説明

ガス中の成分の分離捕集方法

【課題】捕集剤に疎水性の捕集剤を使用して、排ガス中の水分が捕集剤に捕集されるのを抑制すると共に、分析時にクライオフォーカスで冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避しながら、第1成分の沸点と第2成分の沸点の違いを利用して第2成分を第1成分と分離して捕集することができるガス中の成分の分離捕集方法を提供する。
【解決手段】第1成分と捕集対象の第2成分とが含まれているガスGを捕集管15、16を通過させて内部の捕集剤でガス中の第2成分を分離捕集する際に、第1捕集管15で第1成分と第2成分を保持し、第1成分の沸点と第2成分の沸点と相違を利用して第1成分と第2成分を分離して、分離された第2成分を第2捕集管16の疎水性の捕集剤で捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妨害成分等の第1成分と捕集対象の揮発性有機化合物(VOC)等の第2成分とが含まれているガスを捕集管を通過させて内部の捕集剤でガス中の第2成分を分離捕集するガス中の成分の分離捕集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車搭載のディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中にPM(パティキュレートマター)と呼ばれる粒子状物質が含まれており、このPMを、内燃機関の排気通路に設けた、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)と呼ばれるフィルタ等からなる排気ガス浄化装置で捕集して、このPMが大気中への放出されるのを防止している。
【0003】
このPMの中の粒径10μm以下の粒子である浮遊粒子状物質(SPM)に関しては、2000年前後からの自動車排ガス対策の強化やダイオキシン類特別措置法などの効果により、継続測定局である一般環境測定局(一般局)と自動車排ガス測定局(以下自排局と呼ぶ)の測定で大気中濃度は急激に低下しており、また、測定局における年平均値の差も年々減少している。
【0004】
また、PMの中の粒径2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)に関しても、一般環境測定局と自動車排ガス測定局における測定値の差は減少傾向にあり、PM2.5に対する自動車由来の一次粒子の寄与は小さくなってきている。その結果、大気中にガスとして放出されたものが光化学反応を通じて生成する二次粒子のPM2.5に寄与する割合が高くなってきている。
【0005】
2009年にPM2.5に係わる環境基準値が設定され、この環境基準値を達成するためには一次粒子の排出を低減する他に、二次粒子の原因物質である揮発性有機化合物(VOC)の排出実態の把握と共にVOCの低減が求められるようになってきた。自動車から排出される揮発性有機化合物として、ベンゼン(Benzene)やトルエン(Toluene)、キシレン(Xylene)といった芳香族化合物が知られている。また、揮発性有機化合物以外にも揮発性の高い1、3−ブタジエン(Butadiene)の排出も知られている。
【0006】
このガス中の成分の測定方法として、例えば、常温では気体中に含まれる揮発性有機化合物を吸着して捕集する一方、加熱されたときには捕集した揮発性有機化合物を脱離する吸着剤が充填された捕集管を複数備えて、捕集管から離脱させた揮発性有機化合物を再生用気体とともに分析計に導入して揮発性有機化合物の濃度を測定する再生・測定操作とを、複数備えた捕集管に対し交互に行うことにより、連続的に揮発性有機化合物の濃度を測定する揮発性有機化合物の測定装置および測定方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、複数の捕集管と、捕集管のヒータと、捕集管内に大気を導入するための吸引ポンプと、捕集管内を経由して大気試料を吸引ポンプに吸引するための流路と、測定対象物を検出するための検出器と、移動相(捕集管内に吸着した測定対象物質を検出器に移動させるためのキャリア)を、捕集管内を経由して検出器に供給する機構とを備え、流路には、大気試料を導入する捕集管を選択するための開閉機構を備えた大気分析装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、揮発性有機化合物を捕集する方法として、揮発性有機化合物を吸着捕集する多孔質材料の捕集剤を用いる方法がある。この方法では、捕集するガスによって捕集剤を選択する必要があるが、操作性に優れており、大気観測から自動車排ガス分析まで幅広く利用されている。
【0009】
この方法では、揮発性有機化合物を捕集する捕集管には、管内に充填された捕集剤を石英ウールで固定しているガラス管が使用されている。この捕集管は、排ガス中に含まれる粒子を取り除くフィルタの後段に取り付けられており、自動車排ガスは、希釈トンネルにて希釈されたのち、このフィルタの後段に取り付けられた捕集管に、ポンプにより一定流速で吸引される。この吸引により排ガス中の揮発性有機化合物は捕集管内の捕集剤に捕集される。
【0010】
捕集管で捕集した揮発性有機化合物は加熱脱着式ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)によって分析される。図4に示すように、この加熱脱着式ガスクロマトグラフィー/質量分析装置20は、大きく4つの部分から構成される。この装置20にはヘリウム(He)ガスが流されている。加熱脱離部21では、捕集剤に吸着した揮発性有機化合物は加熱されることにより、捕集剤から脱離され、ヘリウムガスによってクライオフォーカス部(冷却凝縮部)22に送られる。
【0011】
このクライオフォーカス部22では、脱離した揮発性有機化合物は、液体窒素等により−100〜−150℃に冷却された濃縮管に凝結されることにより、濃縮管に一時的に保持される。加熱脱離部21における揮発性有機化合物の加熱脱離が終了した後に、揮発性有機化合物が一時的に保持されている濃縮管を急速加熱し、揮発性有機化合物を揮発させる。この揮発した揮発性有機化合物はヘリウムガスによってキャピラリーカラムに導入される。
【0012】
成分分離部23では、キャピラリーカラムに導入された揮発性有機化合物はキャピラリーカラムの固定相との親和性によって個々の成分に分離され、ヘリウムガスによって測定部24に送られる。この測定部24では、分離した個々の成分は、マススペクトロメトリーでマススペクトルとその強度が測定される。
【0013】
なお、クライオフォーカス部22で−100〜−150℃に冷却しているので、捕集剤に水分が多く捕集された場合は、水分が濃縮管内で凍結し、ヘリウムガスの流路を塞ぎ、キャピラリーカラムへの導入を妨げるという問題が生じる。そのため、捕集剤が水分を含まないことが望ましい。
【0014】
上記のように、捕集剤に疎水性の捕集剤を選択しない場合には、排ガスに含まれる水分を捕集してしまうため、加熱脱着により脱離した水分がクライオフォーカス部22で凍結する。そのため、ガスの流れが遮られるという問題がある。
【0015】
一方、捕集剤として広く使用されているものにTenaxTAがある。これは2,6−ジフェニル(Diphenyle)−1,4−フェニレンオキシド(phenylene oxide)の重合体であり、揮発性有機化合物(VOC)や準揮発性有機化合物(SVOC)の捕集に適した捕集剤であり、疎水性の性質を持っている。
【0016】
このTenaxTAは、捕集するガスの中に窒素酸化物があると、2,6−ジフェニル(Dipheny1)−p−ベンゾキノン(benzoquinone)などの反応生成物を生成することが報告されている。反応生成物はガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)で分析したときにピークとして検出されるため、微量成分の分析を妨害する。そのため、排ガス中から窒素酸化物を除いて捕集することが望ましい。
【0017】
また、一方で、疎水性の捕集剤として、TenaxTAを選択した場合には、自動車等の排ガス中に、窒素酸化物等の反応生成物を発生する妨害成分が含まれる場合には、捕集剤の劣化、捕集効率の低下、分解物の生成が起こる。また、微量分析を行なうときに、分解物が生成するために、揮発性有機化合物の検出が妨害される可能性が生じるという問題と、また、生成した分解物が分析装置の検出器を汚染するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2003−279552号公報
【特許文献2】特開平11−242020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、捕集剤に疎水性の捕集剤を使用して、排ガス中の水分が捕集剤に捕集されるのを抑制すると共に、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避しながら、第1成分の沸点と第2成分の沸点の違いを利用して第2成分を第1成分と分離して捕集することができるガス中の成分の分離捕集方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記のような目的を達成するための本発明のガス中の成分の分離捕集方法は、第1成分と捕集対象の第2成分とが含まれているガスを捕集管を通過させて内部の捕集剤でガス中の第2成分を分離捕集する際に、第1捕集管で第1成分と第2成分を保持し、第1成分の沸点と第2成分の沸点と相違を利用して第1成分と第2成分を分離して、分離された第2成分を第2捕集管の疎水性の捕集剤で捕集することを特徴とする方法である。
【0021】
この方法によれば、第2捕集管の捕集剤にTenaxTAやCarboxen系の捕集剤等の疎水性の捕集剤を使用するので、排ガス中の水分が捕集剤に捕集されるのを抑制できる。その結果、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避することができ、ガス中の第2成分の量を効率良く測定することができる。なお、第1捕集管には捕集剤を使用せず、第1捕集管を冷却することで通過するガス中の水分を結露させて、その水分中に第1成分と第2成分を保持する。
【0022】
また、第2成分の測定に邪魔な第1成分が排ガス中に含まれていても、第1成分の沸点と第2成分の沸点と相違を利用した分留により第1成分を除去して第2成分を分離して第2捕集管の捕集剤に捕集することができるので、第1成分による測定妨害を排除できる。
【0023】
上記のような目的を達成するための本発明のガス中の成分の分離捕集方法において、
前記第1成分が妨害成分であり、前記第2成分が捕集対象の揮発性有機化合物である場合には、窒素酸化物等のTenaxTA等の捕集剤を分解する窒素酸化物等の妨害成分(第1成分)が排ガス中に含まれていても、妨害成分の沸点と揮発性有機化合物(第2成分)の沸点と相違を利用した分留により妨害成分を除去して揮発性有機化合物を分離して第2捕集管の捕集剤に捕集することができるので、妨害成分による捕集剤の劣化、捕集効率の低下、分解物の生成等を防止でき、妨害成分による揮発性有機化合物の検出を妨害する可能性や分析装置の検出器の汚染の可能性を排除できる。
【0024】
また、上記のガス中の成分の分離捕集方法において、妨害成分と捕集対象の揮発性有機化合物が含まれているガスを、妨害成分である一酸化窒素の沸点以上で、揮発性有機化合物の沸点と妨害成分である二酸化窒素の沸点の両温度よりも低く設定された第1温度に冷却された第1捕集管に導入して、一酸化窒素を分離すると共にガス中の成分を第1捕集管に保持させる一酸化窒素分離及び成分捕集ステップと、前記第1捕集管にヘリウムガスを流通させながら、前記第1捕集管の温度を二酸化窒素の沸点以上で揮発性有機化合物の沸点よりも低く設定された第2温度にして、二酸化窒素を前記第1捕集管から脱離させる二酸化窒素分離ステップと、疎水性の捕集剤を充填した第2捕集管を前記第1捕集管の下流側に接続し、前記第1捕集管と前記第2捕集管にヘリウムガスを流通させながら、前記第1捕集管を揮発性有機化合物の沸点以上の第3温度にして、揮発性有機化合物を前記第1捕集管から脱離させて、前記第2捕集管に捕集させる揮発性有機化合物捕集ステップとを順に実施する。
【0025】
ここで、一酸化窒素の沸点は−151℃、二酸化窒素の沸点は21℃、揮発性有機化合物の沸点は80℃〜150℃であり、例えば、第1温度は0℃より低い温度、第2温度は21℃、第3温度は150℃等に設定する。
【0026】
この方法によれば、第1捕集管を第1温度に冷却することで、希釈されたガスに含まれる一酸化窒素(NO)を捕集せずに揮発性有機化合物(VOC:第2成分)を捕集でき、第1捕集管を二酸化窒素(NO2:第1成分)の沸点付近の第2温度に加熱することにより、揮発性有機化合物を保持したまま二酸化窒素を脱離することができ、その後、疎水性のTenaxTA等を捕集剤とした第2捕集管を第1捕集管に接続し、揮発性有機化合物を捕集した第1捕集管を第3温度に加熱することで、揮発性有機化合物を第2捕集管に捕集できる。なお、第2捕集管の捕集剤として疎水性の捕集剤を使用しているため、水分の捕集を抑制できる。その結果、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避できる。
【0027】
上記のガス中の成分の分離捕集方法において、疎水性の捕集剤を充填した前記第2捕集管の代わりに疎水性の捕集剤であるTenaxTAを上流側に疎水性のCarboxen系の捕集剤を下流側に充填した第3捕集管を用いると共に、前記第1捕集管の下流側に前記第3捕集管を接続し、前記第1捕集管と前記第3捕集管にヘリウムガスを流通させながら、前記第1捕集管を加熱し、1,3−ブタジエンの沸点以上でNOxの沸点より低く設定された第4温度にして、1,3−ブタジエンを前記第1捕集管から脱離させて、前記第3捕集管に捕集させる1,3−ブタジエン捕集ステップを、前記一酸化窒素分離ステップと前記二酸化窒素分離ステップの間で実施すると共に、前記一酸化窒素分離及び成分捕集ステップにおいて、前記第1温度を一酸化窒素の沸点以上で、1,3−ブタジエンの沸点よりも低く設定し、更に、前記揮発性有機化合物捕集ステップで、前記第2捕集管の代わりに前記第3捕集管を用いると、更に、1,3−ブタジエンも分離捕集することができる。ここで、1,3−ブタジエンの沸点は−4.4℃であり、例えば、第4温度は−4℃等に設定する。
【0028】
上記のガス中の揮発性有機化合物の分離捕集方法において、ヘリウムガスの流通速度を100mL/min以下で、前記第1捕集管内のヘリウムガスの流通時間が1分以上2分以下になるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るガス中の成分の分離捕集方法によれば、第2捕集管の捕集剤にTenaxTAやCarboxen系の捕集剤等の疎水性の捕集剤を使用するので、排ガス中の水分が捕集剤に捕集されるのを抑制できる。その結果、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避することができ、ガス中の第2成分の量を効率良く測定することができる。
【0030】
また、妨害成分等の第2成分の測定に邪魔な第1成分が排ガス中に含まれていても、第1成分の沸点と第2成分の沸点と相違を利用した分留により第1成分を除去して第2成分を分離して第2捕集管の捕集剤に捕集することができるので、第1成分による測定妨害を排除できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態の排ガス中の成分の分離捕集方法の一酸化窒素分離及び成分捕集ステップを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の排ガス中の成分の分離捕集方法の二酸化窒素分離ステップを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態の排ガス中の成分の分離捕集方法の揮発性有機化合物捕集ステップを示す図である。
【図4】従来技術における揮発性有機化合物の分離捕集方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る実施の形態のガス中の成分の分離捕集方法について、自動車の排ガス中の揮発性有機化合物の分離捕集方法を例にして図面を参照しながら説明する。本発明に係る排ガス中の成分の分離捕集方法の各ステップ(各段階)における状態を図1、図2、及び、図3に示す。図1は排ガス成分中のVOCの捕集と、揮発性有機化合物(以下VOC)と一酸化窒素(NO)を分離する一酸化窒素分離及び成分捕集ステップを、図2はVOCと二酸化窒素(NO2)を分離する二酸化窒素分離ステップを、図3はVOCを捕集する揮発性有機化合物捕集ステップを示す。
【0033】
最初に、本発明に係る第1の実施の形態の排ガス中の成分の分離捕集方法について説明する。
【0034】
図1に示すように、第1段階の一酸化窒素分離及び成分捕集では、エンジン1から排出される自動車の排ガスGを、揮発性有機化合物(VOC:第2成分)の分離捕集装置10の希釈トンネル11にて希釈した後、一定流速で吸引可能なポンプ12で吸引して、ガラス製の第1捕集管15に導入する。この第1捕集管15は温度制御装置13によって温度制御される温度制御部14により、一酸化窒素(NO)の沸点以上で、揮発性有機化合物の沸点と二酸化窒素(NO2:第1成分)の沸点の両温度よりも低く設定された第1温度(例えば、0℃より低い温度)に冷却されている。これにより、試験期間中に排出される排ガス中の成分を第1捕集管15に冷却凝縮させて保持させる。但し、第1温度よりも低い沸点を持つ一酸化窒素は気化したまま第1捕集管に保持されないで通過する。なお、第1捕集管では捕集剤を使用せずに第1捕集管を冷却することで、通過するガス中の水分、第1成分、第2成分を結露させて、第1捕集管の壁面に第1成分と第2成分を保持する。
【0035】
一酸化窒素の沸点は−151℃で、二酸化窒素の沸点は21℃であり、排ガス中に含まれる主な揮発性有機化合物の沸点は80〜150℃であるため、二酸化窒素と揮発性有機化合物は沸点温度よりも低い温度(例えば、0℃より低い温度)の第1捕集管15の壁面で保持される。一方、一酸化窒素の沸点は第1捕集管15の温度よりも低いため、一酸化窒素は気化して通過してしまい第1捕集管15の壁面には保持されない。揮発性有機化合物と一酸化窒素を分離するときのヘリウムガスの流速は100mL/min以下で、第1捕集管15内の流通時間が1〜2分となるように調整することが好ましい。
【0036】
図2に示すように、第2段階の二酸化窒素分離ステップでは、第1捕集管15の壁面に保持された揮発性有機化合物と二酸化窒素を分離するため、第1捕集管15を10〜20mL/minのヘリウムガス(He)の流通下の系に接続し、第1捕集管15の温度を二酸化窒素の沸点以上で揮発性有機化合物の沸点よりも低く設定された第2温度(例えば、21℃)に設定し、約5分間、二酸化窒素を第1捕集管15から脱離させる。
【0037】
NO2を脱離させた後の第3段階の揮発性有機化合物捕集ステップでは、図3に示すように、第1捕集管15の下流側(後段)に疎水性の捕集剤であるTenaxTAを充填した第2捕集管16を接続し、20mL/minのヘリウムガス(He)の流通下に置いて、温度制御装置13によって温度制御される温度制御部14により第1捕集管15を加熱し、揮発性有機化合物の沸点以上の第3温度(例えば、150℃)にして、約5分間維持して、第1捕集管15の壁面に保持されていた揮発性有機化合物を脱離させ、第2捕集管16に捕集させる。この分離捕集された揮発性有機化合物は、加熱脱着式ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)によって分析される。
【0038】
上記の第1の実施の形態のガス中の成分の分離捕集方法によれば、第2捕集管の捕集剤にTenaxTAやCarboxen系の捕集剤等の疎水性の捕集剤を使用するので、排ガス中の水分が捕集剤に捕集されるのを抑制できる。その結果、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避することができ、ガス中の揮発性有機化合物の量を効率良く測定することができる。
【0039】
また、揮発性有機化合物の測定に邪魔な二酸化窒素が排ガス中に含まれていても、二酸化窒素の沸点と揮発性有機化合物の沸点と相違を利用した分留により二酸化窒素を除去して揮発性有機化合物を第2捕集管の捕集剤に捕集することができるので、第1成分による測定妨害を排除できる。
【0040】
つまり、第1捕集管15を第1温度に冷却することで、希釈されたガスGに含まれる一酸化窒素を捕集せずに揮発性有機化合物を保持でき、第1捕集管15を二酸化窒素の沸点付近の第2温度に加熱することにより、揮発性有機化合物を保持したまま二酸化窒素を脱離することができ、その後、疎水性のTenaxTA等を捕集剤とした第2捕集管16を第1捕集管15に接続し、揮発性有機化合物を捕集した第1捕集管15を第3温度に加熱することで、揮発性有機化合物を第2捕集管16に捕集することができる。なお、第2捕集管16の捕集剤として疎水性の捕集剤を使用しているため、水分の捕集を抑制できる。その結果、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避できる。
【0041】
次に、本発明に係る第2の実施の形態のガス中の成分の分離捕集方法について説明する。
【0042】
従来技術では、1,3−ブタジエン(Butadiene:沸点−4.4℃)は沸点が低くTenaxTAに捕集することができないため、その捕集にはCarboxen系の捕集剤を使用している。このCarboxen系の捕集剤は疎水性であり、1,3−ブタジエン等の低沸点化合物を捕集できるが、揮発性有機化合物等の沸点の高い化合物は、加熱離脱による回収が困難となるという問題を有している。
【0043】
しかし、本発明に係る第2の実施の形態のガス中の成分の分離捕集方法により、揮発性有機化合物と1,3−ブタジエンを同時に捕集することが可能となる。つまり、第2捕集管16に充填する捕集剤を、上流側をTenaxTA等の疎水性の捕集剤とし、下流側をCarboxen系の捕集剤等の疎水性の捕集剤とし、2層に充填すると、揮発性有機化合物と1,3−ブタジエンの同時捕集が可能となる。
【0044】
TenaxTAとCarnoxen系の捕集剤の違いは、捕集できる物質の沸点の範囲の違いとその吸着力の違いにある。沸点の範囲に関しては、TenaxTAは50℃以下の沸点を有する化合物を捕集することはできないが、Carboxen系の捕集剤は50℃以下の沸点を有する化合物を捕集することができる。また、吸着力に関しては、Carboxen系の捕集剤の方がTenaxTAよりも強く、吸着力が強いと捕集した化合物を取り出し難くなる。また、捕集剤は捕集できる化合物に量に限りがある。
【0045】
上流側にTenaxTA、下流側にCarboxen系の捕集剤を配置することで、沸点が50℃より上の化合物は、TenaxTAで捕集され、沸点50℃以下の化合物は、TenaxTAを通過してCarboxen系の捕集剤に捕集される。
【0046】
一方、逆に配置した場合は、全ての化合物が上流側のCarboxen系の捕集剤に捕集される形となる。そして、化合物の量が捕集できる量よりも過剰になった場合には、捕集すべきサンプル(試料)は第2捕集管に保持されず、そのまま通過してしまうことになる。また、沸点が高い化合物の脱離効率が低下する。そのため、上流側にCarboxen系の捕集剤を配置するのは好ましくない。また、TenaxTAとCarboxen系の捕集剤を混合して使用する場合も同様な問題が生じる。
【0047】
この第2の実施の形態のガス中の揮発性有機化合物の分離捕集方法では、第1段階の一酸化窒素分離及び排ガス捕集ステップでは、図1に示すように、自動車の排ガスGを希釈トンネル11で希釈し、一定流速で吸引可能なポンプ12で吸引して、一酸化窒素の沸点以上で、1,3−ブタジエンの沸点(−4.4℃)よりも低く設定された第1温度(例えば、−50℃)に冷却したガラス製の第1捕集管15に導入し、揮発性有機化合物および1,3−ブタジエン、二酸化窒素を第1捕集管15に保持させる。
【0048】
次の第2段階の1,3−ブタジエン捕集ステップでは、図3に示すように、第1捕集管15の下流側(後段)に2層に充填した第2捕集管16を接続し、20mL/minのヘリウムガス(He)の流通下に置いて、第1捕集管15を第4温度(例えば、−4℃)にして、約5分間維持し、これにより、1,3−ブタジエンを第1捕集管15から脱離させ、第2捕集管16の下流側のCarboxen系の捕集剤に捕集する。
【0049】
次に、第3段階の二酸化窒素分離ステップでは、第2捕集管16を外し、図2に示すように、第1捕集管15を10〜20mL/minのヘリウムガス(He)の流通下の系に接続し、第1捕集管15の温度が二酸化窒素の沸点以上で揮発性有機化合物の沸点よりも低く設定された第2温度(例えば、21℃)になるように設定することで、二酸化窒素を第1捕集管15から脱離させる。
【0050】
次の第4段階の揮発性有機化合物捕集ステップでは、二酸化窒素を脱離させた後、図3に示すように、20mL/minのヘリウムガス(He)の流通下の第1捕集管15の下流側(後段)にTenaxTAを上流側に充填した第2捕集管16を接続し、第1捕集管Aを加熱し、揮発性有機化合物の沸点以上の第3温度(例えば、150℃)にして約5分間維持することにより、第1捕集管15の壁面に保持されていた揮発性有機化合物が脱離し、第2捕集管16の上流側のTenaxTAに捕集される。 上記の第2の実施の形態のガス中の成分の分離捕集方法によれば、これにより、ガスから一酸化窒素および二酸化窒素を除いて揮発性有機化合物及び1,3−ブタジエンを同時に分別捕集することができる。また、捕集剤にTenaxTA等の疎水性の捕集剤と同じく疎水性のCarboxen系の捕集剤を使用しているので、排ガス中の水分が第2捕集管16の捕集剤に捕集されるのを抑制することができる。その結果、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避することができ、ガス中の揮発性有機化合物の量と1,3−ブタジエンの量を効率良く測定することができる。
【0051】
つまり、第1捕集管15を第1温度に冷却することで、希釈されたガスGに含まれる一酸化窒素を捕集せずに揮発性有機化合物と1,3−ブタジエンを捕集でき、疎水性のTenaxTAとCarboxen系の捕集剤を詰めた第2捕集管16を第1捕集管15に接続し、揮発性有機化合物と1,3−ブタジエンを捕集した第1捕集管15を第4温度に加熱することで、1,3−ブタジエンを第2捕集管16のCarboxen系の捕集剤に捕集することができる。
【0052】
更に、第2捕集管16の接続を外して、第1捕集管15を二酸化窒素の沸点付近の第2温度に加熱することにより、揮発性有機化合物を保持したまま二酸化窒素を脱離することができ、その後、第2捕集管16を第1捕集管15に接続し、揮発性有機化合物を捕集した第1捕集管15を第3温度に加熱することで、揮発性有機化合物を第2捕集管16の疎水性の捕集剤であるTenaxTAに捕集することができる。
【0053】
なお、捕集剤として疎水性の捕集剤を使用しているため、水分の捕集を抑制できる。その結果、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避できる。
【0054】
従って、上記の第1及び第2の実施の形態のガス中の成分の分離捕集方法によれば、ガス中の揮発性有機化合物(及び1,3−ブタジエン)と窒素酸化物を分離して捕集することが可能となり、これにより、捕集剤に窒素酸化物の影響を受けるTenaxTAを捕集剤に使用することが可能となり、この疎水性の捕集剤により、捕集剤が排ガス中の水分を保持することがなくなり、クライオフォーカスを行なうことが可能となる。
【0055】
よって、捕集剤に疎水性の捕集剤を使用して、排ガス中の水分が捕集剤に捕集されるのを抑制することができ、その結果、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避することができ、揮発性有機化合物(及び1,3−ブタジエン)の量を効率よく測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のガス中の成分の分離捕集方法によれば、ディーゼル排ガス等に含まれている揮発性有機化合物を沸点の違いを利用して妨害成分と分離して捕集することができると共に、疎水性の捕集剤の使用により、排ガス中の水分が捕集剤に捕集されるのを抑制できて、分析時にクライオフォーカス部で冷却した際、水分の凍結による濃縮管の詰まりを回避できるので、自動車の排ガス中の成分の分離捕集方法として利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 エンジン
10 揮発性有機化合物の分離捕集装置
11 希釈トンネル
12 ポンプ
13 温度制御装置
14 温度制御部
15 第1捕集管
16 第2捕集管
20 加熱脱着式ガスクロマトグラフィー/質量分析装置
21 加熱脱離部
22 クライオフォーカス部
23 成分分離部
24 測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分と捕集対象の第2成分とが含まれているガスを捕集管を通過させて内部の捕集剤でガス中の第2成分を分離捕集する際に、第1捕集管で第1成分と第2成分を保持し、第1成分の沸点と第2成分の沸点と相違を利用して第1成分と第2成分を分離して、分離された第2成分を第2捕集管の疎水性の捕集剤で捕集することを特徴とするガス中の成分の分離捕集方法。
【請求項2】
前記第1成分が妨害成分であり、前記第2成分が捕集対象の揮発性有機化合物であることを特徴とする請求項1記載のガス中の成分の分離捕集方法。
【請求項3】
妨害成分と捕集対象の揮発性有機化合物が含まれているガスを、妨害成分である一酸化窒素の沸点以上で、揮発性有機化合物の沸点と妨害成分である二酸化窒素の沸点の両温度よりも低く設定された第1温度に冷却された第1捕集管に導入して、一酸化窒素を分離すると共にガス中の成分を第1捕集管に保持させる一酸化窒素分離及び成分捕集ステップと、
前記第1捕集管にヘリウムガスを流通させながら、前記第1捕集管の温度を二酸化窒素の沸点以上で揮発性有機化合物の沸点よりも低く設定された第2温度にして、二酸化窒素を前記第1捕集管から脱離させる二酸化窒素分離ステップと、
疎水性の捕集剤を充填した第2捕集管を前記第1捕集管の下流側に接続し、前記第1捕集管と前記第2捕集管にヘリウムガスを流通させながら、前記第1捕集管を揮発性有機化合物の沸点以上の第3温度にして、揮発性有機化合物を前記第1捕集管から脱離させて、前記第2捕集管に捕集させる揮発性有機化合物捕集ステップとを順に実施することを特徴とする請求項2記載のガス中の成分の分離捕集方法。
【請求項4】
疎水性の捕集剤を充填した前記第2捕集管の代わりに疎水性の捕集剤であるTenaxTAを上流側に疎水性のCarboxen系の捕集剤を下流側に充填した第3捕集管を用いると共に、前記第1捕集管の下流側に前記第3捕集管を接続し、前記第1捕集管と前記第3捕集管にヘリウムガスを流通させながら、前記第1捕集管を加熱し、1,3−ブタジエンの沸点以上でNOxの沸点より低く設定された第4温度にして、1,3−ブタジエンを前記第1捕集管から脱離させて、前記第3捕集管に捕集させる1,3−ブタジエン捕集ステップを、前記一酸化窒素分離ステップと前記二酸化窒素分離ステップの間で実施すると共に、
前記一酸化窒素分離及び成分捕集ステップにおいて、前記第1温度を一酸化窒素の沸点以上で、1,3−ブタジエンの沸点よりも低く設定し、
更に、前記揮発性有機化合物捕集ステップで、前記第2捕集管の代わりに前記第3捕集管を用いることを特徴とする請求項2又は3に記載のガス中の成分の分離捕集方法。
【請求項5】
ヘリウムガスの流通速度を100mL/min以下で、前記第1捕集管内のヘリウムガスの流通時間が1分以上2分以下になるようにしたことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のガス中の成分の分離捕集方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−57579(P2013−57579A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195592(P2011−195592)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】