説明

ガス供給装置

【課題】バイオリアクタに用いられる装置であって、気相部に含まれるガス成分を、発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで処理液中に溶け込ませることを可能とするガス供給装置を提供する。
【解決手段】液体中にガスを溶存させるガス供給装置1Aであって、処理液Sを貯留する貯留槽10と、処理液Sの内部に外周面の一部を除いて浸漬された撹拌器12Aと、撹拌器12Aを撹拌器12Aの長手方向と平行な回転軸Fの周りに回転させる駆動装置14と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡を抑制しつつ反応溶液中に気体(ガス)を溶け込ませるガス供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素反応や微生物を用いた生物反応等を利用して、溶液状態の原料から物質の合成や分解を行う装置、所謂バイオリアクタに関する技術が盛んに開発されている。
【0003】
一般に生物反応は、化学反応のように高温・高圧を必要としないため省エネルギー性に優れること、反応設備を耐熱・耐圧とする必要がないこと、反応に用いる生物種に応じて副反応が少ない反応系を構築できること、などの特長を備えており、工業的に有利な点が多く注目を浴びている。他にも、好気性微生物群を主成分とする活性汚泥を用い、排水中の有機性汚濁を浄化させる設備(活性汚泥槽)が知られており、生活排水や工業排水などを処理する設備として利用されている。
【0004】
これらのバイオリアクタであって、用いる微生物が生物反応において特定の気体を必要とするものは、用いられる原料液や排水などの反応溶液に含まれる溶存ガス成分を生物反応により消費する。例えば、好気性反応では原料液や排水に含まれる溶存酸素を消費し、メタン発酵を行う嫌気性反応では溶存二酸化炭素を消費する。生物反応を継続するためには、このように消費されるガス成分を供給する必要があるため、通常、必要とするガス成分を反応溶液中に吹き込む曝気処理によって溶存ガス濃度を高めることとしている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−7799号公報
【特許文献2】特開2004−141730号公報
【特許文献3】特開2002−59189号公報
【特許文献4】特開平5−177191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法では反応溶液が発泡するおそれがある。このような泡は、反応に用いる微生物を巻き込んで液面に滞留し、反応溶液中での微生物の活動を阻害することがある。例えば、活性汚泥により生活排水の処理をする場面では、排水中に洗剤が含まれていることが多く、曝気処理によって液面に多量の泡が滞留する。屋外の活性汚泥施設では、液面の泡が風で飛ばされ、周囲を汚すおそれがある。
【0007】
このような発泡を抑制するためには、反応溶液に消泡剤を添加する対策が考えられるが、泡の発生を抑制することから曝気のための泡そのものの発生も同時に抑制され、曝気効率が低下する。あるいは、消泡剤を用いることによりランニングコストが増加すること、医薬品のような有用物質生産のためのバイオリアクタでは消泡剤の使用ができないこと、など消泡剤によっては課題が解決できない、または新たな課題が生じる場合がある。
【0008】
また、曝気によって反応溶液中に放たれた多量の気泡は、液体中を激しく流動させながら上昇するため、細胞培養に用いるバイオリアクタでは、培養している細胞が激しい液体の流動によって損傷するおそれがある。損傷した細胞は死滅することが多く、生産効率の低下につながる。
【0009】
さらに、上記方法では、液面下にガスを供給するためにガスを加圧する必要があり、加圧のためのエネルギーが必要となる。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、バイオリアクタに用いられる装置であって、発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで、処理液中にガスを溶け込ませることを可能とするガス供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明のガス供給装置は、液体中にガスを溶存させるガス供給装置であって、前記液体を貯留する貯留槽と、前記液体の内部に外周面の一部を除いて浸漬された筒状部材と、前記筒状部材を該筒状部材の長手方向と平行な回転軸の周りに回転させる駆動装置と、を有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、筒状部材が回転する際、筒状部材の表面は、液面上方のガスとの摩擦により多くのガスを巻き込みながら液体内に浸入する。あるいは、液体との摩擦によって多くの液体を液面の上方へ引き上げながら、液面上方へ露出することとなる。
【0013】
また、筒状部材の回転により液面を波立たせると、液面では気液接触面が増えるため液体へのガス成分の溶け込みが促進される。さらに、筒状部材は内部が中空であるため、筒状部材を配設することによる貯留槽の貯留量の減少を極力抑えることができる。
【0014】
これらの作用が合わさることにより、液体にガスを供給する効率が高くなり、液面上方のガスを加圧することなく効率的に液体に溶け込ませることが可能となる。そのため、発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで液面上方のガスを液体中に溶け込ませることが可能なガス供給装置とすることができる。
【0015】
本発明においては、前記回転軸が前記液体の液面と平行に設定されていることが望ましい。
この構成によれば、筒状部材が液面から長手方向で露出するため、筒状部材と液面上方のガスとが広い面積で接触する。そのため、筒状部材の表面と液面上方のガスとの摩擦が増え、液体中に効率的にガスを供給することができる。
【0016】
本発明においては前記筒状部材の外周面には、前記筒状部材の回転方向に延在する凸条部が設けられていることが望ましい。
この構成によれば、筒状部材の外周面において表面積が増えるため、筒状部材の表面と液面上方のガスとの摩擦が増え、効率的にガスを供給することができる。
【0017】
本発明においては、前記筒状部材の内周面の一部が、前記液体の液面から露出していることが望ましい。
この構成によれば、筒状部材の外周面に加え、内周面も液面上方のガスと接触するため、内周面が液体の液面を通過する際にも液体へのガス供給が行われ、効率的にガス供給を行うことができる。
【0018】
本発明においては、前記筒状部材の内周面には、前記筒状部材の回転方向に延在する凸条部を有することが望ましい。
この構成によれば、筒状部材の内周面において表面積が増えるため、筒状部材の表面と液面上方のガスとの摩擦が増え、効率的にガスを供給することができる。
【0019】
本発明においては、前記筒状部材は、前記回転軸に直交する平面による断面形状が円環であることが望ましい。
この構成によれば、筒状部材の表面の液体への浸入、および液中からの露出が滑らかな動きとなり、発泡を抑制して液体中にガスを供給することができる。
【0020】
本発明においては、前記駆動装置は、前記筒状部材に挿通され、前記筒状部材を内部から支えて吊り下げる軸部と、前記軸部を回転させるモーターと、を有することが望ましい。
この構成によれば、筒状部材の構成を簡略化し、簡単な構成の駆動装置とすることができる。
【0021】
本発明においては、前記軸部は、前記液体の液面の上方に配置されていることが望ましい。
この構成によれば、軸部が液面よりも上方に配置されているため、連続運転を行ったとしても軸部が液体に浸漬することにより生じ得る錆などによる劣化が抑制され、信頼性の高いガス供給装置とすることができる。
【0022】
本発明においては、前記筒状部材は、前記筒状部材の周方向に沿って設けられた、極性が交互に反転する磁化領域を有し、前記駆動装置は、前記磁化領域に対向する電磁石を有し、前記電磁石は、通電して生じる磁界の極性が時間的に交互に反転する様に電力が供給されるが望ましい。
この構成によれば、筒状部材を回転させる駆動力がコイルから発生する磁力であり、筒状部材の駆動装置であるコイルが、液体に触れない構成とすることができる。そのため、液体に浸漬することにより生じ得る破損を抑制し、信頼性の高いガス供給装置とすることができる。
【0023】
本発明においては前記筒状部材の回転速度を制御する制御部と、前記液体に溶存する前記ガスの濃度を測定する測定手段と、を有し、前記制御部は、前記測定手段により測定される前記ガスの濃度が所定の目標値に近づくように前記筒状部材の回転速度を制御することが望ましい。
この構成によれば、液体中のガス濃度を所望の濃度に維持することが容易となる。
【0024】
本発明においては、前記貯留槽の底部は、前記回転軸に交差する平面による断面形状が、半円筒形状であることが望ましい。
この構成によれば、筒状部材の回転を阻害することなく、底部の端で液体の対流が停滞したり、固形物が堆積したりする箇所を無くすことができる。
【0025】
本発明においては、前記貯留槽の上部は蓋で閉じられており、前記蓋と前記液体の液面との間の空間に、前記ガスを供給する供給手段を有することが望ましい。
この構成によれば、蓋と液体の液面との間の空間に供給されたガスの濃度を高く維持し、効率的に液体中にガスを供給することができる。例えば該空間に酸素を供給する場合、酸素濃度を大気中よりも高濃度に保つことができるため、効率良く液体に酸素を供給することができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで、液体中にガスを溶け込ませることを可能とするガス供給装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガス供給装置の説明図である。
【図2】第1実施形態のガス供給装置の要部を示す斜視図である。
【図3】ガス供給装置の変形例を示す説明図である。
【図4】ガス供給装置の変形例を示す説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るガス供給装置の説明図である。
【図6】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1実施形態]
以下、図1〜図4を参照しながら、本発明の実施形態に係るガス供給装置について説明する概略断面図である。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0029】
図1,2は、本実施形態のガス供給装置の説明図であり、図1はガス供給装置1Aについての断面図、図2はガス供給装置1Aの要部を示す概略斜視図である。
【0030】
図1,2に示すように、本実施形態のガス供給装置1Aは、ガスを供給処理する対象である処理液(液体)Sを貯留する貯留槽10と、自身を貫通する回転軸F回りを回転することで貯留槽10内の処理液Sを撹拌する撹拌器(筒状部材)12Aと、撹拌器12Aを回転させる駆動装置14と、を有している。
【0031】
処理液Sは、生物反応によって消費される原料と、該原料を代謝する生物反応を起こす菌類などの生物や培養される動物細胞などが含まれるものである。
【0032】
貯留槽10は、上部10aに蓋がされ底部10bが略半円筒形状を呈する平面視矩形の容器である。貯留槽10の対向する側壁には貫通孔101,102が設けられており、両貫通孔を貫通して駆動装置14の一部であるシャフト141が設けられている。貫通孔101には、処理液Sの原液を貯留槽10内に供給する供給配管16が設けられている。供給配管16は、貯留槽10の長手方向および短手方向の中央付近に端部が設置され、貯留槽10の中央付近に処理液Sの原液を供給するように設けられている。
【0033】
また、貫通孔101または貫通孔102からは、処理液Sに供給するガスが貯留槽10内の気相部Gに供給される。図では、ガスを供給する供給装置(供給手段)17が貫通孔101を介してガスを供給することとしている。供給するガスの種類は、処理液Sに供給するガスに種類に応じて種々選択することができ、例えば処理液Sが好気性細菌の培養に用いる培養液である場合、空気や酸素を選択することができる。本実施形態では、供給装置17から酸素を供給することとしている。
【0034】
貯留槽10は上部10aに蓋がされているため、気相部Gに供給されたガス濃度を高く維持することができる。例えば処理液Sが好気性細菌の培養に用いる培養液である場合、気相部Gに酸素を供給すると、気相部Gの酸素濃度を大気中よりも高濃度に保つことができるため、効率良く処理液Sに酸素を供給することができ、細菌の培養を効率的に行うことができる。その意味において、供給するガスが空気である場合、貯留槽10の上部10aに蓋は不要である。もちろん、埃などの異物混入防止のため、貯留槽10に蓋を設けることとしても構わない。
【0035】
貯留槽10の底部10bは、半円筒形状に設計されており、撹拌器12Aの回転軸Fに直交する方向に端部が丸くなっている。このような底部形状とすることで、底部の端で対流が停滞したり、固形物が堆積したりすることを防いでいる。もちろん、底部の形状は丸く無くても良い。
【0036】
さらに、貯留槽10の底部10bには、貯留槽10から処理液Sを排出するための排出口109が設けられ、排出配管19が接続されている。排出配管19は、貯留槽10の底部10bにおいて長手方向および短手方向の中央付近に設けられている。貯留槽10内でガスが供給された処理液Sは、排出配管19を介して下流の設備へと排出される。
【0037】
貯留槽10の平面視中央付近に供給された処理液の原液は、撹拌器12Aによって撹拌されながら撹拌器12Aの端部を介して、同じく貯留槽10の平面視中央付近に設けられた排出口109から排出される。そのため、例えば貯留槽10の側壁に処理液Sの原液の供給口が設けられている場合や、排出口109が側壁近くに設けられている場合と比べ、
貯留槽内の処理液は、長い流動経路を経て排出されるため、長時間に渡って撹拌器12Aで撹拌され、多くの酸素が供給されることとなる。
【0038】
貯留槽内に浮遊する固形分により排出口109が閉塞しやすい場合など、必要に応じて排出配管19側から処理液を流す構成としても良い。この場合、本実施形態において貯留槽10内から処理液を排出するために用いている排出口109から処理液を供給することとなるため、貯留槽10内から気体供給処理を行った処理液を排出するために、排出口109や排出配管19とは別の排出口や排出配管を適宜設けると良い。
【0039】
ガス供給装置を構成する撹拌器12Aは、回転軸Fと直交する平面での断面形状が円環である筒状の部材であり、図では両端が開口した中空の円筒状の凝集器を示している。撹拌器12Aは、貯留槽10内において処理液Sの液面から少なくとも一部が露出し、残る部分が処理液Sに浸漬する状態となるように配置されている。本実施形態では、撹拌器12Aの外壁および内壁が処理液Sの液面に接するよう撹拌器12Aが液面から露出しているが、少なくとも外壁の一部が液面から露出していれば良い。
【0040】
撹拌器12Aの回転軸Fは、略水平方向(貯留槽10に貯留される処理液Sの液面と平行な方向)に設定されている。撹拌器12Aは、回転軸Fまわりを円周方向に回転することで、処理液Sと貯留槽10の気相部Gとの界面を撹拌し、気相部Gのガスを処理液Sに供給する。回転軸Fは、水平方向から傾いて設定されていても良い。
【0041】
回転軸Fに交差する方向での撹拌器12Aと貯留槽10の内壁との距離は、処理液Sの内容によって適した距離を選択することとする。例えば、撹拌器12Aと貯留槽10の内壁との隙間が狭くなるほど、当該隙間では高い剪断力が生じ激しく処理液を撹拌する。そのため、処理液S内に動物細胞が含まれ、該動物細胞を培養して増やす場合、高い剪断力によって動物細胞が損傷するおそれが生じるため、隙間を広く設定するほうが良い。逆に、剪断力によって処理液の内容物が損傷するおそれがない場合には、隙間を狭くしておくと、高い剪断力によって多くのガス成分(例えば酸素)が処理液に供給されることが期待される。
【0042】
駆動装置14は、撹拌器12Aの内側を貫通するシャフト(軸部)141と、シャフト141の複数箇所(図では2箇所)に設けられたローラー142と、シャフト141の端部に設けられ、シャフト141を軸周りに回転させるモーター143と、を有している。
【0043】
シャフト141は、撹拌器12Aの内壁にローラー142を介して接しており、撹拌器12Aを内部から支えて吊り下げている。シャフト141が回転することにより、ローラー142と撹拌器12Aの内壁との間の摩擦を生じさせ、該摩擦力によってシャフト141の回転方向と同方向に撹拌器12Aを回転させるようになっている。
【0044】
シャフト141は液面と平行に配置されている。また、液面よりも上方に配置されているため、連続運転を行ったとしても処理液Sに浸漬することにより生じ得る錆などの破損が抑制される。
【0045】
このような構成のガス供給装置1Aでは、気相部Gに露出する撹拌器12Aの表面が、回転により処理液Sに侵入する際、撹拌器12Aの表面は、気相部Gのガス成分との摩擦によって多くのガス成分を巻き込みながら処理液S内に浸入する。また、撹拌器12Aの表面が処理液S内から気相部Gへと出る際には、撹拌器12Aの表面は、処理液Sとの摩擦によって多くの処理液Sを気相部Gへ引き上げながら気相部Gへと露出する。
【0046】
さらに、撹拌器12Aは回転軸に直交する平面での断面形状が円環であり、円環の中心と撹拌器12Aの回転軸とが一致しているため、撹拌器12Aの回転による撹拌器表面の処理液Sへの浸入、処理液Sからの露出は滑らかな動きとなり、発泡を起こさずに液面を波立たせる。すると、液面では気液接触面が増えることにより、処理液Sへのガス成分の溶け込みが促進される。
【0047】
これらの作用が合わさることにより、撹拌器12Aが処理液S内に浸入し処理液Sを撹拌すると、処理液Sにガス成分を供給する効率が高くなり、気相部Gのガス成分を加圧することなく効率的に処理液Sに溶け込ませることが可能となる。
【0048】
ガス供給装置1Aは、他にも、処理液Sの溶存ガス濃度を測定する測定装置(測定手段)18aを有している。このような測定装置18aとしては、例えば処理液Sの溶存酸素濃度を測定するための溶存酸素計を例示することができる。このような測定装置18aの測定結果は、撹拌器の回転を制御する制御部18に伝えられ、制御部18は溶存酸素濃度を所望の目標値とするために撹拌器の回転を制御する。
【0049】
例えば、溶存酸素濃度が目標値より低い場合、気相部Gの酸素をより多く処理液Sに供給するため、制御部18は、撹拌器12Aの角速度を早めることにより、処理液Sの液面をより波立たせ、酸素の溶解が促進されるように制御する。逆に、溶存酸素濃度が目標値より高い場合には、制御部18は、撹拌器12Aの角速度を遅くし、または停止させることにより、処理液Sへの酸素の溶解を緩やかにするように制御する。
【0050】
以上のような構成のガス供給装置1Aによれば、気相部Gに含まれるガス成分を、発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで反応溶液中に溶け込ませることが可能となる。
【0051】
なお、本実施形態においては、ローラー142と撹拌器12Aの内壁との摩擦によってシャフト141の回転を撹拌器12Aに伝え、撹拌器12Aを回転させることとしたが、これに限らない。他にも、ローラー142に代えて歯車を設けるとともに、該歯車と噛み合う歯車を撹拌器12Aの内壁にも設けることによりシャフト141の回転を撹拌器12Aに伝えることとしても良い。
【0052】
また、本実施形態においては、液面の上方に配置されたシャフト141の回転を撹拌器12Aに伝えることで撹拌器12Aを回転させることとしたが、これに限らず、撹拌器12Aを支える支持軸を撹拌器12Aの回転中心に重なる位置に設け、この支持軸を回転させることで撹拌器12Aを回転させることとしても良い。この場合、液面が支持軸よりも上方に位置する場合には支持軸が処理液に浸漬されることとなるが、気相部Gのガス成分を発泡を抑制しつつ処理液Sに溶け込ませるという効果は得ることができる。
【0053】
また、本実施形態のガス供給装置1Aは、撹拌器12Aを一つ備えることとしたが、これに限らず、撹拌器の回転軸に交差する方向に複数の撹拌器を配列する構成としても構わない。この場合、大型化に適した構成となる。例えば、下水処理施設のような大型の貯留槽内を隈無く撹拌し、効果的にガス供給を行って生物反応をおこさせることができる。
【0054】
(変形例)
また、発泡を抑えながら気相部のガス成分を処理液Sに溶け込ませるために、筒状の撹拌器を用いて撹拌するという本発明の趣旨から、撹拌器の形状や撹拌器を回転させる装置を変更可能であることは明らかである。以下、いくつかの変形例を説明する。図3,4は撹拌器の変形例を示す図である。
【0055】
図3(a)に示す撹拌器12Bは、外周面に円周方向に沿って設けられた複数の凸条部121を有している。その断面図としては、図3(b)に示すように、撹拌器12Bは内部には凹凸形状が設けられておらず、図1で示した撹拌器12Aと同様に、撹拌器12Bの内壁にローラー142が接し撹拌器12Bを内部から支えて吊り下げている。
【0056】
その他の変形例として、図4に示すように、撹拌器の内周面に円周方向に沿って設けられた複数の凸条部122を有する撹拌器12Cとしても良く(図4(a)、撹拌器の内周面および外周面に複数の凸条部123が設けられた撹拌器12Dとしても良い(図4(b)。
【0057】
このように撹拌器の表面に凸条部を有する構成とすると、撹拌器表面と気相部でのガス成分との接触面積が広がる。このように接触面積が拡大することにより、撹拌器の気相部に露出する面が、回転により処理液に侵入する際、撹拌器の表面は、ガス成分との摩擦によって多くのガス成分を巻き込みながら処理液を撹拌する。そのため、ガス成分を供給する効率が高くなり、効率良くガス成分を処理液に溶け込ませることが可能となる。
【0058】
図3,4に示した凸条部は、延在方向に直交する断面の形状を適宜選択することができ、用いる処理液Sの種類に応じて適した形状を選択することができる。例えば、処理液Sが動物細胞を用いた培養液であり、ガス供給装置1Aを用いて細胞培養を行う場合には、培養する細胞を破損しないために、凸条部の断面形状が丸みを帯びた曲線(例えば放物線や半円形状)であることが望ましい。
【0059】
その他、撹拌器の形状の変形例として、撹拌器の一端側の直径と他方側の直径とが異なる中空の円錐台形状とすることもできる。このような撹拌器を用いる場合、貯留槽の底部形状を撹拌器の形状に適宜合わせても良い。その場合、底部に設けられる排出口は、底部の最深部に設けることとすると、貯留する処理液の払い出しを完全に行うことができるため好ましい。
【0060】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係るガス供給装置1Bの説明図であり、撹拌器の回転軸に直交する断面での断面図である。本実施形態のガス供給装置1Bは、第1実施形態のガス供給装置1Aと一部共通しており、撹拌器の構成が異なっている。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0061】
ガス供給装置1Bが有する撹拌器12Eは、円周方向に交互に極性が反転する状態で永久磁石(磁化領域)が設けられている。図では、撹拌器12Eの外側に向けて、N極の磁性を示す永久磁石と、S極の磁性を示す永久磁石と、が交互に配列している様子をN、Sの文字を交互に繰り返すことで示している。また、貯留槽10の外側には、永久磁石に対向して、通電することで磁性を有する電磁石15が設置されている。
【0062】
電磁石15には、電磁石15に通電して生じる磁界の極性が、撹拌器12Eに設けられた永久磁石の磁界の極性と反撥し合う極性となる様に時間的に交互に反転する様に電力が供給される。これにより、撹拌器12Eは、貯留槽10内でモーターのように回転軸F回りを円周方向に回転し、処理液Sを撹拌する。この場合、撹拌器12Eが処理液に浮かぶように撹拌器12Eの材料や構造を選択することにより、撹拌器12Eを支える軸部が不要となる。このような撹拌器12Eとしては、撹拌器12Eの構造材に発泡材料を用いる構成を例示することができる。
【0063】
以上のような構成のガス供給装置1Bによれば、撹拌器12Eを回転させるための駆動力が電磁石15から発生する磁力であり、駆動装置である電磁石15が処理液Sに触れない構成とすることができる。そのため、処理液Sに浸漬することにより生じ得る錆などによる劣化を抑制し、信頼性の高いガス供給装置2Bとすることができる。
【0064】
なお、撹拌器の形状については、第1実施形態で示したように表面に凸状部を有する構成とすることができる。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を示しながら、本発明を更に具体的に説明する。以下に示す実施例では、小型のガス供給容器として丸底フラスコを用いたモデル実験を行い、本発明により容器内に貯留した処理液に対し効率的にガスを供給することができることについて確認を行った。本実施例では、回転するフラスコが本発明の撹拌器に相当し、フラスコの内壁が本発明の撹拌器の内壁に相当する。
【0067】
500ml丸底フラスコに水を入れてロータリーエバポレータに取り付け、フラスコの気相部の酸素濃度が60%となるように酸素を供給しつつ25℃に保温して回転させ、フラスコ内の水へ溶け込む酸素量を確認した。実験は、水量を200mlと250mlの2水準、回転速度を20,40,80,120,160rpmの5水準で行った。水へ溶け込む酸素量については、総括酸素移動容量係数(KLa)を指標として用い評価した。総括酸素移動容量係数KLaは、以下の式1に基づいて算出した。
【0068】
【数1】

KLa:総括酸素移動容量(1/hr)、C:tmin後の溶存酸素濃度(mg/l)、C:tmin後の溶存酸素濃度(mg/l)、C:飽和溶存酸素濃度(mg/l)
【0069】
溶存酸素濃度は、蛍光式溶存酸素計(LDO-HQ10、HACH社製)を用いて測定した。また、実験には水道水を用い、実験開始前に予めNバブリングを行って、溶存酸素計による検出値として溶存酸素がゼロを示すことを確認してから試験を行った。
【0070】
実験の結果、いずれの水準においてもフラスコの回転によって気相部の酸素が水中に溶け込んでいることが確認された(図6参照)。また、フラスコが回転している間、液面は多少波立つが発泡は見られなかった。そのため、本発明によって処理液を発泡させることなく、処理液へのガス供給が可能であることが確かめられた。
【符号の説明】
【0071】
1A,1B…ガス供給装置、10…貯留槽、10a…上部、10b…底部、12A〜12E…撹拌器(筒状部材)、14…駆動装置、15…電磁石、17…供給装置(供給手段)、18…制御部、18a…測定装置(測定手段)、121,122,123…凸条部、141…シャフト(軸部)、143…モーター、F…回転軸、S…処理液、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中にガスを溶存させるガス供給装置であって、
前記液体を貯留する貯留槽と、
前記液体の内部に外周面の一部を除いて浸漬された筒状部材と、
前記筒状部材を該筒状部材の長手方向と平行な回転軸の周りに回転させる駆動装置と、を有することを特徴とするガス供給装置。
【請求項2】
前記回転軸が前記液体の液面と平行に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のガス供給装置。
【請求項3】
前記筒状部材の外周面には、前記筒状部材の回転方向に延在する凸条部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のガス供給装置。
【請求項4】
前記筒状部材の内周面の一部が、前記液体の液面から露出していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項5】
前記筒状部材の内周面には、前記筒状部材の回転方向に延在する凸条部を有することを特徴とする請求項4に記載のガス供給装置。
【請求項6】
前記筒状部材は、前記回転軸に直交する平面による断面形状が円環であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項7】
前記駆動装置は、前記筒状部材に挿通され、前記筒状部材を内部から支えて吊り下げる軸部と、
前記軸部を回転させるモーターと、を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項8】
前記軸部は、前記液体の液面の上方に配置されていることを特徴とする請求項7に記載のガス供給装置。
【請求項9】
前記筒状部材は、前記筒状部材の周方向に沿って設けられた、極性が交互に反転する磁化領域を有し、
前記駆動装置は、前記磁化領域に対向する電磁石を有し、
前記電磁石は、通電して生じる磁界の極性が時間的に交互に反転する様に電力が供給されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項10】
前記筒状部材の回転速度を制御する制御部と、
前記液体に溶存する前記ガスの濃度を測定する測定手段と、を有し、
前記制御部は、前記測定手段により測定される前記ガスの濃度が所定の目標値に近づくように前記筒状部材の回転速度を制御することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項11】
前記貯留槽は、前記回転軸に交差する平面による断面形状が、半円筒形状であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項12】
前記貯留槽の上部は蓋で閉じられており、
前記蓋と前記液体の液面との間の空間に、前記ガスを供給する供給手段を有することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−183348(P2011−183348A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53735(P2010−53735)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】