説明

ガス分析用Jet−REMPI装置

【課題】燃焼ガスや大気中ガスの成分組成を測定する際に、被測定ガス中の特定注目分子をオンサイトで連続的にかつ高感度で定量分析できるガス分析用可搬型Jet−REMPI装置を提供する。
【解決手段】ガス導入系およびイオン光学系を一体型の構造とし、単一真空排気系を備えて差動排気するとともに、イオン化室に、被測定ガスを飛行時間型質量分析計の方向に噴射するためのオリフィスノズルを内包し、かつ先端が突起状である出鼻型の対向電極と、イオンを通過させるためのピンホールを有する仕切板を内包し、かつ先端が突起状である出鼻型の引き出し電極を有し、かつ前記引き出し電極の先端から前記仕切板までの範囲の電極部材の一部または全てをメッシュ構造とするガス分析用可搬型Jet−REMPI装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中に存在するガス中の飛灰、水分、塩素分を除去し、被測定有機分子を高感度にかつ、オンサイト・リアルタイムに大気中に存在した化学構造および組成を保持しつつ、検出できる超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置を基本とするガス分析装置に属する。
【背景技術】
【0002】
従来のダイオキシンの公定の測定・分析法は、厚生労働省のまとめた「ダイオキシン類の発生防止ガイドライン」の中で測定標準法として示されている。この方法は、ダイオキシン類を有機溶媒により抽出し、各種クロマトグラフィー法で濃縮・分離後、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)によって分析するものである。この試験分析工程は、多大な計測時間とコストを必要とする。
一方、ダイオキシンをはじめとする有機塩素系化合物の人体への影響が強く懸念されている現在、焼却炉の設計や操業管理に必要な情報を得るといった例を一つとっても、極微量有機塩素化合物を選択的かつ定量的にオンサイト実時間分析可能な新評価技術の開発が望まれている。
一般に、有機分子は、その分子骨格に起因する電子状態を持ち、その状態に振動準位や回転準位などが複雑に相互作用していく。赤外線、紫外線等を利用した吸収分光法は、このような有機分子の分子骨格の違いによる光吸収を利用して、存在する分子種を特定する方法である。この分子固有の励起状態を利用して、リアルタイムに有機分子を選択、検出することを可能にすると期待されているのが、超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析(Jet−REMPI)法である。Jet−REMPI法は、公定法のような濃縮前処理技術を必要とせず、高感度かつ高化学種選択性をもって検出できる分析法として注目されつつある。この原理を簡単に述べる。
【0003】
Jet−REMPI法は、共鳴多光子吸収イオン化(REMPI)法と超音速分子ジェット(Jet)法を組み合わせた方法である。
共鳴多光子吸収イオン化(REMPI:Resonance Enhanced Multi−Photon Ionization)法とは、レーザ光で有機分子を励起する際、注目分子特有の励起準位にレーザ波長を同調させることで、特定分子種のみを選択的にイオン化(共鳴多光子吸収イオン化)させ、イオンは質量分析計を用いて検出する方法である。光吸収によって試料をイオン化するには、吸収断面積(吸収効率)の観点から、吸収スペクトルで観測されるピーク付近の波長を利用する。しかし、常温、常圧の有機化合物の吸収スペクトルのピーク幅は、振動・回転準位からの遷移が重なるために幅広くなり、構造が似通った異性体の吸収ピークを分離することはできない。一方、この分子を絶対零度付近(数K)まで冷却すると、振動や回転していない真の基底状態に電子が位置するようになり、また遷移の選択率によって特定の準位にのみ励起されるようになるため、数本の鋭いピークのみが観測されるようになる。ピーク幅は冷却された温度によって決まるが約0.01nm程度で、構造異性体はこのエネルギー幅の波長可変レーザを用いれば、選択的に励起・イオン化して分離できる。
【0004】
超音速分子ジェット(Jet)法とは、分子を極低温まで冷却する一つの方法である。この方法は、気化させた試料分子をヘリウムやアルゴンなどの希ガスと共にピンホールから真空中に噴出させて、断熱膨張冷却および希ガスとの衝突により、試料分子を絶対零度付近まで瞬時に冷却する方法である。分子の速度が音速の数倍に達するため、超音速分子ジェット法と呼ばれている。
このように、超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析(Jet−REMPI)法とは、注目分子の振動・回転準位を凍結し、その注目分子の共鳴励起準位に波長可変レーザのエネルギーを同調させることで、特定分子のみ選択的にイオン化し、質量分析する方法である。
【0005】
一般的なJet−REMPI装置の概要を図1に示す。レーザイオン化領域8は、通常2枚静電メッシュを中心に置く平行平板型電極(押し出し電極(対向電極)11、引き出し電極12)に挟まれた空間に形成する。静電メッシュは、イオン分子を高い透過率で質量分析計に導入し、平行平板型電極で形成される電場の乱れを抑制するために配置される。
【0006】
試料ガス導入ノズル10から噴出された分子はスキマー24を介して超音速分子ジェット流5を形成し、断熱膨張冷却されて更にスキマー24を介して切り出され、レーザイオン化領域8に導入される。
【0007】
一方、Nd3+:YAGレーザ25により励起された色素レーザ26から発生した可視光(ω)は、非線形光学結晶27により注目する分子の選択励起波長である第2高調波(ω/2)にとした後、集光レンズ28、イオン化室2のビューポート29を介して、レーザイオン化領域8に挿引する。これにより、レーザイオン化領域8において、注目分子のみが選択的にイオン化させることができる。
【0008】
発生したイオン30は、平行平板型電極11、12により加速され、アインツェルレンズ13、X,Yディフレクタ15を通して、収束され、偏向されて飛行時間型質量分析計4内に設置された検出器9に到達する。検出器9で検出されたイオン信号は、抵抗分割器31を通してプリアンプ32で増幅され、デジタルオシロスコープ33で計測される。あるいは、BOXCAR積分器34で信号積算される。また、積分信号強度のレーザ波長依存性をパーソナルコンピュータ35で観察する。
【0009】
このような特徴を持つJet−REMPI法を有害有機化合物のオンライン・リアルタイム分析法として利用する試みが近年活発に検討され始めており、約10pptのジクロロダイオキシンを検出できることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
また、Jet−REMPI法を用いて焼却炉から発生する高温ガス中に含有するダイオキシン及びその誘導体(これらをダイオキシン類ということがある)を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これらの方法では、約800℃の高温ガスを冷却し、ダストを除去した後に、試料ガス導入ノズルとして矩形型スリットを有するパルスバルブを用いて真空チャンバー中にパルス状に導入することでレーザによるイオン化有効体積を増加させ、高感度で迅速な測定を可能にする方法が開示されている。
しかし、上記特許文献1などに代表される従来のJet−REMPIを用いたガス分析方法では、何れもパルスバルブを用いて試料ガスを真空チャンバー内に導入するため、以下の課題があった。
【0010】
(1)パルスバルブは、一般に数10〜数100μsec程度のパルス幅で、数10Hzの繰り返しで動作する。このため、パルスバルブの一秒間当たりの開時間(デューティーサイクル=パルス幅*繰り返し数)は数ミリ秒程度となり、ガス流れを堰き止められ、試料ガス成分組成の連続的な経時変化を測定することは困難である。
【0011】
(2)試料導入時にバルブの閉時間が圧倒的に長いため、試料ガス中のダイオキシン類(沸点:約400〜500℃)などの沸点が高い注目分子種などがバルブ内壁に衝突し、吸着や分解する可能性が高い。このため、バルブ内壁に吸着された分子がガス成分組成測定中に長時間検出され、注目分子種の成分組成の経時的変化、時間応答性に悪影響をもたらす。また、注目分子種が、高温反応で生成する不安定ガス種などの場合はバルブ内壁との衝突により消失し、検出できなくなる可能性がある。このような理由から、燃焼ガス中の注目分子の成分組成をそのままの状態で精度の高い定量分析を行うことは困難であった。
【0012】
(3)一般に、パルスバルブは150℃以上で不安定動作を起しやすいことが知られている。そのため、170〜200℃の焼却炉等の煙道ガスの成分組成測定する場合は、冷却する必要があり、冷却により凝集する高沸点分子をそのままの状態で再現性よく測定することが非常に難しい。
【0013】
(4)パルスバルブの最大の繰り返しは数10Hzが限度であり、レーザ繰り返し数の増加の妨げとなる。このため、単位時間当たりのサンプリング回数を増加させ、測定のリアルタイム性を向上するための高繰り返しレーザの利点を最大限に有効活用することができなかった。
【0014】
また、従来のJet−REMPI法においては、測定感度の更なる向上が求められており、特に燃焼ガス中に含有するダイオキシン類の代表される環境ホルモンの検出に必要となる濃度限界はpptからppqと、非常に高い測定感度が要求される。
今までにJet−REMPI法の測定感度を向上させる方法は種々検討されており、例えば、試料ガス導入ノズルとしてパルスバルブを用いて試料ガスを導入する際のガス噴出方向の軸と、レーザイオン化領域で生成したイオンを飛行・検出する方向の軸を一致させることにより、イオン密度を増加させ、分析感度の向上を図る装置および方法が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。この方法では、図1に示すようなガス噴出方向とイオンの飛行・検出方向の二軸を直交させる方法に比べて、平行電極の電場を乱すことなく、ガス噴射ノズルと分子のレーザイオン化領域とを格段に近接させることができ、これによる測定感度の向上が期待できる。
【0015】
しかし、この方法では、飛行時間型質量分析計に向かって試料ガスを吹き付けるため、従来に比べて質量分析計の真空度を確保することが困難となり、生成したイオンを検出器に到達させる前に分子間衝突により失活させてしまう可能性が非常に高い。また、イオンのみならず、イオン化されない分子が高電圧を印加した検出器近傍に存在するため、これが信号の雑音となり、信号/雑音比で決定される検出限界を低く抑えることが困難であると考えられる。
【0016】
更に、この従来方法では、パルスバルブと押し出し電極を絶縁物質を介して一体化させるために、パルスバルブの吹き出し口から押し出し電極先端までの距離が逆に大きくなり、断熱膨張による分子冷却効果を十分に得ることができなくなる。この結果、レーザによる分子の選択的なイオン化および高感度の検出は困難となる。
【0017】
また、これらの従来の分析装置は、イオン化室の真空度を確保し、かつイオン化効率の増加による質量分析計の検出器が飽和しないように、パルスバルブにより試料ガスを間欠的に導入しなければならないため、ガスを連続的に導入しリアルタイム分析は困難であり、かつ高温ガスを冷却せずに導入し燃焼ガス中の注目分子の成分組成をそのままの状態で精度の高い定量分析を行うことは不可能であった。
【0018】
また、本発明者らは、Jet−REMPI法における極微量物質の測定感度向上を目的とし、出鼻電極の最外周部に静電メッシュを配置した構造の出鼻電極を採用することにより、パルスバルブをレーザイオン化領域に近接させるとともに、出鼻電極の引き出し電極の後方にポテンシャルスィッチ電極を配置し、目的とするイオン化分子のみを質量分析計の検出器で測定する方法を提案した(特許文献4参照)。
【0019】
この方法は、平行平板電極の先端を出鼻形状とすることにより電位の乱れを抑制しつつパルスバルブのノズル開口部をレーザイオン化領域の近接させることができるため、ノズル開口部からの距離の2乗に反比例する関係にある試料ガスの分子密度を高く維持し、測定感度を大幅に向上することができる。また、出鼻電極の引き出し電極の後方に配置したポテンシャルスィッチ電極により、イオン化された分子密度の増加による質量分析計の検出器や計数器の飽和を抑制しつつ、注目分子のみの信号を選択的に検出できる。また、出鼻電極の先端形状に起因して形成される等電位面によるレンズ効果を発現させ、出鼻電極内でイオンビームを集束させることができるため、広いレーザイオン化領域から目的とするイオン化分子を質量分析計に導入し、測定感度の向上が期待できる。
【0020】
しかし、この装置において試料ガスの噴出方向とレーザイオン化領域で生成したイオンを飛行・検出方向の軸とが直交する構造としている。このため、質量分析計のイオン引き出し電極の大きさに制約され、試料ガス導入ノズルとイオン化領域を更に近づけることが困難なり、レーザイオン化領域で生成されたイオンを十分に引き出し電極内に取り込むことが困難になり、測定試料ガスの温度や出射口の目詰まりによるノズル開口部の形状変化により超音速分子流の出射方向や角度が大きく変化してしまい、定量性が低下するといった問題があった(図2参照)。
【0021】
そこで、本発明者らは、前記特許文献4で提案した装置における出鼻電極の先端形状に起因するレンズ効果により、イオンビームを引き出し電極内で集光させる特徴を生かし、試料ガスの噴出方向と生成イオンの飛行方向を同軸となるように、対向電極内に試料ガス噴出ノズルを設置する新たな高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置を提案した(特許文献5参照)。
【0022】
しかし、本発明者らの検討の結果、この装置において試料ガス導入ノズルとして、パルスパルブからオリフィスなどの試料ガスを連続的に導入できるノズルに換えて、測定する場合には、イオン化領域で生成したイオンが、出鼻電極先端内でのイオン化されていないガスとの衝突を起こし、失活することによるイオン検出感度の低下が生じることがわかった。また、試料ガス導入ノズルとして、オリフィスなどの試料ガスを連続的に導入できるノズルを用いて試料ガスを連続的に導入する場合には、ノズルの位置や開口径などの条件により十分な断熱冷却効果が得られず、これもイオン検出感度の低下原因となることがわかった。
以上の通り、従来のJet−REMPI装置およびこれを用いたガス分析方法において、試料ガス導入ノズルとして、オリフィスなどの試料ガス連続導入ノズルを用いて、試料ガスを連続的に真空槽内に導入し、目的とする被測定分子を高感度で測定可能な装置および方法が開発されていない現状にある。
一方、燃焼ガスなどの高温ガス中に含有する検出濃度限界がpptからppqのダイオキシン及びその誘導体をそのままの状態でリアルタイムに高感度で測定可能な装置および方法の開発が望まれている。
【0023】
【非特許文献1】H. Oser, R. Thanner, H. H. Grotheer, B. K. Gillett, N. B. French, and D. Natscke, Proc. 16th Int. Conf. on Incineration and Thermal Treatment Technologies(1997)
【特許文献1】特開平11−218520号公報
【特許文献2】特開2001−124739号公報
【特許文献3】特開平11−329345号公報
【特許文献4】特開2003−22777号公報
【特許文献5】特開2004−119040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記従来技術の現状に鑑みて、本発明は、燃焼ガスや大気中ガスの成分組成を測定する際に、被測定ガス中の特定注目分子をオンサイトで連続的にかつ高感度で定量分析できるガス分析用Jet−REMPI装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は上記課題を解決することを目的に、開発したガス分析装置に関するものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)ガス導入系、イオン化室、レーザ照射系および飛行時間型質量分析計からなり、前記ガス導入系から前記イオン化室内に被測定ガスを前記飛行時間型質量分析計の方向に連続的に導入して超音速分子ジェット流を形成すると共に、前記レーザ照射系からレーザ光を該超音速分子ジェット流に対して照射して被測定ガス中の特定分子を共鳴多光子吸収過程でイオン化し、該生成イオンを前記イオン化室内のイオン光学系により加速偏向させた後、前記飛行時間型質量分析計で被測定ガス中の前記特定分子を分析するJet−REMPI装置において、
前記ガス導入系および前記イオン光学系を一体型の構造とし、単一真空排気系を備えて差動排気するとともに、前記イオン化室に、前記被測定ガスを前記飛行時間型質量分析計の方向に噴射するためのオリフィスノズルを内包し、かつ先端が突起状である出鼻型の対向電極と、前記イオンを通過させるためのピンホールを有する仕切板を内包し、かつ先端が突起状である出鼻型の引き出し電極と、アインツェルレンズと、さらに、隔壁で覆われた円筒状のポテンシャルスィッチおよびX,Yデイフレクタとを順次配置し、かつ前記引き出し電極の先端から前記仕切板までの範囲の電極部材の一部または全てをメッシュ構造とすることを特徴とするガス分析用可搬型Jet−REMPI装置。
(2)前記出鼻型の引き出し電極内に配置したピンホールを有する仕切板のピンホール径および仕切り板の位置は可変であることを特徴とする上記(1)に記載のガス分析用可搬型Jet−REMPI装置。
(3)前記引き出し電極と対向電極の距離は可変であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のガス分析用可搬型Jet−REMPI装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、燃焼ガスや大気中ガスの成分組成を測定する際に、パルスバルブを用いずに、オリフィスノズルを内包した対向電極を用いて被測定ガスを質量分析器方向に連続的に導入、イオン化することで、目的とする被測定分子をそのままの状態で、連続的にかつ100ppqレベルの高検出感度で定量分析できるガス分析用可搬型Jet−REMPI装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
Jet−REMPI分析で感度および分子選択性を向上させるためには、真空槽内に形成する超音速分子ジェット内の分子温度を充分に低下し、かつガス導入量を充分確保する必要がある。超音速分子ジェット内の分子温度は、Poissonの式に基づく下記 (1)式で決まるため、超音速分子ジェット内の分子を十分に冷却するためには、噴射初期の分子圧力P0を大きくする必要がある。
【0028】
大気圧下での試料ガスを測定する場合、噴射初期の分子圧力P0はほぼ1atomであるから、超音速分子ジェット内の分子を十分に冷却するためには真空槽内の圧力Pをより低く、つまり真空度をより高くする必要がある。
T/T0=(P/P0(γ-1)/γ (1)
なお、Tは超音速分子ジェット内の分子温度、T0は噴射初期の分子温度、Pは真空槽内の圧力、P0は噴射初期の分子圧力を示す。ここで、γは単原子分子で5/3、2原子分子(直線分子)で7/5である。
【0029】
従来のJet−REMPI分析装置では、真空槽内の高い真空度を維持しつつ、大気圧下の被測定ガスを真空槽内に導入し超音速分子ジェット流を形成するために、パルスバルブが必要であった。これは、被測定ガスを真空槽内にパルス状に導入させることで排気系への負荷を極力低減しつつ、真空槽内に超音速分子ジェット流を形成し被測定注目分子を充分に冷却させ、共鳴励起・イオン化用パルスレーザを同期して照射することで、検出感度を向上させるためである。
【0030】
また、従来の装置では、被測定ガスの導入方向が、イオンの飛行方向(質量分析計に向かう方向)に対して直角方向であったため、被測定ガスの導入ノズルとイオン化領域との距離を短縮化し、測定ガスの分子密度が高い状態で分子をイオン化することは困難であった。
【0031】
これに対して、本発明者らは、前述したように先端が突起状である出鼻型の対向電極(押し出し電極)内にパルスバルブを内包させ、同じ出鼻型の引き出し電極の後方にポテンシャルスィッチを配置することで、出鼻型の電極の特性を利用してガス導入ノズル(パルスバルブ)の先端とイオン化領域を近接させるともに、イオン検出器に向かって飛行するイオンビームを収束させ、かつポテンシャルスィッチにより特定分子のイオンのみを質量分析計で検出することで検出感度を向上させることが可能なJet−REMPI装置を提案した(特許文献5参照)。
【0032】
しかし、本発明者らの検討によれば、この装置において、上記パルスバルブに替えてオリフィスノズルを用い、被測定ガスをイオン化室内に連続的に導入した場合には、パルスバルブを用いた場合に比べてイオン化室内の被測定ガスの滞留量が増加し、イオン化領域から質量分析計の検出器までにイオンが分子間衝突などにより失活し、イオンの検出感度が低下することを確認した。
【0033】
本発明は、被測定ガスをイオン化室内に連続的に導入した場合でも、イオン化室内の真空排気を十分に行うことができ、イオン化領域で生成したイオンを分子間衝突などにより失活せずに効率的に質量分析計の検出器まで到達できる被測定ガスの導入系とイオン化室の一体型の構造を提供するものである。
以下に本発明のJet−REMPI装置の特徴的な構成について説明する。
【0034】
図3に、本発明ガス分析用可搬型Jet−REMPI装置の概略図を示す。
また、図5に本発明のガス導入系およびイオン化室の主要構成図、図4にイオン光学系の引き出し電極、ポテンシャルスィッチ、X,Yディフレクタの詳細構成図を示す。
図3に示されるように、本発明のガス分析用Jet−REMPI装置の基本構成は、ガス導入系1、イオン化室2、レーザ照射系3および飛行時間型質量分析計4からなる。
被測定ガス5は、ガス導入系1からイオン化室2内に飛行時間型質量分析計4の方向に連続的に導入され、超音速分子ジェット流6を形成する。一方、レーザ光7は、レーザ照射系3からイオン化室2内の前記超音速分子ジェット流6に対して照射され、被測定ガス中の特定分子を共鳴多光子吸収過程でイオン化し、レーザイオン化領域8を形成する。
レーザイオン化領域8で生成したイオン30はイオン化室2内のイオン光学系36により加速偏向させた後、飛行時間型質量分析計4で被測定ガス中の前記特定分子を分析する。
【0035】
本発明は、図4および5に示されるように、上記基本構成における上記ガス導入系1およびイオン化室2を一体型の構造とし、単一真空排気系37を備えて差動排気するとともに、イオン化室に、被測定ガス5を上記飛行時間型質量分析計4の方向に噴射するためのオリフィスノズル17を内包し、かつ先端が突起状である出鼻型の対向電極11と、前記イオン30を通過させるためのピンホールを有する仕切板を内包し、かつ先端が突起状である出鼻型の引き出し電極12と、アインツェルレンズ13と、さらに、隔壁で覆われた円筒状のポテンシャルスィッチ14およびX,Yデイフレクタ15とを順次配置し、かつ前記引き出し電極の先端から前記仕切板までの範囲の電極部材の一部または全てをメッシュ構造とすることを特徴とする。
【0036】
なお、対向電極11には、通常+2kVの高電圧が印加されるため、対向電極11とオリフィスノズル17とは絶縁ガイシ23を介して固定されて電気的に絶縁性を保ち、対向電極11の先端部表面とオリフィスノズル17の先端部表面が同一平面上にある構造とする。
【0037】
被測定ガス5は、前記対向電極11内のオリフィスノズル17を通って電極先端から噴出し超音速分子ジェット流6を形成し、レーザイオン化領域8において特定分子のイオンが生成した後、イオンビームは集束され、前記引き出し電極12の先端開口部から電極内に導入され、電極内に配置されたピンホールを有する仕切板のピンホール18を通過した後、アインツェルレンズ13、さらに、隔壁で覆われた円筒状のポテンシャルスィッチ14およびX,Yデイフレクタ15によりイオンは加速・偏向されて飛行時間型質量分析計4の検出器に到達する。
【0038】
本発明の上記装置構成において、前記対向電極11と引き出し電極12を、先端が突起状である出鼻型の電極とすることで、電極間の等電位面のレンズ効果により、イオンビームを集束させて飛行させる効果が得られ、イオンビームの焦点は、引き出し電極12内に形成される。
【0039】
引き出し電極12内のイオンビームの焦点位置にピンホール18が位置するように仕切板を配置することで、特定分子のイオンのみを通過させることができる。一方、引き出し電極12の先端から前記仕切板までの範囲の電極部材の一部または全てをメッシュ構造とすることでこの空間に滞留する中性分子を差動排気により系外に排出することができる。これにより、レーザイオン形成域8で生成されたイオン30は中性分子との衝突により失活されることを抑制することができる。
【0040】
さらに、引き出し電極12およびアインツェルレンズ13を通過したイオンは、隔壁で覆われた円筒状のポテンシャルスィッチ14およびX,Yデイフレクタ15により、特定分子のイオンのみを選択的に加速・偏向されることができるため、特定分子以外のイオンや中性分子による検出信号のノイズがなく、選択性の高い質量分析が可能となる。
【0041】
以上の結果、試料ガスをイオン化室2内に連続的に導入した場合でも、差動排気によりイオン化室内の真空度を高く保持し、イオン化領域で生成したイオンを分子間衝突などにより失活せずに効率的に質量分析計の検出器まで到達させ、特定分子の選択性及び検出感度を格段に向上することが可能となる。
【0042】
本発明者らの確認実験によれば、引き出し電極12の先端からピンホール18を有する仕切り板までの円筒構造の電極部材の一部に円状の穴を穿け、メッシュを貼り付けることで、電場を乱すことなく、この空間に滞留するイオン化されない試料ガスを効率よく排気し、飛行時間型質量分析計内の真空度をメッシュがない場合の3x10-6Torrから7x10-7Torrまで高めることができることを確認した。また、この際にイオン化室で形成される超音速分子ジェット流内の特定分子は、大気中のベンゼンの超音速分子ジェットの振動スペクトルの解析結果より、約25Kの内部エネルギーとなっており、分子選択性を十分保持した高感度検出が可能となっていることを確かめている。
【0043】
図9および10を用いて本発明の出鼻型電極により等電位面のレンズ効果によるイオンビームの集束効果について説明する。
図9は、出鼻型の対向電極11の代わりに、オリフィスノズル17を出鼻型引き出し電極12と組み合わせて用いた場合にレーザイオン化領域8から発生したイオン30が飛行時間型質量分析計4方向に飛行する際のイオン軌道を示す。また、図10は、本発明のオリフィスノズルを内包した出鼻型の対向電極11、出鼻型の引き出し電極12を用いた場合の上記イオン軌道を示す。
なお、レーザイオン化領域8の広さは直径1mmとし、レーザイオン化領域8の800mm後方に質量分析計の検出器を設置した。
【0044】
図9の従来型装置の検出器におけるイオンビームの直径は5.6mmに対して、図10の本発明の装置の検出器におけるイオンビーム直径は1.7mmとなり、本発明装置は従来型装置に比べて3倍以上イオンビームの分散が小さいことがわかる。
これは本発明装置が従来型の装置に比べてイオンの検出効率を高く維持でき、高価な大直径の検出器を準備する必要も無いことを示している。また、反射型飛行時間型質量分析計(リフレクトロン)を用いる場合は、更にイオンビームの分散の効果が顕著に現れる。したがって、本発明により定量分析に利用する際に多くの副次的な有利な効果が期待できる。
【0045】
また、燃焼ガスや大気ガスなどの実ガス中には灰分、水分などが多く含まれるため、オリフィスノズル17を用いて被測定ガスを導入する場合には、ノズル先端に灰分、水分などが付着し、これによりイオン室2内に形成される超音速分子ジェット流6の噴射形状が変化し、さらに、引き出し電極14内のイオンビームの焦点位置も変化する場合が生じ、質量分析計の検出信号強度の変動要因となる。
このため、上記引き出し電極12内に設置したピンホール18を有する仕切板のピンホール径および仕切り板の位置を変更可能な構造とするのが好ましい。
【0046】
なお、このような引き出し電極12の構造としては、例えば、引き出し電極12の構造およびその外周に配置されたガイド電極21の電極の一部に円状の穴を設け、円状の穴から引き出し電極12内に設置されたピンホール18の位置の調整や、ピンホール径の異なる円盤状の仕切り板を交換可能な構造を適用することができる。なお、仕切り板は、試料ガスの連続導入時に差動排気により、飛行時間型質量分析計の真空度が10-6Torr以下に保持できるように、ピンホール径が0.25mmから2mmまでの範囲のものを用いるのが好ましい。
【0047】
また、一般に、オリフィスノズル17を用いてイオン室2内に噴射された被測定ガスの超音速分子ジェット流6の最終到達冷却点xは、オリフィスノズルのオリフィス直径Dとの関係から以下の(1)式で表される。なお、最終到達冷却点xとは、オリフィスノズル先端(開口部)から断熱膨張による冷却が完全に終了し、これ以上冷却が進まなくなる位置までの距離を意味する。
x/D=40 (1)
ただし、上記x(mm)は最終冷却到達点、上記Dはオリフィスノズルのオリフィス直径(μm)をそれぞれ示す。
【0048】
オリフィスノズル17とレーザイオン化領域8との距離を上記最終到達冷却点xよりも大きくしても、断熱膨張による冷却効果が得られず、温度は下がらないため、分子のイオン化の選択性は低下する結果、質量分析計の検出器によるイオン信号強度は指数関数的に減少することになる。
したがって、質量分析計の検出器によるイオン信号強度をより安定して高めるためには、対向電極11内に内包したオリフィスノズル17の先端とレーザイオン化領域8との距離を、上記(2)式で定義される最終冷却到達点x以内になるようにするのが好ましい。
本発明者らの検討によれば、真空排気速度が、約3m3/secの差動排気によりイオン化室2の真空度を10-4Torrに保持するためには、オリフィス直径Dが約50〜100μmのオリフィスノズルが用いられ、この場合の超音速分子ジェット流の最終到達冷却点xは約2mm〜4mmの地点となる。
【0049】
図1に示すような平行平板電極を用い、試料ガスをイオンの飛行方向(質量分析計方向)に直角に噴射する構成の従来の装置では、平行平板電極の電場を乱さずに、試料ガス導入ノズルとレーザイオン化領域8との距離を上記最終到達冷却点xが約2mm〜4mm以内まで接近させることは非常に難しい。したがって、従来の装置では、試料ガス導入ノズル10とレーザイオン化領域8との距離を十分に近接することができず、一方、レーザイオン化領域8付近での超音速分子ジェット流6の速度は、マッハ10〜20程度の並進速度を有しているため、イオン密度は低下し、特定分子の選択性及び検出感度を向上することは困難であった。
【0050】
本発明では、対向電極11及び引き出し電極12として先端が突起状の出鼻型の電極とし、かつ対向電極11をその内部にオリフィスノズル17を埋め込んだ一体型の構造とすることで、電場を乱すことなく、このノズル17先端とレーザイオン化領域8との距離が、上記最終到達冷却点x(約2mm〜4mm)以内になるまで接近させることが可能となる。
また、このような対向電極11及び引き出し電極12の構造により、従来の装置では、電場の乱れを抑制するために必要であった静電メッシュは不要となり、電極構造も単純化できる。
【0051】
本発明者らは、図2に示すオリフィスノズル17と出鼻型の対向電極11及び引き出し電極12との中心軸が直交するように配置した従来の装置と、図3〜5に示すオリフィスノズルを内包した対向電極11を採用し、オリフィスノズル17と出鼻型の対向電極11及び引き出し電極12との中心軸を同軸にするように配置した本発明の装置を用いて、オリフィスノズル−イオン化領域間の距離と質量分析計の信号強度との関係について調べた。図8にその結果を示す。なお、図8において、横軸は、オリフィスノズル先端からイオン化領域までの距離lとオリフィスノズルのノズル径との比で表した。
【0052】
図8から、オリフィスノズル−イオン化領域間の距離lが13mm(l/D=260)の条件では、図2に示すオリフィスノズルとイオン飛行方向(時間型質量分析計方向)とが直交する構造の従来型の装置(以下、直交型装置という)と比較して、図3〜5に示すオリフィスノズルを内包した対向電極11を採用した本発明の装置(以下、同軸型装置という)により約3倍程度の高感度化が達成されている。これは、従来の直交型装置では、超音速分子ジェットの並進速度が大きいためレーザイオン化領域で生成されたイオンを十分に引き出し電極内に取り込めなかったが、本発明の同軸型装置によりレーザイオン化領域で生成されたイオン分子を効率的に飛行時間型質量分析計に導入できるようになったためであると考えられる。
【0053】
また、図8から、従来の直交型装置では、対極電極と引き出し電極の電場を乱すため、オリフィスノズル―レーザイオン化領域間距離lは13mm(l/D=260)が限界であったが、本発明の同軸型装置により、オリフィスノズル―レーザイオン化領域間距離lを従来の13mm(l/D=260)から3.5mm(l/D=70)まで短縮化することが可能となり、質量分析計の感度が更に約75倍まで向上できることが判る。
【0054】
なお、本発明者らは、オリフィスノズル―レーザイオン化領域間距離lを1.5mm(l/D=30)まで近づけることに成功しており、検出感度は200倍を達成している。これは、クロロベンゼン濃度の測定限界で比較すると、従来の直交型の検出感度がで数10pptであるのに対して、本発明の同軸型装置を用いることにより数10ppqレベルを達成できることを示す。
【0055】
なお、対向電極11内に内包したオリフィスノズル17の先端とレーザイオン化領域8との距離は、例えば、図5に示された対向電極11と引き出し電極12を支持する支持棒22長さを変えることにより、対向電極11と引き出し電極12との距離を変化させ、対向電極11と、対向電極11と引き出し電極12との間に形成されるレーザイオン化領域8との距離を変化させることで調整できる。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例について説明する。
以下の本発明の実施例は、上述した図3〜5に示された装置を用いて行なわれた。
出鼻型の対向電極内に配置されたオリフィスノズル17はオリフィス径が100μm径のノズルを用い、出鼻型の引き出し電極内のイオンビーム焦点位置(電極先端から20mmの位置)に配置された円板状の仕切板は、ピンホール径が1.0mmのものを用いた。
イオン化室2の真空排気は、排気速度3m3/secのターボ分子ポンプと、その粗引き用ポンプとして排気速度1.5m3/secのロータリーポンプを組み合わせて用いられることでイオン化室内の真空度を10-4Torrに維持し、この時の飛行時間型質量分析計内の真空度は、7x10-7Torr程度とすることができた。
出鼻型の対向電極11内に配置されたオリフィスノズル17(対向電極の先端位置に相当する)からレーザイオン化領域8までの距離は13mm程度であり、出鼻引型のき出し電極12の先端からポテンシャルスィッチ14の入口までの距離は45mm程度であった。したがって、オリフィスノズル17の先端からポテンシャルスィッチ14の入口までの距離の合計は、約58mmとなり、圧力(真空度)が1x10-4Torrの条件でArガスを連続的に導入する場合のArの平均自由行程(約48cm)とほぼ同等とすることができた。これは、上記7x10-7Torrの真空度の条件では、1m程度の飛行時間型質量分析計においてイオンの失活による検出感度の低下は問題とならない程度である。
【0057】
(実施例1)
図6に本発明のガス分析用可搬型Jet−REMPI装置を用いて、クロロベンゼンの共鳴多光子吸収イオン化(以下、REMPIという。)スペクトルを測定した結果を示す。
なお、図6には、比較のため、図1に示す従来のパルスバルブを用い、さらに直交型の平行平板電極を搭載したJet−REMPI装置を用いて測定したクロロベンゼンのREMPIスペクトルを併せて示した。
予めクロロベンゼンの共鳴励起波長(S0-S1:269.82nm)の色素レーザを調整し、クロロベンゼンの飛行時間型質量スペクトルを20〜25μ秒に現われるクロロベンゼンイオンの信号をデジタルオシロスコープ上で観察した。次に、クロロベンゼンの飛行時間型質量スペクトルに時間的なゲートをかけ、その時間内に検出される質量ピークの積算値をモニターしながら、色素レーザを挿引し、クロロベンゼンの信号強度のレーザ波長依存性を測定することによりREMPIスペクトルを得た。
図6に示すように、図1に示す従来のパルスバルブを用い、さらに直交型の平行平板電極を搭載したJet−REMPI装置を用いて測定した場合とほぼ等しいクロロベンゼンのREMPIスペクトルが得られた。このことは、本発明のガス分析用可搬型Jet−REMPI装置が十分な分子選択性を有していることを証明している。
【0058】
(実施例2)
図7は、本発明のガス分析用Jet−REMPI装置を用いて、実焼却炉で放出される高温ガスを連続的に導入し、ガス中のクロロベンゼンの放出時間変化測定結果を示す。
なお、クロロベンゼンの濃度の測定は10秒間検出されるクロロベンゼンの信号強度を平均化して1点とし、5000秒間測定を行った。また、図7中には、参考に、高温ガスから試料ガスを採取し、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)でバッチ分析した場合のクロロベンゼンの濃度は100pptであった。
図からわかるように、クロロベンゼンは、濃度は3ppb程度で、数10秒の半値幅を持つ非常に短時間の放出過程と、濃度数100ppt程度で数1000秒程度放出しつづける長時間の放出過程の異なる放出過程が存在することが確かめられた。
また、積算時間内の平均濃度は、バッチで分析したGC/MSの測定結果とほぼ一致した100pptレベルであり、分析結果としての定量性も確認された。
【0059】
以上、実施例1および2に示されるように、被測定ガス中の特定注目分子をオンサイトで連続的にかつ高感度で定量分析できるガス分析用可搬型Jet−REMPI装置を提供することができる。また、従来のパルスバルブを用いることが無いため、焼却炉ガスのような高温ガスに関しても十分利用可能であり、優れたリアルタイムモニタリング技術を提供できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】従来の一般的なJet-REMPI装置の概要図を示す。
【図2】従来の直交型Jet-REMPI装置の概要図を示す。
【図3】本発明のガス分析用可搬型Jet-REMPI装置の概要図を示す。
【図4】本発明のイオン光学系の引き出し電極、ポテンシャルスィッチ、X,Yディフレクタの詳細構成図を示す。
【図5】本発明のガス導入系およびイオン化室の主要構成図を示す。
【図6】本発明のJet-REMPI装置で測定したクロロベンゼンのREMPI信号スペクトルを示す。
【図7】本発明のJet-REMPI装置で測定した実焼却炉から放出されるガス中のクロロベンゼンの放出時間変化を示す。
【図8】本発明のJet-REMPI装置におけるオリフィスノズル−レーザイオン化領域間の距離と質量分析計のクロロベンゼン信号強度との関係を示す。
【図9】従来の装置におけるレーザイオン化領域から発生したイオンの飛行軌道を示す図である。
【図10】本発明の装置におけるレーザイオン化領域から発生したイオンの飛行軌道を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 ガス導入系
2 イオン化室
3 レーザ照射系
4 飛行時間型質量分析計
5 被測定ガス
6 超音速分子ジェット流
7 レーザ光
8 レーザイオン化領域
9 検出器
10 試料ガス導入ノズル
11 対向電極
12 引き出し電極
13 アインツェルレンズ
14 ポテンシャルスィッチ
15 X,Yディフレクタ
16 隔壁
17 オリフィスノズル
18 ピンホールを有する仕切り板
19 メッシュ
20 XYステージ
21 ガイド電極
22 支持棒
23 絶縁ガイシ
24 スキマー
25 Nd3+:YAGレーザ
26 色素レーザ
27 非線形光学結晶
28 集光レンズ
29 ビューポート
30 イオン
31 抵抗分割器
32 プリアンプ
33 デジタルオシロスコープ
34 BOXCAR積分器
35 パーソナルコンピュータ
36 イオン光学系
37 真空排気系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス導入系、イオン化室、レーザ照射系および飛行時間型質量分析計からなり、前記ガス導入系から前記イオン化室内に被測定ガスを前記飛行時間型質量分析計の方向に連続的に導入して超音速分子ジェット流を形成すると共に、前記レーザ照射系からレーザ光を該超音速分子ジェット流に対して照射して被測定ガス中の特定分子を共鳴多光子吸収過程でイオン化し、該生成イオンを前記イオン化室内のイオン光学系により加速偏向させた後、前記飛行時間型質量分析計で被測定ガス中の前記特定分子を分析するJet−REMPI装置において、
前記ガス導入系および前記イオン光学系を一体型の構造とし、単一真空排気系を備えて差動排気するとともに、前記イオン化室に、前記被測定ガスを前記飛行時間型質量分析計の方向に噴射するためのオリフィスノズルを内包し、かつ先端が突起状である出鼻型の対向電極と、前記イオンを通過させるためのピンホールを有する仕切板を内包し、かつ先端が突起状である出鼻型の引き出し電極と、アインツェルレンズと、さらに、隔壁で覆われた円筒状のポテンシャルスィッチおよびX,Yデイフレクタとを順次配置し、かつ前記引き出し電極の先端から前記仕切板までの範囲の電極部材の一部または全てをメッシュ構造とすることを特徴とするガス分析用Jet−REMPI装置。
【請求項2】
前記出鼻型の引き出し電極内に配置したピンホールを有する仕切板のピンホール径および仕切り板の位置は可変であることを特徴とする請求項1に記載のガス分析用Jet−REMPI装置。
【請求項3】
前記引き出し電極と対向電極の距離は可変であることを特徴とする請求項1または2に記載のガス分析用Jet−REMPI装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−315847(P2007−315847A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143953(P2006−143953)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】