説明

ガス中水銀の測定装置の自動洗浄

【課題】 汚れの付着しやすい還元管の出口や気液分離管内を自動的に洗浄することで測定器の感度低下を来たさず、信頼性の高いガス中水銀の測定装置を提供する。
【解決手段】 ガス中水銀の測定装置であって、ガス中の2価水銀を0価水銀に還元する還元管3と、還元管3を通ったガスGから液体成分(ドレイン)を除去する気液分離管4と、気液分離管4から導出されたガスG中の水銀量を測定する測定器6と、洗浄水を還元管3の出口から気液分離管4を通過させて気液分離管4の外部へと流出させる洗浄系統10とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化石燃料燃焼施設、廃棄物焼却施設、化学プロセスなどの化学プラントで排出される各種排ガス中に含まれる水銀の測定装置に関し、詳しくはガス中水銀の測定装置の自動洗浄に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化石燃料燃焼施設、廃棄物焼却施設、化学プロセスなどの化学プラントで排出される各種排ガス中に含まれる水銀は、主に金属水銀である0価水銀(Hg)と2価水銀(Hg2+)の2つの化学形態で存在する。このうち、金属水銀は、水などに溶けにくく、大気中に拡散するので、大気汚染の原因となる。一方、2価水銀は水などに溶けやすいので、水質や土壌汚染の原因となる。このように、排ガス中に含まれる金属水銀と2価水銀は、いずれも環境に与える悪影響が大きいので、前記施設や化学プラントにおける排ガスの煙道(パイプ)の側壁などにガス中水銀の測定装置が付けられ、常時、排ガス中の水銀量の測定が行われている。
【0003】
前記ガス中水銀の測定装置は、煙道と並列に接続されるガス導入通路を備え、このガス導入通路には、煙道側から下流にかけて順に、ガス中の2価水銀(Hg2+)を0価水銀である金属水銀(Hg)に還元する還元触媒が充填された還元管(還元用カラム)と、ガス中に含まれている水分を除くための気液分離管、ドレインポンプを備えた除湿器、亜硫酸ガスなどの妨害成分を除去する妨害成分除去カラム、前記還元用カラムを通過した金属水銀(Hg)の濃度を測定する水銀測定器などが接続されている。前記還元管は、還元された金属水銀(Hg)と元々ガス中に含まれる金属水銀(Hg)を通過させる。この測定装置によれば、ガス中に含まれてそのままの状態では測定できなかった2価水銀(Hg2+)を測定可能な金属水銀(Hg)に還元することで、排ガス中の総水銀量を測定できる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特願2003―148808号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記測定装置の場合、還元触媒が充填された還元管の周囲は触媒の働きを促進する目的で、通常、ヒータのような加熱器で囲われて加温状態にあるため、煤のような汚れが比較的付着しにくいが、還元管の上部および中央部に比べて温度が下がる還元管の出口や気液分離管内では汚れが付着しやすくなる。このような還元管の出口や気液分離管内に付着した汚れをそのままに放置しておくと、その汚れが付着した部分に水銀が吸着し、この水銀の吸着分が誤差となって、ガス中水銀量を測定する測定器の感度低下を来たし、測定装置の信頼性が低くなる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、汚れの付着しやすい還元管の出口や気液分離管内を自動的に洗浄することで測定器の感度低下を来たさず、信頼性の高いガス中水銀の測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成するために、本発明に係るガス中水銀の測定装置は、ガス中の2価水銀を0価水銀(金属水銀)に還元する還元管と、前記還元管を通ったガスから液体成分を除去する気液分離管と、前記気液分離管から導出されたガス中の水銀量を測定する測定器と、洗浄水を前記還元管の出口から気液分離管を通過させて気液分離管の外部へと流出させる洗浄系統とを備えている。
【0007】
この構成によれば、汚れが付着しやすいため、水銀が吸着して測定誤差の原因となっていた還元管の出口から気液分離管に至る部分を、洗浄系統による洗浄水で洗浄できるので、付着した汚れを取り除いて洗浄水と共に気液分離管の外部へと流出させることができる。このように、還元管の出口から気液分離管に至る部分に汚れが恒常的に付着するということがないため、汚れ部分への水銀の吸着に起因する測定誤差がなくなって、ガス中水銀の測定装置の信頼性が向上し、長期に安定した測定結果が得られる。しかも、この測定装置は、既存のガス中水銀の測定装置に対し、洗浄系統およびこれに付帯するポンプを追加するという簡単な構成であるため、製造が容易である。
【0008】
本発明の好ましい実施形態では、前記洗浄系統は、洗浄水を前記気液分離管に供給する供給ポンプと、気液分離管から液体成分を導出する導出ポンプとを有する。
【0009】
この構成によれば、気液分離管に供給される洗浄水が供給ポンプによって所定のポンプ圧で送り込まれ、高圧洗浄が行われるので、還元管の出口から気液分離管に至る部分に付着した汚れを強制的に取り除くことができる。一方、気液分離管に供給されて取り除いた汚れ分を含む洗浄水は導出ポンプによって円滑に導出される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、前記洗浄系統は、間欠的に作動させるコントローラを有している。
【0011】
この構成によれば、コントローラの設定により洗浄系統を間欠的に作動させるようになっているので、汚れの付着具合に対応して作動時間や作動タイミングなど、適切な作動を行わせることができ、付着した汚れを効率的に取り除くことができる。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、さらに、前記還元管の加熱器と、前記気液分離管からのガスを冷却して除湿する冷却ユニットとを備えている。
【0013】
この構成によれば、還元管が加熱器で加熱されることで、内部の還元触媒が温められて活性が維持される。さらに、気液分離管からのガスは冷却ユニットにて冷却され、かつ除湿されるから、ガスの高温状態および水分が後段の測定器に障害とならないので、水銀(金属水銀)量を高精度で測定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るガス中水銀の測定装置によれば、還元管の出口から気液分離管に至る部分は洗浄によって汚れが取り除かれ、測定誤差の原因となる前記部分への水銀の吸着がなくなるので、ガス中水銀の測定装置の信頼性が向上し、長期に安定した測定結果が得られる。しかも、この測定装置は、既存のガス中水銀の測定装置に対し、洗浄系統およびこれに付帯するポンプを追加するだけでよいから、製造が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るガス中水銀の測定装置を示す系統図である。同図の測定装置は、例えば化学プラントにおける排ガスの煙道(パイプ)20の側壁に設けられて使用される。同図に示すように、煙道20の側壁にガス導入通路1が接続され、このガス導入通路1に、前記煙道20側から下流にかけて順に、ガスG中に含まれる塵埃を取り除くダストフィルタ2、ガスG中の2価水銀(Hg2+)を金属水銀(Hg)に還元する還元触媒30が充填された還元管3、および還元管3を通ったガスから液体成分(ドレイン)を除去する気液分離管4が接続されている。気液分離管4には、液体成分を導出する導出ポンプ(例えばペリスタポンプ)P1が接続されている。
【0016】
前記気液分離管4の下流側には冷却ユニット5が接続され、この冷却ユニット5にはさらにガスG中の水銀量(金属水銀(Hg)として)を測定する水銀測定器6、前記煙道20からガス導入通路1内にガスGを導入させるための吸引ポンプP3、この吸引ポンプP3によるガスGの流量を設定するコントローラ7、前記水銀測定器6による測定値を表示するモニタ8が順に接続されている。冷却ユニット5にはドレインを導出する導出ポンプP2が接続されている。
【0017】
ここで、前記還元管3に充填される還元触媒30としては、2価水銀(Hg2+)の還元能力に優れた、例えば塩化スズ(SnCI)などを好適に用いることができる。また、前記ダストフィルタ2および還元管3はヒータのような加熱器9の内部に収納され、図示しない制御装置によって所定温度となるようにコントロールされている。これにより、還元触媒30の活性が維持される。
【0018】
前記気液分離管4は耐熱ガラス(例えばパイレックス(登録商標)ガラス;商品名)で形成されており、図2および図3に示すような具体的構造を有している。図2は気液分離管の平面図、図3は正面図である。図3に示すように、その上部に、還元管3の出口に接続されて前記還元管3からのガスGを気液分離管4内に導き入れる導入部41と、冷却ユニット5に接続されて気液分離管4からのガスGを前記冷却ユニット5内に導き出す導出部42とが設けられている。気液分離管4の内部はガス透過性材料よりなるしきり板43で左右2つのチャンバ44a,44bに区分され、前記しきり板43の下部に設けられた小孔45を介して前記チャンバ44a,44bが連通している。破線Hで示す、気液分離管4の底部からの所定の高さ位置に、ドレインパイプ46が設けられており、気液分離管4で分離されたドレインが破線Hで示す高さを超えるまで溜まったとき、ドレインパイプ46からドレインが外部に排出される。
【0019】
以上のように構成される測定装置に対し、図1に示すように、還元管3の出口および気液分離管4を洗浄するための洗浄系統10が付加されている。すなわち、この洗浄系統10は、洗浄水を貯留した貯留タンク12、貯留タンク12の洗浄水を還元管3の還元触媒30と気液分離管4との間で還元管3の出口の上流側に供給する水供給通路13、水供給通路13に設けた供給ポンプ(例えばペリスタポンプ)P4、および供給ポンプP4を制御するコントローラ14を備えている。前記供給ポンプP4は、コントローラ14によって間欠的に作動するように制御され、還元管3の出口から、つまり、還元触媒30の下流側通路から、気液分離管4に至る部分に対して、洗浄水を、例えば1時間ごとに5分間だけ所定水圧で流して高圧洗浄する。これにより、前記還元管3の出口から気液分離管4に至る部分に付着する煤のような汚れが強制的に取り除かれる。洗浄後の汚れを含んだ洗浄水は、導出ポンプP1の駆動により気液分離管4のドレインパイプ46から外部に排出される。
【0020】
次に、前記構成の装置による水銀測定動作および自動洗浄について説明する。以下の一連の動作は図示しない装置全体の制御装置の制御により行われる。まず、コントローラ7により吸引ポンプP3を駆動させると、煙道20からガス導入通路1内にガスGが所定流量で導入されてサンプリングされる。前記ガス導入通路1内に導入されたガスGは、ダストフィルタ2を通過することにより塵埃が取り除かれ、還元管3内を通過する。このとき、ガスG中の2価水銀(Hg2+)は還元管3に充填された還元触媒30によって金属水銀(Hg)に還元され、還元された金属水銀(Hg)と元々ガスG中に存在する金属水銀(Hg)とを含むガスGが、気液分離管4に導かれる。気液分離管4では、前記ガスGに含まれる液体成分(ドレイン)が除去されると共に、ドレインに溶け込んでいる少量の2価水銀(Hg2+)が気化されてその還元が促進される。気液分離管4で除去されたドレインは、図3に示す気液分離管4のドレインパイプ46の高さ位置Hを超えてオーバーフローしたとき、図1の導出ポンプP1によって外部に排出される。
【0021】
この後、気液分離管4を経由したガスGは冷却ユニット5に送られ、ここで冷却および除湿によって生じたドレインは導出ポンプP2により外部に放出される。このようにして冷却除湿されて水銀測定に適した温度にまで降温したガスGは、水銀測定器6に送られ、金属水銀(Hg)の濃度が連続的に測定され、その測定値がモニタ8にリアルタイムで表示される。前記気液分離管4は逆流防止構造を備えている。すなわち、煙通20は一般に負圧(大気圧よりも低圧)なので、測定を終了または中断するときに、吸引ポンプP3を停止すると、測定系統内でドレインおよびガスGが逆流しようとするが、前記気液分離管4は、前述したように、図3に示す気液分離管4内部の2つのチャンバ44a,44bが下部の小孔45でのみ連通しているので、気液分離管4内のドレインの逆流が抑制される結果、測定系統内での逆流が防止される。
【0022】
この測定装置により水銀測定を継続すると、前記還元管3の出口および気液分離管4内に汚れが経時的に付着していくので、前記測定装置を一定時間稼動させる毎に、コントローラ11の指令により、洗浄系統10を間欠的に(例えば5分/1時間)作動させる。吸引ポンプP3の作動を維持したままで、洗浄系統10を作動させると、貯留タンク12から洗浄水が一定時間継続して還元管3の出口の管3bを経由して導入部41から気液分離管4内に所定水圧で流れ込み、前記還元管3の出口から気液分離管4に至る部分が洗浄水によって自動的に高圧洗浄される。この高圧洗浄により、前記還元触媒30の下流側通路となる還元管3の出口および気液分離管4内に付着していた煤のような汚れは取り除かれて洗い流され、気液分離管4のドレインパイプ46から導出ポンプP1により外部に排出される。
【0023】
このように、本発明の実施形態に係るガス中水銀の測定装置によれば、汚れが付着しやすいために、水銀が吸着して測定誤差の原因となっていた還元管の出口から気液分離管に至る部分を、洗浄系統による洗浄水で高圧で自動洗浄して汚れを取り除くことができる。したがって、還元管3の出口から気液分離管4に至る部分に汚れが恒常的に付着するということがないため、汚れ部分への水銀の吸着に起因する測定誤差をなくすることができ、ガス中水銀の測定装置の信頼性が向上し、長期に安定した測定結果が得られる。また、この測定装置は、既存のガス中水銀の測定装置に対し、洗浄系統10およびこれに付帯するポンプP1,P4を追加するという簡単な構成であるため、製造が容易である。さらに、洗浄系統10は、導入するガスGの種類によって異なる還元管3の出口から気液分離管4に至る部分に付着する汚れ具合に対応して、コントローラ14の作動時間や作動タイミングなど、適切な作動を行わせることができ、付着した汚れを効率的に取り除くことができる。また、前記洗浄系統10は、間欠的に短時間作動させるだけで済むから、測定装置による測定になんらの支障を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るガス中水銀の測定装置を示す系統図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るガス中水銀の測定装置で用いられる気液分離器の平面図である。
【図3】同気液分離器の正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ガス導入通路
3 還元管
4 気液分離管
5 冷却ユニット
6 水銀測定器
10 洗浄系統
14 コントローラ
P1 導出ポンプ
P4 供給ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中の2価水銀を0価水銀に還元する還元管と、
前記還元管を通ったガスから液体成分を除去する気液分離管と、
前記気液分離管から導出されたガス中の水銀量を測定する測定器と、
洗浄水を前記還元管の出口から気液分離管を通過させて気液分離管の外部へと流出させる洗浄系統と、
を備えたガス中水銀の測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記洗浄系統は、洗浄水を前記気液分離管に供給する供給ポンプと、気液分離管から液体成分を導出する導出ポンプとを有するガス中水銀の測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記洗浄系統は、間欠的に作動させるコントローラを有しているガス中水銀の測定装置。
【請求項4】
請求項1,2又は3において、さらに、前記還元管を加熱する加熱器と、前記気液分離管からのガスを冷却して除湿する冷却ユニットとを備えたガス中水銀の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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