説明

ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体、これを用いたガス貯蔵方法及びガス貯蔵装置、並びにこのガス貯蔵装置を用いた燃料電池システム

【課題】2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物を含み、十分なガス吸蔵能を有するガス吸蔵用多孔質有機金属錯体を提供する。
【解決手段】本発明のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体は、[1]金属イオンと、[2]ジカルボン酸化合物(配位子)と、[3]上記金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物との配位結合によって構成される。[1]金属イオンとしては、特に制限はないが、Mg,Al,Ca,Ti,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn等のイオンが挙げられる。好ましくは、Cuイオンが好ましい。また、[2]ジカルボン酸化合物としては、式(1)〜(6)で表わされる芳香族ジカルボン酸が好ましい。さらに、[3]上記金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物としては、式(7)〜(15)で表されるものを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々のガスを吸蔵し得るガス吸蔵用多孔質有機金属錯体、これを用いたガス貯蔵方法及びガス貯蔵装置、並びにこのガス貯蔵装置に水素を吸蔵させて用いる燃料電池システムに関する。特に本発明は、加圧条件下で容易にガスを吸蔵・保持し、除圧することでガスを放出し得るガス吸蔵用多孔質有機金属錯体、これを用いたガス貯蔵方法及びガス貯蔵装置、並びにこのガス貯蔵装置に水素を吸蔵させて用いる燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質金属有機錯体は、活性炭やゼオライトに匹敵する新しい多孔体として注目を集めている(非特許文献1参照)。この多孔質有機金属錯体とは、金属と有機架橋配位子とから構成される固体の物質群のことであり、配位高分子又は集積型金属錯体とも呼ばれている。多孔質金属有機錯体は、配位子の大きさや形を変えることにより、結晶構造内の細孔の大きさや形を容易に変えることができる。また、これまでの研究でガス吸着、イオン交換、触媒場又は高分子合成等の多くの機能が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「有機貯蔵材料とナノ技術−水素社会に向けて−」、市川勝 監修、シーエムシー出版、2007年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような多孔質有機金属錯体として、窒素原子を含む芳香族複素環式化合物を含むものがこれまで多数報告されている。特に2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物が安定的に多孔質有機金属錯体を形成することができることがわかってきた。
【0005】
ところで、最近、燃料電池の燃料等として用いられ得る、クリーンエネルギーとしての水素ガスが注目されている。この水素ガスを簡単かつ安全に貯蔵して安定的に供給できることが望まれており、水素ガスの貯蔵に芳香族複素環式化合物を含む多孔質有機金属錯体を利用することが研究されているが、十分なガス吸蔵能を有する水素貯蔵に最適な芳香族複素環式化合物の構造については明らかにされていない。
【0006】
さらに、多孔質有機金属錯体にガスを貯蔵させる場合、耐圧容器に充填した多孔質有機金属錯体に、貯蔵対象となるガスを加圧下で貯蔵させるが、繰り返して使用することによって、ガス中に含まれるわずかな水分を多孔質有機金属錯体が吸着し、ガス貯蔵率が低下してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物を含み、十分なガス吸蔵能を有するガス吸蔵用多孔質有機金属錯体を提供することを目的とする。また、本発明はこのようなガス吸蔵用多孔質有機金属錯体を用いたガス貯蔵方法及びガス貯蔵装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は、このガス貯蔵装置を用いて水素ガスを供給する燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、金属イオンと、ジカルボン酸化合物と、前記金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物との配位結合によって構成され、細孔構造を有することを特徴とするガス吸蔵用多孔質有機金属錯体を提供する(請求項1)。
【0009】
上記発明(請求項1)に係るガス吸蔵用多孔質有機金属錯体は、金属イオンとジカルボン酸化合物とによる複数の層状格子を、該金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物が連結するような三次元格子構造を有する。この三次元格子構造は、所定の圧力をかけることにより、水素分子等のガス体の分子を、該三次元格子を構成する芳香族複素環式化合物やジカルボン酸化合物との分子間力により該格子内に安定的に保持することができ、ガス吸蔵用として好適なものとなっている。さらに、上述した分子間力は弱いものであるので、圧力を減少させることにより、保持したガス分子を放出することができる。
【0010】
上記発明(請求項1)においては、該ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体のBET法による比表面積測定値が、20m/g以上であるのが好ましい(請求項2)。
【0011】
上記発明(請求項2)によれば、多孔質有機金属錯体の比表面積は、その三次元格子構造の数にある程度の相関性を有するため、ガス分子の吸蔵量をある程度確保することが可能となる。
【0012】
上記発明(請求項1,2)においては、前記金属イオンが、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛からなる群から選択される金属イオンであるのが好ましい(請求項3)。
【0013】
上記発明(請求項3)によれば、ジカルボン酸化合物及び2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物と三次元多孔質有機金属錯体を好適に形成することができる。
【0014】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記ジカルボン酸化合物が、芳香族ジカルボン酸であるのが好ましい(請求項4)。
【0015】
かかる発明(請求項4)によれば、芳香族ジカルボン酸は、金属イオンと層状格子を形成し、さらに2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物と三次元多孔質有機金属錯体を好適に形成することができ、またガス分子との分子間力を作用させることができる。
【0016】
第二に本発明は、上記発明(請求項1〜4)に係るガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末を耐圧容器に充填して、該耐圧容器内に所定の圧力でガスを導入することを特徴とするガス貯蔵方法を提供する(請求項5)。
【0017】
上記発明(請求項5)によれば、上述したようなガス吸蔵用多孔質有機金属錯体は、所定の圧力をかけることで、三次元格子を構成する芳香族複素環式化合物やジカルボン酸化合物との分子間力により水素分子等のガス体の分子を該三次元格子内に安定的に保持することができるので、この多孔質有機金属錯体の粉末を耐圧容器に充填して、該耐圧容器内に所定の圧力でガスを導入することで、簡単、確実かつ安定的にガスを保持することができる。
【0018】
上記発明(請求項5)においては、前記耐圧容器に導入するガスに含まれる、前記ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体に不可逆的に吸着される成分を除去する前処理を施すのが好ましい(請求項6)。
【0019】
上記発明(請求項6)によれば、ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体へのガスの吸蔵や、当該錯体からのガスの放出を繰り返した際に、ガスの吸着を阻害する成分が当該錯体に吸着してしまうのを最小限に抑制し、ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の劣化を防止することができる。
【0020】
上記発明(請求項5,6)においては、前記耐圧容器に導入するガスに含まれる水分を除去する前処理を施すのが好ましい(請求項7)。
【0021】
上記発明(請求項7)によれば、ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体へのガスの吸蔵や、当該搾体からのガスの放出を繰り返した際に、当該錯体への水の吸着を最小限に抑制し、ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の劣化を防止することができる。
【0022】
上記発明(請求項7)においては、前記水分の除去の前処理が、乾燥剤との接触であるのがこのましい(請求項8)。さらに、上記発明(請求項8)においては、前記乾燥剤が、シリカゲル、モレキュラーシーブス、塩化カルシウム、五酸化二リンから選ばれた1種又は2種以上であるのがこのましい(請求項9)。
【0023】
上記発明(請求項5〜9)においては、前記ガスが水素を主成分とするものであり、該ガスを前記耐圧容器に加圧条件下で貯蔵するのが好ましい(請求項10)。
【0024】
上記発明(請求項10)のようなガス貯蔵方法は、特に水素ガスを主成分とするガスの吸蔵に好適であり、水素を吸蔵することで種々の用途への適用が期待できる。
【0025】
第三に本発明は、上記発明(請求項1〜4)に係るガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末を充填した第1の耐圧容器と、前記第1の耐圧容器に連通し、乾燥剤を充填した第2の耐圧容器と、前記第2の耐圧容器に連通した水素を主成分とするガスの供給手段とを備えたことを特徴とするガス貯蔵装置を提供する(請求項11)。
【0026】
上記発明(請求項11)によれば、まず水素を主成分とするガスの供給手段から、第2の耐圧容器に水素を主成分とするガスを供給することにより水分を除去し、さらにこの水分を除去した水素を主成分とするガスをガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末を充填した第1の耐圧容器に所定の圧力で供給することにより、水素を主成分とするガスを吸蔵することができるので、この第1の耐圧容器を水素ガス源として利用することができる。
【0027】
さらに、第四に本発明は、上記発明(請求項11)に係るガス貯蔵装置における前記第1の耐圧容器より供給される水素を主成分とするガスから電力を得ることを特徴とする燃料電池システムを提供する(請求項12)。
【0028】
上記発明(請求項12)によれば、水素を主成分とするガスを吸蔵した第1の耐圧容器を水素ガス源として燃料電池システムに供給することで、効率的かつ簡便に燃料電池システムを運転することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体によれば、金属イオンとジカルボン酸化合物とによる複数の層状格子を、該金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物が連結するような三次元格子構造を有するので、所定の圧力をかけることにより、水素分子等のガス体の分子を該三次元格子を構成する芳香族複素環式化合物やジカルボン酸化合物との分子間力により該格子内に安定的に保持することができ、ガス吸蔵用として好適なものとなっている。さらに、上述した分子間力は弱いものであるので、圧力を減少させることにより、保持したガス分子を放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るガス貯蔵装置を示す概略図である。
【図2】実施例1のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図3】実施例1のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の分子構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体について詳細に説明する。
本発明のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体は、[1]金属イオンと、[2]ジカルボン酸化合物(配位子)と、[3]上記金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物との配位結合によって構成される三次元格子構造体である。
【0032】
上記[1]金属イオンとしては、特に制限はないが、Mg,Al,Ca,Ti,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn等のイオンが挙げられるが、これらのうちCuイオンが好ましい。
【0033】
また、[2]ジカルボン酸化合物は、配位子として機能するものであり、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸を用いるのが好ましい。この芳香族ジカルボン酸としては下記式(1)〜(6)で表わされるものを好適に用いることができる。
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
さらに、[3]上記金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物としては、下記式(7)〜(15)で表されるものを用いることができる。
【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【0049】
【化15】

【0050】
これらのうちでは、特に3個以上、さらには4個以上の複素環を有する芳香族複素環式化合物が好ましい。
【0051】
上述したような[1]金属イオンと、[2]ジカルボン酸化合物(配位子)と、[3]上記金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物との配位結合によって構成される本発明の多孔質有機金属錯体は、金属イオンとジカルボン酸化合物とによる複数の層状格子を、窒素原子を含む芳香族複素環式化合物が連結するような三次元格子構造を有し、これに起因して細孔構造となっている。具体的には、[1]金属イオンとしてCuイオンを、[2]ジカルボン酸化合物としてテレフタル酸(化学式(1))を、[3]金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物として1,4−ジ(4−ピリジル)ベンゼン(化学式(10))を用いた場合には、図3に概略的に示すような構造が三次元的に連続した三次元格子構造を有する。
【0052】
そして、この細孔構造は、配位子である窒素原子を含む芳香族複素環式化合物の分子構造に応じて所定の構造をとることができる。例えば、窒素原子を含む2座配位子としてジアザビシクロオクタン(DABCO)、ジカルボン酸配位子としてテレフタル酸(BDC)を用いた場合、Bull. Chem. Soc. Jpn. 2008, Vol.81, No.7, 847.に報告されている多孔質有機金属錯体[Cu(BDC)(DABCO)1/2]nと同様の結晶構造をとる。
【0053】
本発明のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体は、特にその水素貯蔵能の点から、比表面積が20m/g以上であることが好ましく、特に100m以上であることがより好ましい。
【0054】
上述したような本発明のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体は、所定の圧力をかけることで、三次元格子中にガス体の分子を貯蔵することができ、常温で十分なガス貯蔵能力を有するものであり、特に水素貯蔵に有用である。例えば、温度298K、水素圧力35MPaの雰囲気下で1.0wt%以上の水素貯蔵能力を有する。
【0055】
次に、上述したようなガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の製造方法について説明する。
本発明のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体は、[1]金属イオンと[2]芳香族ジカルボン酸とを反応させ二次元の網目状の配位高分子を合成する第一工程と、この網目状配位高分子同士を、[3]2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物で橋かけする第二工程とにより製造することができる。
【0056】
具体的には、まず、第一の工程では所望とする金属イオンの金属塩を所定の溶媒に溶解させる一方、芳香族ジカルボン酸をピリジンに溶解させる。そして、その後これら二液を混合する。
【0057】
金属イオンの反応液中の濃度は、0.05〜4.0mol/Lの範囲であることが好ましく、特に0.1〜0.2mol/Lであることが好ましい。
【0058】
上記金属塩を溶解させる溶媒としては水が一般的であるが、金属塩が溶解するものであれば水以外の溶媒も使用することができる。
【0059】
また、芳香族ジカルボン酸の反応液中の濃度は、0.05〜4.0mol/Lの範囲であることが好ましく、特に0.1〜0.2mol/Lであることが好ましい。なお、溶媒として用いる液体は芳香族ジカルボン酸が溶解するものであればピリジン以外の溶媒も使用することができる。
【0060】
混合する二液の量及びモル濃度は同じとなるようにするのが好ましいが、金属イオンが過剰となるようにしてもよい。
【0061】
このようにして二液を混合させた後、室温で1〜48時間程度放置させると青色の結晶(二次元の網目状の配位高分子)が析出してくるのでこれをろ別する。
【0062】
反応時間が1時間未満だと十分に反応が進行しないおそれがある。一方、48時間以上反応させてもさほど収率は向上しない。
【0063】
生成物のろ過は、ひだ付きろ紙等を用いた自然ろ過で行い、ろ紙上に残った生成物をろ液で2〜3回洗浄するのが好ましい。その後、ろ紙を広げ、新しいろ紙を軽く押しつけることにより、余分な溶液を取り除いておけばよい。
【0064】
続いて、第二の工程では、ここで得られた結晶(二次元の網目状の配位高分子)を2座以上配位可能な芳香族複素環式化合物を溶解させた溶液に加え、環流・攪拌する。
【0065】
この時、芳香族複素環式化合物を溶解させる溶媒としては、該芳香族複素環式化合物が溶解するものであれば制限はないが、特にN,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジエチルホルムアミドのいずれかを単独で、あるいは両者を混合して用いることが溶解度と反応温度の点から好ましい。
【0066】
また、上記反応の反応温度は、80℃〜250℃であることが好ましく、特に100℃〜150℃であることが好ましい。反応温度が80℃未満であると、目的とする多孔質有機金属錯体が生成しにくい傾向がある。一方、反応温度が250℃を超えると反応に使用する2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物が分解するおそれがある。
【0067】
上記反応工程において、反応溶液の加熱は空気雰囲気中で行うことができる。反応容器としてはリービッヒ冷却器等の還流冷却器を備えたナス型フラスコ等を用いて反応させることができる。また、200℃以上の温度で反応を行う場合はオートクレーブ等の密閉容器を用いて反応を行うこともできる。
【0068】
このようにして生成した多孔質有機金属錯体は反応液から分取し、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の溶媒で洗浄する。
【0069】
このようにして得られた多孔質有機金属錯体は、ほとんどの場合、その細孔の中に反応に用いた溶媒を物理吸着しているが、真空減圧によってこれらを取り除き、乾燥させる。このようにして目的とする多孔質有機金属錯体を取り出すことができる。
【0070】
上記乾燥工程は室温で行っても良いが、通常は80℃〜250℃で行うのが好ましく、特に100℃〜150℃で行うのが好ましい。温度が80℃以下であると乾燥が不十分になるおそれがあり、250℃を超えると多孔質有機金属錯体が分解するおそれがある。このようにして目的とするガス吸蔵用多孔質有機金属錯体を得ることができる。
【0071】
次に、本実施の形態に係るガス吸蔵用多孔質有機金属錯体によるガス貯蔵方法及びガス貯蔵装置について、添付図面を参照説明する。
【0072】
図1は、本発明の一実施形態に係るガス貯蔵方法を実施可能なガス貯蔵装置を示す概略図である。図1において、本実施形態において、ガス貯蔵装置1は、第1の耐圧容器2と第2の耐圧容器3とを備え、これら第1の耐圧容器2と第2の耐圧容器3とは、連通管4を介して連通している。そして、第1の耐圧容器2にはガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末5が充填されている一方、第2の耐圧容器3には乾燥剤6が充填されている。
【0073】
そして、第1の耐圧容器2の一端は、バルブ7Aを備えたガス排出管7に接続されている。また、第2の耐圧容器3の他端は、バルブ8Aを備えたガス供給管8に接続されていて、このガス供給管8の基端側には、ガスの供給手段としてのレギュレータ9Aを備えた水素ガスボンベ9に接続されている。なお、図中、10,11はそれぞれ連通管4に付設されたバルブ及び圧力計である。したがって、本実施形態において、水素を主成分とするガスは水素ガスである。
【0074】
上述したような装置において、乾燥剤6としては、シリカゲル、塩化カルシウム、五酸化二リン等を用いることができる。なお、第2の耐圧容器3には、例えばモレキュラーシーブス等を乾燥剤6の代わりにあるいは併用充填することにより、H2O、CO、CO2、O2等を除去するようにしてもよい。
【0075】
また、第1の耐圧容器2、第2の耐圧容器3、連通管4、ガス排出管7及びガス供給管8は、SUS304またはSUS316等のステンレス鋼からなるのが好ましい。
【0076】
前記構成につきその作用について説明する。
バルブ7Aを閉鎖し、バルブ8A及び10を開成した状態で、水素ガスボンベ9から水素ガスを供給する。この水素ガスは、乾燥剤6が充填された第2の耐圧容器3及び連通管4を介して第1の耐圧容器2に供給される。このため乾燥剤6により水素ガス中の水分は十分に除去されることになる。
【0077】
このときの水素ガス供給圧力(圧力計11の圧力)は10〜40MPa(圧力計11の圧力)となるようにレギュレータ9Aを設定しておくのが好ましい。水素ガス供給圧力が、10MPa未満では、ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末への水素の吸蔵量が十分でない一方、40MPaを超えてもそれ以上の水素の吸蔵量の増加効果が得られないばかりか、第1の耐圧容器2の耐圧性を高める必要があり実用的でない。
【0078】
このようにして第1の耐圧容器2に所定量の水素を貯蔵したら、バルブ8A及び10を閉鎖して水素ガスボンベ9からの水素ガスの供給を停止する。この状態で、第1の耐圧容器2を閉鎖したら連通管4を取り外して、第1の耐圧容器2のみを燃料電池システムの近傍に持ち運んで、ガス排出管7を、レギュレータを備えた燃料電池システム(図示せず)に接続し、バルブ7Aを開成して除圧することで、一定量の水素を供給して電力を得ることができる。
【0079】
また、本実施形態のガス貯蔵装置は、ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末5を充填した第1の耐圧容器2と、この第1の耐圧容器2に連通した乾燥剤6を充填した第2の耐圧容器3と、前記第2の耐圧容器3に連通した水素ガスボンベ9とを備えるものであり、第1の耐圧容器3に水素ガスを長期保管・貯蔵し、水素ガス源として利用することができる。
【0080】
さらに、第1の耐圧容器2に充填されたガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末5に水素ガスを長期保管・貯蔵し、この第1の耐圧容器2から供給される水素ガスを燃料とすることで、長期間安定した燃料電池システムとすることができる。
【0081】
以上本発明について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は上記実施形態に限らず種々の変形実施が可能である。例えば、上記実施形態では、水素ガスの貯蔵用の場合でわるが、その他のガス、例えば、酸素、オゾン、CO等にも適用可能である。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0083】
〔実施例1〕
[式(10)で表わされる芳香族複素環式化合物の合成例]
1,4−ジブロモベンゼン2.36gと、4−ピリジンボロン酸4.30gとPd(dppf)Cl0.82gと、NaCO2.12gとをトルエンと水との混合溶液(トルエン/水=1:1(容積比))50mLに加えた。
【0084】
この混合物に窒素ガスを10分間吹き込み脱気した後、窒素雰囲気下で、110℃で加熱して72時間還流した(参考文献:Organometallics, 2008, 27(16), pp.4088-4097)。
【0085】
その後、加熱を止め、室温付近まで放冷し、トルエンで抽出した。トルエン溶液をエバポレーターで濃縮し、得られた固体を酢酸エチルで再結晶し、目的物である1,4−ジ(4−ピリジル)ベンゼン1.67gを得た。
【0086】
[ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の合成例]
ギ酸銅(II)・4水和物2.00gを水50mLに溶解させた。別の容器にテレフタル酸1.47gを入れ、ピリジン50mLを加えて溶解させた。この二つの溶液を混合し、析出してくる青色の結晶4.21gをろ取した。
【0087】
1,4−ジ(4−ピリジル)ベンゼン1.1gを秤量し、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)50mLに溶解させた。ここに上記で得られた青色結晶をすべて加え、150℃で48時間還流・攪拌し、ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体2.03gを得た。
【0088】
[ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の特性評価]
このようにして得られたガス吸蔵用多孔質有機金属錯体に対し、77KにおけるBET比表面積測定を行った。この測定はMicromeritics社製Tristar3000を用い、多孔質有機金属錯体が入ったセルを液体窒素に浸漬させた状態で行った。その結果、比表面積は495m/gであることがわかった。
【0089】
また、このガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末X線回折パターンを確認した。結果を図2に示す。この粉末X線回折パターンにより、実施例のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体は、図3に示す構造の連続により三次元の多孔質構造をとることが予想される。
【0090】
また、このガス吸蔵用多孔質有機金属錯体に対し、298Kにおける水素貯蔵量を測定した。この測定はJIS−H7201のPCT線測定法に従って行った。その結果、水素圧力10MPaでの水素貯蔵率は0.5wt%であった。
【0091】
さらに、このガス吸蔵用多孔質有機金属錯体を耐圧容器に充填し、さらに水素導入部に乾燥剤を充填した耐圧容器を取り付けた。この状態で20回水素ガスの加圧充填・除圧放出を繰り返し、その後、多孔質有機金属錯体の水素貯蔵量をJIS−H7201のPCT線測定法に従って測定した。その結果、水素貯蔵率は0.5wt%であった。また、使用後の多孔質有機金属錯体に含まれる水分量を平沼産業(株)のカールフィッシャー水分計(AQ−2100)にて測定したところ、0.21wt%であった。
【0092】
〔実施例2〕
実施例1で得られたガス吸蔵用多孔質有機金属錯体を耐圧容器に充填し、水素導入部に乾燥剤を充填した耐圧容器を取り付けることなく、20回水素ガスの加圧充填・除圧放出を繰り返した。その後、多孔質有機金属錯体の水素貯蔵量を実施例1と同様に測定した。その結果、水素貯蔵率は0.38wt%であった。また、使用後の多孔質有機金属錯体に含まれる水分量を平沼産業(株)のカールフィッシャー水分計(AQ−2100)にて測定したところ、2.5wt%であった。
【0093】
上記実施例1及び2から、水素ガスを乾燥することで、繰り返し使用した後の水素貯蔵率の低下が抑制されることがわかる。これは、水素ガスの加圧充填・除圧放出を繰り返すことで、ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体に水分が吸着し、水素ガス吸蔵能が低下するためであると考えられる。
【符号の説明】
【0094】
1…ガス貯蔵装置
2…第1の耐圧容器
3…第2の耐圧容器
4…連通管
5…ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末(ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体)
6…乾燥剤
9…水素ガスボンベ(ガスの供給手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと、ジカルボン酸化合物と、前記金属イオンが2座以上配位可能な窒素原子を含む芳香族複素環式化合物との配位結合によって構成され、細孔構造を有することを特徴とするガス吸蔵用多孔質有機金属錯体。
【請求項2】
BET法による比表面積測定値が、20m/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体。
【請求項3】
前記金属イオンが、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛からなる群から選択される金属イオンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体。
【請求項4】
前記ジカルボン酸化合物が、芳香族ジカルボン酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末を耐圧容器に充填して、該耐圧容器内に所定の圧力でガスを導入することを特徴とするガス貯蔵方法。
【請求項6】
前記耐圧容器に導入するガスに含まれる、前記ガス吸蔵用多孔質有機金属錯体に不可逆的に吸着される成分を除去する前処理を施すことを特徴とする請求項5に記載のガス貯蔵方法。
【請求項7】
前記耐圧容器に導入するガスに含まれる水分を除去する前処理を施すことを特徴とする請求項5又は6に記載のガス貯蔵方法。
【請求項8】
前記水分の除去の前処理が乾燥剤との接触であることを特徴とする請求項7に記載のガス貯蔵方法。
【請求項9】
前記乾燥剤が、シリカゲル、モレキュラーシーブス、塩化カルシウム、五酸化二リンから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項8に記載のガス貯蔵方法。
【請求項10】
前記ガスが水素を主成分とするものであり、該ガスを前記耐圧容器に加圧条件下で貯蔵することを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のガス貯蔵方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載のガス吸蔵用多孔質有機金属錯体の粉末を充填した第1の耐圧容器と、前記第1の耐圧容器に連通した乾燥剤を充填した第2の耐圧容器と、前記第2の耐圧容器に連通した水素を主成分とするガスの供給手段とを備えたことを特徴とするガス貯蔵装置。
【請求項12】
請求項11に記載のガス貯蔵装置における前記第1の耐圧容器より供給される水素を主成分とするガスから電力を得ることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−83755(P2011−83755A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240808(P2009−240808)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】