説明

ガス供給方法及びガス供給装置

【課題】本発明は、被対象物と原料ガスに含まれる二酸化炭素(13COを含む)とを効率良く反応させることが可能なガス供給方法及びガス供給装置を提供することを課題とする。
【解決手段】テイラー渦流が発生し、かつ被対象物である生物が供給された空間(回転可能な内筒12と静止する外筒11との間に形成された空間)である環状部13に、二酸化炭素を含む原料ガスを供給することにより、二酸化炭素と被対象物とを反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被対象物と原料ガスに含まれる二酸化炭素とを効率良く反応させることが可能なガス供給方法及びガス供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体として大気中に放出された二酸化炭素、或いは放出される直前の二酸化炭素を人為的に集め、地中・水中などに封じ込めること(「二酸化炭素の貯留」という)が行なわれている。現在研究が推進されている代表的なものに、二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)があり、代名詞的に用いられている。
また、化学・工学的に、二酸化炭素を分離回収し、それを貯蔵・利用する手法。普通、光合成によるものなど、生物による二酸化炭素の吸収と貯留は、炭素固定(以下、これを「二酸化炭素の固定化」という)と呼んで区別されている。
【0003】
近年、二酸化炭素の排出を抑制することが、産業界では大きな課題とされており、二酸化炭素を削減する技術や、空気中の二酸化炭素を固定化する技術の研究開発が盛んに行なわれている。
例えば、金属微粒子と水と二酸化炭素を反応させて炭酸塩を生成することで、二酸化炭素を工業用原料として固定化する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、藻類培養による二酸化炭素の固定化は、反応が進行するにつれて藻類濃度が高くなり、光が培養液の内部(具体的には、液体表面から10cm以下)には到達しにくくなる。
そのため、藻類濃度が高くなるに伴って、光が遮断され、二酸化炭素の固定化速度が低下する。二酸化炭素の固定化には、光照射及び二酸化炭素の供給の効率化が重要である。二酸化炭素の固定化速度の低下を抑制する手段としては、光ファイバーを利用した光照射方法(例えば、特許文献2参照)や藻類の担体固定等の培養装置(反応器)の設計や培養手法等がある。
【0005】
また、生物培養における二酸化炭素の固定化技術としては、二酸化炭素を栄養源(炭素源)として培養する微生物培養、植物培養、及び動物培養等がある。特に、工場排出ガス中や空気中等に含まれる二酸化炭素の固定化(二酸化炭素の固定化による水素生産も含む)、及び活性汚泥法による排水から発生する二酸化炭素の生物的処理として、藻類培養が注目されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、再生医療分野においては、機能障害や機能不全に陥った生体組織及び臓器に対して、その機能を再生させたり、哺乳動物から健常な細胞を取り出して、該細胞を生体外で培養させた後、再び、生体に戻す技術の研究が行なわれている。哺乳動物の付着細胞や懸濁細胞を生体外で実施する培養は、一般的にシャーレの中で実施されていることが多い。
【0007】
また、哺乳動物細胞は付着しやすく、また、煎断応力や法線応力等の物理的ストレスに弱い。そのため、大量培養に適する細胞培養容器として、ポリマーシートで成型された培養容器(例えば、特許文献4参照)や、取扱が容易かつ安全な培養容器の開発(例えば、特許文献5参照)がされている。また、担体を使用した高密度細胞培養方法(例えば、特許文献6参照)が開発されている。
【0008】
また、安定同位体13COを利用した13C標識化合物は、構造生物学の発展や創薬の開発等の治療や診断への応用が検討されている。特に、核磁気共鳴分光法(NMR(Nuclear Magnetic Resonance)法)への利用やトレーサとしての利用が可能である。
それゆえ、13C標識タンパク質、13C標識アミノ酸(例えば、特許文献7参照)、13C標識RNA及びリボヌクレオチド(例えば、特許文献8参照)、13C標識ベンゼン及び13C標識ベンゼン誘導体、13C標識不飽和脂肪酸(例えば、特許文献9参照)、13C標識バイオポリマー(例えば、特許文献10参照)の製造技術が研究されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−12392号公報
【特許文献2】特開平6−62691号公報
【特許文献3】特開2010−57485号公報
【特許文献4】特開2005−218444号公報
【特許文献5】特開2004−242619号公報
【特許文献6】特開2004−329045号公報
【特許文献7】特開平7−59583号公報
【特許文献8】特開平7−227295号公報
【特許文献9】特開平11−318484号公報
【特許文献10】特表2002−523073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、藻類の担体固定等の培養装置(反応器)を用いた場合、システムが複雑化して、設備の大型化するため、二酸化炭素の固定化のコストが上昇してしまう。これにより、効率良く二酸化炭素の固定化を行なうことが困難であった。
【0011】
また、再生医療分野において、培養容器としてガス透過性の低いシャーレを用いた場合、細胞増殖に必要な酸素や二酸化炭素の交換を振とう培養等により十分実施する必要がある。
そのため、培養液の液厚(液面の高さ)を約3mm程度とし、容器中に空気層を設けなくては、十分な細胞増殖が得られない(言い換えれば、効率良く細胞を増殖できない)という問題があった。
さらに、特許文献4〜6に記載の細胞培養容器や細胞培養方法を用いた場合、システムが複雑化して、設備の大型化するため、二酸化炭素の固定化のコストが上昇してしまう。よって、効率良く二酸化炭素の固定化を行なうことが困難であった。
【0012】
ところで、生物種を利用した13C標識タンパク質、13C標識アミノ酸、13C標識RNA及びリボヌクレオチド、13C標識不飽和脂肪酸、13C標識バイオポリマーの製造に使用する炭素源としての安定同位体13Cとしては、13Cグルコースや13Cメタノール等を利用する場合があるが、13C標識ベンゼン及び13C標識ベンゼン誘導体、13C標識炭酸塩を製造する場合も考慮して、安定同位体13Cの中でも安価な13COを利用することがコスト的に望ましい。
しかしながら、13COを利用した効率的な反応器・培養装置、及びこれらを用いた培養方法等についての報告はない。
【0013】
そこで、本発明は、被対象物と原料ガスに含まれる二酸化炭素(13COを含む)とを効率良く反応させることが可能なガス供給方法及びガス供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明によれば、テイラー渦流が発生し、かつ被対象物が供給された空間に、二酸化炭素を含む原料ガスを供給し、前記二酸化炭素と前記被対象物とを反応させることを特徴とするガス供給方法が提供される。
【0015】
また、請求項2に係る発明によれば、前記二酸化炭素は、13COを含むことを特徴とする請求項1記載のガス供給方法が提供される。
【0016】
また、請求項3に係る発明によれば、前記被対象物として生物を用い、前記二酸化炭素を分離回収することを特徴とする請求項1または2記載のガス供給方法が提供される。
【0017】
また、請求項4に係る発明によれば、前記生物は、微生物、藻類、植物、動物のうち、少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項3項記載のガス供給方法が提供される。
【0018】
また、請求項5に係る発明によれば、回転可能な内筒、該内筒を囲むように配置された外筒、及び前記内筒と前記外筒との間に形成された空間であり、テイラー渦流が形成される環状部よりなる共軸二重筒型培養器と、前記環状部に、被対象物を供給する被対象物供給手段と、前記環状部に、二酸化炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、を含むガス供給装置が提供される。
【0019】
また、請求項6に係る発明によれば、前記二酸化炭素は、13COを含むことを特徴とする請求項5記載のガス供給装置が提供される。
【0020】
また、請求項7に係る発明によれば、前記被対象物として生物を用い、該生物は、微生物、藻類、植物、動物のうち、少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項6記載のガス供給装置が提供される。
【0021】
また、請求項8に係る発明によれば、前記被対象物供給手段は、前記生物を含む培養液を前記環状部に供給することを特徴とする請求項7記載のガス供給装置が提供される。
【0022】
また、請求項9に係る発明によれば、前記環状部に、前記生物の栄養源を供給する栄養源供給手段を有することを特徴とする請求項7または8記載のガス供給装置が提供される。
【0023】
また、請求項10に係る発明によれば、前記環状部から前記二酸化炭素と反応した前記生物を含む前記培養液を回収する培養液回収手段を有することを特徴とする請求項8または9記載のガス供給装置が提供される。
【0024】
また、請求項11に係る発明によれば、前記環状部内のガスを回収し、前記二酸化炭素と他のガスとに分離すると共に、分離した前記二酸化炭素を前記原料ガス供給手段に供給するガス回収分離手段を有することを特徴とする請求項5ないし10のうち、いずれか1項記載のガス供給装置が提供される。
【0025】
また、請求項12に係る発明によれば、前記栄養源供給手段、前記原料ガス供給手段、及び前記環状部と接続され、かつ前記栄養源に前記原料ガスを溶解させてから前記環状部に供給する混合器を有することを特徴とする請求項9ないし11のうち、いずれか1項記載のガス供給装置が提供される。
【0026】
また、請求項13に係る発明によれば、前記環状部のうち、前記原料ガスが供給される部分に金属膜を設けたことを特徴とする請求項5ないし11のうち、いずれか1項記載のガス供給装置が提供される。
【0027】
また、請求項14に係る発明によれば、前記共軸二重筒型培養器を加熱する加熱手段を有することを特徴とする請求項5ないし11のうち、いずれか1項記載のガス供給装置が提供される。
【0028】
また、請求項15に係る発明によれば、前記共軸二重筒型培養器に光を照射する光照射手段を有することを特徴とする請求項5ないし11のうち、いずれか1項記載のガス供給装置が提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明のガス供給方法によれば、テイラー渦流を用いて、被対象物と二酸化炭素を含む原料ガスとを反応させることで、効率良く二酸化炭素の固定化を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】テイラー渦流の原理を説明するための図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態の第1変形例に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態の第2変形例に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、テイラー渦流の原理を説明するための図である。
ここで、図1を参照して、本発明に適用するテイラー渦流について説明する。
図1に示すように、共軸二重筒型培養器10は、外筒11と、内筒12と、外筒11と内筒12との間に形成された空間(間隙)である環状部13とを有する。
環状部13を流体で満たし、外筒11を静止させ、内筒12を回転させた際、流体は内筒12の回転による遠心力を受け、テイラー数Taが41.2を超えると、環状部13にテイラー渦流14と呼ばれるドーナツ状の2次渦流が発生する。
【0032】
テイラー数Taは、Ta=(ωrh/ν)(h/r)1/2と定義され、rは内筒12の半径(cm)、ωは内筒12の回転角速度(rad/s)、hは環状部13の間隙(cm)、νは気体或いは液体の動粘度(cm/S)を示している。
【0033】
テイラー数Taの増加によってテイラー渦流14の状態がどのように変化するかについて、Schlichtingは、「Boundary−Layer Theory」において、Ta<41.3:Laminar Couette flow、41.3<Ta<500:Laminar flow with Taylor Vortices、Ta>400:Turbulent flowと分類している。
【0034】
一方、水科らは、Ta<41.2:Laminar flow(以下、この状態を(A)という)、41.2<Ta<800:Laminar Vortex flow(以下、この状態を(B)という)、Ta〜1000:Transition flow(以下、この状態を(C)という)、2000<Ta<10000〜15000:Turbulent vortex flow(以下、この状態を(D)という)、Ta>15000: Turbulent flow(以下、この状態を(E)という)と分類している。
【0035】
(A)の状態では、テイラー渦流14は存在せず、完全な層流状態となる。また、(B)の状態では、テイラー渦流14は安定かつ静止した状態で存在しており、このような流動状態では、たとえ乱れを与えても、その乱れが層流に減衰するのではなく、また乱流に発散するのでもなく、もう一つの安定な渦領域であると考えられている。
また、(C)の状態では、狭義の遷移域と言えるもので、ここではテイラー渦流14は安定した状態で存在しているが、上下に規則正しく振動しているか、或いは振動の上に微小振動が重なった状態となる。
また、(D)の状態では、テイラー渦流14は不規則に上下に振動していると考えられるが、カオスでとらわれることが出来るという報告もある。さらに、(E)の状態になるとテイラー渦流14は消滅して乱流となる。
【0036】
また、テイラー渦流14内の粒子は、別のテイラー渦流14に移動しないで、比較的同じテイラー渦流14内に存在するという傾向がある。これにより、1つの反応器内を均一に混合しながら多段状態に保つことが可能となる。
また、内筒12と外筒11の半径の比を一定に保つことにより、共軸二重筒型培養器10をスケールアップした場合でも同じ流動状態を再現できる。
【0037】
また、円筒(渦管)が細くなれば、渦度は大きくなり、円筒(渦管)中の流体粒子の回転速度は速くなる。逆に、円筒(渦管)を太くすることで渦度は小さくなり、流体の回転は遅くなる。このように、円筒(渦管)の太さを変えることで、反応を制御できる。
【0038】
本発明では、上記説明したテイラー渦流14の原理を用いて、テイラー渦流14が形成された環状部13に、生物を含む培養液、及び二酸化炭素を含む原料ガスを供給することで、生物と二酸化炭素との反応を促進させることができる。
これにより、例えば、藻類培養により二酸化炭素を固定化することで、藻類濃度が高い場合でも効率的に光照射及び二酸化炭素を供給することが可能となるので、効率良く(連続的に)二酸化炭素を固定化できる。
【0039】
また、上記説明したテイラー渦流14を用いて、煎断応力や法線応力等のストレスに弱い哺乳動物培養を行うことで、細胞の付着抑制、細胞への物理的ストレス抑制を実施しながら、細胞増殖に適したガス供給を供給することが可能となり、効率良く培養(言い換えれば、大量培養)を行なうことができる。
【0040】
上記のテイラー渦流14を利用して、13C標識タンパク質、13C標識アミノ酸、13C標識RNA及びリボヌクレオチド、13C標識ベンゼン及び13C標識ベンゼン誘導体、13C標識不飽和脂肪酸、13C標識バイオポリマー、及び13C標識炭酸塩等の13C標識化合物の製造工程において、安定同位体13COをロスすることなく供給することが可能となるので、効率良く反応を行なうことができ、また、安定同位体13COの製造コストを低減できる。
【0041】
<第1の実施の形態>
始めに、テイラー渦流14を用いた生物培養による二酸化炭素の固定化において、使用する生物種、栄養源、及び原料ガスについて順次説明する。なお、本発明では、先に説明した炭素固定を「二酸化炭素の固定化」という。また、本発明における二酸化炭素には、13COが含まれる。
(使用する生物)
被対象物である生物(生物種)としては、二酸化炭素を栄養源(以下、炭素源)として利用できる微生物・藻類・植物・動物等の生物や、該生物から単離された細胞が好ましい。また、二酸化炭素の固定化には生体触媒リブロース−1.5−ビスホセフィートカルボキシラーゼが関与することが多く、この生体触媒を有する生物種、及び該生体触媒自身を利用したものを含むものとする。
生物としては、二酸化炭素を固定化できるものであれば、特に制限されない。生物としては、天然に存在するものでもよいし、遺伝子組換えや変異処理等がされたものであってもよい。
【0042】
また、生物は、1種類以上(複数種)を使用してもよいが、培養条件や生物の特性を考慮して、1種類を使用することが望ましい。
また、使用する生物は、二酸化炭素の固定化による有用物質の生産を考慮した上で選択することが好ましい。上記有用物質は、細胞内外に生成される。
例えば、二酸化炭素の固定化能力の高い生物としては、光合成生物(具体的には、藻類)を挙げることができる。下記表1に、光合成生物と生産される有用物質の1例を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
また、動物細胞としては、例えば、造血幹細胞、リンパ球細胞、ハイブリドーマ等の浮遊細胞、幹細胞等の肝細胞等の臓器を形成する細胞を用いることが可能である。
また、固定が可能な生物種において、安定同位体13COを使用する場合、細胞増殖速度が遅くなることや生育が悪くなる(言い換えれば、収量が少なくなる)といった同位体効果があるが、生産される有用物質は13C標識されたものとなる。
【0045】
(栄養源)
上記説明した生物に適する炭素源、窒素源、アミノ酸源、ビタミン源、ミネラル源等の栄養源を選択して培養を行なう。炭素源としては、CO13COが好ましい。
栄養源は、試薬の調合等による人工的なものであってもよいし、廃棄物や排水を利用してもよい。また、廃棄物や排水を利用する場合、使用する生物の生育を阻害するものが含有された際は、これらを除去するための事前処理を設けるとよい。
【0046】
クロレラやシアノバクテリアの培養には、ビタミン類を添加しない培地、例えば、ガンボークB5培地(日本製薬株式会社製)やBG11培地(SIGMA ALDRICH社製)等を用いる。
また、造血幹細胞、リンパ球細胞等の動物細胞の培養には、イーグルMEM培地(日本製薬株式会社製)、DMEM培地(GIBCO社製)、RPMI1640(和光純薬工業社製)、HamF10培地(SIGMA ALDRICH社製)、HamF12培地(SIGMA ALDRICH社製)等を用いることが可能である。
【0047】
また、栄養源は、装置への供給や生物への吸収効率を考慮し、水溶液化させて使用するとよい。水溶液化した栄養源は、雑菌混入によるコンタミネーションを避けるため、ボイラー、オートクレーブ等を使用して高圧蒸気滅菌処理(例えば、温度120℃、処理時間20min、圧力0.1MPa)を実施することが好ましい。また、二酸化炭素を炭素源に使用し、Nガスを窒素源に使用する場合は、フィルターを使用して滅菌することが好ましい。
【0048】
(原料ガス)
原料ガスとしては、二酸化炭素(13COも含む)を含有するガスの圧力が大気圧前後の常圧ガスであって、かつガス温度が常温(20℃)〜40℃程度のガスが好ましい。
また、高圧の原料ガスを使用する場合、耐久性を考慮した上で装置全体を高圧仕様にする必要がある。また、ガス圧力が高い場合は、培養する生物に負荷もかかるため、減圧弁を使用して圧力を低くして、該生物に適した圧力に調整するとよい。
【0049】
上記原料ガスとしては、火力発電所で発生する燃焼排ガス、製鉄所で発生する副生ガス(未燃ガス)、燃焼や化学反応に伴って発生し、かつ二酸化炭素を数%以上含むガス等を例示できる。
製鉄所で発生する副生ガスとしては、例えば、製鉄所の構成によっても異なるが、高炉一貫製鉄所を例に挙げれば、高炉ガス(BFG(Blast Furnace Gas))、コークス炉ガス(COG)、転炉ガス(LDG(Linz−Donawitz converter Gas))が挙げられ、また、COGやLDG等の上記副生ガスを水素製造目的で改質する過程(プロセス)の中で産生させるガス(プロセスガス)も含まれる。これらの副生ガスは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0050】
また、本実施の形態では、上記副生ガスの燃焼排ガスを原料ガスとして二酸化炭素の分離回収に供しても良い。さらに、HとCHとを含む地中から発生する生物の嫌気性発酵由来により生成した天然ガス、産業用並びに家庭用廃棄物の地中埋蔵により自然と嫌気性発酵し産出する地中発酵ガス、人工的に発生させた嫌気性発酵プロセスから排出される人工発酵ガス等(以下、これらのガスを「バイオガス」という)にも二酸化炭素は含まれるため、これらのガスを原料ガスとして用いてもよい。
【0051】
上記原料ガスの中でBFGは、二酸化炭素の比率が20数%と高く、その他に燃料成分であるHが数%、COが20数%含まれている。また、上記原料ガスの中でCOGは、BFGの次に燃料ガスとなるHとCHとを豊富に含んでおり、燃焼排ガスにおける二酸化炭素の濃度は20数%となる。
【0052】
一方、LDGは、10数%の二酸化炭素と共に、70%前後のCOを含んでおり、燃焼排ガスにおける二酸化炭素の濃度が30数%と非常に高い。また、嫌気性CH発酵によるバイオガスは、CHの比率が約60%、二酸化炭素の比率が約40%である。火力発電所の二酸化炭素の濃度は、天然ガス火力発電所で約8%程度、石炭火力発電所で約12%程度となる。
【0053】
これらの二酸化炭素の比率が高い原料ガスから生物培養や反応等の手段で二酸化炭素を固定化する場合、原料ガスとして二酸化炭素の濃度の低い火力発電所の燃焼排ガスを使用する場合と比較して、設備規模を大幅に小さくすることができると共に、二酸化炭素の固定化のコストを削減できる。
このため、原料ガス中の二酸化炭素の比率(濃度)は、15体積%以上、好ましくは20%体積以上、より好ましくは25体積%以上にするとよい。
二酸化炭素を含有する原料ガスに、窒素酸化物や硫黄酸化物等の吸収液劣化要因が高濃度で含有される場合、窒素酸化物及び硫黄酸化物を除去するための事前処理設備を設けることが望ましい。
【0054】
(ガス供給装置及びガス供給方法)
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。図2において、図1に示す共軸二重筒型培養器10と同一構成部分には同一符号を付す。また、図2は、第1の実施の形態のガス供給装置15の構成を説明するための模式図であり、実際のガス供給装置15と対比した場合において、図示される各部の大きさや厚み、寸法等が異なる場合がある。
【0055】
ここで、二酸化炭素を含む原料ガスが供給されるガス供給装置15の構成について説明しながら、第1の実施の形態のガス供給方法について説明する。
図2を参照するに、第1の実施の形態のガス供給装置15は、共軸二重筒型培養器10と、モーター16と、原料ガス供給手段17と、栄養源供給手段18と、被対象物供給手段である前培養液供給手段21と、培養液排出路22と、培養液回収手段23と、ガス回収分離手段24と、を有する。
【0056】
共軸二重筒型培養器10は、内筒12(内円筒)と、内筒12を囲むように配置された外筒11(外円筒)と、内筒12と外筒11との間に形成された空間(間隙)である環状部13とを有する。内筒12は、モーター16により回転可能な構成とされており、外筒11は、回転しない構成とされている。テイラー渦流は、先に説明したように、環状部13に流体を充填し、静止した状態の外筒11に対して内筒12を回転させることで、環状部13に発生させることが可能である。
また、テイラー渦流の発生及び調整は、二酸化炭素(13COも含む)を含む原料ガスが溶解した栄養源、二酸化炭素の固定化が進行した際に生物が産出する物質を含む培養液の動粘度、内筒12の回転速度、外筒11と内筒12の間隙(環状部13の幅)で行なう。
【0057】
外筒11は、流下口31(一般的には、「種菌口」という)と、ガス排出口32と、原料ガス供給口33と、栄養源供給口34と、培養液回収口35とを有する。
流下口31は、外筒11の上端に形成されている。流下口31は、前培養液供給手段21から供給された前培養液(具体的には、二酸化炭素を固定化する際に使用する生物(生物種)を事前に培養 (以下、この培養を「前培養」という)し、生育・成熟させた生物を含む培養液)を環状部13に導入するための導入口である。
【0058】
ガス排出口32は、外筒11の上端に形成されている。ガス排出口32は、環状部13内のガス(具体的には、原料ガス中の二酸化炭素を固定化させた残りのオフガス)を共軸二重筒型培養器10の外部に排出するための排出口である。
原料ガス供給口33は、外筒11の下端に形成されている。原料ガス供給口33は、原料ガス供給手段17から供給された原料ガスを環状部13内に導入するための導入口である。
栄養源供給口34は、外筒11の下端に形成されている。栄養源供給口34は、栄養源供給手段18から供給された栄養源を環状部13内に導入するための導入口である。
培養液回収口35は、外筒11の下部に形成されている。培養液回収口35は、環状部13内の培養液を回収するための回収口である。
【0059】
上記構成とされた共軸二重筒型培養器10は、ボイラーやオートクレーブ等を使用して高圧蒸気滅菌処理(処理条件;温度が120℃、処理時間20分、圧力0.1MPa)に耐えられる必要がある。
また、使用する生物においては嫌気性を好むものが存在する。そこで、酸素が共軸二重筒型培養器10内に侵入することを防ぐために、共軸二重筒型培養器10は、酸素等のガス透過率が低い必要がある。
【0060】
また、生物においては好塩性であるものが存在し、共軸二重筒型培養器10内に供給される栄養源には高濃度の塩(例えば、海水)が使用されることがあり、かつ、生物によってはHSを発生することがある。また、二酸化炭素(13COを含む)は、酸性ガスである。そのため、共軸二重筒型培養器10は、高い耐腐食性を有する必要がある。
上記理由により、共軸二重筒型培養器10の材質は、アルミニウム、ステンレンス鋼、ハステロイ等の耐酸性金属を用いるとよい。また、共軸二重筒型培養器10の材質としてステンレンス鋼を用いる場合、安価で、かつ、入手が容易なオーステナイト系ステンレンス鋼(特に、SUS316LやSUS304等)を使用することが好ましい。
【0061】
さらに、共軸二重筒型培養器10としては、上記材質に樹脂をコーティング又はライニングしたものを用いるとよい。これにより、共軸二重筒型培養器10の耐腐食性をさらに向上させることができる。上記樹脂としては、炭素と水素のみからなる樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)が挙げられるが、耐熱性の高いフッ素樹脂が好ましい。また、フッ素樹脂の中でも、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等を用いるとよい。
【0062】
原料ガス供給手段17は、二酸化炭素(13COも含む)を含む原料ガスを共軸二重筒型培養器10の環状部14に供給可能な状態で、原料ガス供給口33と接続されている。
原料ガス供給手段17は、送風機(図示せず)やポンプ(図示せず)と、マスフローコントローラ(図示せず)とを有する。原料ガス供給手段17は、送風機(図示せず)やポンプ(図示せず)により、原料ガスをマスフローコントローラ(図示せず)に導く。
【0063】
マスフローコントローラでは、原料ガスに含まれる二酸化炭素の濃度及び流量を制御して、環状部13に二酸化炭素の濃度及び流量が調整された原料ガスを供給する。
原料ガスに含まれる二酸化炭素の濃度及び流量の調整には、不活性ガスであるNガスを使用することが好ましい。また、培養する生物種が好気性のものであれば、Oガスを使用してもよい。
【0064】
二酸化炭素を含む原料ガスは、共軸二重筒型培養器10の下部から連続的に供給することが好ましい。
このように、共軸二重筒型培養器10の下部から連続的に二酸化炭素を含む原料ガスを供給することにより、該原料ガスは環状部13を上昇しながら、多段に発生したテイラー渦流に溶解されていくため、連続的に二酸化炭素の固定化を行なうことが可能となる。例えば、15℃の水1mに対しては、約1mの二酸化炭素が溶解する。
また、使用する生物の生育に影響がない程度に、二酸化炭素を含む原料ガスの供給圧力や培養器内の圧力を上昇させることで、溶解度を大きくできる。
【0065】
二酸化炭素を含む原料ガスは、環状部13内の培養液中の二酸化炭素濃度が10%以下になるように供給することが好ましい。
これにより、培養液中の急激なpH変動(具体的には、酸性側へのシフト)を避けることができ、生物の生育を阻害せずに二酸化炭素の固定化を効率良く行なうことが可能となる。
なお、図2には、図示していないが、共軸二重筒型培養器10内の培養液中の二酸化炭素濃度を測定する濃度測定部、例えば、pH電極、二酸化炭素センサー、ガスクロマトグラフ等を設けてもよい。
【0066】
栄養源供給手段18は、栄養源供給口34と接続された供給ポンプ36を有する。栄養源供給手段18は、栄養源供給口34を介して、供給ポンプ36により、環状部13に生物の栄養源を供給する。
【0067】
前培養液供給手段21は、先に説明した前培養液を環状部13に供給可能な状態で流下口31と接続されている。前培養液の供給量は、使用する生物により異なるが、環状部13の容積に対して3〜15%程度供給することが好ましい。
また、前培養液は、栄養源を環状部13に供給して、テイラー渦流を発生させた最初の時期(二酸化炭素の固定化が開始する前の段階)での生物種濃度が3〜15%程度になるように供給してもよい。
【0068】
培養液排出路22は、一方の端部が培養液回収口35と接続されており、他方の端部が培養液回収手段23と接続されている。
培養液回収手段23は、培養液排出路22を介して、培養液回収口35と接続されている。培養液回収手段23は、培養液排出路22を介して、二酸化炭素の固定化が終了後、二酸化炭素を固定化した生物を含む培養液を回収する。
【0069】
ガス回収分離手段24は、ガス排出路38と、ガス分析路39と、管路41と、ガス循環路42と、ガス分析器43と、図示していない制御部とを有する。
ガス排出路38は、ガス排出口32と接続されていると接続されている。ガス排出路38は、環状部13内のガス(具体的には、原料ガス中の二酸化炭素を固定化させた残りのオフガス)を排出するための管路である。
ガス分析路39は、ガス排出路38及びガス分析器43と接続されている。ガス分析路39は、ガス排出路38から排出されたガスをガス分析器43に導くための管路である。
【0070】
管路41は、ガス排出路38にガスを導入可能な状態で、ガス排出路38と接続されている。ガス循環路42は、ガス排出路38と接続されると共に、ガス排出路38を経由したガスを原料ガス供給手段17に供給可能な構成とされている。
ガス分析器43は、ガス分析路39及び管路41と接続されている。ガス分析器43は、ガス排出口32からガス排出路38に排出されたガスに含まれる二酸化炭素濃度を測定(例えば、ガスクロマトグラフで測定)すると共に、測定した二酸化炭素濃度に基づいて、二酸化炭素の固定化率を算出する。
また、二酸化炭素の固定化率が70%以下の場合、図示していない制御部の指令により、ガス排出路38に排出されたガスをガス循環路26に導き、再度、原料ガスとして使用する。
【0071】
このような構成とされたガス回収分離手段24を設けることにより、ガス排出路38に排出されたガスに含まれる二酸化炭素の固定化率が低い場合(具体的には、例えば、70%以下の場合)に、ガス排出路38に排出されたガスを、原料ガス供給手段17に供給することで、再度、原料ガスとして有効活用することができる。
【0072】
なお、使用する生物によっては、HとCHを産出する場合があり、これらのガスは分離・精製後、燃料ガスとして使用することが可能である。
そこで、図2において、その図示を省略しているが、ガス循環路42の途中に燃料ガスを分離回収する燃料ガス分離回収手段を設けるとよい。
このような燃料ガス分離回収手段(図示せず)を設けることで、高濃度の二酸化炭素を含む排出ガス中に含まれるHやCH等の燃料ガスを分離回収後、原料ガスとして再利用することができる。
また、回収した燃料ガスは、例えば、燃料電池で発電することで得られる電力をガス供給装置15の動力源(具体的には、モーター16の動力源)として利用できる。
【0073】
また、図2において、その図示を省略しているが、ガス循環路42の途中には阻害ガスを分離回収する阻害ガス分離回収手段を設けるとよい。
このような阻害ガス分離回収手段を設けることで、高濃度の二酸化炭素を含む排出ガス中にCOやHS等の生物種の生育を阻害する阻害ガスが存在する場合には、これらの阻害ガスを分離回収後、原料ガスとして使用することができる。
【0074】
第1の実施の形態のガス供給装置によれば、回転可能な内筒12、内筒12を囲むように配置された外筒11、及び内筒12と外筒11との間に形成され、テイラー渦流が形成される環状部14よりなる共軸二重筒型培養器10と、環状部14に、二酸化炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給手段17と、環状部14に、生物の栄養源を供給する栄養源供給手段18と、二酸化炭素を固定化した生物を含む培養液を回収する培養液回収手段23と、を有することにより、テイラー渦流を用いて、二酸化炭素の固定化を効率良く行なうことができる。
【0075】
また、環状部14内のガスを回収し、二酸化炭素と他のガスとに分離し、かつ分離した二酸化炭素を原料ガス供給手段に供給可能なガス回収分離手段24を有することにより、二酸化炭素の固定化率が低い場合(70%以下の場合)に、ガス排出路38から排出されたガスを再度原料ガスとして使用することが可能となるので、二酸化炭素の固定化をさらに効率良く行なうことができる。
【0076】
また、第1の実施の形態の固定化方法によれば、テイラー渦流が発生し、かつ被対象物である生物が供給された環状部13(空間)に、二酸化炭素を含む原料ガスを供給し、二酸化炭素と生物とを反応させることにより、二酸化炭素の固定化を効率良く行なうことができる。
【0077】
図3は、本発明の第1の実施の形態の第1変形例に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。図3において、図2に示すガス供給装置15と同一構成部分には同一符号を付す。また、図3は、第1変形例のガス供給装置45の構成を説明するための模式図であり、実際のガス供給装置45と対比した場合において、図示される各部の大きさや厚み、寸法等が異なる場合がある。
【0078】
図3を参照するに、第1変形例のガス供給装置45は、図2に示すガス供給装置15に設けられた原料ガス供給口33及び栄養源供給口34の替わりに、原料ガス及び栄養源供給口47を設けると共に、さらに混合器49を設けた以外は、ガス供給装置15と同様に構成される。
混合器49は、原料ガス供給手段17及び栄養源供給手段18と接続されており、栄養源に原料ガスを溶解させるためのものである。混合器49は、原料ガス及び栄養源供給口47と接続されており、原料ガス及び栄養源供給口47を介して、栄養源に溶解した原料ガスを環状部13に供給する。混合器49としては、例えば、エジェクターを用いることができる。
【0079】
ここで、エジェクターによる気液混相作用について説明する。エジェクターの内部には急激に絞られたノズルが形成されている。
栄養源が供給ポンプ36によりエジェクターに供給され、栄養源がノズルより高速で噴射され、その高速流の形成により負圧を原料ガス供給路内に発生させる。前記高速流の流速が大きいほど負圧作用は増大し、大気圧より少し高い供給圧で供給させる原料ガスが吸収液に吸引され、瞬時に微細な気泡状態となるので、気液混合液の生成を簡易に行うことができる。また、無数の微細気泡化により栄養源との気液接触表面積は激増し、微細気泡中の二酸化炭素は栄養源中に急速に溶解する。
【0080】
図4は、本発明の第1の実施の形態の第2変形例に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。図4において、図2に示すガス供給装置15と同一構成部分には同一符号を付す。また、図4は、第2変形例のガス供給装置55の構成を説明するための模式図であり、実際のガス供給装置55と対比した場合において、図示される各部の大きさや厚み、寸法等が異なる場合がある。
図4を参照するに、第2変形例のガス供給装置55は、図2に示すガス供給装置15の構成に、さらに金属膜56を設けた以外は、ガス供給装置15と同様に構成される。
金属膜56は、マスフローコントローラ(図示していない)の後段(環状部14内)に配置されている。これにより、多段に発生したテイラー渦流に二酸化炭素を含む原料ガスを連続的でかつ効率的に供給して、効率良く二酸化炭素を固定化することができる。
【0081】
金属膜56の長さはテイラー渦流への、二酸化炭素を含む原料ガスの効率的な供給の観点から、内筒12と略同等の長さにすることが好ましい。金属膜56の形状は円筒が好ましく、1本以上、つまり複数本配置してもよい。
金属膜56の長さ、直径、及び使用本数は、テイラー渦流の発生を抑制しないように考慮し、決定するとよい。
金属膜56の細孔径は、使用する生物種が透過しない程度の孔径であって、二酸化炭素を含む原料ガスを微細化して溶解しやすい細孔径であれば良い。例えば、0.01〜0.1μmの細孔径の金属膜56を用いるとよい。なお、金属膜56の細孔径は、使用する生物種の成熟時の細胞の1/10程度の大きさにしてもよい。
【0082】
<第2の実施の形態>
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。図5において、図2に示す第1の実施の形態のガス供給装置15と同一構成部分には、同一符号を付す。また、図5は、第2の実施の形態のガス供給装置60の構成を説明するための模式図であり、実際のガス供給装置60と対比した場合において、図示される各部の大きさや厚み、寸法等が異なる場合がある。
【0083】
ここで、二酸化炭素を含む原料ガスが供給されるガス供給装置60の構成について説明しながら、第2の実施の形態のガス供給方法について説明する。
図5を参照するに、第2の実施の形態のガス供給装置60は、光合成生物による二酸化炭素(13COも含む)の固定化を行なう装置であり、第1の実施の形態のガス供給装置15の構成に、さらに、光照射手段61と、水溶液導入口63と、供給ポンプ64とを設けた以外は、ガス供給装置15と同様な構成とされている。
【0084】
光照射手段61は、生物種が光合成するための光を照射するためのものであり、例えば、蛍光灯や光ファイバー等の人工光を使用することが好ましい。省エネルギー的には太陽光、自然光の使用がより望ましい。この場合、共軸二重筒型培養器10の材質としては、光透過率が高いものを用いる必要がある。また共軸二重筒型培養器10の材質としては、耐腐食性や耐熱性が高い材質である必要があることから、ガラスや樹脂等が好ましい。
【0085】
共軸二重筒型培養器10の中心には、内筒12が配置されているため、光透過が悪い共軸二重筒型培養器10の中心部に光合成生物が存在することがない。これにより、光の供給が効率的にでき、光合成生物による二酸化炭素の固定化を効率良く行なうことができる。
【0086】
光合成生物による二酸化炭素の固定化の温度は、常温(20℃)〜40℃が好ましい。また、図示していない温度感知機(例えば、温度センサー)や冷却機(例えば、冷却水、エチレングリコール等を使用した低温恒温槽による熱交換)等を設けるとよい。
これにより、光照射時における共軸二重筒型培養器10(具体的には、環状部14)の温度が所望の温度となるように制御することができる。
【0087】
水溶液導入口63は、外筒11の上端に形成されている。供給ポンプ64は、水溶液導入口63と接続されており、水溶液導入口63を介して、酸水溶液或いはアルカリ水溶液を環状部14に導入する。
このように、酸水溶液或いはアルカリ水溶液を環状部14に供給する供給ポンプ64を設けることにより、光合成生物による二酸化炭素の固定化が進行し、環状部14内のpHが変動した際、光合成生物種の培養に適したpH(例えば、6.0〜9.0)に制御することができる。
酸水溶液或いはアルカリ水溶液は、共軸二重筒型培養器10の上部から流下させることが好ましいが、二酸化炭素を含む原料ガスを供給する際に使用した金属膜56(図4参照)を使用して、酸水溶液或いはアルカリ水溶液を供給してもよい。
【0088】
<第3の実施の形態>
図6は、本発明の第3の実施の形態に係るガス供給装置の概略構成を示す図である。図6において、図2に示す第1の実施の形態のガス供給装置15と同一構成部分には、同一符号を付す。また、図6は、第3の実施の形態のガス供給装置70の構成を説明するための模式図であり、実際のガス供給装置70と対比した場合において、図示される各部の大きさや厚み、寸法等が異なる場合がある。
【0089】
ここで、二酸化炭素(13COも含む)を含む原料ガスが供給されるガス供給装置70の構成について説明しながら、第3の実施の形態のガス供給方法について説明する。
図6を参照するに、第3の実施の形態のガス供給装置70は、光合成生物以外の生物による二酸化炭素の固定化を行なう装置であり、第2の実施の形態のガス供給装置60に設けられた光照射手段61の替わりに、加熱手段71を設けた以外は、ガス供給装置60と同様な構成とされている。
【0090】
加熱手段71は、外筒11の外側に配置されている。加熱手段71としては、例えば、シリコンラバーヒーター、マントルヒーター、電気炉等を用いることができる。
また、光合成生物以外の生物種の培養に適する温度に制御するため、図省略の温度感知機(例えば、温度センサー)や冷却機(例えば、冷却水、エチレングリコール等を使用した低温恒温槽による熱交換)を設け、温度制御することが好ましい。
嫌気性超好熱菌、例えば、サーモコッカスコダカレエンシスKOD1株(寄託機関:独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(受託番号:JCM12380号、又は寄託機関:American Type Culture Collection(ATCC)(受託番号:ATCC BAA−918)の培養温度は、60 〜105℃(最適培養温度85℃)であり、10%程度の二酸化炭素を固定化する。
したがって、光合成生物以外の生物による二酸化炭素の固定化の温度制御範囲は、20〜105℃が好ましい。
【0091】
より効率的に二酸化炭素を固定させるためには、環状部14内に前培養した生物(前培養液)を注入し、次いで、内筒12を回転させ、栄養源を供給しながら、テイラー渦流を発生させ、その後、テイラー渦流に原料ガスを供給し、二酸化炭素を固定化するとよい。
上記の固定化方法(制御方法)をシーケンス制御でシステム化すれば、更に効率的なガス供給装置となる。
【0092】
ある一定のテイラー渦流は、別のテイラー渦流に移動しないため、煎断応力や法線応力等の物理的ストレスに弱く、かつ付着性のある生物培養(例えば、哺乳動物培養)において、細胞の付着抑制、及び細胞への物理的ストレス抑制をしながら、細胞増殖に適したガス供給が可能となるので、大量培養することができる。
【0093】
以上、テイラー渦流を用いた生物培養による二酸化炭素の固定化の方法、操作条件、及びガス供給装置の構造について、図面を参酌して説明したが、テイラー渦流を用いた二酸化炭素の固定化は、その他分野、例えば、有機合成反応でも使用可能である。具体的には、13C標識炭酸塩、13C標識ベンゼン、及び13C標識ベンゼン誘導体等の製造に適用できる。
この場合、図6と略同じ構成とされたガス供給装置を使用すればよい。有機合成反応として、ガス供給装置70を使用する場合、高圧蒸気滅菌工程、前培養液供給手段21は不要である。また、栄養源が反応させる物質、例えば、13C標識炭酸塩を製造する場合は、塩化ナトリウム水溶液に変更すればよい。
【0094】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、被対象物と原料ガスに含まれる二酸化炭素(13COを含む)とを効率良く反応させることが可能なガス供給方法及びガス供給装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0096】
10…共軸二重筒型培養器、11…外筒、12…内筒、13…環状部、14…テイラー渦流、15,45,55,60,70…ガス供給装置、16…モーター、17…原料ガス供給手段、18…栄養源供給手段、21…前培養液供給手段、22…培養液排出路、23…培養液回収手段、24…ガス回収分離手段、31…流下口、32…ガス排出口、33…原料ガス供給口、34…栄養源供給口、35…培養液回収口、36,64…供給ポンプ、38…ガス排出路、39…ガス分析路、41…管路、42…ガス循環路、43…ガス分析器、47…原料ガス及び栄養源供給口、49…混合器、56…金属膜、61…光照射手段、63…水溶液導入口、71…加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テイラー渦流が発生し、かつ被対象物が供給された空間に、二酸化炭素を含む原料ガスを供給し、前記二酸化炭素と前記被対象物とを反応させることを特徴とするガス供給方法。
【請求項2】
前記二酸化炭素は、13COを含むことを特徴とする請求項1記載のガス供給方法。
【請求項3】
前記被対象物として生物を用い、前記二酸化炭素を分離回収することを特徴とする請求項1または2記載のガス供給方法。
【請求項4】
前記生物は、微生物、藻類、植物、動物のうち、少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項3項記載のガス供給方法。
【請求項5】
回転可能な内筒、該内筒を囲むように配置された外筒、及び前記内筒と前記外筒との間に形成された空間であり、テイラー渦流が形成される環状部よりなる共軸二重筒型培養器と、
前記環状部に、被対象物を供給する被対象物供給手段と、
前記環状部に、二酸化炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、を含むガス供給装置。
【請求項6】
前記二酸化炭素は、13COを含むことを特徴とする請求項5記載のガス供給装置。
【請求項7】
前記被対象物として生物を用い、該生物は、微生物、藻類、植物、動物のうち、少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項6記載のガス供給装置。
【請求項8】
前記被対象物供給手段は、前記生物を含む培養液を前記環状部に供給することを特徴とする請求項7記載のガス供給装置。
【請求項9】
前記環状部に、前記生物の栄養源を供給する栄養源供給手段を有することを特徴とする請求項7または8記載のガス供給装置。
【請求項10】
前記環状部から前記二酸化炭素と反応した前記生物を含む前記培養液を回収する培養液回収手段を有することを特徴とする請求項8または9記載のガス供給装置。
【請求項11】
前記環状部内のガスを回収し、前記二酸化炭素と他のガスとに分離すると共に、分離した前記二酸化炭素を前記原料ガス供給手段に供給するガス回収分離手段を有することを特徴とする請求項5ないし10のうち、いずれか1項記載のガス供給装置。
【請求項12】
前記栄養源供給手段、前記原料ガス供給手段、及び前記環状部と接続され、かつ前記栄養源に前記原料ガスを溶解させてから前記環状部に供給する混合器を有することを特徴とする請求項9ないし11のうち、いずれか1項記載のガス供給装置。
【請求項13】
前記環状部のうち、前記原料ガスが供給される部分に金属膜を設けたことを特徴とする請求項5ないし11のうち、いずれか1項記載のガス供給装置。
【請求項14】
前記共軸二重筒型培養器を加熱する加熱手段を有することを特徴とする請求項5ないし11のうち、いずれか1項記載のガス供給装置。
【請求項15】
前記共軸二重筒型培養器に光を照射する光照射手段を有することを特徴とする請求項5ないし11のうち、いずれか1項記載のガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−60957(P2012−60957A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209499(P2010−209499)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】