説明

ガスバリア性積層フィルム及びその製造方法

【課題】 優れたガスバリア性能をし、耐水性、防湿性を向上したガスバリア性積層フィルムの提供、及び前記ガスバリア性積層フィルムの優れたガスバリア性を有し、耐水性、防湿性を向上した緻密なガスバリア性塗膜を容易に製造する方法の提供。
【解決手段】 基材フィルム上に、PVD法又はCVD法による無機酸化物蒸着層を有し、さらにゾル−ゲル法により得られたガスバリア性組成物を塗布し、加熱乾燥処理してなるガスバリア性塗膜を有するガスバリア性積層フィルムにおいて、コーティング層を加熱乾燥処理前又は後で、マイクロ波照射を10秒〜30分間行うことにより前記ガスバリア性塗膜の表面自由エネルギーが60dyne未満の範囲内である緻密な塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層フィルム及びその製造方法に関し、更に詳しくは、耐水性、防湿性を向上した酸素及び水蒸気透過性に優れたガスバリア性積層フィルムの製造方法、及び酸素ガス、水蒸気等に対する極めて高いガスバリア性を有し、かつ耐水性、防湿性の向上により、主に、各種の被包装材を包装するための包装材料として有用な極めて高いガスバリア性を有するガスバリア性積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲食品、医薬品、化粧品、洗剤、雑貨品、その他等の種々の物品を充填包装するために、種々の包装用材料が開発され、提案されている。特に、包装用材料として、腐敗や変質を促進する外気からの酸素や水蒸気の侵入を遮断する効果をもった、いわゆるガスバリア性に優れたガスバリア性積層体からなる包装材料を用いて包装する必要がある。そのため、種々の形態からなるバリア性積層材料が開発され、提案されている。
【0003】
その一つとして、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体などガスバリア性の高分子樹脂材料からなるもの、あるいはプラスチック基材に積層してプラスチック積層フィルムとしたもの、さらには、最も一般的なバリア性材料としてバリア性に優れたアルミニウム箔を積層して使用したもの、更には、アルミニウム等の金属元素をプラスチックフィルムの片面に蒸着した金属蒸着フィルムが一般的なガスバリア性積層材料として包装材料等に使用されてきた。
【0004】
しかしながら、プラスチック積層フィルムを使用したものは、包装の用途によっては煮沸処理やレトルト処理を行う高温、多湿下では、ガスバリア性が著しく低下することがあり、金属箔又は金属蒸着層を用いたもの程のガスバリア性が得られないものであり、また、使用後に廃棄されると自然界中で分解されず、燃やすにしても大気汚染、高温を発生するなど環境対応に劣るものであった。
【0005】
一方、アルミニウム箔又は蒸着層を積層した金属蒸着フィルムは優れたガスバリア性積層材料であるが、金属箔又は金属蒸着層のため透明性が劣ること、更に、焼却適性に劣り、使用後の廃棄物処理が容易でないなど環境対応に劣ること等の問題点があるものである。
【0006】
そこで、ガスバリア性材料において、高いガスバリア性を有し、透明性、環境対応の性能をも向上させるものとして、プラスチックフィルムの片面に酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の金属酸化物の蒸着膜を設けた構成からなる透明ガスバリア性材料が開発され、提案されている(特許文献1、2)。
【0007】
プラスチック基材の上に酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の無機酸化物の薄膜を積層した構成のガスバリア性シートが好ましいと考えられたが、このような構成の透明ガスバリア性材料等においてもなお、基材と無機酸化物の薄膜との密着性の低下や、屈曲によりクラックが生じやすく、ガスバリア性が低下するなどの問題があり、また、ガスバリア性の面でも基材としての単体のプラスチックフィルムと比較してガスバリア性は格段に向上するものの、上記のアルミニウム箔のそれには程遠く、要求されるガスバリア性の高まりに十分に応えられるより一層高いガスバリア性が求められるようになってきている。
【0008】
そこで、ガスバリア性に関する要求に応えるために、「高分子樹脂組成物からなる基材上に、無機化合物からなる蒸着層を第1層とし、水溶性高分子と、(a)1種以上のアルコキシド及び/又はその加水分解物又は(b)塩化すずの少なくともいずれか1つを含む水溶液、或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を塗布し、加熱乾燥してなるガスバリア性被膜を第2層として積層してなることを特徴とするガスバリア性積層フィルム」(特許文献3)が提案されている。
【0009】
しかしながら、特許文献3は、無機酸化物の蒸着層の上にガスバリア性被膜を積層することを開示するものであり、ガスバリア性層の多層化によりガスバリア性が向上するものの、ガスバリア性塗膜の緻密性において必ずしも十分なものとはいえず、高温多湿下においてガスバリア性が低下してしまい、耐水性、防湿性も必ずしも満足できるものとはいえないものであった。
このように、未だ十分な性能を有する透明なガスバリア性積層フィルムはない。
【特許文献1】特公昭53−12953号公報
【特許文献2】特公昭62−179935号公報
【特許文献3】特許第2790054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、通常の環境下は勿論のこと、高温又は多湿下においても、十分な性能を有し、ガスバリア性の低下が少ない、特に、ガスバリア性塗膜の水蒸気の透過を阻止することにより、水蒸気バリア性の低下が少なく、耐水性、防湿性も向上する優れたガスバリア性を有する透明なガスバリア性積層フィルム及びその製造方法を提供することにある。本発明のもう一つの目的は、ガスバリア性、耐水性、防湿性の向上による内容物の保存適性に優れた透明なガスバリア性積層フィルムを使用した包装材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、優れたガスバリア性を得るためには、ガスバリア性層の多層化において、ガスバリア性塗膜を緻密な膜構造に作製することが不可欠であると考え、ゾル−ゲル法を用いて緻密な塗膜を得る手段につき鋭意検討し、ゾル−ゲル法を用いてガスバリア性塗膜を形成する場合、緻密な塗膜を形成するためには、ガスバリア性塗膜を形成する際に、マイクロ波照射を施すことが塗膜の緻密さに関与することを見出した。
【0012】
具体的には、ゾル−ゲル法による塗膜のガスバリア性が、マイクロ波照射を処理する時間に依存して変化することが確認され、形成された塗膜の状態を調べたところ、マイクロ波照射による加熱は被加熱物の各部が同時に発熱するので、ガスバリア性塗膜の深さ方向に対して均一に加熱することができるため膜全体の縮合率を向上させることができ、塗膜の表面積が変化すること、すなわち、ガスバリア性塗膜の表面自由エネルギーが低下すること、さらに、この表面自由エネルギーが増大するとともに、水蒸気などのガスバリア性が低下し、表面自由エネルギーが減少するとガスバリア性が向上することを見出した。また、蒸着層との界面の反応を促進させることができるため、耐水性、防湿性が向上することを見出した。
【0013】
そこで、本発明では、ゾル−ゲル法によるアルコキシドの加水分解物、縮合物又はその混合物からなるガスバリア性塗膜を形成するために調製したガスバリア性組成物の塗工液を物理蒸着法及び/又は化学蒸着法により形成した蒸着フィルムの蒸着面に塗布し、塗布後、加熱乾燥処理することでガスバリア性塗膜層を形成する際に、コーティング層を形成した直後又はコーティング層を加熱処理した後にマイクロ波を照射することにより、従来のゾル−ゲル法によるガスバリア性塗膜フィルムのものと比較して、表面自由エネルギーが小さく、緻密な膜構造であって非常に高いバリア性を有するガスバリア性塗膜を得るとともに、蒸着フィルムのみよりも優れたガスバリア性の、耐水性及び防湿性が向上したガスバリア性積層フィルムを得ることに成功した。
【0014】
本発明は、本発明者の上記検討結果に基づいて完成されたものであり、本発明の目的は以下の手段により達成される。
【0015】
課題を解決する第1の発明は、プラスチックフィルムからなる基材フィルムに、無機酸化物の蒸着層を形成する工程と、基材フィルムの該無機酸化物蒸着層にガスバリア性塗膜層を形成する工程とを有するガスバリア性積層フィルムの製造方法において、前記ガスバリア性塗膜層を形成する工程が、一般式R1nM(OR2m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を用い、ゾル−ゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を塗布し、コーティング層を形成する工程及び該コーティング層を加熱乾燥処理し、ガスバリア性塗膜とする工程とを包含し、前記コーティング層を加熱処理前又は後で、マイクロ波照射を10秒〜30分間行うことによりガスバリア性塗膜の表面自由エネルギーが60dyne未満の範囲内であるガスバリア性塗膜を形成することを特徴とする製造方法である。
【0016】
第2の発明は、コーティング層へのマイクロ波照射を、塗工液を塗布し、加熱処理した後に行うことを特徴とする製造方法である。
【0017】
第3の発明は、コーティング層へのマイクロ波照射を、塗工液を塗布した直後に行い、加熱乾燥処理することを特徴とする製造方法である。
【0018】
第4の発明は、マイクロ波照射が、300MHz〜30GHzの周波数のマイクロ波を、出力が200〜2000W、照射時間が10秒〜30分で、照射処理することを特徴とする製造方法である。
【0019】
第5の発明は、マイクロ波照射が、2000〜3000MHzの周波数のマイクロ波を、出力が500W、照射時間が1〜30分で、照射処理することを特徴とする製造方法である。
【0020】
第6の発明は、無機酸化物蒸着層が酸化アルミニウム又は酸化ケイ素であることを特徴とする製造方法である。
【0021】
第7の発明は、無機酸化物蒸着層が、CVD法により形成されることを特徴とする製造方法である。
【0022】
第8の発明は、無機酸化物蒸着膜が、プラズマ化学気相成長法により形成されることを特徴とする製造方法である。
【0023】
第9の発明は、ポリビニルアルコール系樹脂がポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールであることを特徴とする製造方法である。
【0024】
第10の発明は、プラスチックフィルムからなる基材フィルムに、無機酸化物を蒸着膜として形成した層と、その蒸着層側に、ガスバリア性塗膜を設けてなるガスバリア性積層フイルムにおいて、ガスバリア性塗膜が、一般式R1nM(OR2m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を用い、ゾル−ゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を調製し、塗布し、加熱乾燥処理して形成したものであって、前記加熱処理の前又は後においてマイクロ波照射を10秒〜30分行うことによりガスバリア性塗膜の表面自由エネルギーが60dyne未満の範囲内である緻密な膜構造を有することを特徴とするものである。
【0025】
第11の発明は、ガスバリア性が、23℃、90%RHの雰囲気下で、酸素透過度0.1cc/m2・day・atm以下、かつ40℃、90%RHの雰囲気下で、水蒸気透過度0.1cc/m2・day以下であることを特徴とするものである。
【0026】
第12の発明は、マイクロ波照射で処理したガスバリア性塗膜を有するガスバリア性積層フィルムを含むことを特徴とする包装材料である。
【発明の効果】
【0027】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおけるガスバリア性層は、無機酸化物蒸着層とガスバリア性塗膜層の2層を含むものであり、かつガスバリア性塗膜は、アルコキシド同士、又はアルコキシドとポリビニルアルコール等の水溶性高分子との重縮合反応により形成されるガスバリア性組成物からなるガスバリア性塗膜をマイクロ波照射を行うことにより膜表面積を大きくすることで緻密な膜構造とするもので、すなわち、マイクロ波の照射により塗膜の膜表面積と密接に関連するガスバリア性塗膜の表面自由エネルギーが60dyne未満の範囲内である緻密な塗膜を形成することにより、従来のガスバリア性塗膜に比較してより緻密で、かつ強固なものとなり、高いガスバリア性を有するとともに、高温多湿下等の過酷条件においても安定したガスバリア性を維持することができ、耐水性、防湿性が向上したガスバリア性積層フィルムを得ることができた。
【0028】
また、前記ガスバリア性塗膜を形成する際に加熱乾燥処理する前又は後で、マイクロ波を所定時間照射することだけで、ガスバリア性塗膜の膜質の制御が可能となり、優れたガスバリア性と耐水性、防湿性も向上したガスバリア性積層フィルムを効率よく、確実かつ容易に製造することができる。
【0029】
さらに、本発明のガスバリア性積層フィルムを含む包装材料は、高いバリア性を有するとともに、高温多湿下等の過酷条件においても高いガスバリア性を維持し、耐水性、防湿性も向上することから、内容物の保存適性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明のガスバリア性積層フィルム及びその製造方法について、以下に詳しく説明する。
本発明のガスバリア性積層フィルムは、基本的構成としては、基材フィルムの一方の面に、無機酸化物蒸着層を設け、さらに、その無機酸化物蒸着層に、ガスバリア性塗膜を設けた層構成を基本構造とするものである。
上記の例は、本発明のガスバリア性積層フィルムの一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
次に、本発明において上記のような本発明にかかるガスバリア性積層フィルム又は製造法において使用する材料、その製造法等について説明する。
【0031】
基材フィルム
まず、本発明のガスバリア性積層フィルムを構成する基材フィルムとしては、化学的又は物理的強度に優れ、無機酸化物の蒸着膜を形成する条件等に耐え、それら無機酸化物蒸着膜等の特性を損なうことなく良好に保持し得ることができる樹脂のフィルム又はシートを使用することができる。
具体的には、基材フィルムとして、透明な熱可塑性樹脂フィルムが用いられ、その利用される分野の要求性能に従い、適宜選択すればよい。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンなどのポリエーテル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6などのポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物などのビニル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリエーテルスルフォン;ポリスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルケトンケトンなどが使用できる。これらの樹脂は単独重合体であっても共重合体であっても、あるいは1種以上の樹脂を溶融混合してフイルム状に成形したものが用いることができる。
本発明においては、上記の樹脂のフィルム又はシートの中でも、特に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフイン系樹脂、又は、ポリアミド系樹脂のフィルム又はシートを使用することが好ましい。
【0032】
本発明において、上記樹脂のフィルム又はシートとしては、公知の成形法が利用できる。具体的には、押出法、Tダイ法、インフレーション法、キャスト成形法等の従譜から使用されている製膜化法を用いて、上記樹脂を単独あるいは2種以上の樹脂を使用して製膜化する方法等により、フィルム又はシートを製造したもので、このような基材フィルムは未延伸フィルムであっても、1軸又は2軸配向フィルムであってもよい。さらに、このようなフィルムを2枚以上積層したフィルム又はシートも用いることができる。
延伸方法については、周知のテンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸又は2軸方向に延伸することができる。
【0033】
本発明において、樹脂のフィルム又はシートの膜厚としては、任意であるが、数μmから300μm位の範囲から選択して使用することができる。
【0034】
基材フィルムは、必要に応じて、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、ガスバリア性に影響しない範囲で目的に応じて、任意に添加することができる。
【0035】
また、本発明において、基材のフィルム又はシートの表面は、無機酸化物蒸着膜との密着性等を向上させるために、無機酸化物の蒸着前に基材フィルムの表面に必要に応じて、表面処理を施し、基材フィルムの表面処理後に無機酸化物の蒸着膜を設け、さらに、該無機酸化物蒸着膜上にガスバリア性塗膜を設けた構成としてもよい。
【0036】
本発明において、基材のフィルム又はシートは、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品などの物理的又は化学的な処理や、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層、接着剤層、蒸着アンカーコート剤層等の前処理を施して、密着性を改善させることもできる。
【0037】
無機酸化物蒸着層
次に、本発明において、本発明にかかるガスバリア性積層フィルムを構成する無機酸化物の蒸着層を形成する無機酸化物としては、金属の酸化物が挙げられ、具体的には、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、スズ(Sn)、チタン、インジウム等の金属の酸化物を使用することができる。本発明において、包装材料としては、好ましいものとして、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)の酸化物の酸化珪素、酸化アルミニウムを使用することができる。
また、本発明においては、無機酸化物蒸着層としては、使用する金属、又は、金属の酸化物を、1種又は2種以上の混合物で使用し、異種の材質のものを混合した無機酸化物で蒸着層を構成することもできる。
【0038】
本発明において、基材フィルムの表面に上記無機酸化物蒸着層を設ける方法として、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法、あるいは、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法を挙げることができる。勿論、本発明において、物理気相成長法と化学気相成長法を併用して形成することも可能である。
【0039】
本発明の化学気相成長法においては、基材フィルムの表面に、有機ケイ素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて、無機酸化物からなる蒸着層を形成することができる。
【0040】
上記において、低温プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができるが、本発明においては、高活性の安定したプラズマを得るために、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが望ましい。
【0041】
また、本発明の物理気相成長法においては、金属の酸化物を原料とし、これを加熱して樹脂のフィルムないしシートの上に蒸着する真空蒸着法、又は、原料として金属又は金属の酸化物を使用し、酸素を導入して酸化させて樹脂のフィルムないしシートの上に蒸着する酸化反応蒸着法、さらに、酸化反応をプラズマで助成するプラズマ助成式の酸化反応蒸着法等を用いて無機酸化物の蒸着層を形成することができる。
【0042】
より具体的には、冷却したコーティングドラム上に案内された基材フィルムの上に、加熱された蒸着源である金属アルミニウム、あるいは酸化アルミニウムを蒸発させ、さらに、必要に応じて、酸素ガス等を噴出し、これを供給しながら、マスクを介して、酸化アルミニウムの蒸着膜を基材フィルム上に形成し、蒸着フィルムを巻き取りロールに巻き取るか、本発明においては、引き続き、ゾル−ゲル法によりガスバリア性塗膜を蒸着面に形成し、加熱乾燥処理して最終的なガスバリア性積層フィルムを製造し、巻き取りロールに巻き取ることもできる。
【0043】
上記の例示は、その一例を例示するものであり、これによって本発明は限定されるものではない。
上記のように化学気相成長法又は物理気相成長法により基材フィルムに無機酸化物の蒸着膜を形成した後、さらに前記蒸着層をグロー放電処理、プラズマ処理、又はマイクロウェーブ処理してもよい。これにより蒸着層と以下のガスバリア性塗膜との密着性がさらに向上する。
【0044】
本発明においては、無機酸化物蒸着層上にプライマー層を積層することにより、化学気相成長法はもちろん、物理気相成長法により無機酸化物を蒸着させた場合であっても、緻密なガスバリア層を得ることができる。
特に、物理気相成長法や化学気相成長法により酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を積層し、その上に、さらに、本発明のガスバリア性塗膜層を積層することにより、極めて優れたガスバリア性が得られる。
【0045】
本発明において、上記のような無機酸化物蒸着層の膜厚としては、使用する金属、又は、金属の酸化物の種類等によって異なるが、例えば、50〜4000Å、好ましくは、100〜1000Åの範囲内で任意に選択して形成することが望ましい。50Åより薄くなると、蒸着膜の形成が不十分となり、ガスバリア性が十分でない場合があり、4000Åを超えるとクラックが発生しやすく、可撓性が低下する。
【0046】
ガスバリア性塗膜
次に、本発明において、本発明のガスバリア性積層フィルムを構成するガスバリア性塗膜について説明する。
本発明のガスバリア性塗膜は、アルコキシドと水溶性高分子を含有するものであり、具体的には、ガスバリア性塗膜としては、一般式:R1nM(OR2mで表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールを含有する組成物をゾル−ゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物を上記した無機酸化物蒸着フィルム上に塗布し、加熱乾燥処理し、形成したものである。
【0047】
本発明に好適に使用できるアルコキシドは、一般式:R1nM(OR2m(式中、Mは金属原子、R1、R2が炭素数1〜8の有機基、nは0以上、mは1以上の整数、n+mはMの原子価を表す)で表されるものであり、このアルコキシドの部分加水分解物又はアルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種以上を使用することができる。
上記一般式:R1nM(OR2mにおける、Mで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム等が使用でき、好ましくはケイ素である。これらのアルコキシドの用い方としては、単独又は2種以上の異なる金属原子のアルコキシドを同一溶液中に混合して使うこともできる。
【0048】
有機基R1の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等のアルキル基等が挙げられる。また、有機基R2の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。同一分子中にこれらアルキル基は同一であっても、異なってもよい。
【0049】
アルコキシドの中でも、Mがケイ素(Si)であるアルコキシシランが好ましく、アルコキシシランはSi(ORa4で表され、Rは低級アルキル基である。Raとしてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が用いられ、アルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシランSi(OCH34、テトラエトキシシランSi(OC254、テトラプロポキシシランSi(OC374、テトラブトキシシランSi(OC494等が挙げられる。
また、アルキルアルコキシシランRbmSi(ORc4-mを用いることができる(mは1、2、3の整数)。Rb、Rcとしては、メチル基、エチル基等が用いられ、アルキルアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシランCH3Si(OCH33、メチルトリエトキシシランCH3Si(OC253、ジメチルジメトキシシラン(CH32Si(OCH32、ジメチルジエトキシシラン(CH32Si(OC252等があげられる。これらのアルコキシシラン、アルキルアルコキシシランは、単独又は2種以上を混合して用いることもできる。
さらに、アルコキシシランの縮重合物も使用することができ、具体的にはポリテトラメトキシシラン、ポリテトラエメトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
2種以上のこれらのアルコキシドを混合して用いてもよい。特にアルコキシシランとジルコニウムアルコキシドを混合して用いることによって、得られる積層フィルムの靭性、耐熱性等が向上し、廷伸時のフィルムの耐レトルト性等の低下が回避できる。
また、特に、アルコキシシランとチタニウムアルコキシドを混合して用いることによって、得られる皮膜の熱伝導率が低くなり、基材の耐熱性が著しく向上する。
本発明においては、上記アルコキシドと共にシランカップリング剤が併用されることが好ましい。シランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランが用いられ得る。特に、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適である。それには、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及びβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランがある。このようなシランカップリング剤は2種以上を混合して用いてもよい。このようなシランカップリング剤の使用量は、上記アルコキシシラン100重量部に対して0.1〜20重量部の範囲内である。20重量部以上を使用すると形成される複合ポリマーの剛性と脆性とが大きくなり、複合ポリマー層の絶縁性及び加工性が低下する。
【0051】
本発明では、ガスバリア性塗膜形成用の組成物(塗工液)を製造する際に使用する水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールコポリマーが含まれる。ポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコールコポリマーを組み合わせることによって、得られる塗膜のガスバリア性、耐水性、耐候性等が著しく向上する。さらに、ポリビニルアルコールとエチレン・ビニルアルコールコポリマーとを組み合わせた積層フィルムは、ガスバリア性、耐水性、及び耐候性に加えて耐熱水性及び熱水処理後のガスバリア性に優れる。
【0052】
ポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコールコポリマーの組み合わせを採用する場合のそれぞれの含有重量比は、10:0.05〜10:6であることが好ましく、約10:1がさらに好ましい。
上記ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールコポリマーの合計の含有量は、上記アルコキシドの合計量100重量部に対して5〜600重量部の範囲であり、好ましくは約50〜400重量部である。600重量部を上回ると複合ポリマーの脆性が大きくなり、得られる積層フィルムの耐水性及び耐候性も低下する。5重量部を下回るとガスバリア性が低下する。
【0053】
本発明においては、上記の組成物(塗工液)を蒸着膜上に塗布し、その組成物をゾル−ゲル法により重縮合して塗膜を得る。
ゾル−ゲル法触媒として、主として重縮合触媒としては、水に実質的に不溶であり、かつ有機溶媒に可溶な第三級アミンが用いられる。例えば、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等があり、特にN,N−ジメチルベンジルアミンが好適である。その使用量は、アルコキシド、及びシランカップリング剤の合計量100重量部当り0.01〜1重量部、好ましくは約0.03重量部である。
【0054】
しかしながら本発明においては、ガスバリア性塗膜形成用の組成物(塗工液)に、ゾル−ゲル法の触媒として、第三級アミンに代えて酸を触媒として用いている。酸はゾル−ゲル法の触媒、主としてアルコキシドやシランカップリング剤等の加水分解のための触媒として用いられる。酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸、ならびに酢酸、酒石酸等の有機酸が用いられる。
【0055】
また、本発明においては、上記ガスバリア性塗膜形成用の組成物中に、アルコキシドの合計モル量1モルに対して0.1〜100モル、好ましくは、0.8〜2モルの割合の水を含んでなることが好ましい。水の量が2モルを上回ると、上記アルコキシシランと金属アルコキシドとから得られるポリマーが球状粒子となり、さらに、この球状粒子同士が3次元的に架橋し、密度の低い、多孔性のポリマーとなる。多孔性のポリマーは、基材フィルムのガスバリア性を改善することができない。水の量が0.8モルを下回ると、加水分解反応が進行しにくくなる。
【0056】
ガスバリア性塗膜形成用の組成物は、有機溶媒を含有することが好ましい。有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等が用いられる。
【0057】
ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールコポリマーは、上記のアルコキシドやシランカップリング剤等を含む組成物(塗工液)中で溶解した状態であることが好ましく、そのため上記有機溶媒の種類が適宜選択される。ポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコールコポリマーの組み合わせを採用する場合には、n−ブタノールを使用することが好ましい。溶媒中に可溶化されたエチレン・ビニルアルコールコポリマーは、例えば、ソアノール(商品名)として市販されている。上記有機溶媒の使用量は、通常上記アルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールコポリマー、酸、及びゾル−ゲル法触媒の合計量100重量部当り30〜500重量部である。
【0058】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、ガスバリア性塗膜の形成方法について以下に説明する。
まず、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、ゾル−ゲル法触媒として塩酸、水、有機溶媒、及び、必要に応じて、金属アルコキシド等を混合してガスバリア性塗膜形式用組成物の塗工液を調製する。ガスバリア性塗膜形式用組成物の塗工液中では次第に重縮合反応が進行する。
【0059】
次いで、基材の一方の面に設けた無機酸化物蒸着層の上に、常法により、上記のガスバリア性組成物の塗工液を通常の方法で塗布し、乾燥する。乾燥により、上記アルコキシド、金属アルコキシド、シランカップリング剤及びビニルアルコールポリマーの重縮合がさらに進行し、複合ポリマーの層が形成される。好ましくは上記の操作を繰り返して、複数の複合ポリマー層を積層する。
【0060】
ガスバリア性塗膜形成用組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアコーター等のロールコート、スプレーコート、スピンコート、ディッピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の塗装手段により、1回あるいは複数回の塗装で、乾焼膜厚が0.01〜30μm、好ましくは、0.1〜10μmの本発明のガスバリア性塗膜を形成することができる。
また、必要ならば、本発明のガスバリア性組成物を塗布する際に、予め、無機酸化物蒸着層の上に、プライマー剤等を塗布することもできる。
【0061】
本発明においては、加熱処理(プレ乾燥)した後(すなわち、エージング後)、乾燥処理としてマイクロ波を照射するか、塗布直後にエージングすることなしにマイクロ波を照射することにより乾燥処理するものである。
本発明で使用するマイクロ波照射は、瞬間的に被加熱物の中に浸透し熱に変換させるため、熱伝導に要する時間が不要となり、熱伝導だけに頼る外部加熱に比べ極めて短時間で加熱できる。つまり、より短時間の照射で膜中の水分を除き、金属アルコキシド加水分解物(シラノール)の縮合反応を促進させることができるものである。
【0062】
本発明では、乾燥処理はマイクロ波照射により行なうことから、上記加熱処理は、従来行われている温度条件、150℃〜200℃、好ましくは180℃〜200℃の範囲の温度で、1秒〜10分間、好ましくは1秒〜2分間、特に30秒〜90秒間加熱処理する必要はなくなる。比較的低い温度で加熱処理してプレ乾燥すれば足り、加熱処理前又は後のマイクロ波照射によりガスバリア性塗膜内部において、アルコキシド加水分解物と水溶性高分子とが水素結合や化学結合により結合する架橋反応が起こること、蒸着層とガスバリア性塗膜とが水素結合や化学結合により強固に密着するなどの塗膜内外で変化が生じるため、ガスバリア性が一層向上する。さらには、水溶性高分子の膨潤を抑制することができ、水に対する耐性が向上し、結果的に耐水性、防湿性が向上する。
【0063】
本発明において、照射するマイクロ波とは、周波数300MHz〜30GHzの電波と定義されるものであるが、本発明に使用するのは定義範囲のいずれの周波数でもよく、好ましくは、2000〜3000MHzのマイクロ波であり、さらに好ましくは、2450Hzのマイクロ波である。マイクロ波を照射する出力は、照射する対象の材質、物性等を考慮し、かつ、本発明の目的にあったガスバリア性塗膜が得られるように、200〜2000Wの範囲で設定することが好ましい。また、照射時間については、照射するマイクロ波の周波数、出力に応じて適宜設定されるものであるが、照射時間は10秒以下だと効果が低減されるため、10秒以上であることが好ましい。またフィルムに収縮などの影響を及ぼさない範囲で行う方が好ましく、生産性及びガスバリア性等の性質向上のためには、30分以内で行われる。
また、本発明の態様においては、基材上に蒸着層とガスバリア性塗膜を設けた後、さらに蒸着層を設け、その蒸着層上にガスバリア性塗膜を上記と同様にして形成してもよい。このように積層数を増やすことにより、より一層ガスバリア性に優れる積層フィルムを実現できる。
【0064】
包装材料
上記のようにして製造した本発明にかかるガスバリア性積層フィルムは、例えば、樹脂のフィルム、紙基材、金属素材、合成紙、セロハン、その他等の包装材料を構成する包装用基材、ヒートシール性フィルム等と任意に組み合わせて、例えば、通常のラミネート法によりラミネートして種々の積層体を製造し、種々の物品を充填包装するに適した包装袋を製造可能とするものである。本ガスバリア性積層フィルムを用いた包装材料として、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性塗膜上に、ヒートシール性樹脂層を積層したもの又は印刷層、ラミネート接着剤層、ヒートシール性樹脂層を順次設けたものについて説明する。
【0065】
ヒートシール性樹脂層
ヒートシール性樹脂層を構成するヒートシール性樹脂としては、熱によって溶融し相互に融着し得るものであればよく、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフイン系樹脂、又はこれらの樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフイン系樹脂等の樹脂の一種ないしそれ以上からなる樹脂のフィルム又はシートを使用することができる。
【0066】
本発明においては、ラミネート用接着剤層の面に、上記の樹脂のフィルムないしシートをドライラミネートして、ヒートシール性樹脂層を形成することができる。
上記樹脂のフィルム又はシートは、単層ないし多層で使用することができ、また、上記樹脂のフィルム又はシートの厚さとしては、5〜300μm、好ましくは、10〜110μmである。
上記樹脂のフィルム又はシートの厚さは、袋状容器本体の製袋時等において、無機酸化物蒸着層を有する樹脂のフィルムないしシートを構成する無機酸化物蒸着層に、擦り傷やクラック等が発生することを防止するために、比較的その膜厚を厚くすることが好ましく、具体的には、70〜110μm、望ましくは、80〜100μmである。
本発明においては、上記のような樹脂のフィルム又はシートの中でも、特に、線状低密度ポリエチレンを使用することが好ましいものである。線状低密度ポリエチレンは、粘着性を有することから破断の伝搬が少なく耐衝撃性を向上させるという利点があるものであり、また、内層は常時内容物に接触していることから、耐環境ストレスクラッキング性の劣化を防止するためにも有効なものである。
【0067】
また、本発明においては、線状低密度ポリエチレンに、他の樹脂をブレンドすることもでき、例えば、エチレン−プチン共重合体等をブレンドすることにより、若干、耐熱性に劣り高温環境下ではシール安定性が劣化する傾向があるものの、引き裂き性が向上し、易開封性に寄与するという利点がある。
【0068】
上記の本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明がこれら実施例によって限定されるものではない。
得られたガスバリア性積層フィルムについて、ガスバリア性を評価するために、酸素透過度、水蒸気透過度を測定対象とし、さらに、ガスバリア性塗膜の表面緻密状態を判断する指標として、接触角を測定し、接触角から表面自由エネルギー求めた。
各測定対象は、以下の要領で測定した。
【0069】
<酸素透過度の測定>
酸素透過度の測定は、得られたガスバリア性積層フィルムを温度23℃、湿度90%RHの条件下で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、オクストラン(OXTRAN)〕を使用し、JIS規格 K7126に従い、測定した。
【0070】
<水蒸気透過度の測定>
水蒸気透過度の測定は、得られたガスバリア性積層フィルムを次の2つの条件下;温度40℃、湿度90%RHの条件及び温度50℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、パーマトラン(PERMATRAN)〕を使用して、JIS規格 K7129に従い、測定した。
【0071】
<表面自由エネルギー>
表面自由エネルギーの値は、協和界面科学株式会社全自動接触角計Drop Master700により20℃、50%RHの条件下で水とジヨードメタンの接触角を測定し、その測定した接触角から解析ソフトウェアFAMASを用いて表面自由エネルギーを算出して求めた。表面自由エネルギーとして把握することにより塗膜の緻密状態を評価できる。
【実施例】
【0072】
本発明の実施例及び比較例において、ガスバリア性塗膜を適用する際に使用した蒸着膜フィルムの製造について
物理蒸着法(PVD法)による蒸着膜を形成する場合について
まず、基材フィルムを巻き取り式の真空蒸着装置の送り出しロールに装着し、次いでこれを繰り出し、その基材フィルムの蒸着膜を形成する面に、コロナ放電処理を施すか、又はコロナ処理が施されたコロナ処理面に、アルミニウム等の金属材料を蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、下記の蒸着条件により、膜厚200Åの酸化アルミニウム等の金属酸化物の蒸着膜を形成し、本発明にかかるガスバリア性蒸着膜フィルムを製造した。
蒸着条件 : 酸化アルミニウム蒸着膜を形成する際の条件
蒸着チヤンバー内の真空度:2×10-4mbar
巻き取りチヤンバー内の真空度:2×10-2mbar
電子ビーム電力:25kW
フィルムの搬送速度:240m/分
蒸着面:コロナ処理面
【0073】
化学蒸着法(CVD法)による蒸着膜を形成する場合について
まず、基材フィルムを巻き取り式の真空蒸着装置の送り出しロールに装着し、次いでこれを繰り出し、その基材フィルムの蒸着膜を形成する面に、コロナ放電処理を施すか、又はコロナ処理が施された基材フィルムのコロナ処理面を形成し、コロナ処理面を有する基材フィルムをプラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、下記に示す条件で、基材フィルムのコロナ処理面に、厚さ100Åの酸化珪素等の金属酸化物の蒸着膜を形成した。
蒸着条件 : 酸化珪素蒸着膜を形成する際の条件
反応ガス混合比;へキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=1.2:5.0:2.5(単位:Slm)
到達圧力;5.0×10-5mbar
製膜圧力;7.0×10-2mbar
ライン速度;150m/min
パワー;35kW
【0074】
次に、上記で厚さ100Åの酸化珪素の蒸着膜を形成した直後に、その酸化珪素の蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kw、酸素ガス(02):アルゴンガス(Ar)=7.0:2.5(単位:Slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-2mbar、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行って、酸化珪素の蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上に向上させたプラズマ処理面を形成した。
【0075】
ガスバリア性塗膜の形成
ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性塗膜の形成については、下記表1に示す組成に従って調製した組成aの正珪酸エチル(多摩科学社製)、イソプロピルアルコール、0.5N 規定塩酸水溶液、イオン交換水、シランカップリング剤からなる加水分解液に、予め調製した組成bのポリビニルアルコール水溶液を加えて撹拌し、無色透明のバリア塗工液を得た。
【0076】
【表1】

【0077】
次に、上記した酸化アルミニウム蒸着膜又はプラズマ処理面に、上記で製造したガスバリア性組成物をグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、表3の乾燥条件でマイクロ波を1分〜30分照射することで処理を行い、厚さ0.2μm(乾操状態)のガスバリア性塗膜を形成して、ガスバリア性積層フィルムを形成した。
【0078】
[実施例1及び比較例1]
基材フィルムとして、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、まず、上記の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを巻き取り式の真空蒸着装置の送り出しロールに装着し、次いでこれを繰り出し、その2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ処理が施された面に、アルミニウムを蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法(PVD法)を用い、上記の蒸着条件により、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成し、ガスバリア性蒸着膜フィルムを製造した。
【0079】
また、ガスバリア性塗膜の形成については、表1の組成比となるようにして、正珪酸エチル(多摩化学社製)16.00重量部、イオン交換水23.61重量部、イソプロピルアルコール3.90重量部、0.5N規定塩酸水溶液0.13重量部、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.16重量部(東レ・ダウコーニング社製SH6040)からなる組成aの加水分解液に、予め含有する酢酸ナトリウムの量を表1にしたがって調製したポリビニルアルコール2.30重量部(酢酸ナトリウムの含有量は0.5重量%)、イソプロピルアルコール2.70重量部、イオン交換水51.20重量部からなる組成bのポリビニルアルコール水溶液を撹拌しながら加え、無色透明のガスバリア性塗膜形式用組成物の塗工液を得た。
【0080】
次に、上記した酸化アルミニウム蒸着膜(PVD法)に、上記のように製造したガスバリア性塗膜形成用組成物の塗工液をグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、120℃、60秒間加熱処理して、次に、2450Hz、500Wのマイクロ波を1分間照射する処理をし、厚さ0.2μm(乾操状態)のガスバリア性塗膜を形成して、ガスバリア性積層フィルムを得た。
比較例1では120℃、60秒間加熱処理した以外は特に処理はしなかった。
製造したガスバリア性積層フィルムを前記した各測定装置を用いて、酸素透過度、水蒸気透過度及び接触角を測定し、表面自由エネルギーは接触角から算出した。その測定結果は、表2、3に記載したとおりである。
【0081】
[実施例2ないし実施例4及び比較例2、比較例3]
実施例2ないし実施例4及び比較例2、比較例3は、実施例1と同様の方法で形成した酸化アルミニウム蒸着膜フィルムに、実施例1と同様の方法で、各成分が表1に記載した組成a及び組成bとなるように調製し、実施例1と同様の塗工方法、塗工条件下で表1のガスバリア性塗工液を製造し、塗布し、ガスバリア性塗膜を形成してガスバリア性積層フィルムを得た。
【0082】
次に、実施例及び比較例ともに、2450Hz、500Wのマイクロ波を表3にしたがって照射処理した。比較例2では10秒間、比較例3では60分間のマイクロ波を照射処理した。
製造したガスバリア性積層フィルムを前記した各測定装置を用いて、酸素透過度、水蒸気透過度及び接触角を測定し、表面自由エネルギーは接触角から算出した。その測定結果は、表2、3に記載したとおりである。
【0083】
[実施例5及び比較例4]
実施例5及び比較例4は、いずれも、蒸着膜フィルムとして実施例4、比較例1のPVD法に代えて、CVD法を採用したもので、蒸着膜フィルムは上記したCVD法の蒸着条件で蒸着層を形成した以外は、実施例4、比較例1と同じガスバリア性塗膜形式用組成物の塗工液、塗工方法、塗工条件下で、上記した酸化ケイ素蒸着膜のプラズマ処理面に、上記で製造した表1の組成のガスバリア性塗膜形式用組成物をグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、120℃、60秒間加熱処理した後、次に、実施例5については、2450Hz、500Wのマイクロ波を30分間照射する処理するのに対し、比較例4では120℃オーブンで1分間加熱処理をしただけで、厚さ0.2μm(乾操状態)のガスバリア性塗膜を形成してガスバリア性積層フィルムを得た。
製造したガスバリア性積層フィルムを前記した各測定装置を用いて、酸素透過度、水蒸気透過度及び接触角を測定し、表面自由エネルギーは接触角から算出した。その測定結果は、表2、3に記載したとおりである。
【0084】
本発明のガスバリア性積層フィルムの測定評価
各実施例及び比較例の組成比は表1に示すとおりである。なお、表1中の組成a及び成分bの各成分の総和が100重量部となるように調製した。
上記実施例及び比較例において作成したガスバリア性積層フィルムについて、酸素透過度、水蒸気透過度及び接触角を測定し、表面自由エネルギーは接触角から算出した。接触角の測定値及び接触角と表面自由エネルギーとの換算結果は表2に示したとおりである。また、その結果は、下記の表3に示すとおりである。
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
表3に示したとおり、実施例1ないし実施例5のガスバリア性積層フィルムは、そのガスバリア性塗膜を形成するために用いた塗工液を調製する際に使用したポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウムの含有量が、本発明の規定値範囲内にあるものでは、酢酸ナトリウムの含有量の減少するにしたがいガスバリア性は確実に向上し、また、表面自由エネルギーの数値で見る限りガスバリア性塗膜の膜質も緻密な構造のものとなっている。一方、比較例としてあげた酢酸ナトリウムの含有量が規定値範囲外の量では、比較例1ないし比較例4にみられるようにガスバリア性は低く、含有量が増加するにつれ徐々に低下する傾向にあり、かつガスバリア性塗膜の膜質も向上するところがみられない。
【0088】
また、高湿度状態において10℃温度を上げた条件に変更したものについて水蒸気透過度の比較をみると、本発明の実施例では、著しく水蒸気透過度が増加することもなく、高温多湿下においても優れたガスバリア性を維持できるものであることが確認されたが、比較例にあっては、温度条件を10℃厳しくしただけでも水蒸気透過度が著しく増加する傾向がみられ、高温多湿下でのガスバリア性の向上はみられない。また、蒸着膜の形成法として、CVD法とPVD法との違いは大きいものではないが、比較すると、CVD法の蒸着膜の方がガスバリア性が僅かに優れているものであった。
【0089】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、金属酸化物の蒸着層を保護する保護薄膜としてガスバリア性塗膜層が作用し、該金属酸化物の蒸着層の損傷等によるバリア性の低下等を防止し、更に、透明性に優れ、また、酸素ガスあるいは水蒸気等に対するガスバリア性に優れ、かつ、高温多湿下でも優れたガスバリア性を維持でき、従来の蒸着膜からなるガスバリア性積層フィルムでは得られない優れたガスバリア性を得ることができるものである。また、本発明においては、優れたガスバリア性塗膜をポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウムの含有量で簡単に制御でき、かつ蒸着、塗布等により、各膜層を連続的に形成することができることから、その生産性を向上させることができるものである。さらに、本発明にかかるガスバリア性塗膜積層フィルムを製造するときや包装材料に用いる際に、可撓性に欠ける金属酸化物の蒸着薄膜層に、ガスバリア性塗膜層を設けていることから、該金属酸化物の蒸着層の保護層として作用し、例えば、製造工程間の巻き返し、あるいは、スリット加工、更には、印刷、ラミネート、製袋等の後加工等において、金属又は金属酸化物の蒸着薄膜層にクラック等が発生することなく、極めて、その製造、あるいは、後加工適性に優れているものである。
また、優れたガスバリア性と柔軟性とを有するので、包装材料として有用であり、特に食品包装用フィルムとして好適に使用される。
さらに、本発明のガスバリア性積層フィルムは、熱水処理、特に高圧熱水処理(レトルト処理)後のガスバリア性にも優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムからなる基材フィルムに、無機酸化物の蒸着層を形成する工程と、基材フィルムの該無機酸化物蒸着層にガスバリア性塗膜層を形成する工程とを有するガスバリア性積層フィルムの製造方法において、
前記ガスバリア性塗膜層を形成する工程が、
一般式R1nM(OR2m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を用い、ゾル−ゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を塗布し、コーティング層を形成する工程及び該コーティング層を加熱乾燥処理し、ガスバリア性塗膜とする工程とを包含し、前記コーティング層を加熱処理前又は後で、マイクロ波照射を10秒〜30分間行うことによりガスバリア性塗膜の表面自由エネルギーが60dyne未満の範囲内であるガスバリア性塗膜を形成することを特徴とするガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
コーティング層へのマイクロ波照射を、塗工液を塗布し、加熱処理した後に行うことを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項3】
コーティング層へのマイクロ波照射を、塗工液を塗布した直後に行い、加熱乾燥処理することを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
マイクロ波照射が、300MHz〜30GHzの周波数のマイクロ波を、出力が200〜2000W、照射時間が10秒〜30分で、照射処理することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載されたガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
マイクロ波照射が、2000〜3000MHzの周波数のマイクロ波を、出力が500W、照射時間が1〜30分で、照射処理することを特徴とする請求項4に記載されたガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
無機酸化物蒸着層が酸化アルミニウム又は酸化ケイ素であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
無機酸化物蒸着層が、CVD法により形成されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
無機酸化物蒸着膜が、プラズマ化学気相成長法により形成されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項9】
ポリビニルアルコール系樹脂がポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項10】
プラスチックフィルムからなる基材フィルムに、無機酸化物蒸着膜層と、該蒸着層側に、ガスバリア性塗膜を設けてなるガスバリア性積層フイルムにおいて、
前記ガスバリア性塗膜が、一般式R1nM(OR2m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を用い、ゾル−ゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を調製し、塗布し、加熱乾燥処理して形成したものであって、加熱処理の前又は後においてマイクロ波照射を10秒〜30分行うことによりガスバリア性塗膜の表面自由エネルギーが60dyne未満の範囲内である緻密な膜構造を有することを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項11】
ガスバリア性が、23℃、90%RHの雰囲気下で、酸素透過度0.1cc/m2・day・atm以下、かつ40℃、90%RHの雰囲気下で、水蒸気透過度0.1cc/m2・day以下であることを特徴とする請求項10に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のガスバリア性積層フィルムを含むことを特徴とする包装材料。

【公開番号】特開2010−447(P2010−447A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161187(P2008−161187)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】