃度下における細胞培養実験を実施することができる。
【0018】
[細胞]
本発明の細胞培養方法で用いられる細胞には特に制限はなく、微生物細胞、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等、任意の細胞を用いることができる。
【0019】
[培養容器]
本発明の細胞培養方法で用いられる培養容器は、容器外との通気性が確保されていれば特に制限はなく、容積、形状、材質等いずれも培養に適した任意のものを採用することができる。また、蓋部を有する培養容器が好ましく用いられるが、この際は、培養容器外との通気性を確保する必要がある。
【実施例】
【0020】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0021】
(酸素及び二酸化炭素濃度測定方法)
袋内のガスを注射器で吸引し、酸素濃度はジルコニア式酸素濃度計(東レエンジニアリング株式会社製)を用いて、二酸化炭素濃度は赤外線式二酸化炭素濃度計(光明理化学工業株式会社製)を用いて測定した。
【0022】
(実施例1)
酸素バリア層が二軸延伸ナイロン(ONY)とエチレンビニルアルコール共重合体系フィルム(EVOH)からなり、熱可塑性樹脂として低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いた酸素透過度が10mL/(m・day・atm)の多層フィルムからなる三方がシールされた袋に、2500mLの空気を封入し、雰囲気調整剤(商品名「アネロパック・ケンキ5%」、三菱ガス化学株式会社製)1つを入れて袋の口をシールし、密閉した。これを37℃の恒温層に入れ、酸素濃度が約3容量%に到達した時点(15分後)で雰囲気調整剤を袋の隅に寄せ、ヒートシールしてこれを袋内で隔離した。その後、3日間37℃で保管し、雰囲気調整剤を含まない区域内の酸素濃度と二酸化炭素濃度とを測定した。結果を表1に示した。
【0023】
(実施例2)
酸素濃度が約1容量%に到達した時点(43分後)で雰囲気調整剤を袋内で隔離した以外は実施例1と同様にして、酸素濃度と二酸化炭素濃度とを測定した。結果を表1に示した。
【0024】
(実施例3)
酸素濃度が約0.5容量%に到達した時点(51分後)で雰囲気調整剤を袋内で隔離した以外は実施例1と同様にして、酸素濃度と二酸化炭素濃度とを測定した。結果を表1に示した。
【0025】
(比較例1)
雰囲気調整剤を袋内で隔離しないこと以外は実施例1と同様にして、15分後と3日後の袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度とを測定した。結果を表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例1〜3から明らかなように、本発明のガスバリア性密閉容器を用いると、複雑で高価な装置を用いることなく、酸素及び二酸化炭素濃度を±0.2容量%という非常に高い精度で調整することが可能であった。また、炭酸ガスインキュベーター等でも調整が困難であった酸素濃度1容量%以下のガス濃度も調整することが可能であった。
【0028】
一方、比較例1では、雰囲気調整剤を隔離していないため、酸素濃度、二酸化炭素濃度ともに低下し続け、特定のガス雰囲気を安定的に維持することができなかった。
【0029】
(実施例4)
ガスバリア性密閉容器として、アネロ専用パウチ袋(三菱ガス化学株式会社製)を用い、これにMEM培地(製品名;インビトロジェン社製 GIBCO 11095-080 Minimum Essential Medium, liquid Earle塩含有)を10mL入れた90mm径ディッシュ2枚(品名;AGCテクノグラス社製 IWAKI 3020−100 90mm/Tissue Culture Dish)、雰囲気調整剤(商品名「アネロパック・ケンキ5%」、三菱ガス化学株式会社製、及び商品名「アネロパック・微好気」、三菱ガス化学株式会社製)各1個を封入し、凹部と凸部とを組み合わせた着脱自在な密閉性の高いクリップでパウチ袋を密閉した。しばしばディッシュのふたを持ち上げてディッシュ内の空気とパウチ袋内の空気とが均一になるように空気の拡散を促し、酸素濃度が約0.7容量%に到達した時点(10分後)で、クリップを用いてディッシュと雰囲気調整剤とを隔離した。その後、3日間37℃で保管し、ディッシュが封入されている区域内の酸素濃度と二酸化炭素濃度とを測定した。結果を表2に示した。
【0030】
(比較例2)
ディッシュと雰囲気調整剤とをパウチ袋内で隔離しないこと以外は実施例4と同様にして、10分後と3日後の袋内の酸素濃度と二酸化炭素濃度とを測定した。結果を表2に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
細胞培養用の培地を含むディッシュを同封した実施例4でも、雰囲気調整剤隔離後3日間は±0.2容量%の範囲で目的の酸素濃度と二酸化炭素濃度とを維持していた。
【0033】
一方、比較例2では、雰囲気調整剤を隔離していないため、酸素濃度、二酸化炭素濃度ともに低下し続け、特定のガス濃度を安定的に維持することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気調整剤及び雰囲気調整剤と内容物とを隔離する機構を備え、容器内のガス濃度を調整可能としたガスバリア性密閉容器。
【請求項2】
前記雰囲気調整剤が、アスコルビン酸類を含み、酸素濃度及び二酸化炭素濃度の調整が可能な雰囲気調整剤である、請求項1記載のガスバリア性密閉容器。
【請求項3】
前記ガス濃度を、酸素濃度0〜5容量%、二酸化炭素濃度2〜10容量%に調整可能な請求項1又は2に記載のガスバリア性密閉容器。
【請求項4】
前記ガスバリア性密閉容器の酸素透過度が10mL/(m・day・atm)以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性密閉容器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性密閉容器を用い、容器内が目的のガス濃度に到達した時点で雰囲気調整剤と内容物とを隔離することにより、雰囲気調整剤を含まない区域内を目的のガス濃度に調整する、ガス濃度調整方法。
【請求項6】
前記ガス濃度を、酸素濃度0〜5容量%、二酸化炭素濃度2〜10容量%に調整する、請求項5に記載のガス濃度調整方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性密閉容器を用いて細胞を培養する細胞培養方法。
【請求項8】
酸素濃度0〜5容量%、二酸化炭素濃度2〜10容量%で細胞を培養する、請求項7記載の細胞培養方法。

【公開番号】特開2013−48567(P2013−48567A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187017(P2011−187017)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】