説明

ガス吸着材の評価装置

【課題】 この発明はガス吸着材の評価装置に関し、ガス吸着材に吸着されたガスの吸着量分布を取得することを目的とする。
【解決手段】 活性炭付フィルタ12に供給される精製空気の流量の計測、制御を行うマスフローコントローラ26を設ける。濾過部12aの一部を覆う第1の開口部34を有する第1の吸着材ホルダー28を設ける。第1の開口部34と同様の第2の開口部40を有する第2の吸着材ホルダー38を、フィルタ12を介してホルダー28と対向して配置する。これらの開口部34、40のそれぞれの縁部に互いに磁極を異ならせた一対の磁石36、42を配置する。計測部位を変更させるアクチュエータ48を設ける。混合ガスの流量を計測するマスフローメータ52と、THC濃度を検出する全炭化水素分析計56とを設ける。THC吸着量をデータ処理回路62により算出する。THC吸着量分布および総吸着量をデータ表示パネル64により表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス吸着材の評価装置に係り、特に、活性炭付フィルタ等のガス吸着材に吸着されたガスの吸着分布を評価するうえで好適な評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開平6−93932号公報には、内燃機関が備えるキャニスタ(活性炭付フィルタ)に吸着された蒸発燃料の吸着量に基づいて、吸気通路への蒸発燃料の供給量を制御する内燃機関の蒸発燃料制御装置が開示されている。この装置では、キャニスタに吸着された吸着量を、キャニスタの周辺部と内部との温度の差より算出することとしている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−93932号公報
【特許文献2】特開平5−231209号公報
【特許文献3】特開平5−248312号公報
【特許文献4】特開平10−261682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関において、機関停止中に吸気口から蒸発燃料が大気中に漏れ出すのを防止すべく、例えば、吸気通路のエアクリーナ内に蒸発燃料を吸着させるガス吸着材を備える構成が知られている。このような構成を有する内燃機関が搭載される車両において、内燃機関の吸気口の形状やガス吸着材の搭載位置等は、一般に、車種毎に異なるものとされている。従って、ガス吸着材に吸着される蒸発燃料(THC)の吸着量分布は、車種毎に異なるものとなる。このような場合に、ガス吸着材に吸着された蒸発燃料の吸着量分布を把握できると、ガス吸着材の吸着効率を向上させるうえで便宜である。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ガス吸着材に吸着されたガスの吸着量分布を取得することのできるガス吸着材の評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、計測対象ガスを脱離させるキャリアガスをガス吸着材に供給するキャリアガス供給手段と、
前記ガス吸着材における濾過面積の一部を覆う第1の開口部を有し、前記キャリアガス供給手段の下流側に設置され、前記キャリアガスが内部に導入される第1の吸着材ホルダーと、
前記第1の開口部とほぼ同一寸法で形成された第2の開口部を有し、当該第2の開口部が前記ガス吸着材を介して前記第1の開口部と対向するように配置される第2の吸着材ホルダーと、
前記第1の吸着材ホルダーと前記第2の吸着材ホルダーとを前記ガス吸着材に押し付けた状態に保持するホルダー保持手段と、
前記第1の吸着材ホルダーおよび前記第2の吸着材ホルダーを変位させることにより、前記ガス吸着材の計測部位を変更させる計測部位変更手段と、
前記第2の吸着材ホルダーの下流側に設置され、前記計測部位から脱離した計測対象ガスの質量を取得するガス質量取得手段と、
前記ガス質量取得手段により取得された前記計測部位毎の前記質量の分布を表示する質量分布表示手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記ホルダー保持手段は、前記第1の開口部および前記第2の開口部のそれぞれの縁部に互いに磁極を異ならせて配置された一対の磁石であり、
前記計測部位変更手段は、前記第1の吸着材ホルダーと前記第2の吸着材ホルダーの何れか一方のみを変位させるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、前記第1の吸着材ホルダーに供給される前記キャリアガスの流量を計測するキャリアガス流量計測手段と、
前記第1の吸着材ホルダーに供給される前記キャリアガスの流量制御を行う流量制御手段と、
前記第2の吸着材ホルダーの下流側に設置され、前記第2の吸着材ホルダーから流出する前記キャリアガスと前記ガス吸着材から脱離した計測対象ガスとの混合ガス中の前記計測対象ガス濃度を検出するガス濃度検出手段と、
前記ガス濃度検出手段に前記混合ガスを供給する混合ガス供給手段と、
前記ガス濃度検出手段に供給される前記混合ガスの流量を計測する混合ガス流量計測手段とを備え、
前記流量制御手段は、前記キャリアガスの供給流量を、前記ガス濃度検出手段に供給される前記混合ガスの流量に所定の過剰流量を加えた流量となるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、キャリアガスが第1の吸着材ホルダーおよび第2の吸着材ホルダーにより保持されるガス吸着材に供給されることで、ガス吸着材に吸着された計測対象ガスが脱離される。また、ガス吸着材の計測部位は、計測部位変更手段によって第1の吸着材ホルダーおよび第2の吸着材ホルダーを変位させることにより変更される。このため、本発明によれば、複数の計測部位のそれぞれから脱離した計測対象ガスの質量を、計測部位毎に取得することにより、ガス吸着材に吸着された計測対象ガスの吸着量分布を得ることができる。
【0010】
第2の発明によれば、第1の吸着材ホルダーと第2の吸着材ホルダーとが一対の磁石の磁力により、ガス吸着材を介して保持される。また、計測部位変更手段により第1の吸着材ホルダーおよび第2の吸着材ホルダーの何れか一方を変位させると、他方の吸着材ホルダーが磁力により追従して変位する。このため、本発明によれば、これらのホルダーの位置合わせを容易に実行することができ、更に、これらのホルダーの一方のみを変位させるだけで、計測部位を変更することが可能となる。このように、本発明によれば、簡便かつ安価な構成でガス吸着材の吸着量分布を得ることができる。
【0011】
第3の発明によれば、ガス濃度検出手段に供給される混合ガス流量より大きな流量のキャリアガスを第1の吸着材ホルダーに供給することにより、第1の吸着材ホルダーおよび第2の吸着材ホルダーとガス吸着材との間から大気を吸込むのを防止することができる。このため、本発明によれば、計測時に、大気に含まれる計測対象ガスの影響分を補正するといった対策を講じる必要なく、高い精度で計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のガス吸着材の評価装置10の構成を説明するための図である。図1に示すガス吸着材の評価装置10は、ガス吸着材、より具体的には、活性炭付フィルタ12に吸着された計測対象ガス、より具体的には、蒸発燃料(THC)の吸着量分布を取得するための装置として構成されたものである。本実施形態における活性炭付フィルタ12は、機関停止中に吸気通路内に生ずる蒸発燃料を吸着させるべく、内燃機関の吸気通路のエアクリーナ内に配置されるものとする。尚、図1におけるフィルタ12は、図1中に示すX方向で切断された断面で示されている。また、図1において、フィルタ12の断面の垂線方向をY方向と称する。フィルタ12は、X方向およびY方向に対してそれぞれ所定寸法を有する濾過部12aを備えている。
【0013】
図1に示すように、本実施形態のガス吸着材の評価装置10は、フィルタ12に吸着されたTHC吸着量を取得するためのサンプリング流量とTHC濃度を計測する計測部14と、計測部14の各構成要素を制御する制御部16と、計測部14によって計測された各種のデータを処理するデータ処理部18とにより構成されている。
【0014】
先ず、計測部14の具体的な構成について説明する。計測部14は、フィルタ12を固定するためのフィルタ支持台20を備えている。また、評価装置10は、フィルタ12にTHCを脱離させるキャリアガスとしてのゼロガスを供給するキャリアガス供給管22を備えている。より具体的には、本実施形態では、そのようなゼロガスとして精製空気を用いることとしており、キャリアガス供給管22の上流側端部には、高圧の精製空気が充填された精製空気ボンベ(図示省略)が取り付けられている。尚、ここで用いるゼロガスは、精製空気に限らず、窒素等の不活性ガスをベースとするものであってもよい。
【0015】
精製空気ボンベの下流側のキャリアガス供給管22には、流路を開閉する電磁弁24が設置されている。キャリアガス供給管22には、電磁弁24の更に下流側にマスフローコントローラ26が設置されている。マスフローコントローラ26は、キャリアガス供給管22内を流れる精製空気の流量の計測および制御を行うものである。
【0016】
キャリアガス供給管22の下流側端部には、第1の吸着材ホルダー28が接続されている。より具体的には、キャリアガス供給管22におけるマスフローコントローラ26と第1の吸着材ホルダー28との間の部位は、可撓性を有するシリコンチューブ30により構成されている。第1の吸着材ホルダー28は、ほぼ角柱状の外形を有しており、その内部には精製空気の通路が確保されている。第1の吸着材ホルダー28は、その内部に、シリコンチューブ30から導入される精製空気を整流し、かつ、加熱するためのヒータ付整流板32を備えている。第1の吸着材ホルダー28の他端は、開放端とされており、ここでは、その他端を第1の開口部34と称する。第1の開口部34の開口面積は、フィルタ12の吸着量分布を得るべく適当な数に分割された濾過部12aの分割単位面積と等しくなるように構成されている。第1の開口部34の縁部には、第1の磁石36が取り付けられている。
【0017】
本実施形態のガス吸着材の評価装置10は、第2の吸着材ホルダー38を備えている。第2の吸着材ホルダー38は、第1の開口部34と同一寸法で形成された第2の開口部40を有している。第2の吸着材ホルダー38は、第2の開口部40がフィルタ12を介して第1の開口部34と対向するように配置されている。第2の開口部40の縁部には、第1の開口部34と同様に、第2の磁石42が取り付けられている。以下、図2を参照して、本実施形態で用いられる第1の磁石36および第2の磁石42の詳細な構成について説明する。
【0018】
図2は、図1に示す第1の磁石36および第2の磁石42の磁極配置の一例を示す図である。より具体的には、図2(A)は、第1の磁石36をフィルタ12側から見た図であり、図2(B)は、第2の磁石42をフィルタ12側から見た図である。図2に示すように、第1の磁石36と第2の磁石42は、磁極が交互に入れ替わるように配置された単位磁石44を組み合わせたものとしてそれぞれ構成されており、第1の磁石36と第2の磁石42とが合わさった状態で対向する磁極が異なるような磁極配置を有している。このような構成を有する磁石36、42を備えたことにより、第1の吸着材ホルダー28と第2の吸着材ホルダー38とは、フィルタ12を介して磁力により互いに引き付けられることとなる。尚、ホルダー28、38の断面形状、および磁石36、42の形状は、四角形に限らず、例えば、円形であってもよい。
【0019】
図1に示すように、第2の吸着材ホルダー38は、ホルダー支持具46に固定されている。ホルダー支持具46は、アクチュエータ48に取り付けられている。アクチュエータ48は、ホルダー支持具46に固定された第2の吸着材ホルダー38を、X方向およびY方向のそれぞれの方向に対して変位させることができるように構成されている。第2の吸着材ホルダー38の下流側端部には、フィルタ12から脱離したTHCと精製空気との混合ガスが流通する混合ガス管路50が接続されている。
【0020】
混合ガス管路50には、第2の吸着材ホルダー38の下流側に、混合ガスの流量を計測するマスフローメータ52が設置されている。より具体的には、混合ガス管路50における第2の吸着材ホルダー38とマスフローメータ52との間の部位は、可撓性を有するフレキシブルホース54により構成されている。混合ガス管路50には、マスフローメータ52の更に下流側に、混合ガス中のTHC濃度を検出する全炭化水素分析計56が設置されている。全炭化水素分析計56は、その内部に吸引ポンプを備えている。全炭化水素分析計56に取り込まれる混合ガスの流量は、所定の設定流量Qbとなるように全炭化水素分析計56により制御されている。
【0021】
制御部16は、所定の計測条件の設定を受け付ける操作盤58と、計測部14の各構成要素を制御する制御回路60とにより構成されている。より具体的には、制御回路60には、上述した電磁弁24、マスフローコントローラ26、アクチュエータ48、マスフローメータ52、および全炭化水素分析計56とが接続されている。
【0022】
データ処理部18は、計測部14によって計測された各種のデータを処理するデータ処理回路62と、データ処理回路62により算出されたTHC吸着量の分布および総吸着量を表示するデータ表示パネル64とにより構成されている。データ処理回路62は、マスフローメータ52により計測された混合ガスの流量(体積流量)と、全炭化水素分析計56により検出された混合ガス中のTHC濃度と、予め記憶しているTHCの密度に基づく時間積算値により、アクチュエータ48によって予め位置決めされた計測部位におけるTHC吸着量を算出する。データ表示パネル64は、図1に示すように、各計測部位の吸着量を、その数値とともに濃度に応じて背景色の濃淡を変更して表示するものである。
【0023】
図1は、互いに対向する第1の吸着材ホルダー28と第2の吸着材ホルダー38とが、磁力によりフィルタ12を挟み込んでいる状態を示している。このような状態からアクチュエータ48により第2の吸着材ホルダー38を変位させると、第1の吸着材ホルダー28は、第2の吸着材ホルダー38に追従して移動する。そして、第1の吸着材ホルダー28は、第2の吸着材ホルダー38が新たに位置決めされた位置において、第2の吸着材ホルダー38とともにフィルタ12を押し付けるようにして保持する。
【0024】
上記のように構成された本実施形態のシステムにおいて、制御回路60の指令に基づき、電磁弁24が開弁されると、精製空気がキャリアガス供給管22内に導入される。キャリアガス供給管22内に導入された精製空気の流量は、マスフローコントローラ26により所定の流量Qaとなるように制御される。第1の吸着材ホルダー28に導入された精製空気は、ヒータ付整流板32により加熱された状態でフィルタ12に供給される。その結果、フィルタ12に吸着されたHCの脱離が促進される。脱離したTHCは精製空気との混合ガスとなり、その混合ガスはマスフローメータ52および全炭化水素分析計56に順に導入された後に排気される。
【0025】
また、本実施形態のシステムでは、THC吸着量の計測精度を良好に保つべく、第1の吸着材ホルダー28に供給される精製空気の流量Qaが、全炭化水素分析計56に供給される混合ガスの設定流量Qbに所定の過剰流量kを加えた流量となるように、マスフローコントローラ26を制御している。この過剰流量kの設定手法について説明する。先ず、THCが吸着される前の状態のフィルタ12をフィルタ支持台20にセットし、その状態で精製空気の供給量を徐々に増加させていく。そして、全炭化水素分析計56で測定されるTHC濃度がゼロを示した時の精製空気の供給流量が流量Qaとなるように過剰流量kを決定する。このような過剰流量kの設定によれば、全炭化水素分析計56が吸引する流量Qbより大きな流量Qaを第1のホルダー28側に与えることで、ホルダー28、38とフィルタ12との間から大気を吸込むのを防ぐことができる。このため、フィルタ12から脱離したTHCの吸着量を高い精度で計測することが可能となる。
【0026】
次に、図3を参照して、本実施形態のガス吸着材の評価装置10により実現される活性炭付フィルタ12の吸着量分布の計測の具体的な処理について説明する。
図3は、図1に示す制御回路60が上記の機能を実現するために実行するルーチンのフローチャートである。尚、図3に示す一連の処理が実行される前に、事前準備として、ヒータ付整流板32の電源がONされ、また、フィルタ12がフィルタ支持台20にセットされる。そして、計測を行ううえで必要な所定の計測条件が操作盤58により入力される。
【0027】
具体的には、フィルタ12における各計測部位のX方向およびY方向の寸法、すなわち、ホルダー28、38の開口部34、40のX方向およびY方向の寸法が入力される。次いで、各計測部位の計測順序が入力される。次いで、計測部位の切換え条件が入力される。この際、操作盤58は、その切換えを濃度Cに基づいて行うか、或いは、計測時間Tに基づいて行うかの何れかの選択を受け付ける。また、マスフローメータ52で計測される流量Qb、および過剰流量kが入力される。次いで、自動または固定の何れかから選択された全炭化水素分析計56のTHC計測レンジが入力される。
【0028】
上記のような計測条件が設定された後に、計測開始が実行されると、図3に示すルーチンの一連の処理が実行される。先ず、全炭化水素分析計56のゼロ点とスパン点の校正が実行される(ステップ100)。次いで、第1の吸着材ホルダー28および第2の吸着材ホルダー38が位置決めされる(ステップ102)。具体的には、予め設定された計測順序に従って、ホルダー28、38の位置がアクチュエータ48により所定の計測部位に移動される。
【0029】
次に、電磁弁24が開弁される(ステップ104)。次いで、今回の計測部位に対する計測データの取り込みと演算が開始される(ステップ106)。具体的には、アクチュエータ48の位置情報、マスフローメータ52による流量Qb、および全炭化水素分析計56によるTHC濃度がデータ処理回路62に取り込まれる。そして、流量Qb、THC濃度、およびTHCの密度に基づく時間積算値により、計測時間に応じたTHC吸着量が算出される。
【0030】
次に、マスフローコントローラ26により計測される精製空気の瞬時流量値Qaが設定流量Qbと過剰流量kの和と等しいか否かが判定される(ステップ108)。その結果、Qa=Qb+kが成立しないと判定されると、警告が発せられ(ステップ110)、今回の計測が速やかに終了される。
【0031】
一方、上記ステップ108において、Qa=Qb+kの成立が認められる場合には、計測が続行され、次いで、マスフローメータ52により計測される混合ガスの瞬時流量値が設定流量Qbと等しいか否かが判定される(ステップ112)。その結果、当該瞬時流量値が設定流量Qbと等しくないと判定されると、警告が発せられ(ステップ110)、今回の計測が速やかに終了される。
【0032】
一方、上記ステップ112において、混合ガスの瞬時流量値が設定流量Qbと等しいことが認められる場合には、計測が続行され、次いで、THC濃度の計測値が切換え条件濃度C以下であるか否かが判定される(ステップ114)。本ルーチンの処理では、計測部位の切換えを、予め設定された濃度Cに基づいて実行することとしている。すなわち、本ルーチンの処理では、このような濃度Cを計測下限値として、THC濃度の計測値が濃度C以下となった時点で今回のフィルタ12の計測部位に対する計測を終了させることとしている。尚、本実施形態のシステムのように、キャリアガスとしてゼロガスを用いている場合には、全炭化水素分析計56が示すTHC濃度がゼロとなるまで計測を行うこととしてもよい。このような手法によれば、計測部位に吸着されたTHCの総量を得ることができる。また、既述したように、計測時間Tに基づいて計測部位を切換えることとしてもよい。すなわち、ヒータ付整流板32の温度が一定とされ、マスフローメータ52により計測される混合ガス流量Qbが一定とされた条件下で、フィルタ12の各計測部位から所定の計測時間Tの間に脱離するTHC量を計測することとしてもよい。
【0033】
上記ステップ114において、THC濃度の計測値≦切換え条件濃度Cの成立が判定されると、電磁弁24が閉弁され(ステップ116)、今回のフィルタ12の計測部位に対する計測データの取り込みと演算が停止される(ステップ118)。次に、今回のフィルタ計測部位♯が予め設定された最終計測部位♯か否かが判定される(ステップ120)。その結果、今回のフィルタ計測部位♯が最終計測部位♯でないと判定された場合には、予め設定された計測順序に従って、次の計測部位に対して上述したステップ100〜120の処理が実行される。
【0034】
一方、上記ステップ120において、今回のフィルタ計測部位♯が最終計測部位♯であると判定された場合には、各計測部位から脱離したTHCの質量(吸着量)に基づき、活性炭付フィルタ12に吸着されたTHCの吸着量分布と総吸着量がデータ表示パネル64に表示される(ステップ122)。
【0035】
以上説明した通り、本実施形態のシステムによれば、活性炭付フィルタ12に吸着された蒸発燃料の吸着量分布を取得することができる。吸着量分布を試験前後のフィルタの秤量値の差により評価する手法では、吸着量分布を得るためにフィルタを切断する必要があるが、本実施形態の評価装置10によれば、フィルタ12に損傷を与えることなく、吸着量分布を精度良く計測することができる。
【0036】
また、本実施形態の構成によれば、2つのホルダー28、38に磁極を異ならせて配置させた磁石36、42を備えたことにより、ホルダー28、38の位置合わせを容易に実行することができ、更に、第2の吸着材ホルダー38のみをアクチュエータ48により変位させるだけで、計測部位を変更することが可能となる。このため、本実施形態のシステムによれば、簡便かつ安価な構成でフィルタ12の吸着量分布を把握することができる。
【0037】
また、本実施形態の評価装置10では、2つのホルダー28、38によりフィルタ12を挟み込む構成とし、更に、上流側の第1の吸着材ホルダー28に下流側の第2の吸着材ホルダー38に比して過剰流量k分だけ大きな流量を与えたことにより、大気中のTHCを装置内に取り込んでしまうことがない。このため、計測時に、大気中のTHC濃度分を補正する必要がなく、また、クリーンチャンバ内で計測を行わなければならないといった計測場所の制限を受けない。
【0038】
また、本実施形態の活性炭付フィルタ12のように、内燃機関のエアクリーナ内に配置されたものでは、吸気口の形状や活性炭付フィルタ12の搭載位置等が車種毎に異なることに起因して、一般に、車種毎に吸着量分布が異なるものとなる。本実施形態のシステムによれば、フィルタ12の吸着量分布を把握することができるため、例えば、吸着量の多い部位により多くの活性炭を追加する等の対策を行うことで、活性炭付フィルタ12の吸着効率を向上させることが可能となる。
【0039】
ところで、上述した実施の形態1においては、活性炭付フィルタ12に供給するキャリアガスとしてゼロガス(精製空気)を用いることとしているが、本発明で使用されるキャリアガスはこれに限定されるものではなく、計測対象ガスの含有濃度が所定の計測下限値以下(例えば、本実施の形態1であれば、上述した濃度C以下)とされたガスであればよい。
【0040】
また、上述した実施の形態1においては、全炭化水素分析計56を備え、活性炭付フィルタ12に吸着された蒸発燃料(THC)の吸着量分布を計測する構成を示しているが、本発明の計測対象となるガスはこれに限定されるものではなく、例えば、CO、NO等であってもよい。
【0041】
尚、上述した実施の形態1においては、精製空気ボンベ、電磁弁24、およびマスフローコントローラ26が、前記第1の発明における「キャリアガス供給手段」に、第1の磁石36および第2の磁石42が、前記第1の発明における「ホルダー保持手段」に、アクチュエータ48が、前記第1の発明における「計測部位変更手段」に、マスフローメータ52、全炭化水素分析計56、およびデータ処理回路62が、前記第1の発明における「ガス質量取得手段」に、データ表示パネル64が、前記第1の発明における「質量分布表示手段」に、それぞれ相当している。
また、上述した実施の形態1においては、マスフローコントローラ26が、前記第3の発明における「キャリアガス流量計測手段」および「流量制御手段」に、全炭化水素分析計56が、前記第3の発明における「ガス濃度検出手段」に、分析計56が備える吸引ポンプが、前記第3の発明における「混合ガス供給手段」に、マスフローメータ52が、前記第3の発明のおける「混合ガス流量計測手段」に、それぞれ相当している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態1のガス吸着材の評価装置の構成を説明するための図である。
【図2】図1に示す第1の磁石および第2の磁石の磁極配置の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
10 評価装置
12 活性炭付フィルタ
24 電磁弁
26 マスフローコントローラ
28 第1の吸着材ホルダー
34 第1の開口部
36 第1の磁石
38 第2の吸着材ホルダー
40 第2の開口部
42 第2の磁石
48 アクチュエータ
52 マスフローメータ
56 全炭化水素分析計
60 制御回路
62 データ処理回路
64 データ表示パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象ガスを脱離させるキャリアガスをガス吸着材に供給するキャリアガス供給手段と、
前記ガス吸着材における濾過面積の一部を覆う第1の開口部を有し、前記キャリアガス供給手段の下流側に設置され、前記キャリアガスが内部に導入される第1の吸着材ホルダーと、
前記第1の開口部とほぼ同一寸法で形成された第2の開口部を有し、当該第2の開口部が前記ガス吸着材を介して前記第1の開口部と対向するように配置される第2の吸着材ホルダーと、
前記第1の吸着材ホルダーと前記第2の吸着材ホルダーとを前記ガス吸着材に押し付けた状態に保持するホルダー保持手段と、
前記第1の吸着材ホルダーおよび前記第2の吸着材ホルダーを変位させることにより、前記ガス吸着材の計測部位を変更させる計測部位変更手段と、
前記第2の吸着材ホルダーの下流側に設置され、前記計測部位から脱離した計測対象ガスの質量を取得するガス質量取得手段と、
前記ガス質量取得手段により取得された前記計測部位毎の前記質量の分布を表示する質量分布表示手段と、
を備えることを特徴とするガス吸着材の評価装置。
【請求項2】
前記ホルダー保持手段は、前記第1の開口部および前記第2の開口部のそれぞれの縁部に互いに磁極を異ならせて配置された一対の磁石であり、
前記計測部位変更手段は、前記第1の吸着材ホルダーと前記第2の吸着材ホルダーの何れか一方のみを変位させるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のガス吸着材の評価装置。
【請求項3】
前記第1の吸着材ホルダーに供給される前記キャリアガスの流量を計測するキャリアガス流量計測手段と、
前記第1の吸着材ホルダーに供給される前記キャリアガスの流量制御を行う流量制御手段と、
前記第2の吸着材ホルダーの下流側に設置され、前記第2の吸着材ホルダーから流出する前記キャリアガスと前記ガス吸着材から脱離した計測対象ガスとの混合ガス中の前記計測対象ガス濃度を検出するガス濃度検出手段と、
前記ガス濃度検出手段に前記混合ガスを供給する混合ガス供給手段と、
前記ガス濃度検出手段に供給される前記混合ガスの流量を計測する混合ガス流量計測手段とを備え、
前記流量制御手段は、前記キャリアガスの供給流量を、前記ガス濃度検出手段に供給される前記混合ガスの流量に所定の過剰流量を加えた流量となるように制御することを特徴とする請求項1または2記載のガス吸着材の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−17675(P2006−17675A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198386(P2004−198386)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】