説明

ガスバリア性積層体からなる食品または医療用包装用容器

【課題】品質保存性に優れ透明で、高温高圧でも層間剥離の抑制されたガスバリア性積層体からなる食品または医療用包装用容器を提供する。
【解決手段】ガスバリア性積層体からなり、80〜135℃での加熱殺菌処理に用いる食品または医療用包装用容器であって、前記ガスバリア性積層体が、ガスバリア性フィルム10と接着性樹脂層20とヒートシール性フィルム30とからなり、前記ガスバリア性フィルム10は、水酸基を有し、前記接着性樹脂層20は、所定の変性方法による変性ポリプロピレン樹脂からなることを特徴とする。接着性樹脂層が有機溶媒を含まないため、加熱加圧条件での殺菌でも接着性樹脂層の成分が溶出せず品質保存性に優れ、かつガスバリア性フィルムの水酸基に接着性樹脂層と結合し、ラミネート強度が高い

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層体からなる食品または医療用包装用容器に関し、より詳細には特定の変性ポリプロピレン樹脂でガスバリア性フィルムとヒートシール性フィルムとを溶融押出しにより接着した、品質保存性、ラミネート強度、透明性に優れるガスバリア性積層体からなる80〜135℃での加熱殺菌処理に用いることができる食品または医療用包装用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品、飲食品、化成品、その他を充填包装する包装用材料としては、内容物の変質、変色、その他を防止するために、酸素ガス、水蒸気等の透過を遮断、阻止する、種々の形態からなるバリア性積層材が開発され、提案されている。
【0003】
このようなバリア性積層材の用途としてレトルト用パウチがあり、一般には、温度80〜135℃位、圧力1〜3Paで約20〜60分間程度の殺菌工程を経る。このようなレトルト条件下で使用するバリア性積層材として、アルミなどの金属箔を用いた包装材料があり、温度・湿度の影響が無く、高度なガスバリア性を有するものとして多用されている。しかしながら、金属箔を使用すると内容物を確認することができず、使用後の廃棄の際には金属箔が不燃物として残存するなどの問題がある。このため、金属箔を使用せず、内容物が透視できるバリア性積層材が開発されている。
【0004】
例えば、上記レトルト条件下で使用するバリア性積層材として、蒸着層の上にさらにバリア性を向上させるためにバリアコート層を設けたフィルムがある(特許文献1、特許文献2)。特許文献1では、透明プラスチック材料に、プライマー層、蒸着薄膜層、ガスバリア性被膜層、およびシール層を順次積層するものである。密着性を向上するためプライマー層を設け、該プライマー層として、ポリエステル樹脂単体、ポリエステル樹脂とイソシアネート系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂のうちから選ばれる1種類以上の混入樹脂との混合物が例示されている。上記構成により、透明性およびガスバリア性に優れ、ボイルおよびレトルト殺菌後のシールなどにデラミなどの発生がない、とする。
【0005】
また、特許文献2記載のガスバリアフィルム積層体は、プラスチック材料に、プライマー層、蒸着薄膜層、ガスバリア性被膜層、オーバーコート層を順次積層するものである。密着性を向上するためプライマー層を設け、該プライマー層として、アクリルポリオール、イソシアネート化合物、シランカップリング剤などが例示されている。特許文献2では、プラスチック基材の少なくとも片面に、耐熱性および寸法安定性に優れる密着プライマー層を設けた後、ガスバリア層として蒸着薄膜層・ガスバリア性被膜層を有し、更に耐熱性に優れた保護層を有するため、金属箔なみのガスバリア性を持つと共にボイル殺菌やレトルト殺菌などの各種殺菌処理後もバリア性などの劣化を抑えることができる、とする。なお、前記オーバーコート層は、スチレン/無水マレイン酸共重合体を含む組成物からなり、これによってボイル・レトルト処理によって接着部やシーラント層からの応力を吸収・緩和し、蒸着薄膜層およびガスバリア性被覆層を保護する、という。
【0006】
一方、蒸着膜を有するガスバリア性積層フィルムにおいて、基材と蒸着膜層との間にプライマー層を設けることなく密着性を向上させる技術もある(特許文献3)。特許文献3には、無機酸化物からなる蒸着層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルムを処理水に浸漬し、前記蒸着層の一部を取り除いた後に、該フィルム表面のX線光電子分光測定を行い、C1s波形の解析から求めた官能基比率(COO/C−C)が0.23以下である、強密着蒸着フィルムが開示されている。アミン系アルカリを添加した水溶液中に浸漬して無機酸化物を除去し、前記官能基比率(COO/C−C)が0.23以下となる場合には、PETフィルムと無機酸化物層とが極めて良好な密着性を示す、という。
【0007】
一方、このような包装容器が医療用に使用される場合に鑑み、日本薬局方に規定されているプラスチック製医薬品容器試験法による溶出試験へ適合させるため、ポリプロピレン樹脂にα,β−不飽和ジカルボン酸またはその誘導体をラジカル開始剤およびアルキル基置換芳香族炭化水素溶媒またはハロゲン化炭化水素溶媒の存在下でグラフト共重合した変性ポリプロピレン樹脂を含む接着性樹脂層をガスバリヤ性樹脂層に積層した医療用容器も開示されている(特許文献4)。上記構成によれば、容器を構成する原料樹脂から内容物への溶出量が低減し、日本薬局方に規定されているプラスチック製医薬品容器試験法にも適合し衛生的であり、各種医療用薬剤の密封包装材として好適であるという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−722号公報
【特許文献2】特開2004−106443号公報
【特許文献3】特開2005−59265号公報
【特許文献4】特開2003−155059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3の積層体や強密着蒸着フィルムは、加熱加圧殺菌による積層間の剥離を防止するため、最内層にヒートシール性フィルムを形成する際にドライラミネート用接着剤を使用してヒートシール性フィルムを積層している。特許文献1〜3の実施例では、いずれも2液硬化型ウレタン系接着剤を介してドライラミネート法によりラミネートしてヒートシール層を積層している。このドライラミネート用接着剤には有機溶媒が含有され、同様に、特許文献4記載の医療用容器も、アルキル基置換芳香族炭化水素溶媒またはハロゲン化炭化水素溶媒の存在下でグラフト共重合した変性ポリプロピレン樹脂を接着性樹脂層として使用するため、有機溶媒が含有される。このため加熱加圧殺菌処理を行うと、有機溶媒によってドライラミネート用接着剤に含まれる硬化剤成分が溶出してイソシア基などの反応基が薬剤と反応する場合がある。したがって、有機溶媒や接着剤成分の溶出を抑制し、内容物の変質を回避しうる耐熱耐圧性の包装用容器の開発が望まれる。
【0010】
一方、有機溶媒や接着剤成分の溶出のない1次包材で包装し、ついで透明ガスバリア積層体やアルミ積層体からなる2次包材で包装して、接着剤成分による変質を防止しかつガスバリア性を確保する方法もあるが、容器を2つ開封することになり開封作業が煩雑となり使用後の廃棄量も増加する。このため、1次包材のみでガスバリア性や耐熱耐圧性が確保でき、かつ接着剤成分や有機溶媒の溶出が抑制され、内容物の変質を回避しうる包装用容器の開発が望まれる。
【0011】
また、医療現場などでは特に、内容物を直接視認するために透明性に優れる包装用容器を使用する要求が高い。
そこで本発明は、ガスバリア性、耐熱性、耐圧性、透明性に優れ、溶媒や接着剤成分の溶出がなくこのため内容物の品質保存性に優れ、かつ容器・包装ごみの軽量化、減量化等を図りうる、ガスバリア性積層体を提供することを目的とする。
【0012】
特に、内容物の品質保存性、透明性の要求の高い輸液バッグや薬剤容器等に好適に使用しうる、上記ガスバリア性積層体からなる医療用包装用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明等は、食品または医療用包装用容器を構成しうるガスバリア性積層体に使用される接着性樹脂層について詳細に検討した結果、溶融混練機を用いて変性を行った変性ポリプロピレン樹脂は、融点が高いために押出しラミネートに使用しても、高温高圧条件で溶融することがないこと、前記変性ポリプロピレン樹脂は有機溶媒を含まないため、これを溶融押出しして基材フィルムとヒートシール性フィルムとの積層に使用してもラミネート接着剤成分や有機溶媒を溶出することがなく、このため内容物の品質保存性に優れること、前記変性ポリプロピレン樹脂を使用するとガスバリア性フィルムが有する水酸基と化学的に結合してラミネート強度を向上させ、高温、高圧条件でも層間剥離を起こすことなく接着性に優れる、このようなガスバリア性積層体を使用して80〜135℃での加熱殺菌処理に用いる食品用包装用容器や医療用包装用容器を調製しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明は、ガスバリア性フィルムとヒートシール性フィルムとを溶融押出によって接着性樹脂層で接着して得られるガスバリア性積層体であって、前記バリア性フィルムは水酸基を有し、前記接着性樹脂は、ポリプロピレン樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を有機過酸化物を加え、溶融混練機を用いて変性を行った変性ポリプロピレン樹脂からなることを特徴とするガスバリア性積層体からなる80〜135℃での加熱殺菌処理に用いる食品または医療用包装用容器を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガスバリア性積層体からなる食品または医療用包装用容器は、接着性樹脂層に有機溶媒が含まれず、内容物の品質保存性に優れるとともに、環境保全に優れる。
本発明で使用するガスバリア性積層体は、水酸基を有するガスバリア性フィルムと、ポリプロピレン樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を有機過酸化物を加え、溶融混練機を用いて変性を行って得た変性ポリプロピレン樹脂を使用するだけで加熱加圧条件でも層間剥離の回避することができ、80〜135℃での加熱殺菌処理に用いることができる、耐熱性、耐圧性に優れるガスバリア性積層体からなる食品または医療用包装用容器を提供することができる。
【0016】
本発明を構成するガスバリア性積層体で使用する変性ポリオレフィン系樹脂は、押出し変性法で調製されるため有機溶媒を使用せず、したがって、ガスバリア性積層体の製造にも有機溶媒の使用を行うことなく製造でき、環境保全に優れる。しかも、アンカーコート剤を使用することなく、簡便にラミネート強度が高いガスバリア性積層体からなる食品または医療用包装用容器を製造することができる。
【0017】
本発明のガスバリア性積層体からなる食品または医療用包装用容器は、透明性に優れるため、内容物の視認が容易で医療現場などでの使用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明で使用するガスバリア性積層体の層構造を説明する図である。
【図2】図2は、本発明で使用するガスバリア性積層体の層構造を説明する図であり、ガスバリア性フィルムが基材フィルムと所定の塗布層とからなる態様を示す。
【図3】図3は、本発明で使用するガスバリア性積層体の層構造を説明する図であり、ガスバリア性フィルムが、基材フィルムと有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜と所定のガスバリア性塗布膜とからなる態様を示す図である。
【図4】低温プラズマ化学蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。
【図5】巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第一は、ガスバリア性積層体からなり、80〜135℃での加熱殺菌処理に用いる食品または医療用包装用容器であって、前記ガスバリア性積層体は、ガスバリア性フィルムとヒートシール性フィルムとを溶融押出によって接着性樹脂層で接着して得られたものであり、前記バリア性フィルムは水酸基を有し、前記接着性樹脂は、ポリプロピレン樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を有機過酸化物を加え、溶融混練機を用いて変性を行った変性ポリプロピレン樹脂からなることを特徴とする、食品または医療用包装用容器である。以下、本発明の食品または医療用包装用容器を詳細に説明する。
【0020】
(1) ガスバリア性積層体の構成
本発明で使用するガスバリア性積層体は、ガスバリア性フィルムと接着性樹脂層とヒートシール性フィルムとからなる。図1に本発明で使用するガスバリア性積層体の層構成を示す。ガスバリア性フィルム(10)は単層であっても複層であってもよく、接着性樹脂層(20)によってヒートシール性フィルム(30)と接着される。図2に、基材フィルム(13)にポリビニルアルコールなどのガスバリア性樹脂を含有する塗布膜(15)を形成してなるガスバリア性フィルム(10)を、接着性樹脂層(20)によってヒートシール性フィルム(30)と接着した態様を示す。また、図3に、基材フィルム(13)と有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜(14)とガスバリア性塗布膜(16)とからなるガスバリア性フィルム(10)を、接着性樹脂層(20)によってヒートシール性フィルム(30)と接着した態様を示す。
【0021】
本発明で使用するガスバリア性積層体は、前記接着性樹脂層として、ポリプロピレン樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を有機過酸化物を加え、溶融混練機を用いて変性を行って得た変性ポリプロピレン樹脂を使用するため有機溶媒を含有せず、ガスバリア性フィルムとヒートシール性フィルムとの積層に際し、この接着性樹脂を溶融押出して両者を積層すれば、内容物の加熱殺菌のための高温高圧条件下でも接着性樹脂からの有機溶媒や有機溶媒の溶出に伴う内容物の変質を回避することができる。
【0022】
(2) 接着性樹脂層
本発明で使用するガスバリア性積層体は、ガスバリア性フィルムとヒートシール性フィルムとを溶融押出によって接着性樹脂層で接着して得られ、使用する接着性樹脂層を構成する接着性樹脂は、ポリプロピレン樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を有機過酸化物を加え、溶融混練機を用いて変性を行った変性ポリプロピレン樹脂からなる。
【0023】
本発明で使用する接着性樹脂は、前記変性ポリプロピレン樹脂を含有しこの変性ポリプロピレン樹脂はカルボキシル基などの官能基を有する。一方、後記するようにポリビニルアルコールやエチレン・ビニルアルコール共重合体などはガスバリア性に優れるとともに水酸基を有する。このため、これらのフィルムに接着性樹脂を溶融押出しすると、ガスバリア性フィルムの水酸基とこの変性ポリプロピレン樹脂のカルボキシル基などの官能基とが化学的に結合し、両者間のラミネート強度を向上させることができる。このため、通常、溶融押出しの際に使用するアンカーコート剤を使用することなく、ラミネート強度の高いガスバリア性積層体を製造することができる。また、本発明で使用する変性ポリプロピレン樹脂は融点が高いため、レトルト殺菌の際にも溶融することがない。しかも、上記変性方法は有機溶媒を含有しないため、接着性樹脂層にも有機溶媒が含まれず、ガスバリア性積層体をレトルト殺菌などの高温高圧殺菌を行った場合でも、接着性樹脂層から有機溶媒や接着性樹脂層の成分が溶出することがない。従来は、高温高圧殺菌が必要な包装用容器では、耐熱性に優れるラミネート接着剤による層間接着が通常であったが、高温高圧殺菌時にラミネート接着剤からの接着剤成分の溶出があり、内容物との反応して品質を劣化させる場合があった。しかしながら本発明によれば、ラミネート接着剤を使用することなく、このため有機溶媒やラミネート接着剤成分の溶出を回避し、内容物の安全を確保することができる。
【0024】
前記接着性樹脂は、ポリプロピレン樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を有機過酸化物を加え、溶融混練機を用いて変性を行った変性ポリプロピレン樹脂である。
例えば、原料ポリプロピレンの粉末またはペレットに不飽和カルボン酸またはその無水物、及び必要により有機過酸化物、アゾビス化合物のようなラジカル開始剤を所定の配合比でヘンシェルミキサーなどでドライブレンドし、この配合したポリプロピレンの粉末又はペレットを、系内を窒素ガス置換された混練機、例えばバンバリーミキサー、ダブリュスクリューミキサー等に投入し、120〜300℃の温度で、0.1〜30分溶融混練することにより得られる。不飽和カルボン酸またはその無水物として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。本発明では、特に無水マレイン酸を使用することが好ましい。
【0025】
このようにして得られる接着性樹脂は、DSCを用いた融点測定で、終了温度が155〜160℃であることが好ましい。
本発明のガスバリア性積層体において、接着性樹脂層の厚みは、5〜50μmであることが好ましく、より好ましくは15〜30μmである。
【0026】
(3) ガスバリア性フィルム
本発明で使用するガスバリア性フィルムは、ガスバリア性を有すると共にその表面に水酸基を有することを特徴とする成形体である。ガスバリア性フィルムは単層でもよいが、基材フィルムに水酸基を有するガスバリア性樹脂からなる塗布膜などを形成した1層以上の積層体であってもよい。
【0027】
(a) ポリビニルアルコール
本発明では、ガスバリア性フィルムとして、ポリビニルアルコールを好適に使用することができる。構造中に水酸基を有するため、前記接着性樹脂層との接着性に優れ、かつガスバリア性に優れるからである。ポリビニルアルコールからなるガスバリア性フィルムの厚さに制限はないが、好ましくは10〜50μmである。
【0028】
一方、ポリビニルアルコールは単層フィルムとして使用することができるが、水溶性高分子であるため、耐水性に優れる基材フィルムにポリビニルアルコールからなる塗布膜を形成した積層フィルムであってもよい。このような基材フィルムは、後記するガスバリア性積層フィルムの項で記載する基材フィルムを好適に使用することができる。これにより、耐水性を確保することができる。なお、ポリビニルアルコールからなる塗布膜は、好ましくは0.5〜3μmである。このようなポリビニルアルコール系樹脂としては、株式会社クラレ製のRSポリマーである「RS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)」、同社製の「クラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)」、日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)」等を例示することができる。
【0029】
(b) エチレン・ビニルアルコール共重合体
本発明では、ガスバリア性フィルムとして、エチレン・ビニルアルコール共重合体も好適に使用することができる。構造中に水酸基を有するため、前記接着性樹脂層との接着性に優れ、かつガスバリア性に優れるからである。エチレン・ビニルアルコール共重合体からなるガスバリア性フィルムの厚さに制限はないが、好ましくは12〜25μmである。
【0030】
一方、エチレン・ビニルアルコール共重合体は単層フィルムとして使用することができるが、基材フィルムにエチレン・ビニルアルコール共重合体からなる塗布膜を形成した積層フィルムであってもよい。このような基材フィルムは、後記するガスバリア性積層フィルムの項で記載する基材フィルムを好適に使用することができる。これにより、機械的特性など基材フィルムに応じた各種の特性を向上させることができる。なお、エチレン・ビニルアルコール共重合体からなる塗布膜は、好ましくは10〜50μmである。このようなエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、株式会社クラレ製、「エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)」、日本合成化学工業株式会社製、「ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)」等を例示することができる。
【0031】
(c) ガスバリア性積層フィルム
本発明で使用するガスバリア性フィルムとして、基材フィルムの一方の面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を設け、該蒸着膜上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層フィルムを使用することもできる。ガスバリア性塗布膜をポリビニルアルコール系樹脂またはエチレン・ビニルアルコール共重合体と1種以上のアルコキシドとが相互に化学的に反応して強固な三次元網目状複合ポリマー層を形成しており、前記蒸着膜とが相乗的に作用し、酸素、水蒸気などの透過を阻止するガスバリア性に優れ、耐熱水性にも優れる。
【0032】
(i)基材フィルム
ガスバリア性積層フィルムを構成する基材フィルムとしては、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜やガスバリア性塗布膜を設けるに足る機械的、物理的、化学的強度を有し、特に前記蒸着膜を形成する条件に耐え、前記蒸着膜の特性を損なうことなく良好に保持し得る樹脂フィルムを使用することが好ましい。
【0033】
このような基材フィルムとしては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、その他等の各種の樹脂からなるフィルムを使用することができる。特に、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、または、ポリアミド系樹脂のフィルムが好ましい。
【0034】
上記樹脂は、上記樹脂の1種または2種以上を使用し、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法、その他等の製膜化法を用いて単層で製膜化したもの、または2種以上の樹脂を使用して共押し出しなどで多層製膜したもの、または2種以上の樹脂を混合使用して製膜し、テンター方式やチューブラー方式等で1軸ないし2軸方向に延伸してなる各種の樹脂フィルムを使用することができる。
【0035】
本発明において、基材フィルムの膜厚としては、6〜100μm位、より好ましくは、9〜50μm位が好ましい。
(ii)表面処理
本発明において、上記の基材フィルムの一方の面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を形成するが、予め基材フィルムに表面処理をおこなってもよい。これによって前記蒸着膜やガスバリア性塗布膜との密着性を向上させることができる。
【0036】
このような表面処理としては、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理、その他等の前処理などがある。
【0037】
このような表面処理の中でも、特に、コロナ処理やプラズマ処理を行うことが好適である。例えばプラズマ処理としては、気体をアーク放電により電離させることにより生じるプラズマガスを利用して表面改質を行なうプラズマ処理がある。プラズマガスとしては、上記のほかに、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の無機ガスを使用することができる。すなわち、後記する物理的気相成長法または化学気相成長法による有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を形成する直前に、インラインでプラズマ処理を行うことにより、基材フィルムの表面の水分、塵などを除去すると共にその表面の平滑化、活性化、その他等の表面処理を可能とすることができる。更に、本発明では、プラズマ処理としては、プラズマ出力、プラズマガスの種類、プラズマガスの供給量、処理時間、その他の条件を考慮してプラズマ放電処理を行うことが好ましい。また、プラズマを発生する方法としては、直流グロー放電、高周波放電、マイクロ波放電、その他の装置を使用することができる。また、大気圧プラズマ処理法によりプラズマ処理を行なうこともできる。
【0038】
(iii)有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜
本発明における蒸着膜としては、例えば、化学気相成長法、物理気相成長法またはこれらを複合して、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜の1層からなる単層膜あるいは2層以上からなる多層膜または複合膜を形成して製造することができる。
【0039】
化学気相成長法としては、例えば、プラズマ化学気相成長法、低温プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等がある。具体的には、基材フィルムの一方の面に、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて酸化珪素等の蒸着膜を形成することができる。
【0040】
上記において、低温プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができる。高活性の安定したプラズマが得られる点で、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが好ましい。
【0041】
上記の低温プラズマ化学気相成長法による蒸着膜の形成法の一例を低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である図4を用いて説明する。
本発明では、プラズマ化学気相成長装置221の真空チャンバー222内に配置された巻き出しロール223から基材フィルム201を繰り出し、更に、該基材フィルム201を、補助ロール224を介して所定の速度で冷却・電極ドラム225周面上に搬送する。一方、ガス供給装置226、227および、原料揮発供給装置228等から酸素ガス、不活性ガス、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスその他等を供給して蒸着用混合ガス組成物を調製し、これを原料供給ノズル229を通して真空チャンバー222内に導入する。該蒸着用混合ガス組成物を上記冷却・電極ドラム225周面上に搬送された基材フィルム201の上に供給し、グロー放電プラズマ230によってプラズマを発生させ照射し、蒸着膜を製膜化する。次いで、上記で蒸着膜を形成した基材フィルム201を補助ロール233を介して巻き取りロール234に巻き取れば、プラズマ化学気相成長法による有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜を形成することができる。なお、冷却・電極ドラム225は、真空チャンバー222の外に配置されている電源231から所定の電力が印加され、冷却・電極ドラム225の近傍には、マグネット232を配置してプラズマの発生が促進されている。このように冷却・電極ドラムに電源から所定の電圧が印加されているため、真空チャンバー内の原料供給ノズルの開口部と冷却・電極ドラムとの近傍でグロー放電プラズマが生成される。このグロー放電プラズマは、混合ガスなかの1つ以上のガス成分から導出されるものであり、この状態で基材フィルムを一定速度で搬送させると、グロー放電プラブマによって、冷却・電極ドラム周面上の基材フィルムの上に、有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜を形成することができる。なお、図4中、符号235は真空ポンプを表す。
【0042】
本発明では、真空チャンバー内を真空ポンプにより減圧し、真空度1×10-1〜1×10-8Torr位、好ましくは、真空度1×10-3〜1×10-7Torr位に調整することが好ましい。
【0043】
原料揮発供給装置は、原料である有機珪素化合物を揮発させ、ガス供給装置から供給される酸素ガス、不活性ガス等と混合させ、この混合ガスを原料供給ノズルを介して真空チャンバー内に導入させる。この際、混合ガス中の有機珪素化合物の含有量は、1〜40%、酸素ガスの含有量は10〜70%、不活性ガスの含有量は10〜60%の範囲とすることが好ましく、例えば、有機珪素化合物:酸素ガス:不活性ガスの混合比を1:6:5〜1:17:14程度とすることができる。なお、上記有機珪素化合物、不活性ガス、酸素ガスなどを供給する際の真空チャンバー内の真空度は、1×10-1〜1×10-4Torr、好ましくは真空度1×10-1〜1×10-2Torrであることが好ましく、また、基材フィルムの搬送速度は、10〜300m/分、好ましくは50〜150m/分である。このようにして得られる有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜の形成は、基材フィルムの上に、プラズマ化した原料ガスを酸素ガスで酸化しながらSiOXの形で薄膜状に形成されるので、当該形成される蒸着膜は、緻密で隙間の少ない、可撓性に富む連続層となり、従って、蒸着膜のバリア性は、従来の真空蒸着法等によって形成される酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜と比較してはるかに高く、薄い膜厚で十分なバリア性を得ることができる。また、SiOXプラズマにより基材フィルムの表面が清浄化され、基材フィルムの表面に、極性基やフリーラジカル等が発生するので、形成される蒸着膜と基材フィルムとの密接着性が高いものとなる。更に、蒸着膜の形成時の真空度は、1×10-1〜1×10-4Torr、好ましくは、1×10-1〜1×10-2Torrであって、従来の真空蒸着法により酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成する時の真空度、1×10-4〜1×10-5Torrに比較して低真空度であるから、基材フィルムの原反交換時の真空状態設定時間を短くすることができ、真空度が安定しやすく製膜プロセスも安定化する。
【0044】
本発明において、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスを使用して形成される蒸着膜は、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスと酸素ガス等とが化学反応し、その反応生成物が、基材フィルムの一方の面に密接着し、緻密な、柔軟性等に富む薄膜を形成するものであり、通常、一般式SiOX(ただし、Xは、0〜2の数を表す)で表される酸化珪素を主体とする連続状の薄膜である。上記酸化珪素の蒸着膜としては、透明性、バリア性等の点から、一般式SiOX(ただし、Xは、1.3〜1.9の数を表す。)で表される酸化珪素の蒸着膜を主体とする薄膜であることが好ましい。なお、Xの値は、蒸着モノマーガスと酸素ガスのモル比、プラズマのエネルギー等により変化するが、一般的に、Xの値が小さくなればガス透過度は小さくなるが、膜自身が黄色性を帯び、透明性が悪くなる。
【0045】
本発明において、酸化珪素の蒸着膜は、酸化珪素を主体とし、更に、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または2種類以上の元素からなる化合物の少なくとも1種類を化学結合等により含有する蒸着膜からなることを特徴とするものである。例えば、C−H結合を有する化合物、Si−H結合を有する化合物、または、炭素単位がグラファイト状、ダイヤモンド状、フラーレン状等になっている場合、更に、原料の有機珪素化合物やそれらの誘導体を化学結合等によって含有する場合があるものである。例えば、CH3部位を持つハイドロカーボン、SiH3シリル、SiH2シリレン等のハイドロシリカ、SiH2OHシラノール等の水酸基誘導体等を挙げることができる。本発明では、上記蒸着膜として、有機珪酸化合物を含有する蒸着膜であることが好ましい。なお、上記以外でも、蒸着過程の条件等を変化させることにより、蒸着膜中に含有される化合物の種類、量等を変化させることができる。この際、上記の化合物が蒸着膜中に含有する含有量としては、0.1〜50%、好ましくは5〜20%である。含有率が0.1%未満であると、蒸着膜の耐衝撃性、延展性、柔軟性等が不十分となり、曲げなどにより、擦り傷、クラック等が発生し易く、高いバリア性を安定して維持することが困難になる場合があり、一方、50%を越えるとバリア性が低下する場合がある。
【0046】
更に、本発明では、有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜において、上記の化合物の含有量が蒸着膜の表面から深さ方向に向かって減少していることが好ましい。これにより、蒸着膜の表面では上記化合物等により耐衝撃性等が高められ、他方、基材フィルムとの界面では、上記化合物の含有量が少ないために基材フィルムと蒸着膜との密接着性が強固なものとなる。
【0047】
本発明において、上記の蒸着膜は、例えばX線光電子分光装置(Xray Photoelectron Spectroscopy、XPS)、二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectroscopy、SIMS)等の表面分析装置を用い、深さ方向にイオンエッチングする等して分析し、蒸着膜の元素分析を行うことで、上記の物性を確認することができる。
【0048】
本発明において、上記蒸着膜の膜厚は、50nm〜4000nm位であることが好ましく、より好ましくは100〜1000nmである。4000nmより厚くなると、その膜にクラック等が発生する場合があり、一方、50nm未満であると、バリア性の効果を奏することが困難になる場合がある。なお、膜厚は、例えば、株式会社理学製の蛍光X線分析装置(機種名、RIX2000型)を用いて、ファンダメンタルパラメーター法で測定することができる。また、蒸着膜の膜厚を変更する手段としては、蒸着膜の体積速度を大きくする方法、すなわち、モノマーガスと酸素ガス量を多くする方法や蒸着する速度を遅くする方法等によって行うことができる。
【0049】
本発明では、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜として、蒸着膜の1層だけでなく、2層あるいはそれ以上を積層した多層膜の状態でもよく、また、使用する材料も1種または2種以上の混合物で使用し、また、異種の材質で混合した蒸着膜を構成することもできる。
【0050】
本発明において、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、その他等を使用することができる。これらの中でも、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、または、ヘキサメチルジシロキサンを原料として使用することが、その取り扱い性、形成された連続膜の特性等から、特に好ましい。なお、上記において、不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス等を使用することができる。
【0051】
一方、本発明では、物理気相成長法によっても有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を形成することができる。このような物理気相成長法として、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ−ティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)などにより有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を形成することができる。
【0052】
具体的には、有機珪素化合物、金属または金属の酸化物を原料とし、これを加熱して蒸気化し、これを基材フィルムの一方の上に蒸着する真空蒸着法、または、原料として金属または金属の酸化物を使用し、酸素を導入して酸化させて基材フィルムの一方の上に蒸着する酸化反応蒸着法、更に酸化反応をプラズマで助成するプラズマ助成式の酸化反応蒸着法等を用いて蒸着膜を形成することができる。なお、蒸着材料の加熱方式としては、例えば、抵抗加熱方式、高周波誘導加熱方式、エレクトロンビーム加熱方式(EB)等にて行うことができる。物理気相成長法による蒸着膜を形成する方法について、巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略的構成図を示す図5を参照して説明する。
【0053】
まず、巻き取り式真空蒸着装置241の真空チャンバー242の中で、巻き出しロール243から繰り出す基材フィルム201は、ガイドロール244、245を介して、冷却したコーティングドラム246に案内される。上記の冷却したコーティングドラム246上に案内された基材フィルム201の上に、るつぼ247で熱せられた蒸着源248、例えば、金属アルミニウム、あるいは、酸化アルミニウム等を蒸発させ、更に、必要ならば、酸素ガス吹出口249より酸素ガス等を噴出し、これを供給しながら、マスク250、250を介して、例えば、酸化アルミニウム等を蒸着してなる蒸着膜を成膜化し、次いで、上記において、例えば、前記蒸着膜を形成した基材フィルム201を、ガイドロール251、252を介して送り出し、巻き取りロール253に巻き取ると物理気相成長法による蒸着膜を形成することができる。なお、上記巻き取り式真空蒸着装置を用いて、まず第1層の蒸着膜を形成し、次いで、その上に蒸着膜を更に形成し、または、上記巻き取り式真空蒸着装置を2連に連接し、連続的に蒸着膜を形成して、2層以上の多層膜からなる前記蒸着膜を形成してもよい。
【0054】
金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜としては、基本的には、金属の酸化物を蒸着した薄膜であればよく、例えば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の金属の酸化物の蒸着膜を使用することができる。好ましくは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)等の金属の酸化物の蒸着膜を挙げることができる。よって、上記の金属の酸化物の蒸着膜は、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物等のように金属酸化物と称することができ、その表記は、例えば、SiOX、AlOX、MgOX等のようにMOX(ただし、式中、Mは、金属元素を表し、Xの値は、金属元素によってそれぞれ範囲がことなる。)で表される。
【0055】
また、上記のXの値の範囲としては、ケイ素(Si)は0を超え2以下、アルミニウム(Al)は0を超え1.5以下、マグネシウム(Mg)は0を超え1以下、カルシウム(Ca)は0を超え1以下、カリウム(K)は0を超え0.5以下、スズ(Sn)は0を超え2以下、ナトリウム(Na)は0を超え0.5以下、ホウ素(B)は0を超え1、5以下、チタン(Ti)は0を超え2以下、鉛(Pb)は0を超え1以下、ジルコニウム(Zr)は0を超え2以下、イットリウム(Y)は0を超え1.5以下の範囲である。上記においてX=0の場合は完全な金属であり、Xの範囲の上限は、完全に酸化した値である。一般的に、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)以外は、使用される例に乏しい。このため、本発明において、Mとしてケイ素やアルミニウムが好ましく、その際これらのXの値は、ケイ素(Si)は1.0〜2.0、アルミニウム(Al)は0.5〜1.5の範囲である。なお、前記蒸着膜の膜厚は、使用する金属や金属の酸化物の種類等によって異なるが、例えば、50〜2000nm、好ましくは、100〜1000nmの範囲内で任意に選択することができる。また、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜は、使用する金属または金属の酸化物としては、1種または2種以上の混合物で使用し、異種の材質で混合した蒸着膜を構成することもできる。
【0056】
更に、本発明では、例えば物理気相成長法と化学気相成長法の両者を併用して異種の前記蒸着膜の2層以上からなる複合膜を形成して使用することもできる。
上記の異種の蒸着膜の2層以上からなる複合膜としては、まず、基材フィルムの上に、化学気相成長法により、緻密で柔軟性に富み、比較的にクラックの発生を防止し得る有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜を設け、次いで、該蒸着膜の上に、物理気相成長法による金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を設けて、2層以上からなる複合膜からなる蒸着膜を構成することが好ましいものである。上記とは逆くに、基材フィルムの上に、先に、物理気相成長法により、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を設け、次に、化学気相成長法により、緻密で、柔軟性に富み、比較的にクラックの発生を防止し得る有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜を設けて、2層以上からなる複合膜からなる蒸着膜を構成することもできる。
【0057】
(iv)ガスバリア性塗布膜
本発明で使用するガスバリア性塗布膜としては、一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法触媒、酸、水、および、有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合してなるガスバリア性組成物からなる塗布膜であり、該組成物を上記基材フィルム上の蒸着膜の上に塗工して塗布膜を設け、20℃〜180℃、かつ上記の基材フィルムの融点以下の温度で10秒〜10分間加熱処理して形成することができる。
【0058】
また、前記ガスバリア性組成物を上記基材フィルム上の蒸着膜の上に塗工して塗布膜を2層以上重層し、20℃〜180℃、かつ、上記基材フィルムの融点以下の温度で10秒〜10分間加熱処理し、ガスバリア性塗布膜を2層以上重層した複合ポリマー層を形成してもよい。
【0059】
上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとしては、アルコキシドの部分加水分解物、アルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種以上を使用することができ、また、上記アルコキシドの部分加水分解物としては、アルコキシ基のすべてが加水分解されるものに限定されず、1個以上が加水分解されているもの、および、その混合物であってもよく、更に、加水分解の縮合物としては、部分加水分解アルコキシドの2量体以上のもの、具体的には、2〜6量体のものを使用してもよい。
【0060】
上記一般式R1nM(OR2m中、R1としては、分岐を有していてもよい炭素数1〜8、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基などを挙げることができる。
【0061】
上記一般式R1nM(OR2m中、R2としては、分岐を有していてもよい炭素数1〜8、より好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜4のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、その他等を挙げることができる。なお、同一分子中に複数の(OR2)が存在する場合には、(OR2)は同一であっても、異なってもよい。
【0062】
上記一般式R1nM(OR2m中、Mで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、その他等を例示することができる。
本発明においてケイ素であることが好ましい。この場合、本発明で好ましく使用できるアルコキシドとしては、上記一般式R1nM(OR2mにおいてn=0の場合には、一般式Si(ORa)4(ただし、式中、Raは、炭素数1〜5のアルキル基を表す。)で表されるものである。上記において、Raとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、その他等が用いられる。このようなアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシランSi(OCH34、テトラエトキシシランSi(OC254、テトラプロポキシシランSi(OC374、テトラブトキシシランSi(OC494等を例示することができる。
【0063】
また、nが1以上の場合には、一般式RbnSi(ORc)4-m(ただし、式中、mは、1、2、3の整数を表し、Rb、Rcは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、その他を表わす。)で表されるアルキルアルコキシシランを使用することができる。このようなアルキルアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシランCH3Si(OCH33、メチルトリエトキシシランCH3Si(OC253、ジメチルジメトキシシラン(CH32Si(OCH32、ジメチルジエトキシシラン(CH32Si(OC252、その他等を使用することができる。本発明では、上記のアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン等は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0064】
また、本発明において、上記のアルコキシシランの縮重合物も使用することができ、具体的には、例えば、ポリテトラメトキシシラン、ポリテトラエメトキシシラン、その他等を使用することができる。
【0065】
本発明では、上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとして、MがZrであるジルコニウムアルコキシドも好適に使用することができる。例えば、テトラメトキシジルコニウムZr(OCH34、テトラエトキシジルコニウムZr(OC254、テトラiプロポキシジルコニウムZr(iso−OC374、テトラnブトキシジルコニウムZr(OC494、その他等を例示することができる。
【0066】
また、上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとして、MがTiであるチタニウムアルコキシドを好適に使用することができ、例えば、テトラメトキシチタニウムTi(OCH34、テトラエトキシチタニウムTi(OC254、テトライソプロポキシチタニウムTi(iso−OC374、テトラnブトキシチタニウムTi(OC494、その他等を例示することができる。
【0067】
また、上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとして、MがAlであるアルミニウムアルコキシドを使用することができ、例えば、テトラメトキシアルミニウムAl(OCH34、テトラエトキシアルミニウムAl(OC254、テトライソプロポキシアルミニウムAl(is0−OC374、テトラnブトキシアルミニウムAl(OC494、その他等を使用することができる。
【0068】
本発明では、上記アルコキシドは、2種以上を併用してもよい。例えばアルコキシシランとジルコニウムアルコキシドを混合して用いると、得られるガスバリア性積層フィルムの靭性、耐熱性等を向上させることができ、また、延伸時のフィルムの耐レトルト性などの低下が回避される。この際、ジルコニウムアルコキシドの使用量は、上記アルコキシシラン100質量部に対して10質量部以下の範囲である。10質量部を越えると、形成されるガスバリア性塗布膜が、ゲル化し易くなり、また、その膜の脆性が大きくなり、基材フィルムを被覆した際にガスバリア性塗布膜が剥離し易くなる傾向にあることから好ましくないものである。
【0069】
また、アルコキシシランとチタニウムアルコキシドを混合して用いると、得られるガスバリア性塗布膜の熱伝導率が低くなり、耐熱性が著しく向上する。この際、チタニウムアルコキシドの使用量は、上記のアルコキシシラン100質量部に対して5質量部以下の範囲である。5質量部を越えると、形成されるガスバリア性塗布膜の脆性が大きくなり、基材フィルムを被覆した際に、ガスバリア性塗布膜が剥離し易くなる場合がある。
【0070】
本発明で使用するポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、ポリビニルアルコール系樹脂、またはエチレン・ビニルアルコ一ル共重合体を単独で各々使用することができ、あるいは、ポリビニルアルコ一ル系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用することができる。本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体を使用することにより、ガスバリア性、耐水性、耐候性、その他等の物性を著しく向上させることができる。
【0071】
ポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用する場合、それぞれの配合割合としては、質量比で、ポリビニルアルコ一ル系樹脂:エチレン・ビニルアルコール共重合体=10:0.05〜10:6位であることが好ましい。
【0072】
また、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体の含有量は、上記のアルコキシドの合計量100質量部に対して5〜500質量部の範囲であり、好ましくは20〜200質量部の配合割合である。500質量部を越えると、ガスバリア性塗布膜の脆性が大きくなり、得られるバリア性フィルムの耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、5質量部を下回るとガスバリア性が低下する場合がある。
【0073】
前記ポリビニルアルコ一ル系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体において、ポリビニルアルコ一ル系樹脂としては、一般に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものを使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸基が数十%残存している部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂でも、酢酸基が残存しない完全ケン化ポリビニルアルコールでも、OH基が変性された変性ポリビニルアルコール系樹脂でもよく、特に限定されるものではない。このようなポリビニルアルコール系樹脂としては、株式会社クラレ製のRSポリマーである「RS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)」、同社製の「クラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)」、日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)」等を例示することができる。
【0074】
また、エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物、すなわち、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができる。例えば、酢酸基が数十モル%残存している部分ケン化物から、酢酸基が数モル%しか残存していないかまたは酢酸基が残存しない完全ケン化物まで含み、特に限定されるものではない。ただし、ガスバリア性の観点から好ましいケン化度は、80モル%以上、より好ましくは、90モル%以上、さらに好ましくは、95モル%以上であるものを使用することが好ましい。なお、上記エチレン・ビニルアルコール共重合体中のエチレンに由来する繰り返し単位の含量(以下「エチレン含量」ともいう)は、通常、0〜50モル%、好ましくは、20〜45モル%であるものことが好ましい。このようなエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、株式会社クラレ製、「エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)」、日本合成化学工業株式会社製、「ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)」等を例示することができる。
【0075】
本発明で使用するガスバリア性組成物は、前記一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、上記のようなポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法触媒、酸、水、および、有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合して得たガスバリア性組成物である。上記ガスバリア性組成物を調製するに際し、シランカップリング剤等を添加してもよい。
【0076】
本発明で好適に使用できるシランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを広く使用することができる。例えば、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適であり、それには、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、あるいは、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。このようなシランカップリング剤は、1種ないし2種以上を混合して用いてもよい。なお、シランカップリング剤の使用量は、上記アルコキシシラン100質量部に対して1〜20質量部の範囲内である。20質量部以上を使用すると、形成されるガスバリア性塗布膜の剛性と脆性とが大きくなり、また、ガスバリア性塗布膜の絶縁性および加工性が低下する場合がある。
【0077】
また、ゾルゲル法触媒とは、主として、重縮合触媒として使用される触媒であり、水に実質的に不溶であり、かつ有機溶媒に可溶な第三アミンなどの塩基性物質が用いられる。例えば、N、N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、その他等を使用することができる。本発明においては、特に、N、N−ジメチルべンジルアミンが好適である。その使用量は、アルコキシド、および、シランカップリング剤の合計量100質量部当り、0.01〜1.0質量部である。
【0078】
また、上記ガスバリア性組成物において用いられる「酸」としては、上記ゾルゲル法において、主として、アルコキシドやシランカップリング剤などの加水分解のための触媒として用いられる。例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、ならびに、酢酸、酒石酸な等の有機酸、その他等を使用することができる。上記酸の使用量は、アルコキシドおよびシランカップリング剤のアルコキシド分(例えばシリケート部分)の総モル量に対し0.001〜0.05モルを使用することが好ましい。
【0079】
更に、上記のガスバリア性組成物においては、上記のアルコキシドの合計モル量1モルに対して0.1〜100モル、好ましくは、0.8から2モルの割合の水をもちいることができる。水の量が2モルを越えると、上記アルコキシシランと金属アルコキシドとから得られるポリマーが球状粒子となり、更に、この球状粒子同士が3次元的に架橋し、密度の低い、多孔性のポリマーとなり、そのような多孔性のポリマーは、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性を改善することができなくなる。また、上記の水の量が0.8モルを下回ると、加水分解反応が進行しにくくなる場合がある。
【0080】
更に、上記のガスバリア性組成物において用いられる有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、その他等を用いることができる。なお、上記ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体は、上記アルコキシドやシランカップリング剤などを含む塗工液中で溶解した状態で取り扱われることが好ましく、上記有機溶媒の中から適宜選択することができる。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用する場合には、n−ブタノールを使用することが好ましい。なお、溶媒中に可溶化されたエチレン・ビニルアルコール共重合体を使用することもでき、例えば、日本合成化学工業株式会社製、商品名「ソアノール」などを好適に使用することができる。上記の有機溶媒の使用量は、通常、上記アルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、酸およびゾルゲル法触媒の合計量100質量に対して30〜500質量部である。
【0081】
本発明において、ガスバリア性積層フィルムは、以下の方法で製造することができる。
まず、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、ゾルゲル法触媒、酸、水、有機溶媒、および、必要に応じて、金属アルコキシド等を混合し、ガスバリア性組成物を調製する。混合により、ガスバリア性組成物(塗工液)は、重縮合反応が開始および進行する。
【0082】
次いで、基材フィルム上の前記蒸着膜の上に、常法により、上記のガスバリア性組成物を塗布し、および乾燥する。この乾燥工程によって、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、金属アルコキシド、シランカップリング剤およびポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体等の重縮合が更に進行し、塗布膜が形成される。第一の塗布膜の上に、更に上記塗布操作を繰り返して、2層以上からなる複数の塗布膜を形成してもよい。
【0083】
次いで、上記ガスバリア性組成物を塗布した基材フィルムを20℃〜180℃、かつ基材フィルムの融点以下の温度、好ましくは、50℃〜160℃の範囲の温度で、10秒〜10分間加熱処理する。これによって、前記蒸着膜の上に、上記ガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を1層ないし2層以上形成したバリア性フィルムを製造することができる。
【0084】
なお、エチレン・ビニルアルコール共重合体単独、またはポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体との両者を用いて得られたバリア性フィルムは、熱水処理後のガスバリア性に優れる。一方、ポリビニルアルコール系樹脂のみを使用してバリア性フィルムを製造した場合には、予め、ポリビニルアルコール系樹脂を使用したガスバリア性組成物を塗工して第1の塗布膜を形成し、次いで、その塗布膜の上に、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有するガスバリア性組成物を塗工して第2の塗布膜を形成し、それらの複合層を形成すると、熱水処理後のガスバリア性が向上したバリア性フィルムを製造することができる。
【0085】
更に、上記エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有するガスバリア性組成物により塗布膜を形成し、または、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて含有するガスバリア性組成物により塗布膜を形成し、これらを複数積層しても、バリア性フィルムのガスバリア性の向上に有効な手段となる。
【0086】
本発明で使用するガスバリア性積層フィルムの製造法について、アルコキシドとしてアルコキシシランを使用し、より詳細に説明する。
ガスバリア性組成物として配合されたアルコキシシランや金属アルコキシドは、添加された水によって加水分解される。加水分解の際には、酸が加水分解の触媒として作用する。次いで、ゾルゲル法触媒の働きによって、加水分解によって生じた水酸基からプロトンが奪取され、加水分解生成物同士が脱水重縮合する。このとき、酸触媒により同時にシランカップリング剤も加水分解されて、アルコキシ基が水酸基となる。
【0087】
また、塩基触媒の働きによりエポキシ基の開環も起こり、水酸基が生じる。また、加水分解されたシランカップリング剤と加水分解されたアルコキシドとの重縮合反応も進行する。反応系にはポリビニルアルコール系樹脂、または、エチレン・ビニルアルコール共重合体、または、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体が存在するため、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体が有する水酸基との反応も生じる。なお、生成する重縮合物は、例えば、Si−O−Si、Si−O−Zr、Si−O−Ti、その他等の結合からなる無機質部分と、シランカップリング剤に起因する有機部分とを含有する複合ポリマーである。
【0088】
上記反応において、例えば、下記の式(III)に示される部分構造式を有し、更に、シランカップリング剤に起因する部分を有する直鎖状のポリマーがまず生成する。
【0089】
【化1】

【0090】
このポリマーは、OR基(エトキシ基などのアルコキシ基)が、直鎖状のポリマーから分岐した形で有する。このOR基は、存在する酸が触媒となって加水分解されてOH基となり、ゾルゲル法触媒(塩基触媒)の働きにより、まず、OH基が、脱プロトン化し、次いで、重縮合が進行する。すなわち、このOH基が、下記の式(I)に示されるポリビニルアルコール系樹脂、または、下記の式(II)に示されるエチレン・ビニルアルコール共重合体と重縮合反応し、Si−O−Si結合を有する、例えば、下記の式(IV)に示される複合ポリマー、あるいは、下記の式(V)及び(VI)に示される共重合した複合ポリマーを生じると考えられる。
【0091】
【化2】

【0092】
【化3】

【0093】
【化4】

【0094】
【化5】

【0095】
【化6】

【0096】
上記の反応は常温で進行し、ガスバリア性組成物は、調製中に粘度が増加する。このガスバリア性組成物を、基材フィルム上の前記蒸着膜の上に塗布し、加熱して溶媒および重縮合反応により生成したアルコールを除去すると重縮合反応が完結し、基材フィルム上の前記蒸着膜の上に透明な塗布膜が形成される。なお、上記の塗布膜を複数層積層する場合には、層間の塗布膜中の複合ポリマー同士も縮合し、層と層との間が強固に結合する。
【0097】
更に、シランカップリング剤の有機反応性基や、加水分解によって生じた水酸基が、基材フィルム、または、基材フィルム上の有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜の表面の水酸基等と結合するため、基材フィルム、または前記蒸着膜表面と、塗布膜との接着性も良好なものとなる。このように、本発明においては、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜とガスバリア性塗布膜とが、例えば、加水分解・共縮合反応による化学結合、水素結合、あるいは、配位結合などを形成するため、蒸着膜とガスバリア性塗布膜との密着性が向上し、その2層の相乗効果により、より良好なガスバリア性の効果を発揮し得る。
【0098】
なお、本発明では、添加される水の量をアルコキシド類1モルに対して0.8〜2モル、好ましくは1.0〜1.7モルに調節した場合には、上記直鎖状のポリマーが形成される。このような直鎖状ポリマーは結晶性を有し、非晶質部分の中に多数の微小の結晶が埋包された構造をとる。このような結晶構造は、結晶性有機ポリマー(例えば、塩化ビニリデンやポリビニルアルコール)と同様であり、さらに極性基(OH基)が部分的に分子内に存在し、分子の凝集エネルギーが高く分子鎖剛性も高いため、特にガスバリア性(O2、N2、H2O、CO2、その他等の透過を遮断、阻止する)に優れる。更に、この水酸基によって接着性樹脂層と化学的に結合し、強固な積層構造を形成することができる。
【0099】
上記の本発明のガスバリア性組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアロールコーターなどのロールコート、スプレーコート、スピンコート、デイツピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の塗布手段により、1回あるいは複数回の塗布で、乾燥膜厚が、0.01〜30μm、好ましくは、0.1〜10μm位の塗布膜を形成することができ、更に、通常の環境下、50〜300℃、好ましくは、70〜200℃の温度で、0.005〜60分間、好ましくは、0.01〜10分間、加熱・乾操することにより、縮合が行われ、本発明のガスバリア性塗布膜を形成することができる。
【0100】
(4)ヒートシール性フィルム
ヒートシール性フィルムとしては、熱によって溶融し相互に融着し得る各種のヒートシール性を有するポリオレフィン系樹脂、その他の成形体を使用することができる。具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、これらの金属架橋物、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリプロピレン樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、その他等の樹脂を使用することができる。これらの中でも、加熱加圧殺菌を行う場合には、ポリプロピレンが好適である。
【0101】
本発明においては、上記のような樹脂の1種ないし2種以上を使用し、前記接着性樹脂層を前記ガスバリア性フィルムとヒートシール性フィルムとの間に溶融押出しすることでヒートシール性フィルムを積層することができる。
【0102】
本発明において、ヒートシール性フィルムの厚さとしては、20〜200μm位、好ましくは、40〜100μm位が望ましいものである。
(5)印刷層
本発明においては、上記ガスバリア性積層体を形成するいずれかの層間に所望の印刷模様層を形成することができる。上記の印刷模様層としては、例えば、基材フィルムやガスバリア性塗布膜の上に、通常のグラビアインキ組成物、オフセットインキ組成物、凸版インキ組成物、スクリーンインキ組成物、その他のインキ組成物を使用し、例えば、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、凸版印刷方式、シルクスクリーン印刷方式、その他の印刷方式を使用し、例えば、文字、図形、絵柄、記号、その他からなる所望の印刷絵柄を形成することにより構成することができる。
【0103】
上記インキ組成物について、インキ組成物を構成するビヒクルとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、フッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アルキッド系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、熱硬化型ポリ(メタ)アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、マレイン酸樹脂、ニトロセルロース、エチルセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルオキシエチルセルロースなどの繊維素系樹脂、塩化ゴム、環化ゴムなどのゴム系樹脂、石油系樹脂、ロジン、カゼインなどの天然樹脂、アマニ油、大豆油などの油脂類、その他の樹脂の1種ないし2種以上の混合物を使用することができる。本発明において、上記のようなビヒクルの1種ないし2種以上を主成分とし、これに、染料・顔料などの着色剤の1種ないし2種以上を加え、さらに必要ならば、充填剤、安定剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの光安定剤、分散剤、増粘剤、乾燥剤、滑剤、帯電防止剤、架橋剤、その他の添加剤を任意に添加し、溶剤、希釈剤などで充分に混練してなる各種の形態からなるインキ組成物を使用することができる。
【0104】
印刷層は、文字、図形、記号、絵柄、模様等の所望の印刷絵柄を表刷り印刷しても、あるいは裏刷り印刷してもよく、全面印刷でも、部分印刷でもよい。
(6)他の積層材
本発明においては、ガスバリア性積層体は、変形防止強度、落下衝撃強度、耐ピンホール性、耐熱性、密封性、品質保存性、作業性、衛生性、その他等の種々の条件を向上させるため、上記ガスバリア性積層フィルムに更に、上記諸条件を充足する材料を任意に選択して積層することができる。
【0105】
(7)ガスバリア性積層体の製造方法
本発明で使用するガスバリア性積層体は、前記ガスバリア性フィルムとヒートシール性フィルムとを接着する際に、前記変性方法による変性ポリプロピレン樹脂を溶融押出しして両者を積層および接着することができる。
【0106】
前記変性ポリプロピレン樹脂の押出し温度は、210〜290℃であることが好ましい。ガスバリア性フィルムの上に、前記変性ポリプロピレン樹脂を溶融押出しすることで、ヒートシール性フィルムを溶融することなく基材フィルムとヒートシール性フィルムとを接着することができる。なお、前記したように、本発明のガスバリア性積層体は、ガスバリア性フィルムと前記接着性樹脂層とは、ガスバリア性フィルムの水酸基と前記変性ポリプロピレン樹脂のカルボキシル基などの官能基とが反応して強固に接着される。したがって、従来、溶融押出しの際に使用するアンカーコート剤を使用することなく、簡便にラミネート強度が向上したガスバリア性積層体を製造することができる。
【0107】
(8)包装用容器
本発明において、上記のようなガスバリア性積層体を使用して食品用または医療用包装用容器を製造することができる。例えば、包装用容器がプラスチックフィルム等からなる軟包装袋の場合、上記のような方法で製造した積層材を使用し、その内層のヒートシール性フィルムの面を対向させて、それを折り重ねるか、或いはその二枚を重ね合わせ、更にその周辺端部をヒートシールしてシール部を設けて包装用容器を構成することができる。その製袋方法としては、上記の積層材を、その内層の面を対向させて折り曲げるか、あるいはその二枚を重ね合わせ、更にその外周の周辺端部を、例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、その他等のヒートシール形態によりヒートシールして、本発明にかかる種々の形態の包装用容器を製造することができる。また、例えば、自立性包装袋(スタンディングパウチ)等も製造することが可能であり、更に、本発明においては、上記の積層フィルムを使用してチューブ容器等も製造することができる。
【0108】
上記において、ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。なお、本発明においては、上記のような包装用容器には、例えば、ワンピースタイプ、ツウーピースタイプ、その他等の注出口、あるいは開閉用ジッパー等を任意に取り付けることができる。
【0109】
本発明の食品用または医療用包装用容器を構成するガスバリア性積層体は、上記構成により加熱条件下での耐層間剥離性などの耐熱性に優れる。このため、温度80〜135℃位、圧力1〜3Paで約20〜60分間程度の殺菌工程というレトルト条件下での使用を行うことができる。
【0110】
本発明において、上記のようにして製造した包装用容器は、医薬品、輸液、種々の飲食品、化学品、化粧品、ケミカルカイロ等の雑貨品、その他等の各種の物品の充填包装に使用されるものである。本発明においては、特に、内容物が80〜135℃の加熱殺菌処理を必要とするレトルト用食品や輸液や医薬品等を充填包装する医療用包装容器として有用である。
【実施例】
【0111】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
(製造例1)
下記方法で変性ポリプロピレンを製造した。
【0112】
密度=0.89g/cm3、MFR(230℃)=0.8g/min.のポリプロピレンを210℃に設定した単軸押出機を用いて無水マレイン酸変性を行い、接着性樹脂を得た。該方法で得られた接着性樹脂の融点は、DSCを用いた融点測定で、終了温度が160℃であった。
【0113】
(実施例1)
片面をコロナ処理した厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これをプラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、次いで、上記の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ処理面に、有機珪素化合物であるヘキサメチルジシロキサン(以下、HMDSOという。)を供給して、厚さ200nmの蒸着膜を形成し、この蒸着膜面にプラズマ処理を行った。次いで、下記の表1に示す組成に従って、組成a.EVOH(エチレン共重合比率29%)をイソプロピルアルコールおよびイオン交換水の混合溶媒にて溶解したEVOH溶液に、予め調製した組成b.のエチルシリケート40、イソプロピルアルコール、アセチルアセトンアルミニウム、イオン交換水からなる加水分解液を加えて攪拌、更に予め調製した組成c.のポリビニルアルコール水溶液、シランカップリング剤(エポキシシリカSH6040)、酢酸、イソプロピルアルコール及びイオン交換水からなる混合液を加えて攪拌し、無色透明のバリアー塗工液を得た。
【0114】
【表1】

【0115】
前記プラズマ処理面に、上記で製造したガスバリア性組成物をコーティングして厚さ0.4g/m2(乾操状態)のガスバリア性塗布膜を形成し、ガスバリア性積層フィルムを製造した。
【0116】
上記で形成したガスバリア性積層フィルムのガスバリア性塗布膜の面と、厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、商品名「ZK99」)とを、製造例1で得た変性ポリプロピレンを介して溶融押出法で積層し、ガスバリア性積層フィルム/変性ポリプロピレン層30μm/無延伸ポリプロピレンフィルム70μmの積層体(I)を製造した。

実施例2
片面をコロナ処理を行った厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを巻き取り式の真空蒸着装置の送り出しロールに装着して繰り出し、次いで、上記の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ処理面に、酸化アルミニウムを供給し、膜厚200nmの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成し、酸化アルミニウムの蒸着膜面にプラズマ処理を行った。次いで、下記表2に示す組成に従って、組成a.エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH、エチレン共重合比率29%)をイソプロピルアルコールおよびイオン交換水の混合溶媒にて溶解したEVOH溶液に、予め調製した組成b.のエチルシリケート40、イソプロピルアルコール、アセチルアセトンアルミニウム、イオン交換水からなる加水分解液を加えて攪拌、更に、予め調製した組成c.のポリビニルアルコール系、酢酸、イソプロピルアルコール及びイオン交換水からなる混合液を加えて攪拌し、無色透明のガスバリア性組成物を得た。
【0117】
【表2】

【0118】
前記プラズマ処理層の上に、上記で製造したガスバリア性組成物をコーティングして厚さ0.4g/m2(乾操状態)のガスバリア性塗布膜を形成し、本発明に係るガスバリア性積層フィルムを製造した。
【0119】
上記で形成したガスバリア性積層フィルムのガスバリア性塗布膜の面と、厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、商品名「ZK99」)とを、製造例1で得た変性ポリプロピレンを介して溶融押出法で積層し、ガスバリア性積層フィルム/変性ポリプロピレン層30μm/無延伸ポリプロピレンフィルム70μmの積層体(II)を製造した。

比較例1
1次包材として、厚さ200μmの変性オレフィン系熱可塑性エラストマー(三菱化学社製、商品名「ゼラス」)からなる包装材を調製した。
【0120】
また、2次包材として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに、ドライラミネート用接着剤(三井武田ケミカル社製、商品名「A310/A3」)を介して厚さ15μmの二軸延伸ポリアミドフィルムを積層し、次いで、前記二軸延伸ポリアミドフィルムにドライラミネート用接着剤(ロックペイント株式会社製、主剤「RU40」、硬化剤「H4」)を介して、厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、商品名「ZK99」)を積層し、比較積層体(III)を製造した。

比較例2
比較例1と同様にして1次包材を調製した。
【0121】
また、2次包材として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミドフィルム、厚さ7μmのアルミ箔、厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、商品名「ZK99」)をそれぞれドライラミネート用接着剤(ロックペイント株式会社製、主剤「RU40」、硬化剤「H4」)を介して積層したものを使用した以外は、比較例1と同様にして比較積層体(IV)を調製した。

実験
実施例1,2で調製した積層体を、130mm×165mm四方袋形状に製袋した。これに水を200ml充填し、120℃×30分で加熱加圧殺菌を行った。その後以下の評価を行った。
【0122】
また、比較例1、2の1次包材を130mm×165mm四方袋形状に製袋し、これに水を200ml充填して密封し、これを2次包材からなる155mm×190mmの四方袋形状に密封した。ついで、120℃×30分で加熱加圧殺菌を行った。その後以下の評価を行った。
【0123】
各包装用容器について、酸素透過度、易開封・易廃棄性、および物理的強度を評価した。上記のテスト結果について下記の表3に示す。なお、表3において、酸素透過度の単位は、〔cc/m2/day・23℃・90%RH〕である。

(1) 酸素透過度の測定
温度23℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、オクストラン(OXTRAN)〕にて測定した。

(2)易開封・易廃棄性
各包装用容器を開封して、充填された水を取り出すまでの手間と取り出した後の空袋の廃棄のし易さとを評価した。
【0124】
その結果、実施例1、2とも1次包材だけからなるため、一度の操作だけで水を取り出すことができ、廃棄も容易であった。一方、比較例1,2は、1次包材と2次包材とからなるため、水を取り出すのに複数回の操作が必要となり、廃棄も手間であった。

(3)耐落下性
各包装用容器を120cmの高さから袋形状の垂直方向に落下させ、これを10回繰り返す間に、破袋するかを評価した。
【0125】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明で使用するガスバリア性積層体は、ガスバリア性、透明性に優れ、高温高圧での殺菌条件でも層間剥離を起こさず、かつ接着性樹脂層からの成分の溶出がなく、安全性に優れ、食品用または医療用の包装用容器として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0127】
10・・・ガスバリア性フィルム、
13・・・基材フィルム、
14・・・有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着層、
15・・・塗布膜、
16・・・ガスバリア性塗布膜、
20・・・接着剤樹脂層、
30・・・ヒートシール性フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア性積層体からなり、80〜135℃での加熱殺菌処理に用いる食品または医療用包装用容器であって、
前記ガスバリア性積層体は、ガスバリア性フィルムとヒートシール性フィルムとを溶融押出によって接着性樹脂層で接着して得られたものであり、
前記バリア性フィルムは水酸基を有し、
前記接着性樹脂は、ポリプロピレン樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を有機過酸化物を加え、溶融混練機を用いて変性を行った変性ポリプロピレン樹脂からなることを特徴とする、食品または医療用包装用容器。
【請求項2】
前記ガスバリア性フィルムは、ポリビニルアルコールからなるフィルム、または基材フィルムにポリビニルアルコールを含有する塗布膜を設けたフィルムであることを特徴とする、請求項1記載の食品または医療用包装用容器。
【請求項3】
前記ガスバリア性フィルムは、エチレン・ビニルアルコール共重合体からなるフィルム、または基材フィルムにエチレン・ビニルアルコール共重合体を含有する塗布膜を設けたフィルムであることを特徴とする、請求項1記載の食品または医療用包装用容器。
【請求項4】
前記ガスバリア性フィルムは、基材フィルムの一方の面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を設け、該蒸着膜上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層フィルムであることを特徴とする、請求項1記載の食品または医療用包装用容器。
【請求項5】
前記基材フィルムが、2軸延伸ポリエステル系樹脂フィルム、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム、または2軸延伸ポリオレフィン系樹脂フィルムである、請求項1〜4のいずれかに記載の食品または医療用包装用容器。
【請求項6】
前記蒸着膜は、有機珪素化合物または酸化アルミニウムを含有することを特徴とする、請求項4または5記載の食品または医療用包装用容器。
【請求項7】
前記ガスバリア性組成物が、シランカップリング剤を含むことを特徴とする、請求項4〜6のいずれかに記載の食品または医療用包装用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−158348(P2012−158348A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18019(P2011−18019)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】