説明

ガスホルダー用膜材およびそれを用いてなるガスホルダー

【課題】繊維基布の持つ強度に加え、ガスホルダーとして使用可能な耐摩擦性や耐屈曲性を有し、かつガスバリアー性の高いガスホルダー用膜材を提供する。
【解決手段】ガスを貯蔵または回収するガスホルダーに用いる膜材1,2において、該膜材を、保護層、基布層、ガスバリアー層、保護層の少なくとも4層からなるガスホルダー用膜材とする。ここで、膜材を構成する少なくとも一方の保護層は、ポリオレフィン樹脂からなるものが好ましい。また、上記基布層が、その少なくとも片側にポリウレタン樹脂層を持つことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に大型ガスホルダー用膜材に関するもので、都市ガスや特殊気体などを貯蔵するガスタンクおよび畜産・水産施設からの廃棄物、生ゴミなどの有機性廃棄物からメタンガスや、熱分解ガスなどを発生させるバイオガス処理施設を構築するのに適した膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所などの廃ガスや低圧の燃料ガスなどの貯蔵設備などでは、強化プラスチックや金属からなるガスタンクが用いられている。また、現在では、一般下水処理施設および畜産系し尿処理施設や、生ごみ・焼酎糟・醤油糟などの処理施設などから発生するメタンガスなどを回収し、エネルギーとして利用するバイオガス処理施設や、有機性廃棄物を熱分解して発生するガスを有効利用する施設が注目されている。特に近年、時代のニーズにより、これらの施設の新設が増加していると同時に、各施設の大型化が進んでいる。これらの分野において、ガスを貯蔵および回収する設備を高強度でかつ軽量な膜材でより経済的に構築することが期待されている。例えば、膜式ガスホルダーに関する特許文献1がある。この文献には、強化プラスチック材、金属材などからなる剛構造のボックスの中に、気密性および液密性を有する可撓性膜材からなる袋体で形成されたガスの出し入れ可能なガス貯蔵バックを収納する構造のボックス収納型膜式ガスホルダーについて記載されている。
この文献には、特にガスホルダー用膜材に使用される材料については言及されておらず、膜式ガスホルダーのシステムに関してのみ記述されている。
【0003】
一方、従来のガスバリアー性膜材として、特許文献2には、高分子フィルム基材の少なくとも片面に必要に応じてアンカーコート層を設けて金属または金属化合物薄膜層、必要に応じて保護層を順次形成した透明性を有する被覆フィルムとヒートシール性樹脂を無機の超微粒子を含有するガスバリアー性接着剤を介して接着させたガスバリアー性膜材について記載されている。
ここには、薄膜層にある微小のピンホール部をバリアー性接着剤に含有する超微分散した無機材料が穴埋めすることによる高度なガスバリアー性膜材および他の基材とのラミネーション時などに生じるフィルムの伸び縮みやヒートショックによる熱応力に対して発生した薄膜層のクラックや割れ部からの大量のガス透過を接着剤層で抑制できる積層体として優れたガスバリアー性を有した膜材についての記載はある。しかしながら、この発明は、包装材料を用途とするものであり、この膜材単独でガスバリアー性は確保できるが、本発明が用途とするガスホルダー用膜材の実用に耐えるだけの強度を得ることが困難であった。
【0004】
また、特許文献3には、基布およびガスバリアー層の2層を有する超軽量膜材および樹脂層、繊維基布層、ガスバリアー層からなる超軽量膜材が記載されている。
この発明は、飛行船内部に使用されるバロネットやダイヤフラム(隔膜)を用途としたものであり、ガスホルダー用膜材として実用に耐えられる耐摩擦性や耐屈曲性を十分得ることが困難であった。
【特許文献1】特開2005−48930号公報
【特許文献2】特開2000−006304号公報
【特許文献3】特開2005−119232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維基布の持つ強度に加え、ガスホルダーとして使用可能な耐摩擦性や耐屈曲性を有し、かつガスバリアー性の高いガスホルダー用膜材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ガスを貯蔵または回収するガスホルダーに用いる膜材であって、該膜材が、保護層、基布層、ガスバリアー層、保護層の少なくとも4層がこの順で積層されてなる膜材であることを特徴とするガスホルダー用膜材に関する。
ここで、膜材を構成する少なくとも一方の保護層は、ポリオレフィン樹脂からなるものが好ましい。
また、上記基布層が、その少なくとも片側にポリウレタン樹脂層を持つことが好ましい。
次に、本発明は、上記のガスホルダー用膜材を用いてなるガスホルダーに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、繊維基布の持つ強度に加え、ガスホルダーとして使用可能な耐摩擦性や耐屈曲性を有し、かつガスバリアー性の高い膜材を提供することができ、これを用いることで、ガスを貯蔵および回収する設備を高強度でかつ軽量な膜材でより経済的に構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、膜材の強度を発現させるための層として、繊維からなる基布を使用することが重要である。繊維一本一本が持つ強度を布帛にすることにより、同方向へ合わせることで、より高強度の膜材を得ることができるのである。
基布の形態については、織物、編物、不織布、UDシートなど、特に限定はされないが、上述のような理由から構成される繊維の強度を最も発現しやすい織物やUDシートとすることが好ましい。織物の場合、その形態は強度を発現しやすい平織物が好ましく、強度のみならず、引裂強度を向上させる目的でリップ構造を入れることも可能である。
使用される素材についても、天然繊維、合成繊維のいずれでも使用可能であるが、これもより高強度の膜材を得るためには、合成繊維を用いることが好ましい。具体的には、ポリエステル、ナイロン、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などを使用することができる。強度の点ではアラミド繊維を代表とする、いわゆるスーパー繊維を使用することが良いが、コストパフォーマンスと言う点でポリエステルやナイロンが総合的に好ましいと考えられる。
【0009】
本発明において使用される繊維基布は、基布層を構成する繊維の繊度(dtex)と密度(本/インチ)の積が2,500〜5,000、好ましくは4,000〜5,000であり、目ずれが10mm以下、好ましくは5mm以下であることが必要である。
繊度(dtex)と密度(本/インチ)の積が2,500を下回ると、織物を構成する繊維の間に隙間が大きく開き、目ずれを起こす可能性が大きい。目ずれは10mm以下とする必要があり、10mmを超えると、製品の品位が低下するばかりか、強度の発現率も低下し、本発明の目的を達成し得ない。
なお、通常、織物は、織機で織られた後、紡糸工程で糸に付着した油剤や織準備の整経工程で付着した糊剤など、不純物を除去するために精錬工程を経るが、その際、この目ずれを抑えるために、ジッカー染色機で行うことが極めて有用である。
また、繊度(dtex)と密度(本/インチ)の積が5,000を上回ると、基布の重量が大きくなり、本発明の主目的であるガスホルダー用膜材に使用するには、重量が大きくなり過ぎる。なお、基布層は、片面または両面にフィルム状のポリウレタン樹脂を載置することにより、表面の平滑性が改善され、ガスバリアー層および保護層であるポリオレフィン層との一体化により強固になるとともに膜材の耐屈曲性がより向上する。この場合、ポリウレタン樹脂フィルムの厚さは、通常、5〜100μm、好ましくは10〜80μmである。
【0010】
次に、本発明において、膜材には、上記基布層の一方の面に、ガスバリアー層を設けることが必要である。これまでも述べてきているように、ガスホルダーは廃棄物から発生したメタンガスや熱分解ガスなどの回収や都市ガスや特殊ガスを貯蔵するための部材であり、そこで使用される素材はガスバリアー性が必要である。ガスバリアー層としては、特に限定されるものではなく、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビリニデンフィルム、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムなどが使用されるが、中でもエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムは特にガスバリアー性に優れており好ましい。特に、熱分解ガス中には、膜を透過し易い多量の水素が含まれており、この漏洩を防ぐためには、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムを使用するのが、有効である。また、上記の各フィルムに金属または金属酸化物などを蒸着加工したものも有効である。
【0011】
一方、膜材をより実用レベルにするために、基布層およびガスバリアー層を他の樹脂層で保護する必要がある。本発明で提供される膜材は、ガスホルダー用膜材として使用されるため、ガスバリアー性を維持するために、使用中に傷ついたり破損したりしてはならない。また、ガスホルダーの形状に対応するために、耐屈曲性が必要である。よって、強度を維持する基布層と、ガスバリアー層を樹脂(保護層)でコーティングまたは該樹脂フィルムで積層することは、膜材の機能を維持し、ガスホルダーの構築を容易にする上で極めて有用である。さらに、ガスホルダーを構築する際、膜材同士を接合するためにもこのような層が設けられることが望ましい。
【0012】
保護層に使用される樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂(ただし、基布にあらかじめ積層された上記フィルム状のポリウレタン樹脂を除く)、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などが使用される。ここで、耐屈曲性のある膜材を得るためには、耐屈曲性の高いポリウレタン樹脂を使用することが適している。さらに、膜材に耐摩擦性を与えるために、ポリウレタン樹脂層上にポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂層を設けることが好ましい。また、廃棄物から発生するガスには、硫化水素その他の雑多な混合物が含まれており、膜材の劣化を防ぐためにも、化学的に安定したポリエチレンなどのポリオレフィンを保護膜に使用するのが、望ましい。これらの樹脂は一般的な方法で加工され、接着剤を用いてフィルム状の樹脂をラミネートしたり、加熱した樹脂を直接コーティングしたりする。
【0013】
なお、基布層の目付けは、通常、20〜100g/m、好ましくは30〜60g/mである。
また、ガスバリアー層の厚さは、通常、3〜30μm、好ましくは5〜15μmである。
さらに、基布層側やガスバリアー層側に用いられる保護層の厚さは、いずれも、通常、5〜180μm、好ましくは10〜100μmである。
以上の構成の本発明のガスホルダー用膜材の総厚は、通常、150〜300μm、好ましくは200〜250μm程度である。
【0014】
本発明のガスホルダー用膜材は、保護層/基布層/ガスバリアー層/保護層との各層の間は、ウレタン系接着剤などの接着剤によって、通常のドライラミネート法、押出コート・ラミネート法、ウエットラミネート法などの接着手段を用いて接着すればよい。また、保護層が上記のように複層から構成される場合にも、同様の接着手段が採用される。
ここで、接着剤の塗布量は、各層間において、乾燥重量で、通常、0.01〜10g/m、好ましくは1〜5g/m程度である。
【0015】
次に、上記膜材を用いたガスホルダーについて図1を用いて以下に説明する。
球形膜製ガスホルダーは、外膜1と内膜2より構成されており、球の中央部周囲(赤道部11)で外膜と内膜が多数の箇所で固縛されている。さらに、外膜1は赤道部11で鋼製架台7に多数の箇所で固縛されている。
球形膜製ガスホルダーは、内膜2により空気室3とガス室4に分割されており、ガスは下部ノズル5より出入し、空気は送風機6、送風ダクト8および上部ノズル9を通って空気室3に出入する。
送風機6により空気室3に一定以上の圧力をかけ、風や積雪などの外力が働いてもガスホルダーが球形を保持し、外力に耐えられるよう設計されている。
また、内膜2の頂部12には、膜材またはプラスチックなどの錘が取付けられており、貯留ガス量の増減により、錘が上下する。この上下距離を外膜頂部に取付けた超音波距離計10などで計測することにより、ガスの貯蔵量を計測することができる。
【0016】
空気室3とガス室4は内膜2を介して圧力がつりあっているので、通常は、内膜2に過大な張力が働くことはないが、結露などで、頂部(錘)12の上部に水溜りが出来ることもあり、この場合には、内膜2や内膜と外膜の固縛部11に大きな張力が働く。特に、ガスホルダーが大型になれば、この原因で膜材が破損する可能性が大きくなる。
本発明のガスホルダー用膜材を上記内膜2に使用することにより、耐摩耗性や屈曲性、ガスバリアー性に優れた、ガスを貯蔵および回収するガスホルダーをより経済的に構築することができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性は下記の方法により測定した。
(1)ガス透過度
気体透過度試験(JIS K7126A法)により評価した。測定気体には酸素を用いた。
(2)耐摩擦性および耐屈曲性
繰返もみ試験(JIS K6406)を行った後、気体透過度試験(JIS K7126A法)を行った。繰返もみ回数は5,000回とし、気体透過度試験の測定気体には、酸素を用いた。
【0018】
実施例1〜5、比較例1〜4
44dtex/20フィラメントのポリエステルマルチフィラメント(帝人ファイバー製、P300SB)を用い、織密度が経110.0本/インチ、緯92.5本/インチの平織物(目付け90g/m)を作製した。この織物の一方の面にポリウレタンフィルム(PU)(大倉工業製、クラミロン、厚さ10μm)をラミネートし基布とした。この基布のポリウレタンをラミネートした側に15μm厚のエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム(クラレ製、エバールフィルム
EF-XL)をラミネートして基布層とガスバリアー層からなる2層膜を得た。さらに、得られた2層膜の両面に10μm厚の、ポリ塩化ビニルフィルム(PVC)(三菱化学MKV製、アルトロン)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)(東レ製、ルミラー)、ポリウレタンフィルム(PU)(大倉工業製、クラミロン)、ポリエチレンフィルム(PE)(東セロ製、TUX)を、それぞれ、1層、ウレタン系接着剤(5g/m)(武田薬品工業製、タケラック)にてラミネートした。以上より得られた4層膜を実施例1〜4とした。
また、実施例5では、上記織物の両面にポリウレタンフィルム(PU)(大倉工業製、クラミロン、いずれも厚さ10μm)をラミネートして基布とし、この基布に15μm厚のエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム(クラレ製、エバールフィルム
EF-XL)をラミネートして基布層とガスバリアー層からなる2層膜を得た。さらに、得られた2層膜の両面に、厚さ10μmのポリエチレンフィルム(PE)(東セロ製、TUX)をそれぞれ1層ウレタン系接着剤(5g/m)(武田薬品工業製、タケラック)にてラミネートした。
一方、比較例1〜4として、実施例1〜4で用いた基布単体または基布の片面に、いずれも15μm厚の、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム(クラレ製、エバールフィルムEF-XL)またはポリウレタンフィルム(PU)(大倉工業製、クラミロン)やポリエチレンフィルム(PE)(東セロ製、TUX)をウレタン系接着剤(15g/m)(武田薬品工業製、タケラック)にてラミネートしたものを調製した。実施例の物性を表1に、比較例の物性を表2に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によれば、繊維基布の持つ強度に加え、ガスホルダーとして使用可能な耐摩擦性や耐屈曲性を有し、かつガスバリアー性の高い膜材を提供することができ、これを用いることで、ガスを貯蔵および回収する設備を高強度でかつ軽量な膜材でより経済的に構築することができ、産業的利用価値が極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の膜材をガスホルダーに使用した一例を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1・・・ガスホルダー外膜
2・・・ガスホルダー内膜
3・・・空気室
4・・・ガス室
5・・・下部ノズル
6・・・送風機
7・・・鋼製架台
8・・・送風ダクト
9・・・上部ノズル
10・・超音波距離計
11・・赤道部
12・・頂部(錘)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを貯蔵または回収するガスホルダーに用いる膜材であって、該膜材が、保護層、基布層、ガスバリアー層、保護層の少なくとも4層がこの順で積層されてなる膜材であることを特徴とするガスホルダー用膜材。
【請求項2】
膜材を構成する少なくとも一方の保護層がポリオレフィン樹脂からなる請求項1記載のガスホルダー用膜材。
【請求項3】
基布層が、その少なくとも片側にポリウレタン樹脂層を持つ請求項1または2記載のガスホルダー用膜材
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のガスホルダー用膜材を用いてなるガスホルダー

【図1】
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【公開番号】特開2007−333045(P2007−333045A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164181(P2006−164181)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(591133550)株式会社スカイピア (3)
【Fターム(参考)】