説明

ガス分解装置及び発電装置

【課題】筒状MEA内を流れるガスの温度を高めて分解効率をより高めることができるとともに、外部配管やこれを接続する接続部材、及びこれらの間に設けられるシール構造が熱により損傷するのを防止し、さらに製造コストを低減させることを課題とする。
【解決手段】筒状の固体電解質層1と、この固体電解質層の内周部に積層形成された第1の電極層2と、上記固体電解質層の外周部に積層形成された第2の電極層5とを有する筒状MEA7を用いて構成されるガス分解装置100であって、ガスを上記筒状MEA内に出入りさせる接続部材30と、上記筒状MEAを収容して加熱する加熱容器51とを備え、上記筒状MEAに、上記加熱容器の外部に突出する突出部41を設け、上記接続部材を上記突出部の先端部に設けて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ガス分解装置及び発電装置に関する。詳しくは、所定のガスを効率良く分解することができるガス分解装置、このガス分解装置を備える発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、アンモニアは農業や工業に不可欠の化合物であるがヒトには有害であるため、水中や大気中のアンモニアを分解する種々の方法が知られている。高濃度のアンモニアを含む水からアンモニアを分解除去するために、アンモニア水を噴霧するとともに空気流と接触させて空気中にアンモニアを分離し、次亜臭素酸溶液又は硫酸と接触させる方法が提案されている(特許文献1)。また、上記方法と同じプロセスで空気中にアンモニアを分離して触媒により燃焼させる方法(特許文献2)や、アンモニア含有排水を、触媒を用いて、窒素と水に分解する方法が提案されている(特許文献3)。さらに、半導体製造装置の廃ガスには、アンモニア、水素等が含まれることが多く、アンモニアの異臭を完全に除去するには、ppmオーダーにまで除去する必要がある。この目的のために、半導体装置の廃ガス放出の際にスクラバーを通して、薬品を含む水に有害ガスを吸収させる方法が多く用いられてきた。一方、エネルギや薬品等の投入なしに安価なランニングコストで有害ガスを分解するために、リン酸燃料電池でアンモニアを分解する、半導体製造装置等における廃ガス処理の方法も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−31966号公報
【特許文献2】特開平7−116650号公報
【特許文献3】特開平11−347535号公報
【特許文献4】特開2003−45472号公報
【特許文献5】特許第3238086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような中和剤等の薬液を用いる方法、特許文献2に記載されているような燃焼させる方法、特許文献3に記載されているような触媒を用いた熱分解反応による方法により、アンモニアを分解することはできる。ところが、これらの方法では、薬品や外部エネルギ(燃料)を必要とし、さらには、触媒を定期的に交換する必要があり、ランニングコストが大きくなるという問題がある。
【0005】
また、装置が大掛かりとなり、既存の設備に付加的に設ける場合には、スペースを確保するのが困難である。また、リン酸型燃料電池を、化合物半導体製造の排気中のアンモニアの除去に用いる装置についても、電解質が液体であるため、空気側とアンモニア側との仕切りをコンパクトにできず、装置の小型化が難しいという問題があった。
【0006】
上記問題を解決するため、特許文献5に記載されているように、筒状の固体電解質層と、この固体電解質層を内外から挟むようにして積層形成された第1の電極層及び第2の電極層とを備えて構成される筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を採用することができる。上記筒状MEAの内側空間を、分解されるガスを含む気体が、軸方向に流動させられる。
【0007】
上記ガスを分解するには、ガスを含む気体の温度をできるだけ高めて、上記筒状MEAの第1の電極層(燃料極)に作用させるのが好ましい。このため、上記筒状MEAの全体を加熱するヒータが設けられている。
【0008】
従来の筒状MEAでは、両端部に接続部材を接続して、ガスを筒状MEAの内部空間で一方向に流動させるように構成されている。ところが、上述したように、筒状MEAの全体が高温に保持されるため、上記筒状MEAの両端部と上記接続部材との間のシール性能が低下しやすく、接続の信頼性が低いという問題があった。
【0009】
また、上記筒状MEAを含むガス分解素子の全体が、上記加熱ヒータを設けた加熱容器内に設けられることになるため、上記接続部材やこれに接続される接続配管にも高い耐熱性が要求されることになる。このため、これらの間のシール構造や接続配管を高価な耐熱性材料で形成する必要があり、装置の製造コストを増加させる。
【0010】
本願発明は、筒状MEA内を流れるガスの温度を高めて分解効率をより高めることができるとともに、外部配管やこれを接続する接続部材、及びこれらの間に設けられるシール構造が熱により損傷するのを防止し、さらに製造コストを低減させることのできるガス分解装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1に記載した発明は、筒状の固体電解質層と、この固体電解質層の内周部に積層形成された第1の電極層と、上記固体電解質層の外周部に積層形成された第2の電極層とを有する筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を用いて構成されるガス分解装置であって、ガスを上記筒状MEA内に出入りさせる接続部材と、上記筒状MEAを収容して加熱する加熱容器とを備え、上記筒状MEAに、上記加熱容器の外部に突出する突出部を設け、上記接続部材を上記突出部の先端部に設けて構成したものである。
【0012】
本願発明に係るガス分解装置においては、高いガス分解性能を得るために、筒状MEAを高温に、たとえば、800℃以上に保持する必要がある。このため、上記加熱容器が設けられるとともに、筒状MEAが上記加熱容器内に収容される。
【0013】
本願発明では、上記筒状MEAに、上記加熱容器の外部に突出する突出部を設け、上記接続部材を上記突出部の先端部に設けている。すなわち、上記接続部材を、上記加熱容器の外側であって、上記加熱容器から離れた位置に設けている。この構成によって、上記加熱容器内の筒状MEAから上記接続部材に伝導される温度が低下させられる。したがって、筒状MEAと上記接続部材間のシール性能の低下を防止し、ガス漏れ等を防止することができる。また、上記接続部材やこれに接続される配管に高い耐熱性が要求されることがなくなり、接続の信頼性が高まるとともに、製造コストを低減させることができる。
【0014】
上記突出部の構成は、特に限定されることはない。請求項2に記載した発明のように、上記突出部を、上記筒状MEAの一部を、上記加熱容器から突出させて構成することができる。
【0015】
また、請求項3に記載した発明のように、上記突出部の一部又は全部を、上記筒状MEAと別部材から形成することができる。たとえば、上記筒状MEAに連続する筒状のセラミック部材を、上記筒状MEAの端部に接続して、上記突出部を形成することができる。
【0016】
上記突出部を構成する別部材は、材料自体が耐熱及び断熱性を備えるもので形成するのが好ましい。ただし、断熱性は必須ではない。すなわち、上記接続部材に作用する温度を低減させることができれば、種々の材料を採用することができる。たとえば、耐熱性及び断熱性の高いセラミック等を採用することができる。また、ニッケル等の金属材料で上記突出部を形成した場合、上記突出部において、上記筒状MEAから伝導される熱を逃がして、上記接続部材や配管部材に作用する温度を低減させるように構成することもできる。
【0017】
請求項4に記載した発明のように、上記突出部を冷却する冷却手段を設けることができる。上記冷却手段の構成は特に限定されることはない。たとえは、上記突出部に放熱フィン等を設けることができる。また、上記突出部に冷却用空気や冷却水を採用させて、冷却することもできる。これにより、上記突出部先端の温度を容易に設定することが可能となる。
【0018】
また、上記突出部を上記筒状MEAと別部材で形成する場合には、冷却手段を突出部に一体形成することもできる。
【0019】
請求項5に記載した発明のように、上記突出部先端の温度を、205℃以下となるように設定するのが好ましい。205℃を越える温度では、シール構造の耐熱性を確保するのが困難になる。上記温度範囲に設定する手段は、特に限定されることはない。上記冷却手段を用いて設定できる他、たとえば、上記突出部の長さを調節することにより、上記温度を設定することができる。上記設定温度は、接続部材間のシール構造の耐熱性、接続部材や接続配管の耐熱性に応じて設定することができる。
【0020】
上記構成を採用することにより、上記開口端部と上記接続部材間のシール構造や上記接続部材が熱によって損傷等するのを防止することができる。また、上記接続部材や配管部材に耐熱性の低い部材を採用することが可能となり、製造コストを低減させることができる。
【0021】
上記突出部を設けることにより、上記接続部材に作用する温度を大幅に低下させることができる。これにより、請求項6に記載した発明のように、上記接続部材を、樹脂材料から形成することが可能となる。上記樹脂材料の種類は特に限定されることはない。たとえば、テフロン樹脂(デュポン社の登録商標)等のフッ素樹脂を採用することができる。また、樹脂材料から上記接続部材を形成することにより、加工等を容易に行うことも可能となり、製造コストを低減させることができる。
【0022】
上記筒状MEAの形態は特に限定されることはない。両端に開口端部を備え、ガスを一方法に流動させるように構成された筒状MEAを採用することができる。
【0023】
また、請求項7に記載した発明のように、上記筒状MEAを、一端部を封止して設けられるとともに、上記加熱容器内に配置される封止部と、上記筒状MEAの内部空間に挿入されて、上記筒状MEAの内周面との間に筒状流路を形成するガス誘導パイプを備えて構成し、上記接続部材を介して上記ガス誘導パイプ内に導入されたガスを、上記封止部に向けて流動させるとともに、上記封止部近傍において上記誘導パイプ内から流出させることにより反転流動させ、上記筒状流路を上記ガス誘導パイプ内の流れと反対方向に向けて流動させながら第1の電極層に作用させて分解し、上記接続部材を介して排出するように構成することができる。
【0024】
上記構成を採用することにより、ガスを出入りさせる接続部材を片側のみに設けることが可能となり、筒状MEAと上記接続部材とのシール構造も1か所に設ければ良い。したがって、接続の信頼性が高まる。また、部品点数や加工工程を低減させることができる。
【0025】
また、上記構成を採用することにより、筒状MEAを流れるガスは、筒状MEAの筒長さの2倍の距離を流動させられることになる。このため、上記ガス誘導パイプ内でガスの温度を上昇させた後に、上記筒状MEAに作用させることができる。したがって、ガスの分解効率を高めることが可能となり、ガスの流量を増加させてガスの処理量を増加させることが可能となる。
【0026】
上記筒状MEAの一端部を封止する構成は特に限定されることはない。たとえば、上記筒状MEAの一端部を、上記固体電解質層を一体延出させて形成された底部によって封止することができる。上記底部は、成形及び焼結工程において筒状MEAと一体形成されるため、ガスが漏れ出る恐れはなく、筒状MEAの一端部を確実に封止することができる。
【0027】
また、上記筒状MEAの一端部を、封止部材を筒状MEAの端部に嵌合させて封止することもできる。この構成を採用することにより、本願発明を従来の両端が開口された従来の筒状MEAに適用することが可能となる。
【0028】
上記筒状MEAにおけるガスの出入り口は、分解前のガスと分解後のガスが混合しないように、二重構造を備える接続部材が設けられる。上記接続部材は、上記ガス誘導パイプに連通するガス導入部を備えるとともに、上記ガス誘導パイプの外周部を囲み、側部にガス排出部を有する環状の排気空間を備えて構成することができる。上記接続部材を採用することにより、上記筒状MEAの一方の側から、分解されるガスを含む気体を導入するとともに、分解されたガスを含む気体を排出することができる。
【0029】
また、上記ガス誘導パイプを第1の電極層の集電体として利用することができる。すなわち、上記ガス誘導パイプを導電性材料から形成するとともに、上記第1の電極層に導通させられて、上記第1の電極層の集電体を構成することができる。
【0030】
上記ガス誘導パイプを第1の電極層の集電体として利用することにより、ガス分解効率を高めることができるばかりでなく、筒状MEA内のスペースを有効活用することができる。しかも、上記突出部内において、上記ガス誘導パイプに導通する配線を設けることができる。
【0031】
上記ガス誘導パイプを構成する材料は特に限定されることはないが、分解するガスによって腐食等が生じない材料で形成する必要がある。たとえば、ステンレス、ニッケル、インコネル(スペシャルメタル社の登録商標)等のニッケル合金等の材料を用いて形成することができる。
【0032】
上記第1の電極層と上記ガス誘導パイプとを導通させる手法は特に限定されることはない。たとえば、導電性を有する多孔質金属体を、上記筒状MEA内周面と上記ガス誘導パイプ外周面の間に形成される筒状流路内に挿入して、上記第1の電極層と上記ガス誘導パイプとを導通させることができる。また、上記多孔質金属体を設けることにより、上記第1の電極層の内周面と上記ガス誘導パイプの外周面との間の筒状流路を確保することができるとともに、上記ガス誘導パイプを筒状MEA内で位置決め保持することができる。
【0033】
請求項8に記載した発明は、上記加熱容器内を通過するとともに、上記ガス誘導パイプに導かれるガスを予め加熱する予備加熱配管を備えるものである。
【0034】
上記予備加熱配管を設けることにより、上記筒状MEA内に導入される前に、上記予備加熱配管内で予備加熱される。このため、予備加熱されたガスが上記筒状MEA内に導入されて、ガス分解に必要な所定の温度まで効率よく加熱することができる。このため、ガスの分解効率を増加させることができる。また、筒状MEAの長さを短く設定することも可能となる。
【0035】
上記予備加熱配管は、上記筒状MEAごとに設けることもできるし、複数の筒状MEAに導入するガスを一の予備加熱配管によって予備加熱するように構成することもできる。
【0036】
上記第1の電極層及び上記第2の電極層を構成する材料も特に限定されることはない。たとえば、請求項9に記載した発明のように、上記第1の電極層及び/又は上記第2の電極層を、ニッケル(Ni)を主成分とする金属粒子連鎖体と、イオン導電性セラミックスとを含む焼成体とすることができる。金属粒子連鎖体は、金属粒子が連なってできた数珠状の細長い金属体をいう。Ni、Fe含有Ni、もしくはNi,Fe含有Niに微量Tiを含む金属とするのがよい。Niなどは表面酸化された状態では、その金属粒子連鎖体の表面が酸化されており、中身(表層の内側の部分)は酸化されずに金属の導電性を保持している。
【0037】
このため、たとえば固体電解質層内を移動するイオンが陰イオンの場合(陽イオンの場合もある)、次のような作用効果が生じる。
(A1)金属粒子連鎖体を第1の電極層(アノード)に含有させた場合、第1の電極層(アノード)において、固体電解質層から移動してくる陰イオンと、第1の電極層(アノード)の外部から第1の電極層(アノード)へと導かれる気体中のガス分子との化学反応を、金属粒子連鎖体の酸化層によって促進させ(触媒作用)、かつ陰イオンを参加させて第1の電極層(アノード)での化学反応を促進させる(電荷による促進作用)。そして、その化学反応の結果、生じる電子の導電性を、金属粒子連鎖体の金属部分で確保することができる。この結果、第1の電極層(アノード)における電荷の授受を伴う電気化学反応を、全体的に促進することができる。金属粒子連鎖体を第1の電極層(アノード)に含有させた場合、第1の電極層(アノード)において、陽イオンたとえばプロトンを発生させて固体電解質層中を第2の電極層(カソード)へと陽イオンを移動させ、上記の電荷による促進作用を、同様に得ることができる。
ただし、金属粒子連鎖体の酸化層については、使用前は焼成処理によって確実に形成されているが、使用中に還元反応によって酸化層がなくなることが多い。酸化層がなくなっても、上記の触媒作用は減ずることはあってもなくなることはない。とくにFeやTiを含有させたNiは、酸化層がなくても触媒作用は高い。
(A2)金属粒子連鎖体を第2の電極層(カソード)に含有させた場合、第2の電極層(カソード)において、第2の電極層(カソード)の外部から第2の電極層(カソード)へと導かれる気体中のガス分子の化学反応を、金属粒子連鎖体の酸化層によって促進させ(触媒作用)、かつ外部回路からの電子の導電性を向上させるとともに、当該電子を参加させて第2の電極層(カソード)での化学反応を促進させる(電荷による促進作用)。そして、当該分子から効率よく陰イオンを生じて、固体電解質層へと送り出すことができる。(A1)と同様に、(A2)の場合、固体電解質層中を移動してきた陽イオンと、外部回路を流れてきた電子と、第2の気体との電気化学反応を促進することができる。このため、上記第1の電極層(アノード)に含ませる場合と同様に、第2の電極層(カソード)における電荷の授受を伴う電気化学反応を、全体的に促進することができる。どのような場合に、金属粒子連鎖体を第2の電極層(カソード)に含ませるかは、分解対象のガスによって変わる。
(A3)金属粒子連鎖体を第1の電極層(アノード)及び第2の電極層(カソード)に含有させた場合は、上記(A1)および(A2)の効果を得ることができる。
【0038】
上記の電気化学反応は、イオンの固体電解質層を移動する速度または移動時間で律速される場合が多い。イオンの移動速度を大きくするために、上記のガス分解装置は、上記筒状MEAの全体を収容できる加熱機器たとえばヒータを備え、高温、たとえば600℃〜1000℃にするのが普通である。高温にすることで、イオン移動速度だけでなく、電極層での電荷授受をともなう化学反応も促進される。
【0039】
固体電解質層を移動するイオンが陰イオンの場合は、上述のように、第2の電極層(カソード)での化学反応によって発生し、供給される。第2の電極層(カソード)において導入された流体中の分子と電子とが反応して陰イオンが生成する。生成した陰イオンは、固体電解質層中を第1の電極層(アノード)へと移動する。第2の電極層(カソード)での反応に参加する電子は、第1の電極層(アノード)と第2の電極層(カソード)とを連絡する外部回路(蓄電器、電源、電力消費機器を含む)から入ってくる。固体電解質層を移動するイオンが陽イオンの場合は、第1の電極層(アノード)での電気化学反応によって発生して固体電解質層中を第2の電極層(カソード)へと移動する。電子は、第1の電極層(アノード)で発生して外部回路を第2の電極層(カソード)へと流れて第2の電極層(カソード)での電気化学反応に参加する。上記電気化学反応は、燃料電池としての発電反応であってもよいし、または電気分解反応であってもよい。
【0040】
請求項10に記載した発明のように、固体電解質層を、酸素イオン導電性またはプロトン導電性を有する構成とすることができる。酸素イオン導電性の固体電解質を用いた場合、たとえば第2の電極層(カソード)で電子と酸素分子とを反応させて酸素イオンを生じさせ、この酸素イオンを固体電解質層内で移動させて第1の電極層(アノード)にて所定の電気化学反応を起こさせることができる。この場合、酸素イオンの固体電解質層中の移動速度はプロトンと比べて大きくないので、実用レベルの分解容量を得るには、温度を十分高める、及び/又は固体電解質層の厚みを十分薄くする、などの対策が必要である。
【0041】
一方、プロトン導電性の固体電解質は、バリウムジルコネート(BaZrO)などが知られている。プロトン導電性の固体電解質を用いると、たとえば第1の電極層(アノード)でアンモニアを分解してプロトン、窒素分子および電子を生じさせて、このプロトンを、固体電解質層を経て第2の電極層(カソード)へと移動させ、第2の電極層(カソード)において酸素と反応して水(HO)を生じさせる。プロトンは酸素イオンと比べて小さいので固体電解質層中の移動速度は大きく、加熱温度を低くして実用レベルの分解容量を得ることができる。
【0042】
また、たとえば筒状MEAを用いてアンモニア分解を行うとき、酸素イオン導電性の固体電解質層では、水を筒状MEAの第1の電極層(アノード)で生成する反応となる。水は、温度が低い出口付近では水滴を形成して圧力損失の原因となる。これに対して、プロトン導電性の固体電解質層を用いると、プロトンと酸素分子と電子とが、第2の電極層(カソード)(外側)で生成する。外側はほぼ開放されているので、水滴となって付着しても圧力損失を生じにくい。
【0043】
請求項11に記載した発明のように、分解対象のガスを燃料とし、ガス分解装置を備えて発電装置を構成することもできる。
【発明の効果】
【0044】
ガス分解効率が高く、またランニングコストが低く、また、ガス分解効率の高いガス分解装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本願発明の第1の実施形態に係るガス分解装置の先端側(封止側)を示す縦断面である。
【図2】図1におけるII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1のガス分解装置の電気配線系統を示す図である。
【図4】図1に示すガス分解装置の突出部側(開口端側)の縦断面図である。
【図5】本願発明の第2の実施形態に係るガス分解装置の要部の拡大縦断面図である。
【図6】図5に示すガス分解素子を複数本用いて構成したガス分解装置の縦断面図である。
【図7】図6におけるVII−VII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本願発明の実施形態を、図を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るガス分解装置100の縦断面図である。また図2は、図1におけるII−II線に沿う断面図である。なお本実施形態では、特に分解に供される第1のガスをアンモニア含有ガスとした場合のガス分解装置について説明する。また、本実施形態では、1本の筒状MEA7からなる一のガス分解素子10からガス分解装置100を構成したが、各々筒状MEAを備えて構成される複数のガス分解素子を一の加熱容器に内に配置してガス分解装置を構成することができる。
【0047】
ガス分解素子10は、円筒状の固体電解質層1の内面を覆うように第1の電極層(アノード)2が設けられると共に、外面を覆うように第2の電極層(カソード)5が設けられた筒状MEA7(1、2、5)を備えて構成されている。第1の電極層(アノード)2は燃料極、また、第2の電極層(カソード)5は空気極と呼ばれることがある。
本実施形態では上記したように、上記筒状MEA7(1、2、5)の内側には第1のガスとしてアンモニア含有ガスが流される。また、筒状MEA7(1、2、5)の外側には、第2のガスとして酸素含有ガスである空気が流される。そして、上記第1のガスが流れる筒状MEA7(1、2、5)の内側の流路を第1のガス流路とする。また、上記第2のガスが流れる筒状MEA7(1、2、5)の外側の流路を第2のガス流路とする。
本実施形態に係る上記筒状MEA7(1、2、5)は、図1に示すように、直円筒状に形成されている。筒状MEA7(1、2、5)の内径は、例えば20mm程度であるが、適用する装置に応じて寸法等を設定できる。
【0048】
本実施形態のガス分解素子10では、上記筒状MEA7(1、2、5)の一端部が封止されると共に、他端部側から上記したステンレス、銅、ニッケル、インコネル等のNiをベースとして、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等を含有させた合金、即ち600〜1000℃に対する耐熱性と、アンモニアガス耐蝕性とを備えた材料で構成されるガス誘導パイプ11kが挿入されている。上記一端部は、上記筒状MEA7(1、2、5)の固体電解質層1及び内側電極層2を延出させて、底部を設けることにより封止部44が設けられている。
【0049】
上記ガス誘導パイプ11kは、上記筒状MEA7(1、2、5)の他端部側から上記一端部である封止部44側に向けて挿入されており、上記筒状MEA7の第1の電極層2の内周面と上記ガス誘導パイプ11kの外周面との間に、筒状流路43が形成されるように設定されている。この筒状流路43には、多孔質金属体11sが挿入されており、上記ガス誘導パイプ11kを中央部に保持しつつ、上記ガス誘導パイプ11kの外周面と上記第1の電極層2の内周面との間に、筒状流路43が形成される構成としている。
【0050】
本実施形態に係るガス分解素子10においては、上記ガス誘導パイプ11kの内部空間42内を上記封止部44に向けて第1のガスを流し、上記封止部44の近傍において上記ガス誘導パイプ11k内から第1のガスを流出させると共に反転させ、更に上記筒状流路43を上記内部空間42での流れとは反対方向に向けて第1のガスを流すように構成している。すなわち、上記内部空間42と筒状流路43とで上記第1のガス流路が構成される。
【0051】
上記構成を採用することにより、上記ガスは、上記筒状MEA7の内側の空間において、筒状MEA7の筒長さの約2倍の距離を第1のガス流路とすることができる。このため、上記ガス誘導パイプ11k内で充分に加熱され、温度が上昇された状態で、上記筒状MEA7に作用されることになる。従って、第1のガスの分解効率を高めることが可能となり、ガスの流量を増加させてガスの処理量を増加させることが可能となる。
【0052】
また、上記ガス誘導パイプ11kは、ステンレス等の導電性の金属で形成されており、アノード側集電体11の構成要素として機能するように構成されている。一方、第2の電極層(カソード)5の外面に巻き付くようにカソード側集電体12が配置されている。
【0053】
上記アノード側集電体11は、銀ペースト塗布層11gとNiメッシュシート11aと多孔質金属体11sと上記ガス誘導パイプ11kとを備えて構成されている。上記Niメッシュシート11aは、銀ペースト塗布層11gを介して、筒状MEA7の内面側の第1の電極層(アノード)2に接触して、多孔質金属体11sからガス誘導パイプ11kへと導電するように構成されている。また、上記Niメッシュシート11aの先端部Wは、上記封止部44の近傍において、上記ガス誘導パイプ11kの外周部にバンド状の接合部材Wを介して巻き付けるように導電接続されている。このため、Niメッシュシート11aは、並列的に、(1)Niメッシュシート11a/多孔質金属体11s/ガス誘導パイプ11k、という導電路と、(2)Niメッシュシート11a/ガス誘導パイプ11k、という導電路とを形成している。この結果、筒状MEA7の内面に位置して、低い電気抵抗を維持しながら、圧力損失の増大を防止することが可能となる。
【0054】
多孔質金属体11sは、第1のガスの圧力損失を低減させるために、気孔率を高くできる金属メッキ体、例えばセルメット(登録商標:住友電気工業株式会社)を用いるのが好ましい。第1の電極層(アノード)2とアノード側集電体11との間の電気抵抗を低減させるために、上記銀ペースト塗布層11gとNiメッシュシート11aとが配置されている。
【0055】
上記カソード側集電体12は、銀ペースト塗布配線12gとNiメッシュシート12aとを備えて構成されている。本実施形態では、Niメッシュシート12aが、筒状MEA7の外面に接触して、外部配線12eへと導電している。銀ペースト塗布配線12gは、第2の電極層(カソード)5において、第2のガスである酸素含有ガス(空気)内の酸素を酸素イオンに分解するのを促進する触媒として作用する銀を含み、且つカソード側集電体12の電気抵抗を低くすることに寄与する。銀ペースト塗布配線12gは、酸素分子を通しながら銀粒子が第2の電極層(カソード)5に接触して、第2の電極層(カソード)5内に含まれる銀粒子と同等の触媒作用を発現する。しかも、第2の電極層(カソード)5に含ませるより安価である。
【0056】
上記筒状MEA7(1、2、5)の外側には、上記第2のガスを流すためのスペースSを設けた加熱容器51が設けられている。上記加熱容器51の外周部には、ヒータ52が配置されている。本実施形態では、上記スペースSには予備加熱用配管53が上記加熱容器51を貫通して配されている。
【0057】
上記ヒータ52は素子全体を加熱するためのものである。このヒータ52によってガス分解素子10の全体が第1のガスの分解に適した温度に加熱される。上記予備加熱用配管53は、上記第1のガスを予熱するための配管である。第1のガスが、上記筒状MEA7内に導入される前に予備加熱用配管53に通すことで、第1のガスを予熱し、温度の低い第1のガスがいきなり筒状MEA7に導入されることにより反応不足となるのを解消する。これによってガス分解素子10の分解性能の向上とコンパクト化を図ることが可能となる。予備加熱用配管53は、第1のガス源からの配管との接続端53aを含み、下流側はガス導入管45と接続される構成とされている。
予備加熱用配管53としては、耐熱性の管、例えばNi管、インコネル管、その他の金属製やセラミックス製の耐熱及び耐腐食性を有する管を用いることができる。
なお、筒状MEA7及び予備加熱用配管53は、図1には1本だけを図示しているが、それぞれ複数本を配管して、ガス分解装置を構成することができる。
上記加熱容器51は耐熱材料で構成されることになるが、耐火物材料で厚肉に構成し、ヒータ52を埋設したものとしてもよい。また、厚肉とした耐火物材料からなる加熱容器51の肉厚内に予備加熱用配管53を埋設、貫通させた構成とすることもできる。
本来的には上記筒状MEA7を加熱するヒータ52を利用することにより、上記予備加熱用配管53が加熱され、この予備加熱用配管内を流動する上記第1のガスが良好に予備加熱される。
【0058】
図3は、固体電解質層1が酸素イオン導電性である場合における、図1のガス分解素子10の電気配線系統を示す図である。アンモニアを含む第1のガスは、上記予備加熱用配管53を経た後、上記ガス誘導パイプ11kを介して、気密性を厳格にした筒状MEA7の内筒の最奥部、即ち上記封止部44の近傍まで誘導される。上記筒状MEA7は、ヒータ52によってその全体が800℃程度に加熱されており、上記第1のガスは、上記ガス誘導パイプ11k内を流動する間に、昇温させられる。この間、上記第1のガス中のアンモニアが、上記ガス誘導パイプ11k内における加熱によって2NH→N+3Hのように分解される。
【0059】
筒状MEA7を用いた場合、内面側に分解ガスを含む第1のガスを通すと共に、上記ガス誘導パイプ11kを保持するため、多孔質金属体11sが用いられる。圧力損失を低くする点から、上述のように、上記筒状流路43内に配置される多孔質金属体11sとして、多孔質金属めっき体、例えば上述したセルメット(登録商標)を用いることができる。アンモニアを含む第1のガスは、上記第1のガス流路を内部空間42から筒状流路43内へと流れ、多孔質金属体11s、Niメッシュシート11a、及び多孔質の銀ペースト塗布層11gの空隙を通りながら、第1の電極層(アノード)2と接触して、下記のアンモニア分解反応をする。
【0060】
酸素イオンO2−は、第2の電極層(カソード)5での酸素ガス分解反応によって生じ、固体電解質層1を通って第1の電極層(アノード)2に到達したものである。即ち、陰イオンである酸素イオンが固体電解質層1を移動する場合の電気化学反応である。
【0061】
第1の電極層(アノード)2では、以下の反応が生じている。
(アノード反応):2NH+3O2−→N+3HO+6e
より詳しくは、一部のアンモニアが、2NH→N+3Hの反応を生じ、この3Hが酸素イオン3O2−と反応して3HOを生成する。
第2の電極層(カソード)5には空気、特に酸素ガスが、スペースSを通るように導入され、第2の電極層(カソード)5において酸素分子から分解した酸素イオンを第1の電極層(アノード)2に向かって固体電解質層1へと送り出す。
【0062】
第2の電極層(カソード)5では、以下の反応が生じている。
(カソード反応):O+4e→2O2−
上記の電気化学反応の結果、電力が発生し、第1の電極層(アノード)2と第2の電極層(カソード)5との間に電位差を生じ、カソード側集電体12からアノード側集電体11へと電流Iが流れる。カソード側集電体12とアノード側集電体11との間に負荷、例えばこのガス分解素子10を加熱するためのヒータ52を接続しておけば、そのための電力を供給することができる。ヒータ52への上記電力の供給は、部分的であってもよい。多くの場合、自家発電の供給量はヒータ52全体に要する電力の半分以下である。
【0063】
上記ガス分解素子10では、筒状MEA7の内面側の第1の電極層(アノード)2においては、アノード側集電体11の電気抵抗を低くしながら、ここを通る第1のガスの圧力損失を低くすることが重要である。また、第2の電極層(カソード)5側においては、第2のガスである空気と第2の電極層(カソード)5との接触箇所を高密度化し、カソード側集電体12の抵抗を低くするのが重要である。
【0064】
上記は、陰イオンである酸素イオンが固体電解質層1を移動する電気化学反応であるが、固体電解質層1に、例えばバリウムジルコネート(BaZrO)を用いてプロトンを第1の電極層(アノード)2で発生させて固体電解質層1中を第2の電極層(カソード)5へと移動させる反応も、本発明の望ましい一つの形態である。
【0065】
プロトン導電性の固体電解質層1を用いると、例えば第1のガス中のアンモニアを分解する場合、第1の電極層(アノード)2でアンモニアを分解してプロトン、窒素分子及び電子を生じさせて、プロトンを、固体電解質層1を経て第2の電極層(カソード)5へと移動させ、第2の電極層(カソード)5において酸素と反応させて水(HO)を生じさせる。プロトンは酸素イオンと比べて小さいので、固体電解質層1中の移動速度は大きい。このため、加熱温度を低くしながら実用レベルの分解容量を得ることができる。固体電解質層1の厚みも、強度を確保できる厚みにすることができる。
【0066】
図4は、上記ガス誘導パイプ11kと外部配線11eとの接続形態、及び筒状MEA7とガス導入管45及び排気管65との接続形態を示す図である。
【0067】
本実施形態では、上記加熱容器51に、上記筒状MEA7を収容するとともに、上記筒状MEA7の一部を上記加熱容器51の外部に突出させて突出部41を設け、この突出部41の先端部に、第1のガスを出入りさせる接続部材30を設けている。
【0068】
上記突出部41を設けることにより、この突出部41を利用して、加熱容器から伝導される熱を放熱させることができる。このため、上記突出部41の先端側(接続部材30側)の温度が低下させられて、上記接続部材30に高い温度が作用することがなくなる。従って、筒状MEA7と上記接続部材30間のシール性能の低下を防止することができる。また、上記接続部材30やこれに接続されるガス導入管45等に高い耐熱性が要求されることがなくなり、接続の信頼性が高まるとともに、製造コストを低減させることができる。本実施形態では、フッ素樹脂から形成された接続部材30を採用するとともに、上記突出部先端の温度を、フッ素樹樹脂の耐熱温度以下、たとえば、205℃以下となるように上記突出部41の突出長さが設定されている。
【0069】
なお、上記突出部41を強制的に冷却する冷却手段71を設けることもできる。たとえば、上記突出部41に冷却空気を送るファン等を設けることができる。また、上記突出部41の周囲に、冷却水を流す冷却管路を設けてもよい。上記冷却手段71を設けることにより、突出部41の冷却効率が高まり、上記突出部41の突出長さを短縮することも可能となる。従って、ガス分解装置100を小型化することもできる。
【0070】
また、上記突出部41を設けることにより、上記接続部材30に伝導する熱を大幅に低減させることができる。これにより、上記接続部材30を、樹脂材料から形成することが可能となる。上記樹脂材料の種類は特に限定されることはない。たとえば、耐熱性の高いフッソ樹脂等を採用するのが好ましい。樹脂材料から上記接続部材を形成することにより、加工等を容易に行うことも可能となり、製造コストを低減させることができる。
【0071】
上記接続部材30は、本体部31から固体電解質層1へと延びる締結部31bの内面側に収納されたOリング33が、焼成体であるセラミックスの固体電解質層1の外面に当接された状態で接続される。接続部材30の締結部31bは、外径がテーパ状に形成されており、そこにねじが切られ、そのねじに環状ねじ32が螺合される。環状ねじ32の外径が大きくなる方向へと螺合することで、締結部31bは、外面から締め付けられ、Oリング33による気密性を調節することができる。上記突出部41を形成することにより、上記Oリング33に作用する温度を低下させることが可能となり、上記Oリング33の寿命を延ばすことができるとともに、シール構造の信頼性を高めることができる。
【0072】
上記接続部材30の内側には、上記ガス誘導パイプ11kの基端部11dが気密性をもって嵌合できる嵌合部36が形成されている。これによって、ガス誘導パイプ11kと接続部材30とが連結され、第1のガスの通路が形成される。
【0073】
接続部材30には、上記第1のガスのガス導入管45との接続を行うためのガス導入部31aが設けられている。ガス導入管45の端部を、上記接続部材30のガス導入部31aの外周に嵌め合わせ、締結具47で締結することで、気密性のよい接続を得ることができる。第1のガスはガス導入管45からガス導入部31aを経てガス誘導パイプ11k内に流れ込む。ガス誘導パイプ11k内に流れ込んだ第1のガスは、内部空間42を通って上記筒状MEA7の封止部44の近傍まで流動させられる。
【0074】
また、接続部材30には、排気管65との接続を行うためのガス排出部31cが設けられている。ガス排気管65の端部を、上記接続部材30のガス排出部31cの外周に嵌め合わせ、締結具67によって締結することで、気密性のよい接続を得ることができる。筒状MEA7を経た第1のガスは、接続部材30内の排気空間35、ガス排出部31cを通って排気管65に排出される。
【0075】
上記接続部材30を採用することにより、分解前の第1のガスと分解後の第1のガスとが混ざり合うことなく、且つ上記筒状MEA7の同じ片側の位置から第1のガスを出入りさせることが可能となる。
【0076】
上記接続部材30の本体部31には、気密性を保ってその本体部31を貫通する導電貫通部37cが設けられ、気密性を保つために封止樹脂38等が塗られている。この導電貫通部37cは、円柱棒で、外部配線11eと確実な導電接続を行うためにナット39を螺合させるねじを切っておくのがよい。導電貫通部37cの管内先端には導電線37bが接合されており、この導電線37bの他端部37aが上記ガス誘導パイプ11kの外周部に、環状の締め付け具34を介して接合されている。
【0077】
上記構成を採用することにより、上記ガス誘導パイプ11kと外部配線11eの接続抵抗を低減させることができる。
【0078】
一方、カソード側集電体12のNiメッシュシート12aの端部の外周に、外部配線12eを周回させることで、外部への引き出しを行うことができる。第2の電極層(カソード)5は、筒状MEA7の外面側に位置するので、アノード側集電体11から外部への引き出しほど困難ではない。
【0079】
図4に示すように、アノード側集電体11と外部配線11eとの接続と、接続部材30とガス導入管45及びガス排気管65との接続を、小さなスペースで行うことができる。しかも、上記の接続は、上記突出部41の先端側において行われている。すなわち、ヒータ52からの熱流の主流部から外れた位置において行われている。このため、上記接続部材30をフッ素樹脂等の耐熱性樹脂によって形成しても、長期間の繰り返し耐久性を確保することが可能となる。
【0080】
本実施形態では、上記第1の電極層(アノード)2の内周部に多孔質導電層として、銀ペースト塗布層11gが設けられると共に、Niメッシュシート11aが上記多孔質導電層である銀ペースト塗布層11gを介して上記第1の電極層2に接続されている。
【0081】
塗布して乾燥(焼成)させた後に多孔質になる銀ペーストは市販されており、例えば京都エレックス株式会社製のDD−1240などを用いることができる。銀ペースト塗布層11gを多孔質にすることにより、多くのアンモニア分子NHが、多孔質の気孔中に入って、上記第1の電極層(アノード)2中の触媒に触れてアノード反応が生じやすくなる。
【0082】
ガス分解反応の効率を高めるため、上記銀ペースト塗布層11gの気孔率を、20〜80%に設定するのが好ましい。気孔率が20パーセント以下である場合、ガスを導電性ペースト塗布層内へ導くのが困難になり、効率を高めることができない。一方、気孔率が80%以上になると、充分な導電性を確保するのが困難であると共に、塗布層の強度を確保できない。更に、気孔率を40〜60%に設定するのがより好ましい。
【0083】
上記銀ペースト塗布層11gの厚みは、5〜300μmに設定することができる。5μm以下では、Niメッシュシート11aの全域を、銀ペースト塗布層11gに均一に接触させることができず、充分な導電性を確保するのが困難である。一方、300μm以上では、充分な気孔率を有するペースト塗布層を形成するのが困難となる。導電性と気孔率を確保するために、5〜100μmの厚みの銀ペースト塗布層11gを設けるのがより好ましい。
【0084】
上記銀ペースト塗布層11gを形成する手法は特に限定されることはない。筒状MEA7を、銀ペーストを満たした浸漬層に漬けるディッピング法や、筒状MEA7の内面に銀ペーストを噴射する塗布ノズルを挿入する手法等により、上記銀ペースト塗布層11gを形成することができる。
【0085】
また、銀ペースト塗布層11gを、多孔質に形成する手法も特に限定されることはない。上述した所要の気孔率を確保するために、所定温度で消失するバインダを所定量配合した銀ペーストを採用できる。また、バインダが消失する際の導電性ペースト塗布層の収縮を防止するために、昇華型のバインダを配合するのが好ましい。例えばナフタレン系のバインダを配合した銀ペーストを採用するのが好ましい。
【0086】
上記銀ペースト塗布層11gを設ける範囲も特に限定されることはないが、第1の電極層(アノード)2の全面に銀ペースト塗布層11gを設けるのが好ましい。銀ペースト塗布層11gを第1の電極層(アノード)2の全面に形成することにより、Niメッシュシート12aの一部が上記銀ペースト塗布層11gから離間した場合にも、第1の電極層(アノード)2における集電性能が低下することはなくなる。
【0087】
上記固体電解質層1を構成する粉体材料として、固体酸化物、溶融炭酸塩、リン酸、固体高分子などを用いることができる。固体酸化物は小型化でき、取り扱いが容易なので好ましい。固体酸化物としては、酸素イオン導電性の、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム安定化セリア)、LSGM(ランタンガレート)、GDC(ガドリア安定化セリア)などを用いるのがよい。また、プロトン導電性のバリウムジルコネートを用いることもできる。上記各粉体材料は、大気雰囲気で、1000℃〜1600℃に、30分〜180分間程度保持することにより焼成することができる。
【0088】
第1の電極層(アノード)2は、表面酸化されて酸化層を有する金属粒子連鎖体と、酸素イオン導電性のセラミックスとを主成分とする焼成体として形成できる。酸素イオン導電性のセラミックスとしては、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム安定化セリア)、LSGM(ランタンガレート)、GDC(ガドリア安定化セリア)などを用いることができる。
【0089】
上記SSZを採用する場合、平均径は0.5μm〜50μm程度のものを用いるのがよい。焼成工程は、大気雰囲気で、1000℃〜1600℃に、30分〜180分間程度保持することにより行うことができる。また、SSZの原料粉末の平均径は0.5μm〜50μm程度とするのが好ましい。表面酸化された金属粒子連鎖体と、SSZとの配合比は、mol比で0.1〜10の範囲とする。
【0090】
上記金属粒子連鎖体の金属は、ニッケル(Ni)、または、Niに鉄(Fe)を含むものを採用するのが好ましい。更に好ましくは、チタン(Ti)を2〜10000ppm程度の微量含むものである。
【0091】
金属粒子連鎖体は、還元析出法によって製造するのがよい。この金属粒子連鎖体の還元析出法については、特開2004−332047号公報などに詳述されている。第1の電極層(アノード)2に含まれる金属粒連鎖体の平均直径Dは5nm以上、500nm以下の範囲とするのがよい。また、平均長さLは0.5μm以上、1000μm以下の範囲とするのがよい。また、上記平均長さLと平均径Dとの比は3以上とするのがよい。ただし、これら範囲外の寸法を持つものであってもよい。
【0092】
第2の電極層(カソード)5は、酸素イオン導電性のセラミックスを主成分とする焼成体から形成される。この場合の酸素イオン導電性のセラミックスとして、LSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)、SSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト)などを用いることができる。これら粉体材料も、上記と同様の条件で焼成することができる。
【0093】
図5〜図7に、本願発明の第2の実施形態を示す。第2の実施形態は、第1の実施形態に係る突出部41に相当する突出部材241を設けて構成したものである。なお、筒状MEA207及び加熱容器251等の構成は、第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0094】
図5に示すように、第2の実施形態では、上記筒状MEA207が貫通して配置される上記加熱容器251の壁部に、上記筒状MEA207を固定できるフランジ部251aが設けられている。上記筒状MEA207は、一部が上記加熱容器251の外側に延出した状態で上記フランジ部251aに固定される。上記フランジ部251aの内周部には、耐熱性を有するシール材が充填されており、上記筒状MEA207の外周部と上記フランジ部251aの内周部との間の気密性が確保される。
【0095】
上記フランジ部251aを設けた壁部の外面側には、筒状MEA207の軸方向に延びる円筒状の突出部材241が設けられている。上記突出部材241は、筒状MEA207の延出部207bを、気密性をもって収容するとともに、先端側にフッ素樹脂性の接続部材230が接続されている。
【0096】
上記突出部材241における上記加熱容器側には、フランジ部241aが形成されており、ネジ手段261によって上記加熱容器の壁部に固定されている。上記フランジ部241aと上記加熱容器251の外面との間には、図示しない耐熱性ガスケットが介挿されており、上記突出部材241と上記加熱容器251との間の気密性が確保され、筒状MEA内を流動するガスが漏れでないように構成されている。
【0097】
一方、上記突出部材241の先端部241bは、上記接続部材230に設けた嵌合部236に気密性をもって嵌合されている。
【0098】
上記突出部材241は、上記接続部材230に作用する温度を低減させることができれば、種々の材料を用いて形成することができる。たとえば、上記接続部材を、セラミック等の耐熱性及び断熱性のある材料から形成することができる。また、放熱性の高いニッケル等の金属材料から形成することにより、上記突出部材241において、上記筒状MEA207から伝導される熱を放熱させて、上記接続部材230に作用する温度を低減させるように構成することもできる。
【0099】
上記突出部材241には、第1の実施形態と同様に、気密性を保って貫通する図示しない導電貫通部が設けられ、第1の集電体を構成するガス誘導パイプ211kの外周部から延びる接続配線211eが、上記突出部材241の外側に延出されている。また、上記筒状MEA207の外周部に設けられた第2の集電体から延びる接続配線212eも、上記と同様に上記突出部材241から延出されている。
【0100】
上記構成を採用することにより、上記接続部材241や接続配線211e,212e等に作用する温度を大幅に低下させることができる。また、筒状MEA207のほぼ全体を加熱容器251内に収容できるため、筒状MEAに均一な温度を作用させて、ガス分解効率を高めることもできる。
【0101】
さらに、上記突出部材241を採用することにより、冷却手段271を容易に設けることができる。たとえば、図5に示すように、上記突出部材241に放熱フィン271aを一体形成することも可能となる。また、冷却空気や冷却水を採用させる配管を一体的に設けることもできる。従って、上記突出部材241を採用することにより、接続部材230に作用する温度を大幅に低下させることも可能となる。
【0102】
図6は、図5に示すガス分解素子210から構成されるガス分解装置200の全体縦断面図である。また、図7は、図6におけるVII−VII線に沿う断面図である。
【0103】
本実施形態では、加熱容器251の外周部にヒータ252を設けた構成としている。ガス分解装置200は、複数のガス分解素子210を群として並列立体的に配置することにより構成される。上記各ガス分解素子210は、ヒータ252を備える加熱容器251内に配列配置されており、上記加熱容器251内で所定温度に保持される。
【0104】
上記加熱容器251の側壁には、上記各ガス分解素子210に対応した突出部材241が設けられており、その各先端部に接続部材230が接続されている。
【0105】
上記構成を採用することにより、すべてのガス分解素子を同じ温度に加熱することができる。また、第2のガスを上記加熱容器内で流動させることにより、複数のガス分解素子に作用させることができる。従って、ガス分解装置200を小型化することができる。
【0106】
上述した実施形態は、本願発明を、ガス除害を目的としたガス分解装置に適用したが、ガス除害を主目的としないガス分解装置や、電気化学反応装置の筒状MEAに適用できる。例えば、燃料電池等の発電装置を構成する筒状MEAにも用いることができる。
【0107】
上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に、特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
ガス分解性能が高いのみならず、接続部材や外部配管等に高い温度が作用することがなく、信頼性の高いガス分解装置及び発電装置を提供できる。
【符号の説明】
【0109】
1 固体電解質層
2 第1の電極層(アノード)
5 第2の電極層(カソード)
7 筒状MEA
10 ガス分解素子
11 アノード側集電体
11a Niメッシュシート
11d 基端部
11e 外部配線
11g 銀ペースト塗布層
11k ガス誘導パイプ
11s 多孔質金属体
12 カソード側集電体
12a Niメッシュシート
12g 銀ペースト塗布配線
12e 外部配線
30 接続部材
31 本体部
31a ガス導入部
31b 締結部
31c ガス排出部
32 環状ネジ
33 Oリング
34 締め付け具
35 排気空間
36 嵌合部
37a 他端部
37b 導電線
37c 導電貫通部
38 封止樹脂
39 ナット
41 突出部
42 内部空間
43 筒状流路
44 封止部
45 ガス導入管
47 締結具
51 加熱容器
52 ヒータ
53 予備加熱用配管
65 排気管
100 ガス分解装置
S スペース
Niメッシュシートの先端部
接合部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の固体電解質層と、この固体電解質層の内周部に積層形成された第1の電極層と、上記固体電解質層の外周部に積層形成された第2の電極層とを有する筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を用いて構成されるガス分解装置であって、
ガスを上記筒状MEA内に出入りさせる接続部材と、
上記筒状MEAを収容して加熱する加熱容器とを備え、
上記筒状MEAに、上記加熱容器の外部に突出する突出部を設けるとともに、上記接続部材を上記突出部の先端部に設けた、ガス分解装置。
【請求項2】
上記突出部は、上記筒状MEAの一部を、上記加熱容器から突出させて構成されている、請求項1に記載のガス分解装置。
【請求項3】
上記突出部の一部又は全部が、上記筒状MEAと別部材から形成されている、請求項1に記載のガス分解装置。
【請求項4】
上記突出部を冷却する冷却手段が設けられている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項5】
上記突出部先端の温度を、205℃以下に設定した、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項6】
上記接続部材が、樹脂材料から形成されている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項7】
上記筒状MEAは、
一端部を封止して設けられるとともに、上記加熱容器内に配置される封止部と、
上記筒状MEAの内部空間に挿入されて、上記筒状MEAの内周面との間に筒状流路を形成するガス誘導パイプを備え、
上記接続部材を介して上記ガス誘導パイプ内に導入されたガスを、上記封止部に向けて流動させるとともに、上記封止部近傍において上記誘導パイプ内から流出させることにより反転流動させ、上記筒状流路を上記ガス誘導パイプ内の流れと反対方向に向けて流動させながら第1の電極層に作用させて分解し、上記接続部材を介して排出するように構成された、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項8】
上記加熱容器内を通過するとともに、上記ガス誘導パイプに導かれるガスを予め加熱する予備加熱配管を備える、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項9】
上記第1の電極層及び/又は上記第2の電極層が、ニッケル(Ni)を主成分とする金属粒子連鎖体と、イオン導電性セラミックとを含む焼成体であることを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項10】
上記固体電解質層が、酸素イオン導電性又はプロトン導電性を有することを特徴とする、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載したガス分解装置を備える、発電装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−143692(P2012−143692A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2893(P2011−2893)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】