説明

ガスワイピング装置

【課題】鋼帯の表面にガスを吹き付けて該表面に付着しためっき用の溶融金属の付着量を調整するガスワイピングノズルを備えたガスワイピング装置に関し、鋼帯の幅方向端部におけるオーバーコートやスプラッシュの抑止効果に優れたガスワイピング装置を提供すること。
【解決手段】ガスワイピングノズル1において鋼帯Kの幅方向に延設して中空からガスを吹出すスリット1a’と、中空にガスを導入するガス導入口1eを備え、このスリット1a’にはその左右の領域を閉塞するとともにスライド自在な左右の閉塞部材2,2が配設され、これら閉塞部材2,2の間にガス吹出口1aが形成されており、中空において、左右の閉塞部材2,2のそれぞれのガス吹出口側端部2a,2aから隔壁1dへ延設する左右の整流片1c、1cが配設され、該左右の整流片1c、1cの間でガス流路GRが形成されており、ガス吹出口1aの幅とガス流路GRの幅が同じであるガスワイピング装置10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続搬送されてめっき浴中に浸漬された鋼帯の表面にガスを吹き付けて該表面に付着するめっき用の溶融金属の付着量を調整するガスワイピング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属のめっき浴中に鋼帯を連続的に浸漬させて溶融金属めっきをおこなうに当たり、浸漬後の鋼帯の未凝固めっき面にガスを吹付けて溶融金属の付着量を調整する、いわゆるガスワイピングが一般におこなわれており、たとえば、連続搬送される鋼帯の両側にガスワイピングノズルを備えたガスワイピング装置を配置しておき、該鋼帯の両側にガスを吹出すことによってガスワイピングがおこなわれる。
【0003】
ガスワイピングノズルは、メッキポットの溶融金属内に浸漬されて、その前方を上方に搬送される鋼帯の幅方向の長さに対応する細長形状を有し、該幅方向(長手方向)に沿ってガスを吹き出すスリット状のガス吹出口が形成されている。このガス吹出口から鋼帯に対してその幅方向の一端から他端に亘って直線状にガスを吹き付けることにより、鋼帯の表面の溶融金属を所望に払拭してその付着量が調整される。
【0004】
ところで、上記するガスワイピングにおいては、鋼帯幅方向の両端部における溶融金属の付着量が他の部分よりも多くなるオーバーコートや、両端部でガスに払拭された溶融金属が飛散するスプラッシュが問題となっている。これらのオーバーコートやスプラッシュといった問題は、鋼帯の両端部付近において対向するガスワイピングノズルから吐出されたガス同士の衝突によって乱流が発生することなどに起因するものである。
【0005】
鋼帯の幅方向両端部における上記オーバーコートやスプラッシュを低減するために、特許文献1においては、対向する一対のノズルの両方のノズルのスリットの両端位置を可変とするスリット閉塞機構と、該スリットの両端位置を鋼帯の両端位置に調整するスリット幅調整機構と、前記ノズルの吐出流速が一定となるようにガス流量を調整する機構を有するガスワイピング装置が開示されている。
【0006】
このガスワイピング装置によれば、鋼帯を挟んで対向する一対のノズル双方のスリットの両端位置を鋼帯の両端位置に調整することで、対向するノズルからの噴流同士が激しく衝突しない状態を形成して噴流同士の衝突に起因する乱流を解消し、鋼帯表面における溶融金属の付着量分布を可及的に均一にして、スプラッシュの発生と両端部におけるオーバーコートを抑制できるというものである。
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示されるガスワイピング装置は、ガスの吹出口のみを閉塞してガス吹付け幅を低減するものであることから、ノズルの中空内を流通してきたガスが吹出口で大幅に縮流され、この縮流によって周期的に渦が生ぜしめられてこの渦がガス流れを乱し、鋼帯の幅方向端部におけるオーバーコートやスプラッシュが断続的に発生することとなり、オーバーコートやスプラッシュを完全に抑止することはできない。
【0008】
このことを、図11で示す模式図を参照して説明する。同図は、特許文献1で開示されるガスワイピング装置Wを簡略化したものであるが、その前方で2つの閉塞部材H,Hがスライド自在となっていて(Y1方向)、これらのスライドに応じて閉塞部材H,Hで囲まれた中央のガス吹出口Eの幅が可変に調整されるものである。ガスワイピング装置Wの後方から導入されたガス(X3方向)はその中空を介して前方へ流通してガス吹出口Eから吐出されるが(X4方向)、この中空を流通して閉塞部材H,Hに到達したガスはその流れを中央側に急激に縮流されることとなり(X5方向)、この急激な縮流によって上記する渦が生ぜしめられてこの渦がガス流れを乱し、鋼帯の幅方向端部におけるオーバーコートやスプラッシュが断続的に発生することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−284732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、鋼帯の表面にガスを吹き付けて該表面に付着しためっき用の溶融金属の付着量を調整するガスワイピングノズルを備えたガスワイピング装置に関し、鋼帯の幅方向端部におけるオーバーコートやスプラッシュの抑止効果に優れたガスワイピング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明によるガスワイピング装置は、鋼帯の表面にガスを吹き付けて、該表面のめっき用の溶融金属の付着量を調整する中空のガスワイピングノズルを備えたガスワイピング装置であって、前記ガスワイピングノズルは、鋼帯の幅方向に延設して前記中空からガスを吹出すスリットと、ガスを該中空に導入するガス導入口を備えた隔壁と、を備えており、前記スリットには、鋼帯の幅に応じて左右の領域を閉塞するとともに該スリットに沿ってスライド自在な左右の閉塞部材が配設され、かつ、離間した該左右の閉塞部材の間にガス吹出口が形成されており、前記中空において、前記左右の閉塞部材のそれぞれのガス吹出口側端部から前記隔壁へ延設する左右の整流片が配設され、該左右の整流片の間でガス流路が形成されており、前記ガス吹出口の幅と前記ガス流路の幅が同じとなっているものである。
【0012】
本発明のガスワイピング装置を構成するガスワイピングノズルは、鋼帯に対向し、該鋼帯の幅方向に延設する細長のスリットにおいて、その左右の領域を閉塞するとともに該スリットに沿ってスライド自在な左右の閉塞部材が配設され、スリットにおける左右の閉塞部材の間にガス吹出口が形成されており、左右の閉塞部材のスライドによってガス吹出口の幅が調整自在となっている。なお、この左右の閉塞部材のスライド形態は、双方が同期して同じ量だけスライドする形態や、左右の閉塞部材のいずれか一方のみがスライドする形態などがあり、左右の閉塞部材のスライドによってガス吹出口の幅を鋼帯の幅と同程度に調整することが可能となる。より具体的には、たとえば700〜1800mm程度の鋼帯の幅とガス吹出口の幅を同じに調整する場合や、ガス吹出口の幅を鋼帯の幅の左右からそれぞれ10mm程度広げた幅に調整する場合などがある。
【0013】
そして、ガスワイピングノズルの中空内において、ガス導入口の左右端から左右の閉塞部材それぞれのガス吹出口側端部に延設する左右の整流片が配設され、この左右の整流片によって中空におけるガス流路が画成されていることにより、ガス導入口から導入されたガスのうち、特にガス流路の左右端で整流片に沿って流れるガスは、連続する整流片と閉塞部材のガス吹出口側端部を介してガス吹出口からスムーズに吐出されることになる。
【0014】
すなわち、ガスワイピングノズルの中空内を流通してきたガスがガス吹出口で大幅(急激)に縮流され、この縮流によって周期的に渦が生ぜしめられてこの渦がガス流れを乱すといった作用は生じ得ない。このことにより、生成される渦によって乱されたガス流れに起因する鋼帯の幅方向端部におけるオーバーコートやスプラッシュを完全に解消することができる。
【0015】
なお、本明細書において「左右」とは、メッキポットから上方に搬送される鋼帯の幅方向を左右方向と規定し、この鋼帯の幅方向を基準として、鋼帯の左右、スリットの左右の領域、ガス導入口の左右端などと称呼するものである。
【0016】
そして、ガスワイピングノズルの中空内における左右の整流片によって画成されるガス流路の幅とガス吹出口の幅が常に同じに保たれるものであり、左右の閉塞部材のスライドによってガス吹出口の幅が変化した際には、これに追随して左右の整流片も同様にスライドし、ガス流路の幅とガス吹出口の幅が同じ状態で変化するものである。そして、このように左右の整流片がスライドすることから、本実施の形態における整流片は隔壁と縁切りされた構造を呈している。
【0017】
さらに、本発明によるガスワイピング装置の好ましい実施の形態は、前記ガスワイピングノズルの前記中空において、その上面には下面まで届かない垂れ片が固定され、この垂れ片から離れた位置の下面には上面まで届かない立上り片が固定されており、ガス導入口からガス流路に導入されたガスは、垂れ片と立上り片を流通する過程で整流されるようになっているものである。
【0018】
ガス流路内において、間隔をおいて垂れ片と立上り片が設けられていることで、これら垂れ片と立上り片をガスがうねるようにして流通する過程でガスが整流され、ガスの圧力や流速がガス流路の幅方向で可及的に均一化される。
【0019】
また、左右の閉塞部材のスライド制御に関する実施の形態として、前記左右の閉塞部材がそれぞれ、固有のスライド機構である左スライド機構と右スライド機構によってスライド自在となっており、左スライド機構と右スライド機構が共通のベース上に搭載され、該ベースはベーススライド機構に繋がれてスライド自在となっており、前記ガス吹出口の近傍には鋼帯の位置を検出する位置センサが設けてあり、前記左スライド機構と右スライド機構によって左右の閉塞部材がスライドしてガス吹出口の幅が調整され、前記位置センサにて検出された鋼帯の位置データに基づいてベーススライド機構がベースをスライドさせ、ベースのスライドによる右スライド機構と左スライド機構のスライドによって左右の閉塞部材が既に調整されているガス吹出口の幅を維持したままスライドするようになっている形態を挙げることができる。
【0020】
本実施の形態では、左右の閉塞部材のスライド制御が、それぞれに固有のスライド機構である左スライド機構と右スライド機構によっておこなわれるようになっている。ここで、「スライド機構」とは、閉塞部材をスライドさせるシリンダ装置や、スライド基板上をスライドする電動スライダ装置などからなる。シリンダ装置を用いる場合には、装置を構成して摺動するピストンの先端に閉塞部材を取り付けておき、ピストンの摺動に応じて閉塞部材を左右にスライド自在に構成することができる。また、電動スライダ装置を用いる場合には、電動スライダと閉塞部材をワイヤ等で繋いでおき、電動スライダがスライド基板上を左右にスライドするのに応じて閉塞部材を左右にスライド自在に構成することができる。
【0021】
たとえばプロセスコンピュータに入力された鋼帯の幅に関するデータが左右のスライド機構に送信され、この送信データに基づいて左右のスライド機構がスライドしてガス吹出口の幅が所望の幅に調整されるようになっている。
【0022】
ところで、還元焼鈍炉から搬送されてきた鋼帯は、めっきポット中の溶融金属内に浸漬され、めっきポット内にあるシンクロールを介して鉛直上方に搬送された後、この鉛直上方の鋼帯の搬送路の両側に配設された上記ガスワイピング装置から吹出されたガスによって、鋼帯の両側面に付着した溶融金属の一部が払拭されて所望の付着量に調整されるようになっている。鋼帯の幅に関するデータに基づいてガス吹出口の幅が所望の幅に調整されているものの、鋼帯はこの搬送過程で蛇行し、その中心ラインと既に幅が調整済みのガス吹出口の中心ラインがずれることが往々にしてある。
【0023】
そこで、本実施の形態では、左スライド機構と右スライド機構を共通のベース上に搭載しておき、このベースをベーススライド機構に繋いでスライド自在としておく。さらにガス吹出口の近傍に鋼帯の位置を検出する位置センサを設けておき、この位置センサからの鋼帯の位置データ(鋼帯の中心ライン位置データ、もしくは鋼帯の左右端の位置データ)に基づいてベーススライド機構がベースを所望にスライドさせることにより、ガス吹出口の幅を規定する左右のスライド機構の相対位置を変化させないようにしてそれらを鋼帯の位置に対応するようにスライドさせるものである。
【0024】
なお、このベーススライド機構も左右のスライド機構と同様に、シリンダ装置や電動スライダ装置などから形成することができる。また、「ガス吹出口の近傍には鋼帯の位置を検出する位置センサが設けてあり」に関し、位置センサはガス吹出口の近傍のうちでも可及的にガス吹出口に近い場所に設けてあるのが鋼帯に対するガスの吹出しをより精緻に実行できる観点から望ましいものの、ここでの「近傍」には、たとえばポット内にある浴面からガスワイピング装置の配設位置の上方までの間の比較的広い範囲を包含するものである。
【0025】
また、左右の閉塞部材のスライド制御に関する他の実施の形態として、前記左右の閉塞部材がそれぞれ、固有のスライド機構である左スライド機構と右スライド機構によってスライド自在となっており、前記ガス吹出口の近傍には鋼板の位置を検出する位置センサが設けてあり、前記左スライド機構と右スライド機構によって左右の閉塞部材がスライドしてガス吹出口の幅が調整され、前記位置センサにて検出された鋼板の位置データに基づいて、左スライド機構と右スライド機構が左右の閉塞部材を既に調整されているガス吹出口の幅を維持したままスライドするようになっている形態を挙げることができる。
【0026】
本実施の形態において、左スライド機構と右スライド機構によってガス吹出口の幅が調整されるのは既述の実施の形態と同じであるが、これら左右のスライド機構は共通のベース上に搭載されておらず、位置センサから受信した鋼帯の位置情報データに基づいて左右のスライド機構が同期して同じ方向に同じ量だけスライドし、もって左右の閉塞部材を既に調整されているガス吹出口の幅を維持したまま鋼帯の位置に対応するようにスライド制御するものである。
【0027】
また、鋼帯の左右端から左右の閉塞部材のそれぞれのガス吹出口側端部までの隙間が同じ長さsとなるように調整されており、0≦s≦10mmの範囲であるのが好ましい。
【0028】
本発明者等の検証結果に基づくものであり、鋼帯の左右端から左右の閉塞部材のそれぞれのガス吹出口側端部までの隙間sが0≦s≦10mmの範囲となっている場合に、スプラッシュの発生が無い、もしくは極めて少なく、ノズル詰まりが生じないことが実証されている。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明のガスワイピング装置によれば、ガス吹出口を形成するスリット内の左右の閉塞部材のガス吹出口側端部と、ガスワイピングノズルの中空内でガス流路を画成する左右の整流片を繋ぐという極めて簡易な構造改良により、ガスワイピングノズルの中空内を流通してきたガスがガス吹出口で大幅に縮流され、この縮流によって周期的に渦が生ぜしめられてこの渦がガス流れを乱すといった作用が生じることがなくなり、乱されたガス流れに起因する鋼帯の幅方向端部におけるオーバーコートやスプラッシュを完全に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】溶融金属めっき装置の構成を示す模式図である。
【図2】ガスワイピング装置の一実施の形態の斜視図である。
【図3】図2のIII−III矢視図である。
【図4】図3のIV−IV矢視図である。
【図5】ガスワイピング装置の他の実施の形態の横断面図であって図3に対応した図である。
【図6】図5のVI−VI矢視図である。
【図7】左右の閉塞部材のスライド機構の一実施の形態の模式図である。
【図8】左右の閉塞部材のスライド機構の他の実施の形態の模式図である。
【図9】(a)は解析モデルの縦断面図であり、(b)は(a)のb−b矢視図である。
【図10】(a)は比較例の解析結果を示す図であり、(b)は実施例の解析結果を示す図である。
【図11】従来のガスワイピング装置において、スライド自在な閉塞部材でガスが急激に縮流されることを説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明のガスワイピング装置の実施の形態を説明する。
【0032】
(めっき装置)
図1に溶融金属めっき装置を模式図で示している。同図で示すめっき装置は、溶融亜鉛や溶融アルミ等の溶融金属Mからなるめっき浴が収容され、その内側に不図示の耐火煉瓦等がライニングされてなるめっきポットY内にシンクロールRが回転自在に配設され、不図示のスナウト等を介して還元焼鈍炉から送られてきた鋼帯Kが溶融金属M内に浸漬され、シンクロールRを介して鉛直上方に搬送されるようになっている(X1方向)。
【0033】
鉛直上方に搬送された鋼帯Kは、その両側面に溶融金属が付着されているが、めっきポットYの上方には、鉛直上方に搬送される鋼帯Kの搬送路の両側にガスワイピング装置10,10が配設されており、これらのガスワイピング装置10,10から吹出されたガス(空気、窒素、不活性ガスなど)により、鋼帯Kの両側面に付着した溶融金属の一部が払拭されて所望の付着量に調整されるようになっている。
【0034】
(ガスワイピング装置の実施の形態1)
図2は、図1のめっき装置を構成するガスワイピング装置の一実施の形態を斜視図で示すものであり、図3は、図2のIII−III矢視図、図4は、図3のIV−IV矢視図である。
【0035】
図2〜図4で示すガスワイピング装置10は、中空のガスワイピングノズル1と、この後方に設けられてガスが該ガスワイピングノズル1の中空内に提供されるガス流入管1bにガスを供給する不図示のガス供給装置(ガス供給源)とから大略構成されている。
【0036】
そして、ガスワイピングノズル1は、鋼帯Kの幅方向に延設してその中空からガスを吹出すスリット1a’(その全幅はT)を有し、該スリット1a’内において、その左右の領域を閉塞するとともに該スリット1a’に沿ってスライド自在な(Y1方向)左右の閉塞部材2,2が配設されていて、これら離間した該左右の閉塞部材2,2の間のスリット領域にガス吹出口1aが形成されている。
【0037】
ガスワイピングノズル1の内部後方にはガス流入管1bが連通しており、その前方には複数のガス導入口1eを備えた隔壁1dが設けてある。不図示のガス供給装置から提供されたガスは、ガス流入管1bを介して(X2方向)ガスワイピングノズル1内に導入され、ガス導入口1eを介して中空内に導入される。
【0038】
また、ガスワイピングノズル1の中空において、左右の閉塞部材2,2のそれぞれのガス吹出口側端部2a,2aから隔壁1dへ延設する左右の整流片1c、1cが配設されており、該左右の整流片1c、1cと中空の上面および下面で画成された空間がガス流路GRとなっている。
【0039】
ガスワイピング装置10では、左右の整流片1c、1cの間に形成されるガス流路GRの幅tと、ガス吹出口1aの幅tが常に同じとなるように構成されている。すなわち、左右の閉塞部材2,2それぞれのガス吹出口側端部2a,2aに対して左右の整流片1c、1cの一端が直交姿勢で固定されており、かつ、左右の整流片1c、1cの他端は隔壁1dと完全に縁切りされた構造を呈していることで、ガス吹出口1aの幅tとガス流路GRの幅tをともに同じ幅で可変調整することができる。
【0040】
左右の閉塞部材2,2のスライド(Y1方向)によってガス吹出口1aの幅tが調整自在となっており、たとえば700〜1800mm程度の間で変化する鋼帯Kの幅とガス吹出口1aの幅tを同じに調整する調整形態や、ガス吹出口1aの幅tを鋼帯Kの幅の左右からそれぞれ10mm程度広げた幅に調整する調整形態などがあり、鋼帯Kの幅の変化に応じて所望にガス吹出口1aの幅tが調整される。
【0041】
また、左右の閉塞部材2,2のスライド形態は、双方が同期して同じ量だけスライドする形態や、左右の閉塞部材のいずれか一方のみがスライドする形態などがある。
【0042】
図3からも明らかなように、複数のガス導入口1eからガス流路GR内に導入されたガス(X3方向)のうち、特にガス流路GRの左右端で整流片1c、1cに沿って流れるガスは、連続する整流片1cと閉塞部材2のガス吹出口側端部2aを介してガス吹出口1aからスムーズに吐出されることになる(X4方向)。
【0043】
すなわち、ガスワイピングノズル1の中空内を流通してきたガスがガス吹出口1aで急激に縮流され、この縮流によって周期的に渦が生ぜしめられてこの渦がガス流れを乱すといった作用は生じ得ない。このことにより、生成される渦によって乱されたガス流れに起因する鋼帯の幅方向端部におけるオーバーコートやスプラッシュを完全に解消することができる。
【0044】
(ガスワイピング装置の実施の形態2)
図5は、ガスワイピング装置の他の実施の形態の横断面図であって図3に対応する態様で示したものであり、図6は図5のVI−VI矢視図である。
【0045】
図示するガスワイピング装置10Aは、ガス流路GR内において、中空の上面には下面まで届かない垂れ片3aが固定され、この垂れ片3aから離れた位置の中空の下面には上面まで届かない立上り片3bが固定されており、ガス導入口1eからガス流路GRに導入されたガスがこれら垂れ片3aと立上り片3bを流通する過程(X3’)で整流されるようになっている。
【0046】
左右の整流片1c、1cの他端は、立上り片3bや垂れ片3aよりも前方位置にあり、ガス吹出口1aの幅の変動に応じてこれらの手前でスライドする。
【0047】
この整流により、複数のガス導入口1eから導入されたガスの流速や圧力がガス流路GRの幅方向で可及的に均一化され、流速や圧力の等しいガスが鋼帯Kの幅方向に亘って提供されることになる。
【0048】
本実施の形態のガスワイピング装置10Aによっても、複数のガス導入口1eからガス流路GR内に導入されたガスのうち、特にガス流路GRの左右端で整流片1c、1cに沿って流れるガスは、連続する整流片1cと閉塞部材2のガス吹出口側端部2aを介してガス吹出口1aからスムーズに吐出されることになり、渦が生ぜしめられてガス流れが乱されるといった作用は生じ得ない。
【0049】
(左右の閉塞部材のスライド機構の実施の形態1)
次に、図7を参照し、ガスワイピング装置10を取り上げて左右の閉塞部材のスライド機構の実施の形態1を説明する。
【0050】
図示するスライド機構において、左右の閉塞部材2,2はそれぞれ固有の左スライド機構5Aと右スライド機構5Bによって左右にスライド自在となっており、さらに、左スライド機構5Aと右スライド機構5Bが共通のベース6上に搭載され、この共通のベース6はベーススライド機構7に繋がれてスライド自在となっている。
【0051】
左の閉塞部材2と左スライド機構5Aを構成する電動スライダは、2本のワイヤW1,W1によってプーリー9を介して略環状に繋がれており、このことによって、左スライド機構5Aが左右にスライドした際に(Z1方向)、左の閉塞部材2も同期して左右にスライド自在となっている(Z1’方向)。同様に、右の閉塞部材2と右スライド機構5Bを構成する電動スライダも、2本のワイヤW2,W2によってプーリー9を介して略環状に繋がれており、右スライド機構5Bが左右にスライドした際に(Z2方向)、右の閉塞部材2も同期して左右にスライド自在となっている(Z2’方向)。
【0052】
さらに、左スライド機構5Aと右スライド機構5Bを搭載する共通のベース6は、ベーススライド機構7を構成する電動シリンダにてスライド自在となっており、所望の幅tのガス吹出口1aを規定するように位置決めされた左右の閉塞部材2、2のスライドを可能とする左右スライド機構5A,5Bの位置を固定した状態で、ベーススライド機構7にてベース6がスライドすることにより、搬送途中で蛇行する鋼帯KのセンターラインCL2とガス吹出口1aのセンターラインCL1を一致させるような制御が実行される。
【0053】
具体的には、プロセスコンピュータPCから搬送される鋼帯Kの幅に関するデータが左右のスライド機構5A,5Bに送信され、この送信信号に基づいて左右のスライド機構5A,5Bがスライドして左右の閉塞部材2、2をスライドさせて所望幅tのガス吹出口1aを形成する。
【0054】
一方、搬送路を通る鋼帯Kの左右端近傍を、ガス吹出口1aの近傍に配された2組の位置センサ4,4がセンシングしており、このセンシングデータがベーススライド機構7に送信されるようになっている。左右の位置センサ4,4からのセンシングデータによってガス吹出口1aの近傍位置にある鋼帯KのセンターラインCL2が割り出され、ガス吹出口1aのセンターラインCL1と一致していない場合にはその差分量だけベーススライド機構7とベース6がスライドし(Z3方向)、このベース6のスライドによってそこに搭載されている左右のスライド機構5A,5Bが同期スライドするのに応じて左右の閉塞部材2、2がスライドし、ガス吹出口1aと鋼帯K双方のセンターラインCL1,CL2が一致するように制御される。
【0055】
(左右の閉塞部材のスライド機構の実施の形態2)
次に、図8を参照し、ガスワイピング装置10を取り上げて左右の閉塞部材のスライド機構の実施の形態2を説明する。
【0056】
図示するスライド機構と図7で示すスライド機構の相違点は、図示するスライド機構においては左右のスライド機構5A,5Bが共通ベース上に搭載されていない点、図示する左右のスライド機構5A,5Bは所望幅tのガス吹出口1aを形成した後、鋼帯Kの蛇行に応じて双方が同期して同じ量だけスライドすることによって鋼帯Kの蛇行に追随する点である。さらに、鋼帯Kの右端edのみを1つの位置センサ4Aでセンシングするものであるが、この位置センサ4Aは位置センサスライド機構8によってスライド自在となっている点である。
【0057】
鋼帯Kの蛇行に追随するように位置センサスライド機構8にて位置センサ4Aがスライドしながら鋼帯Kの右端edをセンシングし、このセンシングデータが左右のスライド機構5A,5Bに送信され、双方が同じ方向に同じ量だけスライドすることにより、左右の閉塞部材2、2が同じ方向に同じ量だけスライドし、ガス吹出口1aに対して鋼帯Kの右端edが所望位置に位置決めされるように制御される。
【0058】
[スプラッシュの程度を検証した乱流解析とその結果]
本発明者等は、図9a,bで模擬する解析モデルをコンピュータ内で作成し、LES乱流解析(LES:解析セルよりも大きい渦にモデル化することなく、直接計算する非定常乱流解析手法)をおこなった。図9bで示すように、鋼帯の幅t1は150mm、ガス吐出口の内幅t2、ガスの吹付幅t3も150mmとし、ガス吐出口の高さt4は1.2mm、鋼帯を挟んで対向する2つのガスワイピング装置のガス吐出口間隔t5は20mmとした。また、ガス吐出口内のエア圧は40kPaとした。
【0059】
モデル化に際しては、図9bで示すように鋼帯の中心から半分の範囲をモデル化した(モデルの総セル数は2654640個)。コンピュータ画面に形成された解析結果図のうち、図11の従来例をモデル化した解析結果図を図10aに、本発明に相当する実施例をモデル化した解析結果図を図10bにそれぞれ示している。
【0060】
図10aの右端領域では、エアの流れ方向が右斜め上方および右斜め下方に傾斜して流れているのに対して(このことは、スプラッシュが大きいことを実証している)、図10bの右部領域では、エアの流れ方向が右斜め上方や右斜め下方に傾斜する割合が格段に少なく、スプラッシュの発生が極めて少ないことが実証されている。
【0061】
[めっき処理の際の鋼帯通板速度(搬送速度)範囲に関する実験とその結果]
本発明者等は、図3,4で示すガスワイピング装置(実施例)と図11で示す従来のガスワイピング装置(比較例)をそれぞれ適用した際の鋼帯通板速度に関する可能範囲を特定する実験をおこなった。具体的には、鋼帯の厚みが0.4mm、幅が1200mmのサイズで、鋼帯の左右端からガス吹出口端部までの隙間を0mmとして、めっき用の溶融金属である亜鉛の付着量を鋼帯の両面に120g/m2となる通板速度範囲を検証した。なお、図5,6で示す実施の形態2にかかるガスワイピング装置にて本実験はおこなっていないものの、実施の形態2のガスワイピング装置の場合には、実施の形態1のガスワイピング装置に対してさらに垂れ片と立上り片によるガスの整流効果が期待できることから、図3,4で示すガスワイピング装置での実験効果よりもより一層高い効果が奏されることは明確であることをここに付言しておく。
【0062】
実験の結果を以下の表1に示している。表1において、○はスプラッシュの発生が少なく、鋼帯への再付着がない結果であり、△はスプラッシュの発生によってノズルへの付着はあるが鋼帯への再付着がない結果であり、×はスプラッシュの発生が多く、ノズルへの付着と鋼帯への再付着がある結果である。
【0063】
表1で示すとおり、実施例のガスワイピング装置においては、通板速度が最高240mpmまでの範囲で通板させた場合に、スプラッシュが鋼帯に再付着しないことが確認されている。
【0064】
一方、比較例のガスワイピング装置においては、同様の効果を期待できる通板速度範囲は最高180mpmまでの範囲であった。
【0065】
本実験結果より、従来のガスワイピング装置を適用した場合と比べて、通板速度を3割以上も速くした操業が可能となることが実証されている。
【0066】
【表1】

【0067】
[鋼帯の左右端からガス吹出口端部までの隙間の最適範囲を検証した実験とその結果]
本発明者等はさらに、鋼帯の左右端からガス吹出口端部までの隙間を種々変化させて、スプラッシュの発生の大小と、鋼帯への再付着の有無に関して実験をおこなった。既述する表1に各種条件と実験結果を示す。
【0068】
本実験結果より、比較例に比して実施例は、ガス元圧が高く、通板速度が速い領域においても良好な結果となっている。また、実施例の実験結果より、鋼帯の左右端からガス吹出口端部までの隙間は0mm〜10mmの範囲が望ましいことが実証されている。
【0069】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0070】
1…ガスワイピングノズル、1a…ガス吹出口、1a’…スリット、1b…ガス流入管、1c…整流片、1d…隔壁、1e…ガス導入口、2…閉塞部材、2a…閉塞部材のガス吹出口側端部、3a…垂れ片、3b…立上り片、4,4A…位置センサ、5A…左スライド機構、5B…右スライド機構、6…ベース(共通のベース)、7…ベーススライド機構、8…位置センサスライド機構、10,10A…ガスワイピング装置、M…溶融金属(めっき浴)、K…鋼帯、Y…めっきポット、R…シンクロール、W1、W2…ワイヤ、PC…プロセスコンピュータ、CL1…ガス吹出口のセンターライン、CL2…鋼帯のセンターライン、ed…鋼帯の右端エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯の表面にガスを吹き付けて、該表面のめっき用の溶融金属の付着量を調整する中空のガスワイピングノズルを備えたガスワイピング装置であって、
前記ガスワイピングノズルは、鋼帯の幅方向に延設して前記中空からガスを吹出すスリットと、ガスを該中空に導入するガス導入口を備えた隔壁と、を備えており、
前記スリットには、鋼帯の幅に応じて左右の領域を閉塞するとともに該スリットに沿ってスライド自在な左右の閉塞部材が配設され、かつ、離間した該左右の閉塞部材の間にガス吹出口が形成されており、
前記中空において、前記左右の閉塞部材のそれぞれのガス吹出口側端部から前記隔壁へ延設する左右の整流片が配設され、該左右の整流片の間でガス流路が形成されており、
前記ガス吹出口の幅と前記ガス流路の幅が同じであるガスワイピング装置。
【請求項2】
前記左右の閉塞部材および前記左右の整流片が同期スライドしてガス吹出口の幅とガス流路の幅を調整する請求項1に記載のガスワイピング装置。
【請求項3】
前記ガスワイピングノズルの前記中空において、その上面には下面まで届かない垂れ片が固定され、この垂れ片から離れた位置の下面には上面まで届かない立上り片が固定されており、
ガス導入口からガス流路に導入されたガスは、垂れ片と立上り片を流通する過程で整流されるようになっている請求項1または2に記載のガスワイピング装置。
【請求項4】
前記左右の閉塞部材がそれぞれ、固有のスライド機構である左スライド機構と右スライド機構によってスライド自在となっており、
左スライド機構と右スライド機構が共通のベース上に搭載され、該ベースはベーススライド機構に繋がれてスライド自在となっており、
前記ガス吹出口の近傍には鋼帯の位置を検出する位置センサが設けてあり、
前記左スライド機構と右スライド機構によって左右の閉塞部材がスライドしてガス吹出口の幅が調整され、
前記位置センサにて検出された鋼帯の位置データに基づいてベーススライド機構がベースをスライドさせ、ベースのスライドによる右スライド機構と左スライド機構のスライドによって左右の閉塞部材が既に調整されているガス吹出口の幅を維持したままスライドするようになっている請求項1〜3のいずれかに記載のガスワイピング装置。
【請求項5】
前記左右の閉塞部材がそれぞれ、固有のスライド機構である左スライド機構と右スライド機構によってスライド自在となっており、
前記ガス吹出口の近傍には鋼帯の位置を検出する位置センサが設けてあり、
前記左スライド機構と右スライド機構によって左右の閉塞部材がスライドしてガス吹出口の幅が調整され、
前記位置センサにて検出された鋼帯の位置データに基づいて、左スライド機構と右スライド機構が左右の閉塞部材を既に調整されているガス吹出口の幅を維持したままスライドするようになっている請求項1〜3のいずれかに記載のガスワイピング装置。
【請求項6】
鋼帯の左右端から左右の閉塞部材のそれぞれのガス吹出口側端部までの隙間が同じ長さsとなるように調整されており、0≦s≦10mmの範囲である請求項4または5に記載のガスワイピング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−251237(P2012−251237A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−54183(P2012−54183)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【出願人】(306022513)新日鉄住金エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)NSプラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】