説明

ガス・ハイドレートの生成促進方法並びにガス資源の増進回収法

【課題】ガス・ハイドレートの生成を人工的に制御・促進することができると共に当該生成の際の発熱によって他のガス・ハイドレートを分解して当該他のガス・ハイドレート資源を効率的に採掘・回収することができるようにする。
【解決手段】ゲスト分子がハイドレート6になり得る温度・圧力条件下の地層2中の間隙3に、ゲスト分子の液体4を地層2中の間隙3よりも小さな微粒子にして分散媒24に分散させたエマルション5を注入し、真空状態にして地層2中に位置させた容器20の開口部20aを開口して該容器20周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して地層2中に位置させた容器20の開口部20aを開口して該容器20から流体を押し出すことによってエマルション5に攪拌の効果を与えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス・ハイドレートの生成促進方法並びにガス資源の増進回収法に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば二酸化炭素(CO2)の固定化に用いて好適なガス・ハイドレートを生成するための技術、並びに、例えば二酸化炭素(CO2)の固定化と並行して行うメタン(CH4)ガスの採掘・回収に用いて好適なガス・ハイドレートの生成と並行してガス資源を回収するための技術に関する。
【0002】
本明細書において、ハイドレート化しているガス資源のことをガス・ハイドレート資源と呼ぶ。具体的には例えば、CH4ガスがハイドレート化しているCH4ハイドレートについてはCH4ガスがガス資源であってガス・ハイドレート資源である。
【背景技術】
【0003】
CO2の大量放出に伴う地球温暖化を防止するため、CO2を大気に放出せずに回収しハイドレート化して例えば海底地層,湖底地層,永久凍土層等に固定することが研究されている。一方で、新たなエネルギー資源として海底地層等に大量に埋蔵されているCH4ハイドレートが注目されており、CH4ハイドレートを採掘することも研究されている。さらに、CH4ハイドレート中のCH4分子をCO2分子に置換することでCO2を固定すると共にCH4を採掘することについても研究されている。
【0004】
CH4ハイドレート中のCH4分子をCO2分子に置換することに関する研究論文(非特許文献1)が公表されている。この論文では、CH4ガス,CO2,水,CH4ハイドレート,CO2ハイドレートが混在する条件において、ハイドレート格子中のゲスト分子であるCH4が、ハイドレート格子を分解することなく、CO2に置換されることが熱力学的に論じられている。
【0005】
そして、ガス・ハイドレート中のガス分子を他のガス分子に置換する方法として、第一のゲスト分子のハイドレートが存在する地層中の間隙に第一のゲスト分子がハイドレートになる温度・圧力よりも高温・低圧でハイドレートになる第二のゲスト分子の液体を地層中の間隙よりも小さな微粒子にして水に分散させたエマルションを注入し、第二のゲスト分子のハイドレートが生成される時の発熱で第一のゲスト分子のハイドレートを分解させるようにするものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2007/023943
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】大垣一成 他「南海トラフのCH4hydrateの利用とCO2の貯蔵」,化学工学論文集20(1),p121〜123,1994年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のガス・ハイドレートの置換方法で前提としているように、CH4ハイドレート等のガス・ハイドレートが存在する地層中では、地層中に既存するガス・ハイドレートが核となって、水(流体)とCO2(流体)とが存在するとCO2ハイドレート(固体)の生成が促進される。
【0009】
ところが、図7に示すように、深度が深くて(即ち、圧力Pが高くて)地温Tが高い環境は、CO2ハイドレートの安定領域(図中灰色部分)の境界に近い温度・圧力条件であり、CO2ハイドレートが生成し難い条件である。室内実験であれば、CO2ハイドレートが安定であり得る温度・圧力条件にしてもCO2ハイドレートが生成されない場合には界面を羽根車等で攪拌することによってCO2ハイドレートが生成し易くなる。ここで、CO2ハイドレートが生成し易くなるというのは、CO2ハイドレートが安定であり得る温度・圧力条件にしてからCO2ハイドレートの生成が開始されるまでの時間が短縮されるということである。
【0010】
しかしながら、室内実験で利用される羽根車等を用いた攪拌を地層中で行うことは非常に困難である。そして、特許文献1の方法はガス・ハイドレートが生成される時の発熱を利用するものであるので、ガス・ハイドレートの生成を人工的に制御・促進させることができなければ、操作性が良いとは言えず、結果的に汎用性があるとは言えない。
【0011】
そこで、本発明は、ガス・ハイドレートの生成を人工的に制御・促進することができるガス・ハイドレートの生成促進方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、ガス・ハイドレートの生成を人工的に制御・促進することができると共に当該生成の際の発熱によって他のガス・ハイドレートを分解して当該他のガス・ハイドレート資源を効率的に採掘・回収することができるガス・ハイドレートの生成促進方法と組み合わせたガス資源の増進回収法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、請求項1記載のガス・ハイドレートの生成促進方法は、ゲスト分子がハイドレートになり得る温度・圧力条件下の地層中の間隙に、ゲスト分子の液体を地層中の間隙よりも小さな微粒子にして水に分散させたエマルションを注入し、真空状態にして地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器から流体を押し出すことによってエマルションに攪拌の効果を与えるようにしている。
【0013】
したがって、このガス・ハイドレートの生成促進方法によると、真空状態の容器の開口部を開口して流体を急激に吸い込ませること、或いは、流体及び圧縮気体を注入した容器の開口部を開口して流体を急激に押し出すことをトリガーとしてエマルションに攪拌の効果を与えてハイドレート化を人工的に制御・促進してハイドレートを迅速に生成することができる。
【0014】
このガス・ハイドレートの生成促進方法によると、また、ゲスト分子の液体が地層中の間隙よりも小さな微粒子となって水に分散されたエマルション状態で地層中に注入されるので、水と同様に移動を妨げられることなく地層中の間隙を埋めている海水や水を押し退けながら間隙内に容易に進入し或いは海水や水に拡散し、ゲスト分子の微粒子と海水とが混じり合ったエマルション状態のまま地層中に均質に分布する。しかも、予めエマルション状態にしてから地層中に注入されるため、ハイドレート生成に適した水とゲスト分子との割合で分散させることができる。
【0015】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のガス・ハイドレートの生成促進方法において、エマルション中のゲスト分子の液体と水との混合割合を変化させることでエマルションの単位量当たりの発熱量を制御するようにしている。この場合には、地層の温度がガス・ハイドレートの生成が生じる温度になるように制御される。
【0016】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載のガス・ハイドレートの生成促進方法において、ゲスト分子はCO2であるようにしている。この場合には、ゲスト分子をCO2として地層中の間隙にハイドレートを生成して地球温暖化の原因になっているCO2を地層中に固定化することができる。
【0017】
また、請求項4記載のガス資源の増進回収法は、第一のゲスト分子のハイドレートが存在する地層中の間隙に、第一のゲスト分子がハイドレートになる温度・圧力よりも高温・低圧でハイドレートになり得る第二のゲスト分子の液体を地層中の間隙よりも小さな微粒子にして水に分散させたエマルションを注入し、真空状態にして地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器から流体を押し出すことによってエマルションに攪拌の効果を与えて第二のゲスト分子のハイドレートの生成を促進するのと並行してその時の反応熱で第一のゲスト分子のハイドレートを分解させ、第一のゲスト分子のハイドレートを第二のゲスト分子のハイドレートに置換しながら第一のゲスト分子のガスを回収するようにしている。
【0018】
したがって、このガス資源の増進回収法によると、真空状態の容器の開口部を開口して流体を急激に吸い込ませること、或いは、流体及び圧縮気体を注入した容器の開口部を開口して流体を急激に押し出すことをトリガーとしてエマルションに攪拌の効果を与えてハイドレート化及びゲスト分子の置換並びにガスの回収を人工的に制御・促進すると共にハイドレートを迅速に生成することができる。
【0019】
このガス資源の増進回収法によると、また、第二のゲスト分子を取り込んだガス・ハイドレートを生成させるのと並行して第一のゲスト分子を取り込んだガス・ハイドレートの分解を迅速に進行させ、地層の弱体化や崩壊を招くことなくガス・ハイドレートの置換が行われる。しかも、第二のゲスト分子の微粒化により、化学反応を促進するために必要な反応面積が増えてガス・ハイドレートの分解に必要な熱がガス・ハイドレートの生成時の発熱で効率的に与えられ、熱を得るためのCO2の発生が抑えられる。
【0020】
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載のガス資源の増進回収法において、エマルション中の第二のゲスト分子の液体と水との混合割合を変化させることでエマルションの単位量当たりの発熱量を制御するようにしている。この場合には、地層の温度がガス・ハイドレートの生成が生じる温度になるように制御される。
【0021】
また、請求項6記載の発明は、請求項4記載のガス資源の増進回収法において、第一のゲスト分子はCH4であると共に第二のゲスト分子はCO2であるようにしている。この場合には、地球温暖化の原因になっている地上のCO2が地層中に安定なハイドレートとして固定されながら、そのハイドレート生成反応熱によって埋蔵されているCH4が採取される。
【0022】
また、請求項7記載のガス資源の増進回収法は、CH4ハイドレート層の上のCO2がハイドレートになり得る温度・圧力条件下の地層の間隙に、CO2の液体を地層中の間隙よりも小さな微粒子にして水に分散させたエマルションを注入し、真空状態にして地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器から流体を押し出すことによってエマルションに攪拌の効果を与えてCO2のハイドレートのシール層を形成した後、CH4ハイドレート層の間隙に前記エマルションを注入し、真空状態にして地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器から流体を押し出すことによってエマルションに攪拌の効果を与えてCO2のハイドレートの生成を促進するのと並行してその時の反応熱で間隙に存在するCH4ハイドレートを分解させ、CH4ハイドレートをCO2ハイドレートに置換しながらCH4ガスを回収するようにしている。
【0023】
したがって、このガス資源の増進回収法によると、地球温暖化の原因になっている地上のCO2を地層中に安定なハイドレートとして迅速に固定化しながら、その時に発生するハイドレート生成反応熱によって埋蔵されているCH4を採取することができる。しかも、CH4ハイドレートをCO2ハイドレートに置換しながらCH4ハイドレートの採掘を進行するので、地層の弱体化や崩壊を招くことがない。加えて、CH4ハイドレートの採掘に必要なCH4ハイドレートを分解させるためのエネルギーが、廃棄物として地層中に固定するCO2の反応熱から得られる。
【0024】
このガス資源の増進回収法によると、また、採掘対象となるCH4ハイドレート層の上の地層に本発明のガス・ハイドレートの生成促進方法によってCO2ハイドレートのシール層が形成されるので、該地層の隙間がCO2ハイドレートによって埋められ固相が互いに連結されて安定化される。
【0025】
このガス資源の増進回収法によると、さらに、採掘対象となるCH4ハイドレート層の上の地層に本発明のガス・ハイドレートの生成促進方法によってCO2ハイドレートのシール層が、さらに、下の地層にCO2ハイドレートの発熱層が形成される。
【発明の効果】
【0026】
請求項1記載のガス・ハイドレートの生成促進方法によれば、容器の開口部の開口操作をトリガーとしてハイドレート生成開始のタイミングを人工的に制御することができるので、ハイドレート生成の制御性・操作性を高めて利便性・汎用性の向上を図ることが可能になる。また、ハイドレートを迅速に生成することができるので、大量のゲスト分子を地層中に固定することが可能になると共に、ゲスト分子の液体が地下水の流れや浮力によって移動したり拡散したりするのを抑制することが可能になる。また、ゲスト分子の微粒子と海水とが混じり合ったエマルション状態のまま地層中に均質に分布させることができ、しかも、ハイドレート生成に適した水とゲスト分子との割合で分散させることができるので、ハイドレートを均質且つ効率的に生成することが可能になる。
【0027】
さらに、請求項2記載のガス・ハイドレートの生成促進方法によれば、地層の温度がガス・ハイドレートの生成が生じる温度になるように制御することができるので、ガス・ハイドレートの生成に伴う地層の温度上昇によってハイドレートが不安定になることを回避することが可能になり、温度を下げる仕組みを必要としないのでコストを低減することが可能になる。
【0028】
さらに、請求項3記載のガス・ハイドレートの生成促進方法によれば、地球温暖化の原因になっているCO2を地層中に、しかも大量にハイドレートとして固定化することができるので、地球温暖化の抑制に貢献することが可能になる。
【0029】
また、請求項4記載のガス資源の増進回収法によれば、容器の開口部の開口操作をトリガーとしてハイドレート生成等の開始のタイミングを人工的に制御することができるので、ハイドレート生成等の制御性・操作性を高めて利便性・汎用性の向上を図ることが可能になる。また、地層の弱体化や崩壊を招くことなくガス・ハイドレートの置換を行うことができるので、ガス・ハイドレートの置換作業中に地震などによって大規模な海底地滑りが発生した場合にも、地層中に注入された第二のゲスト分子や分解により得られた第一のゲスト分子のガスが大気中に漏れ出たり、或いはガス・ハイドレートが浮力で上昇してガス化し大気中に放出される危険性がほとんどなく、ガス資源の回収作業の安全性の向上を図ることが可能になる。
【0030】
さらに、請求項5記載のガス資源の増進回収法によれば、地層の温度がガス・ハイドレートの生成が生じる温度になるように制御することができるので、ガス・ハイドレートの生成に伴う地層の温度上昇によってハイドレートが不安定になることを回避することが可能になり、温度を下げる仕組みを必要としないのでコストを低減することが可能になる。
【0031】
さらに、請求項6記載のガス資源の増進回収法によれば、地球温暖化の原因になっているCO2を地層中に、しかも大量にハイドレートとして固定しながら、そのハイドレート生成反応熱によって埋蔵されているCH4を採取することができるので、地球温暖化の抑制に貢献しながらCH4ガスを採取することが可能になる。
【0032】
また、請求項7記載のガス資源の増進回収法によれば、CH4ハイドレートの採掘に必要なCH4ハイドレートを分解させるためのエネルギーを廃棄物として地層中に固定するCO2の反応熱から得るようにしているので、廃棄物であるCO2に付加価値を持たせることができ、エネルギーを有効に利用することが可能になる。また、地層の隙間をCO2ハイドレートによって埋めて固相を互いに連結して安定化することができるので、地震などによって大規模な海底地滑りが発生した場合にも、CH4ハイドレートの分解により得られたCH4ガスが大気中に漏れ出たり、海水よりも密度が小さいCH4ハイドレートが浮力で上昇してガス化して大気中に放出される危険性が少なく、ガス資源の回収作業の安全性の向上を図ることが可能になる。特に、CH4ハイドレートが埋蔵されている海底堆積層は砂層に濃集しているので有益である。しかも、CH4ハイドレート層とシール層との双方にCO2を安定なハイドレートとして固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のガス・ハイドレートの生成促進方法の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図2】地層中の間隙に液体CO2を微粒化して注入した場合におけるCO2ハイドレートの生成及びCH4ハイドレートの分解の様子を示す図である。
【図3】CH4ハイドレートとCO2ハイドレートとの置換の仕組みを示す概略構成図である。
【図4】注入井の上端部分の概略構造を示す図である。
【図5】注入井の下端部分の概略構造を示す図である。
【図6】本発明のガス・ハイドレートの生成促進方法と組み合わせたガス資源の増進回収法の全体構成を示す概略構成図である。
【図7】CO2ハイドレートの安定領域とCH4ハイドレートの安定領域との関係を説明する図である。
【図8】永久凍土層を想定したCO2ハイドレートの生成模式図である。
【図9】地層中の間隙に液体CO2を微粒化しないで注入した場合におけるCO2ハイドレートの生成及びCH4ハイドレートの分解の様子を示す図である。
【図10】本発明のガス・ハイドレート採掘方法の一実施形態をCH4ハイドレートの採掘の例を挙げて示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0035】
図1から図10に、本発明のガス・ハイドレートの生成促進方法、並びに、当該ガス・ハイドレートの生成促進方法と組み合わせたガス資源の増進回収法の実施形態の一例を示す。
【0036】
本発明のガス・ハイドレートの生成促進方法は、ゲスト分子がハイドレート6になり得る温度・圧力条件下の地層2中の間隙3に、ゲスト分子の液体4を地層2中の間隙3よりも小さな微粒子23にして分散媒24に分散させたエマルション5を注入し、真空状態にして地層2中に位置させた容器20の開口部20aを開口して該容器20周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して地層2中に位置させた容器20の開口部20aを開口して該容器20から流体を押し出すことによってエマルション5に攪拌の効果を与えるようにしている。
【0037】
また、本発明の上記ガス・ハイドレートの生成促進方法と組み合わせたガス資源の増進回収法は、ガス・ハイドレートの生成を地層内で人工的に促進させることで地層の温度を上昇させて地層内に生成されている自然のガス・ハイドレートを分解することでゲスト分子を置換させる方法であり、第一のゲスト分子のハイドレート1が存在する地層2中の間隙3に、第一のゲスト分子がハイドレートになる温度・圧力よりも高温・低圧でハイドレートになり得る第二のゲスト分子の液体4を地層2中の間隙3よりも小さな微粒子23にして分散媒24に分散させたエマルション5を注入し、真空状態にして地層2中に位置させた容器20の開口部20aを開口して該容器20周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して地層2中に位置させた容器20の開口部20aを開口して該容器20から流体を押し出すことによってエマルション5に攪拌の効果を与えて第二のゲスト分子のハイドレート6の生成を促進するのと並行してその時の反応熱で第一のゲスト分子のハイドレート1を分解させ、第一のゲスト分子のハイドレート1を第二のゲスト分子のハイドレート6に置換しながら第一のゲスト分子のガスを回収するようにしている。
【0038】
(1.第二のゲスト分子を水に分散させたエマルションの注入)
本発明のメカニズムを説明する図2中の符号25は地層2の砂粒子である。地層2は例えば海底の地層であり、エマルション5の分散媒24としてはゲスト分子を閉じこめる結晶(若しくは水和物)を生成する水或いは海水を利用する。ここで、地層2の間隙3は、固相(砂粒子,ガス・ハイドレート)の間の隙間であり、実質的には液相(液体ガス,水,海水)及び気相(気体ガス)部分が占める領域を意味する。つまり、液体のゲスト分子をガス・ハイドレートが形成される地層中の固相間の隙間よりも小さな微粒子23にして海水或いは水などの分散媒24に分散させたエマルションとして噴出する。なお、本発明では、地層2の間隙3に進入させるエマルション5が、ゲスト分子の微粒子23の分布が均一であって良好な状態であるほどハイドレート化し易く適当である。
【0039】
ここで、本実施形態では、図6に示すように、CO2ハイドレートを生成してCH4ハイドレート資源(具体的にはCH4ガス)を採掘・回収する場合を例に挙げて説明する。すなわち、以下では、第一のゲスト分子がCH4であると共に第一のゲスト分子のハイドレート1がCH4ハイドレートであり、第二のゲスト分子がCO2であると共に第二のゲスト分子のハイドレート6がCO2ハイドレート,第二のゲスト分子の液体4が液体CO2である場合を例に挙げて説明する。
【0040】
図7はメタン(CH4)ハイドレート1の安定領域(図中斜線部分)と二酸化炭素(CO2)ハイドレート6の安定領域(図中灰色部分)とを示す図である。図7からも明らかなように、温度Tが283〔K〕以下においては、同じ圧力P〔MPa〕であれば、CH4ハイドレート1が安定して存在する上限温度よりもCO2ハイドレート6が安定して存在する上限温度の方が高温である。また、温度Tが283〔K〕以下においては、同じ温度Tであれば、CH4ハイドレート1が安定して存在する下限圧力よりもCO2ハイドレート6が安定して存在する下限圧力の方が低圧である。すなわち、CH4ハイドレート1が安定して存在する温度T及び圧力PよりもCO2ハイドレート6が安定して存在する温度T及び圧力Pの方が高温・低圧にまで及ぶ。
【0041】
そして、図7において符号Xで示す、CH4ハイドレート1の安定領域(図中斜線部分)と重複していないCO2ハイドレート6の安定領域(図中灰色部分)は、CO2ハイドレート6の生成とCH4ハイドレート1の分解とが同時に生じる温度・圧力条件の領域であり、本発明ではこの領域を利用してCH4ハイドレート1をCO2ハイドレート6に置換する。そして、CH4ハイドレート1をCO2ハイドレート6に置換することにより、CO2を固定しながらCH4を採掘・回収する。
【0042】
ここで、海洋地盤において自然のCH4ハイドレートが濃集する場所は砂層であり、CH4ハイドレート資源を回収する場合には通常はこの濃集域を採掘の対象とする。そして、砂層の50%ほどの立体的な編目構造を成す隙間にCH4ハイドレートが存在し、間隙の最大60%がCH4ハイドレートであることが知られている。そこで、本実施形態では、海底の地層2をCH4ハイドレートの採掘対象及びCO2のハイドレート化固定対象の地層として説明する。
【0043】
図3に示すように、注入井7及び生産井8の下端はCH4ハイドレートが生成されている地層2にまで達している。海上にはプラットホーム9が設けられており、当該プラットホーム9から注入井7及び生産井8が海底に降ろされている。生産井8の上端は図示しないポンプに接続されており、地層2の間隙を埋めている海水24ごとCH4ガスを汲み上げる。生産井8によって汲み上げられたCH4ガスは海水24と分離された後、例えば火力発電所26で発電に使用される。
【0044】
注入井7は、例えば図4に示すように、外管10内に内管11を配置した二重管構造を成している。内管11の上端は液体CO2タンク12に接続されており、内管11内は液体CO24が流れる通路になっている。液体CO2タンク12に貯蔵されている液体CO24は、例えば火力発電所26、製鉄所、セメント工場等から排出されたCO2を回収して液化したものである。
【0045】
内管11の先端には、図5に示すように、液体CO24を地層2中の間隙3よりも小さな微粒子23(図2参照)として外管10で囲われた流路内に噴射するスプレーノズル13が設けられている。当該スプレーノズル13内で液体CO24の高速流を作り、せん断や衝突の効果で液体CO24を微粒化する。ノズルによって液体を微粒化する方法は霧吹きでも使用されている一般的な方法が適用可能であり、具体的には例えばスプレーノズル13の前後の液体CO24の圧力差を1〔MPa〕〜数10〔MPa〕にすることでスプレーノズル13内の液体CO24の流速を音速程度にし、これによってスプレーノズル13から噴射させる液体CO24の微粒子23の粒径をμmオーダー以下にすることが可能である。
【0046】
ここで、噴霧時の液体CO2の微粒子23(図2参照)の平均粒径はガス・ハイドレートが形成される地層中の隙間即ち固相間の隙間よりも小さくすることが必要であり、例えば数〔μm〕〜30〔μm〕程度にすることが好ましい。この場合には、ハイドレートを生成させる地層中の間隙よりも十分に小さな粒径の微粒子であると考えられる。
【0047】
外管10の上端は海洋31から海水24を汲み上げて吐出させるポンプ14の吐出口に接続されており、外管10と内管11との間は海水24が流れる通路になっている。外管10と内管11との間の海水24の流れの中にノズル13から液体CO24の微粒子23を噴射することで、液体CO24を間隙3よりも小さな微粒子23として海水24に分散させたCO2/水エマルション5を地層2に噴射する直前に作り出すことができる。海洋31からの海水24の汲み上げは、吸い上げ管14aの長さを調整することで、海底までの任意の深さから行われる。なお、外管10は例えばドリルロッドであり、内管11のスプレーノズル13が装備されている先端よりも先において、生成されたCO2/水エマルション5を地層2内に均等に噴出するための噴出口10aを周面に多数有している。
【0048】
これによって、エマルション5の水/CO2の質量比は、地層2に注入する前に、注入井7内で、ハイドレートを生成する目的に応じた好適な割合に調整が可能となる。例えば、対象となる地層2においてハイドレートを生成しゲスト分子を安定に固定することを目的とする場合、地層中に既に存在するガス・ハイドレートのゲスト分子と供給ゲスト分子とを置換することを目的とする場合、或いはハイドレートの生成の際の反応熱をハイドレートの形で地層中に存在する天然資源を採掘・回収する際の熱源とすることを目的とする場合など、そのハイドレート生成目的に応じた水/CO2の混合割合に調整することができる。
【0049】
例えば、本実施形態のように、CH4ハイドレートが濃集する地層2中にCO2をハイドレートにして固定するのと並行してCH4ハイドレートを水とCH4ガスとに分解して回収することによって地層中のCH4ハイドレートをCO2ハイドレートに置換することでCH4ハイドレートを採掘・回収する場合には、CO2ハイドレートの生成と安定とに好適な水/CO2の質量比となるように調整することが好ましい。
【0050】
また、エマルション5の分散媒として使う海水或いは水の温度若しくは液体CO2の温度を調整することで、ガス・ハイドレートを生成しようとする地層の温度条件や地層の温度上昇条件などに対してハイドレートを生成し且つ安定させるに最適な温度のエマルション5として注入することも可能となる。例えば、海水24を採取する深度を変えれば、必要な温度の水/海水が容易に得られる。
【0051】
注入井7から噴射されたエマルション5はCH4ハイドレート層2の間隙3を埋めている海水を押し退けながら間隙に進入し、均質な割合で液体CO2(微粒子23)と海水(分散媒24)とが間隙3に行き渡る。
【0052】
(2.第二のゲスト分子のハイドレートの生成促進方法)
エマルション5が進入した間隙3にはCH4ハイドレート1が安定して存在している(海水温度は283〔K〕以下)。すなわち、間隙3はCO2ハイドレートも安定して存在し得る温度・圧力条件である。
【0053】
そして、本発明では、間隙3に進入させたCO2/水エマルション5のハイドレート化を耐圧容器20を用いて促進させる。
【0054】
CH4ハイドレート1が安定して存在していると共にCO2/水エマルション5が間隙3に供給されたCH4ハイドレート層2に向けて当該CH4ハイドレート層2に達する深さでボーリング孔30が形成される。そして、当該ボーリング孔30内にケーブル28の下端に取り付けられた耐圧容器20が吊り下げられ、CH4ハイドレート層2内の深度に位置される。
【0055】
耐圧容器20は、少なくとも開口動作可能な弁を備える開口部20aを側壁に有する。開口部20aの弁の開口動作は、耐圧容器20にタイマーを設けて当該タイマーによって自動で開始するようにしても良いし、ケーブル28自体を電気信号ケーブルとすることによって若しくはケーブル28に沿わせて配設した電気信号ケーブルによって電気信号を伝達させるようにして当該電気信号によって遠隔操作できるようにしても良い。なお、耐圧容器20が複数の開口部20aを備えるようにしても良く、その場合には複数の開口部20aが開口動作を同時に行うようにする。
【0056】
耐圧容器20内は減圧されて真空状態にされる。耐圧容器20の減圧は、海上・地上で予め行われるようにしても良いし、耐圧容器20に減圧機構を設けて当該減圧機構によってボーリング孔30内で行うようにしても良い。なお、開口部20aの弁は、耐圧容器20内が真空である状態において当該真空状態を維持することができる程度の密封性を有する。
【0057】
本実施形態では、耐圧容器20の上方に上部パッカー21Aが設けられると共に下方に下部パッカー21Bが設けられる。上部・下部パッカー21A・21Bは例えば樹脂製で空気によって膨張してボーリング孔30内の流体の流動を制限する程度の密封性を発揮するものが用いられる。
【0058】
そして、上部・下部パッカー21A・21Bを伴った耐圧容器20がCH4ハイドレート層2内の所定の深度に位置され、両パッカー21A・21Bが拡張して耐圧容器20の上下でボーリング孔30を密封する。なお、耐圧容器20はCH4ハイドレート層2内に位置されるので、少なくとも耐圧容器20の周囲はCO2ハイドレートが安定である温度・圧力条件になっている。
【0059】
所定の深度に位置されて開口部20aの弁が開けられる。そして、ボーリング孔30の上部パッカー21Aと下部パッカー21Bとに挟まれた部分(即ち、耐圧容器20の側壁周囲)のCO2/水エマルション5及び海水24が耐圧容器20内に瞬間的に急激に吸い込まれる。
【0060】
このとき、ボーリング孔30内の耐圧容器20の上下は上部・下部パッカー21A・21Bによって流体の流動が制限されているので、ボーリング孔30内の耐圧容器20の上方・下方の水は耐圧容器20に向かって流動することがなく、耐圧容器20が位置する深度のボーリング孔30周囲のCO2/水エマルション5及び海水24がボーリング孔30内にそして耐圧容器20内に瞬間的に急激に流れ込む。これにより、ボーリング孔30周囲のCO2/水エマルション5に急激な流動が生じる。
【0061】
また、耐圧容器20内がCO2/水エマルション5及び海水24によって瞬間的に満たされた時に、CO2/水エマルション5及び海水24の流動が急激に止まって水撃作用(ウォーターハンマーとも呼ばれる)が生じる。これにより、ボーリング孔30周囲のCO2/水エマルション5に衝撃・振動が与えられる。
【0062】
このような、耐圧容器20の開口部20aの開口による瞬間的で急激な流動により、CH4ハイドレート層2の間隙3に進入させたCO2/水エマルション5に攪拌の効果が与えられる。さらに、水撃作用による衝撃・振動によって攪拌の効果が増強される。ここに、攪拌の効果とは、CO2と水との界面(接触面)の面積が増えること、言い換えると、微滴が存在するCO2/水エマルションが生成されることである。そして、この攪拌の効果によって、CO2ハイドレートが安定する温度・圧力条件下であるけれどもCO2ハイドレートが生成され難い条件下においてもハイドレートが確実に生成され促進される。
【0063】
瞬間的で急激な流動によってCO2/水エマルション5に攪拌の効果が与えられることにより、CO2ハイドレートが安定であり得る温度・圧力条件下においてのCO2ハイドレート生成が誘起される。CO2/水エマルション5のCO2ハイドレート化は、始めはボーリング孔30直近で起こり、ハイドレート化の範囲(言い換えると、攪拌の効果の波及範囲)が同心円状に周囲に向かって徐々に伝播するように拡がることによって進行する。また、攪拌の効果が与えられることにより、CO2ハイドレート生成は急速に進行する。
【0064】
なお、耐圧容器20の大きさや減圧の程度(言い換えると、開口部20aの開口によって生じさせる圧力差の大きさ)は、ハイドレート化するCO2/水エマルション5の量やその進入の範囲を勘案して適当に設定される。
【0065】
本発明では、上述のように、CH4ハイドレート層2の間隙3にCO2/水エマルション5を供給した後に耐圧容器20を用いてハイドレート生成のトリガーを与えることによって前記エマルション5のハイドレート化が開始される。したがって、本発明によれば、ガス・ハイドレートの生成を人工的に制御・促進することができる。なお、耐圧容器20によるハイドレート生成のトリガーは一度与えれば一定の範囲内のCO2/水エマルション5のCO2ハイドレート化を引き起こすことができ、同じ場所において連続して与える必要はない。
【0066】
本発明の以上の内容によれば、所定の地層中におけるガス・ハイドレートの生成を促進させることができる。
【0067】
(3.第一のゲスト分子のハイドレートの分解と当該ハイドレート資源の回収)
ハイドレートの生成は発熱反応であり、ハイドレートの分解は吸熱反応である。CO2ハイドレート6が生成される時の発熱によってその周囲の固相及び液相を含めた地層2の温度が上昇し、CH4ハイドレート1が分解される。例えば、図7の点P1の状態から温度が上昇して点P2の状態に移行すると、間隙3は図7のCO2安定領域(図中灰色部分)には属している一方でCH4安定領域(図中斜線部分)からは外れる。このため、間隙3のCH4ハイドレート1は分解する一方でCO2ハイドレート6は安定して存在することになり、間隙3に存在するハイドレートがCH4ハイドレート1からCO2ハイドレート6に置換される。なお、ここでの置換はCO2ハイドレート6が生成されるのに伴ってCH4ハイドレート1が分解される現象が主であるが、CH4ハイドレート1の分解が起こらずにゲスト分子であるCH4がCO2に入れ替わる現象も一部に生じている。
【0068】
なお、CO2ハイドレート6の生成時に発生した熱はCH4ハイドレート1の分解時に吸収されるので、間隙3ひいては地層2の温度はCO2ハイドレートが生成され安定である温度を超えるほどに上昇することはない。このため、生成されたCO2ハイドレート6は安定したままで存在する。
【0069】
CH4ハイドレート1の分解によってCH4ガス27が発生する。CH4ガス27は気泡となって間隙3を流れる海水24中に浮遊する。また、発生したCH4ガス27の一部は海水24に溶解する。一方、注入井7からはエマルション5が吐出されており、生産井8は海水24を吸い上げているので、CH4ハイドレート層2の間隙3には注入井7から生産井8に向かう海水24の流れが生じている。このため、発生したCH4ガス27の気泡と海水24に溶解したCH4ガス27とは海水24と共に生産井8から回収される。
【0070】
このように、海底の地層中にCO2を注入してCO2ハイドレートを生成し、その時のハイドレート生成反応熱で地層2の温度を上昇させて海底地盤中の有効資源であるCH4ハイドレート1を分解しながらCO2ハイドレートに置換することにより、CO2の固定とCH4ハイドレート1の採掘・回収、並びに地層強度の復旧と安定化とを同時進行させることができる。また、ガス・ハイドレートを生成して固定化しようとするゲスト分子(例えば本実施形態の場合にはCO2)を単に加温剤として使用することも可能である。
【0071】
エマルション5中の液体CO2は地層2中の間隙3よりも小さな微粒子23とされているので、液体CO2が水と同様に移動を妨げられることなく地層2中の間隙3に容易に進入し、移動を妨げられることなく均一な分布で分散する。このため、地層2中の間隙3に広い範囲に亘って液体CO2をハイドレート生成に適した水とCO2との割合で若しくはそれに近い割合で均質に分散させることができ、CO2ハイドレート6を広い範囲に亘って均質に生成することができる。
【0072】
また、液体CO2が微粒子とされているので、液体CO2(微粒子23)と海水(分散媒24)との接触面積が増加する。例えば、液体CO2の微粒子23が球状の場合、半径が1/10になると、単位体積当たりの粒子数は1000倍、各微粒子23の表面積は1/100となり、単位体積当たりの表面積の和は10倍になる。例えば、微粒子23の半径が1〔mm〕のときの表面積を基準とすると、微粒子23の直径を0.01〔mm〕或いは0.001〔mm〕にすると、単位体積当たりの表面積の和はそれぞれ100倍或いは1000倍となる。このように、液体CO2(微粒子23)と海水24との接触面積を増加させることができるので、両者の接触面積を増加させてCO2ハイドレート6の生成を確実なものにすることができる。
【0073】
ちなみに、図9に、地層2中の間隙3に液体CO24を微粒子にしないで100%に近い濃度の液体CO2のまま注入した場合の様子を示す。この場合には、間隙3を埋めている海水24を液体CO24で押し退けながら間隙3に進入するため、液体CO24と海水24とはその境界でのみ接触し、その内側では液体CO2のみが或いは海水24のみがそれぞれ存在することになるので、ハイドレート生成反応に適した割合の水とCO2とを間隙3において均質に分布させることは不可能に近いものとなる。
【0074】
また、本発明においては、液体CO2は地層2の間隙3よりも小さな微粒子にされて予めエマルションとして供給されるため、注入井7からCH4ハイドレート層2の間隙3に注入されるエマルション5中の液体CO2(微粒子23)と水(分散媒24)との混合割合を変化させることでエマルション5の単位量当たりの発熱量を制御することが可能となる。例えば、注入井7の液体CO24の流量と海水24の流量との割合を調節することで、エマルション5中の液体CO2(微粒子23)と海水(分散媒24)との混合割合を変化させてエマルション5の単位量当たりの発熱量を制御することができる。
【0075】
また、ハイドレートを構成するゲスト分子の数と水分子の数との割合はゲスト分子の種類毎に決まっている。エマルション5中の液体CO2(微粒子23)と海水(分散媒24)との混合割合を、CO2ハイドレート6を構成するCO2の分子数と水分子数との割合に近づけるとエマルション5の単位量当たりのハイドレートの生成量が増加して発熱量も増加する。逆に、エマルション5中の液体CO2(微粒子23)と海水(分散媒24)との混合割合を、CO2ハイドレート6を構成するCO2の分子数と水分子数との割合から遠ざけるとエマルション5の単位量当たりのハイドレートの生成量が減少して発熱量も減少する。したがって、エマルション5中の液体CO2(微粒子23)と海水(分散媒24)との混合割合を変化させることでCO2ハイドレート生成時の単位量当たりの発熱量を制御することができる。そして、CO2ハイドレート生成時のエマルション5の単位量当たりの発熱量を制御することで、地層2の温度上昇を制御することができる。この地層2の温度制御により、ガス・ハイドレートの生成が生じる温度に維持したり、或いは、置換若しくは採掘・回収しようとするハイドレート例えばCH4ハイドレート1の分解量を調整することができる。
【0076】
また、永久凍土層を想定したCO2ハイドレートの生成模式図を図8に示す。具体的には、永久凍土層中のCH4ハイドレートを囲むように当該永久凍土層中にCO2エマルションを注入し、上述のガス・ハイドレートの生成促進方法を用いてCO2エマルションに攪拌の効果を与えてCO2ハイドレートを人工的に迅速に生成し、その時のハイドレート生成反応熱で永久凍土の温度を上昇させてCH4ハイドレートを分解しながらCO2ハイドレートに置換する。このようにすれば、CO2ハイドレートの安定領域となる温度・圧力の条件でCH4ハイドレートが存在する永久凍土層中で人工的にCO2ハイドレートの生成を促進させることができる。
【0077】
(4.シール層の形成)
ガス・ハイドレートの採掘・回収に際しては、採掘対象となるガス・ハイドレート層の上に採掘対象となるガス・ハイドレートよりも高い温度・低い圧力でも安定なガス・ハイドレートのシール層を予め形成しておくことが好ましい。例えば、本実施形態のCH4ハイドレートの採掘においては、ハイドレートの置換は、CH4ハイドレートが生成されている地層2の上にCO2ハイドレートのシール層22を形成した後に行われることが好ましい。CO2はCH4に比べて高温・低圧の条件下でハイドレートとして安定するので、CH4ハイドレートが生成された地層2の上に形成されるシール層22として好適である。
【0078】
具体的には、まず、CH4ハイドレートが生成された地層2の上の、CO2がハイドレートになり得る温度・圧力条件下の地層に貫通する注入井29を設置して当該地層の固体粒子間の間隙に、間隙よりも小さな微粒子とした液体CO2を海水に分散させたCO2/水エマルション5を注入すると共に耐圧容器20によって攪拌の効果を与えてシール層22を形成する。その後、CH4ハイドレートが生成されている地層2の固体粒子間の間隙3に、上述のCO2/水エマルション5を注入すると共に耐圧容器20によって攪拌の効果を与えてCO2ハイドレートを形成する一方でその時の反応熱を利用して間隙3に存在するCH4ハイドレートを分解させる。CH4ハイドレートの分解により生じたCH4ガス27はシール層22に捕集されて海や大気に漏れ出すことなく生産井8から回収される。これにより、地層2に埋設されているCH4ハイドレートはCO2ハイドレートに置換されながらCH4ガスが回収される。
【0079】
なお、ガス・ハイドレートの生成によってシール層22を形成する場合において、自然のガス・ハイドレートが埋蔵されていない地層に形成されるときには、ガス・ハイドレートの分解による吸熱が期待できないので、シール層22を形成するガス・ハイドレートの生成が生じる温度となるように、エマルション5の温度や液体ゲスト分子微粒子の平均粒径の調整などにより、温度調整を図ることが必要となる場合がある。例えば、CO2をゲスト分子とする場合には、CO2/水エマルションの液体CO2の微粒子23に対して混合する海水の量を増やしたり、混合する海水をより低い温度の海水にするなどの工夫が必要になる場合がある。また、エマルション5中の液体CO24と水24との混合割合を変化させることでエマルション5の単位量当たりの発熱量を制御するようにしても良い。
【0080】
また、図10に他のガス・ハイドレートの採掘方法の実施形態を示す。このガス・ハイドレートの採掘方法は、まず、採掘対象となるCH4ハイドレート層32の上にCO2ハイドレートのドーム形のシール層22を形成した後、さらにCH4ハイドレート層32の下の地層にCO2を固定するCO2ハイドレート層33を形成し、その時の反応熱を利用してCO2エマルションを注入した地層33の温度を上昇させてその地層33の上のCH4ハイドレート層32のCH4ハイドレートを下部から水とCH4ガスとに分解させるようにしたものである。
【0081】
CH4ハイドレート層32の分解により発生したCH4ガス27はドーム形のシール層22で集められてから生産井8によって地上に回収される。そして、CH4ハイドレート採掘後の地層には、注入井7を上昇させることによって或いはCH4ハイドレート層32に貫通する別の注入井を設置することによってCO2/水エマルション5を注入してCO2ハイドレートを生成させ、未固結状態となった砂粒子などの固相同士をCO2ハイドレートで連結して地層の強度を復旧させる。これにより、CH4ハイドレート32からメタンガスを安全に採掘・回収しながら、大量のCO2を海底堆積層に安定なハイドレートとして3つの層22,32,33に固定化することができる。
【0082】
なお、CH4ハイドレート層32の上方はCH4ハイドレートの採掘に先立ってシール層22を成すCO2ハイドレートの生成によって地層の固相が連結され安定化されているので、地震などによって大規模な海底地滑りが発生した場合に、CH4ハイドレートの分解により得られたCH4ガスが大気中に漏れ出たり、海水よりも密度が小さいCH4ハイドレートが浮力で上昇してガス化し大気中に放出される危険性が少ない。
【0083】
以上のように構成された本発明のガス資源の増進回収法によれば、容器20の開口部20aの開口操作をトリガーとしてハイドレート生成等の開始のタイミングを人工的に制御することができるので、ハイドレート生成等の制御性・操作性を高めて利便性・汎用性の向上を図ることが可能になる。また、本発明によると、ガス・ハイドレートの生成を迅速に行うことができるので、他のガス・ハイドレートとの置換や資源ハイドレートの採掘に限らず、ゲスト分子を地層中にハイドレートとして固定化・貯蔵する場合にも好適である。例えばCO2ガスの固定化技術として適している。
【0084】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態ではCO2のハイドレート化による固定、CO2ハイドレートとCH4ハイドレートとの置換並びにCH4ハイドレート資源(具体的にはCH4ガス)の回収を例に挙げて主に説明したが、対象となるゲスト分子はCO2やCH4に限られるものではない。ガス・ハイドレートを生成するあらゆるゲスト分子に本発明のガス・ハイドレートの生成促進方法が適用できることは明らかであり、ハイドレートの置換による本発明のガス資源の増進回収法に関しても安定する温度と圧力との条件が異なる2種類のゲスト分子の組み合わせの間で成立する。例えば、天然のガス・ハイドレートのゲスト分子としては、メタン(CH4),エタン(C26),プロパン(CH3CH2CH3),二酸化炭素(CO),硫化水素(H2S),空気(窒素(N2))が知られており、これらガス・ハイドレートの生成、置換及びガス・ハイドレート資源の回収に本発明が適用できることは明らかである。
【0085】
また、上述の実施形態においては、砂層が中心となる海底堆積層におけるガス・ハイドレートの生成方法、置換方法及びガス・ハイドレート資源の回収方法について主に説明したが、当然、湖底のCH4ハイドレート層等の地層や永久凍土のCH4ハイドレート層等の地層などに適用することもできるし、ハイドレート生成に必要な水を含んだエマルション5として地層の間隙に注入することから間隙に水が存在しない地層を対象にゲスト分子のハイドレート生成による固定、置換及びガス・ハイドレート資源の回収を実施することも可能である。
【0086】
また、上述の実施形態では、地層に注入する前に液体CO2を水/海水中に噴射してエマルションを得るようにしているが、地層等の状況によっては、CH4ハイドレートが存在する地層中に液体CO2をスプレーノズルから直接に噴出させて地層中の海水などに液体CO2の微粒子を分散させてエマルションとしてから更に噴出のエネルギーを利用して地層中に拡散させるようにしても良い。
【0087】
また、上述の実施形態では、減圧し真空状態にした耐圧容器20の開口部20aを開口してCO2/水エマルション5及び海水24を当該容器20内に瞬間的に急激に吸い込むことによってCH4ハイドレート層2中のCO2/水エマルション5に攪拌の効果が与えられるようにしているが、CO2/水エマルションや海水若しくは他の流体と圧縮空気等の圧縮気体とが注入された耐圧容器20の開口部20aを開口して当該容器20内のCO2/水エマルションや海水を瞬間的に急激に押し出すようにしても良い。この場合も、急激な振動と流動とによってCO2/水エマルション5に攪拌の効果が与えられる。
【0088】
また、耐圧容器20の開口部20aの弁を遠隔操作可能にすると共に耐圧容器20に容器内容物排出機構及び減圧機構を設け、開口部20aを一旦開口した後に当該開口部20aを閉じると共に耐圧容器20内に吸い込んだ内容物の排出と減圧処理とをボーリング孔30内で行えるようにし、耐圧容器20の真空状態設定と開口動作とを連続的に行うことによってCH4ハイドレート層2内で深度を変えながらCO2/水エマルション5に攪拌の効果を連続的に与えるようにしても良い。
【0089】
また、上述の実施形態では、耐圧容器20の上下両方にパッカー21A・21Bを設けるようにしているが、これらパッカー21A・21Bは耐圧容器20の上下でボーリング孔30を密封してボーリング孔30内の流体の耐圧容器20の上下方から耐圧容器20に向かう流動を制限するものであるので、耐圧容器20をボーリング孔30の底に接地させて用いる場合には下部パッカー21Bは設けないようにしても良い。
【符号の説明】
【0090】
1 CH4ハイドレート(第一のゲスト分子のハイドレート)
2 CH4ハイドレートが生成された地層
3 地層中の間隙
4 液体CO2(第二のゲスト分子の液体)
5 CO2/水エマルション
6 CO2ハイドレート(第二のゲスト分子のハイドレート)
20 耐圧容器
21A 上部パッカー
21B 下部パッカー
23 液体CO2の微粒子(第二のゲスト分子の液体微粒子)
28 ケーブル
30 ボーリング孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲスト分子がハイドレートになり得る温度・圧力条件下の地層中の間隙に、前記ゲスト分子の液体を前記地層中の間隙よりも小さな微粒子にして水に分散させたエマルションを注入し、真空状態にして前記地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して前記地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器から前記流体を押し出すことによって前記エマルションに攪拌の効果を与えることを特徴とするガス・ハイドレートの生成促進方法。
【請求項2】
前記エマルション中の前記ゲスト分子の液体と前記水との混合割合を変化させることで前記エマルションの単位量当たりの発熱量を制御することを特徴とする請求項1記載のガス・ハイドレートの生成促進方法。
【請求項3】
前記ゲスト分子はCO2であることを特徴とする請求項1記載のガス・ハイドレートの生成促進方法。
【請求項4】
第一のゲスト分子のハイドレートが存在する地層中の間隙に、前記第一のゲスト分子がハイドレートになる温度・圧力よりも高温・低圧でハイドレートになり得る第二のゲスト分子の液体を前記地層中の間隙よりも小さな微粒子にして水に分散させたエマルションを注入し、真空状態にして前記地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して前記地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器から前記流体を押し出すことによって前記エマルションに攪拌の効果を与えて前記第二のゲスト分子のハイドレートの生成を促進するのと並行してその時の反応熱で前記第一のゲスト分子のハイドレートを分解させ、前記第一のゲスト分子のハイドレートを前記第二のゲスト分子のハイドレートに置換しながら前記第一のゲスト分子のガスを回収することを特徴とするガス資源の増進回収法。
【請求項5】
前記エマルション中の前記第二のゲスト分子の液体と前記水との混合割合を変化させることで前記エマルションの単位量当たりの発熱量を制御することを特徴とする請求項4記載のガス資源の増進回収法。
【請求項6】
前記第一のゲスト分子はCH4であると共に前記第二のゲスト分子はCO2であることを特徴とする請求項4記載のガス資源の増進回収法。
【請求項7】
CH4ハイドレート層の上のCO2がハイドレートになり得る温度・圧力条件下の地層の間隙に、前記CO2の液体を地層中の間隙よりも小さな微粒子にして水に分散させたエマルションを注入し、真空状態にして前記地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して前記地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器から前記流体を押し出すことによって前記エマルションに攪拌の効果を与えて前記CO2のハイドレートのシール層を形成した後、前記CH4ハイドレート層の間隙に前記エマルションを注入し、真空状態にして前記地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器周辺の流体を吸い込ませることによって、或いは、流体及び圧縮気体を注入して前記地層中に位置させた容器の開口部を開口して該容器から前記流体を押し出すことによって前記エマルションに攪拌の効果を与えて前記CO2のハイドレートの生成を促進するのと並行してその時の反応熱で間隙に存在する前記CH4ハイドレートを分解させ、前記CH4ハイドレートを前記CO2ハイドレートに置換しながらCH4ガスを回収することを特徴とするガス資源の増進回収法。

【図1】
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【図4】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−111708(P2012−111708A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261674(P2010−261674)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】