説明

ガス分離複合膜

【課題】水蒸気が含まれる混合ガスでも特定のガス種を分離出来るガス分離複合膜を提供する。
【解決手段】式(1)


[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]で示される基、または式(2)


[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]で示される基を有するポリアミドアミンデンドリマー(A)、及びアセトアセチル基を0.5〜10mol%含有するビニルアルコール系重合体(B)を含むガス分離複合膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気の含まれる混合ガスから特定のガス種を分離するガス分離複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分離膜を用いた分離技術がめざましく進展している。このような分離技術には、例えば不純物を分離して飲料水を得るといった液体と固体の分離から、空気から窒素を分離して酸素富化させるといった気体同士の分離まで、種々の事例が存在する。特に、気体の分離技術においては、化石資源の高効率回収や地球温暖化防止の観点から、混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する技術確立が切望されており、その技術検討が精力的に実施されている。
【0003】
しかしながら、従来の高分子膜では二酸化炭素選択性(二酸化炭素の膜透過速度/他ガスの膜透過速度)が不十分であり、目的の濃度の二酸化炭素を回収することが出来なかった。二酸化炭素選択性に優れた分離膜を得るため、二酸化炭素に対する親和性が高い素材を用いることが提案されており、例えば室温では液状物質であるポリアミドアミンデンドリマーを、微多孔質の支持体に含浸させた分離膜が提案されている(非特許文献1および2)。この含浸膜の二酸化炭素選択性は、膜に圧力差を掛けない条件下では1000以上の優れた数値を示すものの、圧力差が無いため膜透過速度が小さく、実用に供するには不十分であった。一方で、圧力を掛けるとポリアミドアミンデンドリマーが支持体から経時的に流出し、選択性を維持できなくなるため、同じく実用に供することが出来なかった。
【0004】
この問題を解決する方法として、架橋剤で架橋された親水性高分子材料をマトリックスとしてその中に特定のアミン化合物を包含させた層を多孔質性支持膜の表面に形成させた複合膜が提案されている(特許文献1)。この複合膜は、高い二酸化炭素選択性を持つだけでなく、一定の圧力差にも耐えることが可能な分離膜と言える。しかしながら、分離対象となる混合ガスに水蒸気が含まれている場合、混合ガスと膜表面との間に親和性が発現するための適度な親水性と、水蒸気雰囲気下において分離膜の構造変化が起こることのない耐水性という相反した性質が要求される。前記の複合膜では、水蒸気雰囲気下において混合ガスが供給されると、包含されていたアミン化合物が経時的に複合膜より流出して、二酸化炭素選択性を維持することが出来ないため、実用に供することが困難であった。混合ガスに水蒸気が含まれる事例は、石炭ガス化火力発電の新設など今後大幅に増えてくることが予測されるため、適度な親水性と耐水性を備え、水蒸気が含まれる混合ガスでも実用に供することの出来る分離膜の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−68238号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.122(2000)7594〜7595
【非特許文献2】Ind.Eng.Chem.Res.40(2001)2502〜2511
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、水蒸気が含まれる混合ガスでも特定のガス種を分離出来るガス分離複合膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アセトアセチル基で特定量変性されたビニルアルコール系重合体、及びポリアミドアミンデンドリマーを含むガス分離複合膜であって、該複合膜を一定温度の蒸留水に一定時間浸漬させた時の重量保持率および窒素元素重量保持率が特定の範囲にあることによって、水蒸気の含まれる混合ガスでも高い二酸化炭素選択性を有し、実用に供することが可能なガス分離複合膜が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち上記課題は、式(1)
【化1】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基、または式(2)
【化2】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基を有するポリアミドアミンデンドリマー(A)、及びアセトアセチル基を0.5〜10mol%含有するビニルアルコール系重合体(B)を含むガス分離複合膜であって、該複合膜を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60質量%以上であり、窒素元素重量保持率が60質量%以上であることを特徴とするガス分離複合膜を提供することによって解決される。
【0010】
このとき、ポリアミドアミンデンドリマー(A)とビニルアルコール系重合体(B)との質量比(A)/(B)が40/60〜80/20であることが好適である。
【0011】
また、上記課題は、式(1)
【化3】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基、または式(2)
【化4】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基を有するポリアミドアミンデンドリマー(A)、及びアセトアセチル基を0.5〜10mol%含有するビニルアルコール系重合体(B)を含むガス分離複合膜が、さらに多官能性架橋剤(C)を含むガス分離複合膜であって、該複合膜を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60質量%以上であり、窒素元素重量保持率が60質量%以上であることを特徴とするガス分離複合膜を提供することによっても解決される。
【0012】
このとき、ポリアミドアミンデンドリマー(A)とビニルアルコール系重合体(B)との質量比(A)/(B)が40/60〜80/20であり、ビニルアルコール系重合体(B)と多官能性架橋剤(C)との質量比(B)/(C)が60/40〜90/10であることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガス分離複合膜は、水蒸気が含まれる混合ガスでも特定のガス種を分離することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のガス分離複合膜は、ポリアミドアミンデンドリマー(A)、及びアセトアセチル基を0.5〜10mol%含有するビニルアルコール系重合体(B)を含むガス分離複合膜であって、該複合膜を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60質量%以上であり、窒素元素重量保持率が60質量%以上であることを特徴とする。
【0015】
このように、本発明のガス分離複合膜は、該複合膜を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60質量%以上であり、窒素元素重量保持率が60質量%以上であることから、ポリアミドアミンデンドリマー(A)と、アセトアセチル基を0.5〜10mol%含有するビニルアルコール系重合体(B)とが架橋されていると判断される。
【0016】
本発明で用いられるポリアミドアミンデンドリマー(A)は、式(1)
【化5】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基、または式(2)
【化6】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基を有する。これらの中でも、式(1)で示される基を有するポリアミドアミンデンドリマー(A)が好適に用いられる。
【0017】
式(1)または式(2)中、AおよびAで示される炭素数1〜3の二価有機残基としては、たとえば、直鎖状または分枝状の炭素数1〜3のアルキレン基が挙げられる。このようなアルキレン基の具体例としては、−CH−、−CH−CH−、−CH−CH−CH−、−CH−CH(CH)−などが挙げられ、これらのうち特に−CH−が好ましい。また、式(1)または式(2)中、水蒸気が含まれる混合ガスとの親和性が増すことから、n=1であることが好ましい。
【0018】
また、本発明に用いられるポリアミドアミンデンドリマー(A)は、エチレンジアミンによるアミド化反応で分岐構造を形成し、その分岐数を増やしていくことで、分子内の1級アミンの個数を増すことができる。本発明においては、分岐数に制限されることなく、どの世代のポリアミドアミンデンドリマーでも好適に用いることが出来るが、単位重量あたりの1級アミンの個数が多く、最も大きな二酸化炭素吸着能力が見込める式(3)の第0世代ポリアミドアミンデンドリマーが特に好適に用いられる。
【0019】
【化7】

【0020】
次に、ビニルアルコール系重合体(B)について説明する。本発明で用いられるビニルアルコール系重合体(B)は、アセトアセチル基を0.5〜10mol%含有する。このように、本発明で用いられるビニルアルコール系重合体(B)がアセトアセチル基を0.5〜10mol%含有することにより、ポリアミドアミンデンドリマー(A)とビニルアルコール系重合体(B)とが架橋されることとなる。すなわち、ポリアミドアミンデンドリマー(A)における2つのアミノ基と、ビニルアルコール系重合体(B)における2つのアセトアセチル基とが反応して架橋されると本発明者らは推察している。
【0021】
ビニルアルコール系重合体(B)におけるアセトアセチル基の含有量が0.5mol%未満の場合には、本発明のガス分離複合膜におけるガス種の分離性能が経時的に低下する傾向があるとともに、耐水性が低下する恐れがあり、10mol%を超える場合には、ビニルアルコール系重合体(B)溶液の安定性が低下し、均質な複合膜が得られにくく、目的とする耐水性に優れる複合膜が得られない恐れがある。アセトアセチル基の含有量は、1〜8mol%が好ましく、2〜6mol%がより好ましい。
【0022】
ビニルアルコール系重合体(B)の粘度平均重合度(以下、重合度と略記することがある)は300〜2500が好ましく、330〜2200がより好ましく、360〜2000が特に好ましい。重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、ビニルアルコール系重合体(B)を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0023】
重合度が300未満の場合には、複合膜のマトリックスを構成する機能が低下して複合膜の耐水性が低下する恐れがある。重合度が2500を超える場合には、複合膜を作製する際のポリアミドアミンデンドリマー(A)とビニルアルコール系重合体(B)とからなる溶液の粘度が高くなりすぎる場合があり、作業性が低下するのみならず均質な複合膜が得られない恐れがある。
【0024】
本発明で用いられるビニルアルコール系重合体(B)のけん化度は95〜99.9mol%であることが好ましい。けん化度が95mol%未満の場合には、複合膜の耐水性が低下する恐れがあり、99.9mol%を超える場合には、製膜時の作業性が低下したり、複合膜を作製する際のポリアミドアミンデンドリマー(A)とビニルアルコール系重合体(B)とからなる溶液の粘度安定性が低下する恐れがある。ビニルアルコール系重合体(B)のけん化度は96〜99mol%がより好ましい。
【0025】
本発明で用いられるビニルアルコール系重合体(B)におけるビニルアルコール単位の含有量は、70mol%以上であることが好ましく、80mol%以上であることがより好ましく、90mol%以上であることが更に好ましい。また、本発明で用いられるビニルアルコール系重合体(B)は、エチレン単位を含有していてもよい。ビニルアルコール系重合体(B)におけるエチレン単位の含有量は0〜15mol%が好ましく、0〜8mol%が特に好ましい。エチレン単位の含有量が15mol%を超える場合は、複合膜の吸水量が低下する恐れがあるだけでなく、ポリアミドアミンデンドリマー(A)との相溶性が低下して、均質な複合膜が得られない恐れがある。
【0026】
ビニルアルコール系重合体(B)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位、エチレン単位、アセトアセチル基を含有する単位以外の単量体単位を含有していても良い。このような単量体単位としては、アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド;N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、その塩またはそのエステル;イタコン酸、その塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロピニル等の単量体由来の単位が挙げられる。これらの単量体単位の含有量としては、10mol%以下が好ましく、5mol%以下がより好ましく、3mol%以下がさらに好ましい。
【0027】
本発明において、ポリアミドアミンデンドリマー(A)とビニルアルコール系重合体(B)との質量比(A)/(B)は特に限定されず、40/60〜80/20であることが好ましい。質量比(A)/(B)が40/60未満の場合、ガス種の分離性能が不十分となる恐れがあり、一方、質量比(A)/(B)が80/20を超える場合、得られるガス分離複合膜の耐水性が不十分となる恐れがある。質量比(A)/(B)は、45/55〜70/30であることがより好ましい。
【0028】
次に、多官能性架橋剤(C)について説明する。本発明に用いられる架橋剤(C)は、アセトアセチル基を含有しない多官能性の架橋剤である。すなわち、本発明に用いられる架橋剤(C)は、ビニルアルコール系重合体(B)同士や、ポリアミドアミンデンドリマー(A)とビニルアルコール系重合体(B)とを架橋するのに用いられる架橋剤であって、特に限定されるものではなく、エポキシ基、アルデヒド基、ハロゲン原子などの官能基を2個以上有する化合物、チタン系架橋剤、ジルコニウム系架橋剤が挙げられる。多官能性架橋剤(C)を用いることにより、ポリアミドアミンデンドリマー(A)、及びビニルアルコール系重合体(B)を含むガス分離複合膜において、前記(A)及び(B)をさらに架橋させることができる。これにより、耐水性を有してガス選択性が低下しないガス分離複合膜を得ることができる。多官能性架橋剤(C)としては、チタン系架橋剤、ジルコニウム系架橋剤、および官能基としてエポキシ基またはアルデヒド基を有する架橋剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
エポキシ基を有する架橋剤としては、例えば、エポキシクロロヒドリン、ジエポキシアルカン、ジエポキシアルケン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)グリセリンジグリシジルエーテルなどのジグリシジルエーテル化合物が挙げられ、特にエチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。また、アルデヒド基を有する架橋剤としては、グルタルアルデヒド、スクシンアルデヒド、マロンジアルデヒド、テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒドなどのジアルデヒド化合物が挙げられ、特にグルタルアルデヒドが好ましい。チタン系架橋剤としては、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテートアンモニウム塩など、チタンのアルコシキド系架橋剤が好ましい。また、ジルコニウム系架橋剤としては、酸塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、ステアリン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、珪酸ジルコニウムなどが挙げられる。これらのジルコニウム化合物の中でも水溶性のものが好ましく、塩素を持たないものがさらに好ましい。具体的には硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウムが挙げられる。
【0030】
ビニルアルコール系重合体(B)と多官能性架橋剤(C)との質量比(B)/(C)は特に限定されず、60/40〜90/10であることが好ましい。質量比(B)/(C)が60/40未満の場合、溶液安定性の低下によって製膜作業が困難となり、結果として均質な複合膜が得られない恐れがあり、一方、質量比(B)/(C)が90/10を超える場合、耐水性が不十分となる恐れがある。質量比(B)/(C)は、65/35〜85/15であることがより好ましい。
【0031】
本発明において、該複合膜を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率は、60〜100質量%の範囲にあり、この範囲にあることで、耐水性を有してガス選択性が低下しないガス分離複合膜が得られる。ここで、本発明のガス分離複合膜における重量保持率は、ポリアミドアミンデンドリマー(A)と、ビニルアルコール系重合体(B)との架橋率や分子量により影響を受けることを本発明者らは確認している。架橋率は、上記説明したポリアミドアミンデンドリマー(A)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(B)との質量比(A)/(B)により調節することができるし、別途、多官能性架橋剤(C)を加えることにより調節することができる。また、架橋条件によっても調節することができる。
【0032】
本発明のガス分離複合膜において、重量保持率が60質量%未満であると、ビニルアルコール系重合体(B)のマトリックスにポリアミドアミンデンドリマー(A)を固定化することが出来ず、ポリアミドアミンデンドリマー(A)に固有の高いガス選択性が得られない恐れがあると同時に、耐水性も低くなる恐れがある。重量保持率は、70質量%以上であることが好ましい。
【0033】
また、本発明において、該複合膜を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の窒素元素重量保持率は、60〜100質量%の範囲にあり、この範囲にあることで、ポリアミドアミンデンドリマー(A)固有の高いガス選択性を有した該複合膜を得ることができる。ここで、本発明のガス分離複合膜における窒素元素重量保持率は、ポリアミドアミンデンドリマー(A)と、ビニルアルコール系重合体(B)との架橋率や分子量により影響を受けることを本発明者らは確認している。架橋率は、上記重量保持率のところで説明した方法と同様にして調節することができる。
【0034】
本発明のガス分離複合膜において、窒素元素重量保持率が60質量%未満であると、ビニルアルコール系重合体(B)のマトリックスに対してポリアミドアミンデンドリマー(A)の固定化が充分でない恐れがあり、ポリアミドアミンデンドリマー(A)固有の高いガス選択性が得られない恐れがある。窒素元素重量保持率は、70質量%以上であることが好ましい。
【0035】
本発明のガス分離複合膜における重量保持率と窒素元素重量保持率を上記の範囲になるようにするには、ポリアミドアミンデンドリマー(A)、ビニルアルコール系重合体(B)、多官能性架橋剤(C)の種類および使用比率を適宜選択することで可能となる。
【0036】
耐水性に優れるガス分離複合膜を得る観点から、該複合膜の熱処理が重要である。熱処理でビニルアルコール系重合体(B)の結晶化を促進させることにより、架橋と類似した効果を発現することができる。熱処理温度としては、60〜150℃が好ましく、90〜130℃がさらに好ましい。熱処理温度が60℃未満では熱処理の効果が不十分となる恐れがあり、150℃を超えると各成分が分解する恐れがあるため、好ましくない。熱処理の時間については特に制限はないが、1秒から1時間の範囲にあることが好ましい。1秒未満では熱処理の効果が不十分となる恐れがあり、1時間を越えると各成分が分解する恐れがあるのみならず、工業的実施に難が生じる場合があるため、好ましくない。
【0037】
本発明の耐水性に優れるガス分離複合膜は、水蒸気の含まれる混合ガスに耐え実用に供することが可能なガス分離膜として好適に使用される。ガス分離膜は支持膜と本発明の複合膜から構成され、公知の支持膜の表面に本発明の複合膜が形成される。支持膜を構成する高分子としては従来公知の膜形成用として用いられる樹脂が使用できる。例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例中で特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0039】
[複合膜の耐水性評価]
シート状物の重量保持率、膨潤率、窒素元素重量保持率はそれぞれ次式で求めた。なお、窒素元素重量の値は、有機元素分析2400II(パーキンエルマー社製)を用いることにより得た。
重量保持率(%)=(W2/W3)×100
膨潤率(%)=(W1/W2)×100
窒素元素重量保持率(%)=(N2/N3)×100
W1:水浸漬後の試料重量、W2:水浸漬後さらに乾燥した後の試料重量、W3:水浸漬前の試料重量
N2:水浸漬後さらに乾燥した後の試料中の窒素重量、N3:水浸漬前の試料中の窒素重量
【0040】
[複合膜の架橋性確認方法]
シート状物を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の重量保持率および窒素元素重量保持率を測定し、共に60質量%以上であることを以て複合膜が架橋していると判断した。
【0041】
実施例1
アセトアセチル基を5.5モル%含有し、酢酸ビニル単位のけん化度99.0モル%、重合度1100のPVA(銘柄:Z−200、日本合成化学社製)5%水溶液を作製し、その水溶液100重量部に対してポリアミドアミンデンドリマー(表面基:−CONHCHCHNH、表面基の数:4個)の20%メタノール水溶液(アルドリッチ社製)を25重量部、攪拌しながら徐々に加えて調製した。この溶液を流延し、20℃で乾燥して厚み100μmのシート状物を得た。得られたシート状物を枠に固定し、熱風乾燥機で60℃、10分間熱処理した。得られたシート状物を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた後、重量保持率、膨潤率、窒素元素重量保持率を測定した。重量保持率は72%、膨潤率は590%、窒素元素重量保持率は72%であり、皮膜状態もしっかりしていた。結果を表1に示す。
【0042】
実施例2
実施例1と同様のPVA(銘柄:Z−200、日本合成化学社製)5%水溶液を作製し、その水溶液100重量部に対してポリアミドアミンデンドリマー(表面基:−CONHCHCHNH、表面基の数:4個)の20%メタノール水溶液(アルドリッチ社製)を25重量部と、さらにオルガチックスTC400(マツモトファインケミカル社製)の80%溶液を1.5625重量部とを攪拌しながら徐々に加えて調製した。この溶液を流延し、20℃で乾燥して厚み100μmのシート状物を得た。得られたシート状物を枠に固定し、熱風乾燥機で90℃、10分間熱処理した。熱処理したシート状物を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた後、重量保持率、膨潤率、窒素元素重量保持率を測定した。重量保持率は83%、膨潤率は500%、窒素元素重量保持率は70%であり、皮膜状態もしっかりしていた。結果を表1に示す。
【0043】
比較例1
ポリアミドアミンデンドリマーを加えない以外は、実施例1と同様に作製した。得られたシート状物は、蒸留水中においてその皮膜形状を維持することができず、皮膜自体が溶解した。結果を表1に示す。
【0044】
比較例2
PVAの種類を、酢酸ビニル単位のけん化度98.6モル%、重合度2000、アセトアセチル基による変性なしのPVA(銘柄:PVA−120、クラレ社製)に変更した以外は、実施例1と同様にシート状物を作製した。得られたシート状物は、蒸留水中においてその皮膜形状を維持することができず、皮膜自体が溶解した。結果を表1に示す。
【0045】
比較例3
PVAの種類を表1のように変更した以外は、実施例2と同様にシート状物を作製した。重量保持率は56%、膨潤率は310%であり、皮膜自体はしっかりしていたが、窒素元素重量保持率が5%と低く、大部分のポリアミドアミンデンドリマーが溶出していることが確認された。結果を表1に示す。
【0046】
比較例4
ポリアミドアミンデンドリマーの量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にシート状物を作製した。重量保持率は36%、膨潤率は1120%、窒素元素重量保持率は3%であり、皮膜状態が不良であるだけでなく、ポリアミドアミンデンドリマーも大部分溶出していることが確認された。結果を表1に示す。
【0047】
比較例5
ポリアミドアミンデンドリマーの量を表1のように変更した以外は、実施例2と同様にシート状物を作製した。重量保持率は43%、膨潤率は780%、窒素元素重量保持率は3%であり、皮膜状態が不良であるだけでなく、ポリアミドアミンデンドリマーも大部分溶出していることが確認された。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基、または式(2)
【化2】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基を有するポリアミドアミンデンドリマー(A)、及びアセトアセチル基を0.5〜10mol%含有するビニルアルコール系重合体(B)を含むガス分離複合膜であって、該複合膜を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60質量%以上であり、窒素元素重量保持率が60質量%以上であることを特徴とするガス分離複合膜。
【請求項2】
ポリアミドアミンデンドリマー(A)とビニルアルコール系重合体(B)との質量比(A)/(B)が40/60〜80/20である請求項1記載のガス分離複合膜。
【請求項3】
式(1)
【化3】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基、または式(2)
【化4】

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機残基を示し、nは0または1の整数を示す。]
で示される基を有するポリアミドアミンデンドリマー(A)、及びアセトアセチル基を0.5〜10mol%含有するビニルアルコール系重合体(B)を含むガス分離複合膜が、さらに多官能性架橋剤(C)を含むガス分離複合膜であって、該複合膜を30℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60質量%以上であり、窒素元素重量保持率が60質量%以上であることを特徴とするガス分離複合膜。
【請求項4】
ポリアミドアミンデンドリマー(A)とビニルアルコール系重合体(B)との質量比(A)/(B)が40/60〜80/20であり、ビニルアルコール系重合体(B)と多官能性架橋剤(C)との質量比(B)/(C)が60/40〜90/10である請求項3記載のガス分離複合膜。

【公開番号】特開2011−167591(P2011−167591A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31395(P2010−31395)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度新日鉄エンジニアリング株式会社「分子ゲート機能CO2分離膜モジュール開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】