説明

ガスバリア用材料の製造方法

【課題】酸素等のガスバリア性の高い成形体用のガスバリア用材料の製造方法の提供。
【解決手段】平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるガスバリア用材料の製造方法であって、原料となる天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、10〜1000倍量(質量基準)の水を加えてスラリーにする工程、触媒としての2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)又はその誘導体と共酸化剤を使用して、前記天然繊維を酸化処理する工程、微細化処理工程を有する、ガスバリア用材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素、水蒸気、二酸化炭素、窒素等の各種ガスの透過を抑制できる層又は前記層を有する成形体を得ることができるガスバリア用材料、前記材料を使用したガスバリア性成形体、前記材料を使用したガスバリア性複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現状の酸素、水蒸気等のガスバリア用材料は、主として化石資源から製造されているため、非生分解性であり、焼却処分せざるを得ない。そこで、再生産可能なバイオマスを原料として、生分解性のある酸素バリア材料を製造することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−334600号公報
【特許文献2】特開2002−348522号公報
【特許文献3】特開2008−1728号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Bio MACROMOLECULES Volume7, Number6,2006年6月,Published by the American Chemical Society
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、ポリウロン酸を含む水溶性多糖類を原料とするガスバリア用材料に関する発明であり、高湿度雰囲気におけるガスバリア性が劣化するおそれがある。
【0006】
特許文献2は、微結晶セルロースを含有するコーティング剤と、それを基材に塗布した積層材料に関する発明である。原料となる微結晶セルロース粉末は、平均粒径が100μm以下のものが好ましいことが記載され、実施例では、平均粒径が3μmと100μmのものが使用されているだけであり、後述の繊維の微細化処理についての記載は一切なく、塗布したコーティング剤層の緻密性や膜強度、基材との密着性に改善の余地がある。
【0007】
特許文献3には微細セルロース繊維に関する発明が開示されており、コーティング材として使用できる可能性が記載されているが、具体的な効果が示された用途については記載されていない。
【0008】
非特許文献1には、酸素バリア等のガスバリア性を発揮することについての開示は全くなされていない。
【0009】
本発明は、生分解性を有し、高湿度雰囲気中においても、各種ガスに対する高いガスバリア性を持続できる緻密な層を得ることができるガスバリア用材料を提供することを1つの課題とする。
【0010】
また本発明は、基材を使用せず、前記ガスバリア用材料のみを成形材料として用いたガスバリア性成形体を提供することを更に他の課題とする。
【0011】
また本発明は、前記ガスバリア用材料と基材を組み合わせた、基材との密着性が良く、各種ガスに対する高いガスバリア性を有するガスバリア性複合成形体を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
(1)平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gである、ガスバリア用材料。
(2)前記セルロース繊維の平均アスペクト比が10〜1,000である、請求項1記載のガスバリア用材料。
(3) 固形分0.1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液を目開き16μmのガラスフィルターを通過させたときに、前記ガラスフィルターを通過させる前のセルロース繊維懸濁液中のセルロース繊維質量に対して、前記ガラスフィルターを通過できるセルロース繊維の質量分率が5%以上である請求項1又は2記載のガスバリア用材料。
(4)固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中に、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体を含まない請求項1又は2記載のガスバリア用材料。
(5)固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液の光透過率が、0.5%以上である請求項1又は2記載のガスバリア用材料
(6)請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスバリア用材料からなるガスバリア性成形体。
(7)基材となる成形体に、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスバリア用材料からなる層を有しているガスバリア性複合成形体。
(8)基材又は防湿層の水蒸気透過度が0.1〜600g/m2・dayである請求項7記載のガスバリア性複合成形体。
(9)基材又は防湿層が生分解性材料又はバイオマス由来材料である請求項7又は8記載のガスバリア性複合成形体。
(10)ガスバリア用材料からなる層の厚みが900nm以下である請求項7〜9のいずれか1項に記載のガスバリア性複合成形体。
(11)ガスバリア用材料からなる層が塗布法又は噴霧法により形成されたものである請求項7〜10のいずれか1項に記載のガスバリア性複合成形体。
【0013】
請求項1の発明における「ガスバリア用材料」は、それ自体を成形することにより、又は他の基材と組み合わせることにより、ガスの透過を抑制できるガスバリア性を発揮できるものである。ガスバリア用材料は、懸濁液状(目視的に透明な液及び不透明な液の両方を含む)、粉末状等の形態をとることができる。
【0014】
バリア対象となるガスには、酸素、水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、窒素酸化物、水素、アルゴンガス等が含まれる。
【0015】
請求項6の発明における「ガスバリア性成形体」は、請求項7の発明における基材を使用していないものであり、所望形状及び大きさのフィルムやシート等の薄状物等を意味するものである。
【0016】
請求項7の発明における「ガスバリア性複合成形体」は、2以上の材質からなる、ガスの透過を抑制する性質を有する成形体である。「基材となる成形体」は、所望形状及び大きさのフィルムやシート等の薄状物、各種形状及び大きさの箱やボトル等の立体容器等を意味するものである。
【0017】
上記した各発明における「ガスバリア性」は、下記の各測定方法により、評価されるものである。
酸素バリア性:ASTM D−1434−75Mに基づいた測定法(差圧法)による酸素透過度。又はJIS K7126−2、付属書Aに準拠した測定法(等圧法)による酸素透過度。
水蒸気バリア性:JIS Z0208に基づいた測定法による水蒸気透過度。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガスバリア用材料を用いて得られるガスバリア性成形体及びガスバリア性複合成形体は、ガスバリア用材料からなる層が緻密な構造を有しており、高いガスバリア性が得られる。更にガスバリア性複合成形体の場合は、基材とガスバリア用材料からなる層の密着性も良く、基材又は防湿層として水蒸気透過度が0.1〜600g/m2・dayのものを用いた場合は、高湿度雰囲気下でも高いガスバリア性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例5の懸濁液の光学顕微鏡写真。
【図2】実施例5の懸濁液の光学顕微鏡写真(クロスニコル)。
【図3】実施例7の懸濁液の光学顕微鏡写真。
【図4】実施例7の懸濁液の光学顕微鏡写真(クロスニコル)。
【図5】比較例7の懸濁液の光学顕微鏡写真。
【図6】比較例7の懸濁液の光学顕微鏡写真(クロスニコル)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<ガスバリア用材料>
本発明で用いるセルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下のものであり、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmのものである。平均繊維径は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0021】
本発明で用いるセルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量は、高いガスバリア性を得ることができる観点で、0.1〜2mmol/gであり、好ましくは0.4〜2mmol/g、より好ましくは0.6〜1.8mmol/gであり、更に好ましくは0.6〜1.6mmol/gである。カルボキシル基含有量は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。カルボキシル基含有量が0.1mmol/g未満であると、後述の繊維の微細化処理を行っても、セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下に微細化されない。
【0022】
なお、本発明で用いるセルロース繊維は、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が上記範囲のものであるが、実際の製造過程における酸化処理等の制御状態によっては、酸化処理後のセルロース繊維中に前記範囲を超えるものが不純物として含まれることもあり得る。
【0023】
本発明で用いるセルロース繊維は、平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものである。平均アスペクト比は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0024】
本発明のガスバリア用材料は、ガス透過を抑制できるバリア層を形成するために使用するものであり、例えば、前記材料のみからなる単層のフィルムやシート等の成形体の製造原料にすることができ、その他、適当な基材上に前記材料からなる1層又は複数層が形成された複合成形体の製造原料にすることができる。
【0025】
本発明のガスバリア用材料は、例えば、次の方法により製造することができる。まず、原料となる天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理して、スラリーにする。
【0026】
原料となる天然繊維としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等を用いることができる。
【0027】
次に、触媒として2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用して、前記天然繊維を酸化処理する。触媒としては他に、TEMPOの誘導体である4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。
【0028】
TEMPOの使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、0.1〜10質量%となる範囲である。
【0029】
酸化処理時には、TEMPOと共に、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を共酸化剤として併用する。
【0030】
酸化剤は次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、及び過有機酸などが使用可能であるが、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムなどのアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩である。酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜100質量%となる範囲である。
【0031】
共酸化剤としては、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムを使用することが好ましい。共酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜30質量%となる範囲である。
【0032】
スラリーのpHは、酸化反応を効率良く進行させる点から9〜12の範囲で維持されることが望ましい。
【0033】
酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また反応時間は1〜240分間が望ましい。
【0034】
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗等により除去する。この段階では反応物繊維は微細化されていないので、水洗とろ過を繰り返す精製法で行うことができる。必要に応じて乾燥処理した繊維状や粉末状のガスバリア用材料の中間体(後述の微細化処理前のガスバリア用材料)を得ることができる。
【0035】
その後、該中間体を水等の溶媒中に分散し、微細化処理をする。微細化処理は、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサーで所望の繊維幅や長さに調整することができる。この工程での固形分濃度は50質量%以下が好ましい。それを超えると分散にきわめて高いエネルギーを必要とすることから好ましくない。
【0036】
このような微細化処理により、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を得ることができ、更に平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものであるセルロース繊維を得ることができる。
【0037】
その後、必要に応じて固形分濃度を調整した懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)又は必要に応じて乾燥処理した粉末状(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状物であり、セルロース粒子を意味するものではない)のガスバリア用材料を得ることができる。なお、懸濁液にするときは、水のみを使用したものでもよいし、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用したものでもよい。
【0038】
このような酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、前記カルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのセルロースからなる、平均繊維径が200nm以下の微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。この高結晶性セルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有している。これは、このセルロース繊維は、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化されて、微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維はその生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造が構築されているが、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、アルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、さらに微細化処理を経ることで微細セルロース繊維が得られる。
【0039】
そして、酸化処理条件を調整することにより、前記のカルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前述の微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0040】
上記の酸化処理、微細化処理によって得られたセルロース繊維は、下記の(I)、(II)、(III)の要件を満たすことができる。
(I):固形分0.1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中のセルロース繊維質量に対して、目開き16μmのガラスフィルターを通過できるセルロース繊維の質量分率が5%以上である、性能の良好なガスバリア用材料を得ること。
(II):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中に、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体を含まないこと。
(III):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液の光透過率が、0.5%以上になること。
【0041】
要件(I):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分0.1質量%の懸濁液は、目開き16μmのガラスフィルターを通過させたときに、該ガラスフィルター通過前の懸濁液中に含まれる全セルロース繊維量に対して質量分率5%以上が該ガラスフィルターを通過できるものである(該ガラスフィルターを通過できる微細セルロース繊維の質量分率を微細セルロース繊維含有率とする)。ガスバリア性の観点から、微細セルロース繊維含有率は、好ましくは30%以上、より好ましくは90%以上である。
【0042】
要件(II):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%の懸濁液は、原料として用いた天然繊維が微細化されており、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体は含まないものが好ましい。ここで、粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。この粒状体の有無の判定は、後述の光学顕微鏡による観察で行った。
【0043】
要件(III):前記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%のセルロース繊維懸濁液は、光透過率が0.5%以上であることが好ましく、ガスバリア性の観点から、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上である。
【0044】
そして、上記の酸化処理、微細化処理により得られるガスバリア用材料からなるガスバリア層は、微細セルロース繊維間の水素結合や架橋的な強い相互作用が生まれ、ガスの溶解、拡散を抑制し、高い酸素バリア性等のガスバリア性を発現できるものと考えられる。また、セルロース繊維の巾や長さによって、成形後のセルロース繊維間の細孔サイズや細孔分布を変化させることができるため(即ち、分子篩効果を変化させることができるため)、分子選択的バリア性も期待できる。
【0045】
本発明のガスバリア用材料を懸濁液状にするとき、目的に応じた成形ができるように固形分濃度を調整すればよく、例えば、固形分濃度は0.05〜30質量%の範囲にすることができる。
【0046】
なお、ガスバリア用材料には、本発明の課題を解決できる種類及び量の範囲内において、公知の充填剤、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤(シランカップリング剤等)、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、架橋剤(エポキシ基、イソシアネート基等の反応性官能基を有する添加剤)、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等を配合することができる。
【0047】
<ガスバリア性成形体>
本発明のガスバリア性成形体は、懸濁液状のガスバリア用材料を成形したものである。
【0048】
本発明のガスバリア性の成形体は、例えば、次のようにして製造することができる。なお、ガスバリア用材料として、微細化処理した酸化セルロース繊維の懸濁液を使用する。このときの懸濁液の粘度は10〜5000mPa・sである。
【0049】
ガラス板等の基板上に、ガスバリア用材料を流延塗布した後、自然乾燥又は送風乾燥等の乾燥法により乾燥して膜を形成する。その後、基板から膜を剥がして、本発明のガスバリア性成形体(ガスバリア性膜)を得る(実施例に記載の“キャスト法”)。
【0050】
本発明のガスバリア性成形体は、ガスバリア用材料に含まれるセルロース繊維のカルボキシル基量やアスペクト比及びガスバリア性成形体の厚みを制御することにより、仕様(ハイバリア性、透明性など)に応じた成形体を得ることができる。
【0051】
<ガスバリア性複合成形体>
本発明のガスバリア性複合成形体は、基材となる成形体に、上記したガスバリア用材料からなる層を有しているものである。
【0052】
基材の一面又は両面に対して、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法により、好ましくは塗布法又は噴霧法により、ガスバリア用材料を付着させ、ガスバリア層(ガスの透過を抑制できる層)を形成する。その後、自然乾燥、送風乾燥等の方法により乾燥する。
【0053】
また、基材に対して、予め作製したガスバリア用材料からなるガスバリア性成形体を貼り合わせて積層する方法を適用することができる。貼り合わせる方法としては、接着剤を使用する方法、熱融着法等の公知の方法を適用できる。
【0054】
ガスバリア用材料からなる層(ガスバリア層)の厚みは、20〜900nmが好ましく、より好ましくは50〜700nm、更に好ましくは100〜500nmである。
【0055】
基材となる成形体は、所望形状及び大きさのフィルム、シート、織布、不織布等の薄状物、各種形状及び大きさの箱やボトル等の立体容器等を用いることができる。これらの成形体は、紙、板紙、プラスチック、金属(多数の穴の開いたものや金網状のもので、主として補強材として使用されるもの)又これらの複合体等からなるものを用いることができ、それらの中でも、紙、板紙等の植物由来材料、生分解性プラスチック等の生分解性材料又はバイオマス由来材料にすることが好ましい。基材となる成形体は、同一又は異なる材料(例えば接着性やぬれ性向上剤)の組み合わせからなる多層構造にすることもできる。
【0056】
基材となるプラスチックは、用途に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、66、6/10、6/12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポ
リエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル、セルロース等のセロハン、三酢酸セルロース(TAC)等から選ばれる1又は2以上を用いることができる。
【0057】
基材となる成形体の厚みは特に制限されるものではなく、用途に応じた強度が得られるように適宜選択すればよく、例えば、1〜1000μmの範囲にすることができる。
【0058】
本発明のガスバリア性複合成形体のガスバリア用材料からなる層は、高湿度条件では水蒸気がガスバリア層に溶解、拡散し、緻密な構造が乱れるので、ガスバリア性は低下する。
【0059】
そこで、本発明のガスバリア性複合成形体は、高い防湿性能を有する基材を用いても良いし、ガスバリア性複合成形体にさらに防湿層を積層してガスバリア性複合成形体としてもよい。
【0060】
防湿層を積層する方法としては、接着剤を使用する方法、熱融着法等で貼り合わせる方法や、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法を適用できる。ここで、高い防湿性能を有する基材や防湿層は、ポリオレフィンやポリエステル等のプラスチック、これらに無機酸化物(酸化アルミや酸化ケイ素等)を蒸着したもの、これらを板紙に積層したもの、ワックスやワックスを紙にコートしたもの等を用いることができる。高い防湿性能を有する基材や防湿層は、水蒸気透過度が0.1〜600g/m2・day、好ましくは0.1〜300g/m2・day、より好ましくは0.1〜100g/m2・dayのものを用いることが好ましい。前記の高い防湿性能を有する基材や防湿層を有するガスバリア性複合成形体にすることで、ガスバリア層への水蒸気の溶解、拡散を抑制することができるため、高湿度条件におけるガスバリア性の低下を抑制できる。
【0061】
本発明のガスバリア性複合成形体は、ガスバリア用材料に含まれるセルロース繊維のカルボキシル基量やアスペクト比、ガスバリア用材料からなる層の厚み、基材及び防湿層の水蒸気透過度を制御することにより、仕様(ハイバリア性、透明性など)に応じた複合成形体を得ることができる。
【実施例】
【0062】
表1に示す各項目の測定方法は、次のとおりである。
【0063】
(1)懸濁液の性質
(1-1)光透過率
分光光度計(UV−2550、株式会社島津製作所製)を用い、濃度1質量%の懸濁液の波長660nm、光路長1cmにおける光透過率(%)を測定した。なお、一部の実施例、比較例については濃度1質量%以外で測定を行った。
(1-2)粘度
E型粘度計(VISCONIC、TOKIMEC製)を用い、23℃、回転数5rpmで濃度1質量%の懸濁液の粘度を測定した。なお、一部の実施例、比較例については濃度1質量%以外で測定を行った。
【0064】
(2)セルロース繊維
(2-1)平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比
セルロース繊維の平均繊維径は、0.0001質量%に希釈した懸濁液をマイカ上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製,プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)使用)で繊維高さを測定した。セルロース繊維が確認できる画像において、5本以上抽出し、その繊維高さから平均繊維径を求めた。
【0065】
平均アスペクト比は、セルロース繊維を水で希釈した希薄懸濁液(0.005〜0.04質量%)の粘度から算出した。粘度の測定には、レオメーター(MCR300、DG42(二重円筒)、PHYSICA社製)を用いて、20℃で測定した。セルロース繊維の質量濃度とセルロース繊維懸濁液の水に対する比粘度の関係から、次式でセルロース繊維のアスペクト比を逆算し、セルロース繊維の平均アスペクト比とした。
【0066】
【数1】

(The Theory of Polymer Dynamics, M.DOI and D.F.EDWARDS, CLARENDON PRESS・OXFORD,1986,P312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)を利用した(ここでは、剛直棒状分子=セルロース繊維とした)。(8.138)式と Lb2×ρ0=M/NAの関係から数式1が導出される。ここで、ηspは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρsは分散媒の密度(kg/m3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρs)、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロース繊維断面は正方形とする)、ρはセルロース繊維の濃度(kg/m3)、Mは分子量、NAはアボガドロ数を表す)。
なお、比較例5、7においては上記の測定方法の導入が困難であり、原子間力顕微鏡又は光学顕微鏡(ECLIPSE E600 POL 、NIKON社製)によって撮影された画像より、5点以上のセルロース固形物を抽出し、繊維径、繊維長、アスペクト比(繊維長/繊維径)を導いた。比較例5は原子間力顕微鏡画像から繊維長を測定し、繊維径との比率からアスペクト比を算出した。比較例7は粒状体を含んでおり、光学顕微鏡画像からセルロース固形物を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)からアスペクト比を算出した(表3には、その短軸を繊維径、長軸を繊維長として記した)。
【0067】
平均繊維長は、上記の方法より測定された繊維径とアスペクト比より算出した。
【0068】
(2-2)カルボキシル基含有量(mmol/g)
酸化したパルプの絶乾重量約0.5gを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えてパルプ懸濁液を調製し、パルプが十分に分散するまでスタラーにて攪拌した。そして、0.1M塩酸を加えてpH2.5〜3.0としてから、自動滴定装置(AUT−501、東亜デイーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で注入し、パルプ懸濁液の1分ごとの電導度とpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続けた。そして、得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。
天然セルロース繊維はセルロース分子約20〜1500本が集まって形成される高結晶性ミクロフィブリルの集合体として存在する。本発明で採用しているTEMPO酸化反応では、この結晶性ミクロフィブリル表面に選択的にカルボキシル基を導入することができる。したがって、現実には結晶表面にのみカルボキシル基が導入されているが、上記測定方法によって定義されるカルボキシル基含有量はセルロース重量あたりの平均値である。
【0069】
(2-3)セルロース繊維懸濁液中の微細セルロース繊維の質量分率(微細セルロース繊維含有率)(%)
セルロース繊維懸濁液を0.1質量%に調製して、その固形分濃度を測定した。続いて、そのセルロース繊維懸濁液を目開き16μmのガラスフィルター(25G P16,SHIBATA社製)で吸引ろ過した後、ろ液の固形分濃度を測定した。ろ液の固形分濃度(C1)をろ過前の懸濁液の固形分濃度(C2)で除した(C1/C2)値を微細セルロース繊維含有率(%)として算出した。
【0070】
(2-4)懸濁液の観察
固形分1質量%に希釈した懸濁液をスライドガラス上に1滴滴下し、カバーガラスをのせて観察試料とした。この観察試料の任意の5箇所を光学顕微鏡(ECLIPSE E600 POL NIKON社製)を用いて倍率400倍で観察し、粒子径が1μm以上のセルロース粒状体の有無を確認した。粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。このときクロスニコル観察によって、より明瞭に確認することもできる。
【0071】
(3)ガスバリア性フィルム
(3-1)酸素透過度(差圧法)(cm3/m2・day・Pa)
ASTM D−1434−75M法に基づいて、ガス透過測定装置(型式M-C3、(株)東洋精機製作所製)を用い、試料を24時間真空引き後、23℃の条件で測定した。
(3-2)酸素透過度(等圧法)(cm3/m2・day・Pa) JIS K7126−2 付属書Aの測定法に準拠して、酸素透過率測定装置OX−TRAN2/21(型式ML&SL、MODERN CONTROL社製)を用い、23℃、湿度0%RHの条件で測定した。具体的には、23℃、湿度0%RHの酸素ガス、23℃、湿度0%の窒素ガス(キャリアガス)環境下で測定を行った。また、一部複合成形体に関しては23℃、湿度90%RHの条件で測定を行った。
【0072】
(3-3)水蒸気透過度(g/m2・day)
JIS Z0208に基づき、カップ法を用いて、40℃、90%RHの環境下の条件で測定した。
【0073】
実施例1
〔ガスバリア用材料の製造〕
(1)原料、触媒、酸化剤、共酸化剤
天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株) Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))。
【0074】
(2)製造手順
まず、上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維3gを297gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量3gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム14.2質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5に保持し、温度20℃で酸化反応を行った。
【0075】
次に、60分の酸化時間で滴下を停止し、酸化パルプを得た。該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理を行い23℃の雰囲気下で自然乾燥した。その後、酸化パルプ0.75gとイオン交換水299.25gをミキサー(IFM−650D、岩谷産業(株)製)にて10分間攪拌する(微細化処理時間が10分)ことにより、繊維の微細化処理を行い、懸濁液を得た。得られたガスバリア用材料中の酸化パルプの固形分濃度は、0.25質量%であった。
【0076】
〔ガスバリア性成形体の製造〕
前記の方法で製造されたガスバリア用材料(カルボキシル基量:0.92mmol/g、酸化パルプ量:0.25質量%)を使用し、基材シートを使用せずに、ガスバリア用材料をそのままプラスチックシャーレにキャストし、23℃で乾燥後、剥離しガスバリア性成形体を得た(キャスト法)。乾燥後の膜厚は9μmであった。次いで、表1に示す各項目の測定をした。
【0077】
〔ガスバリア性複合成形体の製造〕
実施例2
実施例1と同様にしてガスバリア用材料を得た。基材シートとしてポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み7μm)の片側面上に、前記のガスバリア用材料をバーコーター(#50)で塗布した後、23℃で120分間乾燥して、ガスバリア性複合成形体を得た。次いで、表1に示す各項目の測定をした。
【0078】
実施例3
実施例1と同様にしてガスバリア用材料を得た。ポリ乳酸(PLA)シート(コロナ放電処理済み品、シート厚み25μm,商品名PGパルグリーンLC−4:トーセロ(株)社製)の片側面上に、前記のガスバリア用材料をバーコーター(#50)で塗布した後、23℃で120分間乾燥して、ガスバリア性複合成形体を得た。なお、コロナ放電処理済みのポリ乳酸シートを使用したにも拘わらず塗布時に撥水作用が認められたため、イソプロピルアルコールをガスバリア用材料に30質量%ブレンドし、シートに塗布した。次いで、表1に示す各項目の測定をした。
【0079】
比較例1
実施例2で使用した基材シートであるPETシート(シート厚み7μm)(ガスバリア用材料を塗布していない)について、表1に示す各項目の測定をした。
【0080】
比較例2
実施例3で使用した基材シートであるポリ乳酸シート(コロナ放電処理済み品、シート厚み25μm)(ガスバリア用材料を塗布していない)について、表1に示す各項目の測定をした。
【0081】
【表1】

【0082】
表1中、実施例2、3のガスバリア層の厚みはセルロースの比重を1.5として、湿潤膜厚と固形分から算出した値である。この値は原子間力顕微鏡で測定した膜厚とよく一致していた。実施例1〜3と比較例1、2を比較すると、実施例1のガスバリア性成形体は大幅なガスバリア性の向上が認められる。また、実施例2、3のはガスバリア性複合成形体はガスバリア層の厚みが薄膜のものであっても、ガスバリア性(酸素バリア性及び水蒸気バリア性)の大幅な向上が認められた。ガスバリア層を薄くできることで経済性に優れたガスバリア性複合成形体を得ることができる。また実施例3は基材シート、ガスバリア層ともに生分解性を有したガスバリア性複合成形体である。
【0083】
実施例4〜5
上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量100gに対し、TEMPO0.31質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム14.2質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。
【0084】
次に、表2に示す各実施例の所定の酸化時間で滴下を停止し、酸化パルプを得た。該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理を行った。その後、酸化パルプ100gとイオン交換水9900gをミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪ケミカル(株)製)にて表2に記載の微細化処理時間だけ攪拌することにより、繊維の微細化処理を行い、懸濁液を得た。得られたガスバリア用材料中の酸化パルプの固形分濃度は、1.0質量%であった。
【0085】
次に、基材シートとしてポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み7μm)の片側面上に、このガスバリア用材料(酸化パルプ量:1.0質量%)をバーコーター(#50)で塗布した後、23℃で6時間乾燥して、ガスバリア性複合成形体を得た。次いで、表2に示す各項目の測定をした。なお、実施例5については、微細化処理後の懸濁液の光学顕微鏡写真(図1)と光学顕微鏡写真(クロスニコル)(図2)を示す。
【0086】
実施例6〜8
TEMPO1.25質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%の変更以外は実施例4と同様(条件は表2に記載)にガスバリア用材料を得た。次に、実施例4と同様にして、ガスバリア性複合成形体を得て、表2に示す各項目の測定をした。なお、実施例7については、懸濁液の光学顕微鏡写真(図3)と光学顕微鏡写真(クロスニコル)(図4)を示す。
【0087】
実施例9〜10
TEMPO1.25質量%、次亜塩素酸ナトリウム56.8質量%の変更以外は実施例4と同様(条件は表2に記載)にガスバリア用材料を得た。次に、実施例4と同様にして、ガスバリア性複合成形体を得て、表2に示す各項目の測定をした。
【0088】
実施例11
マイクロクリスタリンセルロース(MCC)(KC−フロック300G 日本製紙ケミカル(株)製)からTEMPO1.25質量%、次亜塩素酸ナトリウム56.8質量%の変更以外は実施例4と同様(条件は表2に記載)にガスバリア用材料を得た。次に、実施例4と同様にして、ガスバリア性複合成形体を得て、表2に示す各項目の測定をした。
【0089】
実施例12
バクテリアセルロース1gに299gのイオン交換水でミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪ケミカル(株)製)で10分間攪拌後、バクテリアセルロース質量1gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にて、pHを10.5に保持し、酸化反応を行った。
【0090】
次に、240分の酸化時間で滴下を停止し、酸化バクテリアセルロースを得た。該酸化バクテリアセルロースをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理を行った。その後、酸化バクテリアセルロース1gにイオン交換水199gを加えて、ミキサー(日本精機社製ED−4 Z58K−213)にて10分間攪拌することにより、バクテリアセルロースの微細化処理を行い、懸濁液を得た。得られたガスバリア用材料中の酸化バクテリアセルロースの固形分濃度は、0.5質量%であった。次に、実施例4と同様(ただしバーコーター(♯100)を使用)にして、ガスバリア性複合成形体を得て、表2に示す各項目の測定をした。
【0091】
実施例13
バクテリアセルロース1gを299gのイオン交換水でミキサー(ED−4 日本精機社製)で10分間攪拌後、バクテリアセルロース質量1gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にて、pHを10.5に保持し、酸化反応を行った。
【0092】
次に、60分の酸化時間で滴下を停止し、酸化バクテリアセルロースを得た。該酸化バクテリアセルロースをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理を行った。その後、酸化バクテリアセルロース1gにイオン交換水99gを加えて、ミキサー(ED−4 日本精機社製)にて5間攪拌することにより、バクテリアセルロースの微細化処理を行い、懸濁液を得た。得られたガスバリア用材料中の酸化バクテリアセルロースの固形分濃度は、1.0質量%であった。次に、実施例4と同様にして、ガスバリア性複合成形体を得て、表2に示す各項目の測定をした。
【0093】
実施例14〜18
実施例7と同様にして得られたガスバリア用材料を表2に記載の基材シートに実施例4と同様にして塗布、乾燥して、ガスバリア性複合成形体を得た。なお、実施例15〜18のガスバリア材料の懸濁液にはイソプロピルアルコールを30質量%ブレンドしてシートを塗布した。なお、表2記載の基材シートは以下に示す商品である。
トリアセテートセルロース(TAC)シート(商品名:ロンザタック、パナック社製、シート厚み50μm)、ポリラミネート紙(ポリオレフィンシート及びパルプシートの積層シート、シート厚み500μm)、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:GE、帝人社製、シート厚み25μm)、ポリ乳酸(PLA)シート(コロナ放電処理済み品、商品名PGパルグリーンLC−4:トーセロ(株)社製、シート厚み25μm)、及びこのPLAシートをアクリルゴム接着剤によって2枚貼り合わせて厚み50μmとしたもの。
【0094】
【表2】

【0095】
表2に示すとおり、カルボキシル基量とアスペクト比を制御することにより、仕様に応じた酸素バリア性を有するガスバリア性複合成形体を形成することができる。
【0096】
実施例4〜10は、出発原料として、針葉樹クラフトパルプを用い、種々の酸化条件、微細化処理条件で検討した結果である。高い酸素バリア性の発現は、カルボキシル量とアスペクト比の調整により達成できることがわかる。なかでも実施例6〜10に見られるように、カルボキシル基量が0.6〜1.6mmol/gで、より高い酸素バリア性を示し、実施例6〜8で同じカルボキシル基量で比較するとアスペクト比が小さくなるほどより高い酸素バリア性を示すことがわかる。
【0097】
また実施例6〜10のガスバリア用材料の懸濁液の光透過率は90%以上であり、高い酸素バリア性と高い透明性を有したガスバリア性複合成形体であった。さらに実施例4〜10は5%以上の微細セルロース繊維含有率を示し、特に90%以上の微細セルロース繊維含有率を有する実施例6〜10はより高い酸素バリア性を示した。また、水蒸気透過度も比較例1と比べて、約10g/m2・day低下しており、水蒸気バリア性の向上が認められた。
【0098】
実施例5と実施例7の懸濁液の光学顕微鏡像を図1、2、3、4に示す。図1、2(実施例5)中ではセルロース繊維が確認できるが、図3、4(実施例7)中では懸濁液に含まれている繊維のほとんどが微細化されているのでセルロース繊維が確認できない。この結果は微細セルロース繊維含有率の傾向と一致する。また図1、2、3、4に示す通り、粒子径1μm以上のセルロースの粒状体は確認できなかった。
【0099】
実施例11は、マイクロクリスタリンセルロースを出発原料として、TEMPO酸化後、微細化処理を行って得られた懸濁液からのガスバリア性複合成形体である。後述の比較例7(実施例11の微細化処理工程を有しないもの)と比較し、優れた酸素バリア性が得られている。すなわち比較例7を微細化処理することで得られた微細セルロース繊維が、より緻密なガスバリア層を形成し、高いガスバリア性が得られたと考えられる。
【0100】
実施例12、13は、バクテリアセルロースをTEMPO酸化後、微細化処理を行って得られた懸濁液からのガスバリア性複合成形体である。後述の比較例5(バクテリアセルロースの酸化処理、微細化処理工程を有しないもの)と比較し、カルボキシル基の導入により、懸濁液の光透過率も向上し酸素バリア性も大幅に向上した。
【0101】
実施例14〜18は、水蒸気透過度の異なる基材シートを選択した場合の該ガスバリア性複合成形体の水蒸気透過度を調べた結果である。表2から明らかなように基材の水蒸気透過度が低いと該ガスバリア性複合成形体の水蒸気透過度も低いことがわかる。例えば、実施例18のポリラミネート紙の水蒸気透過度は12g/m2・dayであり、該基材に僅か300nmの該ガスバリア用材料のコートで7.3g/m2・dayまで低下することがわかる。このように、水蒸気のガスバリア用材料からなる層への溶解,拡散を抑えることにより、微細セルロース繊維同士の水素結合による高い凝集力が維持されたため、高い水蒸気バリア性が発現したものと推測される。この結果は、低湿度環境下での酸素バリア性の結果とよく一致する。
【0102】
比較例3
上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維1gに99gのイオン交換水加えて、1.0質量%の懸濁液を調製した。実施例4の塗布工程、乾燥工程と同様にして、複合成形体を得て、表3に示す各項目の測定をした。
【0103】
比較例4
ミクロフィブリルセルロース(ダイセル化学工業(株)製)1gに99gのイオン交換水加えて、1.0質量%の懸濁液を調製した。実施例4の塗布工程、乾燥工程と同様にして、複合成形体を得て、表3に示す各項目の測定をした。
【0104】
比較例5
バクテリアセルロース1gに99gのイオン交換水加えて、1.0質量%の懸濁液を調製した。実施例4の塗布工程、乾燥工程と同様にして、複合成形体を得て、表3に示す各項目の測定をした。
【0105】
比較例6
低結晶性セルロース10gを990gのイオン交換水で十分攪拌後、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム42.9質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5、温度20℃に保持し、酸化反応を行った。次いで、固形分が完全に溶解したところで滴下を停止し、得られた水溶液をエタノール中に注いだ。沈殿物を捕集し、自然乾燥してポリウロン酸を得た。調製したポリウロン酸2gをイオン交換水98gに溶解し、さらにイソプロピルアルコールを30質量%ブレンドした。実施例4の塗布工程、乾燥工程と同様にして、複合成形体を得て、表3に示す各項目の測定をした。
【0106】
比較例7
微細化処理を除いた以外は実施例7と同様にして、3.0質量%MCC懸濁液を調製し、さらにイソプロピルアルコールを該懸濁液に30質量%ブレンドした。実施例4の塗布工程、乾燥工程と同様にして、複合成形体を得て、表3に示す各項目の測定をした。なお、比較例7については、懸濁液の光学顕微鏡写真(図5)と光学顕微鏡写真(クロスニコル)(図6)を示す。
【0107】
比較例8
レーヨン繊維(56dtex×5mm、ダイワボウ製)10gを990gのイオン交換水で十分攪拌後、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム42.9質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5、温度20℃に保持し、酸化反応を行った。
【0108】
次いで、固形分が完全に溶解したところで滴下を停止し、得られた水溶液をエタノールに注ぎ、沈殿物を捕集し、自然乾燥してポリウロン酸を得た。調製したポリウロン酸4gをイオン交換水96gに溶解し、さらにイソプロピルアルコールを30質量%ブレンドした。実施例4の塗布工程、乾燥肯定と同様にして、複合成形体を得て、表3に示す各項目の測定をした。
【0109】
比較例9〜13
実施例14〜18で使用した基材シートについて表3に記載の各項目を測定した。
【0110】
【表3】

【0111】
比較例3、4、5は、カルボキシル基量が0.1mmol/g以下で分散不良であり、バーコーターによる均一な塗布ができなかったため、ガスバリア性複合成形体が得られなかった。比較例6〜8は厚みを増すことで均一な塗付が可能であったが、実施例4〜18と同程度の酸素バリア性を得ることができなかった。
また比較例7では、懸濁液の光学顕微鏡写真(図5,6)から粒子径1μm以上のセルロースの粒状体が含まれることが確認できた。さらに微細セルロース繊維含有率は0%であったため、実施例11ほどの高い酸素バリア性を得ることができなかった。
【0112】
実施例19〜27
(1)原料、触媒、酸化剤、共酸化剤
実施例1と同様のものを用いた。
(2)製造手順
実施例7と同様にしてガスバリア用材料を得た。ただし酸化反応後の分散処理は高圧ホモジナイザーによって行い、ガスバリア用材料を得た。
【0113】
次に、基材シートとしてポリエチレンテレフタレートシート(商品名:GE、帝人社製、シート厚み25μm)の片側面上に、このガスバリア用材料(酸化パルプ量:1.0質量%)を塗布し、ガスバリア層の厚みが150nmのガスバリア性複合成形体を得た(実施例19)。さらにそのガスバリア性複合成形体のガスバリア用材料側に、さらに表4に示す防湿層をアクリルゴム接着剤で貼り合わせて、ガスバリア性複合成形体を作製し(実施例20〜27)、表4に示す各項目の測定をした。ガスバリア性複合成形体の酸素透過度は、ガスバリア用材料からなる層又は防湿層側を23℃、90%RHの酸素ガス、基材シート側を23℃、0%RHの窒素ガス(キャリアガス)環境下で測定を行った。なお、表4に記載の防湿層は以下にしめす商品である。
【0114】
ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:GE、帝人社製、シート厚み7μm)、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:GE、帝人社製、シート厚み25μm)、ポリ乳酸(PLA)シート(コロナ放電処理済み品、商品名:PGパルグリーンLC−4:トーセロ(株)社製、シート厚み25μm)、ナイロン(NY)シート(商品名:SNR15、三菱樹脂社製、シート厚み15μm)、ナイロン(NY)シート(商品名:SNR25、三菱樹脂社製、シート厚み25μm)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)シート(商品名:OP U−1 #20、トーセロ(株)社製、シート厚み20μm)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)シート(商品名:OP U−1 #50、トーセロ(株)社製、シート厚み50μm)、無延伸ポリプロピレン(CPP)シート(商品名:SC#50、トーセロ(株)社製、シート厚み50μm)。
【0115】
【表4】

【0116】
表4に示すとおり、実施例20〜27は、防湿層が高い水蒸気バリア性を有するほど、高湿度条件においてもガスバリア用材料による高い酸素バリア性が維持され、ガスバリア性複合成形体の酸素透過度が低くなることが確認できた。特に防湿層の水蒸気透過度が100cm3/m2・day・Pa以下であるガスバリア性複合成形体では、高湿度環境下での酸素バリア性の低下が抑制できる。このことは、防湿膜によりガスバリア用材料層への水の収着が妨げられることで、酸素バリア性が維持されているためと考えられる。また防湿膜を選択することで高湿度下における複合成形体のガスバリア性を制御することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるガスバリア用材料の製造方法であって、
原料となる天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、10〜1000倍量(質量基準)の水を加えてスラリーにする工程、
触媒としての2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)又はその誘導体と共酸化剤を使用して、前記天然繊維を酸化処理する工程、
微細化処理工程を有する、ガスバリア用材料の製造方法。
【請求項2】
前記酸化処理工程における前記TEMPO又はその誘導体の使用量が、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して0.1〜10質量%となる量である、請求項1記載のガスバリア用材料の製造方法。
【請求項3】
前記酸化処理工程における共酸化剤が、次亜塩素酸ナトリウム及び臭化ナトリウムから選ばれるものである、請求項1又は2記載のガスバリア用材料の製造方法。
【請求項4】
前記酸化処理工程における酸化処理の温度(前記スラリーの温度)が1〜50℃で、反応時間が1〜240分間である、請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア用材料の製造方法。
【請求項5】
前記スラリーのpHを9〜12に調整する、請求項1〜4のいずれか1項記載のガスバリア用材料の製造方法。
【請求項6】
前記ガスバリア用材料が、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.4〜2mmol/gのものである、請求項1〜5のいずれか1項記載のガスバリア用材料の製造方法。
【請求項7】
前記ガスバリア用材料が、前記セルロース繊維の平均アスペクト比が10〜1,000である、請求項1〜6のいずれか1項記載のガスバリア用材料の製造方法。
【請求項8】
前記ガスバリア用材料が、固形分0.1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液を目開き16μmのガラスフィルターを通過させたときに、前記ガラスフィルターを通過させる前のセルロース繊維懸濁液中のセルロース繊維質量に対して、前記ガラスフィルターを通過できるセルロース繊維の質量分率が5%以上のものである、請求項1〜7のいずれか1項記載のガスバリア用材料の製造方法。
【請求項9】
前記ガスバリア用材料が、固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中に、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体を含まないものである、請求項1〜7のいずれか1項記載のガスバリア用材料の製造方法。
【請求項10】
前記ガスバリア用材料が、固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液の光透過率が0.5%以上である請求項1〜7のいずれか1項記載のガスバリア用材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122077(P2012−122077A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−43804(P2012−43804)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【分割の表示】特願2008−204273(P2008−204273)の分割
【原出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク先端部材実用化研究開発」委託研究産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】