説明

ガス分析装置

【課題】小型で簡易な構造であって、検出に必要な検体ガスのみをガス検出部に取り込んで検出を行なうガス分析装置を提供する。
【解決手段】本発明のガス分析装置は、検体ガスを導入するためのガス導入口を備えるガス導入部と、該ガス導入部から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを備えるガス分離部と、該ガス分離部により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部とを備え、ガス導入部は、検体ガスを保持するためのガス収容部と、ガス導入口からガス収容部に検体ガスを導入するための第1の接続手段と、ガス収容部からガス分離部に検体ガスを供給するための第2の接続手段と、ガス導入口から導入された検体ガスの一部をガス収容部からガス排出口に排出するための第3の接続手段と、第1状態から第2状態、または第2状態から第1状態に切り替える切替手段とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置に関し、特に、検体ガスに微量に含まれるガス成分を高精度に検出するガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では人口減少・少子高齢化が進展しており、総人口に対する65歳以上の高齢者が占める割合が急速に増加しつつある。具体的には、2013年になると総人口に対し約25.2%のほぼ4人に1人が高齢者となり、2035年になると総人口に対し約33.7%のほぼ3人に1人が高齢者となると言われている。高齢者ほど医療機関を利用する割合は大きいことから、今後医療の負担が大きくなることが予想される。
【0003】
加えて、若年層においては、生活環境が著しく改善されたこと、IT技術の進展により体を動かす機会が減少したこと等の理由により、メタボリックシンドロームが問題となっており、生活習慣病等の疾病を患う若年層の人口は年々増えてきている。このように若年層においても医療を利用する機会が増えているというのが現状である。
【0004】
このような時代の趨勢から、医療が抱える負担はここ数年で限界に達するとも言われており、医療の負担を少しでも軽減することが望まれている。近年では特に医療機関を利用する機会を未然に防ぐことができる予防医療が注目されている。
【0005】
予防医療を充実させることにより、疾病を患うことを予防することができ、もって疾病を患う人口を減少させることができる。このような手段を用いて疾病を患う人口が減少すれば、医療の負担を軽減することができるばかりか、医療保険制度の崩壊が叫ばれている現代において、医療費を軽減することができるというメリットもある。
【0006】
そこで、予防医療を充実させるためには、身近な機器で個人が手軽に健康管理を行なうための健康情報を得るシステムを各家庭に普及させたいところである。健康情報を得るための指標としては、血圧、血液、尿、汗、唾液、呼気等の生体試料がある。かかる生体試料には、血液における血糖値のように、疾病またはその兆候に起因して数値が変化する物質が複数含まれている。
【0007】
このような生体試料に含まれる物質の含有率を個々に測定することにより、健康情報を得ることをもって、自己の健康状態を的確に把握することができる。このように自己の健康状態を客観的に把握することにより、疾病を早期に発見することができ、疾病を患う前に事前にそれを回避するように生活を見直すことができる。
【0008】
上記で挙げた生体試料の中でも、特に、呼気は、疾病またはその兆候に起因して数値が変化する物質を複数含む点、迅速かつ簡便にサンプリングおよび測定ができる点、ならびに、測定対象がガスであり非侵襲で測定でき、肉体的なダメージが小さい点等から、日々測定しても苦になりにくい、まさに日々の健康管理に最も適した生体試料の一つということもできる。
【0009】
このような利点を有するため、呼気に含まれる成分に基づいて疾病を特定するという研究が活発化している。これまでの研究で呼気と疾病との相関が見られるものとしては、たとえば肺がん患者の呼気の成分は、健常者のそれと比べて呼気の成分が一部異なっていることが明らかとなっている。
【0010】
より具体的には、呼気中に一酸化窒素および一酸化炭素を多く含む場合、肺疾患を患っている可能性が高いことがわかっており、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Diseases)の患者の呼気は、一酸化窒素および一酸化炭素が高い濃度で検出される。
【0011】
呼気の成分と疾病との相関性が見られる別の例を挙げると、たとえば消化不良、十二指腸潰瘍等の胃腸疾患の患者の呼気は、水素が高い濃度で検出される傾向があり、脂質酸化、喘息、気管支炎等の患者の呼気は、酸化ストレスとの相関が高く、エタン、ペンタン等が高い濃度で検出される傾向がある。このように呼気に含まれる各成分の濃度を測定することにより、疾病情報の取得や健康指導を行なうことができる。
【0012】
上記の中でも、特に呼気中のアセトンは、脂肪(脂肪酸)、タンパク質(アミノ酸)を分解したときに産出されることから、従来から糖代謝の活性度の指標として位置づけられている。断食中であって摂食していない状態のように極度に空腹であるとき、および重度の糖尿病を患っているときには、呼気中にアセトンを多く含むことが知られている。ともすれば、呼気中に含まれるアセトンの量を把握することにより、体脂肪の減少量を明確にすることができるとも考えられる。
【0013】
体脂肪がアセトンとなって、体外に排出される詳細のメカニズムを説明すると、まず、脂肪が代謝される過程で血中にアセト酢酸、ヒドロキシ酪酸、アセトン等のケトン体が生成される。そして、生成されたケトン体のうち、アセト酢酸およびヒドロキシ酪酸は肝臓以外の臓器で再利用され、アセトンは肺を介して呼気として外部に排出される。ちなみに、脂肪の代謝は、食事制限や運動により血中グルコースが消費されて不足したときに、体内に蓄えられた体脂肪をエネルギーとして利用することにより行なわれる。
【0014】
このようにアセトンは、体脂肪を燃焼する過程で生成され、しかも呼気中に含まれて排出されるため、呼気中のアセトンの濃度を測定することにより、体脂肪の燃焼状況を直接的に知ることができる。呼気に含まれるアセトンの濃度を検出する方法としては、従来、ガスクロマトグラフィを利用して各成分を分離した後に、熱伝導率型、水素炎イオン化、電子捕獲型、質量分析等の検出器により検出する方法が知られている。
【0015】
しかし、呼気中に含まれるアセトンを精確に分析するためには、呼気中に大量に含まれる水蒸気を除去する必要がある。従来の呼気を分析する機器には、呼気中の水分を除去するための前処理を行なう部位を備えていないため、呼気中に微量に含まれる成分の一部を精確に検出しにくかった。
【0016】
このような課題を解決するための試みとして、たとえば特許文献1および特許文献2には、試料の前処理を行ない水分の除去を行なう装置が開示されている。このようなガス分析装置を用いて呼気を検出することにより、ppb−pptレベルで高感度に各成分を検出することができるという利点を有する。しかし、特許文献1および特許文献2の装置は、分析装置の他に水分除去ユニットを設置する必要があるため、その構造が複雑化し、結果として装置全体が大型化する傾向があった。
【0017】
ところで、人が一回の呼吸で排出する呼気の体積は、約500ml程度と言われるが、その全てが生体試料として有用というわけではなく、呼気のうちでも肺(特に肺胞)を経由して排出されるもののみが生体試料として特に有用であることがわかっている。すなわち、標準体型の人が一回の呼気で排出する約500mlの呼気のうちの前半に排出する約150mlの呼気は、口から肺までの気管中のものであって、肺を経由していないものであるため、体内の健康状態を理解するための生体試料として用いる上で有効とはいえない。
【0018】
よって、ガス分析装置を用いて呼気を検出する上では、一回の呼吸で排出する呼気のうちの前半に排出するものを予め除去し、肺を経由した呼気のみを検出部に導入して、検出することが不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2002−181674号公報
【特許文献2】特表2005−512067号公報
【特許文献3】特開平07−284488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
検出に必要な呼気のみの検出を行なうための装置として、たとえば特許文献3には、検出に必要な呼気のみを取り入れ、検出に不要な呼気を排出する構造の呼気採取装置が開示されている。特許文献3の呼気採取装置の構造を具体的に説明すると、マウスピースから取り込まれた呼気を一度は試料採取用シリンジの中に確保し、不要な呼気は試料採取用シリンジから開閉弁を開けて外部に排出する。そして、開閉弁を閉じるとともに三方電磁弁を動作させて、検出に必要な呼気のみを試料採取用シリンジから計量採取部に導入する。次に、計量採取部で導入された呼気は、六方コックによりさらに呼気を導入するタイミングが計られた上で、適当な量の呼気をガスクロマトグラムのカラム中に導入するという仕組みである(たとえば特許文献3の段落[0027]〜[0029]、図1、および図3参照)。
【0021】
このような構造を用いることにより、検出に必要な呼気のみをガスクロマトグラフのカラムに導入できることから、呼気を検出する上で非常に有効な構造である。
【0022】
しかしながら、特許文献3の呼気採取装置は、ガスクロマトグラフのカラムに必要な呼気のみを導入するために、開閉弁と三方電磁弁とを同時にON、OFFを切替える必要があり、しかも検量採取部でも呼気の流路を順次切り替える必要がある。このように1つの呼気採取装置内で3度の切替が行なわれるため、装置内の切替構造が複雑であり、その構造も大型化していた。また、この呼気採取装置には、体温以上の温度に加熱するための加熱装置も組み込まれている。
【0023】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、小型で簡易な構造であって、検出に必要な検体ガスのみをガス検出部に取り込んで検出を行なうことができるガス分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明のガス分析装置は、検体ガスを導入するためのガス導入口を備えるガス導入部と、該ガス導入部から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを備えるガス分離部と、該ガス分離部により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部とを備え、ガス導入部は、検体ガスを保持するためのガス収容部と、ガス導入口からガス収容部に検体ガスを導入するための第1の接続手段と、ガス収容部からガス分離部に検体ガスを供給するための第2の接続手段と、ガス導入口から導入された検体ガスの一部をガス収容部からガス排出口に排出するための第3の接続手段と、ガス収容部が第1の接続手段および第3の接続手段に接続されている状態を第1状態とし、ガス収容部が第2の接続手段に接続されている状態を第2状態とすると、第1状態から第2状態、または第2状態から第1状態に切り替える切替手段とを有することを特徴とする。
【0025】
第2状態において、ガス収容部にキャリアガスを供給するための供給手段を有することが好ましい。
【0026】
ガス収容部と供給手段とを接続するための第4の接続手段を有し、第2状態は、ガス収容部が第2の接続手段および第4の接続手段に接続されている状態であることが好ましい。
【0027】
切替手段は、第1状態から第2状態、または第2状態から第1状態に切り替えるタイミングを自動で制御する制御部を有することが好ましい。
【0028】
制御部は、第1状態および第2状態に交互に一定時間ごとに切替手段を自動で切り替えることが好ましい。
【0029】
ガス導入部は、第1の接続手段、ガス収容部、または第3の接続手段のいずれかに検体ガスを感知する感知センサを備え、該感知センサに基づいて、制御部は第1状態から第2状態になるように切替手段を切り替えることが好ましい。
【0030】
ガス収容部の容積を変更することにより、ガス分離部に供給する検体ガスの流量を制御することが好ましい。
【0031】
ガス導入部は、第4の接続手段を流れるキャリアガスの流速を制御する調圧手段を備えることが好ましい。
【0032】
調圧手段は、バルブ、またはレギュレータであることが好ましい。
ガス導入部は、第1の接続手段を流れる検体ガスの流速を制御する気流発生手段を備えることが好ましい。
【0033】
ガス導入口およびガス排出口には、検体ガスの入口および出口を有するガス採取部が接続され、検体ガスの入口および出口は、逆止弁を備えることが好ましい。
【0034】
検体ガスは、アセトンを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明のガス分析装置は、上記の構成を有することにより、小型で簡易な構造であって、検出に不要な検体ガスを外部に排出し、検出に必要な検体ガスをガス検出部に取り込んで検出を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)は、本発明のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、(b)は、本発明のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。
【図2】(a)は、本発明のガス分析装置に用いられるマイクロカラムの内部流路の構造の一例を示す図であり、(b)は、本発明のガス分析装置に用いられるマイクロカラムの内部流路の構造の別の一例を示す図である。
【図3】本発明のガス分析装置に用いられるガス検出部の一例を示す模式的な断面図である。
【図4】(a)は、本発明のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、(b)は、本発明のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。
【図5】(a)は、本発明のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、(b)は、本発明のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。
【図6】切替手段の動作を制御する制御部のフローチャートである。
【図7】ガス分析装置に呼気を導入してからのガスセンサの抵抗の経時変化を示すグラフである。
【図8】ガス分析装置が検出した検体ガス中のアセトン濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。また、本願の図面において、長さ、幅、厚さ等の寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0038】
(実施の形態1)
<ガス分析装置>
図1(a)は、本実施の形態のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、図1(b)は、図1(a)のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図1(a)に示されるように、検体ガスを導入するためのガス導入口11を備えるガス導入部10と、該ガス導入部10から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラム21を備えるガス分離部20と、該ガス分離部20により成分分離されたガス成分を検出するためのガス検出部30とを備え、ガス導入部10は、検体ガスを保持するためのガス収容部19と、ガス導入口11からガス収容部19に検体ガスを導入するための第1の接続手段12と、ガス収容部19からガス分離部20に検体ガスを供給するための第2の接続手段13と、ガス導入口11から導入された検体ガスの一部をガス収容部19からガス排出口に排出するための第3の接続手段14とを備えるものである。
【0039】
そして、本実施の形態において、ガス収容部19が第1の接続手段12および第3の接続手段14に接続されている状態を第1状態(図1(a)に相当)とし、ガス収容部19が第2の接続手段13に接続されている状態を第2状態(図1(b)に相当)とすると、第1状態から第2状態、または第2状態から第1状態に切り替える切替手段18を備えることを特徴とする。
【0040】
このように切替手段18を備えることにより、検体ガスの中でも不要なサンプルは第3の接続手段14を通じてガス排出口から外部に排出する一方、検体ガスの中でも必要なサンプルは第2の接続手段13を通じてガス分離部20に導入させることができる。本実施の形態のガス分析装置は、1つの切替手段18によりガス分離部20に検体ガスを導入する量およびタイミングを制御できる。このため、ガス分析装置の構造が極めて簡易となり、その小型化に寄与することになる。以下においては、検体ガスとして呼気を導入した場合の本実施の形態のガス分析装置の動作の一例を図1(a)および図1(b)を参照して説明する。
【0041】
<ガス分析装置の動作>
本実施の形態のガス分析装置の図1(a)に示される状態(以下においてこの状態のことを「第1状態」とも記す)において、呼気は、ガス導入口11から第1の接続手段12を通じてガス収容部19に供給される一方、ガス収容部19から第3の接続手段14を通じてガス排出口に排出される。ここで、第1の接続手段12および第3の接続手段14を流れる呼気の流速は、気流発生手段25により制御される。
【0042】
一方、図1(a)に示されるように、第1状態において、ガス分離部20に検体ガスを供給するための第2の接続手段13は、ガス収容部19には接続されておらず、キャリアガスを供給するための供給手段17と接続されている。このため、供給手段17から供給されるキャリアガスが第2の接続手段13を通じ、ガス分離部20のマイクロカラム21に供給される。
【0043】
次に、切替手段18を動作させることにより、ガス収容部19の接続先を、第1の接続手段12および第3の接続手段14が接続されている状態(第1状態)から、第2の接続手段13が接続されている状態(第2状態)に切り替える。このように第1状態から第2状態に切り替えることにより、第1の接続手段12から導入されたガス収容部19内の呼気が、供給手段17から供給されるキャリアガスとともに、第2の接続手段13を通じてガス分離部20のマイクロカラム21に供給される。
【0044】
ガス分離部20に供給された呼気は、マイクロカラム21の内部流路22の壁面の固定相と吸脱着が繰り返されるが、呼気の成分ごとに吸脱着のし易さが異なる。このため固定相に吸着しやすい成分ほど移動速度が遅くなり、固定相に吸着しにくい成分ほど移動速度が早くなるというように、呼気を成分分離することができる。
【0045】
ここで、マイクロカラム21の壁面には、呼気の成分のうちの水を成分分離するための固定相が修飾されている。従来から呼気に含まれる各成分を検出する上で、呼気中の水分は、アセトン等のガス成分の検出を阻害する最有力の成分であった。しかし、このようにマイクロカラム21の内部流路22に水を成分分離するための固定相を修飾することにより、呼気に含まれる水を効率的に成分分離することができる。なお、固定相を構成する材料の詳細は後述する。
【0046】
上記で成分分離した呼気の各ガス成分がガス検出部30に導入され、ガス検出部30のガスセンサ31により感知される。呼気がガス分析装置に導入されてから、ガスセンサ31がガス成分を感知するまでの時間を保持時間といい、かかる保持時間は呼気の成分により固有の値を示す。この保持時間に基づいて、ガス成分の同定を行ない、呼気中に含まれるガス成分を検出する。以下において、本実施の形態のガス分析装置を構成する各部を説明する。
【0047】
<ガス導入部>
本実施の形態において、ガス導入部10は、検体ガスの一部をガス分離部20に供給するために設けられるものである。このようなガス導入部10は、図1に示されるような構造のみに限られるものではなく、ガス分離部20に供給する検体ガスの流速およびタイミングを調整することができるものであれば、いかなる構造のものであっても良い。
【0048】
ガス導入部10が、上記のような構造を有することにより、検出に不要な検体ガスを外部に排出しつつ、検出に必要な検体ガスのみをガス分離部20に供給することができる。本実施の形態のガス導入部10の動作を、以下に図1(a)および図1(b)を用いて説明する。
【0049】
ガス導入部10は、検体ガスを保持するためのガス収容部19と、ガス導入口11からガス収容部19に検体ガスを導入するための第1の接続手段12と、ガス導入口11から導入された検体ガスの一部をガス収容部19からガス排出口に排出するための第3の接続手段14とを有する。そして、図1(a)に示される第1状態において、ガス収容部19は、第1の接続手段12および第3の接続手段14と接続されている。
【0050】
一方、ガス導入部10は、第1の接続手段12および第3の接続手段14とは別の接続手段として、第2の接続手段13を有することを特徴とする。ここで、第2の接続手段13は、ガス収容部19からガス分離部20に検体ガスを供給するために設けられるものである。ただし、第2の接続手段13がガス収容部19からガス分離部20に検体ガスを供給する機能を果たすのは、図1(b)に示される第2状態のときである。すなわち、図1(a)に示される第1状態では、第2の接続手段13は、ガス収容部19に接続されることなく、ガス分離部20のマイクロカラム21に接続されているため、ガス分離部20に検体ガスが供給されることはない。
【0051】
したがって、第1状態では、検体ガスがガス分離部20に供給されることはなく、第1の接続手段12から導入された検体ガスは、ガス収容部19を通過して、その一部がガス収容部19に保持されるとともに、残部は第3の接続手段14を通じてガス排出口から排出される。
【0052】
(切替手段)
本実施の形態において、切替手段18は、ガス収容部19が第1の接続手段12および第3の接続手段14に接続されている第1状態から、ガス収容部19が第2の接続手段13に接続されている第2状態に切り替えるために設けられるものである。切替手段18により、図1(a)に示される第1状態から図1(b)に示される第2状態に切り替えることができる。第2状態では、上記の第1状態でガス収容部19に保持された検体ガスが、第2の接続手段13からガス分離部20に供給される。
【0053】
そして、第2状態において、ガス収容部19に検体ガスがなくなったとき、またはガス分離部20に検体ガスが十分に供給されたとき、切替手段18が第2状態から第1状態に切り替える。第2状態から第1状態に切り替わると、第1の接続手段12からガス収容部19に再び検体ガスが導入される。このように第1状態と第2状態とを交互に切り替えることにより、適切な流量の検体ガスを適切なタイミングでガス分離部20に導入することができる。
【0054】
なお、図1(b)に示される第2状態においては、ガス収容部19が第1の接続手段12と第3の接続手段13と接続されていない。このため、第2状態において第1の接続手段12に導入される検体ガスは、第3の接続手段14を通じてガス排出口から外部に排出されることになる。したがって、ガス導入口11から第1の接続手段12を通じて検出に不要な検体ガスを導入する場合、ガス収容部19と第2の接続手段13とを接続する第2状態とすることにより、ガス収容部19に検体ガスを導入することなく、それを外部に排出することができる。
【0055】
(供給手段)
本実施の形態のガス分析装置のように、第2状態のときにガス収容部19にキャリアガスを供給するための供給手段17を有することが好ましい。このような供給手段17を備えることにより、ガス収容部19に保持されている検体ガスを、キャリアガスとともに第2の接続手段13を通じてガス分離部20に供給することができる。このような供給手段17は、ガス導入部10に内蔵されているものであってもよいし、図1に示されるように、ガス分析装置とは別の装置としてガス収容部19に接続されるものであってもよい。供給手段17としては、たとえばコンプレッサー、ガスボンベ、ポンプ等を挙げることができる。なお、キャリアガスとしては、たとえばヘリウム等の不活性ガスあるいは空気等を用いることが好ましい。
【0056】
(制御部)
上記の切替手段18は、第1状態から第2状態、または第2状態から第1状態に切り替えるタイミングを自動で制御する制御部(図示せず)を有することが好ましい。制御部を有することにより、切替手段18が第1状態から第2状態、または第2状態から第1状態に切り替えるタイミングを自動的に制御することができる。このように切替手段18を動作させることにより、ガス導入部10からガス分離部20に検体ガスを供給するタイミングを制御することができる。
【0057】
上記の制御部は、第1状態および第2状態に交互にそれぞれ一定の時間間隔で切替手段18を切り替えることが好ましい。ここで、「それぞれ一定の時間間隔」とは、第1状態を保持する時間と第2状態を保持する時間とが異なるものであってもよいことを意味する。すなわちたとえば第1状態を3分間保持した後に第1状態から第2状態に切り替え、さらに第2状態を2秒保持した後に、第2状態から第1状態に切り替えるという一連の動作を切替手段18が繰り返すように制御部を設定してもよい。
【0058】
このように一定の時間間隔で切替手段18を動作させることにより、一定の時間間隔で検体ガスの検出を行なうことができ、もって検体ガスの成分の時間変化を把握することができる。一定の時間間隔で検体ガスを検出するのに有効な一例としては、たとえばランニング、ウォーキング等の運動中において、呼気中のアセトン含有量の時間変化を把握する場合を挙げることができる。すなわちたとえば、20分間のウォーキングにおいて、ウォーキングの開始から3分ごとに合計6回呼気を検出し、それぞれの呼気中のアセトン濃度を測定することにより、アセトンの濃度変化を把握することができ、もって体脂肪の燃焼効率の時間変化を把握することができる。
【0059】
この場合、ウォーキングを開始してから3分後に第1状態から第2状態に切り替え、第2状態を2秒保持し、第2状態から第1状態に切り替えるという一連の動作を切替手段18が繰り返すように制御部を設定することが好ましい。このような制御部の設定は、たとえばコンピュータのプログラミングにより行なうことができる。
【0060】
ガス導入部10は、第1の接続手段12、ガス収容部19、または第3の接続手段14のいずれかに検体ガスを感知する感知センサ(図示せず)を備えることが好ましい。そして、当該感知センサが感知した情報に基づいて、切替手段18が第1状態から第2状態に切り替えるように制御部を設定することが好ましい。このように第1の接続手段12、ガス収容部19、または第3の接続手段14のいずれかに感知センサを備えることにより、ガス導入口11に検体ガスを導入してから、第1状態から第2状態に切り替えるまでの時間を制御することができる。
【0061】
ここで、第1状態から第2状態に切り替えるタイミングについて、第3の接続手段14に感知センサを設けた上で呼気を導入したときの切替手段の動作を例に説明する。検体ガスをガス導入口11から導入すると、その呼気は第1の接続手段12、ガス収容部19、および第3の接続手段14の順に導入される。呼気が第3の接続手段14を通過すると、感知センサがその信号を制御部に伝え、呼気が第3の接続手段14に導入されてから、たとえば5秒後に第1状態から第2状態に切り替わるというように制御部を設定することができる。
【0062】
このように制御部を設定することにより、たとえば成人の一回の呼吸で排出される500mlの呼気のうちの初めの150ml程度の呼気を外部に排出し、残りの350mlの呼気のみをガス検出部30に供給するというように切替手段を動作させることが可能となる。
【0063】
(ガス収容部)
ガス収容部19は、その容積を変更することができることが好ましい。このようにガス収容部19の容積を変更することにより、ガス分離部20に供給する検体ガスの流量を制御することができる。すなわちたとえば、ガス収容部19の容積が小さい場合、ガス収容部19の検体ガスの保持量が少なくなり、第1状態から第2状態への1回あたりの切替で、ガス分離部20に供給する検体ガスの流量を減少させることができる。
【0064】
このようなガス収容部19の容積は、10mm3以上100mm3以下であることが好ましい。10mm3未満であると、ガス分離部20に供給する検体ガスの流量が不十分であることにより検出精度が低下する傾向にあり、100mm3を超えると、過剰量の検体ガスがガス分離部20に供給され、完全な成分分離がされにくくなり、ガスセンサ31が精確な検出を行ないにくくなる。
【0065】
(調圧手段)
ガス導入部10は、供給手段17により供給されるキャリアガスの圧力を調整するための調圧手段(図示せず)を備えることが好ましい。調圧手段を用いてキャリアガスの導入の圧力を調整することにより、ガス分離部20に供給する検体ガス(キャリアガスも含む)の流量を制御することができる。
【0066】
このような調圧手段により制御される検体ガスの流速は、特に限定されずいかなる速度であってもよいが、10cm/sec以上100cm/sec以下であることが好ましい。検体ガスの流速が10cm/sec未満であると、ガス検出までに要する時間が長くなり、装置のスペック上好ましくない。検体ガスの流速が100cm/secを超えると、流速が早すぎることにより、後のガス分離部で検体ガスを成分分離しにくい傾向がある。このような調圧手段としては、たとえばバルブ、レギュレータ等を用いることができる。
【0067】
(気流発生手段)
ガス導入部は、第1の接続手段12を流れる検体ガスの流速を制御する気流発生手段25を設けることが好ましい。このように気流発生手段25を備えることにより、第1の接続手段12、ガス収容部19、および第3の接続手段14を流れる検体ガスの流速を所望の速度にすることができ、もってその流れの逆流を防ぐことができる。なお、気流発生手段25により制御される検体ガスの流速は、特に限定されずいかなる速度であってもよいが、1mL/sec以上10mL/sec以下であることが好ましい。
【0068】
<ガス分離部>
本実施の形態において、ガス分離部20は、ガス導入部10から導入された検体ガスに含まれる各種ガス成分を成分分離するために設けられるものであり、具体的には、ガス分離部20に備えられるマイクロカラム21より検体ガスの成分分離を行なうことができる。
【0069】
ここで、「マイクロカラム」とは、マイクロオーダーの幅および深さを有する微細な流路を備えるチップ状のクロマトグラフィカラムを意味するものである。このようなマイクロカラムの外形は、特に限定されるものではなく、たとえばSiウェハー等の基板を用いて、その外形が縦横数mm〜数十cmで、その厚みを数mm〜数cm程度とすることができる。
【0070】
なお、検出ガスの「成分分離」とは、検体ガスを構成する全ての成分を各成分ごとに分離する場合はもちろん、検体ガスを構成する成分のうちのいずれか1の成分を、他の少なくとも1の成分から分離する場合も含まれるものとする。すなわち、検体ガスが3以上の成分を含む場合、3以上の成分のうちの少なくとも1の成分が他の2以上の成分から分離されている限り、検体ガスの成分分離は達成されており、本発明の範囲に含まれる。
【0071】
ガス分離部20には、マイクロカラム以外のクロマトグラフィカラムとして、固定相をコーティングした担体を充填したパックドカラム、内壁に固定相が塗布されたキャピラリーカラム等を用いることも考えられるが、これらのクロマトグラフィカラムは、温度を制御するために大きな恒温槽を備える必要があり、ガス分析装置自体が大型化することになりかねず、所期の目的に反することになるため好ましくない。
【0072】
また、マイクロカラムの内部流路の幅および深さ(高さ)はそれぞれ、たとえば100〜300μm程度とすることができる。マイクロカラムの内部流路の幅および深さは、目的成分の種類やマイクロカラムに導入される検体ガスの流量などを考慮して決定されることが好ましい。
【0073】
また、内部流路22は、その長さが3m以上30m以下であることが好ましく、5m以上25m以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10m以上20m以下である。内部流路22の長さが3m未満であると、検体ガスの成分分離を十分に行なうことができず、内部流路22の長さが30mを超えると、測定に要する時間が長時間となるため好ましくない。
【0074】
図2(a)は、本実施の形態のマイクロカラムにおける内部流路の構造の一形態を示した図であり、図2(b)は、本実施の形態のマイクロカラムにおける内部流路の構造の別の一形態を示した図である。マイクロカラムの内部流路の構造は、図1(a)に示されるような蛇形流路の構造のみに限られるものではなく、たとえば図2(a)に示されるような円のスパイラル状の内部流路の構造であってもよく、図2(b)に示されるように四角のスパイラル状の内部流路の構造であってもよい。
【0075】
本実施の形態において、マイクロカラム21は、その内部流路22の壁面に固定相が修飾されており、該固定相は、30℃での比誘電率が10以上の極性材料からなることが好ましい。このような10以上の比誘電率を有する極性材料は、強極性であることにより、特に水のような極性物質の流速を顕著に遅らすことをもって、検体ガスに含まれる成分のうちの水を効率的に成分分離することができる。
【0076】
このような10以上の比誘電率を有する極性材料としては、たとえば平均分子量が1000以下のポリエチレングリコールの他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。なお、固定相を構成する材料の比誘電率は、誘電率測定装置を用いて算出された値を採用するものとする。
【0077】
固定相が有する極性が強いほど、検体ガスの各成分ごとの極性差がマイクロカラム中を流れる検体ガスの移動速度に差をもたらし、検体ガスを成分分離しやすいものと考えられる。そして、固定相の極性の強弱は、その材料の比誘電率の高低により決定されるという関係から、固定相を構成する材料は、11以上の比誘電率を有することがより好ましく、さらに好ましくは13以上の比誘電率を有することである。固定相を構成する材料の比誘電率が10未満であると、検体ガス中の水を成分分離することができないため好ましくない。
【0078】
ここで、検体ガス中の水を成分分離するのに有効な固定相の材料としては、200以上1000以下の平均分子量を有するポリエチレングリコール(以下においては「PEG」とも記する)を用いることがより好ましい。PEGは、その平均分子量が多いほど粘度が上昇するとともに、その極性が小さくなる傾向にあり、平均分子量が小さいほど粘度が低下するとともに、その極性が強くなる傾向がある。このため、PEGの粘度と極性とのバランスの観点からは、25℃での比誘電率が12.7である平均分子量が600程度のPEG(PEG600)を用いることがさらに好ましい。
【0079】
ポリエチレングリコールの平均分子量が200未満であると、その粘度が低いことによりマイクロカラム21の内部流路22の壁面に保持されにくく、ポリエチレングリコールの平均分子量が1000を超えると、十分な極性を有しないことから、検体ガスの分離能が低下する傾向がある。また、マイクロカラム21は、温度制御手段を備えていてもよい。温度制御手段を備えることにより、マイクロカラム21の温度を一定に保つことができ、もってより精確に成分分離を行なうことができる。
【0080】
また、検体ガスを成分分離する性能を高めるという観点から、マイクロカラムの内部流路の壁面に修飾される固定相の厚みは、1μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0081】
ここで、固定相の厚みは、内部流路の壁面に固定相を修飾したマイクロカラムの断面を、レーザー顕微鏡を用いて観察したときの画像に基づいて直接測定することにより算出されたものを採用する。
【0082】
<マイクロカラムの作製>
本実施の形態における、マイクロカラムの作製方法を具体的な一例を挙げて説明する。まず、Siウェハー等の基板表面にフォトリソグラフィ技術を用いて、エッチング加工、ブラスト加工等の微細加工を行なうことにより連続した溝を形成する。
【0083】
ついで、連続した溝を形成した基板とガラス板とを、基板の溝形成面側がガラス板に対向するように陽極接合などの手法により気密に接合する。次に、形成された内部流路の一端に未修飾のキャピラリーガラスを取り付け、マイクロカラムの内部流路内に固定相を溶解させた溶液を充填する。その後、その溶媒を除去することによりマイクロカラムの内部流路の内壁に固定相を修飾する。
【0084】
<ガス検出部>
ガス検出部30は、ガス分離部20で分離されたガス成分を順次検出するための部位であり、ガスセンサを用いることが好ましい。本実施の形態において、ガス検出部30は、化学物質を検出するためのガスセンサ31を有する。このガスセンサ31としては、半導体センサ、電気化学式ガスセンサ、水素炎イオン化検出器(FID:Flame Ionization Detector)、GCM等を用いることができる。本実施の形態においては、SnO2、ZnO等から構成される非選択的な半導体センサを用いる。
【0085】
図3は、本実施の形態のガス分析装置に用いられるガス検出部の一例を示す模式的な断面図である。本実施の形態において、半導体センサ31は、図3に示されるように、ガス分離部により分離されたガス成分の出口の近傍に設置することが好ましい。このようにガス成分の出口の近傍に半導体センサ31を設置することにより、検体ガス中の目的成分の検出感度を高めることができる。なお、ガス分離部20のマイクロカラムの内部流路と、ガス検出部30とはキャピラリーガラスチューブ55により接続されている。
【0086】
上記で説明したように、ガス分離部20とガス検出部30とは、キャピラリーガラスチューブ55を用いて接続するが、キャピラリーガラスチューブの管径が小さいため、キャピラリーガラスチューブ55のガス成分の出口と半導体センサ31とが離れていると、半導体センサ31が検体ガスを感知しにくい傾向にあるため好ましくない。
【0087】
半導体センサ31は、導線等を介してデジタルマルチメータなどの信号受信機構(図示せず)に接続されることが好ましい。このような信号受信機構は、半導体センサ31がガス成分を検出すると、半導体センサ31の定抵抗の電圧値の変化を信号変化として受信する必要がある。
【0088】
さらに、信号受信機構はコンピュータに接続されていることが好ましい。ここでのコンピュータとは、信号受信機構が検出した信号データの蓄積し、該信号データをクロマトグラムに変換し、かつその変換したデータの表示を行なうもののことをいう。なお、コンピュータが切替手段の機能を有しており、第1状態と第2状態とを切り替える制御部を兼ねていてもよい。
【0089】
<検体ガス>
本実施の形態のガス分析装置を用いて成分分離される検体ガスは、アセトンを含むことが好ましい。従来のガス分析装置では、水中に微量に含まれるアセトンを効率的に成分分離することが困難であり、たとえ成分分離できたとしても、その成分分離の精度が十分なものではなかった。しかし、本実施の形態のガス分析装置ではかかる従来の課題を一掃し、短時間で検体ガス中の水を成分分離することができる。このような検体ガスとして、たとえば検体ガスを用いることができる。
【0090】
(実施の形態2)
図4(a)は、本実施の形態のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、図4(b)は、図4(a)のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。本実施の形態のガス分析装置は、図4(a)および(b)に示されるように、実施の形態1のガス分析装置に対し、ガス導入口11およびガス排出口16にガス採取部40を設置したこと、および供給手段17とガス収容部19とを接続するための第4の接続手段15を有することを特徴とし、これ以外は実施の形態1のガス分析装置と同一のものである。以下において、実施の形態1と重複する部分についてはその説明を省略する。
【0091】
(第4の接続手段)
本実施の形態のガス分析装置のように、ガス収容部19と供給手段17とを接続するための第4の接続手段15を有することが好ましい。このように供給手段17とガス収容部19とを第4の接続手段15を用いて接続することにより、ガス収容部19に効率的にキャリアガスを供給することができる。この場合、第2状態は、ガス収容部19が第2の接続手段13および第4の接続手段15に接続されている状態になる。
【0092】
(ガス採取部)
本実施の形態のガス分析装置において、図4(a)に示されるように、ガス導入口11およびガス排出口16にガス採取部40を接続することが好ましい。ガス採取部40を接続することにより、ガス導入口11に検体ガスを効率的に導入することができるとともに、検体ガスを収容するスペースを設けることができる。
【0093】
しかも、このようなガス採取部40は、検体ガスがガス採取部40、第1の接続手段12、ガス収容部19、および第3の接続手段14を循環する循環経路としての役割も果たす。
【0094】
ガス採取部40の導入口にはマウスピース、マスク等のように口をあて検体ガスを直接導入することができるようなものを有していることが好ましい。このようにマウスピース、マスク等を有することにより、ガス採取部40に検体ガスを導入しやすい。
【0095】
そして、ガス採取部40は、検体ガスの入口および出口に逆止弁41を備えることが好ましい。このようにガス採取部40が逆止弁41を備えることにより、検体ガスの一部はガス採取部40から排出されるが、その残部は、ガス採取部40、第1の接続手段12、ガス収容部19、および第3の接続手段14内を循環される。
【0096】
なお、図4(a)および図4(b)においては、ガス採取部40を用いてガス導入部10に検体ガスを導入する場合を例示しているが、ガス導入部10に検体ガスを導入する方法は、ガス採取部40のみに限られるものではなく、図1(a)および図1(b)に示すように、ガス導入口11にバッグを直接接続してガス導入部10に検体ガスを導入してもよい。
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0098】
図5は、本発明のガス分析装置の一例のある状態を示す模式図である。本実施例では、以下の手順により図5に示されるガス分析装置を作製した。まず、ガス分離部120として、幅が200μmであって深さが200μmの内部流路122を200μmの間隔で蛇行状に形成したマイクロカラム121を作製した。以下においては、マイクロカラム121の作製の手順を具体的に述べる。
【0099】
まず、6インチのシリコンウエハに対し、フォトリソグラフィ加工をした後にエッチングを行なうことにより、幅が200μmであって、深さが200μmの蛇行状の溝を200μmの間隔で形成した。このようにして形成された内部流路122の全長は約16mであった。そして、シリコン基板の溝を形成した側に対し、6インチのガラス板を陽極接合を用いて密着させた。その後、ダイシングすることにより、8cm四方のマイクロカラムを作製した。
【0100】
このようにして得られた内部流路122の導入口および排出口に、外径が0.35mmであり、内径が0.25mmであって、その内径の表面が未修飾のキャピラリーガラスを取り付けた。
【0101】
一方、平均分子量が600であって、30℃での比誘電率が13.74のポリエチレングリコール(PEG600:ジーエルサイエンス株式会社製)をアセトンに溶解させた0.5%アセトン溶液を準備した。かかる0.5%アセトン溶液をガス分離部120のマイクロカラム121の導入口から導入し、その内部流路122内にアセトン溶液を充填した。
【0102】
そして、ホットプレートを用いてガス分離部120を80℃に昇温した後に10分間保持することにより、内部流路122内のアセトンをほとんど蒸発させた。このようにしてアセトンをほぼ蒸発させた後に、溶媒トラップを有するダイヤフラム型ドライ真空ポンプDA−15D(アルバック機工株式会社製)を内部流路122の導入口側に接続した。
【0103】
この真空ポンプを数十分間稼動させて、内部流路122内の溶媒を完全に除去することにより、マイクロカラム121の内部流路122の壁面に、PEG600からなる固定相を備えるガス分離部120を形成した。このようにして作製したガス分離部120の断面をレーザー顕微鏡で観察し、その固定相の厚みを実測したところ、固定相の厚みは1μmであることが明らかとなった。
【0104】
次に、ガス導入部110として、ガスクロマトグラフ用手動ガスサンプラー(ジーエルサイエンス株式会社製)を準備した。ここで、ガスクロマトグラフ用手動ガスサンプラー(以下、「ガスサンプラー」とも記する)は、検体ガスを導入するための第1流路112と、ガス分離部120に検体ガスを供給するための第2流路113と、検体ガスの一部をガス排出口から排出するための第3流路114と、キャリアガスを導入するための第4流路115と、検体ガスを保持するためのガス収容部119とを有するものである。ここで、第1流路112、第2流路113、第3流路114、および第4流路115の内径はいずれも、0.8mmであった。
【0105】
このようなガスサンプラーは、ガス収容部119が第1流路112および第3流路114に接続される第1状態と、ガス収容部119が第2流路113および第4流路115に接続される第2状態とを交互に切り替えるための切替手段118を有しており、この切替手段118は、切り替えるタイミングを制御するための制御部(図示せず)に接続されている。
【0106】
また、第4流路115には調圧手段117を備え、かかる調圧手段117により第4流路115からガス収容部119に供給されるキャリアガスの流速を制御した。一方、第3流路114には感知センサを備えており、検体ガスが感知センサを通過したときの情報を制御部に伝達したときに、その情報に基づいて制御部が切替手段118の動作をコントロールした。
【0107】
図6は、切替手段の動作を制御する制御部のプログラムのフローチャートである。図6のフローチャートに示されるように、まず、切替手段18を自動で切り替えるか手動で切り替えるかを設定する。ここで、手動で切り替える場合は制御部はなんら起動せず、適切なタイミングに手動で第1状態から第2状態に切替手段18を切り替える必要がある。
【0108】
一方、自動で切り替えることを選択した場合、一定の時間間隔で切替手段18を切り替えるか、それともガス収容部19に検体ガスがなくなった時点で切り替えるかを選択する。一定の時間間隔で切替手段18を切り替える場合には、その切り替える時間間隔を設定するとともに、その測定回数を設定する。このようにして設定時間ごとに切替が行なわれて、ガス検出部で検出される。1回の測定が終わった後に、ガス収容部19に検体ガスが残存する場合には、再度設定時間の経過後に切替が行なわれて測定されることもある。
【0109】
ガスサンプラーの第1流路112および第3流路114をガス採取部140にそれぞれ接続した。ガス採取部140の出口および入口には、それぞれ逆止弁141を設け、検体ガスが逆流するのを防ぐようにした。第3流路114とガス採取部140との接続部には気流発生手段125として小型ポンプを取り付けた。この小型ポンプにより、検体ガスが第1流路112、ガス収容部119、第3流路114、およびガス採取部140を循環するようにした。
【0110】
一方、ガスサンプラーの第2流路113とマイクロカラム121の内部流路122とを1/16×0.25 レデューシングユニオンを用いて接続した。これによりガスサンプラーの第4流路115から導入されたキャリアガスを、第2流路113を通じてマイクロカラム121の内部流路122に導入した。
【0111】
次に、ガス分離部120のマイクロカラム121に対し、キャピラリーチューブの一端を挿入することにより接続した。一方、キャピラリーチューブの他端を、ガス検出部130の半導体センサ131から1.5mmの位置となるように接続した。このようにして実施例1のガス分析装置を作製した。実施例1で作製されたガス分析装置は、小型で簡易な構造であるため、持ち運びも可能なものであった。
【実施例2】
【0112】
実施例1のガス分析装置に対し、ガス採取部140を接続することなくサンプルバックを用いて呼気を導入することにしたことを除いては実施例1と同様の方法により、実施例2のガス分析装置を作製した。実施例2で作製されたガス分析装置は、小型で簡易な構造であるため、持ち運びも可能なものであった。
【0113】
<ガス分析装置の性能評価>
実施例1および2のガス分析装置を用いて、体重65kgの男性が30分間ウォーキングを行なったときに排出される呼気中のアセトンの含有率の時間変化を測定した。
【0114】
具体的には、ウォーキングを開始してから5分後に、実施例1のガス分析装置のガス採取部に呼気を吹き込んだ。呼気を導入してから2秒後に、第3流路114に設置された感知センサが反応して制御部を駆動し、切替手段118が第1状態から第2状態に切り替えた。かかる第2状態において、ガス収容部119から50cm/secの流速でガス分離部121に導入し、2秒間保持した後に、再度第2状態から第1状態に切り替えた。そして、導入してから53秒後にガス検出部130のガスセンサ131により、ガス成分を検出しそのピークを確認した。このようにして検体ガスのガス成分を検出した。
【0115】
一方、ウォーキングを開始してから5分後に、呼気をサンプルバックに取り込んだ。当該サンプルバックに取り込んだ呼気をガス導入部110のガス導入口111から導入した。このように呼気を導入したことを除いては実施例1のガス分析装置と同様の方法により呼気のガス成分を検出した。
【0116】
図7は、ガス分析装置に呼気を導入してからのガスセンサの抵抗の経時変化を示すグラフであり、横軸は、呼気を導入してからの時間(秒)を示し、縦軸は、その時間での抵抗比変化を示している。図7からも明らかなように、実施例1のガス分析装置は、実施例2のガス分析装置に比べて、抵抗変化が顕著に見られることから、検体ガスの検出精度が高いことが明らかである。
【0117】
図8は、ガス分析装置が検出した検体ガス中のアセトン濃度を示すグラフである。上記の図7の抵抗比変化に基づいて、検体ガス中のアセトン濃度を算出したところ、図8の棒グラフに示される結果となった。図8のグラフの結果から、実施例1のガス分析装置は、実施例2のガス分析装置に比して、アセトン濃度を高く検出していることがわかる。このように実施例1のガス分析装置が、アセトン濃度を高く検出しているのは、呼気のうちの不要成分を外部に排出していることによるものと考えられる。
【0118】
すなわち、実施例1のガス分析装置は、排出する呼気のうちの最初に排出される検出に不要な約150mlを外部に排出した後に検出に有効な約350mlの呼気のみを検体ガスとして検出している。一方、実施例2のガス分析装置は、呼気のうちの検出に不要な約150mlと必要な約350mlとがサンプルバック中で混合された上で、その混合ガスを検体ガスとして検出している。このような違いが図8のようなアセトン濃度の検出量に差異をもたらしているものと推察される。
【0119】
なお、検出に不要な150mlの呼気、および検出に必要な350mlの呼気は、説明の便宜のために上記においては仮の値を用いたものであって、厳密には各個人により不要な呼気および必要な呼気の容量は異なったものとなる。
【0120】
以上の説明からも明らかなように、実施例1のようにガス採取部を備えたガス分析装置は、実施例2のようにガス採取部を有しないガス分析装置に比して、呼気の検出精度を高めることができることは明らかである。
【0121】
このように動作する本発明のガス分析装置は、呼気のうちの検出に必要な検体ガスのみをガス検出部に取り込んで検出を行なうことが明らかである。
【0122】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0123】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、予防医療の促進に有効であって、小型でかつパーソナルユースに適したガス分析装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0125】
10,110 ガス導入部、11 ガス導入口、12 第1の接続手段、13 第2の接続手段、14 第3の接続手段、15 第4の接続手段、16 ガス排出口、17 供給手段、18,118 切替手段、19,119 ガス収容部、20,120 ガス分離部、21,121 マイクロカラム、22,122 内部流路、25,125 気流発生手段、30,130 ガス検出部、31,131 半導体センサ、40,140 ガス採取部、41,141 逆止弁、55 キャピラリーガラスチューブ、112 第1流路、113 第2流路、114 第3流路、115 第4流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体ガスを導入するためのガス導入口を備えるガス導入部と、
前記ガス導入部から供給される検体ガスを成分分離するためのマイクロカラムを備えるガス分離部と、
前記ガス分離部により分離されたガス成分を検出するためのガス検出部とを備え、
前記ガス導入部は、検体ガスを保持するためのガス収容部と、前記ガス導入口から前記ガス収容部に検体ガスを導入するための第1の接続手段と、前記ガス収容部から前記ガス分離部に検体ガスを供給するための第2の接続手段と、前記ガス導入口から導入された検体ガスの一部を前記ガス収容部からガス排出口に排出するための第3の接続手段と、前記ガス収容部が前記第1の接続手段および前記第3の接続手段に接続されている状態を第1状態とし、前記ガス収容部が前記第2の接続手段に接続されている状態を第2状態とすると、前記第1状態から前記第2状態、または前記第2状態から前記第1状態に切り替える切替手段とを有する、ガス分析装置。
【請求項2】
前記第2状態において、前記ガス収容部にキャリアガスを供給するための供給手段を有する、請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記ガス収容部と前記供給手段とを接続するための第4の接続手段を有し、
前記第2状態は、前記ガス収容部が前記第2の接続手段および前記第4の接続手段に接続されている状態である、請求項1または2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記切替手段は、前記第1状態から前記第2状態、または前記第2状態から前記第1状態に切り替えるタイミングを自動で制御する制御部を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1状態および前記第2状態に交互にそれぞれ一定時間ごとに前記切替手段を自動で切り替える、請求項4に記載のガス分析装置。
【請求項6】
前記ガス導入部は、前記第1の接続手段、前記ガス収容部、または第3の接続手段のいずれかに検体ガスを感知する感知センサを備え、
前記感知センサに基づいて、前記制御部は前記第1状態から前記第2状態になるように前記切替手段を切り替える、請求項4または5に記載のガス分析装置。
【請求項7】
前記ガス収容部の容積を変更することにより、前記ガス分離部に供給する検体ガスの流量を制御する、請求項1〜6のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項8】
前記ガス導入部は、前記第4の接続手段を流れるキャリアガスの流速を制御する調圧手段を備える、請求項3〜7のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項9】
前記調圧手段は、バルブ、またはレギュレータである、請求項8に記載のガス分析装置。
【請求項10】
前記ガス導入部は、前記第1の接続手段を流れる検体ガスの流速を制御する気流発生手段を備える、請求項1〜9のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項11】
前記ガス導入口および前記ガス排出口には、検体ガスの入口および出口を有するガス採取部が接続され、
前記検体ガスの入口および出口は、逆止弁を備える、請求項1〜10のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項12】
前記検体ガスは、アセトンを含む、請求項1〜11のいずれかに記載のガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−163819(P2011−163819A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24460(P2010−24460)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】