説明

ガス中の水銀蒸気除去法

【課題】水銀蒸気を含むガス中に硫黄酸化物が存在すると、活性炭による水銀蒸気の吸着が阻害される。従って、硫黄酸化物の共存下においても水銀蒸気を効果的に吸着除去する方法の開発が望まれていた。
【解決手段】硫黄酸化物を含むガス中の水銀蒸気を、活性炭100重量部に対してアルカリ金属ハロゲン化物のみを5〜70重量部添着させてなる活性炭吸着剤に接触させることにより、効率的且つ長期に亘り水銀蒸気を除去することに成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄酸化物と水銀蒸気を共に含むガス中の水銀蒸気を効果的に吸着除去するための水銀蒸気除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解水素ガス、天然ガス、焼却炉排ガス、水銀を取り扱う工場の排気ガス中などには水銀蒸気が含まれていることが多い。水銀蒸気を含む電解水素が化学合成に用いられると触媒毒となることがある。また、天然ガス中の水銀蒸気は、ガスの液化プロセスにおける配管や熱交換機などのアルミニウムの部位を腐食し、大きな事故の原因となりうる。焼却炉排ガスや、石炭焚きボイラーから排出される排ガス中には、硫黄酸化物や窒素酸化物と共に水銀蒸気が含まれていることがあり、大気汚染を引き起こし、人体や動植物に害を及ぼすことにもなる。
【0003】
水銀蒸気を含有するガス中の水銀除去用活性炭としては、アルカリ金属ヨウ化物および鉄、ニッケル、銅、亜鉛などの金属の硫酸塩又は硝酸塩を担持させた活性炭(特許文献1)や、硫黄を添着した活性炭(非特許文献1)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−10343号公報
【非特許文献1】最新技術便覧 p515、表3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1や参考文献1に記載の吸着剤は、電解水素ガス、天然ガス、水銀を取り扱う工場など、水銀蒸気を含有するガス中の水銀蒸気を除去するのには効果があるが、これをゴミ焼却炉、産業廃棄物焼却炉等の各種焼却炉や石炭火力発電所で使用される石炭焚きボイラーなどから排出されるガス中の水銀蒸気を除去するのに用いると、比較的短時間に吸着力が低下してしまうという問題があった。
【0006】
本発明者らは前記の場合における水銀蒸気の吸着力の短時間低下の原因を探るため、焼却炉や石炭焚きボイラーから排出されるガス中の組成を調査してみると、SO2やSO3等の硫黄酸化物が5〜1000ppm、特に50〜500ppm濃度で存在することが分かった。そしてさらに研究を行ったところ、ガス中に硫黄酸化物が存在すると硫黄酸化物が活性炭に選択的に吸着されて活性炭の細孔を閉塞させ、水銀蒸気に対する吸着能が短時間に低下するということが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、硫黄酸化物の存在下においても水銀蒸気を効率的に吸着するような方法を求めて、種々検討を行ったところ、従来硫黄酸化物が殆ど含まれていないガス中の水銀蒸気の吸着除去に効果のあったアルカリ金属ヨウ化物および鉄、ニッケル、銅、亜鉛などの金属の硫酸塩又は硝酸塩を担持させた活性炭や硫黄を担持させた活性炭が比較的短時間に水銀蒸気の吸着能を低下させるのに対して、アルカリ金属ヨウ化物のみを担持させた活性炭を用いると、予想外に水銀蒸気を長期に亘り吸着除去することを見いだした。その知見を基に更に研究を行い、本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、
(1)水銀蒸気と5〜1000ppmの硫黄酸化物を含むガスを活性炭100重量部にアルカリ金属ハロゲン化物のみを5〜70重量部添着させた吸着剤と接触させるガス中の水銀蒸気除去法、
(2)アルカリ金属ハロゲン化物が、ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムである(1)記載のガス中の水銀蒸気除去法、
(3)吸着剤が活性炭100重量部にアルカリ金属ハロゲン化物のみを20〜70重量部添着させてなる(1)又は(2)記載のガス中の水銀蒸気除去法、
(4)水銀蒸気と50〜1000ppmの硫黄酸化物とを含むガスを活性炭100重量部にアルカリ金属ハロゲン化物のみを30〜70重量部添着させた吸着剤とを150℃以下で接触させる(1)又は(2)記載のガス中の水銀蒸気除去法、
である。
【0009】
本発明に使用することができる活性炭の原料は、木材、鋸屑、木炭、素灰、ヤシ殻、クルミ殻などの果実殻、桃、梅などの果実種子、リグニン廃液のようなパルプ製造副生物、精糖廃物(バカス)、廃糖蜜などの植物系原料、泥炭、草炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石油ピッチ等の鉱物系原料、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フェノール樹脂などの合成樹脂系原料など一般的に用いられるものであればいずれでも良い。本発明で用いる活性炭は、保水率の高い活性炭が好ましく、その高保水率活性炭を製造するためには、充分な強度が必要である。したがって、原料炭としては、果実殻炭、瀝青炭、無煙炭など、密度の高いものが好ましく、ヤシ殻炭、瀝青炭、無煙炭が特に好ましい。
【0010】
炭素質材料の賦活方法も特に限定されない。たとえば「活性炭−基礎と応用」、講談社(1992)、p.61〜p.69に記載の、水蒸気、酸素、炭酸ガスなどの活性ガス賦活剤による賦活炭や、リン酸、塩化亜鉛、水酸化カリウムを用いた薬品賦活炭など、で賦活した活性炭が用いられる。
【0011】
本発明に用いられる活性炭は窒素吸着法で求めたBET比表面積が、通常500〜2000m2/g、好ましくは700〜1800m2/gのものである。
活性炭の液体窒素温度での窒素吸着等温線からCI法により求めた細孔容積は、0.3〜2.0ml/g、好ましくは0.5〜1.8ml/g、さらに好ましくは0.6〜1.5ml/gである。
活性炭の保水率は、通常30〜70%、好ましくは40〜70%である。
【0012】
活性炭の形状は、粉末状、顆粒状、破砕状、円柱状、球状、繊維状、ハニカム状等の何れでも良いが、破砕状及びハニカム状のものが好適に用いられる。破砕状の場合、その粒度は特に限定されないが、通常は0.1〜10mm程度のものが用いられ、好ましくは0.5〜5mm程度のものである。
また、ハニカムを使用する場合には、そのセル数は特に限定されないが、通常は50〜1000セル/inch2、好ましくは150〜500セル/inch2のものが使用される。
【0013】
粉末状活性炭を、さらに熱可塑性樹脂バインダーを用いて成型して使用しても良い。また、ポリウレタン、不織布、ナイロンメッシュ等に挟着してシート状にして使用しても良い。
【0014】
活性炭に担持させるアルカリ金属ハロゲン化物は、元素の周期律表のIa族の金属から選択されたアルカリ金属とヨウ素、臭素及び塩素から選択されたハロゲン元素との金属ハロゲン化物を使用することができるが、カリウム及びナトリウムのハロゲン化合物であることが好ましい。具体的な化合物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム及び臭化カリウムがより好ましく、ヨウ化カリウムが最も好ましい。
【0015】
アルカリ金属ハロゲン化物の活性炭に対する添着量は、活性炭100重量部に対して5〜70重量部、好ましくは20〜70重量部、更に好ましくは30〜70重量部、最も好ましくは、50〜70重量部である。
【0016】
アルカリ金属ハロゲン化物は水に易溶性であるから、水溶液として活性炭に噴霧、あるいは活性炭に上記水溶液を含浸させ、乾燥することで、アルカリ金属ハロゲン化物を添着した活性炭、即ち本発明に使用される吸着剤を調製することができる。より具体的には、たとえば、一定量の活性炭に対して添着しようとする量のアルカリ金属ハロゲン化物を計り取り、それを適当量の水に溶解して溶液(通常1〜50重量%の水溶液、好ましくは20〜50重量%の水溶液)となし、得られた溶液を、常温または、30〜50℃の加温下に、活性炭に噴霧、又は散布して活性炭と均一に混和し、あるいは活性炭をアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液に浸漬してアルカリ金属ハロゲン化物溶液を活性炭の表面や細孔内に充分に接触させた後、好ましくは80〜250℃、さらに好ましくは80〜150℃で乾燥し、必要により成型して吸着剤とすることができる。
活性炭に多量のアルカリ金属ハロゲン化物を添着する場合には、上記の添着の工程を複数回繰り返す、すなわち、一旦、添着した活性炭に再度アルカリ金属ハロゲン化物を含む水溶液を噴霧あるいは、活性炭にアルカリ金属ハロゲン化物を含む水溶液に含浸させ、活性炭を乾燥することにより吸着剤とすることができる。
【0017】
アルカリ金属ハロゲン化物以外の例えば、硫酸鉄、硫酸銅、硝酸ニッケルなどの、遷移金属の硫酸塩、硝酸塩をさらに担持させると、硫黄酸化物の共存下における水銀蒸気の吸着能は却って低下する。したがって本発明においては、活性炭にアルカリ金属ハロゲン化物のみを担持させた吸着剤を用いる。
【0018】
水銀蒸気を含有するガス中の水銀の濃度は、通常25μg/m3以上の濃度であれば、水銀除去対策を講じる必要がある。
【0019】
ガス中に共存する硫黄酸化物は、通常"SOX"と称される二酸化硫黄ガス(SO2)、無水硫酸ガス(SO3)などである。火力元として用いられる石炭や石油は、その産地にもよるが、燃焼した際硫黄酸化物および水銀蒸気を含有するガスを排出する。
排出ガスが5ppm以上の硫黄酸化物を含んでいると、その濃度の増加にともない水銀蒸気の吸着除去能は低下する。
本発明における水銀蒸気を含む処理ガス中の硫黄酸化物の濃度は、それが水銀蒸気の吸着を阻害し始める濃度、すなわち5ppm以上の場合に効果を発揮するが、通常5〜1000ppm、より効果的には5〜500ppmおよび50〜1000ppm、更に効果的には100〜200ppmの濃度で含むものである。ガス中の硫黄酸化物の含有量が1000ppmを超える様な高濃度で含まれている場合は、脱硫装置を用いて硫黄酸化物の濃度を低減するか、1000ppm以下となるように硫黄酸化物を含まない空気などで希釈するとよい。
【0020】
処理ガス中の硫黄酸化物の濃度と活性炭に添着するハロゲン化アルカリの割合は互いに関連がある。すなわち、硫黄酸化物の濃度が低い場合、たとえば5ppm以上50ppm未満の場合は、ハロゲン化アルカリの添着量は、活性炭100重量部に対して5〜30重量部、好ましくは5〜20重量部であり、硫黄酸化物の濃度が高い場合、たとえば50ppm以上1000ppm以下の場合は、ハロゲン化アルカリの添着量は、活性炭100重量部に対して20〜70重量部、好ましくは30〜70重量部、更に好ましくは50〜70重量部である。なお、活性炭100重量部に対してハロゲン化アルカリを80重量部以上添着することは困難である。
【0021】
本発明の活性炭は、形状が、破砕状、円柱状、球状、ハニカム状等の場合、充てん塔に充填し、硫黄酸化物および水銀蒸気含有ガスをその中に通じることにより使用することができる。その場合、ガスの流速は、通常、0.1〜0.5m/sの範囲が好ましく、0.15〜0.4m/sの範囲がより好ましい。空間速度(SV)は、100〜200,000hr-1、好ましくは1000〜100,000hr-1程度である。
本発明の方法においては、このガスの温度を、0〜150℃、好ましくは10〜80℃程度に調整しておくのがよい。ガスの相対湿度は0〜80%に調整しておくのが良い。
【0022】
火力発電所等で使用される石炭焚きボイラーから発生する排ガスには、粉塵や窒素酸化物、硫黄酸化物が含まれているため、通常、脱硝装置、電気集塵機、脱硫装置等を経て、煙突から大気に放出される。
活性炭の形状が、破砕状、円柱状、球状の場合には、固定床で使用される。固定床の場合、活性炭を充てんした吸着塔に排ガスを流すことにより水銀蒸気を除去する方法がとられる。処理ガス中に粉塵がある場合には、活性炭が目詰まりするので、通常、電気集塵装置の後に設置される。本吸着剤は、水銀を効率的に除去するが硫黄酸化物を除去するものではないので、脱硫装置の前段、後段のどちらにおいても構わない。ただし、硫黄酸化物の濃度が1000ppm以上の場合には、脱硫装置の後段に置くのが好ましい。
活性炭の形状がハニカム状の場合、通常、固定床で使用される。ハニカム状の場合、ハニカム構造であるために目詰まりをおこし難い特徴を有しているため、電気集塵装置の前段に置くこともできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の硫黄酸化物共存下における水銀蒸気の除去法はガス中の水銀蒸気の除去率が極めて高く、その効果は長期に亘って持続する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に実施例、比較例、試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
ヨウ化カリウム5gを蒸留水40gに溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を調製した。BET法による比表面積が1130m2/g、平均細孔径が1.71nm、細孔容積が0.482ml/g、保水率が42%で粒子径が0.71〜1.00mmの破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム水溶液の全量を25℃で噴霧添着し、その後110℃で乾燥し、ヨウ化カリウム担持活性炭からなる吸着剤を得た。
【実施例2】
【0026】
ヨウ化カリウム10gを蒸留水40gに溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を調製した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム水溶液の全量を噴霧し、その後110℃で乾燥し、ヨウ化カリウム担持活性炭からなる吸着剤を得た。
【実施例3】
【0027】
ヨウ化カリウム20gを蒸留水40gに溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を調製した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム水溶液の全量を噴霧し、その後110℃で乾燥し、ヨウ化カリウム担持活性炭からなる吸着剤を得た。
【実施例4】
【0028】
ヨウ化カリウム30gを蒸留水40gに溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を調製した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム水溶液の全量を噴霧し、その後110℃で乾燥し、ヨウ化カリウム担持活性炭からなる吸着剤を得た。
【実施例5】
【0029】
ヨウ化カリウム50gを蒸留水50gに溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を調製した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム水溶液の全量を噴霧し、その後110℃で乾燥し、ヨウ化カリウム担持活性炭からなる吸着剤を得た。
【実施例6】
【0030】
ヨウ化カリウム70gを蒸留水70gに溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を調製した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム水溶液の半分量を噴霧し、その後110℃で乾燥後、残り半分量のヨウ化カリウム水溶液の全量を噴霧し、その後110℃で乾燥し、ヨウ化カリウム担持活性炭からなる吸着剤を得た。
比較例1
【0031】
ヨウ化カリウム1.0gを蒸留水40gに溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を調製した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム水溶液の全量を噴霧し、その後110℃で乾燥し、ヨウ化カリウム担持活性炭からなる吸着剤を得た。
比較例2
【0032】
ヨウ化カリウム10g、硫酸鉄10g(無水換算)を蒸留水40gに溶解し、ヨウ化カリウム−硫酸鉄水溶液を調製した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム−硫酸鉄水溶液の全量を噴霧し、その後110℃で乾燥し、ヨウ化カリウム−硫酸鉄担持活性炭からなる吸着剤を得た。
比較例3
【0033】
ヨウ化カリウム10g、硫酸鉄10g(無水換算)を蒸留水30gに溶解し、ヨウ化カリウム−硫酸鉄水溶液を調製した。硫黄10gを蒸留水10gに懸濁させ、硫黄懸濁液を調整した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム−硫酸鉄水溶液の全量を噴霧し、ついで硫黄懸濁液の全量を噴霧し、その後110℃で乾燥し、硫黄−ヨウ化カリウム−硫酸鉄担持活性炭からなる吸着剤を得た。
比較例4
【0034】
硫黄10gを蒸留水10gに懸濁させ、硫黄懸濁液を調整した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製した硫黄懸濁液の全量を噴霧し、その後110℃で乾燥し、硫黄担持活性炭からなる吸着剤を得た。
比較例5
【0035】
ヨウ化カリウム80gを蒸留水80gに溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を調製した。実施例1で用いた破砕状ヤシ殻活性炭100gをポリプロピレン容器に入れ、卓上ミキサーで撹拌(100〜300rpm)しながら、先に調製したヨウ化カリウム水溶液の半分量を噴霧し、その後110℃で乾燥した。その後、残り半分量のヨウ化カリウム水溶液の全量を噴霧したところ、水溶液の全量が活性炭に吸着されずに活性炭表面が水溶液で濡れた状態になり、110℃で乾燥したところ、ヨウ化カリウムの結晶が活性炭の表面に析出していた。活性炭100部に対してヨウ化カリウム80部を添着することはできなかった。
試験例1
【0036】
(SO2:5ppm、RH:70%での水銀蒸気吸着試験)
25℃に保たれた恒温槽内に、〔図1〕に示される吸着性能測定装置を設置し、内径15.6mmのガラス製カラムに各吸着剤3.8mlを充填した。
上記試料充填カラムに、相対湿度70%、水銀蒸気濃度5mg/m3、SO2 5ppmを含むガスを、流量2.3L/分、線速度20cm/秒で流通させ、水銀の入口濃度に対する出口濃度を測定した。なお水銀蒸気濃度の測定は、ガステック製検知管水銀用No.40で測定した。
得られた結果から各試料の5%破過時間(処理前水銀蒸気濃度に対する処理後の水銀蒸気濃度の比が5%に達した時間、すなわちリークした水銀蒸気の濃度が入口濃度の5%に達した時間)を表1に示す。
実施例1〜6の吸着剤は、比較例1〜4の吸着剤よりも、長期間吸着性能を保持する結果となった。特に実施例2および実施例3の吸着剤は、比較例2〜3の吸着剤の9倍以上の性能を示した。
試験例2
【0037】
(SO2:50ppm、RH=70%での水銀蒸気吸着試験)
試験例1と同様の装置を用いて、相対湿度70%、水銀蒸気濃度5mg/m3、SO2 50ppmを含むガスを、流量2.3L/分、線速度20cm/秒で流通させ、水銀蒸気の入口濃度に対する出口濃度を測定した。なお、水銀蒸気濃度の測定方法は、試験例1と同じとした。得られた結果から各吸着剤の5%破過時間を表1に示した。
実施例1〜6の吸着剤は、比較例1〜4の吸着剤よりも、長期間吸着性能を保持する結果となった。特に実施例4および実施例5の吸着剤は、比較例2〜3の吸着剤の10倍以上の性能を示した。
試験例3
【0038】
(SO2:100ppm、RH=70%での水銀蒸気吸着試験)
試験例1と同様の装置を用いて、相対湿度70%、水銀蒸気濃度5mg/m3、SO2 100ppmを含むガスを、流量2.3L/分、線速度20cm/秒で流通させ、水銀の入口濃度に対する出口濃度を測定した。なお、水銀蒸気濃度の測定方法は、試験例1と同じとした。得られた結果から各吸着剤の5%破過時間を表1に示した。
実施例1〜6の吸着剤は、比較例1〜4の吸着剤よりも、長期間吸着性能を保持する結果となった。特に実施例5および実施例6の吸着剤は、比較例2〜3の吸着剤の20倍以上の性能を示した。
試験例4
【0039】
(SO2:200ppm、RH=70%での水銀蒸気吸着試験)
試験例1と同様の装置を用いて、相対湿度70%、水銀蒸気濃度5mg/m3、SO2 200ppmを含むガスを、流量2.3L/分、線速度20cm/秒で流通させ、水銀の入口濃度に対する出口濃度を測定した。なお、水銀蒸気濃度の測定方法は、試験例1と同じとした。得られた結果から各吸着剤の5%破過時間を表1に示した。得られた結果から各吸着剤の5%破過時間を表1に示した。
実施例1〜6の吸着剤は、比較例1〜4の吸着剤よりも、長期間吸着性能を保持する結果となった。特に実施例5および実施例6の吸着剤は、比較例2〜3の吸着剤の50倍以上の性能を示した。
試験例5
【0040】
(SO2:500ppm、RH=70%での水銀蒸気吸着試験)
試験例1と同様の装置を用いて、相対湿度70%、水銀蒸気濃度5mg/m3、SO2 500ppmを含むガスを、流量2.3L/分、線速度20cm/秒で流通させ、水銀の入口濃度に対する出口濃度を測定した。水銀蒸気濃度の測定方法は、試験例1と同じとした。得られた結果から各試料の5%破過時間を表1に示す。得られた結果から各試料の5%破過時間を表1に示す。
実施例1〜6の吸着剤は、比較例1〜4の吸着剤よりも、長期間吸着性能を保持する結果となった。特に実施例5および実施例6の吸着剤は、比較例2〜3の吸着剤の20倍以上の性能を示した。
試験例6
【0041】
(SO2:1000ppm、RH=70%での水銀蒸気吸着試験)
試験例1と同様の装置を用いて、相対湿度70%、水銀蒸気濃度5mg/m3、SO2 1000ppmを含むガスを、流量2.3L/分、線速度20cm/秒で流通させ、水銀の入口濃度に対する出口濃度を測定した。なお水銀蒸気濃度の測定方法は、試験例1と同じとした。得られた結果から各試料の5%破過時間を表1に示す。得られた結果から各試料の5%破過時間を表1に示す。
実施例1〜6の吸着剤は、比較例1〜4の吸着剤よりも、長期間吸着性能を保持する結果となった。特に実施例4および実施例5の吸着剤は、比較例2〜3の吸着剤の30倍以上の性能を示した。
試験例7
【0042】
(SO2:0ppm、RH=30%での水銀蒸気吸着試験)
試験1と同様の装置を用いて、相対湿度30%、水銀蒸気濃度5mg/m3を含むガス(SO2を含まず)を、流量2.3L/分、線速度20cm/秒で流通させ、各ガスの入口濃度に対する出口濃度を測定した。なお、水銀蒸気濃度の測定方法は、試験例1と同じとした。得られた結果から各吸着剤の5%破過時間を表に示した。
硫黄酸化物が共存しない系では、実施例3〜6の吸着剤は、比較例1〜4の吸着剤に比べて、長期間吸着性能を保持する結果となったが、吸着性能は実施例1〜2の吸着剤では、比較例1や4の吸着剤に比べて優れているものの、比較例2の吸着剤より劣っており、必ずしも優れた吸着特性を示す結果ではなかった。
【0043】
試験例の結果の纏め
試験例7に示すように、ヨウ化カリウムを5〜70部添着した吸着剤は、処理ガス中に二酸化硫黄が共存しない系においては、他の活性炭に比べ、水銀除去性能は優れているとは言えない水準であった。しかし、試験例1や試験例2のように処理ガス中に二酸化硫黄が共存する系においては、ヨウ化カリウムを5〜70部添着した活性炭は、他の活性炭に比べて、予想外の優れた水銀除去性能を示した。
特に50〜1000ppmの高濃度の硫黄酸化物が共存する系においては、ヨウ化カリウムを20〜70部添着した吸着剤は、他の吸着剤に比べて、極めて優れた水銀除去性能を示した。
また、比較例2〜4の吸着剤では、硫黄酸化物濃度の増加にともない、吸着性能が最大で1/25以下まで低下するのに対して、実施例の吸着剤では、吸着性能の低下は最大で1/6程度であり、硫黄酸化物が非共存の条件に比べて水銀蒸気吸着性能が向上しているものも見られた。なお、ヨウ素の担持量の少ない比較例1の吸着剤でも吸着性能の低下は見られないが、他の比較例や実施例の吸着剤に比べて除去性能が低いため実用的ではない。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、硫黄酸化物が5〜1000ppm共存するガス中の水銀蒸気を除去するに際し、該ガスをアルカリ金属ハロゲン化物のみを活性炭に対して5〜70重量%担持させた活性炭に接触させることにより効率よく水銀蒸気を吸着除去できるので、含硫石炭による石炭焚きボイラー等を用いた火力発電所などで発生する硫黄酸化物を含有する排ガス中の水銀蒸気を効率よく長期間に渡り吸着除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】水銀蒸気除去試験装置の模式図
【符号の説明】
【0047】
1:排水銀除去塔
2:サンプルカラム
3:出口
4:入口
5:フローターメーター
6:25℃恒温層内
7:マスフローコントローラー(乾燥空気供給)
8:SOボンベ
9:ガス混合瓶
10:水銀蒸気発生瓶
11:水蒸気発生瓶
12:コンプレッサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀蒸気と5〜1000ppmの硫黄酸化物を含むガスを活性炭100重量部にアルカリ金属ハロゲン化物のみを5〜70重量部添着させた吸着剤と接触させるガス中の水銀蒸気除去法。
【請求項2】
アルカリ金属ハロゲン化物が、ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムである請求項1記載のガス中の水銀蒸気除去法。
【請求項3】
吸着剤が活性炭100重量部にアルカリ金属ハロゲン化物のみを20〜70重量部添着させてなる請求項1又は2記載のガス中の水銀蒸気除去法。
【請求項4】
水銀蒸気と50〜1000ppmの硫黄酸化物とを含むガスを活性炭100重量部にアルカリ金属ハロゲン化物のみを30〜70重量部添着させた吸着剤とを150℃以下で接触させる請求項1又は2記載のガス中の水銀蒸気除去法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−238163(P2008−238163A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45772(P2008−45772)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】