説明

ガスバリヤ性コーティング組成物

【課題】高いガスバリヤ性を有すると共に、高温においても着色しない耐熱性に優れた食品等の包装材料として有用なコーティング組成物を提供する。
【解決手段】エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体、遷移金属含有無機層状化合物、およびアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩、両性金属の酸化物、水酸化物および炭酸塩から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を特定比率で含有するガスバリヤ性コーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度の影響に関係なくガスバリヤ性が優れると共に、高温になっても着色することのないガスバリヤ性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリヤ機能は、各種包装材料はもとより、特に熱や光などを発することで酸素や水蒸気による劣化が起こりやすい機能性材料や各種機材の表面保護など、非常に多岐にわたる分野で要求される性能である。
【0003】
最も身近な分野として、食品包装容器をみると、これらの包装容器では、単に衛生的というだけでなく、鮮度や風味を維持するために利用されることが多い。例えば、油で揚げた食品は、時間と共に空気中の酸素によって油の酸化が進むため、次第に風味が低下する。また、生鮮食料品や乾物では、水分の蒸発あるいは吸湿により乾燥やしっけが起こり、鮮度、食感といったものが損なわれる。そこで、この様な食品を容器で包装し、容器の中から外へ、また、外から中へと酸素や水蒸気が移動するのを完全に遮断できれば(密封状態)、酸化、吸湿、乾燥などの進行を抑え、風味や食感の低下を軽減することが可能となる。したがって、食品の包装で利用される容器は、密封状態を維持するために、高いガスバリヤ機能が要求されることになる。
【0004】
上記はほんの一例であるが、容器の中の物(内容物)の変質等による品質の低下を抑え、あるいは大気の暴露によって劣化する物の表面を保護するために、酸素、水蒸気、その他の変質や劣化の原因となる気体を遮断する機能は、極めて重要となる。そこで、多くの場合、有機、無機、あるいはその複合等の種々の材料からなるガスバリヤ層が設けられている。
【0005】
一般に、金属やセラミック等の無機材料はガスバリヤ性に優れるが、積層が困難であること、透明性や柔軟性等が低く用途が制約されること等の数々の欠点もある。そこで、基材表面にバリヤ層を低コストでしかも簡単に設けることのできる、有機ポリマーをベースとした塗工液タイプのガスバリヤ剤を用いる方法が開発されている。これらの塗工液タイプのガスバリヤ剤は、有機ポリマーとして高結晶性の樹脂を含むことを特徴としており、主にポリビニルアルコール(PVA)やエチレン−ビニルアルコール(EVOH)等の樹脂が利用されている。その中でも、より結晶性の高いPVAは、乾燥状態においては極めて優れたガスバリヤ性を有することが知られている。しかし、吸湿性が高く、高湿度下では結晶性がくずれてバリヤ性が低下するという問題がある。一方、EVOHは、高湿度下でのガスア性の低下度合いはPVAより少ないが、全体的にバリヤ性のレベルは不十分である。
【0006】
さらに最近では、これらの問題を解決するために、上記の樹脂と無機層状化合物(例えば、天然に産出するものとしてはモンモリロナイト等)とを併用したバリヤ性コーティング組成物が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。有機−無機複合材料は、塗工によりガスバリヤ層を設けることができ、さらに、十分なガスバリヤ性を保持するという、両方の材料の長所が生かせることから高い期待が寄せられている。
【0007】
しかし、このバリヤ性コーティング組成物を塗工した包装材は、高温で処理される用途において、バリヤ層が着色するという問題がある。例えば、油で揚げた食品を電子レンジで加熱したときに、包装容器の食品と接触している部分が黄色や赤褐色に変色する。そうすると、実際は全く問題はないにしても、消費者に不衛生といった疑念を与えかねない。
【0008】
その他にも、上記のようなバリヤ剤は耐熱性が十分でなく、高温になるとバリヤ層が変形し、例えば積層材料では基材から剥離する等の問題も有していた。
【0009】
【特許文献1】特開平05−140344号公報
【特許文献2】特開2003−277660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の課題は、湿度に影響されることなく常に高いガスバリヤ性を有し、高温になっても着色することがなく、かつ耐熱性が良好なバリヤ層を形成できるガスバリヤ性コーティング剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、研究を重ねた結果、エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体、鉄含有無機層状化合物、および溶剤を必須成分として含有するバリヤ性コーティング組成物に、さらに変色を防止するためにアルカリ土類金属や両性金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩の少なくとも1種の金属化合物を特定量含有させることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。さらに、無機層状化合物が、高湿度下でガスバリヤ性を低下させる要因となるアルカリ金属を含む場合、このアルカリ金属のイオンを除去すると、高湿度下でのガスバリヤ性が向上する代わりに、変色の度合いが強くなるが、上記の金属化合物を含有させることにより、変色を抑えることが可能となる。
【0012】
すなわち、本発明は、(1)A成分:エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体、B成分:遷移金属を含有する無機層状化合物、およびC成分:溶剤を必須成分として含有するガスバリヤ性コーティング組成物において、さらにD成分:アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、両性金属の酸化物、両性金属の水酸化物、および両性金属の炭酸塩の群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、以下の式1および式2を満足することを特徴とするガスバリヤ性コーティング組成物に関する。
式1:WA/WB=99.5/0.5〜30/70
(ここで、WAはガスバリヤ性コーティング組成物中のA成分の含有量(質量)、WBはガスバリヤ性コーティング組成物中のB成分の含有量(質量)を表す)
式2:MD/(WA+WB)=1×10-6〜1000×10-6
(ここで、WAおよびWBは上記と同じ定義であり、MDはガスバリヤ性コーティング組成物中のD成分の含有量(mol)を表す)
【0013】
また、本発明は、(2)さらに前記B成分がアルカリ金属を含有する無機層状化合物であって、ガスバリヤ性コーティング組成物を製造する際に、前記B成分から溶出した陽イオンを除去した後、前記D成分を添加してなる上記(1)記載のガスバリヤ性コーティング組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、(3)上記A成分が、エチレン比率が20〜60モル%であり、かつ酢酸ビニル成分のケン化度が95モル%以上であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体を過酸化物で処理し分子鎖切断したものである上記(1)または(2)のいずれかに記載のガスバリヤ性コーティング組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、(4)上記D成分が、モンモリロナイトである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のガスバリヤ性コーティング組成物に関する。
【0016】
ガスバリヤ性コーティング剤組成物として、一般に、ポリビニルアルコール系樹脂やエチレン−ビニルアルコール系樹脂等の高結晶性樹脂と無機層状化合物を含有させたものが知られている。そして、多くの場合、無機層状化合物としては、モンモリロナイトなどが利用される。しかしながら、上記の材料によりガスバリヤ層が形成された時に、高温状態にさらされると、ガスバリヤ層が変色するといった現象が認められる。ガスバリヤ層の着色が起こるメカニズムは定かではないが、モンモリロナイトには、酸化・還元に作用を及ぼす遷移金属が多く含まれており、その中でも、特に鉄は自身が酸化されると赤褐色に着色する他、さらに樹脂等の酸化を促進して着色させる作用も考えられる。そして、高温になるとその傾向がさらに強まることから、鉄等の遷移金属を含む無機層状化合物の影響が推論される。
【0017】
そこで、上記の推論に基づいて、遷移金属の酸化・還元作用の影響を抑え、さらに高湿度下でのガスバリヤ性を低下させないような金属を利用して、上記の問題の解決を試みた結果、遷移金属を含む無機層状化合物を用いたガスバリヤ性コーティング組成物であっても、アルカリ土類金属や両性金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩といった金属化合物を、特定量添加するにより、高温時で着色せず、極めて高いガスバリヤ性と耐熱性を有するガスバリヤ層が得られることを見出したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組成物においては、高いガスバリヤ性を有すると共に、高温においても着色することがなく高い耐熱性を有し、例えば食品等の包装材料などに有利に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のバリヤ性コーティング組成物について詳細に説明する。
【0020】
本発明のガスバリヤ性コーティング組成物は、A成分:エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体、B成分:遷移金属を含有する無機層状化合物、およびC成分:溶剤を必須成分として含有するガスバリヤ性コーティング組成物において、さらにD成分:アルカリ土類金属両性金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩の群から選択される少なくとも1種の金属化合物をアルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、両性金属の酸化物、両性金属の水酸化物、および両性金属の炭酸塩の群から選択される少なくとも1種を含有させたものである。
【0021】
A成分について
本発明のガスバリヤ性コーティング組成物の材料として利用されるエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるものが使用できる。
【0022】
上記エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるものの具体例としては、エチレンと酢酸ビニルを共重合して得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン、酢酸ビニルと共に、その他の単量体を共重合して得られるエチレン−酢酸ビニル系共重合体等をケン化して得られるものが挙げられる。
【0023】
そして、特に良好なガスバリヤ性の得られる材料としては、エチレン−酢酸ビニル系共重合体の共重合前の単量体におけるエチレン比率が20〜60モル%であることが好ましい。エチレン比率が20モル%未満であると、高湿度下におけるガスバリヤ性の低下がみられ、一方、エチレン比率が60モル%を超えると、全般に渡ってのガスバリヤ性が低下する傾向がある。
【0024】
上記エチレン−酢酸ビニル系共重合体は、酢酸ビニル成分のケン化度が95モル%以上のものが好ましく、95モル%未満ではガスバリヤ性や耐油性が不十分になる傾向がある。
【0025】
上記エチレン−ビニルアルコール系共重合体としては、210℃、荷重2160gにおけるメルトフローレートが、0.1〜100g/10min好ましくは0.5〜50g/10minのものが用いられる。
【0026】
さらに、上記エチレン−酢酸ビニル系共重合体は、過酸化物等により分子鎖切断処理して低分子量化したものが、溶剤中での溶解安定性が良好となるという点、および耐熱性の向上の点からより好ましい。
【0027】
上記分子鎖切断処理は、当該エチレン−ビニルアルコール系共重合体に過酸化物等を作用させることにより行われる。過酸化物としては、例えば過酸化水素、過酸化ジアルキル化合物、過酸化アシル化合物等が挙げられるが、その中でも特に過酸化水素が好ましい。具体的には、以下のような方法により行えばよい;例えば、過酸化水素を利用する方法としては、水と低級アルコールの混合溶媒中に、上記エチレン−ビニルアルコール系共重合体を、1〜50質量%程度の濃度となるように溶解させ、その溶液中に過酸化水素水(通常は30〜35質量%程度の水溶液)をエチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して1〜100質量%になるように添加し、撹拌下で40〜90℃、5〜50時間処理する。なお、処理の終了時点は、スタート時の溶液の粘度が初期粘度の1割程度以下となった点を1つの目安とすることができる。さらに、好ましくはカタラーゼ等の酵素を添加して残存過酸化水素を分解除去し、本発明のガスバリヤ剤の材料として利用する。
【0028】
また、A成分や後記するB成分に、酢酸イオン、アルカリ金属イオン等が含まれている場合は、高湿度下におけるガスバリヤ性を低下させる要因となるので除去することが好ましい。なお、陽イオンを除去すると、ガスバリヤ層の高温になった時の着色が助長されることがあるため、上記の金属化合物の添加量は多くすることが好ましい。また、イオン除去の際に上記金属化合物のイオンも除去されるという事態を防止するために、イオンの除去工程が終了してから金属化合物を添加することが好ましい。
【0029】
このイオンを除去する工程としては、粒子状、膜状および繊維状のイオン交換材料を用いた従来から行われている公知の方法が利用できる。例えば、イオン交換能やイオン吸着能を持つイオン交換樹脂、イオン交換膜、イオン交換セルロース等を使用して除去する方法がある。その他にも水による洗浄、沸石、酸性白土、泥炭、亜炭等の天然物、合成ゼオライト、パームチット、タングステン酸ジルコニウム等の合成物を使用して除去する方法等が挙げられる。とりわけ、イオン交換樹脂、イオン交換膜、イオン交換セルロース等を使用して除去する方法が好ましい。
【0030】
B成分について
本発明のバリヤ性コーティング組成物の材料として利用される無機層状化合物は、遷移金属を含むものであって、その多くは分子内に鉄をFe(II)またはFe(III)の状態で含有する。そして、溶剤に対して、膨潤・へき開性を有する天然の無機層状化合物が用いられる。このような無機層状化合物としては、例えば、フィロケイ酸塩鉱物が代表的であり、下記一般式で示されるものが含まれる。
(X,Y)2~3410(OH)2・mH2O(Ww
(式中、XはAl,FeIII,MnIIIまたはCrIII,YはFeII,MnII,Zn,NiまたはLi,ZはSiまたはAl,WはK,NaまたはCaであり、wは化合物全体で静電気的に中性を保つ数である)
【0031】
具体的には、パイロフィライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、白雲母、タルク、バーミキュライト、緑泥石等を挙げることができ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
さらに、これらの中でも、バリヤ性コーティング組成物に使用した場合のガスバリヤ性、塗工適性からモンモリロナイトの使用が好ましい。
【0033】
なお、本発明のガスバリヤ性コーティング組成物において、A成分(上記バリヤ性樹脂)とB成分(上記無機層状化合物)との含有比率は、下記の式1を満足するものである。
式1:WA/WB=99.5/0.5〜30/70
(ここで、WAはガスバリヤ性コーティング組成物中のA成分の含有量(質量)、WBはガスバリヤ性コーティング組成物中のB成分の含有量(質量)を表す)
【0034】
さらにWA/WB=90/10〜40/60の範囲とすることが好ましい。そして、上記WA/WBの比率よりがA成分の含有量が多くなると、バリヤ性が低下し、一方、少なくなりすぎるとバリヤ層と他層との密着性が低下する問題を有する。
【0035】
また、本発明のガスバリヤ性コーティング組成物において、A成分とB成分との合計の含有量は、バリヤ性コーティング組成物全体の質量の1〜30質量%が好ましい。
【0036】
C成分について
本発明のバリヤ性コーティング組成物の材料として利用される溶剤は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を溶解し得る、水性および非水性のどちらの溶剤でも使用できる。
【0037】
特に上記の過酸化物等の処理により低分子量化したエチレン−ビニルアルコール系共重合体を利用する場合は、水と低級アルコールとの簡単な混合溶剤が利用できることから好ましい。この場合、水50〜85質量%と、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数2〜4の低級アルコールの少なくとも1種を15〜50質量%含む混合溶剤を使用すると、低分子量化したエチレン−ビニルアルコール系共重合体の溶解性が良好となり、適度な固形分を維持するためにも好適である。なお、上記炭素数2〜4の低級アルコールの中でも、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコールが好適に使用される。
【0038】
ちなみに、この混合溶剤中の低級アルコールの含量が50質量%を超えると、後述する無機層状化合物を分散した場合、へき開が不十分になる傾向があり、一方、15質量%未満であると、ガスバリヤ性コーティング組成物とした時に塗工適性が低下する傾向がある。
【0039】
D成分について
本発明のガスバリヤ性コーティング組成物の材料として利用する金属化合物は、バリヤ性コーティング組成物を構成する無機層状化合物の遷移金属、特に鉄イオンの酸化等による着色を防止できるものであって、アルカリ土類金属(ここではベリリウムを除く第2族元素という広義なものを指す)の酸化物、水酸化物、炭酸塩、両性金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩を挙げることができる。さらに具体的には、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛、すず等の両性金属の塩が好ましく、さらに、高い効果を有するものとしては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、を挙げることができる。
【0040】
本発明のバリヤ性コーティング組成物において、上記D成分(金属化合物)の含有量は、下記の式2を満足するものである。
式2:MD/(WA+WB)=1×10-6〜1000×10-6
(ここで、WAおよびWBは上記と同じ定義であり、MDはガスバリヤ性コーティング組成物中のD成分の含有量(mol)を表す)
【0041】
上記D成分の含有量が式2で示した範囲より少なくなると、高温になった時に着色が起こるのを防止する効果が低下し、一方、多くなりすぎるとガスバリヤ層と他層との密着性が低下するといった問題が発生し好ましくない。
【0042】
任意成分について
さらに本発明のガスバリヤ性コーティング組成物は、他の成分として、必要に応じて、架橋剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等の改質剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤等を加えることができる。
【0043】
ガスバリヤ性コーティング組成物の製造方法について
上記の各材料を使用して本発明のガスバリヤ性コーティング組成物を製造する方法としては、従来公知の方法で行うことができる。より具体的に、例えば、ガスバリヤ性コーティング組成物を製造する好ましい方法としては、溶媒にA成分であるエチレン−ビニルアルコール系樹脂を溶解した溶液に、好ましくは過酸化物を添加して加温・反応させエチレン−ビニルアルコール系樹脂の分子鎖切断を行い、その後、残存過酸化物を除去し樹脂溶液を得る。次いで、B成分の無機層状化合物を水等の分散媒体中に、高圧分散機を用いて予め膨潤・へき開させてから添加混合し、攪拌装置や分散装置を利用して無機層状化合物を分散させ、ガスバリヤ性コーティング組成物の基本組成物を得る。さらに、上記D成分である金属化合物の少なくとも1種、必要によりその他の添加剤を添加混合し、攪拌装置を利用して分散させて、最終的なガスバリヤ性コーティング組成物を製造する方法等が挙げられる。なお、酢酸イオンやアルカリ金属イオンを除去する場合、エチレン−ビニルアルコール系樹脂と無機層状化合物とが別々の状態であるときに除去してもよく、また、混合した後に除去してもよい。
【0044】
上記攪拌装置や分散装置としては、通常の撹拌装置や分散装置であれば特に限定されず、これらを用いて分散液中で無機層状化合物を均一に分散することができるが、透明で安定なガスバリヤ性コーティング組成物が得られる点から、高圧分散機、超音波分散機等を使用することが好ましい。高圧分散機としては、例えば、ナノマイザー(商品名、ナノマイザー社製)、マイクロフルイタイザー(商品名、マイクロフライデックス社製)、アルチマイザー(商品名、スギノマシン社製)、DeBee(商品名、Bee社製)、ニロ・ソアビホモジナイザー(商品名、ニロ・ソアビ社)等が挙げられ、これら高圧分散機の圧力条件として100MPa以下で分散処理を行うことが好ましい。圧力条件が100MPaを超えると、無機層状化合物の破砕が起こり易くなり、目的であるガスバリヤ性が低下する場合がある。
【0045】
ガスバリヤ層の形成方法
最後に、本発明のガスバリヤ性コーティング組成物を塗布してガスバリヤ層を得る方法について説明する。
【0046】
ガスバリヤ層は、本発明のガスバリヤ性コーティング組成物を、乾燥膜厚が0.3〜3μmとなるように、グラビアシリンダー等を用いたロールコーティング法、ドクターナイフ法やエアーナイフ・ノズルコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法等の通用の塗工方法を用い塗布・乾燥させることにより得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものとする。
【0048】
(ガスバリヤ性コーティング組成物の調製)
<エチレン−ビニルアルコール共重合体溶液の調製>
精製水41%とn−プロピルアルコール(NPA)59%を含む混合溶媒の72部に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(商品名:ソアレジンD2908、日本合成化学工業(株)製、以下、EVOHと略記することがある。)15部を加え、さらに濃度が30%の過酸化水素水13部とFeSO4の0.004部を添加して攪拌下で80℃に加温し、約2時間反応させた。その後冷却してカタラーゼを3000ppmになるように添加し、残存過酸化水素を除去し、これにより固形分15%のほぼ透明なエチレン−ビニルアルコール共重合体溶液(EVOH溶液A)を得た。
【0049】
<イオンを除去したエチレン−ビニルアルコール共重合体溶液の調製>
EVOH溶液A100部に対して、3部のイオン交換樹脂を添加しイオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌した後、イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別してイオンを除去し、固形分15%のほぼ透明なEVOH溶液Bを得た。
【0050】
<無機層状化合物分散液の調製>
無機層状化合物であるモンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業(株)製)4部を精製水96部中に攪拌しながら添加し、高圧分散装置にて圧力50MPaの設定にて十分に分散した。その後、40℃にて1日間保温し固形分4%の無機層状化合物分散液Aを得た。
【0051】
<イオンを除去した無機層状化合物分散液の調製>
無機層状化合物分散液A100部に対して、3部のイオン交換樹脂を添加しイオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌した後、イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別してイオンを除去し、固形分4%の無機層状化合物分散液Bを得た。
【0052】
<ガスバリヤ性コーティング組成物の基本組成物の調製>
<組成物1>
精製水50%、IPA50%の混合溶剤58部に、EVOH溶液Aを12部添加し、十分に攪拌混合した。さらにこの溶液を高速で攪拌しながら、無機層状化合物分散液A30部を添加した後、さらに高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理し、255メッシュのフィルターにて濾過し、固形分3%の組成物1(EVOH/無機層状化合物=6/4(固形分質量比))を得た。
【0053】
<組成物2>
精製水50%、IPA50%の混合溶剤58部に、EVOH溶液Bを12部添加し、十分に攪拌混合した。さらにこの溶液を高速で攪拌しながら、無機層状化合物分散液B30部を添加し、その後は組成物1と同じ操作で、固形分3%の組成物2(EVOH/無機層状化合物=6/4(固形分質量比))を得た。
【0054】
<組成物3>
精製水50%、IPA50%の混合溶剤69部に、EVOH溶液Bを16部添加し、十分に攪拌混合した。さらにこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液B15部を添加し、その後は組成物1と同じ操作で、固形分3%の組成物4(EVOH/無機層状化合物=8/2(固形分質量比))を得た。
【0055】
<組成物4>
精製水50%、IPA50%の混合溶剤78.9部に、EVOH溶液を19.8部添加し、十分に攪拌混合した。さらにこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液0.75部を添加し、その後は組成物1の調製と同じ操作で、固形分3%の組成物3(EVOH/無機層状化合物=99/1(固形分質量比))を得た。
【0056】
<組成物5>
精製水50%、IPA50%の混合溶剤80部に、EVOH溶液を20部添加し、十分に攪拌混合し、255メッシュのフィルターにて濾過し固形分3%の組成物5(EVOH/無機層状化合物=100/0(固形分質量比))を得た。
【0057】
<組成物6>
精製水50%、IPA50%の混合溶剤36部に、EVOH溶液を4部添加し、十分に攪拌混合した。さらにこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液60部を添加し、その後は、組成物1と同じ操作で、固形分3%の組成物6(EVOH/無機層状化合物=2/8(固形分質量比))を得た。
【0058】
<組成物7>
精製水50%、IPA50%の混合溶剤83.4部に、EVOH溶液Aを16部添加し、十分に攪拌混合した。さらにこの溶液に、高速攪拌を行いながら炭酸カルシウム(白艶華O、白石カルシウム(株)製)0.6部を添加し、その後は、組成物1と同じ操作で、固形分3%の組成物7(EVOH/炭酸カルシウム=8/2(固形分質量比))を得た。
【0059】
<実施例1〜11、比較例1〜7のガスバリヤ性コーティング組成物の調製>
上記の組成物1〜6の固形分500部に対して、金属化合物の含有量が表1となるように、それぞれ金属化合物を添加・攪拌して、実施例1〜11、比較例1〜7のガスバリヤ性コーティング組成物を調製した。
【0060】
ガスバリヤ性コーティング組成物の塗工
グラビア塗工機を用いて、それぞれ実施例1〜11、比較例1〜7のガスバリヤ性コーティング組成物を、固形分が1g/m2となる塗工量で一軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績(株)製、パイレンP−2161(商品名)、厚さ25μm)に塗工して、ガスバリヤ性試験および密着性の評価試験用の塗工物を得た。
【0061】
着色の度合いが目立つように白色の包装紙に、グラビア塗工機を用いて、それぞれ実施例1〜11、比較例1〜7のガスバリヤ性コーティング組成物を、固形分が2g/m2となる塗工量で塗工して、着色性の評価試験用の塗工物を得た。
【0062】
ガスバリヤ性試験
酸素透過度JIS K7126 B法に準じて、酸素透過率測定装置(Mocon社製;OX−TRAN100、商品名)を用いて酸素透過度(OTR値)を測定した。なお、測定条件は、23℃、80%RH(相対湿度)の雰囲気下で行った。
【0063】
着色性
上記の着色性評価試験用塗工物に鳥の空揚げを包んで、電子レンジ(松下電器産業(株)製、NE−NS88)で2分間加熱した時の、ガスバリヤ層の着色状態を目視にて評価した。
A:無色
B:淡黄色に着色
C:赤褐色に着色
【0064】
密着性
塗工物の表面に爪で0.5cm×0.5cm程度の格子状の傷を入れ、その上にセロハンテープを貼り付け、一気にセロハンテープを剥がしたときの、皮膜の剥離状態を目視で観察する。その剥離状態から、
A:全く剥離しない。
B:面積の比率として10%未満の部分的な剥離が認められる。
C:面積の比率として10%以上30%未満の部分的な剥離が認められる。
D:面積の比率として30%以上の部分的、あるいは全面の剥離が認められる。
【0065】
なお、実用上、上記の評価において、ガスバリヤ性については概ね300cm3/m2・day・kpa以下であること、着色性についてはAの無色であること、密着性についてはC以上の評価であることが好ましい範囲である。
【0066】
【表1】

【0067】
上記実施例および比較例から明らかなように、本発明のガスバリヤ性コーティング組成物に相当する実施例1〜11については、ガスバリヤ性および密着性が良好であり、また、高温時においても着色は見られないものであった。それに対して、無機層状化合物を含有しない比較例1では、ガスバリヤ性が十分でなく、無機層状化合物を過剰に含有する比較例2では密着性が低いものであった。また、金属化合物を含有しない比較例3、4において、イオン除去処理を行わなければ淡黄色、処理を行えば赤褐色に着色した。さらに、金属化合物を含有する比較例5、6においても、含有量が少なすぎると淡黄色に着色し、過剰になると密着性が低くなった。無機層状化合物を粒子状の炭酸カルシウムにかえた比較例7では、ガスバリヤ性が極めて低くなった。
【0068】
以上の結果から、本発明によれば、塗工手段という簡便な方法によりガスバリヤ層を設けることができる。そして、形成されたガスバリヤ層は、高いガスバリヤ性と密着性を有し、高温時においても着色することのない、非常に優れたガスバリヤ層といえるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A成分:エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体、B成分:遷移金属を含有する無機層状化合物、およびC成分:溶剤を必須成分として含有するバリヤ性コーティング組成物において、さらにD成分:アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、両性金属の酸化物、両性金属の水酸化物、および両性金属の炭酸塩の群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含有し、以下の式1および式2を満足することを特徴とするガスバリヤ性コーティング組成物。
式1:WA/WB=99.5/0.5〜30/70
(ここで、WAはガスバリヤ性コーティング組成物中のA成分の含有量(質量)、WBはガスバリヤ性コーティング組成物中のB成分の含有量(質量)を表す)
式2:MD/(WA+WB)=1×10-6〜1000×10-6
(ここで、WAおよびWBは上記と同じ定義であり、MDはガスバリヤ性コーティング組成物中のD成分の含有量(mol)を表す)
【請求項2】
さらに前記B成分がアルカリ金属を含有する無機層状化合物であって、ガスバリヤ性コーティング組成物を製造する際に、前記B成分から溶出した陽イオンを除去した後、前記D成分を添加してなる請求項1記載のガスバリヤ性コーティング組成物。
【請求項3】
前記A成分が、エチレン比率が20〜60モル%であり、かつ酢酸ビニル成分のケン化度が95モル%以上であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体を過酸化物で処理し分子鎖切断したものである請求項1または2記載のガスバリヤ性コーティング組成物。
【請求項4】
前記B成分が、モンモリロナイトである上記請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリヤ性コーティング組成物。

【公開番号】特開2009−29837(P2009−29837A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191874(P2007−191874)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】