説明

ガス分析計

【課題】部品数の増加や大型化を招くことなく簡単な構成で測定ガスと参照ガスとの湿度をほぼ等しくし、被測定対象物質の濃度を高精度に測定可能としたガス分析計を提供する。
【解決手段】被測定対象物質を含む参照ガスを通過した赤外線と、前記参照ガスを酸化させてなる測定ガスを通過した赤外線とを干渉補償検出器5に導入し、前記参照ガス及び測定ガスによる赤外線吸収量に基づいて前記被測定対象物質の濃度を測定するガス分析計において、参照ガスが通過する第1のガス通過室20Aと、測定ガスが通過する第2のガス通過室20Bとを半透過水蒸気交換膜20C等の調湿体を介して隣設させた調湿器20を設け、前記交換膜20Cを介して第1及び第2のガス通過室20A,20Bの相互間で水分を授受させて前記参照ガス及び測定ガスの水分濃度をほぼ等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、非分散型赤外線吸収方式(NDIR方式)を利用した揮発性有機化合物(VOC)分析計等に適用可能なガス分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は、いわゆるダブルビーム型NDIR方式VOC分析計の従来技術を示す概略的な構成図である。図3において、1は赤外線を発生する光源、2はチョッパ、3は干渉ガスが封入され、かつ、赤外線ビームを二つに分配する分配セル、4Aは参照セルとしての第1の試料セル、4Bは測定セルとしての第2の試料セル、5は両試料セル4A,4Bを通過した赤外線が入射し、かつ、内部に被測定対象物質(ガス)が希釈封入されていると共にサーマルフローセンサやコンデンサマイク等からなるセンサを内蔵した干渉補償検出器、6は検出器5の出力信号を増幅するアンプ、7は試料ガス中の被測定対象物質である揮発性有機化合物(VOC)を触媒により酸化させてCOに変換する酸化炉、8aは試料ガスを試料セル4Aに導入するための配管、8bは試料セル4Aと酸化炉7との間の配管、8cは酸化炉7と試料セル4Bとの間の配管、8dは試料セル4Bから出口に至る配管である。
【0003】
このVOC分析計では、試料セル4Aにおいて酸化炉7を通過する前の試料ガス(参照ガス)を透過させた基準側赤外線と、試料セル4Bにおいてガス中のCOにより特定スペクトルが減少した測定側赤外線とを干渉補償検出器5に入射させ、試料セル4A,4Bにおける赤外線吸収量の差(特定スペクトルの赤外線の強度差)をセンサにより流量差に変換して電気信号として取り出すことにより、試料ガスに含まれるVOCの濃度を測定している。
なお、この種のNDIR方式のガス分析計は、例えば特許文献1等に記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、大気中のCOガス等の濃度を測定する流体変調式のガス分析装置において、比較ガス(参照ガス)及び測定ガスをそれぞれ一旦、個別に加湿し、その後に除湿して両ガスを同じ低湿度の条件におくことにより、測定ガス中の被測定対象ガスの濃度に近似させた比較ガスを分析部のセルに供給して被測定対象ガスの僅かな濃度変化を高精度に分析可能とした技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】実開昭61−140949号公報(第1図、第2図等)
【特許文献2】特許第2696692号公報(段落[0005]、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3に示した従来技術では、酸化炉7においてVOCを酸化させる際に、目的とするCOの他にHOが生成されるため、酸化炉7の通過前後では水分濃度が変化することになる。すなわち、第2の試料セル4Bには酸化炉7により生成された水分がCOと共に供給されるので、第1の試料セル4A内の参照ガスに比べて水分濃度が増加することになり、その結果、COの濃度を正確に測定できないという問題があった。
【0007】
また、第1の従来技術では、燃焼部と試料セル(測定セル)との間に除湿除塵部を配置し、試料セルに供給される試料ガスの除湿及び除塵を行う構成が開示されているが、除湿後の試料ガスの水分濃度が比較セル(参照セル)内のキャリアガスの水分濃度と等しくなる保証はないため、図3の従来技術と同様の問題があった。
【0008】
更に、前記特許文献2に記載された従来技術は、測定ガスと比較ガスとの湿度の相違が被測定対象ガスの濃度測定に大きな影響を与える点に鑑み、測定ガス及び比較ガスの供給路にそれぞれ加湿手段及び除湿手段を設け、これらの除湿手段を経たガスを分析計に導入するものであるが、加湿手段や除湿手段を各ガスに対応させて設けているので部品数が多く、コスト高になると共に、装置全体が大型化するという不都合があった。
【0009】
そこで本発明の解決課題は、部品数の増加や大型化を招くことなく簡単な構成で測定ガスと参照ガスとの湿度をほぼ等しくし、被測定対象物質の濃度を高精度に測定できるようにしたガス分析計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、被測定対象物質を含む参照ガスを通過した赤外線と、前記参照ガスを酸化させてなる測定ガスを通過した赤外線とを検出器に入射させ、前記参照ガス及び測定ガスによる赤外線吸収量に基づいて前記被測定対象物質の濃度を測定するガス分析計において、
前記参照ガスが通過する第1のガス通過室と、前記測定ガスが通過する第2のガス通過室とを調湿体を介して隣設させた調湿器を設け、前記調湿体を介して第1及び第2のガス通過室の相互間で水分を授受させて前記参照ガス及び測定ガスの水分濃度をほぼ等しくするものである。
【0011】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載したガス分析計において、
前記ガス分析計が非分散型赤外線吸収方式を利用した揮発性有機化合物分析計であり、
前記第1のガス通過室を通過した参照ガスが供給される第1の試料セルと、第1の試料セルを通過した参照ガスが供給される酸化炉と、この酸化炉により酸化されて前記第2のガス通過室を通過した測定ガスが供給される第2の試料セルと、第1の試料セル及び第2の試料セルを通過した赤外線が入射して前記被測定対象物質としての揮発性有機化合物の濃度を測定する干渉補償検出器と、を備えたものである。
【0012】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載したガス分析計において、
前記調湿体が、半透過水蒸気交換膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、参照ガス及び測定ガスが水分のみを授受しながら内部を通過する調湿器を設けたことにより、両ガスの水分濃度をほぼ等しくして検出器に導入することができ、水分濃度の相違に起因した測定誤差をなくして高精度に被測定対象物質の濃度を測定することができる。
また、参照ガス及び測定ガスのそれぞれに対して加湿手段や除湿手段を設置する必要がないため、構成が簡単で装置全体の大型化や高コスト化を招くおそれもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示すダブルビーム型NDIR方式VOC計の概略的な構成図であり、図3と同一の構成要素には同一の参照符号を付して詳述を省略し、以下では異なる部分を中心に説明する。
【0015】
図1において、被測定対象物質としてのVOCを含む試料ガスが導入される配管9aには、調湿器20の第1のガス通過室20Aの一端が連結されており、このガス通過室20Aの他端から出た配管9bは、参照セルとしての第1の試料セル4Aに連結されている。
第1の試料セル4Aから出た配管9cは酸化炉7に連結され、この酸化炉7から出た配管9dは、前記調湿器20の第2のガス通過室20Bの一端に連結されている。そして、このガス通過室20Bの他端から出た配管9eは測定セルとしての第2の試料セル4Bに連結され、この試料セル4Bから出た配管9fは測定ガスの出口に連結されている。
なお、図3と同様に、分配セル3から出射して両試料セル4A,4Bを通過した赤外線は後段の干渉補償検出器5に入射している。
【0016】
ここで、上記調湿器20は、第1のガス通過室20Aと第2のガス通過室20Bとを調湿体としての半透過水蒸気交換膜20Cを介して隣設したものであり、二つのガス通過室20A,20Bを通過するガスにそれぞれ含有された水分のみを交換膜20Cを介して授受させることにより、両室20A,20Bを通過するガスの水分濃度を等しくするように作用するものである。
【0017】
本実施形態によれば、上記構成により、酸化炉7の出口側の配管9dを通過する高水分濃度の測定ガスが、配管9dを介して調湿器20の第2のガス通過室20Bに導入される(図1では、配管9dにおける水分濃度が高いガスをハッチングにて表している)。
一方、配管9aを介して供給された水分濃度の低い試料ガス(参照ガス)が第1のガス通過室20Aに導入されているため、調湿器20では、半透過水蒸気交換膜20Cを介して両室20A,20B間で水分が授受され、両室20A,20B内のガスの水分濃度がほぼ等しくなる。なお、図1における両室20A,20B内のグラデーション表示は、ガス通過室20Aでは出口(図の下端部)に向かうほど水分濃度が高くなり、ガス通過室20Bでは出口(同)に向かうほど水分濃度が低くなることを示している。
【0018】
従って、第1のガス通過室20Aの下流側の配管9bを介して第1の試料セル4Aに導入されるガス(参照ガス)の水分濃度と、第2のガス通過室20Bの下流側の配管9eを介して第2の試料セル4Bに導入されるガス(測定ガス)の水分濃度とは、ほぼ等しくなる。これにより、分配セル3からの赤外線は、水分濃度がほぼ等しい各試料セル4A,4B内のガスを透過して干渉補償検出器5に入射するようになり、同一の水分濃度条件を有する参照ガスと測定ガスとを用いて、水分による干渉を受けずにCO濃度、ひいてはVOC濃度を正確に測定することが可能になる。
【0019】
上記のように本実施形態では、前述した特許文献1と異なり、両試料セル4A,4Bに導入される参照ガスと測定ガスとの水分濃度をほぼ等しくすることができる。
また、特許文献2のごとく、参照ガス側と測定ガス側とに加湿手段及び除湿手段を個別に設けるといった構成を必要とせず、半透過水蒸気交換膜20Cを介して二つのガス通過室20A,20Bを隣設させた単一の調湿器20を配管の途中に設けるだけで参照ガス及び測定ガスの水分濃度を等しくすることができるため、部品数の減少によるコストの低減や分析計全体の小型化が可能である。
【0020】
次に、図2は本発明の第2実施形態を示すシングルビーム型NDIR方式VOC分析計の概略的な構成図である。
この分析計は、第1のガス通過室20Aから三方弁12bを介して供給される参照ガスと、第2のガス通過室20Bから三方弁12aを介して供給される測定ガスとを、検出器5’へ交互に導入し、単一の赤外線ビームを参照ガス及び測定ガスに照射することにより、参照ガスを透過した基準側赤外線とガス中のCOにより特定スペクトルが吸収された測定側赤外線との強度差を検出器5’内のセンサにより流量差に変換して電気信号として取り出すことで、試料ガスに含まれるVOCの濃度を測定するものである。
【0021】
図2において、11a〜11iは配管、12a,12bは三方弁、13a,13bは流路抵抗、14はポンプであり、ポンプ14を運転しながら三方弁12a,12bを切り替えることにより、検出器5’に参照ガスと測定ガスとを交互に導入するように構成されている。なお、その他の構成要素について、図1と同一のものには同一の参照符号を付してある。
【0022】
この実施形態では、ポンプ14を運転することにより、始めのサイクルでは、参照ガスの流路(配管11b→第1のガス通過室20A→配管11e→三方弁12b→配管11g→検出器5’→流路抵抗13b→配管11i)と、測定ガスの流路(配管11a→酸化炉7→配管11c→第2のガス通過室20B→配管11d→三方弁12a→配管11f→流路抵抗13a→配管11h)とを同時に形成するように三方弁12a,12bを切り替え、これにより検出器5’に参照ガスを導入する。
また、次のサイクルでは、参照ガスの流路(配管11b→第1のガス通過室20A→配管11e→三方弁12b→配管11k→配管11f→流路抵抗13a→配管11h)と、測定ガスの流路(配管11a→酸化炉7→配管11c→第2のガス通過室20B→配管11d→三方弁12a→配管11j→検出器5’→流路抵抗13b→配管11i)とを同時に形成するように三方弁12a,12bを切り替え、これにより検出器5’に測定ガスを導入する。
そして、これらの各サイクルで検出器5’に導入した参照ガス、測定ガスを対象として赤外線の強度差を測定することにより、CO濃度を測定する。
なお、図2では便宜上、赤外線の光源や試料セル、検出器5’に接続されるアンプ等の図示を省略してある。
【0023】
本実施形態においても、参照ガス及び測定ガスを、第1,第2のガス通過室20A,20B及び半透過水蒸気交換膜20Cを備えた調湿器20に通過させることにより、両ガスの水分濃度をほぼ等しくして検出器5’に交互に供給することができる。
これにより、同一の水分濃度条件を有する参照ガスと測定ガスとを用いて、水分による干渉を受けずにCO濃度、すなわち試料ガス中のVOC濃度を正確に測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係るダブルビーム型NDIR方式VOC分析計の概略的な構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るシングルビーム型NDIR方式VOC分析計の概略的な構成図である。
【図3】従来技術を示すダブルビーム型NDIR方式VOC分析計の概略的な構成図である。
【符号の説明】
【0025】
1:光源
2:チョッパ
3:分配セル
4A:第1の試料セル
4B:第2の試料セル
5:干渉補償検出器
5’:検出器
6:アンプ
7:酸化炉
8a〜8d,9a〜9f,11a〜11j:配管
12a,12b:三方弁
13a,13b:流路抵抗
14:ポンプ
20:調湿器
20A:第1のガス通過室
20B:第2のガス通過室
20C:半透過水蒸気交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象物質を含む参照ガスを通過した赤外線と、前記参照ガスを酸化させてなる測定ガスを通過した赤外線とを検出器に入射させ、前記参照ガス及び測定ガスによる赤外線吸収量に基づいて前記被測定対象物質の濃度を測定するガス分析計において、
前記参照ガスが通過する第1のガス通過室と、前記測定ガスが通過する第2のガス通過室とを調湿体を介して隣設させた調湿器を設け、前記調湿体を介して第1及び第2のガス通過室の相互間で水分を授受させて前記参照ガス及び測定ガスの水分濃度をほぼ等しくすることを特徴とするガス分析計。
【請求項2】
請求項1に記載したガス分析計において、
前記ガス分析計が非分散型赤外線吸収方式を利用した揮発性有機化合物分析計であり、
前記第1のガス通過室を通過した参照ガスが供給される第1の試料セルと、第1の試料セルを通過した参照ガスが供給される酸化炉と、この酸化炉により酸化されて前記第2のガス通過室を通過した測定ガスが供給される第2の試料セルと、第1の試料セル及び第2の試料セルを通過した赤外線が入射して前記被測定対象物質としての揮発性有機化合物の濃度を測定する干渉補償検出器と、を備えたことを特徴とするガス分析計。
【請求項3】
請求項1または2に記載したガス分析計において、
前記調湿体が、半透過水蒸気交換膜であることを特徴とするガス分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−170982(P2007−170982A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369031(P2005−369031)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】