説明

ガス処理方法、及びガス処理装置

【課題】混合ガス中の酸素によるアミンの熱安定性塩の生成を防ぐとともに、廃水に含まれるアンモニアを有効利用する。
【解決手段】吸収液を用いて硫化水素を吸収する吸収塔10と、硫化水素及びアンモニアを含む廃水からアンモニア又は硫化水素を分離する少なくとも1つのストリッピング塔20とを用いて、ガス中の硫化水素を除去するガス処理方法であって、吸収塔10で、可燃性ガスと硫化水素と酸素とを含む混合ガスを、吸収液としてのアンモニア含有水に接触し且つアンモニアにより硫化水素を中和して、硫化水素含量を低下させた混合ガスを外部に放出する工程と、ストリッピング塔20で、硫化水素を吸収した吸収液と共に廃水を加熱して、硫化水素を吸収した吸収液及び廃水から硫化水素ガスを放出する工程と、ストリッピング塔20の還流の一部を、吸収液として、吸収塔10に供給する工程と、を含むガス処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性ガス、酸素、及び硫化水素を含む混合ガスから硫化水素を取り除くガス処理方法、及びガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス井は、硫化水素、硫化物、二硫化物及びチオフェンのような硫黄化合物を含有する天然ガスを生成する。また、原油も硫化物を含むため、原油を水素分解すると、軽質ガスと共に硫化水素が発生する。このように、天然ガス或いは軽質ガスには、硫化水素が多く含まれるため、それらのガスの使用目的によっては、硫化水素を除去する必要がある。
【0003】
また、硫化水素をそのまま燃焼すると亜硫酸ガス(SO)を排出することになるが、近年の環境規制強化のために、放出ガス中の亜硫酸ガスの排出環境基準は厳格となってきている。
【0004】
そのため、天然ガスを精製するガスプラントや、原油を精製する石油精製プラントでは、硫化水素をガスから吸収分離して、高濃度の硫化水素(HS)をクラウス法により単体硫黄として回収する硫黄回収装置(SRU)を有する。
【0005】
ガスからの硫化水素の吸収分離には、硫化水素吸収液体としてアミン溶液が用いられる。アミン溶液とは、エタノールアミン、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)等である。例えば、特許文献1に記載の硫化水素の吸収分離は、アミン溶液とガスと接触させて硫化水素及び二酸化炭素を除去し、精製ガスと、硫化水素、二酸化炭素(CO)に富む吸収性液体を得る工程、硫化水素、二酸化炭素に富む吸収性液体加熱、脱圧して二酸化炭素に富む熱フラッシュガスと、硫化水素に富む吸収性液体とを得る工程、硫化水素に富む吸収性液体を高温でストリッピングガスと接触させて、吸収性液体から硫化水素を分離する工程を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−534758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アミンは、酸素と熱安定性塩を生成するので、ガス内に酸素が含まれている場合には、アミン溶液の劣化や、熱安定性塩による装置腐食を招く。
【0008】
1つの側面では、本発明は、アンモニアを含有するストリッピング塔の還流を、可燃性ガスと硫化水素と酸素とを含む混合ガスから硫化水素を除去するための吸収液として利用して、混合ガス中の酸素によるアミンの熱安定性塩の生成を防ぐとともに、廃水に含まれるアンモニアを有効利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する手段は、以下のようなものである。
【0010】
(1)吸収液を用いて硫化水素を吸収する吸収塔と、硫化水素及びアンモニアを含む廃水からアンモニア又は硫化水素を分離する少なくとも1つのストリッピング塔とを用いて、ガス中の硫化水素を除去するガス処理方法であって、
前記吸収塔で、可燃性ガスと硫化水素と酸素とを含む混合ガスを、吸収液としてのアンモニア含有水に接触し且つ前記アンモニアにより前記硫化水素を中和して、前記硫化水素含量を低下させた混合ガスを外部に放出する工程と、
前記ストリッピング塔で、前記硫化水素を吸収した吸収液と共に前記廃水を加熱して、前記硫化水素を吸収した吸収液及び前記廃水から硫化水素ガスを放出する工程と、
前記ストリッピング塔の還流の一部を、前記吸収液として、前記吸収塔に供給する工程と、を有することを特徴とするガス処理方法。
(2)前記ストリッピング塔は、第1のストリッピング塔と、第2のストリッピング塔で構成され、
前記第1のストリッピング塔で、前記硫化水素を吸収した吸収液と共に前記廃水を加熱して、前記硫化水素を吸収した吸収液及び前記廃水から硫化水素ガスを放出する工程と、
前記第1のストリッピング塔で、前記硫化水素ガスを分離した廃水を、前記第2のストリッピング塔に供給する工程と、
前記第2のストリッピング塔で、前記硫化水素ガスを分離した廃水を加熱して、前記廃水からアンモニアガスを放出する工程と、
前記第2のストリッピング塔の還流の一部を、前記吸収液として、前記吸収塔に供給する工程と、を有する(1)に記載のガス処理方法。
(3)前記吸収塔の上部から、減圧蒸留装置のスチームイジェクタの凝縮器から排出されるスチームコンデンセートを供給して、前記硫化水素含量を低下させた混合ガスと接触させて、当該混合ガスに含まれるアンモニアガスを、前記スチームコンデンセートに溶解する(1)又は(2)に記載のガス処理方法。
(4)ガス中の硫化水素を除去するガス処理装置であって、
可燃性ガスと硫化水素と酸素とを含む混合ガスを、吸収液としてのアンモニア含有水に接触し且つ前記アンモニアにより前記硫化水素を中和して、前記硫化水素含量を低下させた混合ガスを外部に放出する吸収塔と、
前記硫化水素を吸収した吸収液と共に前記廃水を加熱して、前記硫化水素を吸収した吸収液及び前記廃水から硫化水素ガスを放出し、且つ、還流の一部を、前記吸収液として、前記吸収塔に供給するストリッピング塔と、を備えることを特徴とするガス処理装置。
(5)前記ストリッピング塔は、第1のストリッピング塔と、第2のストリッピング塔で構成され、
前記第1のストリッピング塔は、前記硫化水素を吸収した吸収液と共に前記廃水を加熱して、前記硫化水素を吸収した吸収液及び前記廃水から硫化水素ガスを放出し、且つ、前記硫化水素ガスを分離した廃水を、前記第2のストリッピング塔に供給し、
前記第2のストリッピング塔は、前記硫化水素ガスを分離した廃水を加熱して、前記廃水からアンモニアガスを放出し、還流の一部を、前記吸収液として、前記吸収塔に供給する、を備える(4)に記載のガス処理装置。
(6)前記吸収塔は、減圧蒸留装置のスチームイジェクタの凝縮器から排出されるスチームコンデンセートを、前記硫化水素含量を低下させた混合ガスと接触させて、当該混合ガスに含まれるアンモニアガスを、前記スチームコンデンセートに溶解する(4)又は(5)に記載のガス処理装置。
【発明の効果】
【0011】
アンモニアを含有するストリッピング塔の還流を、可燃性ガスと硫化水素と酸素とを含む混合ガスから硫化水素を除去するための吸収液として利用して、混合ガス中の酸素によるアミンの熱安定性塩の生成を防ぐとともに、廃水に含まれるアンモニアを有効利用する。そのため、アミンを利用する場合などに比べて、アミン溶剤を不要にするとともに、石油精製プラントなどから排出される混合ガス処理に要する電気、蒸気等のユーティリティを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ガス処理装置の第1例を示す図である。
【図2】ガス処理装置の第2例を示す図である。
【図3】アンモニアを含有する廃水を供給する脱硫装置の一例を示す図である。
【図4】石油精製プラントの概要を示す図である。
【図5】ガス処理装置の第1適用例を示す図である。
【図6】ガス処理装置の第2適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ガス処理設備>
[第1例]
図1を参照して第1例に係るガス処理設備1aについて説明する。ガス処理設備1aは、吸収塔10、廃水ストリッピング塔20を備える。吸収塔10は、吸収液を用いて硫化水素を吸収し、廃水ストリッピング塔20は、硫化水素及びアンモニアを含む廃水からアンモニア又は硫化水素を分離するとともに、還流の一部を、吸収液として再利用する。
【0014】
A.吸収塔
吸収塔10は、混合ガス供給ライン111、精製ガス排出ライン112、硫化アンモニウム廃水排出ライン113、水供給ライン114、及び吸収液供給ライン115と接続している。また、吸収塔10は、底部にあるポンプ13と配管を介して接続し、内部に、気液接触を促進する接触部12A、12Bを有する。
【0015】
吸収塔10の下部側に設けられた混合ガス供給ライン111から供給される混合ガスは、吸収液供給ライン115から供給される吸収液と、吸収塔10内部で接触する。混合ガスは、メタン、エタンなどの炭化水素を含む可燃性ガスと硫化水素(HS)と酸素(O)とを含んでいる。混合ガスは、例えば、石油精製プラントの内部で排出されるガスである。
【0016】
吸収液は、アンモニア(NH)と硫化水素とが溶解した水溶液である。アンモニアと硫化水素は、水中では、中和して、硫化アンモニウム((NHS)を生成する。当該中和反応は、下記(1)式で示される。
2HS+NH→(NHS …(1)
吸収液は、アンモニウムが、上記(1)式で示す化学量論において、硫化水素より多い状態であり、言い換えれば、アンモニアによって、アルカリ性の状態にある。
【0017】
混合ガスと吸収液の接触により、混合ガス中の硫化水素は、吸収液内のアンモニアと中和反応して、硫化アンモニウムになる。吸収液内のアンモニアは、混合ガス内の硫化水素を吸収するために、混合ガス中の硫化水素の物質流量とマスバランスを合わせた物質流量になる。例えば、混合ガス中の硫化水素に合わせて、吸収液中のアンモニア濃度、及び/又は、吸収液の流量になるように、ストリッピング塔で、吸収液が回収される。
【0018】
上記(1)式に示す反応が進行する条件であれば、吸収塔10内の温度条件、圧力条件は特定の範囲内の値に限定されるものではないが、例えば吸収塔10の塔底の温度が10〜100℃の温度範囲、吸収塔10の塔頂圧力が0〜0.5MPaAの圧力範囲にて吸収が行われる。この運転条件は、従来のアミンを使用したプロセスと比較して、非常に広いものである。本プロセスを採用することにより、吸収塔1の設計により自由度を持たせ、製油所設備の全体最適化を図ることができる。
【0019】
接触部12Bは、混合ガスと、吸収液との接触効率を高める。接触部12Bは、例えば、充填物、又は、トレイである。
【0020】
上記中和反応により、混合ガス内の硫化水素濃度が低減され、可燃性ガスとOとを含む精製ガスが生成される。精製ガスは、吸収塔10の塔頂部に設けられた精製ガス排出ライン112より排出される。また、上記中和反応により、硫化アンモニウムに富む硫化アンモニウム含有水は、吸収塔10の塔底部に設けられた廃水排出ライン113より排出され、ポンプ13により、廃水ストリッピング塔20に供給される。
【0021】
なお、吸収塔10は、吸収塔10の上部側に設けられた水供給ライン114から供給される水を、精製ガスと接触させてもよい。精製ガスを水と接触させることで、混合ガスに混入した飽和状態にあるアンモニアガスも、廃水側に吸収させ、精製ガス中から取り除くことができる。
【0022】
さらに、精製ガスを水と接触させることで、未反応の硫化水素を水に溶解させて、精製ガス内の硫化水素含量を低下させることもできる。よって、吸収液内のアンモニアは、混合ガス内の全ての硫化水素から硫化アンモニウムを生成するための化学量論量より小さくすることができ、吸収塔10の上部側に設けられた水供給ライン114から水を供給することで、中和反応に必要なアンモニア量を減らすこともできる。
【0023】
接触部12Aは、水と、精製ガスとの接触効率を高める。接触部12Aは、例えば、充填物、又は、トレイである。
【0024】
B.廃水ストリッピング塔
廃水ストリッピング塔20は、廃水供給ライン121、廃水排出ライン122、硫化水素放出ライン123、及びサイドリフラックスライン124と接続している。また、廃水ストリッピング塔20は、その塔底部にスチームヒーターなどのリボイラ24を備えている。
【0025】
廃水供給ライン121は、その上流において、廃水排出ライン113、及び、脱硫廃水供給ライン120と接続する。
【0026】
廃水ストリッピング塔20は、石油精製プラントなどに設けられた各種の脱硫装置から排出され、硫化アンモニウムを含む脱硫廃水と、吸収塔10から送り出された硫化アンモニウム含有水を、硫化水素ガス、アンモニアガスと若干のアンモニアを含む水とに解離する。なお、脱硫廃水の詳細は、図3を用いて後述する。
【0027】
廃水ストリッピング塔20は、廃水排出ライン113及び脱硫廃水供給ライン120を介して、脱硫廃水及び硫化アンモニウム含有水を受け取る。アンモニアは、硫化水素よりも、水への溶解度がはるかに大きい。例えば、アンモニアは、89.9g/100cm(HO、0℃)であるのに対して、硫化水素は、0.25g/100cm(HO、40℃)である。したがって、脱硫廃水及び硫化アンモニウム含有水を加熱すると、水中の硫化水素ガスの大部分がガス化し、硫化水素に対して少ないアンモニアがガス化する。廃水ストリッピング塔20の塔底部から排出される水は、硫化水素が取り除かれ、若干のアンモニアを含む水である。廃水ストリッピング塔20の塔低部の廃水排出ライン122から排出されるアンモニア含有水は、活性汚泥槽などの廃水処理設備(WWT)へと送られる。廃水ストリッピング塔20は、例えば加熱ライン124の出口の温度が100〜150℃の温度範囲、廃水ストリッピング塔20の塔頂圧力が0〜0.5MPaAの圧力範囲で行われる。
【0028】
廃水ストリッピング塔20で解離した硫化水素及びアンモニアを含むサワーガスは廃水ストリッピング塔20の頭頂部に設けられたサワーガス放出ライン123より排出され硫黄回収装置へ送られ、硫化水素は、液状硫黄として回収され、アンモニアは燃焼して、大気に放出される。
【0029】
廃水ストリッピング塔20は、硫化水素の精留効果を高めるために、廃水ストリッピング塔20から抜き出したリフラックス(環流)をクーラー22により冷却してから廃水ストリッピング塔20の上部側へ供給するためのサイドリフラックスライン125を備えている。上記のように硫化水素とアンモニアの溶解度には大きな違いがあるため、還流は、微量な硫化水素と、硫化水素に対してアンモニアを多く溶解した溶液である。この還流の一部を、吸収液供給ライン115を介して、吸収塔10に供給し、吸収液として再利用する。
【0030】
なお、吸収液内に硫化水素が溶解しているのは、廃水ストリッピング塔20において、硫化水素を完全に除去しない液体を、吸収塔10に供給しているからである。硫化水素を完全に取り除かない状態の液体を吸収液として利用することで、言い換えれば、アンモニア、または、アンモニアの純度の高い水溶液を用いないことで、アンモニア精製設備を設けることを不要にし、アンモニア精製に要する電気、蒸気等のユーティリティも不要とすることができる。
【0031】
[第2例]
図2を参照して第2例に係るガス処理設備1bについて説明する。ガス処理設備1bは、吸収塔10、廃水ストリッピング塔20a、及びアンモニアストリッピング塔30を備える。吸収塔10は、アンモニアストリッピング塔30のリフラックスを吸収液として受けとる点を除き、図1の吸収塔10と同じである。廃水ストリッピング塔20は、塔底部から排出するアンモニア含有水を、アンモニアストリッピング塔に供給し、サイドリフラックスの一部が、吸収液として使用されない点を除き、図1の廃水ストリッピング塔20と同じ装置構成である。
【0032】
C.アンモニアストリッピング塔
アンモニアストリッピング塔30は、廃水排出ライン122、廃水排出ライン132、アンモニア放出ライン133、及びサイドリフラックスライン134と接続している。また、アンモニアストリッピング塔30は、その塔底部にスチームヒーターなどのリボイラ34を備えている。
【0033】
アンモニアストリッピング塔30は、廃水排出ライン122を介して廃水ストリッピング塔20より、アンモニア含有水を受け取る。アンモニア含有水には、硫化水素及びアンモニアをその溶解度だけ含んでいる。アンモニア含有水を加熱すると、水中のアンモニア、及び極めて微量な硫化水素がガス化し、塔頂から排出される。アンモニアストリッピング塔30は、例えば加熱ライン134の出口の温度が100〜150℃の温度範囲、アンモニアストリッピング塔30の塔頂圧力が0〜0.5MPaAの圧力範囲で行われる。
【0034】
廃水ストリッピング塔20で解離したアンモニア及び微量な硫化水素はアンモニアストリッピング塔30の塔頂部に設けられたアンモニア放出ライン133より排出され、燃焼処理されたり、または、アミン溶剤などを用いて、硫化水素を取り除き、アンモニアは、圧縮工程等を経て液体で回収される。
【0035】
アンモニアストリッピング塔30は、アンモニアの精留効果を高めるために、アンモニアストリッピング塔30から抜き出したリフラックス(環流)をクーラー32により冷却してからアンモニアストリッピング塔30の上部側へ供給するためのサイドリフラックスライン135を備えている。上記のように硫化水素とアンモニアの溶解度には大きな違いがあるため、還流は、微量な硫化水素と、硫化水素に対してアンモニアを多く溶解した溶液である。この還流の一部を、吸収液供給ライン115を介して、吸収塔10に供給し、吸収液として再利用する。
【0036】
なお、アンモニアストリッピング塔30の還流としての吸収液は、第1例で説明した廃水ストリッピング塔20の還流としての吸収液より、アンモニア濃度は高い。そのため、吸収塔10へ供給する吸収液の流量は、第1例で説明した廃水ストリッピング塔20の還流としての吸収液の流量より、少なくすることができる。また、アンモニア濃度が高いので、吸収塔10で吸収する硫化水素量が多い場合は、廃水ストリッピング塔20の還流より、アンモニアストリッピング塔30の還流の方が好適である。
【0037】
上記のように、硫化水素を完全に取り除かない状態の液体を吸収液として利用することで、言い換えれば、アンモニア、または、アンモニアの純度の高い水溶液を用いないことで、アンモニア精製設備を設けることを不要にし、アンモニア精製に要する電気、蒸気等のユーティリティも不要とすることができる。
【0038】
また、アンモニアストリッピング塔30の還流は、混合ガス中の硫化水素流量が増えた場合でも、吸収液として用いることができる。また、廃水ストリッピング塔20の塔頂からのガス中に高濃度のアンモニアが存在するとき、後続のSRUにあるクラウス装置内で硫化アンモニウム塩を生成し、機器の閉塞、腐食が生じ得る。また、廃水中のアンモニアが多いと下流のWWTで水を処理できないので、廃水ストリッピング塔20の廃液中のアンモニア濃度を所定量(例えば、50wtppm以下)にする必要がある。これらを防ぐため、廃水中のアンモニア濃度が高い場合、硫化水素とアンモニアを別々に回収する第2例を採用することが好ましい。
【0039】
[脱硫装置]
ここで廃水ストリッピング塔20へ廃水を供給する脱硫装置の構成例について説明しておく。図3は例えば石油精製プラントに設けられている脱硫装置の構成の一部を示したものである。原料油は、硫黄化合物及び窒素化合物を含む。原料油は、コンプレッサー225から供給された水素と合流して加熱炉221で加熱され、脱硫触媒を充填した反応塔222内にて原料油中の硫黄化合物に対して水素化脱硫反応(水素化分解)が進行し、硫化水素と未反応の水素と脱硫油とを含む気液混合流体となって反応塔222から流出する。また反応塔222では、水素化脱硫反応の他、原料油中の窒素化合物に対して水素化脱窒素反応(水素化分解)も進行することから、前記の気液混合流体にはアンモニアも含まれている。
【0040】
反応塔222から流出した気液混合流体は、不図示のセパレーターにて気液分離された後、エアフィンクーラーなどからなるクーラー223にてガス分が冷却され、その一部が凝縮して気液混合流体となって受槽224へ送られる。受槽224ではクーラー223にて凝縮しなかった水素を主成分とするガスがリサイクル水素としてコンプレッサー225へ供給される一方、凝縮した脱硫油はセパレーターにて分離された脱硫油と合流して、後段の蒸留塔へと送られる。
【0041】
反応塔222の出口には、クーラー223での閉塞防止用のための水洗設備が設けられており、この水洗処理に使用した水も受槽224へと流れ込んで廃水となる。本例のガス処理設備1a又は1bは、この脱硫装置廃水から得られた硫化アンモニウムを含有する脱硫廃水からアンモニウム含有水を得て混合ガス中の硫化水素を吸収する吸収液として利用する。また、脱硫装置から得られる廃水については、反応塔222の受槽224より得られる廃水に限定されるものではなく、例えば脱硫油の塔頂受槽から排出される廃水などにアンモニアが含まれる場合には、この廃水もガス処理設備1の廃水ストリッピング塔20に供給してもよい。
【0042】
図4は、石油精製プラントの概要を示す図である。ガス処理設備1a又は1bにて廃水を利用可能な脱硫装置2は、特定の種類の原料油を処理する脱硫装置2に限定されるものではない。図4に例示する石油精製プラントにて、2重線で囲んだ各種の脱硫装置2、原料油として常圧蒸留装置から留出したナフサ留分を脱硫するナフサ脱硫装置、灯油留分を脱硫する灯油脱硫装置、軽油留分を脱硫する軽油脱硫装置、減圧蒸留装置から留出した減圧軽油留分を脱硫する減圧軽油脱硫装置、常圧蒸留装置から留出した重油・残渣油留分や減圧蒸留装置から留出した残渣油留分を脱硫する重油直接脱硫装置などを挙げることができる。また、原油から得られた各種の原料油(炭化水素油)を脱硫するものに限られず、例えば天然ガスやナフサの随伴油を脱硫する脱硫装置2の廃水がアンモニアや硫化アンモニウムを含有する場合にもガス処理設備1a又は1bの吸収液として利用することができる。
【0043】
<石油精製プラントにおけるガス処理設備>
ガス処理設備1a又は1bを石油精製プラントの精製装置に適用した例について説明する。
[第1適用例]
図5は、減圧軽油脱硫装置からの脱硫減圧軽油や重油直接脱硫装置からの脱硫重油を原料油として触媒と接触させて分解し、プロピレンなどのC3留分やブチレンなどのC4留分、ガソリン基材や重油基材を生産する接触分解装置(FCC装置4)に、第2例のガス処理設備1bを適用した例を示している。
【0044】
FCC装置4に供給された原料油は、再生塔43にて再生された触媒と接触してライザー管421を上昇しながら分解し、反応塔42内で触媒とガスとに分離され、触媒は再生塔43に流下する一方、ガスは主蒸留塔44に送られる。主蒸留塔44では、触媒と分離されたガスを熱源として、当該ガスに含まれる燃料油の蒸留が行われ、中段、下段からは重油基材となるLCO(ライトサイクルオイル)、SLO(スラリーオイル)が留出する一方、塔頂部から流出した気液混合流は、冷却後、塔頂受槽45を介してガス回収装置46に送られる。
【0045】
ガス回収装置46では、塔頂受槽45にて気液分離されたガスをコンプレッサーで昇圧して液化し、塔頂受槽45からの液体と混合してC3留分、C4留分、ガソリン基材に分留する多数の塔槽を備えているが、図5では省略して示してある。
【0046】
このFCC装置4では、C3留分、C4留分等として回収されなかった混合ガスに可燃性ガスと硫化水素とOとが含まれており、この混合ガスがガス処理設備1bの吸収塔10に供給されて硫化水素の除去が行われる。本例のガス処理設備1bでは、ガス回収装置46にて分離された混合ガスは、混合ガス供給ライン111を介して吸収塔10の下部側に供給される一方、アンモニアストリッピング塔30のサイドリフラックスライン135から抜き出されたアンモニア含有水は、吸収液として吸収塔10の中段部に供給される。アンモニアを比較的高濃度で含むサイドリフラックスライン135からのアンモニア含有水を吸収塔10の中段部に供給することにより、硫化水素を中和することができる。主蒸留塔44の塔頂受槽45のブーツから廃水を抜き出す分離水抜き出しライン451を経由して、吸収塔10の上部側に供給される。混合ガスを水と接触させることで、ガスに混入した飽和状態にあるアンモニアガスも、廃水側に吸収させ、混合ガス中から取り除くことができる。
【0047】
[第2適用例]
図6は、常圧蒸留装置からの重油留分を低圧の雰囲気下で分留して、VGO(減圧軽油)やVR(減圧重油)を生産する減圧蒸留装置5に、第2例のガス処理設備1bを適用した例を示している。
減圧蒸留装置5に供給された原料油は、加熱炉51で加熱された後、塔頂の圧力が10〜200mmHg程度まで減圧されている減圧蒸留塔52内で蒸留され、中段、下段からはFCC装置4の原料等となるVGOやVRが留出する。
【0048】
一方、減圧蒸留塔52の塔頂側は、スチームイジェクタ53の吸引作用により低圧となっており、塔頂部から流出したガスはスチームイジェクタ53にてイジェクタスチームと混合された後、凝縮器54にて冷却され、スチームコンデンセートとガスとの混合流体となって塔頂受槽55に流入する。塔頂受槽55にてスチームコンデンセートと分離された混合ガス中には、原料油が熱分解することで生じる可燃性ガス及び硫化水素、ならびに減圧蒸留塔42のフランジなどから混入し、又は、原料油中に溶存したりしていたOが含まれている。そこで当該混合ガスがガス処理設備1bの吸収塔10に供給されて硫化水素の除去が行われる。
【0049】
本例のガス処理設備1bでは、塔頂受槽55にて分離された混合ガスは、混合ガス供給ライン111を介して吸収塔10の下部側に供給される一方、塔頂受槽55のブーツから抜き出された廃水(アンモニアを含んでいる)は吸収液として吸収塔10の上部側に供給される。また、サイドリフラックスライン135から抜き出されたアンモニア含有水は吸収液として、吸収塔10の中段部に供給される。アンモニアを比較的高濃度で含むサイドリフラックスライン135からのアンモニア含有水を吸収液として吸収塔10の中段部に供給することにより、硫化水素を中和することができる。また、スチームイジェクタ53のスチームコンデンセートを利用することにより、アンモニアストリッピング塔30から受け入れるアンモニア含有水(吸収液)量を抑えて、送液に必要なエネルギーを低減することもできる。
【0050】
ここで図5、図6には、FCC装置4や減圧蒸留装置5に、吸収塔10と、廃水ストリッピング塔20およびアンモニアストリッピング塔30とを設けた例について示してある。しかしながら、石油精製プラントなどにおいては廃水ストリッピング塔20やアンモニアストリッピング塔30が当該石油精製プラント内の各装置の共用の廃水処理設備として設けられている場合もある。このような場合には、FCC装置4や減圧蒸留装置5にガス処理設備1として吸収塔10のみを設け、石油精製プラントなどにおいて常設されるストリッピング塔を、図1又は図2で説明した廃水ストリッピング塔20、アンモニアストリッピング塔30として利用してもよい。
【0051】
また、ガス処理設備1a、1bにて処理する混合ガスは、石油精製プラントにて発生する混合ガスなどに限られるものではない。例えばシェールガスの処理時などに発生する可燃性ガスと硫化水素とOとの混合ガスを処理する場合などに適用することができる。
【0052】
この他、図2に示した第2例や、図5、6に示した第1、第2適用例ではアンモニアストリッピング塔30のサイドリフラックスライン135からアンモニア含有水を抜き出して吸収液として吸収塔10に供給する構成について説明したが、吸収塔10に供給するアンモニア含有水はこれに限られるものではない。例えば廃水ストリッピング塔20の塔底から流出した廃水排出ライン122を流れるアンモニア含有水を吸収液としてもよいし、アンモニアストリッピング塔30の中段位置に別途、アンモニア含有水の抜き出しラインを設けて吸収塔10に接続してもよい。また、図1に示したガス処理設備1aの場合についても廃水ストリッピング塔20の中段位置からアンモニア含有水を抜き出して吸収塔10に供給してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1a、1b ガス処理設備
10 吸収塔
20 廃水ストリッピング塔
30 アンモニアストリッピング塔
2 脱硫装置
4 FCC装置
5 減圧蒸留装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収液を用いて硫化水素を吸収する吸収塔と、硫化水素及びアンモニアを含む廃水からアンモニア又は硫化水素を分離する少なくとも1つのストリッピング塔とを用いて、ガス中の硫化水素を除去するガス処理方法であって、
前記吸収塔で、可燃性ガスと硫化水素と酸素とを含む混合ガスを、吸収液としてのアンモニア含有水に接触し且つ前記アンモニアにより前記硫化水素を中和して、前記硫化水素含量を低下させた混合ガスを外部に放出する工程と、
前記ストリッピング塔で、前記硫化水素を吸収した吸収液と共に前記廃水を加熱して、前記硫化水素を吸収した吸収液及び前記廃水から硫化水素ガスを放出する工程と、
前記ストリッピング塔の還流の一部を、前記吸収液として、前記吸収塔に供給する工程と、を有することを特徴とするガス処理方法。
【請求項2】
前記ストリッピング塔は、第1のストリッピング塔と、第2のストリッピング塔で構成され、
前記第1のストリッピング塔で、前記硫化水素を吸収した吸収液と共に前記廃水を加熱して、前記硫化水素を吸収した吸収液及び前記廃水から硫化水素ガスを放出する工程と、
前記第1のストリッピング塔で、前記硫化水素ガスを分離した廃水を、前記第2のストリッピング塔に供給する工程と、
前記第2のストリッピング塔で、前記硫化水素ガスを分離した廃水を加熱して、前記廃水からアンモニアガスを放出する工程と、
前記第2のストリッピング塔の還流の一部を、前記吸収液として、前記吸収塔に供給する工程と、を有する請求項1に記載のガス処理方法。
【請求項3】
前記吸収塔の上部から、減圧蒸留装置のスチームイジェクタの凝縮器から排出されるスチームコンデンセートを供給して、前記硫化水素含量を低下させた混合ガスと接触させて、当該混合ガスに含まれるアンモニアガスを、前記スチームコンデンセートに溶解する請求項1又は2に記載のガス処理方法。
【請求項4】
ガス中の硫化水素を除去するガス処理装置であって、
可燃性ガスと硫化水素と酸素とを含む混合ガスを、吸収液としてのアンモニア含有水に接触し且つ前記アンモニアにより前記硫化水素を中和して、前記硫化水素含量を低下させた混合ガスを外部に放出する吸収塔と、
前記硫化水素を吸収した吸収液と共に前記廃水を加熱して、前記硫化水素を吸収した吸収液及び前記廃水から硫化水素ガスを放出し、且つ、還流の一部を、前記吸収液として、前記吸収塔に供給するストリッピング塔と、を備えることを特徴とするガス処理装置。
【請求項5】
前記ストリッピング塔は、第1のストリッピング塔と、第2のストリッピング塔で構成され、
前記第1のストリッピング塔は、前記硫化水素を吸収した吸収液と共に前記廃水を加熱して、前記硫化水素を吸収した吸収液及び前記廃水から硫化水素ガスを放出し、且つ、前記硫化水素ガスを分離した廃水を、前記第2のストリッピング塔に供給し、
前記第2のストリッピング塔は、前記硫化水素ガスを分離した廃水を加熱して、前記廃水からアンモニアガスを放出し、還流の一部を、前記吸収液として、前記吸収塔に供給する、を備える請求項4に記載のガス処理装置。
【請求項6】
前記吸収塔は、減圧蒸留装置のスチームイジェクタの凝縮器から排出されるスチームコンデンセートを、前記硫化水素含量を低下させた混合ガスと接触させて、当該混合ガスに含まれるアンモニアガスを、前記スチームコンデンセートに溶解する請求項4又は5に記載のガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214594(P2012−214594A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80229(P2011−80229)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】