説明

ガス分離膜モジュール

【課題】高温・高圧下において充分な耐熱性及び耐圧性を保持した上で、成型時および運転時にクラックが入ることのないガス分離膜モジュールの管板を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ガス分離性能を有する多数の中空糸膜からなる糸束と、混合ガス入口、透過ガス排出口、および非透過ガス排出口を有し、前記中空糸束が内部に配置されるケーシングと、前記中空糸束の少なくとも一方の端部を固定する管板とを備える、ガス分離膜モジュールであって、前記管板が、(a)フェノールノボラック型エポキシ化合物と(b)エポキシ基と反応し得る官能基を末端に有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体とを反応して得られる変性エポキシ樹脂、および(c)硬化剤を含む注型樹脂組成物が硬化したエポキシ硬化物により形成される、ガス分離膜モジュールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる糸束が、特定のエポキシ組成物を硬化した管板で一体に固着されている混合ガス分離用のガス分離膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
混合ガスを、選択的透過性を有するガス分離膜を用いて分離する方法が、注目を集めている。この方法に用いられるガス分離膜モジュールとしては、プレートおよびフレーム型、チューブラー型、中空糸型などがある。そのなかでも、中空糸型のガス分離膜モジュールは、単位体積当たりの膜面積がもっとも大きいという利点を有するだけでなく、耐圧性、自己支持性の点においても優れているので、工業的に有利であり、広範囲に利用されている。
【0003】
中空糸型のガス分離膜モジュールは、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる糸束の少なくとも一端を注型用の樹脂の硬化板(管板)で一体に結束、固着した状態で、少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口、および非透過ガス排出口を備えたケーシングに収納しているものである。管板は、糸束を一体に固着する役割のほか、中空糸と中空糸の間、および、中空糸とケーシングの間を密封することにより、中空糸膜の内部空間と外部空間を隔絶し、内部空間と外部空間との気密性を保持する役割を持っている。中空糸型のガス分離膜モジュールは、前記管板による気密性が失われると、好適な分離が行われなくなる。
【0004】
分離膜を用いたガス分離方法において、ガス混合物を高温・高圧の状態で供給することによって好適なガス分離を達成している場合がある。その場合には、管板材料は、高い耐熱性、耐圧性が求められ、そのガラス転移温度や熱変形温度はガス分離膜モジュールの運転温度より少なくとも数十度高くなければならない。
【0005】
高い耐熱性、耐圧性を実現するための管板材料としては熱硬化型樹脂が一般的に用いられるが、管板成形時、熱硬化型樹脂の硬化反応を完結させるために、著しく高い温度で処理される。硬化反応が完結していない管板を用いると、分離膜モジュールを高温で運転する間に硬化反応が進行して管板が収縮してしまい、管板とケーシングとの間のシール機能が不十分となってしまうからである。したがって、管板材料には、管板成形時の著しく高い温度に対する耐熱性も要求される。
【0006】
高温・高圧の混合ガスの分離に用いることができるガス分離膜モジュールとして、特許文献1には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂と、反応性の官能基を端部に有する液状ポリブタジエンとを反応させて得られた変性エポキシ樹脂を用いて製造された中空糸エレメントが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−74434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の管板材料は、管板成型時に硬化収縮が大きく、クラックが発生したり、管板が破壊したりする等の問題があった。さらに、耐圧性及び耐熱性のみを重視した場合に、管板材料の可とう性が乏しいため、例えば、運転時に衝撃を受けた際に、管板にクラックが発生したり、管板が破壊したりする等の問題があった。本発明は、高温・高圧下において充分な耐熱性及び耐圧性を保持した上で、クラックが入ることのないガス分離膜モジュールの管板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の事項に関する。
【0010】
1. ガス分離性能を有する多数の中空糸膜からなる糸束と、
混合ガス入口、透過ガス排出口、および非透過ガス排出口を有し、前記中空糸束が内部に配置されるケーシングと、
前記中空糸束の少なくとも一方の端部を固定する管板と、
を備える、ガス分離膜モジュールであって、
前記管板が、
(a)フェノールノボラック型エポキシ化合物と(b)エポキシ基と反応し得る官能基を末端に有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体とを反応して得られる変性エポキシ樹脂、および
(c)硬化剤
を含む注型樹脂組成物が硬化したエポキシ硬化物により形成される、ガス分離膜モジュール。
【0011】
2. 前記注型樹脂組成物がさらに硬化促進剤を含む、上記1に記載のガス分離膜モジュール。
【0012】
3. 前記エポキシ基と反応し得る官能基が、カルボキシル基である、上記1または2に記載のガス分離膜モジュール。
【0013】
4. 前記硬化剤が、酸無水物である、上記1〜3のいずれかに記載のガス分離膜モジュール。
【0014】
5. 前記硬化促進剤がイミダゾール化合物である、上記2〜4のいずれかに記載のガス分離膜モジュール。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス分離膜モジュールにおける管板は、エポキシ基と反応し得る官能基を末端に有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体を用いて製造されることにより、従来の管板に比べて可とう性を有する。そして、管板成形時や、ガス分離膜モジュールの運転時に高温・高圧のガスにさらされた時に、管板にクラックが発生することがなく、中空糸との密着性や、管板とケーシングとの間の密閉機能にも問題がない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ガス分離膜モジュールの一例を示す概略図である。
【図2】混合ガス分離用の管板の作製法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の中空糸エレメントの管板を形成するエポキシ硬化物は、少なくとも
(a)フェノールノボラック型エポキシ化合物と(b)エポキシ基と反応し得る官能基を末端に有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体とを反応して得られる変性エポキシ樹脂、および
(c)硬化剤
を含む注型樹脂組成物を熱処理することにより硬化させて得ることができる。以下、詳細に説明する。
【0018】
<変性エポキシ樹脂>
変性エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ化合物{以下、エポキシ化合物(a)と記載することもある}と、エポキシ基と反応し得る官能基を末端に有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体{以下、化合物(b)と記載することもある}とを反応させて得ることができる。
【0019】
本発明に用いるフェノールノボラック型エポキシ化合物(a)は下記一般式(a)で表される化合物である。
【0020】
【化1】

(式中、R”は、炭素数1〜3のアルキル基、または水素原子を表し、nは、0〜500、好ましくは0〜20の整数を表す。)
【0021】
式(a)中、R”は、好ましくはメチル基または水素原子である。上記一般式(a)で示されるエポキシ化合物(a)は、分子量が300〜2000であることが好ましく、また、エポキシ当量が150〜250であることが好ましい。エポキシ化合物(a)としては、三菱化学(株)製のjER152、jER154;DIC(株)製のEPICLON−N740、N−770、N−775等;東都化成(株)製のYDPN−638、YDCN−700シリーズ等; ザ・ダウ・ケミカル社製のD.E.N.438等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いる、エポキシ基と反応し得る官能基を末端に有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体{化合物(b)}において、エポキシ基と反応し得る官能基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基等が挙げられ、カルボキシル基が特に好ましい。化合物(b)を含有することにより、形成される管板に可撓性を付与することができる。
【0023】
エポキシ基と反応し得る官能基を末端に有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体としては、例えば、下記一般式(b)で表されるカルボキシル基末端ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(CTBN)が好ましい。
【0024】
【化2】

式(b)中、mはブタジエンモノマーユニットの繰り返し数の合計を示し、nはアクリロニトリルモノマーユニットの繰り返し数の合計を示し、[ ]内の構造が2以上存在するとき、m、nはそれぞれの単位の繰り返し数の総和を示し、ブロックとして存在してもランダムに存在していてもどちらでもよい。
【0025】
上記一般式(b)で表されるCTBNの分子量は2000〜4000が好ましく、例ええば、CTBN中、5〜50重量%のアクリロニトリルモノマーユニットが含まれることが好ましい。市販品としては、例えばエメラルドパフォーマンスマテリアル社製HyproTMCTBN1300×8、CTBN1300×13、CTBN1300×31等が挙げられる。
【0026】
変性エポキシ樹脂は、エポキシ化合物(a)100重量部に対し、化合物(b)を好ましくは5〜50重量部、さらに好ましくは5〜20重量部となるように混合して反応させることにより得られる。各化合物の含有量が上記範囲内である変性エポキシ樹脂を用いると、形成された管板は、高温・高圧下においてクラックが発生せず、また、ガラス転移温度が大きく低くなって変形してしまうという問題も生じない。また、本発明の目的を損なわなければ他の化合物を混合してもよい。この変性エポキシ樹脂調製の際の反応条件は、特に限定はされないが、反応温度は、100〜200℃であることが好ましく、反応時間は2〜5時間であることが好ましい。
【0027】
<硬化剤>
本発明に用いる硬化剤は、エポキシ樹脂の熱硬化剤であれば特に限定はされないが、アミン類、フェノール類、酸無水物等が挙げられ、酸無水物を用いることがより好ましい。酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、ピロメリット酸二無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(無水メチルナジック酸)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が特に好ましい。
【0028】
<硬化促進剤>
本発明に用いる注型樹脂組成物は、必要により硬化促進剤を含んでもよく、硬化促進剤としては、例えばイミダゾール化合物が挙げられる。イミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等が挙げられ、2−エチル−4−メチルイミダゾールが特に好ましい。
【0029】
<エポキシ硬化物>
本発明の管板を形成するエポキシ硬化物は、上記変性エポキシ樹脂と硬化剤と、必要により硬化促進剤とを混合した注型樹脂組成物(以下、注型樹脂組成物と記載することもある)を熱処理することにより硬化させて得ることができる。注型樹脂組成物の調製における変性エポキシ樹脂と硬化剤等との混合割合は、変性エポキシ樹脂のエポキシ官能基数と硬化剤の官能基数とに応じるとともに、注型樹脂組成物の粘度等に応じて適宜調整できる。なお、変性エポキシ樹脂100重量部に対して、硬化促進剤は好ましくは0〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。
【0030】
熱処理は、例えば、注型樹脂組成物を加熱して注型樹脂組成物の流動性がなくなる程度まで一次硬化し、次いで一次硬化した樹脂をさらに高温で後硬化することが好ましい。後硬化する際は、モジュール運転中に管板材料が物性変化を起こさないように、注型樹脂組成物を、モジュールの最終操作温度以上の温度、例えば好ましくは100℃〜250℃、より好ましくは120℃以上で2〜10時間、熱処理することが好ましい。また、一次硬化は、特に限定はされないが、例えば、好ましくは100℃未満、より好ましくは50〜85℃で2〜24時間行うことが好ましい。なお、一次硬化した樹脂は、5℃/min以下の昇温速度で後硬化温度まで加熱すると、注型樹脂組成物内部で急激に発生する反応熱により熱暴走が生じるという問題がなく、好ましい。管板の作製方法については後述する。
【0031】
<ガス分離膜モジュール>
次に、本発明のガス分離膜モジュールの構造について説明する。
【0032】
中空糸膜によって構成されているガス分離膜モジュールとしては、いわゆるボアフィード型とシェルフィード型が知られている。例えば、ボアフィード型のガス分離膜モジュールにおいては、図1(A)に示すように中空糸膜14の多数本(例えば、数百本から数十万本)を集束して中空糸束とし、その中空糸束を、少なくとも混合ガス入口11、透過ガス排出口12、及び非透過ガス排出口13を有するケーシング15内に収納し、その中空糸束の両方の端部において中空糸膜14が開口状態となるようにケーシング15に固着して管板16aおよび16bを構成し、混合ガス入口11からガスが供給されて中空糸膜14の内側を通って非透過ガス排出口13へ通じる空間(非透過側)と、中空糸膜14の外側から透過ガス排出口12へ通じる空間(透過側)とが隔絶するように構成されている。ケーシング15は、例えば、ステンレスなどの金属材料、プラスチック材料、繊維強化プラスチック材料およびセラミックなどの材料で製造される。シェルフィード型ガス分離膜モジュールにおいては、例えば、図1(B)に示すように、中空糸束の一方の端部に管板が構成されており、混合ガス入口11からガスが供給され非透過ガス排出口13へ通じる非透過側の空間が、中空糸膜14の外側であり、透過ガス排出口12へ通じる透過側の空間が、中空糸膜14の内側に構成されている。
【0033】
図1(A)および(B)において、ガス分離膜モジュールの混合ガス入口11から供給された混合ガスは、ガス分離膜モジュール内の中空糸膜14に接して流れる間に、中空糸膜14を高透過ガスが優先的に透過し、高透過ガスを多く含むガス(透過ガス)と、高透過ガスをより少なく含む、透過しなかった残りのガス(非透過ガス)とに分離される。透過ガスは透過ガス排出口12から排出され、非透過ガスは非透過ガス排出口13から排出される。ガス分離膜モジュールから排出される非透過ガスと透過ガスは、用途に応じて、一方のみまたは両方回収される。
【0034】
ガス分離膜に用いる中空糸としては、厚みが薄く径が小さい多数本の中空糸が、小型装置でも高膜面積にできて分離効率を高めることができ、経済的でもあり好ましい。前記中空糸は、例えば、膜厚は10〜500μmで外径は50〜2000μmのものが挙げられるが、特に限定はされない。また、ガス分離膜は、均質性でもよく、複合膜や非対称膜などの不均一性でもよく、また微多孔性でも非多孔性でもよい。
【0035】
ガス分離膜は、例えば、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、セルロース系ポリマーなどのポリマー材料、ゼオライトなどのセラミックス材料などで形成されたものを挙げることができる。ポリイミドで形成されたガス分離膜としては、例えば、芳香族ポリイミド中空糸分離膜が好ましく、芳香族ポリイミド非対称中空糸分離膜がより好ましい。
【0036】
中空糸束の配糸形態としては、平行配列、交叉配列、織物状、スパイラル状などが挙げられる。また中空糸束は略中心部に芯管を備えていてもよく、中空糸束の外周部にフィルムが巻き付けられていてもよい。更に中空糸束の形態は円柱状、平板状、角柱状などでよく、ケーシング内に前記形態のままで、又はU字状に折り曲げたり、スパイラル状に巻き付けたりして収納してもよい。
【0037】
本発明のガス分離膜モジュールの製造方法について以下説明する。
【0038】
まず、中空糸膜を中空糸束として集束する方法について説明する。
【0039】
中空糸膜を軸方向に対して5〜30度の角度を持って交互に交差配列するように集束させる方法としては、例えば、下記の方法があげられる。1〜100本の中空糸膜は、芯になる管状物(芯管)の軸方向に一定の速度で往復する配糸ガイドによって芯管に配糸されるが、同時に芯管が一定の速度で回転する。このため、中空糸膜は軸に平行に配糸されないで、軸方向に対して芯管が回転しただけ角度を持って配糸される。配糸が一方の端部までくると、そこで中空糸膜は固定され、配糸ガイドは逆方向へ引き返して更に配糸を行う。芯管は同方向へ回転し続けるので、今度は軸方向に対して前回とは角度が同じでちょうど反対の方向となる角度をもって配糸される。これを繰り返していくと、配糸される中空糸膜は反対の角度で配糸されている中空糸膜の上に交互に交叉して配列されて中空糸束に集束される。
【0040】
次に、本発明における管板を形成する方法について説明する。管板を形成する方法としては、遠心成形法および静置成形法が挙げられるが、静置成形法は装置が簡便で生産性を向上できるので好ましい。以下、静置成形法の一例を説明する。
【0041】
前記の方法等で、所定の長さおよび本数の中空糸膜24を集束した中空糸束を、芯管を取り外すか或いは芯管をそのまま束の略中心部に有したまま、ケーシング22に収納した後、端部に管板を成形する金型21内の所定の位置に設置し、前記中空糸束と円柱状のケーシング22を、端部を下にして実質的に垂直に保持する。この状態の模式図を図2bに示す。
【0042】
金型21内に、管板23を形成するための注型樹脂組成物を所定量注入する。注型樹脂組成物が注入された状態の模式図を図2cに示す。注型樹脂組成物の注入方法は特に限定されないが、金型下部からシリンジを用いて注入することが、金型21内ならびに中空糸膜24の間に注型樹脂組成物を均一に注入しやすいため好ましい。注型樹脂組成物の注入速度が速すぎると、注型樹脂組成物を充填すべき部位に均等に注入することが困難となるため、十分時間をかけて注入することが好ましい。注型樹脂組成物を金型21に注入する間、金型21の温度を適宜制御することが好適である。同様に、注型樹脂組成物の温度を制御することが好適である。
【0043】
硬化前の注型樹脂組成物は、成型性の面から、樹脂注入時の温度において液状であることが好ましい。
【0044】
注型樹脂組成物の粘度については特に制限は無いが、樹脂注入に際し標準的に用いられる温度70〜90℃における粘度が120poise未満であることが好ましく、20poise未満であることが特に好ましい。ここで樹脂組成物の粘度は、回転粘度計を用いて好適に測定される。
【0045】
注型樹脂組成物の70〜90℃における粘度が120poise以上であると、管板成型時の樹脂注入に長時間を要するうえ、樹脂注入時に生じる気泡が抜けにくくなり、さらに中空糸膜間へ樹脂が十分に浸透せず、空隙が生じるという問題がある。
【0046】
金型21に注型樹脂組成物を注入した後、金型21及び中空糸束を一定温度に保持することで注型樹脂組成物を一次硬化させ、管板23を形成する。このときの温度は100℃未満、好ましくは50〜85℃が好適である。この段階での温度が高いと、注型樹脂組成物の硬化反応が激しくなり、最終的に得られる管板の強度に影響が出るため好ましくない。
【0047】
注型樹脂組成物が硬化した後、注型樹脂組成物をさらに加熱する事により後硬化を行うことが管板の耐久性、機械特性を向上させる点において好ましい。後硬化時の温度は100℃〜250℃が好ましい。後硬化時の温度が100℃より低いと注型樹脂組成物の硬化が不十分と成るため、好ましくない。また、後硬化時の温度が高すぎると、注型樹脂組成物の硬化反応が激しくなり、管板の強度に問題が出るため好ましくない。注型樹脂組成物を後硬化する際には、複数回に分けて、それぞれ別々の温度に加熱してもよい。
【0048】
注型樹脂組成物を後硬化させた後、管板を切断し、中空糸膜を端部で開口させることによって、端部で中空糸が開口状態を保持して管板で固着された中空糸エレメントとする。
【0049】
ここで、中空糸束の両端部に管板を形成する場合には、前記の手順により中空糸束の一方の端部に管板を形成した後に、他方の端部に同様の手順によって管板を形成することによって行われる。一方の端部に管板を形成した後というのは、管板を切断して、中空糸膜を開口させた後であっても良い。また、一方の端部を金型内に設置し、注型樹脂組成物を注入、一次硬化した後、後硬化を行う前に、他方の端部に管板を形成し、後硬化以降の手順を両端部に同時に行うことも好適である。
【0050】
本発明のガス分離膜モジュールを用いた混合ガスを分離する方法において、分離する混合ガスは、2種以上のガス混合物であれば特に制限されるものではない。本発明のガス分離膜モジュールは、例えば、空気からの窒素富化ガスと酸素富化ガスの分離、水素ガスを含む混合ガスからの水素ガスの分離、水蒸気と有機蒸気の混合蒸気からの水蒸気の分離(有機蒸気の脱水)などに好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限られるものではない。
【0052】
<実施例1>
(注型樹脂組成物の製造)
フェノールノボラックのポリグリシジルエーテル100重量部と、カルボキシル基末端ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(分子量3100)10重量部とを混合し、150℃で3〜4時間加熱し、変性エポキシ樹脂を調製した。調製した変性エポキシ樹脂を100重量部と、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物を80重量部と、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.3重量部とを混合し、撹拌して注型樹脂組成物を調製した。
【0053】
(管板の成形性の評価)
ポリイミド中空糸膜(長さ;100cm、外径;500μm)を12000本集束した糸束を、図2bに示す様にφ100mmの金型内に配置した。糸束の先端を下にして実質的に直立させ、前記の手法で調製した注型樹脂組成物を70℃に保温した金型内にゆっくりと注入した。注型樹脂組成物は厚みが90mm程度となるように量を制御した。注入後、70℃で12時間一次硬化を行った後、142℃に加温して4時間後硬化を行うことにより管板の成形を行った。硬化後、中空糸エレメントをケーシングから取り出して目視により観察し、更に管板を略半分に割って中心部の状態についても目視により観察した。
【0054】
その結果、成形された管板にクラックは観察されなかった。
【符号の説明】
【0055】
11 混合ガス入口
12 透過ガス排出口
13 非透過ガス排出口
14 中空糸膜
15 ケーシング
16a、16b 管板
21 金型
22 ケーシング
23 管板
24 中空糸膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス分離性能を有する多数の中空糸膜からなる糸束と、
混合ガス入口、透過ガス排出口、および非透過ガス排出口を有し、前記中空糸束が内部に配置されるケーシングと、
前記中空糸束の少なくとも一方の端部を固定する管板と、
を備える、ガス分離膜モジュールであって、
前記管板が、
(a)フェノールノボラック型エポキシ化合物と(b)エポキシ基と反応し得る官能基を末端に有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体とを反応して得られる変性エポキシ樹脂、および
(c)硬化剤
を含む注型樹脂組成物が硬化したエポキシ硬化物により形成される、ガス分離膜モジュール。
【請求項2】
前記注型樹脂組成物がさらに硬化促進剤を含む、請求項1に記載のガス分離膜モジュール。
【請求項3】
前記エポキシ基と反応し得る官能基が、カルボキシル基である、請求項1または2に記載のガス分離膜モジュール。
【請求項4】
前記硬化剤が、酸無水物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分離膜モジュール。
【請求項5】
前記硬化促進剤がイミダゾール化合物である、請求項2〜4のいずれか1項に記載のガス分離膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−94726(P2013−94726A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239388(P2011−239388)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】