説明

ガス化方法、発電方法、ガス化装置、発電装置及び有機物

【課題】タールを炭状固体に分解して担持する多孔質無機物を用意することなくタール非含有ガスを発生させることを可能にしたガス化方法を提供する。
【解決手段】有機物をガス化するガス化方法に、有機物を加熱することにより、該有機物をタール含有ガス及び炭状固体に熱分解する熱分解工程と、熱分解によって発生したタール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させることにより、該タール含有ガスに含まれるタールを前記有機物に吸着させる吸着工程とを含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物をガス化するガス化方法、該ガス化方法によってガス化されたガスで発電を行う発電方法、ガス化装置、発電装置、並びにガス化方法及びガス化装置を用いて得られる有機物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷の小さいエネルギー源として、バイオマス(Biomass)が注目されている。バイオマスとは、化石資源を除いた生物資源、例えば木材、紙、農業残渣、屎尿、食品廃棄物等の有機物である。バイオマスから得られるエネルギーは、いわゆる再生可能エネルギーの一つであり、バイオマスマスエネルギーと呼ばれている。再生可能エネルギーとは、地球規模で見て、生物による二酸化炭素の吸収量と、その生物に由来するバイオマスを燃焼させた場合に発生する二酸化炭素の排出量とが同量で相殺するため、エネルギーを利用しても現在の大気中二酸化炭素濃度が増加しないものをいう。
【0003】
バイオマスのエネルギーは例えばガス化発電装置を用いて利用されている。ガス化発電装置は、バイオマスを600℃以上の高温で熱分解することにより可燃性のガスを発生させ、該ガスを燃料として発電する。
ところが、バイオマスのガス化においては、一酸化炭素、メタン、エタン等の可燃性ガス、及び炭状固体と共にタールも発生する。ガス化において発生したタールは、熱分解時においては気化しているが、発電装置に送出されて温度が低下した場合、該発電装置を構成する配管に凝着し、該発電装置の不調乃至故障を招来する。
【0004】
タール含有ガスからタールを除去する手法として、タール含有ガスを多孔質無機物に接触させることにより、タールを固体の炭状物質として多孔質無機物、例えば酸化アルミニウムに担持する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。炭状物質を担持した多孔質無機物は貯蔵及び輸送性に優れており、水蒸気に接触させることによりタールフリーの水素ガスとしてエネルギーを取り出すことができる。また、水素ガスを発生させた後の多孔質無機物は、タールの除去に再利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−095175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、タールを固体の炭状物質として回収する特許文献1に係る方法においては、タールの発生量に応じた多孔質無機物を用意する必要があった。言うまでもなく、特許文献1には、多孔質無機物を使用せずに、タール含有ガスからタールを除去する技術的思想は開示されていない。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、有機物、例えば木質チップの熱分解によって発生したタール含有ガスに含まれるタールを、熱分解前の有機物に吸着させることにより、タールを炭状固体に分解して担持する多孔質無機物を用意することなくタール非含有ガスを発生させ、かつ該タールをエネルギー源として利用又は回収することを可能にしたガス化方法、該タール非含有ガスにて発電を行う発電方法、各方法を実施するガス化装置及び発電装置を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、タールを吸着させた有機物を燃料として熱分解することにより、有機物と、該有機物に吸着したタールとを共炭化させ、タールを炭状固体及びタール非含有ガスとして回収することができるガス化方法、発電方法、ガス化装置及び発電装置を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、有機物を攪拌しながらタールを有機物に吸着させることにより、熱分解によって発生したタール含有ガスによって有機物が燃焼することを防止し、タールを有機物に効果的に吸着させることができるガス化方法、発電方法、ガス化装置及び発電装置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、熱分解によって発生したタール含有ガスに含まれるタールを炭状固体として前記多孔質無機物の表面に担持することにより、必要に応じて有機物が有するエネルギーの一部を炭素担持体として回収することができるガス化方法、発電方法、ガス化装置及び発電装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、タール含有ガスを接触させていない有機物に比べて、熱分解効率が良く、且つエネルギー密度が高い有機物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るガス化方法は、有機物をガス化するガス化方法において、有機物を加熱することにより、該有機物をタール含有ガス及び炭状固体に熱分解する熱分解工程と、熱分解によって発生したタール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させることにより、該タール含有ガスに含まれるタールを前記有機物に吸着させる吸着工程とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係るガス化方法は、前記熱分解工程は、前記吸着工程でタールを吸着させて得られる有機物を熱分解することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るガス化方法は、前記吸着工程は、砕片状又は粒状の有機物を攪拌しながら、タール含有ガスを該有機物に接触させることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るガス化方法は、前記吸着工程の前に、熱分解によって発生したタール含有ガスを多孔質無機物に接触させることにより、該タール含有ガスに含まれるタールを炭状固体として前記多孔質無機物に担持する担持工程を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係るガス化方法は、前記有機物は木質チップ、木粉、農産廃棄物又はバイオフューエルの絞り粕であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るガス化方法は、タール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させて得たタール非含有ガスを冷却することにより、該タール非含有ガスに含まれる沸点が所定温度未満の物質を凝縮させて回収することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る発電方法は、上述のいずれか一つのガス化方法にて発生したタール非含有ガスを燃焼させることによって発電を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明に係るガス化装置は、有機物をガス化するガス化装置において、有機物を加熱することにより、該有機物をタール含有ガス及び炭状固体に熱分解する熱分解手段と、熱分解によって発生したタール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させることにより、該タール含有ガスに含まれるタールを前記有機物に吸着させる吸着手段とを有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係るガス化装置は、前記吸着手段にてタールを吸着させた有機物を回収する回収手段と、該回収手段が回収した有機物を前記熱分解手段へ搬送する搬送手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るガス化装置は、砕片状又は粒状の有機物を攪拌する手段を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明に係るガス化装置は、熱分解によって発生したタール含有ガスを多孔質無機物に接触させる手段を備え、前記吸着手段は、前記多孔質無機物に接触した後のタール含有ガスを有機物に接触させるようにしてあることを特徴とする。
【0023】
本発明に係るガス化装置は、前記熱分解手段は、中空円筒状をなし、一端側に有機物が供給される有機物供給口を有し、他端側に炭状固体を排出する炭状固体排出口及びタール含有ガスを排気する排気口を有する熱分解反応器と、該熱分解反応器に供給された有機物を前記一端側から他端側へ搬送する搬送スクリューとを備え、前記吸着手段は、タール含有ガスが流入する流入口、及びタール非含有ガスが流出する流出口を有する中空円筒状をなし、熱分解前の有機物を収容する収容体と、該収容体に収容された有機物を攪拌する攪拌翼とを備えることを特徴とする。
【0024】
本発明に係るガス化装置は、前記有機物は木質チップ、木粉、農産廃棄物又はバイオフューエルの絞り粕であることを特徴とする。
【0025】
本発明に係るガス化装置は、タール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させて得たタール非含有ガスを冷却することにより、該タール非含有ガスに含まれる沸点が所定温度未満の物質を凝縮させて回収する手段を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明に係る発電装置は、上述のいずれか一つのガス化装置と、該ガス化装置によってガス化されたタール非含有ガスを燃焼させることによって動力を出力する発動機と、該発動機の動力によって発電を行う発電機とを備えることを特徴とする。
【0027】
本発明に係る有機物は、上述のいずれか一つのガス化方法、又は上述のいずれか一つのガス化装置を用いてタールを吸着させてなることを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、まず有機物を加熱し、該有機物をタール含有ガスと、炭状固体とに熱分解する。そして、熱分解によって発生したタール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させる。タール含有ガスが有機物に接触した場合、該タール含有ガスに含まれるタールが有機物に吸着するため、タール含有ガスはタール非含有ガスに改質される。従って、多孔質無機物を用意して触媒改質等の操作を行うことなく、タール含有ガスからタールを除去することが可能になる。
【0029】
本発明によれば、タールを吸着させた有機物を熱分解する。タールを吸着させた有機物が熱分解した場合、タール及び有機物を単味で加熱する場合に比べて、タール及び有機物の炭化が相互に促進される共炭化効果と、有機物に吸着したタールの蒸発抑制効果とによって、タールの分解が促進される。つまり、該有機物に吸着しているタールの一部は気化せず、有機物と共に炭状固体になる。また、タールの一部は、気化せずにタール非含有ガスに分解される。
従って、有機物に吸着させたタールを炭状固体又はタール非含有ガスとして回収することができる。言い換えると、多孔質無機物を用意して触媒改質等の操作を行うことなく、タール含有ガスからタールを除去することができ、かつ炭状固体及びタール非含有ガスを増産することが可能になる。
【0030】
本発明によれば、砕片状又は粒状の有機物を攪拌しながら、タール含有ガスに含まれるタールを有機物に吸着させる。従って、熱分解後のタール含有ガスによって有機物が燃焼することを防止することができる。
【0031】
本発明によれば、熱分解によって発生したタール含有ガスを多孔質無機物に接触させる。タール含有ガスが多孔質無機物に接触した場合、該タール含有ガスに含まれるタールが炭状固体として多孔質無機物の表面に担持される。従って、タール含有ガスに含まれるタールの含有量を低減することができる。
更に、タールの含有量が低減したガスを、熱分解前の有機物に接触させる。前記ガスが有機物に接触した場合、該ガスに残留しているタールが有機物に吸着する。
従って、タール含有ガスに含まれるタールの含有量をより効果的に低減させることができる。また、必要に応じて炭状固体を担持した多孔質無機物を生成することができる。
【0032】
本発明によれば、木質チップ、木粉、農産廃棄物又はバイオフューエルの絞り粕を用いてタール非含有ガスを発生させることができる。農産廃棄物は、例えばさとうきびバガス,稲わら,麦わら,籾殻等である。
【0033】
本発明によれば、タール非含有ガスに含まれる沸点が所定温度未満の物質を凝縮させて回収する。該物質は、液相の軽質油、水溶性有機物等を含んでおり、エネルギー源として活用することが可能である。
【0034】
本発明によれば、上述のガス化方法によって発生したタール非含有ガスを燃焼させることによって発電を行うことができる。
【0035】
本発明によれば、タール含有ガスを接触させて得られる有機物は、該有機物自身のエネルギーに加えて、吸着したタールのエネルギーも有している。また、熱分解によって発生したタール含有ガスを有機物に接触させた場合、該タール含有ガスの熱によって、前記有機物に含まれる水分が蒸発する。
従って、前記有機物の単位重量当たりのエネルギーは、タール含有ガスを接触させていない有機物に比べて高い。
また、前記有機物を熱分解する際、該有機物に含まれる水分を蒸発させるエネルギーが不要になるため、熱分解に必要なエネルギーを低減させることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、タールを炭状固体に分解して担持する多孔質無機物を用意することなくタール非含有ガスを発生させ、かつ該タールをエネルギー源として利用又は回収することができる。
【0037】
本発明によれば、有機物と、該有機物に吸着したタールとを共炭化させ、タールを炭状固体及びタール非含有ガスとして回収することができる。
【0038】
本発明によれば、熱分解によって発生したタール含有ガスによって有機物が燃焼することを防止し、タールを有機物に効果的に吸着させることができる。
【0039】
本発明によれば、必要に応じて有機物が有するエネルギーの一部を炭素担持体として回収することができる。
【0040】
本発明によれば、有機物の熱分解効率及びエネルギー密度を、タール含有ガスを接触させていない有機物に比べて、向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態1に係るガス化方法を概念的に示す説明図である。
【図2】本発明のガス化装置の構成例を示す模式的断面図である。
【図3】変形例1に係るガス化装置の構成を示す模式図である。
【図4】実施の形態2に係る発電装置の構成を示す模式図である。
【図5】実施の形態3に係るガス化方法を概念的に示す説明図である。
【図6】実施の形態3に係るガス化装置の構成例を示す模式的断面図である。
【図7】実施の形態4に係るガス化方法を概念的に示す説明図である。
【図8】実施の形態4に係るガス化装置の構成を示す模式図である。
【図9】実施の形態4に係るガス化方法の効果を示す説明図である。
【図10】本発明に係るガス化方法の効果を確認するための実験方法を概念的に示す説明図である。
【図11】タールリサイクル運転番号の増加に伴うタール収率の変化を示すグラフである。
【図12】タールリサイクル運転番号に伴う木炭、水及び軽質有機成分の収率の変化を示すグラフである。
【図13】タールリサイクル運転番号の増加に伴う非凝縮性ガス収率の変化を示すグラフである。
【図14】タールリサイクル運転番号の増加に伴うタール転化率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るガス化方法を概念的に示す説明図である。本発明の実施の形態1に係るガス化方法は、木質チップ(有機物)の熱分解によって発生したタール含有ガスに含まれるタールを、熱分解前の木質チップに吸着させることにより、多孔質無機物を用意して触媒改質等の操作を行うことなく、タール非含有ガスを生成することを可能にしたものである。
【0043】
本発明に係るガス化方法では、まず、図1中のかぎ括弧及び破線矢印で示すように、タールを吸着していない木質チップ(以下、タール未吸着木質チップという)を400〜600℃、例えば500℃で加熱し、該タール未吸着木質チップを、木炭と、タール含有ガスとに熱分解する。タールフリーの木炭を得るためには、0.5〜20分の滞留時間をもって、タール未吸着木質チップを500℃以上で加熱することが好ましい。タールフリーの木炭とは、600℃以上に加熱したときの芳香族発生量が0.01wt%未満となる木炭をいう。なお、炭化処理を行うだけであれば、タール未吸着木質チップを400℃以上に加熱すれば足りるが、タールフリーの木炭を得るためには500℃以上でタール未吸着木質チップを加熱する必要がある。
そして、熱分解によって生成した木炭を回収する。ガス化方法の実施初期段階においては、タールを吸着した木質チップ(以下、タール既吸着木質チップという)が存在しないため、タール未吸着木質チップを熱分解することから操業を開始する。なお、以下の説明では、木質チップの用語を、タール未吸着木質チップ及びタール既吸着木質チップの総称として用いる。
【0044】
タール含有ガスは、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、及び低級炭化水素ガス等を含んだ可燃性の非凝縮性ガスと、凝縮性を有し、沸点が350℃未満の軽質有機成分と、軽質有機成分より沸点が高いタールガスと、水蒸気とを含む。軽質有機成分は、軽質油と水溶性有機物とを含む。
タールガスは、常温まで冷却すると黒色あるいは黒褐色の液体又は固体になり,沸点が350℃以上の凝縮性化合物、即ちタールが気化したものである。ここでの凝縮性とは、常温・常圧で液体又は固体になる性質という程度の意味である。
タール含有ガスは、熱分解直後の冷却されていない状態では、非凝縮性ガスにタールの蒸気が含まれた状態となっている。
【0045】
次に、上述の熱分解用のタール未吸着木質チップとは別に用意したタール未吸着木質チップを攪拌しながら、熱分解によって発生したタール含有ガスを該タール未吸着木質チップに接触させることによって、タール含有ガスに含まれるタールをタール未吸着木質チップに吸着させる。タールの吸着によって、タール非含有ガスが得られる。タール非含有ガスは、タール含有ガスからタール成分が除去されたガスであり、非凝縮性ガス、軽質有機成分及び水蒸気を含む。
【0046】
タール未吸着木質チップは、少なくとも乾燥重量の約67wt%のタールを保持できることが実験で確認されている。該実験方法は、次の通りである。まず、タール未吸着木質チップを500℃で熱分解したときに発生したタールをいったん溶剤、例えばアセトンに溶解する。そして、タール溶液に木質チップを浸漬後、溶剤を蒸発させて、タール既吸着木質チップを調製する。タール吸着前後で木質チップの質量を比較することによって、前記調整の結果得られたタール既吸着木質チップは、重量1のタール未吸着木質チップ(乾燥)と、重量0.67のタールとから構成されていることが確認できる。
なお、タール既吸着木質チップは、凝集することなく、タール未吸着木質チップと同様に取り扱い、熱分解し、ガス化することができる。
【0047】
また、タール未吸着木質チップにタール含有ガスを接触させることによって、タール未吸着木質チップの乾燥が同時に行われる。タール未吸着木質チップを乾燥させ、水蒸気と軽質有機成分とが凝縮しないようにするためには、例えば110℃以上の温度でタール含有ガスをタール未吸着木質チップに接触させることが必要である。
なお、タール含有ガスには酸素は含まれていないため、200℃あるいはそれ以上になる部分が生じても、タール未吸着木質チップの熱分解が活発になる350℃を超えなければ着火などの問題はない。また、タール未吸着木質チップには水分が含まれているため、500℃を越えるタール含有ガスをタール未吸着木質チップに接触させたとしても、直ちにタール未吸着木質チップの温度が350℃を越えることはない。従って、500℃程度のタール含有ガスをタール未吸着木質チップに供給しても、タール未吸着木質チップを攪拌させていれば、着火等の問題はない。
【0048】
なお、場合によっては、予め乾燥させたタール未吸着木質チップを用いてタールを吸着させるようにすると良い。タール非含有ガスを冷却することによって、タール非含有ガスを、非凝縮性ガスと、軽質有機成分及び水とに分離することができるが、軽質有機成分に含まれる水溶性有機物は水に溶解するため、高品質の軽質有機成分と水との混合物を併産したい場合、タール非含有ガスに含まれる水蒸気は少ない方が良い。
【0049】
このような本実施の形態1に係るガス化方法によれば、多孔質無機物を用意して触媒改質等の操作を行うことなく、タール未吸着木質チップの熱分解によって発生するタール含有ガスからタールを除去し、木炭と、タール非含有ガスと、タール既吸着木質チップとを併産し、回収することができる。
【0050】
次いで、タールの吸着によって得られたタール既吸着木質チップを回収する。タール既吸着木質チップの回収後は、図1に示すように、回収されたタール既吸着木質チップを用いて熱分解工程を実施する。つまり、タール既吸着木質チップを500℃で加熱し、該タール既吸着木質チップを、木炭と、タール含有ガスとに熱分解する。
【0051】
ところで、タール既吸着木質チップを熱分解した場合、タール未吸着木質チップに吸着したタールの全てがタール蒸気として蒸発することは無く、共炭化効果及びタールの蒸発抑制効果によって、一部は木質チップ部分と共に炭化するか,あるいは軽質有機成分に分解する。共炭化効果とは、タール及びタール未吸着木質チップを単味で加熱する場合に比べて、タール及び木質チップ部分の炭化が相互に促進される効果を言う。また、蒸発抑制効果とは、タール既吸着木質チップ中のタール成分が物理的に閉じ込められ、あるいはタール成分の分子と、木質チップ分子とが結合することによって、タール既吸着木質チップに吸着しているタールの蒸発が抑制される効果を言う。
このように、タール既吸着木質チップの共炭化によって、タール含有ガスに含まれるタール成分を最終的に木炭及び軽質有機成分として回収することができる。
【0052】
以後、タール既吸着木質チップの生成、回収、熱分解を繰り返すことによって、タールを炭状固体に分解して担持する多孔質無機物を用意することなくタール非含有ガスを発生させることができる。また、木炭及びタール非含有ガスを増産することができる。
【0053】
次に、本発明に係るガス化方法を実施するためのガス化装置1を説明する。
図2は、本発明のガス化装置1の構成例を示す模式的断面図である。ガス化装置1は、木質チップを、可燃性のタール含有ガス及び木炭に熱分解する熱分解装置(熱分解手段)2と、タール含有ガス中のタールをタール未吸着木質チップに吸着させることによって、タール非含有ガスに改質すると共に、タール既吸着木質チップを併産するタール吸着装置(吸着手段)3とを備える。
【0054】
熱分解装置2は、中空円筒状の熱分解反応器21を備える。熱分解反応器21は、該熱分解反応器21を400〜600℃に加熱する電気炉22内に、略水平の姿勢で設置されている。なお、熱分解反応器21の加熱手段は電気炉22に限定されない。例えば、熱分解反応器21を外部熱風加熱槽方式の燃焼加熱炉の内部に配置し、該熱分解反応器21を加熱するように構成しても良い。熱分解反応器21の一端部に設けられた木質チップ供給口(有機物供給口)21aには管内に木質チップを供給するホッパ24が結合されており、熱分解反応器21の内部には、ホッパ24及び木質チップ供給口21aから供給された木質チップを他端部側へ搬送する搬送スクリュー23が設けられている。熱分解反応器21は、他端部に木炭排出口(炭状固体排出口)21b及び排気口21cを有する。排気口21cには、木質チップの熱分解によって発生したタール含有ガスをタール吸着装置3へ導く配管25が接続され、木炭排出口21bには、残渣である木炭を回収する木炭回収器26が設けられている。
【0055】
タール吸着装置3は、適宜量のタール未吸着木質チップを収容した縦長有底円筒状の前段木質チップ攪拌槽(収容体)31及び後段木質チップ攪拌槽(収容体)32と、各攪拌槽を連結する連結管33とを備える。
【0056】
前段木質チップ攪拌槽31は、内径60mm、高さ270mmの縦長有底円筒状であり、上端側部に直径0.5インチのガス流入口31aを有し、ガス流入口31aには、熱分解反応器21に連通する配管25が接続されている。また、前段木質チップ攪拌槽31は、下端側部に連結口31bを有し、連結口31bには連結管33の一端が接続されている。なお、連結口31bは、前段木質チップ攪拌槽31におけるガスの流出口として機能する。更に、前段木質チップ攪拌槽31は、収容されたタール未吸着木質チップを攪拌するための攪拌機構を備える。該攪拌機構は、前段木質チップ攪拌槽31の中心軸上に回転可能に配された攪拌軸を有する。該攪拌軸には、複数の攪拌翼31cが攪拌軸に沿って螺旋状に形成されている。攪拌翼31cは、5mm四方の矩形状であり、厚さは2mmである。攪拌速度は、最大60回転/分である。なお、攪拌翼31cは、有機物を攪拌する手段に相当する。更に、前段木質チップ攪拌槽31は、図示しない開閉部を備えており、タール未吸着木質チップの投入及びタール既吸着木質チップの回収を行うことができるように構成されている。
【0057】
後段木質チップ攪拌槽32は、前段木質チップ攪拌槽31と同様の構成である。後段木質チップ攪拌槽32は、下端側部に連結口32bを有し、連結口32bには直径0.5インチの連結管33の他端が接続されている。なお、連結口32bは、後段木質チップ攪拌槽32におけるガスの流入口として機能する。また、後段木質チップ攪拌槽32は、収容されたタール未吸着木質チップを攪拌するための攪拌機構を備え、複数の攪拌翼32cによってタール未吸着木質チップを攪拌するように構成されている。更に、後段木質チップ攪拌槽32は、上端側部に直径0.5インチのガス流出口32aを有しており、木質チップの熱分解によって発生したタール含有ガスは、前段木質チップ攪拌槽31へ流入し、前段木質チップ攪拌槽31、連結管33及び後段木質チップ攪拌槽32内のタール未吸着木質チップ中を通流するように構成されている。
【0058】
ガス化装置1の使用方法を説明する。まず、タール未吸着木質チップをホッパ24に投入し、電気炉22及び搬送スクリュー23を駆動させる。電気炉22による熱分解反応器21の加熱温度は500℃、搬送スクリュー23によるタール未吸着木質チップの搬送速度は、熱分解反応器21におけるタール未吸着木質チップの滞留時間が0.5〜20分になるように設定する。そして、前段木質チップ攪拌槽31及び後段木質チップ攪拌槽32にタール未吸着木質チップを投入し、攪拌機構を動作させる。
次いで、所定量のタール既吸着木質チップが熱分解され、タール既吸着木質チップが生成した場合、該タール既吸着木質チップを回収し、ホッパ24に投入する。そして、タール未吸着木質チップと同様、熱分解装置2及びタール吸着装置3を駆動する。以下、タール既吸着木質チップの生成、回収、熱分解を繰り返す。
【0059】
実施の形態1に係るガス化方法及びガス化装置1にあっては、タールを炭状固体に分解して担持する多孔質無機物を用意することなくタール非含有ガスを発生させることができる。
【0060】
また、タール既吸着木質チップに吸着したタールを共炭化させ、タールを木炭及びタール非含有ガスとして増産及び回収することができる。
【0061】
更に、タール未吸着木質チップを攪拌しながら、タール含有ガスと、タール未吸着木質チップとを接触させることによって、タールをタール未吸着木質チップに吸着させるように構成されているため、本発明によれば、熱分解によって発生したタール含有ガスによってタール未吸着木質チップが燃焼することを防止し、タールをタール未吸着木質チップに吸着させることができる。
【0062】
更にまた、実施の形態1に係るガス化方法又はガス化装置1を操業することによって、タール未吸着木質チップに比べて、熱分解効率及びエネルギー密度が高いタール既吸着木質チップを生成することができる。タール既吸着木質チップは、ガス化装置1のガス源、発電機の燃料、火をおこすための補助燃料が不要な可燃性燃料として使用することができる。
【0063】
タール既吸着木質チップのエネルギー密度について説明する。乾燥したタール未吸着木質チップの発熱量は、約20MJ/kg−dry程度、タール既吸着木質チップの嵩密度は約0.2kg/L程度である。つまり、単位体積あたりの発熱量はせいぜい4MJ/L程度である。
一方、タール既吸着木質チップの木質成分の嵩密度は元のタール未吸着木質チップと殆ど変わらないが、タール未吸着木質チップのタール保持率(タール未吸着木質チップ:タール=100:61)と、タールの発熱量(低位,推算値:27MJ/kg)を考慮すると、タール既吸着木質チップの嵩密度は0.2×1.61=0.32kg/L、発熱量=20×(1/1.61)+27×(0.61/1.61)=22.7MJ/kg、単位体積当たりの発熱量=0.32×22.7=約7.3と推定される。つまり、タール既吸着木質チップのエネルギー密度は、タール未吸着木質チップに比べて最大で約1.8倍になる。
【0064】
また、タール既吸着木質チップは、熱分解によって発生した数百℃のタール含有ガスをタール未吸着木質チップに接触させて生成されるため、タール未吸着木質チップに比べて乾燥している。タール既吸着木質チップをガス源として用いた場合、水分を含むタール未吸着木質チップを用いる場合に比べて、脱水に必要な熱量が不要になるため、ガス化における熱分解効率を向上させることができる。
【0065】
(変形例1)
変形例1に係るガス化装置101は、タール吸着装置3へタール未吸着木質チップを供給する工程、タール既吸着木質チップを回収する工程、回収されたタール既吸着木質チップを熱分解装置2へ供給する工程を自動化したものである。タール既吸着木質チップの熱分解によって発生したタールは、熱分解装置2、タール吸着装置3を循環する過程で木炭又は軽質有機成分に分解される。
【0066】
図3は、変形例1に係るガス化装置101の構成を示す模式図である。変形例1に係る前段木質チップ攪拌槽31及び後段木質チップ攪拌槽32は、上部適宜箇所に形成されたタール未吸着木質チップ供給口31d、32dを有し、タール未吸着木質チップ供給口31d、32dには、タール未吸着木質チップをタール吸着装置3へ供給するためのタール既吸着木質チップ供給ホッパ41、41がロータリーバルブ42,42を介して設けられている。
【0067】
また、前段木質チップ攪拌槽31及び後段木質チップ攪拌槽32は、底部に形成されたタール既吸着木質チップ排出口31e,32eを有する。タール既吸着木質チップ排出口31e,32eには、タール既吸着木質チップするためのタール既吸着木質チップ回収器(回収手段)51がロータリーバルブ52,52を介して設けられている。
【0068】
タール既吸着木質チップ回収器51には、回収されたタール既吸着木質チップを搬送し、ホッパ24へ供給するパイプ型のスクリューコンベア6(搬送手段)が設けられている。スクリューコンベア6は、例えば、タール既吸着木質チップ回収器51に接続された水平スクリューコンベアと、垂直スクリューコンベアとを接続してなり、L字状をなしている。水平スクリューコンベアは、タール既吸着木質チップ回収器51に回収されたタール既吸着木質チップを垂直スクリューコンベアへ圧送する。垂直スクリューコンベアは、水平スクリューコンベアから圧送されたタール既吸着木質チップを上方へ搬送し、垂直搬送されたタール既吸着木質チップは、上部に設けられたコンベア排出口からホッパ24へ排出される。
【0069】
タール未吸着木質チップ供給口31d、32dには、タール未吸着木質チップが連続的に投入され、ロータリーバルブ42,42は、所定の速度でタール未吸着木質チップが前段木質チップ攪拌槽31及び後段木質チップ攪拌槽32に投入されるように動作する。また、ロータリーバルブ52,52は、タール未吸着木質チップの投入速度に合わせた速度でタール既吸着木質チップを排出し、スクリューコンベア6は、タール既吸着木質チップをホッパ24へ搬送及び供給する。
【0070】
変形例1に係るガス化方法及びガス化装置101にあっては、タール吸着装置3へタール未吸着木質チップを供給する工程、タール既吸着木質チップを回収する工程、回収されたタール既吸着木質チップを熱分解装置2へ供給する工程を自動化し、タール非含有ガスを発生させることができる。
【0071】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2に係る発電装置の構成を示す模式図である。本発明の実施の形態2に係る発電装置は、実施の形態1で説明したガス化装置1、発動機71及び発電機72を備える。
【0072】
発動機71は、ガス化装置1の流出口32aに接続されており、ガス化装置1で発生したタール非含有ガスが供給されるように構成されている。発動機71は、例えば、タール非含有ガスと空気とを混合させた後、図示しないシリンダ内で燃焼させ、化学エネルギーを機械エネルギーに転化することによって、機械的動力を出力する内燃機関である。
【0073】
発電機72は、例えば、磁界を発生させる磁石と、該磁界内に回転可能に配されたコイルとから構成されており、発動機71から出力された動力によってコイルが回転することによって、発動機71の動力が電気エネルギーに変換され、誘導起電力を出力する。
【0074】
実施の形態2に係る発電装置にあっては、実施の形態1に係るガス化装置1によってタール非含有ガスを発生させ、該タール非含有ガスにて発電を行うことができる。
【0075】
(実施の形態3)
図5は、実施の形態3に係るガス化方法を概念的に示す説明図である。実施の形態3に係るガス化方法では、まず、図5中のかぎ括弧及び破線矢印で示すように、タール未吸着木質チップを400〜600℃、例えば500℃で加熱することにより、木質チップは、木炭と、タール含有ガスとに熱分解する。そして、熱分解によって生成した木炭を回収する。
【0076】
次に、熱分解によって発生したタール含有ガスを、400〜600℃の温度範囲で多孔質鉄鉱石(多孔質無機物)に接触させることによって、タール含有ガスの改質、即ち酸化還元を行い、主に水素、一酸化炭素等を含む低タール非含有ガスと、炭素担持体とを併産し、炭素担持体を回収する。
【0077】
多孔質鉄鉱石は、例えばメソ多孔質の酸化鉄、例えばヘマタイトFe2 3 を主成分とするメソ多孔質鉱石である。メソ多孔質鉱石は、木質チップのガス化を行う前段階で製造する。具体的には、低品位鉄鉱石、結合水を有する酸化鉄を主成分とするリモナイト鉱石、ゲーサイト鉱石FeOOH等を加熱し、結合水を水蒸気として脱水させることによって多孔質鉄鉱石が製造される。なお、多孔質鉄鉱石として、脱水前のリモナイト鉱石、ゲーサイト鉱石をタール含有ガスの改質に直接使用しても良い。
【0078】
次いで、低タール含有ガスを、タール未吸着木質チップを攪拌しながら、該タール含有ガスを該タール未吸着木質チップに接触させることによって、低タール含有ガスに含まれるタールをタール未吸着木質チップに吸着させる。タールの吸着によって、タール非含有ガスが得られる。タール非含有ガスは、低タール含有ガスから更にタール成分を除去したガスであり、主に水素、一酸化炭素、二酸化炭素、低級炭化水素ガス等を含んだ可燃性の非凝縮性ガス、軽質有機成分の蒸気及び水蒸気を含む。
【0079】
図6は、実施の形態3に係るガス化装置301の構成例を示す模式的断面図である。実施の形態3に係るガス化装置301は、熱分解装置2と、タール吸着装置3との間に介装されたガス改質装置8を備える。なお、ガス改質装置8は、タール含有ガスを多孔質無機物に接触させる手段に相当する。
【0080】
ガス改質装置8は、縦長円筒状のガス改質反応器81を備える。ガス改質反応器81は、該ガス改質反応器81を加熱する電気炉84内に配置されている。ガス改質反応器81は,多孔質鉄鉱石の移動層、又は流動層を形成する。ガス改質反応器81の上部に形成された多孔質鉄鉱石投入口81bには、例えば、粒状の多孔質鉄鉱石をガス改質反応器81に供給するホッパ82がロータリーバルブ83を介して設けられている。ガス改質反応器81は、下部側壁にガス流入口81aを有し、ガス流入口81aには、熱分解反応器21に連通する配管25が接続されており、木質チップの熱分解によって発生したタール含有ガスがガス改質反応器81へ流入し、多孔質鉄鉱石の集積物中を通流するように構成されている。400〜600℃の温度でタール含有ガスと、多孔質鉄鉱石とが接触した場合、タールが除去された低タール非含有ガス及び炭素担持体が併産される。ガス改質反応器81は、下端部に、炭素担持体を排出する炭素担持体排出口81cを有する。炭素担持体排出口81cには、ロータリーバルブ85を介して炭素担持体を回収する炭素担持体回収器86が設けられている。ガス改質反応器81は、上部側壁にガス流出口81dを有し、ガス流出口81dには配管87の一端が接続されている。配管87の他端は、前段木質チップ攪拌槽31に接続されている。
【0081】
実施の形態3に係るガス化方法及びガス化装置301にあっては、必要に応じてタール未吸着木質チップが有するエネルギーの一部を炭素担持体として回収することができる。
【0082】
(実施の形態4)
図7は、実施の形態4に係るガス化方法を概念的に示す説明図である。実施の形態4に係るガス化方法では、まず、実施の形態1に係るガス化方法と同様、タール未吸着木質チップを400〜600℃、例えば500℃で加熱することにより、木炭と、タール含有ガスとに熱分解する。そして、熱分解によって生成した木炭を回収する。
【0083】
次に、タール未吸着木質チップを攪拌しながら、該タール未吸着木質チップにタール含有ガスを接触させることによって、タール含有ガスに含まれるタールをタール未吸着木質チップに吸着させる。タールの吸着によって、タール非含有ガスが得られる。タール非含有ガスは、軽質有機成分の蒸気、水蒸気及び非凝縮性ガスを含有する。
【0084】
次いで、タール非含有ガスに含まれる軽質有機成分及び水を凝縮器にて凝縮させることによって、タール非含有ガスを、気相の非凝縮性ガスと、液相の軽質油及び水溶性有機物を溶解した水とに分離する。そして、分離された非凝縮性ガスと、液相の軽質油及び水溶性有機物を溶解した水とを回収する。以下、液相の軽質油及び水溶性有機物を溶解した水を、バイオリキッド(沸点が所定温度未満の物質)と言う。バイオリキッドの主成分は、水溶性有機物であり、生成直後は無色透明の液体である。また、バイオリキッドを大気圧下で加熱すると、200度未満でほぼ100%揮発するという性質を有している。バイオリキッドは、エネルギー源としての活用が期待されている。
なお、国外で実用化されているバイオオイルの主成分は重質油である。重質油を加熱した場合、500度に加熱しても10%以上が炭化物として残留してしまう。
【0085】
図8は、実施の形態4に係るガス化装置401の構成を示す模式図である。本発明の実施の形態4に係るガス化装置401は、実施の形態1で説明したガス化装置1の構成に加え、後段木質チップ攪拌槽32のガス流出口32aに設けられた凝縮器9を備える。
【0086】
凝縮器9は、タール非含有ガスに含まれる軽質有機成分及び水を凝縮させることによって、タール非含有ガスをバイオリキッド、即ち軽質油及び水溶性有機物を溶解した水と、非凝縮性ガスとに分離する。分離された軽質油及び水溶性有機物を溶解した水と、非凝縮性ガスとは各別に回収することができる。
このように、本実施の形態4に係るガス化方法及びガス化装置によれば、木炭、タールを含まない非凝縮性ガス、及びバイオリキッドを併産することができる。
【0087】
図9は、実施の形態4に係るガス化方法の効果を示す説明図である。図9(a)は、実施の形態4に係るガス化方法を用いて100kgのタール未吸着木質チップをガス化する場合におけるマスフローであり、図9(b)は、従来のガス化方法を用いて100kgのタール未吸着木質チップをガス化する場合におけるマスフローである。なお、図9は、木質チップを500℃で熱分解した場合のマスフローを示している。
【0088】
図9(b)に示すように、従来のガス化方法によれば、100kgのタール未吸着木質チップを処理することによって、木炭24kg、軽質有機成分及び水33kg、並びに非凝縮性ガス21kgが収集されるが、22kgのタールも発生する。
一方、図9(a)に示すように、本実施の形態4に係るガス化方法によれば、100kgのタール未吸着木質チップを処理することによって、木炭31kg、軽質有機成分及び水49kg、並びに非凝縮性ガス20kgを収集することができる。しかも、触媒改質等の操作を一切行わずにタールを除去し、22kgのタールを木炭及び軽質有機成分として回収することができる。具体的には、加圧等の操作、所定化学物質の添加なしに木炭の収率を1.3倍(≒31/24)にすることができる。また、軽質油の収率を1.7倍(≒27/16)以上にすることができる。なお、図9(b)に示した軽質油及び水のうち、軽質油は16kgである。
【0089】
以下、本発明に係るガス化方法の効果を示す実験結果をより具体的に説明する。実験装置は、図8に示したガス化装置401と同様の構成であり、タール吸着装置3を木質チップ攪拌槽1段で構成した点、熱分解装置2及び配管25を保温するマントルヒータを設置した点、タール吸着装置3の後段に、残留タールガスの確認及び定量を行うためのシリカ繊維フィルタを介装している点が異なるのみである。
【0090】
図10は、本発明に係るガス化方法の効果を確認するための実験方法を概念的に示す説明図である。本実験では、木質チップの熱分解工程、タール吸着工程、凝縮工程を順次実施する。以下、この一連の工程をタールリサイクル運転という。
第1回目のタールリサイクル運転では、図10に示すように、157〜158gタール未吸着木質チップの熱分解を行う。なお、157〜158kgは、乾燥状態におけるタール未吸着木質チップの質量である。熱分解工程における加熱温度は500℃、加熱時間は47秒である。タール吸着工程におけるタール吸着装置の入口温度は200℃、出口温度は110〜120℃に保たれている。また、シリカ繊維フィルタは、150℃に保たれている。凝縮工程では、0℃−30℃−70℃の三相コンデンサを用いて、タール非含有ガスを非凝縮性ガスと、軽質有機成分及び水とに分離する。
第2回目以降は、前回のタールリサイクル運転で得られたタール既吸着木質チップの熱分解を行い、同様の処理を実行する。
【0091】
図11は、タールリサイクル運転番号の増加に伴うタール収率の変化を示すグラフである。横軸はタールリサイクル運転番号、縦軸は、タールの収率を示す。タールの収率は、タール未吸着木質チップの乾燥重量100kgに対して、各タールリサイクル運転で回収できたタールの重量の比率である。
【0092】
タール未吸着木質チップは、自重の67%に相当するタールを保持しても、本実施の形態に係るガス化の材料として使用できることが確認されているため、タールの収率が67%未満であれば、本実施の形態に係るガス化方法を実施することが可能である。
【0093】
タールリサイクル運転回数の増加に伴うタールの収率の増加率は、タールリサイクル運転回数が増加するに連れて小さくなっており、収率40%程度でほぼ定常状態に達していることが分かる。
なお、定常状態における収率は、理論的にはβ/αで表される。但し、αは、タール未吸着木質チップに吸着されたタールを熱分解した場合に、該タールが非タール成分に分解される割合を示した転化率、βは、タール未吸着木質チップ単体の熱分解によって得られるタールの収率である。
【0094】
図12は、タールリサイクル運転番号に伴う木炭、水及び軽質有機成分の収率の変化を示すグラフである。図12(a)は木炭の収率、図12(b)は水の収率、図12(c)は軽質有機成分の収率を夫々示している。横軸はタールリサイクル運転番号、縦軸は木炭、水又は軽質有機成分の収率を示す。木炭、水及び軽質有機成分の収率は、タール未吸着木質チップの乾燥重量100kgに対して、各タールリサイクル運転で回収できた木炭、水及び軽質有機成分の重量の比率である。図12のグラフから、タール既吸着木質チップに吸着したタールの一部が軽質有機成分及び木炭に転化していることが分かる。
【0095】
図13は、タールリサイクル運転番号の増加に伴う非凝縮性ガス収率の変化を示すグラフである。横軸はタールリサイクル運転番号、縦軸は非凝縮性ガスの収率を示す。非凝縮性ガスの収率は、タール未吸着木質チップの乾燥重量100kgに対して、各タールリサイクル運転で回収できた非凝縮性ガスの重量の比率である。理由は定かではないが、非凝縮性ガスの収率は運転番号5まで微増,その後微減し,運転番号10においては運転番号1の場合とほぼ同等になる。運転番号1のタール既吸着木質チップに吸着されたタールの割合が増加しても、回収される非凝縮性ガスの重量はほぼ一定である。
【0096】
図14は、タールリサイクル運転番号の増加に伴うタール転化率の変化を示すグラフである。横軸はタールリサイクル運転番号、縦軸はタールの転化率を示す。該転化率は、タール未吸着木質チップに吸着されたタールを熱分解した場合に、該タールが非タール成分に分解される割合である。プロットは、タール既吸着木質チップに吸着したタールの木炭、軽質有機成分、水及び非凝縮性ガスへの総転化率を示している。前記転化率は、運転番号によらず,48%前後で一定に保たれる。
【0097】
なお、各タールリサイクル運転において、シリカ繊維フィルタへのタールの吸着は確認されていない。
【0098】
以上の実験結果から、定常状態における収率β/αは、67%未満となり、本願発明に係るガス化装置及びガス化方法を現実に実施できることが確認された。
【0099】
なお、上述の実施の形態及び変形例においては、有機物として木質チップを利用する例を示したが、タールを吸着することが可能な細孔を有する有機物であれば、他の有機物、例えば、木粉、紙、食品廃棄物、農産廃棄物、又はバイオフューエルの絞り粕を採用しても良い。農産廃棄物は、例えばさとうきびバガス,稲わら,麦わら,籾殻等の有機物である。
【0100】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0101】
1 ガス化装置
2 熱分解装置(熱分解手段)
3 タール吸着装置(吸着手段)
6 スクリューコンベア(搬送手段)
8 ガス改質装置
9 凝縮器
21 熱分解反応器
21a 木質チップ供給口(有機物供給口)
21b 木炭排出口(炭状固体排出口)
21c 排気口
22 電気炉
31 前段木質チップ攪拌槽(収容体)
32 後段木質チップ攪拌槽(収容体)
31a ガス流入口
31b,32b 連結口
31d、32d タール未吸着木質チップ供給口
31c,32c 攪拌翼
32a ガス流出口
33 連結管
41、41 タール既吸着木質チップ供給ホッパ
51 タール既吸着木質チップ回収器
71 発動機
72 発電機
81 ガス改質反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物をガス化するガス化方法において、
有機物を加熱することにより、該有機物をタール含有ガス及び炭状固体に熱分解する熱分解工程と、
熱分解によって発生したタール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させることにより、該タール含有ガスに含まれるタールを前記有機物に吸着させる吸着工程とを有することを特徴とするガス化方法。
【請求項2】
前記熱分解工程は、
前記吸着工程でタールを吸着させて得られる有機物を熱分解する
ことを特徴とする請求項1に記載のガス化方法。
【請求項3】
前記吸着工程は、
砕片状又は粒状の有機物を攪拌しながら、タール含有ガスを該有機物に接触させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス化方法。
【請求項4】
前記吸着工程の前に、
熱分解によって発生したタール含有ガスを多孔質無機物に接触させることにより、該タール含有ガスに含まれるタールを炭状固体として前記多孔質無機物に担持する担持工程を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載のガス化方法。
【請求項5】
前記有機物は木質チップ、木粉、農産廃棄物又はバイオフューエルの絞り粕であることを特徴とする
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載のガス化方法。
【請求項6】
タール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させて得たタール非含有ガスを冷却することにより、該タール非含有ガスに含まれる沸点が所定温度未満の物質を凝縮させて回収する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載のガス化方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一つに記載のガス化方法にて発生したタール非含有ガスを燃焼させることによって発電を行うことを特徴とする発電方法。
【請求項8】
有機物をガス化するガス化装置において、
有機物を加熱することにより、該有機物をタール含有ガス及び炭状固体に熱分解する熱分解手段と、
熱分解によって発生したタール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させることにより、該タール含有ガスに含まれるタールを前記有機物に吸着させる吸着手段と
を有することを特徴とするガス化装置。
【請求項9】
前記吸着手段にてタールを吸着させた有機物を回収する回収手段と、
該回収手段が回収した有機物を前記熱分解手段へ搬送する搬送手段と
を備えることを特徴とする請求項8に記載のガス化装置。
【請求項10】
砕片状又は粒状の有機物を攪拌する手段を備える
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のガス化装置。
【請求項11】
熱分解によって発生したタール含有ガスを多孔質無機物に接触させる手段を備え、
前記吸着手段は、
前記多孔質無機物に接触した後のタール含有ガスを有機物に接触させるようにしてある
ことを特徴とする請求項8乃至請求項10のいずれか一つに記載のガス化装置。
【請求項12】
前記熱分解手段は、
中空円筒状をなし、一端側に有機物が供給される有機物供給口を有し、他端側に炭状固体を排出する炭状固体排出口及びタール含有ガスを排気する排気口を有する熱分解反応器と、
該熱分解反応器に供給された有機物を前記一端側から他端側へ搬送する搬送スクリューと
を備え、
前記吸着手段は、
タール含有ガスが流入する流入口、及びタール非含有ガスが流出する流出口を有する中空円筒状をなし、熱分解前の有機物を収容する収容体と、
該収容体に収容された有機物を攪拌する攪拌翼と
を備えることを特徴とする請求項8乃至請求項11のいずれか一つに記載のガス化装置。
【請求項13】
前記有機物は木質チップ、木粉、農産廃棄物又はバイオフューエルの絞り粕であることを特徴とする
ことを特徴とする請求項8乃至請求項12のいずれか一つに記載のガス化装置。
【請求項14】
タール含有ガスを熱分解前の有機物に接触させて得たタール非含有ガスを冷却することにより、該タール非含有ガスに含まれる沸点が所定温度未満の物質を凝縮させて回収する手段を備える
ことを特徴とする請求項8乃至請求項13のいずれか一つに記載のガス化装置。
【請求項15】
請求項8乃至請求項14のいずれか一つに記載のガス化装置と、
該ガス化装置によってガス化されたタール非含有ガスを燃焼させることによって動力を出力する発動機と、
該発動機の動力によって発電を行う発電機と
を備えることを特徴とする発電装置。
【請求項16】
請求項1乃至請求項6のいずれか一つに記載のガス化方法、又は請求項8乃至請求項14のいずれか一つに記載のガス化装置を用いてタールを吸着させてなる有機物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−202689(P2010−202689A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46603(P2009−46603)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(506074015)バイオコーク技研株式会社 (23)
【Fターム(参考)】