説明

ガス分析装置

【課題】目的ガスの濃度測定の測定可能範囲を広くすることのできるTDLAS法によるガス分析装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るガス分析装置では、吸収線判定部82で今回用いた吸収線がその目的ガスの濃度測定に適していないと判定された場合、情報記憶部81に保持されている複数の吸収線の中から別の吸収線の情報を1つ選択する。情報記憶部81には、各々の吸収線に対応するLD1の駆動電流及び温調温度の設定値が保持されている。制御部2はこの設定値に基づいてLD駆動部3とLD温調部5を制御し、次の測定を開始する。一方、その吸収線が測定に適していると判定された場合、濃度算出部83は、情報記憶部81に保持されている、その吸収線に対応する吸収線強度及び吸収特性関数の情報を参照しつつ、透過光強度、ガス温度、圧力の各測定値に基づいて濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光に対する吸収を利用して被測定ガス中の特定成分の濃度を測定するガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体(被測定ガス)中の目的ガスの濃度を測定する方法の1つとして、ガス分子が特定波長の光のみを吸収することを利用した吸収分光法がある。吸収分光法は、被測定ガスに非接触で目的成分ガス(目的ガス)の濃度を測定することができることを特長の1つとしている。
【0003】
近年、吸収分光法の中でも、半導体レーザダイオードを光源に用い、目的ガスの持つ所定の吸収線(吸収スペクトル)を対象にレーザ光の波長を走査するTDLAS(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy)法が確立されている。TDLAS法では、光源の単色性が高いため、目的ガスのみの光吸収を選択的に受けるようにすることができる。その結果、他のガス成分の影響を受けにくい。また、レーザダイオードは高速点灯、高速変調駆動が容易に行えるため、応答性に優れるといった利点も有している。
【0004】
以下、TDLAS法の理論について簡単に説明する。レーザ光の周波数をν、周波数νにおける被測定ガスへのレーザ光の入射光強度I0(ν)、周波数νにおけるレーザ光の透過光強度をI(ν)、目的ガスの分子数密度をc、被測定ガスを通過する光路長をL、目的ガスの吸収線の線強度(吸収線強度)をS、該吸収線のプロファイル関数(吸収特性関数)をK(ν)とすると、ランベルト・ベール(Lambert-Beer)の法則より、次の(1)式が成り立つ。
【数1】

【0005】
TDLAS法には、光強度を周波数νに亘って測定して積分する方法と、吸収線の中心周波数ν0における光強度を測定する方法と、がある。ここでは後者の方法についてのみ説明する。中心周波数ν0では、(1)式は次の(2)式によって表される。
【数2】

【0006】
吸収線強度Sは一般に、標準状態における吸収線強度Srefに対し、温度Tに関する補正項を乗じたもので近似される。この吸収線強度Srefの値は、吸収線のデータベースとして提供されているHITRANから容易に知ることができる。また、光路長Lは既知である。したがって、吸収特性関数K(ν0)さえ正確に決定することができれば、(2)式から目的ガスの濃度を算出することができる。
吸収特性関数K(ν)は被測定ガスの圧力に応じて3種類の関数のいずれかとなることが知られている。
【0007】
[1]被測定ガスが大気圧である場合
この場合、吸収特性関数K(ν)は次の(3)式のようなローレンツ(Lorentz)関数で表される。
【数3】

ここで、γLは大気圧における吸収スペクトルの半値半幅であり、被測定ガスの種類、温度、及び圧力に依存する。
特に中心周波数ν0においては次の(4)式となる。
【数4】

【0008】
[2]被測定ガスの全圧が1Torrよりも高真空領域である場合
この場合、吸収特性関数K(ν)は次の(5)式のようなガウス関数となる。
【数5】

上式のγEDはドップラ幅と呼ばれ、次の(6)式で表される。
【数6】

ここで、kBはボルツマン定数、Tはガス温度、Mは目的ガスの分子量である。(6)式より、ドップラ幅γEDは、吸収線の中心周波数、分子量、及び温度に依存しており、1Torrよりも高真空領域では、吸収特性関数K(ν)は被測定ガスの圧力による影響を受けないことが分かる。
(5)式の吸収特性関数K(ν)は特に中心周波数ν0においては次の(7)式となる。
【数7】

【0009】
[3]大気圧と1Torrとの間の中間圧力の場合
この場合、吸収特性関数K(ν)はフォークト(Voigt)関数と呼ばれ、上記ローレンツ関数とガウス関数との畳み込み関数で表されるものとなる。
【0010】
上記は入射光強度I0(ν)と透過光強度I(ν)を直接的に測定することにより濃度を算出する方法(以下、「直接吸収分光法」という)であるが、濃度が非常に低い場合に有効な方法として、レーザ変調波の整数倍の周波数で検出する分光法(以下「波長変調分光法」という)が知られている(例えば非特許文献1参照)。波長変調分光を行う場合、被測定ガスへ照射する光の周波数を、次の(8)式に示すように変調させる。
【数8】

ここで、tは時間、aは周波数変調のための正弦波信号の変調振幅、ωは周波数である。
【0011】
2次高調波同期検出では、(8)式によって周波数変調されたレーザ光の2倍の周波数2ωに対応した信号成分が抽出される。周波数νにおける2次高調波検出信号signal(ν)は次の(9)式によって規定される。
【数9】

ここで、constは比例定数であり、検出器及び同期検出回路の感度によって変化する。比例定数constは、上記の直接吸収分光法など別の手段で予め既知となった濃度のガスを測定することにより決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−99845号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ウエブスター(C. R. Webster)、「インフラレッド・レーザ・アブソープション:セオリー・アンド・アプリケイションズ・イン・レーザ・リモート・ケミカル・アナリシス(Infrared Laser Absorption : Theory and Applications in Laser Remote Chemical Analysis)」、ウィレイ(Wiley)、ニュー・ヨーク(New York)、1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
TDLAS法によるガス濃度測定は、例えば半導体処理ガス中において有害とされる水分のモニタリングや、煙道中の一酸化炭素、二酸化窒素などのモニタリングなどに利用される。TDLAS法では被測定ガスに非接触で目的ガスの濃度を算出することができるため、既存の半導体製造装置の排気ラインや煙道などに対しても最小限の変更を施すだけでインライン測定が可能となる。しかしながら、その反面、光路長を自由に設定することができない場合がある。このような場合、例えば光路長が長すぎると、レーザ光が目的成分ガスによる吸収を受けすぎて大幅に減衰してしまい、測定精度が低下してしまったり、測定自体が不可能になってしまったりすることがある。
【0015】
また、半導体製造装置などでは、被測定ガスの圧力が大気圧付近から急激に且つ大きく減じるような状況の下で目的ガスの濃度測定を行うことがある。このような場合、被測定ガスの急激な圧力変化に伴って目的ガスの濃度が大きく変化し、透過光強度が大きく変化することによりレーザ光受光部の検出可能範囲を超えてしまうことがある。
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、目的ガスの濃度測定の測定可能範囲を広くすることのできるTDLAS法によるガス分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために成された本発明は、
被測定ガスにレーザ光を照射するレーザ照射部と、前記被測定ガス中を通過したレーザ光を受光する受光部と、を備え、前記受光部で受光したレーザ光の強度から、前記被測定ガスに含まれる目的ガスの濃度を算出するガス分析装置において、
前記目的ガスの複数の吸収線に関する情報と、該複数の吸収線の各々における受光強度から該目的ガスの濃度を算出するための情報と、を記憶する情報記憶手段と、
前記レーザ照射部の発振波長を前記各吸収線に関する情報に基づき設定する発振波長調整手段と、
前記受光部で受光したレーザ光強度と前記各濃度算出情報とに基づいて、前記目的ガスの濃度を算出する濃度算出手段と、
を有することを特徴とする。
【0018】
従来のTDLAS法によるガス分析装置では、所定の目的ガスの濃度を測定する際、該目的ガスの1つの吸収線のみを対象としていた。これに対し、本発明に係るガス分析装置は、対象とする吸収線を複数にしたことを特徴とする。これによって次のような効果が生じる。
【0019】
同じ目的ガスであっても、吸収線が異なると吸収係数が変化する。すなわち、目的ガスによるレーザ光の吸収量(減衰量)は吸収線毎に異なる。従って、例えば受光部で受光した光の透過率が著しく小さい(すなわち光の吸収率が著しく大きい)場合は吸収係数の小さい吸収線にレーザ発振波長を切り替えて測定を行い、逆に透過率が著しく大きい(すなわち光の吸収率が著しく小さい)場合は吸収係数の大きい吸収線にレーザ発振波長を合わせて測定を行えば、適正な透過率で濃度測定を行うことが可能となる。同様に、ガス分析装置を設置する場所によって光路長を大きく取らざるを得ない場合は、吸収係数の小さい吸収線に切り替え、また光路長を小さく取らざるを得ない場合は吸収係数の大きい吸収線に切り替えることによって、様々な使用条件に対応することが可能となる。
【0020】
なお、濃度を算出するためには吸収線強度及び吸収特性関数が必要となる。これらは吸収線毎に異なるため、各々の吸収線に対応して情報記憶手段に記憶され、濃度を算出する際に利用される。前記濃度算出情報としては、吸収線強度及び吸収特性関数そのものでなく、これらを算出するためのパラメータ(例えばγLやγED、Srefなど)であっても良い。
【0021】
前記発振波長調整手段は、前記レーザ照射部に流すレーザ駆動電流と該レーザ照射部の温度のいずれか一方又は両方の制御によって、前記レーザ照射部の発振波長を調整することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るガス分析装置では、目的ガスの濃度を測定する際、複数の吸収線の中から測定に適した吸収線を選択して測定を行うことができる。これにより、1台のガス分析装置で様々な使用条件に対応することができる。また、従来よりも測定可能な濃度範囲を広げ、かつ高精度に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るガス分析装置の一実施例である水分測定装置の概略ブロック図。
【図2】直接吸収分光法で得られる信号波形の一例を示す図。
【図3】1.3μm帯におけるレーザ光の波長と水蒸気透過率の関係を示すグラフ。
【図4】レーザ光の波長を1.3686μm又は1.3692μmとしたときの、水分濃度と透過率の関係を示すグラフ。
【図5】レーザ光の波長を1.3686μm又は1.3692μmとしたときの、水分濃度と透過率の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るガス分析装置の一実施例である水分測定装置について、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例による水分測定装置の概略ブロック図である。なお、この実施例の装置は、直接吸収分光法により被測定ガス中の水分(水蒸気)の濃度を測定するものであるが、特定波長でレーザ光を吸収するガスであれば、他のガス濃度の測定も可能である。
【0025】
本実施例の水分測定装置において、半導体レーザダイオード(LD)1は、制御部2の制御の下にLD駆動部3から供給される駆動電流に応じて、所定の波長範囲で波長が走査されるレーザ光を測定セル4に照射する。LD1としては例えばDFB(Distributed Feedback)型レーザで、水分子が吸収線をもつ1.3μm帯の波長のものを使用することができるが、これ以外でも、水分子の吸収線が存在する波長で発振するような波長可変レーザであれば使用することができる。もちろん、水ではなく別の目的ガスの濃度を測定する場合には、その目的ガスの吸収スペクトルが存在する波長で発振するような波長可変レーザを用いればよい。LD1はまた、制御部2の制御の下にLD温調部5により一定の温度に温調される。
【0026】
測定セル4には被測定ガスが連続的に導入されており、LD1から照射されたレーザ光は測定セル4を通過する間に被測定ガスに含まれる成分による吸収を受ける。そうして吸収を受けた後のレーザ光がフォトダイオード(PD)6に到達し、PD6は受光強度に応じた測定信号を出力する。PD6から出力された測定信号は第一A/D変換器7によりデジタル値に変換され、透過光強度I(ν)としてデータ処理部8に入力される。
【0027】
(2)式により水分量を算出する場合、対象とする吸収線の中心周波数ν0における透過光強度I(ν0)の他に、中心周波数ν0における入射光強度I00)も必要となる。入射光強度I00)については、次の方法により求めることができる。
【0028】
図2は透過光強度I(ν)の信号波形の一例であり、横軸は周波数偏差ν−ν0、縦軸は信号強度である。この図に示すように、周波数偏差ゼロ、すなわち中心周波数ν0付近において吸収スペクトルが観測される。入射光強度I0(ν)は目的ガスによる吸収がないときの信号強度であるから、非吸収領域において測定した透過光強度I(ν)から近似曲線を描き、中心周波数ν0における該近似曲線の値を求めることにより、入射光強度I00)を得ることができる。
【0029】
なお、入射光強度I00)は、目的ガス(本実施例では水分)が存在しない状態で予め測定しておいた透過光強度を利用することもできる。
【0030】
測定セル4内には温度センサ9及び圧力センサ10が配設されており、被測定ガスのガス温度Tと圧力(全圧)Pが測定される。温度センサ9及び圧力センサ10から出力された測定信号は、それぞれ第二A/D変換器11及び第三A/D変換器12によりデジタル値に変換されたうえで、データ処理部8に入力される。
なお、被測定ガスのガス温度が既知である場合には、温度センサ9及び第二A/D変換器11を図1の構成から省くことができる。同様に、被測定ガスの圧力が既知である場合には、圧力センサ10及び第三A/D変換器12を図1の構成から省くことができる。
【0031】
データ処理部8は、情報記憶部81、吸収線判定部82、濃度算出部83を含む。上記のように、本発明は目的ガスの濃度測定に用いる吸収線を複数にしたことを特徴とする。情報記憶部81には、水分子の濃度測定に用いる様々な情報が、各々の吸収線に対応して記憶されている。ここで、濃度測定に用いる情報とは、例えば制御部2がLD駆動部3及びLD温調部5を制御するための設定値や、吸収線判定部82における判定条件、濃度算出部83の濃度算出に用いる吸収線強度や吸収特性関数、などである。
【0032】
吸収線判定部82は今回の測定において対象とした水分子の吸収線が測定に適していたか否かを判定するためのものである。吸収線判定部82でその吸収線が適していないと判定された場合、情報記憶部81に保持されている複数の吸収線の情報の中から、今回対象とした吸収線とは別の吸収線の情報を1つ選択する。情報記憶部81には、各々の吸収線に対応するLD1の駆動電流及び温調温度の設定値が保持されている。この設定値は制御部2に送られ、制御部2は該設定値に基づいてLD駆動部3とLD温調部5を制御し、次の測定を開始する。
吸収線判定部82において、対象とした吸収線が測定に適していると判定された場合、濃度算出部83において水分濃度の算出を行う。濃度算出部83は、情報記憶部81に保持されている、その吸収線に対応する吸収線強度及び吸収特性関数の情報を参照しつつ、透過光強度、ガス温度、圧力の各測定値に基づいて濃度を算出する。その結果は出力部13に送られ、モニタ等に該結果が出力される。
【0033】
本実施例の水分測定装置の測定動作について、具体例を挙げて説明する。
【0034】
図3は、1.3μm帯において吸収係数が大きい1.3686μm付近の吸収帯を示している。一般的なDFB型レーザの特性では、半導体素子を10℃変化させると、発振波長は1nm程度変化する。従って、中心波長が1.3686μmである吸収線を濃度測定に使用する場合、他の吸収線として実用的な候補となるのは、±5nm以内の吸収係数が相対的に小さい吸収線であり、とりわけ図2に示す中心波長が1.3682μm、1.3689μm、1.3692μmである吸収線を好適に用いることができる。もちろん、これら以外の吸収線を用いても構わない。
【0035】
以下の具体例では、濃度測定に用いる吸収線として中心波長がλ1=1.3686μm、λ2=1.3692μmのものを用いることにする。
【0036】
図4及び図5は、光路長Lを1000cm、ガス温度Tを300Kとし、レーザ光の波長を1.3686μm、1.3692μmとしたときの、水分濃度と透過率(透過光強度/入射光強度)の関係を示したものである。なお、図4は相対的に低濃度でppmオーダでの変化を、図5は大気中に自然に存在する水蒸気レベルで、10000ppm(1%)前後での変化を、それぞれ示している。これらの図から、吸収係数の大きい1.3686μmの波長では、L=1000cmの場合、ppmオーダ以下の微量水分測定には適しているものの、%オーダではレーザ光が吸収されすぎてしまい、殆どPD6まで届かないことが分かる。一方の1.3692μmの波長では、ppmオーダの水分量変化に対しては透過率の変化が少ないものの、%オーダまで透過率が変化し続けるため、1000cmの光路長で大気レベルの水蒸気量を測定しなければならないような環境では、こちらの波長の吸収線を使用する方が、広範囲且つ高精度に測定することができる。
【0037】
次に、測定に使用する吸収線の選択と、各吸収線に対する濃度の算出について説明する。例えば、当初、低濃度水分状態で中心波長λ1=1.3686μm(中心周波数ν1)の吸収線を対象として濃度測定を行っていたとする。ここで、
【数10】

を吸収線判定部82の判定条件とし、この判定条件が満たされていれば、中心波長λ1=1.3686μmの吸収線の選択が適切であるとして、次の式から水分濃度(水分子数密度)cを算出する。
【数11】

上式のS1及びK1はν1を中心周波数とする吸収線に対応する吸収線強度と吸収特性関数であり、情報記憶部81に格納された情報と、ガス温度の測定値Tと、圧力の測定値Pとに基づいて算出される。
【0038】
一方、水分濃度が上昇して(10)式の条件が満たされなくなった場合、この吸収線では水分濃度が高過ぎると判断し、λ2=1.3692μm(中心周波数ν2)の吸収線を対象とした測定に切り替える。この際、駆動電流の設定は変えず、LD温調部5の温調温度の設定を6℃程度上昇させると、上記のようにLD1の発振波長が変化し、λ2=1.3692μmの吸収線を対象とした測定を行うことができる。
なお、LD温調部5の温調温度の設定ではなく、駆動電流の設定によって吸収線の切り替えを行っても良い。また、両方の設定を変更することにより、吸収線の切り替えを行っても良い。
【0039】
一方、λ2=1.3692μmの吸収線を対象とした測定を行う場合、吸収線判定部82は、
【数12】

を判定条件として用いる。この判定条件が満たされていれば、中心波長λ2=1.3692μmの吸収線の選択が適切であるとして、次の式から水分濃度(水分子数密度)cを算出する。
【数13】

ここで、S2及びK2はν2を中心周波数とする吸収線に対応する吸収線強度と吸収特性関数であり、情報記憶部81に格納された情報と、ガス温度の測定値Tと、圧力の測定値Pとに基づいて算出される。
【0040】
水分濃度が低下して(12)式の条件が満たされなくなった場合、この吸収線では水分濃度が低過ぎると判断し、LD温調部5の温調温度の設定を6℃程度低下させて、λ1=1.3686μmの吸収線を対象とした測定に切り替える。
【0041】
以上、本発明に係るガス分析装置の一実施例を示したが、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形や修正、追加などを行っても、本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0042】
例えば、上記実施例では吸収線判定部82における判定により自動で測定に適した吸収線が選択されたが、装置が出力部に選択可能な吸収線を示し、分析者が自らその中から1つを選択する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0043】
1…半導体レーザダイオード(LD)
2…制御部
3…LD駆動部
4…測定セル
5…LD温調部
6…フォトダイオード(PD)
7…第一A/D変換器
8…データ処理部
81…情報記憶部
82…吸収線判定部
83…濃度算出部
9…温度センサ
10…圧力センサ
11…第二A/D変換器
12…第三A/D変換器
13…出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスにレーザ光を照射するレーザ照射部と、前記被測定ガス中を通過したレーザ光を受光する受光部と、を備え、前記受光部で受光したレーザ光の強度から、前記被測定ガスに含まれる目的ガスの濃度を算出するガス分析装置において、
前記目的ガスの複数の吸収線に関する情報と、該複数の吸収線の各々における受光強度から該目的ガスの濃度を算出するための情報と、を記憶する情報記憶手段と、
前記レーザ照射部の発振波長を前記各吸収線に関する情報に基づき設定する発振波長調整手段と、
前記受光部で受光したレーザ光強度と前記各濃度算出情報とに基づいて、前記目的ガスの濃度を算出する濃度算出手段と、
を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記発振波長調整手段が、前記レーザ照射部に流すレーザ駆動電流と該レーザ照射部の温度のいずれか一方又は両方の制御により、前記レーザ照射部の発振波長を調整することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記受光部で受光した光の透過率又は吸収率に基づき、前記複数の吸収線の中からその目的ガスの測定に適した吸収線が自動で選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記目的ガスが水分であることを特徴とする請求項1〜3に記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記水分の濃度測定に使用する複数の吸収線のうち、一つが中心波長1.3686μmの吸収線であり、それ以外の吸収線が1.3636μmから1.3736μmの間にあることを特徴とする請求項4に記載のガス分析装置。
【請求項6】
前記水分の濃度測定に使用する複数の吸収線のうち、一つが中心波長1.3686μmの吸収線であり、それ以外が中心波長1.3636μm、1.3689μm、1.3692μmの吸収線のいずれか一つ又は複数であることを特徴とする請求項4に記載のガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50403(P2013−50403A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189084(P2011−189084)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】