説明

ガス化炉および方法

炭素質原料のガス化により合成ガスを生成するためのガス化炉(1)およびプロセス。本炉は、スラグを含む高温合成ガス流を放出するための放出流路(4)と、冷却ガス流を放出流路(4)内に供給するための急冷器(5)とを有するガス化装置ユニットを備える。冷却ガス流方向と一致する、噴射管などの少なくとも1つの噴射ノズル(12)を備える、少なくとも1つの噴射器(10)が配置される。噴射器(10)は、合成ガス、窒素、二酸化炭素、蒸気など加圧ガスの発生源に接続することができる。噴射器は、スラグ堆積物を除去するために定期的に起動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質原料のガス化により合成ガスを生成するためのガス化炉およびプロセスに関し、本炉は、スラグを含む高温合成ガス流を放出するための放出流路と、冷却ガス流を放出流路内に供給するための急冷器とを有するガス化装置ユニットを備える。
【背景技術】
【0002】
合成ガスを生成するためのガス化プロセスでは、炉内で、微粉炭などの炭素質原料が部分的に酸化される。最初に、合成ガスは、通常、1300〜1600℃の温度を有する。高温合成ガスは、溶融スラグ液滴を含む。熱交換器上のファウリング(fouling)を防ぐために、ガス化装置を出るガス中に混入する溶融スラグ液滴を凝固させ、溶融スラグ液滴を粘着性のない温度まで冷却することが必要である。これは、ガス化装置を出る全ガス流がスラグ軟化温度をはるかに下回る温度まで冷却されなければならないことを意味する。この目的を達成するために、炉を出る高温合成ガスは、このガスが1つまたは複数の熱交換器に給送される前に、浄化および冷却された合成ガスをガス流内に帰還させることにより、1000〜700℃の間の温度まで急冷される。この再循環される冷却ガスは、通常、クエンチ(quench)ガスと呼ばれる。
【0003】
EP0347986A1は、原ガス生成物が炉を出るとき、冷却再循環ガスを原ガス生成物に注入するノズルを有する、交換可能なクエンチガス注入リングを開示する。再循環冷却ガスは、高温合成ガスに均一に混合され、冷却ガスの膜は、クエンチガスの供給ラインがガス流へ出る壁に隣接して形成されるべきである。
【0004】
動作中、通常、上方向に流れる高温合成ガス流は、このガス流が冷却再循環ガスと混合される場所に、石筍、および堆積スラグの垂直な直立突起物を形成する。これらのスラグ堆積物は、ガス流を妨害する。これらの堆積物が大きくなりすぎると、所望の冷却ガス膜をもはや得ることができず、冷却ガスは、高温ガス流内に不均一に混合される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、クエンチガスが高温ガス流に混合される点において、大きいスラグ堆積物を防ぐ、効果的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、炭素質原料のガス化により合成ガスを生成するためのガス化炉により達成され、本炉は、スラグを含む高温合成ガス流を放出するための放出流路と、冷却ガス流を放出流路内に供給するための急冷器とを備え、冷却ガス流方向と一致する少なくとも1つの噴射ノズルを備える、少なくとも1つの噴射器が配置される。
【0007】
このように、噴射器を起動することにより、スラグ堆積物を効果的に除去することができる。噴射ノズルが冷却ガス流方向と一致するので、冷却ガス流を妨げる可能性があるスラグ堆積物を除去することができる。これは、噴射方向が冷却流方向と厳密に平行となる必要があることを意味しない。
【0008】
例えば、少なくとも1つの噴射器は、合成ガス、窒素、二酸化炭素、蒸気、およびそれらの混合物の群から選択される加圧噴射ガスの発生源に接続することができる。
特定の実施形態では、噴射器は、複数の区画に分割され、それぞれが、1つまたは複数の噴射管を備え、それによって偶数の対向する区画は、放出される合成ガス流の中心への噴射の衝撃を緩和するために、対称に動作する。例えば、噴射器は、4〜16の区画、例えば8区画に分割することができ、各区画は、いくつかの噴射管を備える。2つの対向する噴射器区画を起動することにより、すべての噴射管を同時に起動することを必要とすることなく、対称噴射を達成することができる。
【0009】
通常、スラグ突起物は、ガス放出流路内に開口し且つ高温合成ガスが急冷領域内で低温の冷却ガスにより急冷される、ガス化装置ユニットの上部周縁部上で成長する。急冷領域は、通常、開口部の方向に下向きに傾斜し、水平に対して鋭角をなす底部を有し、炉と急冷領域との間の鋭角の周縁部をもたらす。噴射後のスラグ突起物が、この周縁部上に多少の残留スラグ堆積物を残せば、これらの残留堆積物は、新しいスラグ突起物の成長を開始させる可能性がある。これを妨げるために、スラグ堆積物は、どんな残留物も残すことなく、完全に除去されることが好ましい。この目的を達成するために、噴射器は、炉のこの上部周縁部に向けることができる。噴射器は、冷却ガス流方向よりも0.1〜5度急勾配で、急冷領域の傾斜した底部にほぼ平行な噴射角度で噴射するように向けられるのが好ましい。
【0010】
効果的な浄化のために、噴射器は、隣接する噴射管間で1〜3度の角度を有する、放出流路の半径方向に延びる、いくつかの噴射管を備えることができる。
例えば、少なくとも1つの噴射器は、定期的に動作することができる。最適な速度で噴射ガスを噴射するために、噴射ガスの圧力は、例えば、放出される合成ガスの圧力よりも10〜100bar高く維持することができる。このガスは、例えば30〜300m/sの速度で急冷領域内に噴射することができる。
【0011】
噴射ノズルを開放し、自由に保つために、噴射器は、定期的に放出される噴射流に加えて、連続的なパージ流を放出するように動作することができる。これは、噴射器先端部が冷却され、合成ガスによる熱放射から保護される利点も有する。
【0012】
ここで、添付の図面を参照して、本発明の例示的な実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるガス化炉の長手方向断面を概略的に示す図である。
【図2】図1の炉の急冷部の半径方向断面を詳細に示す図である。
【図3】図1の炉の急冷領域の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すガス化炉1は、垂直方向を向く細長い圧力容器3内にガス化装置ユニット2を備える。ガス化装置ユニット2は、合成ガスを形成するためにガス化装置ユニット2内のいくつかのバーナー(図示せず)により部分燃焼する例えば微粉炭などの炭素質原料を供給される。ガス化装置ユニット2は、その上端部に、急冷領域18内に開放する開口部15を備える。急冷領域18は、鋭角をなす上部周縁部16を形成する開口部15の周りに、わずかに傾斜した底部19を有する。急冷領域18は、放出流路4の開始部分を形成する。急冷領域18において、冷却ガス供給ユニット5は、放出される合成ガスにより運ばれるスラグ粒子の軟化点未満まで合成ガスを冷却するために、放出される高温合成ガスの流れAに低温の冷却ガスを混合するように構成される。急冷却された合成ガスは、冷却ガス供給ユニット5から放出流路4内まで冷却ガス流方向B(図2を参照)へ流れ、冷却ガス供給ユニット5のさらに下流で、さらに冷却するために、高温合成ガスを熱交換器(図示せず)に給送する。冷却ガス供給ユニット5は、放出流路4およびガス化装置ユニット2と同軸の円形配置で、半径方向に延びる冷却ガス供給流路6を備える。冷却ガス供給流路6は、放出流路4の中心線Xの方に向けられる開口端部7を有する一方、冷却ガス供給流路6の他方の端部は、冷却ガス供給ライン8に接続される。供給ライン8から開口端部7まで、供給流路6は、下向きに傾斜する。
【0015】
放出される高温合成ガスが、冷却ガスによりスラグ粒子の軟化点未満の温度まで冷却されるとき、これらのスラグ粒子は、図2に示すように、直立石筍17を形成するように堆積する。
【0016】
炉1は、冷却供給ユニット6の近くに、図2により詳細に示し、図3に平面図を示すように噴射器10をさらに設けられる。噴射器10は、8つの区画11から構成される。各区画11は、半径方向に延びる複数の噴射管12を備える。各噴射管12は、隣接する噴射管12に対して約2度の角度を有し、約11mmの平均距離をもたらす。
【0017】
噴射管12は、冷却ガス流Bの方向にあるスラグ堆積物を除去するために、冷却流方向Bと一致する方向C(図2を参照)に噴射するように向けられる。噴射器10は、急冷領域18の傾斜した底部19との角度αで噴射するように向けられる。角度αは、0.1〜5度であることが好ましい。
【0018】
スラグ堆積物は、特に、ガス化装置ユニット2の上端部の上部周縁部16上に形成される。スラグ突起物は、除去されるとき、この周縁部16上に多少の残留スラグ堆積物を残す可能性があり、残留スラグ堆積物は、新しいスラグ突起物の成長を開始させる可能性がある。これを妨げるために、スラグ堆積物は、どんな残留物も残すことなく、完全に除去されることが好ましい。この目的を達成するために、本実施形態の噴射器10は、ガス化装置ユニット2のこの上部周縁部16に向けられる。
【0019】
各噴射管12は、供給ライン14に接続される円形分配ライン13を介して、加圧噴射ガスの発生源に接続される。噴射管は、30〜300m/sの速度でガスを噴射することができる。噴射ガスの圧力は、放出される合成ガスの圧力よりも10〜100バール高い。対向する区画11の対は、放出される合成ガス流の中心Xへの噴射の衝撃を緩和するために、対称に動作する。
【0020】
噴射器10は、高温合成ガスが冷却ガスにより冷却される、ガス化装置ユニット2の上端開口部の周りのスラグ堆積物を除去するために定期的に動作する。噴射器10は、定期的に放出される噴射流に加えて、連続的なパージ流をさらに放出する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質原料のガス化により合成ガスを生成するためのガス化炉(1)であって、スラグを含む高温合成ガス流を放出するための放出流路(4)と、冷却ガス流を前記放出流路(4)内に供給するための急冷器(5)とを有するガス化装置ユニット(2)を備え、冷却ガス流方向(B)と一致する少なくとも1つの噴射ノズル(12)を備える、少なくとも1つの噴射器(10)が配置され、噴射器(10)は、前記炉(1)のガス化装置ユニット(2)の合成ガス出口の上縁部(16)に向けられ、前記ガス化装置ユニット(2)は、前記放出流路(4)内に開放する、ガス化炉。
【請求項2】
前記少なくとも1つの噴射器(10)は、合成ガス、窒素、二酸化炭素、蒸気、およびそれらの混合物の群から選択される加圧ガスの発生源に接続される、請求項1に記載のガス化炉。
【請求項3】
前記少なくとも1つの噴射器(10)は、30〜300m/sの速度でガスを噴射するように構成される、請求項1または2に記載のガス化炉。
【請求項4】
前記噴射器(10)は、複数の区画(11)に分割され、各区画が、1つまたは複数の噴射管(12)を備え、放出される合成ガス流の中心への噴射の衝撃を緩和するように、偶数の対向する区画は対称に動作する、請求項1から3のいずれか一項に記載のガス化炉。
【請求項5】
前記噴射器は、4〜16の区画(11)に分割され、各区画は、いくつかの噴射管(12)を備える、請求項4に記載のガス化炉。
【請求項6】
前記急冷器(5)は、前記ガス化装置ユニットの前記上縁部(16)へ下向きに傾斜した底部を有する急冷領域(18)に配置され、前記噴射器(10)は、前記急冷領域(18)の傾斜した底部よりも0.1〜5度急勾配の噴射角度で噴射するように向けられる、請求項1から5のいずれか一項に記載のガス化炉。
【請求項7】
前記噴射器(10)は、隣接する噴射管(12)間で1〜3度の角度を有する、前記放出流路(4)の半径方向に延びる、いくつかの噴射管(12)を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のガス化炉。
【請求項8】
スラグを含む高温合成ガス流を放出するための放出流路(4)内に開放するガス化装置ユニット(2)と、冷却ガス流を前記放出流路(4)内に供給するための急冷器(5)とを備える炉(1)内で炭素質原料のガス化により合成ガスを生成するための方法であって、冷却ガス流方向と一致する方向に向けられる少なくとも1つの噴射ノズル(12)を備える、少なくとも1つの噴射器(10)が、定期的に動作する、方法。
【請求項9】
前記噴射ガスの圧力は、前記放出される合成ガスの圧力よりも10〜100バール(10〜10Pa)高い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記噴射器(10)の少なくとも一部は、定期的に放出される噴射流に加えて、連続的なパージ流を放出するように動作する、請求項8または9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−518139(P2013−518139A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549380(P2012−549380)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050986
【国際公開番号】WO2011/089268
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP