説明

ガス分離システム及び該ガス分離システムに用いられるポンプ

【課題】ポンプにガス分離機構を一体的に設けた構成であってもポンプをメンテナンスフリーとすることができるガス分離システム及び該ガス分離システムに用いられるポンプを提供すること。
【解決手段】水素循環ポンプPは、シリンダ30内が第1室33と第2室34に区画されているとともに、ピストン31とシリンダ30の間にピストンリング39が介在されている。第1室33の水素オフガスの圧縮工程のときには、水素がシリンダ30とピストンリング39との間のクリアランスを通過して第2室34へ移動される。さらに、圧縮工程の途中であり、粘度係数の最も小さい水素に比して粘度係数の大きい窒素がクリアランスを通過する前には、制御装置25は第3バルブV3を開状態として圧縮工程を終了させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給源から供給され、粘度係数の異なる複数のガスを含む混合ガスをポンプで圧縮して送り出し、前記圧縮に伴い前記混合ガスから少なくとも粘度係数の最も小さいガスを分離するガス分離システム及び該ガス分離システムに用いられるポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池車に搭載された燃料電池システムにおいて、燃料電池から排出される水素ガス(いわゆる水素オフガス)には、燃料電池にて使用されなかった未反応の水素が含まれている。このため、燃料電池システムには、前記水素オフガスを再利用するために、水素オフガスをポンプで送り出して燃料電池に再供給するための水素循環経路が設けられている。
【0003】
燃料電池内の酸素電極側では水素と酸素の反応によって水が生成され、その水の一部は水蒸気として酸素電極側から電解質膜を透過して水素電極側に入ってくる。したがって、燃料電池から排出される水素オフガスにはかなり多くの水が含まれている。また、一般に燃料電池には純粋な酸素を供給する代わりに空気を供給して空気中の酸素を水素と反応させる。そのため、燃料電池内では酸素電極に供給された空気に含まれる窒素等の不純物が酸素電極側から電解質膜を透過して水素電極側に入ってくる。したがって、燃料電池から排出される水素オフガスには窒素等の不純物も含まれている。
【0004】
すなわち、水素オフガスには、水分や窒素等の不純物が多く含まれており、この不純物が多く含まれた水素オフガスが燃料電池に再供給されると、燃料電池の発電効率が悪くなる。このため、水素オフガス中の不純物を除去した純度の高い水素を燃料電池に再供給することが必要となる。
【0005】
そこで、水素循環経路には、循環中の水素オフガスから不純物を除去するための機構が前記ポンプとは別に設けられている。例えば、水素循環経路には、水素オフガス中の水分を除去するための気液分離機構(例えば、特許文献1参照。)や、水素オフガス中から水素のみを分離する水素分離膜を用いた水素分離機構(例えば、特許文献2参照。)が設けられている。ところが、水素循環経路にて、気液分離機構や水素分離機構をポンプと別に設けることは、気液分離機構や水素分離機構を水素オフガスが常に通過する構成であることから、通過時に生じる圧力損失が大きくなる。この圧力損失が大きくなることは、ポンプの出力を増大させることとなり、ポンプの消費電力が増大したり、ポンプへの負荷が大きくなり好ましくない。
【0006】
そこで、水素循環経路にて、前記ポンプと一体的に水素分離機構を設けることが考えられる。例えば、特許文献3に開示の技術にて水素分離器をポンプとして用いる。この水素分離器は、シリンダ内にピストンが移動可能に挿入され、該ピストンはモータ等の動力によってシリンダ内を往復動する。シリンダ内はピストンを境にして第1室と第2室に区分されており、第1室側には水素分離膜が設けられている。また、第1室にはガス入口とガス出口が設けられ、第1室と第2室とは水素分離膜を介した連通路によって連通されている。さらに、第2室には、水素分離膜によって分離された水素の回収口が設けられている。
【0007】
そして、水素循環経路に前記水素分離器をポンプとして用いた場合、ピストンがシリンダ内を往復動すると、水素オフガスがガス入口から第1室へ吸入され、該第1室にて水素オフガスが圧縮される。すると、水素オフガスは前記圧縮によって水素分離膜へ供され、該水素分離膜では水素のみが透過し、透過した水素は連通路を通って第2室へ流入する。その後、水素は第2室から回収口を通過して燃料電池へと再供給されることとなる。
【特許文献1】特開2003−317753号公報
【特許文献2】特開2002−93436号公報
【特許文献3】特開2004−238272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献3に開示の水素分離装置をポンプとして用いた場合、すなわち、ポンプと水素分離膜が一体化された構成においては、水素オフガス中に含まれる不純物(例えば、異物や水分)によって水素分離膜が目詰まりを起こす虞がある。水素分離膜が目詰まりを起こした場合には、水素分離能が低下するばかりではなく、ポンプがロックしてしまい燃料電池システムが停止してしまう虞がある。その結果として、水素分離装置をポンプとして用いた場合には、水素分離膜のメンテナンスを頻繁に行う必要が生じてくる。
【0009】
本発明は、ポンプにガス分離機構を一体的に設けた構成であってもポンプをメンテナンスフリーとすることができるガス分離システム及び該ガス分離システムに用いられるポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガス分離システムは、供給源から供給され、粘度係数の異なる複数のガスを含む混合ガスをポンプで圧縮して送り出し、前記圧縮に伴い前記混合ガスから少なくとも粘度係数の最も小さいガスを分離するガス分離システムであって、前記ポンプはシリンダとピストンを有しており、前記シリンダ内は前記ピストンを境にして第1室と第2室に区画されているとともに、前記第1室には開閉手段によって開閉される吸入流路及び開閉手段によって開閉される排出流路が連結され、前記第2室には開閉手段によって開閉される吐出流路が連結されており、前記第1室は、前記吸入流路を介して前記供給源から混合ガスを吸入可能であるとともに前記排出流路を介して前記圧縮による分離の際に第1室に残留するガスを第1室外へ排出可能とし、さらに前記第2室は前記吐出流路を介して前記圧縮によって分離されたガスを第2室外へ吐出可能とし、前記ポンプに加わる負荷、又は粘度係数の最も小さいガスの濃度を検出する検出手段と、前記検出手段により検出されるポンプの負荷又は濃度の変化に基づいて前記排出流路の開閉手段の開閉を制御する制御装置とを備え、前記第1室への混合ガスの吸入工程のときには前記吸入流路の開閉手段を開状態、前記吐出流路の開閉手段を開状態とし、さらに前記制御装置は前記排出流路の開閉手段を閉状態となるように制御し、前記第1室の混合ガスの圧縮工程のときには前記吸入流路の開閉手段を閉状態、前記吐出流路の開閉手段を閉状態とし、さらに前記制御装置は前記排出流路の開閉手段を閉状態となるように制御して粘度係数の最も小さいガスを前記シリンダとピストンとの間を通過させて第2室へ移動させ、前記圧縮工程の途中であり、粘度係数の最も小さいガスに比して粘度係数の大きいガスが前記シリンダとピストンとの間を通過する前には、前記制御装置は前記排出流路の開閉手段を開状態となるように制御し、前記第2室のガスの吐出工程のときには前記吸入流路の開閉手段を開状態、前記吐出流路の開閉手段を開状態とし、さらに前記制御装置は前記排出流路の開閉手段を閉状態となるように制御する。
【0011】
これによれば、シリンダとピストンとの間を通過するガス量は、ガスの粘度係数の差によって異なってくる。そして、混合ガスをポンプの第1室で圧縮する際、粘度係数の最も小さいガスは、該ガスに比して粘度係数の大きいガスよりも先にクリアランスを通過して第2室へ移動される。さらに、粘度係数の最も小さいガスに比して粘度係数の大きいガスが、シリンダとピストンの間を通過する前には、制御装置によって排出流路の開閉手段が閉状態から開状態へと移行され、圧縮工程が終了される。すると、混合ガスの圧縮に伴うガスの第1室から第2室への移動が終了する。このため、ガス分離システムでは、ポンプによる混合ガスの圧縮に伴い、少なくとも粘度係数の最も小さいガスを混合ガスから分離することができ、ポンプにはガス分離機構が一体的に設けられていることとなる。その結果として、ガス分離システムに、ガス分離のための気液分離機構やガス分離機構をポンプとは別に設ける必要が無くなる。また、ポンプにおいては、少なくとも粘度係数の最も小さいガスを、シリンダとピストンとの間を通過させて該ガスを混合ガスから分離する構成とした。すなわち、ポンプにはガス分離のための膜が設けられておらず、該膜が目詰まりすることによって、ガス分離能が低下したり、ポンプがロックする不具合の発生が無くなり、ポンプをメンテナンスフリーとすることができる。
【0012】
また、前記シリンダとピストンとの間の隙間は、ゼロクリアランスである。なお、ゼロクリアランスとは、シリンダとピストンとの間の隙間が、ゼロではないがシリンダとピストンが互いに接触しない極僅かな隙間であることを意味する。
【0013】
これによれば、シリンダとピストンとの間の隙間をガスが通過することが可能となる。そして、隙間のガスの通過量を粘度係数の差を利用して差を付けることで、混合ガスの中から少なくとも粘度係数の最も小さいガスを分離することが可能となる。
【0014】
また、前記シリンダとピストンとの間にはシール手段が設けられていてもよい。これによれば、例えば、シール手段としてピストンにピストンリングを設けることで、該ピストンリングを用いない場合に比して、シリンダとピストンとの間の隙間の調整を容易に行うことができる。
【0015】
また、燃料電池で使用されなかった水素を水素源から供給される水素に合流させ、燃料電池で使用されなかった水素を燃料電池に再供給可能とする水素循環経路を備えた燃料電池システムにおける前記水素循環経路を構成するガス分離システムであり、前記供給源としての前記燃料電池は水素電極及び酸素電極を備え、前記混合ガスは、前記水素電極側から排出された水素、前記酸素電極側から水素電極側へ混入された窒素、及び燃料電池で生成された水を含んだガスであり、前記ポンプは、前記混合ガスから少なくとも粘度係数の最も小さいガスである水素を分離するとともに該水素を燃料電池へ送り出して前記水素源から供給される水素に合流させてもよい。
【0016】
これによれば、燃料電池システムの水素循環経路において、水素循環ポンプの圧縮工程の際に、少なくとも純度の高い水素を水素オフガスから分離することができる。さらに、水素循環ポンプの吐出工程により、純度の高い水素を燃料電池の水素電極側へ再供給することができる。その結果として、水素循環経路に気液分離機構やガス分離機構を設ける必要がなく、燃料電池システムの構成を簡素化することができる。
【0017】
また、前記圧縮工程の途中では、開状態とされた前記排出流路から前記窒素及び水が排出される。これによれば、水素循環ポンプによって、水素オフガスから少なくとも水素を分離することができると同時に、水素オフガスに含まれる水や窒素を水素循環ポンプから燃料電池システム外へ排出することができる。このため、水が燃料電池へ再供給され、さらには水素循環経路を構成する流路に水が溜まることによる圧力損失の増加や、流路の閉塞を防止することができる。
【0018】
また、前記吸入流路及び吐出流路の開閉手段は逆止弁であってもよい。これによれば、吸入流路及び吐出流路の開閉手段を制御装置によって制御する必要が無く、水素循環経路の構成を簡素化することができる。
【0019】
また、ガス分離システムは、前記ポンプを複数連結して構成されたガス分離システムであり、ガスの流通経路における上流側ポンプの第2室と、下流側ポンプの第1室とが連結配管によって連結されており、前記連結配管は前記下流側ポンプの吸入流路を構成してもよい。これによれば、混合ガスが、水素循環ポンプを経る毎に、粘度係数の最も小さいガスに含まれる不純物が除去されていき、最終的に分離された粘度係数の最も小さいガスの純度を増すことができる。
【0020】
また、前記ピストンには、第1室から第2室へのガスの通過を許容し、第2室から第1室へのガスの逆流を規制する逆止弁が設けられていてもよい。これによれば、圧縮工程では粘度係数の最も小さいガスが、逆止弁のクリアランスを通過して第1室から第2室へ移動し、粘度係数の最も小さいガスが混合ガスから分離される。逆に、吸入及び吐出工程では、逆止弁は閉状態が保持され、第2室の粘度係数の最も小さいガスが第1室へ逆流することが防止できる。
【0021】
本発明のガス分離システムに用いられるポンプは、供給源から供給され、粘度係数の異なる複数のガスを含む混合ガスを圧縮して送り出し、前記圧縮に伴い前記混合ガスから少なくとも粘度係数の最も小さいガスを分離するためのガス分離システムに用いられるポンプであって、シリンダとピストンを有しており、前記シリンダ内は前記ピストンを境にして第1室と第2室に区画され、前記第1室には、前記供給源から混合ガスを吸入可能とする吸入口、及び前記圧縮による分離の際に第1室に残留するガスを第1室外へ排出可能とする排出口が設けられているとともに、前記第2室には、前記圧縮によって分離されたガスを第2室外へ吐出可能とする吐出口が設けられている。
【0022】
これによれば、シリンダとピストンとの間と、粘度係数の差とを利用して、混合ガスから少なくとも粘度係数の最も小さいガスを分離可能とした。このため、ポンプにおいては、既存の構成を用いて、少なくとも粘度係数の最も小さいガスを混合ガスから分離することができ、ガス分離のためにポンプに新たな構成を設ける場合に比してポンプの構成を簡素化することができる。また、粘度係数の最も小さいガスを第2室外へ吐出する吐出口と、粘度係数の最も小さいガスに比して粘度係数の大きいガスを第1室外へ排出する排出口とをピストンを境にして別々の部屋に設けた。このため、分離した粘度係数の最も小さいガスが、該ガスに比して粘度係数の大きいガスと混合されることを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ポンプにガス分離機構を一体的に設けた構成であってもポンプをメンテナンスフリーとすることができるガス分離システム及び該ガス分離システムに用いられるポンプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、本発明のガス分離システム及びポンプを、燃料電池システムの水素循環経路及び水素循環ポンプに具体化した第1の実施形態を図1〜図6にしたがって説明する。図1は燃料電池システムの構成図である。
【0025】
図1に示すように、電気自動車に搭載された燃料電池システム10は、燃料電池11、酸素供給手段12、水素供給手段13を備えている。燃料電池11は、例えば固体高分子型の燃料電池からなり、酸素供給手段12から供給される酸素と、水素供給手段13から供給される水素とを反応させて直流の電気エネルギー(直流電力)を発生する。
【0026】
酸素供給手段12は、圧縮空気を供給するためのエアーコンプレッサ14を備え、エアーコンプレッサ14は燃料電池11のカソード側(酸素電極側)の酸素供給ポート(図示せず)に管路15を介して連結され、管路15の途中に加湿器(図示せず)が設けられている。燃料電池11の酸素電極側の酸素排出ポート(図示せず)には、発電のための化学反応で発生した水蒸気の状態の水と、未反応の空気とを排出する排管16が連結されている。
【0027】
前記水素供給手段13は、水素源としての水素タンク22を備えている。水素タンク22は燃料電池11のアノード側(水素電極側)の水素供給ポート(図示せず)に管路23を介して連結され、管路23の途中にレギュレータ(図示せず)が設けられている。前記レギュレータは、水素タンク22に高圧で貯蔵された水素を所定の圧力まで減圧させて一定圧力で供給する圧力制御弁である。また、管路23にはバルブ28が設けられている。
【0028】
また、水素供給手段13は、燃料電池11で使用されなかった水素(水素オフガス)を水素タンク22から供給される水素と合流させて燃料電池11に供給可能な水素循環経路17を備えている。水素循環経路17には水素循環ポンプPが設けられており、水素循環ポンプPとしては前記水素オフガスを圧縮して送り出す構成のものが使用され、本実施形態ではレシプロ方式のピストン式圧縮機が使用されている。また、水素循環経路17は、燃料電池システム10においてガス分離システムを構成している。
【0029】
水素循環ポンプPの吸入口36(図2参照)には、燃料電池11の水素電極側の水素排出ポート(図示せず)が管路18を介して連結され、吐出口38(図2参照)には燃料電池11の水素供給ポート(図示せず)が管路19,23を介して連結されている。そして、燃料電池11の水素電極側、管路18、水素循環ポンプP及び管路19,23によって水素循環経路17が構成されている。また、前記水素循環ポンプPの排出口37(図2参照)には排出管24が連結されている。
【0030】
前記水素循環経路17において、管路18の途中には、該管路18を開閉する開閉手段としての逆止弁よりなる第1バルブV1が設けられている。この第1バルブV1は、燃料電池11の水素電極側から吸入口36への水素オフガスの吸入を許容し、水素循環ポンプPから水素電極側への水素オフガスの逆流を規制する。また、水素循環経路17において、前記管路19の途中には、該管路19を開閉する開閉手段としての逆止弁よりなる第2バルブV2が設けられている。この第2バルブV2は、水素循環ポンプPから燃料電池11の水素電極側への水素の吐出を許容し、水素タンク22から水素循環ポンプPへの水素の逆流を規制する。さらに、前記排出管24には、該排出管24を開閉する開閉手段として第3バルブV3が設けられている。この第3バルブV3は、排出管24の開度を調整可能な可変型のバルブである。第3バルブV3は、制御装置25に接続されており、該制御装置25によって開閉が制御される構成とされている。
【0031】
また、水素循環ポンプPは、モータMで駆動される構成であり、モータMにはインバータ35を介して駆動制御される可変速モータが使用されている。インバータ35にはモータMに流れる電流(モータ電流)を検出するため電流センサSAが装備されている。この電流センサSAは、モータMに過電流が流れて損傷するのを防止するためにモータMに装備されているものである。そして、電流センサSAは、ポンプPにおけるモータMに加わる負荷を検出する検出手段を構成する。
【0032】
モータM及び第3バルブV3を制御する制御装置25はマイクロコンピュータを備えている。制御装置25はメモリ(図示せず)を備え、メモリには基準電流値M0が記憶されている。そして、制御装置25は電流センサSAの検出信号を入力し、その値に基づいて、すなわちポンプの負荷の変化に基づいて第3バルブV3を開閉する。
【0033】
図2に示すように、前記水素循環ポンプPは、シリンダ30と、該シリンダ30内に移動可能に挿入されたピストン31と、このピストン31に一体的に取り付けたピストンロッド32と、このピストンロッド32にレシプロ方式の駆動機構(図示せず)を介して連結されたモータMより構成されている。水素循環ポンプPにて、シリンダ30内は、前記ピストン31を境にしてシリンダ30の一端側(図2では下端側)の第1室33と、シリンダ30の他端側(図2では上端側)の第2室34に区分されている。
【0034】
前記シリンダ30には、前記第1室33に連通する吸入口36が形成されており、該吸入口36は水素電極側の水素排出ポート(図示せず)に管路18を介して連結されている。そして、供給源としての燃料電池11の水素電極側から排出された水素オフガス(混合ガス)が、管路18を流れて吸入口36から第1室33へ吸入される。すなわち、水素循環ポンプPの第1室33には管路18よりなる吸入流路が連結されている。
【0035】
また、シリンダ30には、前記第1室33に連通する排出口37が形成されており、該排出口37には排出管24が連結されている。すなわち、水素循環ポンプPの第1室33には排出管24よりなる排出流路が連結されている。そして、第1室33内に残留するガス(窒素、水蒸気の状態の水)又は液状の水は、排出口37から第1室33外へ排出され、排出管24から燃料電池システム10外へ排出される。
【0036】
さらに、シリンダ30には、前記第2室34に連通する吐出口38が形成されており、該吐出口38は水素電極側の水素供給ポート(図示せず)に管路19,23を介して連結されている。そして、水素循環ポンプPの第2室34には管路19,23よりなる吐出流路が連結されている。そして、第2室34内のガス(水素)は吐出口38から第2室34外へ吐出され、管路19,23を介して燃料電池11の水素電極側へ再供給される。
【0037】
また、シリンダ30とピストン31の間であって、ピストン31の周面にはシール手段としてのピストンリング39が装着されており、該ピストンリング39によってシリンダ30の内周面とピストン31の周面の間がシールされている。そして、ピストンリング39によって、第1室33と第2室34の間のガスの過大な漏れが抑制されている。シリンダ30内でピストン31を往復動させるためには、シリンダ30の内周面とピストンリング39の周面との間には極僅かな隙間であるクリアランスCLが形成されている(図2の拡大図参照)。
【0038】
前記極僅かなクリアランスCLはゼロクリアランスであり、該ゼロクリアランスは、前記隙間がゼロではないが、シリンダ30の内周面とピストンリング39(ピストン31)の周面とが互いに接触しない極僅かな隙間のことである。また、このクリアランスCLは、例えば、シリンダ30の内周面とピストンリング39の周面との間に潤滑油を介在させ、該潤滑油によってクリアランスCLに油膜が形成されたとき、この油膜が厚み0.025mmを超えることがない状態の隙間に設定されることが好ましい。
【0039】
そして、第1室33内の水素オフガスをピストン31によって圧縮する際には、水素オフガスの加圧に伴い、水素のクリアランスCLの通過量が増大され、この加圧時のときには水素より分子量の大きい窒素もクリアランスCLを通過可能となる。一方、第1室33内に水素オフガスを吸入する際には水素及び窒素はクリアランスCLを通過しないようになっている。
【0040】
ここで水素オフガスについて説明する。水素オフガスに含まれる水素、窒素及び水の粘度係数は次のとおりである。
純水素粘度係数:0.89×10−5[Pa・s]
純窒素粘度係数:1.778×10−5[Pa・s]
純水粘度係数(25°C):89×10−5[Pa・s]
そして、水素オフガスは、粘度係数の異なる複数のガス(水素、窒素、水蒸気の状態の水)であり、水素は混合ガス中で粘度係数の最も小さいガスである。さらに、窒素及び水蒸気の状態の水は、粘度係数の最も小さいガス(水素)に比して粘度係数の大きいガスである。また、濃度が異なる水素(粘度係数η1)と窒素(粘度係数η2)とが、前記クリアランスCLを通過するときの水素の通過量Q1と窒素の通過量Q2との間には次の関係がある。このため、粘度係数が大きいほどクリアランスCLの通過量が減ることとなる。
【0041】
Q1・η1=Q2・η2
図3のグラフは、縦軸に水素オフガスの第1室33への吸入量を「1」としたときの各物質(水素、窒素、水)のクリアランスCLの通過割合を示し、横軸にクリアランスCLの前記吸入量に対する各物質全ての通過量の割合を示している(通過量/吸入量)。上記のように、水素オフガス中に含まれる水素の粘度係数は窒素の粘度係数の約1/2である。このため、図3のグラフに示すように、水素は窒素に比してクリアランスCLを通過しやすくなっている。そして、水素と窒素とでは同一クリアランスCLの通過量が、水素の通過量Q1が窒素の通過量Q2の約2倍となっている。
【0042】
また、モータMが一定速度で駆動されている場合、圧縮される水素オフガスの体積流量が大きいほどモータ電流値が大きくなる。そして、水素(粘度係数η1)と窒素(粘度係数η2)とが同一のクリアランスCLを通過するときの通過量Q1と通過量Q2との間には上記関係があるため、粘度係数が大きいほどクリアランスCLの通過量が減り、モータ電流値が大きくなる。
【0043】
したがって、水素オフガス中に含まれる水素の粘度係数は窒素の粘度係数の約1/2であるため、水素濃度が低くなるほど水素オフガスの粘度係数は大きくなり、水素オフガスの圧縮のためにモータMに流れるモータ電流値が大きくなる。すなわち、水素オフガス中の水素がクリアランスCLを通過して第1室33から第2室34へ移動していくに連れて、水素オフガスの圧縮のために駆動するモータMのモータ電流値が大きくなる。そこで、本実施形態では、電流センサSAにより検出されたモータMのモータ電流値から第1室33における水素濃度(水素オフガスの粘度係数)を推定し、第3バルブV3の開閉タイミングを調整する。
【0044】
制御装置25は図4に示すフローチャートに従って第3バルブV3の開閉を制御する。まず、制御装置25はステップS101で電流センサSAからモータ電流値Maを読み込み、ステップS102でそのモータ電流値Maが基準電流値M0未満か否かを判断する。基準電流値M0は、第1室33の水素濃度が低くなり、水素オフガスの粘度係数が大きくなって、第1室33のガス(水素)に比して粘度係数の大きいガス(窒素)がクリアランスCLを通過する前となる電流値に設定されている。したがって、モータ電流値Maが基準電流値M0未満でモータMが駆動されている場合は、第1室33の水素濃度が高く、かつモータMへのトルク(負荷)が小さい状態である。一方、モータ電流値Maが基準電流値M0を超えた状態でモータMが駆動されている場合は、第1室33の水素濃度が低く、かつモータMへのトルク(負荷)が大きい状態である。
【0045】
そして、モータ電流値Maが基準電流値M0を超えていればステップS103に進み、ステップS103において制御装置25は第3バルブV3に開放信号を出力して処理を終了する。これにより第3バルブV3が開状態となる。ステップS102でモータ電流値Maが基準電流値M0未満であれば、制御装置25は処理を終了する。制御装置25による以上の処理が定期的に繰り返される。
【0046】
次に、上記構成の燃料電池システム10の作用を説明する。燃料電池システム10の通常運転時には、水素タンク22から水素が供給されるとともに、水素循環ポンプPは燃料電池11における未反応の水素を再使用するため、所定の加圧状態に圧縮するように運転される。そして、水素が燃料電池11の水素電極側に供給される。また、エアーコンプレッサ14が駆動されて、空気が所定の圧力に加圧されて燃料電池11の酸素電極側に供給される。水素の供給量及び空気の供給量は、水素及び空気(酸素)が水素電極側又は酸素電極側と対応する通路を通過する間に燃料電池11での化学反応によって消費される量より多い。そして、発電のための化学反応で発生した水は、水蒸気の状態で未反応の空気とともに排管16から外部に排出される。
【0047】
また、燃料電池11内では、酸素電極側に酸素と共に供給された窒素が、酸素電極側から電解質膜を透過して水素電極側に進入する。また、燃料電池11内の酸素電極側では、水が生成されてその水の一部が、水蒸気として酸素電極側から電解質膜を通して水素電極側に入ってくる。そして、燃料電池11の水素電極側からは、未反応の水素をはじめ、水蒸気の状態の水、窒素等を含む水素オフガス(混合ガス)が水素排出ポートから排出される。
【0048】
そして、図5に示すように、水素循環ポンプPにおいて、モータMの駆動によってピストン31が上昇されると、第1バルブV1は逆止弁であるため、開弁して吸入口36から水素オフガスが第1室33内へ吸入されて吸入工程が行われる。また、第2バルブV2は逆止弁であるため、開弁して吐出口38から第2室34内の水素が管路19を介して水素タンク22からの水素に供給され、燃料電池11の水素電極側へ再供給される。そして、ピストン31が下死点まで移動すると第1室33の容積は最大となり、第1室33には、水素、窒素、水蒸気の状態の水及び液状の水が吸入される。制御装置25は電流センサSAからのモータ電流値Maを読み込み、該モータ電流値Maから第3バルブV3の開閉を制御する。このとき、制御装置25は、モータ電流値Maが基準電流値M0未満であることから、第3バルブV3を閉状態とするように制御する。
【0049】
次に、図6に示すように、モータMの駆動によってピストン31が下死点から下降すると、第1バルブV1は逆止弁であるため、閉弁して吸入口36を閉鎖する。また、第2バルブV2は逆止弁であるため、閉弁して水素タンク22からの水素が管路19を介して第2室34へ逆流することを防止する。さらに、制御装置25は電流センサSAからのモータ電流値Maを読み込み、モータ電流値Maが基準電流値M0未満であることから、第3バルブV3を閉状態とするように制御する。そして、第1室33の水素オフガスはピストン31によって圧縮されて圧縮工程が行われる。
【0050】
圧縮工程において、水素オフガスにて分子量が最も小さく、かつ粘度係数の最も小さい水素は、圧縮による加圧に伴いクリアランスCLの通過量が増大し、第1室33から第2室34へ移動する。一方、水素よりも分子量及び粘度係数が大きい窒素及び水は、クリアランスCLを通過しない。このため、圧縮工程では、水素オフガス中に含まれる水素は第1室33から第2室34へ移動し、第1室33の水素オフガスの水素濃度は徐々に低くなる一方で、第1室33の水素オフガスの窒素濃度は徐々に高くなる。
【0051】
そして、圧縮工程の途中ではピストン31が上死点に近づくに連れて、第1室33の水素オフガスの水素濃度は徐々に低くなるため、水素オフガスの粘度係数が大きくなり、モータMのモータ電流値Maが大きくなる。そして、制御装置25は電流センサSAからのモータ電流値Maを読み込み、モータ電流値Maが基準電流値M0を超えたと判断すると、制御装置25は第3バルブV3を開状態とするように制御する。すると、圧縮工程は終了し、第1室33内の水素オフガス、すなわち、前記圧縮により分離されず第1室33に残留するガスが、排出口37から第1室33外へ排出される。その結果、第1室33内にて、水素オフガスに含まれる水蒸気の状態の水、窒素、液状の水は排出管24によって燃料電池システム10外へ排出される。
【0052】
このため、圧縮工程にて、水素オフガス中の水素のみが第1室33から第2室34へ移動され、水素オフガスから分離される。一方、圧縮による分離の際に第1室33に残留する水素オフガス(水、窒素、不純物)は第2室34へ移動することなく、燃料電池システム10外へ排出される。
【0053】
次に、図5に示すように、水素循環ポンプPにおいて、モータMの駆動によってピストン31が上死点から上昇されると、第1バルブV1は逆止弁であるため、開弁して吸入口36から水素オフガスが第1室33内へ吸入されて吸入工程が行われる。制御装置25は電流センサSAからのモータ電流値Maを読み込み、モータ電流値Maが基準電流値M0未満であることから、第3バルブV3を閉状態とするように制御する。すると、第2バルブV2は逆止弁であるため、開弁して第2室34の水素はピストン31によって送り出され、吐出口38から第2室34外へ吐出される。そして、第2室34外へ吐出された水素は、管路19を介して水素タンク22からの水素に供給され、燃料電池11の水素電極側へ再供給される。
【0054】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)粘度係数の異なるガスを含む水素オフガス(混合ガス)を水素循環ポンプP(ポンプ)の第1室33で圧縮することで、粘度係数の差に基づくクリアランスCLの通過量の差から、粘度係数の最も小さいガス(水素)は、該水素に比して粘度係数の大きいガス(窒素)よりも先にクリアランスCLを通過して第2室34へ移動される。さらに、前記圧縮工程の際に、水素オフガスの粘度係数が大きくなったと判断された場合には、制御装置25は、排出流路(排出管24)の開閉手段(第3バルブV3)を閉状態から開状態へと移行させて前記圧縮工程を終了させるようにした。このため、水素循環経路17(ガス分離システム)では、水素循環ポンプPによる水素オフガスの圧縮に伴い、該水素オフガスから粘度係数の最も小さい水素を第1室33から第2室34へ移動させることができる。さらに、粘度係数の最も小さい水素に比して粘度係数が大きい窒素及び水蒸気の状態の水が第2室34へ移動する前に圧縮工程を終了させて、粘度係数の最も小さい水素以外が第2室34へ移動することを抑制することができる。その結果として、水素循環経路17では、粘度係数の最も小さい水素を、水素オフガスに含まれるその他のガスよりも優先的に分離することができる。
【0055】
したがって、水素循環経路17(ガス分離システム)を構成する水素循環ポンプP(ポンプ)にガス分離機構を一体的に設けることができる。その結果として、ガス分離のために、水素循環ポンプPとは別に気液分離機構やガス分離機構を設ける場合のように各機構の通過時に生じる圧力損失が大きくなることが防止され、ひいては水素循環ポンプPへの負荷を小さくすることができる。
【0056】
また、水素循環ポンプPにおいては、シリンダ30の内周面とピストンリング39の周面の間(クリアランスCL)を、粘度係数の最も小さい水素を通過させて水素を分離する構成とした。すなわち、粘度係数の最も小さい水素が通過する箇所には水素分離膜が設けられていないため、水素分離膜が目詰まりすることによって、ガス分離能が低下したり、水素循環ポンプPがロックすることがなく、水素循環経路17の水素循環ポンプPをメンテナンスフリーとすることができる。
【0057】
(2)燃料電池システム10の水素循環経路17において、水素循環ポンプPの圧縮工程の際に、水素オフガスから粘度係数の最も小さい水素を分離することができる。さらに、水素循環ポンプPの吐出工程により純度の高い水素を燃料電池11の水素電極側へ再供給することができる。その結果として、再供給される水素に含まれる不純物に起因した燃料電池11の発電効率の低下を防止することができる。
【0058】
(3)燃料電池システム10において、粘度係数の差に基づいたクリアランスCLのガスの通過量の差を利用し、さらに、第3バルブV3の開閉タイミングを制御することで水素オフガスから水素を分離可能とした。これは、燃料電池システム10の既存の構成のみを用いて水素オフガスから水素を分離可能とし、水素循環経路17に気液分離機構や水素分離膜を設ける必要が無く、燃料電池システム10の構成を簡素化することができる。
【0059】
(4)水素循環ポンプPの駆動によって、水素オフガスから粘度係数の最も小さい水素を分離することができると同時に、水素に比して粘度係数の大きい窒素や水蒸気の状態の水を水素循環ポンプPから燃料電池システム10外へ排出することができる。このため、水が燃料電池11へ再供給され、さらには水素循環経路17の管路18,19,23に水が溜まることによる圧力損失の増加や、管路18,19,23の閉塞を防止することができ、これら不具合に起因する発電効率の低下を防止することができる。
【0060】
(5)水素循環ポンプPを駆動するモータMのモータ電流値Maに基づいて水素循環ポンプPの負荷を検出し、モータ電流値MaはモータMに過電流が流れて損傷するのを防止するために装備されている電流センサSAが使用される。したがって、新たに負荷検出用の構成を設けることなく水素循環ポンプPの負荷を検出することができる。
【0061】
(6)モータMのモータ電流値Maが基準電流値M0を超える前に第3バルブV3を開状態として水素オフガスの圧縮を終了するようにした。これは、粘度係数の最も小さい水素がクリアランスCLを通過しているときには圧縮を行い、水素に比して粘度係数の大きい窒素がクリアランスCLを通過する前には圧縮を終了することとなる。すなわち、粘度係数の大きい窒素がクリアランスCLを通過することによるモータMのトルク増大を未然に防ぐことができ、モータMへの負荷を低減することができる。
【0062】
(第2の実施形態)
次に、本発明のガス分離システム及びポンプを燃料電池システム及び水素循環ポンプPに具体化した第2の実施形態を図7にしたがって説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態の水素循環ポンプPの個数を変更したのみの構成であるため、同様の部分についてはその重複する説明を省略する。
【0063】
図7に示すように、水素循環経路17(ガス分離システム)には複数(2個)の水素循環ポンプP1,P2が連結されている。なお、前記水素循環ポンプP1,P2は第1の実施形態の水素循環ポンプPと同一の構成である。そして、水素オフガス(混合ガス)の流通経路における上流側ポンプである第1水素循環ポンプP1の吸入口36には、燃料電池11の水素排出ポート(図示せず)が管路18を介して連結されており、排出口37には第1の排出管24が連結されている。
【0064】
また、第1水素循環ポンプP1の吐出口38には、前記流通経路における下流側ポンプである第2水素循環ポンプP2の吸入口36が連結配管40を介して連結されている。前記連結配管40は第1水素循環ポンプP1の吐出流路を構成するとともに、第2水素循環ポンプP2の吸入流路を構成している。また、連結配管40には、吐出流路を開閉するとともに吸入流路を開閉する開閉手段として第1バルブV1が設けられている。第2水素循環ポンプP2の排出口37には第2の排出管24が連結されている。さらに、第2水素循環ポンプP2の吐出口38には燃料電池11の水素供給ポート(図示せず)が管路19を介して連結されている。
【0065】
そして、第1水素循環ポンプP1で吸入工程が行われると同時に吐出工程が行われると、連結配管40における第1バルブV1が開弁して水素循環ポンプP1で分離された水素が水素循環ポンプP2に吸入される。さらに、水素循環ポンプP1で圧縮行程が行われると連結配管40における第1バルブV1が閉弁して水素循環ポンプP2でも圧縮行程が行われる。その結果として、2個の水素循環ポンプP1,P2を連結したことにより、水素循環ポンプP1で分離された水素は、連結配管40を介して第2水素循環ポンプP2の第1室33へ吸入され、さらに、第2水素循環ポンプP2の圧縮工程の際に、水素から不純物が除去され、純度が増した水素が分離される。第2水素循環ポンプP2で分離された水素は、吐出口38から吐出され、管路19,23を介して燃料電池11の水素電極側へ再供給される。
【0066】
したがって、第2の実施形態によれば、前記第1の実施形態の(1)〜(6)に記載の効果に加え、以下の効果も発揮することができる。
(7)水素循環経路17上に2個の水素循環ポンプP1,P2を設け、各水素循環ポンプP1,P2によって水素を圧送させた。このため、各水素循環ポンプP1,P2によって水素から不純物が除去され、より純度の増した水素を燃料電池11へ再供給することが可能となる。
【0067】
なお、各実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 第2の実施形態において、水素循環ポンプPの個数は3個でもよく、4個以上設けてもよい。
【0068】
○ 各実施形態において、図8に示すように、ピストン31を円筒状に形成し、その内側に逆止弁50を設けてもよい。この逆止弁50は、第1室33から第2室34へのガスの漏れを許容し、第2室34から第1室33へのガスの逆流を規制する。なお、ピストン31と逆止弁との間には極僅かな隙間(クリアランス)が形成されている。このように構成すると、ピストン31が下死点から上死点に向かって移動する際、水素が逆止弁50の隙間(クリアランス)を通過して第1室33から第2室34へ移動し、水素が水素オフガスから分離される。逆に、ピストン31が上死点から下死点に向かって移動する際、逆止弁50は閉状態が保持され、第2室34の水素が第1室33へ逆流することが防止できる。
【0069】
○ 各実施形態において、第2バルブV2を制御装置25によって制御する構成としてもよい。例えば、第2バルブV2の開度を調整可能な可変型のバルブとし、第2バルブV2を制御装置25に接続する。そして、モータMにピストン31の位置を検出する位置検出手段を設け、該位置検出手段によってピストン31が所定位置に位置したと検出されたとき、制御装置25は第2バルブV2を閉状態とするように制御させる。なお、前記所定位置をピストン31の下死点位置とし、ピストン31が圧縮工程を開始するときに制御装置25が第2バルブV2を閉状態とするようにする。
【0070】
○ 各実施形態において、水素循環ポンプPをシリンダ30及びピストン31を複数備えた多気筒タイプとしてもよい。
○ 各実施形態において、検出手段として、吐出口38から吐出された水素の濃度を検出する水素濃度センサや、第1室33又は第2室34の圧力(負荷)変動を検出する圧力センサとしてもよい。
【0071】
○ ガス分離システムを、燃料電池システム10の水素循環経路17以外にも水素生成プラントや水素分離器に用いてもよい。
○ ヘリウムを含んだ混合ガスをガス分離システムに供して混合ガスからヘリウムを分離してもよい。
【0072】
○ 3種類以上の粘度係数の異なるガスを含む混合ガスから、ガス分離システムを用いて少なくとも粘度係数の最も小さいガスを分離してもよい。
○ 燃料電池システムは、電気自動車に搭載される燃料電池システム10に限らず、例えば、家庭用電源の燃料電池システムとして用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】燃料電池システムの構成図。
【図2】水素循環ポンプを模式的に示す図。
【図3】各ガスのクリアランスの通過割合を示すグラフ。
【図4】第3バルブの開閉手順を示すフローチャート。
【図5】水素循環ポンプの吸入工程及び吐出工程を示す図。
【図6】水素循環ポンプの圧縮工程を示す図。
【図7】第2の実施形態の水素循環経路の一部を示す図。
【図8】別例の水素循環ポンプを模式的に示す図。
【符号の説明】
【0074】
P,P1,P2…ポンプとしての水素循環ポンプ、SA…検出手段としての電流センサ、V1,V2,V3…開閉手段としての第1〜第3バルブ、10…燃料電池システム、11…供給源としての燃料電池、17…ガス分離システムとしての水素循環経路、18…吸入流路を構成する管路、19…吐出流路を構成する管路、22…水素源としての水素タンク、24…排出流路を構成する排出管、25…制御装置、30…シリンダ、31…ピストン、33…第1室、34…第2室、36…吸入口、37…排出口、38…吐出口、39…シール手段としてのピストンリング、40…吸入流路を構成する連結配管、50…逆止弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給源から供給され、粘度係数の異なる複数のガスを含む混合ガスをポンプで圧縮して送り出し、前記圧縮に伴い前記混合ガスから少なくとも粘度係数の最も小さいガスを分離するガス分離システムであって、
前記ポンプはシリンダとピストンを有しており、前記シリンダ内は前記ピストンを境にして第1室と第2室に区画されているとともに、前記第1室には開閉手段によって開閉される吸入流路及び開閉手段によって開閉される排出流路が連結され、前記第2室には開閉手段によって開閉される吐出流路が連結されており、
前記第1室は、前記吸入流路を介して前記供給源から混合ガスを吸入可能であるとともに前記排出流路を介して前記圧縮による分離の際に第1室に残留するガスを第1室外へ排出可能とし、さらに前記第2室は前記吐出流路を介して前記圧縮によって分離されたガスを第2室外へ吐出可能とし、
前記ポンプに加わる負荷、又は粘度係数の最も小さいガスの濃度を検出する検出手段と、前記検出手段により検出されるポンプの負荷又は濃度の変化に基づいて前記排出流路の開閉手段の開閉を制御する制御装置とを備え、
前記第1室への混合ガスの吸入工程のときには前記吸入流路の開閉手段を開状態、前記吐出流路の開閉手段を開状態とし、さらに前記制御装置は前記排出流路の開閉手段を閉状態となるように制御し、
前記第1室の混合ガスの圧縮工程のときには前記吸入流路の開閉手段を閉状態、前記吐出流路の開閉手段を閉状態とし、さらに前記制御装置は前記排出流路の開閉手段を閉状態となるように制御して粘度係数の最も小さいガスを前記シリンダとピストンとの間を通過させて第2室へ移動させ、
前記圧縮工程の途中であり、粘度係数の最も小さいガスに比して粘度係数の大きいガスが前記シリンダとピストンとの間を通過する前には、前記制御装置は前記排出流路の開閉手段を開状態となるように制御し、
前記第2室のガスの吐出工程のときには前記吸入流路の開閉手段を開状態、前記吐出流路の開閉手段を開状態とし、さらに前記制御装置は前記排出流路の開閉手段を閉状態となるように制御することを特徴とするガス分離システム。
【請求項2】
前記シリンダとピストンとの間の隙間は、ゼロクリアランスである請求項1に記載のガス分離システム。
【請求項3】
前記シリンダとピストンとの間には、シール手段が設けられている請求項1又は請求項2に記載のガス分離システム。
【請求項4】
燃料電池で使用されなかった水素を水素源から供給される水素に合流させ、燃料電池で使用されなかった水素を燃料電池に再供給可能とする水素循環経路を備えた燃料電池システムにおける前記水素循環経路を構成するガス分離システムであり、
前記供給源としての前記燃料電池は水素電極及び酸素電極を備え、前記混合ガスは、前記水素電極側から排出された水素、前記酸素電極側から水素電極側へ混入された窒素、及び燃料電池で生成された水を含んだガスであり、前記ポンプは、前記混合ガスから少なくとも粘度係数の最も小さいガスである水素を分離するとともに該水素を燃料電池へ送り出して前記水素源から供給される水素に合流させる請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のガス分離システム。
【請求項5】
前記圧縮工程の途中では、開状態とされた前記排出流路から前記窒素及び水が排出される請求項4に記載のガス分離システム。
【請求項6】
前記吸入流路及び吐出流路の開閉手段は逆止弁である請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載のガス分離システム。
【請求項7】
前記ポンプを複数連結して構成されたガス分離システムであり、ガスの流通経路における上流側ポンプの第2室と、下流側ポンプの第1室とが連結配管によって連結されており、前記連結配管は前記下流側ポンプの吸入流路を構成する請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載のガス分離システム。
【請求項8】
前記ピストンには、前記第1室から前記第2室へのガスの通過を許容し、第2室から第1室へのガスの逆流を規制する逆止弁が設けられている請求項1〜請求項7のうちいずれか一項に記載のガス分離システム。
【請求項9】
供給源から供給され、粘度係数の異なる複数のガスを含む混合ガスを圧縮して送り出し、前記圧縮に伴い前記混合ガスから少なくとも粘度係数の最も小さいガスを分離するためのガス分離システムに用いられるポンプであって、
シリンダとピストンを有しており、前記シリンダ内は前記ピストンを境にして第1室と第2室に区画され、前記第1室には、前記供給源から混合ガスを吸入可能とする吸入口、及び前記圧縮による分離の際に第1室に残留するガスを第1室外へ排出可能とする排出口が設けられているとともに、前記第2室には、前記圧縮によって分離されたガスを第2室外へ吐出可能とする吐出口が設けられていることを特徴とするガス分離システムに用いられるポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−26961(P2007−26961A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209128(P2005−209128)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】