説明

ガス供給源を備えたプラズマ分光システム

【課題】試料の分光化学分析のための分光システム用ガス供給源の低廉化。
【解決手段】本分光システムは、分光源としてマイクロ波誘導プラズマ90を発生させるためのトーチ50を備える。プラズマ形成ガスには酸素不純物を含有することができる窒素を用いる。このため本システムは、大気から吸着によって除去される酸素のために、好ましくは圧縮機75から圧縮された大気が供給される窒素発生器70を備えている。
【効果】現場の窒素ガス発生器を使用できるため、ボンベ入り高純度ガスの供給を得る必要がなくなり、コストが節約できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システムの一部としてプラズマを保持するガス供給源を備えた分光システムに関する。このシステムは、試料の分光化学元素分析するためのものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術における以下の説明は、本発明の文脈を説明するために含まれている。これは、参照した材料のいずれも、オーストラリアにて、公開されたもの、公知であったもの、または本出願により確定した優先日に常識の一部であったという承認とみなされるものではない。
分光器をベースにした元素分析器(X線技術を用いるものは除く)はすべてガス供給源を必要とし、例えば、フレーム原子吸光分析装置(FAAS)にはアセチレンおよび亜酸化窒素、または、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置もしくはICP質量分析装置にはアルゴンが必要とされる。マイクロ波誘導プラズマの分光源については、本出願人の下記特許文献1(特許文献2)の9〜10ページ(特許文献3として登録されている)に開示されるように、好適なプラズマ形成ガスが窒素である。
【特許文献1】国際出願第PCT/AU01/00805号明細書
【特許文献2】国際公開パンフレット第02/04930号明細書
【特許文献3】米国特許第6,683,272号明細書
【特許文献4】国際出願第PCT/AU03/00615号明細書
【特許文献5】国際公開パンフレット第03/098980号明細書
【特許文献6】国際出願第PCT/AU02/01142号明細書
【特許文献7】国際公開パンフレット第03/069964号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
分光システム用のガス供給源が、通常非常に高価な場合、例えば、年間のガス供給コストが、分光機器の最初の購入価格と同額であったり、遠隔地にガスを供給しなければならない場合には、さらに高額となることがある。このコストにおける重大な要因は、供給されたガスに通常要求される高い純度である。例えば、商業的に供給される窒素は、酸素およびアルゴンをともに0.1体積%未満含有するように典型的に規定されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明は、分光源としてマイクロ波誘導プラズマを発生させるためのトーチ(torch)と、窒素ガスを供給するための発生器であって、プラズマを保持する前記窒素ガスを供給するためにトーチに接続されている発生器とを備える分光システムであり、前記発生器が大気から窒素ガスを発生させることを特徴とする分光システムを提供する。
分光用のマイクロ波誘導プラズマ源は、十分に動作することができ、ある条件においては、プラズマを保持するガスとして酸素を若干含有する実質的には窒素に関する、向上した性能をこの分光システムに与えることができる。これは、ガス供給源は、投入されたガスが大気(すなわち、発生器の位置における大気)である分光機器の場所にある窒素発生器によって提供されることができることを意味する。例えば、ガス選択ろ過膜の使用によって、または、炭素分子ふるいのような適当な吸着剤の使用による酸素の圧力スイング吸着によって、分光機器の場所で圧縮される大気から窒素濃縮ガス供給源を作製することが可能である。そのような発生器は、典型的に、0.1体積%〜5体積%の残留酸素と、アルゴン、COなどといったごく少量または微量のより希薄な大気ガスとを含有している窒素を供給することができる。本発明によるマイクロ波誘導プラズマ分光システムは、そのような窒素供給源に関して十分に動作することができる。
【0005】
このように、本発明は、現場の窒素ガス発生器を使用することができ、これによって、ボンベ入り高純度ガスの供給を得る必要がなくなり、また、分光機器の場所へのボンベ入りガス供給の輸送コストがなくなるため、コストが著しく節約できる。遠隔地において、アクセスが困難な場所で、またはインフラが低レベルの国々において、分光機器を動作できるか否かで生じる差として、コスト削減は非常に大きなものとなる。
【0006】
好ましくは、本発明用に発生させた窒素は、約0.1体積%〜約3.0体積%の酸素を含有する。より好ましくは、窒素は、約0.1体積%〜約2.0体積%の酸素を含有する。さらにより好ましくは、窒素は、約0.5体積%〜1.5体積%の酸素を含有する。
本発明に係る分光システムの改良された感度は、窒素の酸素含有量が約0.1体積%から増加し、窒素が約1体積%〜2体積%の酸素を含有する時に最大となり、その後、酸素が約2体積%より高い濃度になると低下すると考えられる。酸素含有量をこれらの範囲に規定するために、さらなる実験が行われている。
【0007】
好ましくは、本発明の発生器は、空気供給源からの酸素を吸着することによって動作するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明をよりよく理解し、また、同様に行うことができることを示すために、単なる非制限的な例として、以下にその好適な実施形態を添付の図面を参照して開示する。
マイクロ波誘導プラズマ分光化学システムの窒素純度に対する感度を測定するために、試験を行った。こうした試験によって、対象の元素の1mg/L溶液に対して1秒間に受信したA/Dカウントにおける信号レベルを測定した。代表的な結果を、以下の表に示す。分光機器は、2組のデータに対して別々に最適化されたが、その構成は、各組の結果内では変えなかった。
【0009】
【表1】

【0010】
【表2】

【0011】
上記2つの表中の結果が示すように、プラズマに供給されたガス中の少量の残留酸素(最大2%〜3%)は有益であり、実際に感度を向上させるものである。また、この改善は、得られる検出限界にも反映されている。こうした改善は小幅だが、確実に価値のあるものである。
図1によって概略的に示されている分光システムにおいて、液体分析試料5の代表的な部分が、プローブ6を通って試料移送管7へとポンプ10によって汲み上げられ、エアロゾル発生器15内へと流れ込む。多くの適当なエアロゾル発生器が当該技術において公知である。図示した例では、エアロゾル発生器15は、圧力調整器20によって制御された適圧(50〜500kPaゲージ、典型的には、120〜250kPaゲージ)で窒素が供給される圧縮空気式ネブライザーである。エアロゾル発生器15は、より大きなエアロゾル液滴が内部で沈降して、第2ポンプ35によって排水管30を通って排出口40へと排出されるスプレー室25において、分析試料5から記載のように得られた液体をエアロゾル(図示せず)に変換させる。窒素内で懸濁された微細な液滴からなるエアロゾルは、エアロゾル移送管45を通ってプラズマトーチ50の噴射管46へと進む。
【0012】
上述の配置は、分析試料を分光化学分析用のプラズマトーチ内へ導入するのに適した形に変換することができる1つの好適な方法を示すに過ぎない。その他の多くの配置は、当該技術において公知であり、誘導結合プラズマのような分光化学の他の種類のプラズマと組み合わせて広く用いられている。かかる試料導入配置のいずれも、先に述べた配置と置き換えてもよい。
【0013】
プラズマトーチ50には、入口55および56を通ってマニホールド60から2つのガス流が供給される。入口55を通る所要流量は、入口56を通る所要流量よりも少ない。必要な流量を得るために、入口55とマニホールド60との間に絞り57が置かれる。圧力調整器65が、マニホールド60内に一定のガス圧を供給する。トーチ50に用いてもよいマイクロ波誘導プラズマに適したトーチの詳細は、本出願人の上記特許文献1(特許文献2の11〜12ページ)および上記特許文献4(特許文献5)に記載されている。
【0014】
本発明の実施形態によれば、窒素を窒素発生器70からマニホールド60と、圧力調整器20および65とに供給し、この窒素発生器70には、空気圧縮機75から圧縮した大気が供給される。
プラズマトーチ50は、マイクロ波空洞80内に位置し、このマイクロ波空洞80は、マイクロ波電源85によってマイクロ波電力が供給される。マイクロ波空洞80内のマイクロ波の作用によって、トーチ50内にプラズマ90が生成される。分光化学分析用の窒素プラズマを生成するためのキャビティ80およびその使用法の詳細は、上記特許文献3および本出願人の上記特許文献6および上記特許文献7に記載されている。
【0015】
分光化学分析用の光学分光計100によって、光学インターフェース95を通してプラズマ90が見える。光学インターフェース95は、ノズル構成110を通過する空気により生成されるエアカーテン105によって、プラズマ90から保護される。空気ライン115を介して空気圧縮機75からノズル構成110に空気が供給される。空気ライン115内に圧力調整器120を設けて、適正な流量の空気がノズル構成110を通るようになっている。
【0016】
光学インターフェース95および光学分光計100は、当該技術において公知ないくつかの種類の質量分析計のうちの任意の1つと置き換えることができ、かかる状況では、エアカーテン105を必要としない。分光化学分析用の質量分析計にプラズマを接続する詳細は、当該技術において公知である。
システムの動作を制御するため、かつ、分光計100により生じたデータを収集および処理するために、電子制御およびデータ処理システム125が設けられている。
【0017】
窒素発生器70の一実施形態が、図2に概略的に示されている。この発生器70では、空気圧縮機(図示せず)からの大気が、エアフィルター205を通って、流量絞り215および220ならびに電磁弁225、230、235および240を備える第1マニホールド210内に流れ込む。
流量絞り215および220は、フィルター205とマニホールド210との間に単一の流量絞り(図示せず)として実施することができる。装置の動作の説明を簡潔にするために、図2に示すように電磁弁225、230、235および240によって流量が制御されると仮定するが、その個々の弁225、230、235および240の一式を、当業者に公知のものと同じ機能性を提供する任意の適切な弁一式と取り替えることができることが理解されよう。
【0018】
当初、電磁弁225は開、電磁弁230は閉、電磁弁235は閉、電磁弁240は開である。電磁弁225、230、235および240の切換は、電子制御装置300によって行われる。第1マニホールド210からの空気は、弁225を通って、例えば、体積が11リットルで、炭素分子ふるいのような適切な吸着媒体250が充填されている第1圧力容器245内へ流れ込む。適当な炭素分子ふるいとして、中国の江蘇省塩城県宝塔町にある中国塩城宝徳化工有限公司(the China Yancheng Baode Chemical Co Ltd, Baota Town, Yancheng, Jiangsu, China)製のCMS−190がある。空気が圧力容器245内の吸着媒体250上に高圧(〜530kPa)で流れるにつれ、酸素が吸着媒体250によって選択的に吸着され、その空気は次第に酸素を失っていく。そして、圧力容器245から第2マニホールド255内へ酸素が欠乏した空気が通る。第2マニホールド255内の少量の空気が、流量絞り260を通って、例えば、体積が11リットルで、また、吸着媒体250で充填されている第2圧力容器246内へ流れ込む。この第2圧力容器246は、開いた電磁弁240を介して排出口295を通って雰囲気へと通気されるので、第2圧力容器246内の圧力は第1圧力容器245内の圧力よりもはるかに低い。第2圧力容器246の途中で、流量絞り260からの空気が、吸着媒体250から吸着された酸素を押し流し、電磁弁240を通ってマフラー290へと流れ、排出口295を通って出て行く。第2マニホールド255からの酸素欠乏空気の大部分は、第1片方向弁265を通って窒素貯槽275内へ流れ込む。
【0019】
所定時間(典型的には1分)経過後、電磁弁225、230、235および240の状態が、電磁弁225が閉、電磁弁230が開、電磁弁235が開、電磁弁240が閉となるように電子制御装置300によって切り替えられる。次に、第1マニホールド210からの空気は、高圧(〜530kPa)で弁235を通って第2圧力容器246内へ流れ込む。空気が第2圧力容器246内の吸着媒体250上に高圧で流れるにつれ、酸素が吸着媒体250によって選択的に吸着され、その空気は次第に酸素を失っていく。そして、第2圧力容器246から第2マニホールド255内へ酸素が欠乏した空気が通る。第2マニホールド255内の少量の空気が、流量絞り260を通って、第1圧力容器245内へ流れ込む。弁230が排出口295に対して開いているため、第1圧力容器245内の圧力は、ここでは第2圧力容器246内の圧力よりもはるかに低くなっている。第1圧力容器245の途中で、流量絞り260からの空気が、第1圧力容器245内の吸着媒体250から吸着された酸素を押し流し、電磁弁230を通ってマフラー290へと流れ、排出口295を通って出て行く。第2マニホールド255からの酸素欠乏空気の大部分は、第2片方向弁270を通って窒素貯槽275内へ流れ込む。
【0020】
所定時間(典型的には1分)経過後、電磁弁225、230、235および240の状態が、電子制御装置300によって再び切り替えられ、このサイクルを繰り返す。数回のサイクル後、窒素貯槽275内の酸素欠乏空気は、酸素を約5体積%未満含有し、主に窒素からなっている。このガスは、出口280を通って適切なガス圧調整および流量制御手段(図示せず)によって取り出すことができる。
【0021】
本明細書に記載した発明は、特に記載されたもの以外の変更、修正、および/または追加を許容し、また、本発明は、以下の請求の範囲内に含まれるこれら全ての変更、修正、および/または追加を包含することが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態による分光システムを概略的に示す図である。
【図2】図1のシステムにおいて使用される窒素発生器を概略的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光源としてマイクロ波誘導プラズマを発生させるためのトーチと、窒素ガスを供給するための発生器であって、プラズマを保持する前記窒素ガスを供給するために前記トーチに接続されている発生器とを備える、前記発生器が大気から前記窒素ガスを発生させることを特徴とする分光システム。
【請求項2】
前記発生器が、大気からの酸素の吸着によって動作することを特徴とする、請求項1に記載の分光システム。
【請求項3】
圧縮された大気を前記発生器へ供給するための空気圧縮機を備える、請求項1または2に記載の分光システム。
【請求項4】
前記発生器が、前記圧縮された大気を通過させる酸素吸着媒体を含む第1圧力容器を備えることを特徴とする、請求項3に記載の分光システム。
【請求項5】
前記第1圧力容器から酸素が欠乏して窒素に富んだ空気が流れ込む別の圧力容器を備え、前記プラズマを保持する前記窒素ガスが、前記別の圧力容器から供給されることを特徴とする、請求項4に記載の分光システム。
【請求項6】
前記発生器が酸素吸着媒体を含む第2圧力容器を備え、かつ、前記発生器が流量制御弁を備え、それによって前記圧縮した大気を、まず、前記第1圧力容器内の前記酸素吸着媒体に所定時間通過させた後、前記別の圧力容器内へ通し、次いで、前記第2圧力容器内の前記酸素吸着媒体に所定時間通過させた後、前記別の圧力容器内へ通すことを特徴とする、請求項5に記載の分光システム。
【請求項7】
前記流量制御弁が、前記圧縮空気を前記第1圧力容器内の前記酸素吸着媒体に通過させている間に、前記第2圧力容器内の前記酸素吸着媒体がその吸着された酸素を取り除くように、また、前記圧縮空気を前記第2圧力容器内の前記酸素吸着媒体に通過させている間に、前記第1圧力容器内の前記酸素吸着媒体がその吸着された酸素を取り除くように、操作可能であることを特徴とする、請求項6に記載の分光システム。
【請求項8】
前記発生器から前記トーチに供給された前記窒素ガスが、約0.1体積%〜約3.0体積%の酸素を含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の分光システム。
【請求項9】
前記窒素が、約0.1体積%〜約2.0体積%の酸素を含有することを特徴とする、請求項8に記載の分光システム。
【請求項10】
前記窒素が、約0.5体積%〜約1.5体積%の酸素を含有することを特徴とする、請求項9に記載の分光システム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−538002(P2008−538002A)
【公表日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503318(P2008−503318)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000423
【国際公開番号】WO2006/102712
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(503002042)ヴァリアン オーストラリア ピーティーワイ.エルティーディー. (5)
【Fターム(参考)】