説明

ガス感知体の製造方法及びガス感知体並びにガスセンサ

【課題】高感度、長寿命という優れた特徴を有するガス感知体を、さらには、ガス選択性を容易に付与することが可能なガス感知体を、容易に製造することができるガス感知体の製造方法及びガス感知体並びにガスセンサを提供する。
【解決手段】本発明のガス感知体の製造方法は、半導体微粒子を含む分散液から分散媒を除去することにより、未焼結状態の半導体微粒子堆積物を生成し、次いで、この半導体微粒子堆積物に絶縁性物質形成成分を含む溶液を浸透させて絶縁性物質形成成分から絶縁性物質を生成させ、半導体微粒子及び絶縁性物質を含むガス感知体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス感知体の製造方法及びガス感知体並びにガスセンサに関し、更に詳しくは、高感度、長寿命という優れた特徴を有し、製造が容易であり、さらには、小型化、薄膜化しても良好な特性を有するガス感知体の製造方法、及び、このガス感知体の製造方法により得られたガス感知体、並びに、このガス感知体を備えたガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な雰囲気中における可燃性ガスや有毒性ガスを感知するガス感知手段として半導体ガスセンサが提案され、実用に供されている。
この半導体ガスセンサは、半導体で構成されたガス感知体を被感知ガス雰囲気に置いた場合、ガス感知体の電気抵抗が被感知ガスの濃度に対応して変化することを利用して、ガス濃度を測定するものである。ガス感知体としては、一般に、半導体微粒子である金属酸化物微粒子の焼結体が用いられている。
半導体ガスセンサは、簡単な操作で、ガス濃度を迅速かつ容易に測定することができるという特長を生かして、一般用ガス漏れ検知器としての用途に使用されている。近年では、新たな用途として、空気中の汚染ガスの検知、口臭原因物質の検知、水素ガスの検知等への適用が行なわれている。
【0003】
このような新たな用途分野への半導体ガスセンサの普及を促進するためには、高感度化、低消費電力化、ガス選択性の向上等が課題とされており、なかでも検知感度の改善は重要な課題とされている。
この半導体ガスセンサの感度(S)は、下記の式(1)により定義される。
S=Ra/Rg ……(1)
但し、Raは空気中におけるガス感応体の抵抗値、Rgは検知すべきガスが存在する雰囲気中におけるガス感応体の抵抗値である。
この式で明らかなように、ガスセンサの感度は、空気中におけるガス感応体の抵抗値と、被検知ガス雰囲気中におけるガス感応体の抵抗値との差が大きいほど高くなる。
【0004】
半導体ガスセンサの感度を向上させるためには、ガス感知体を構成する半導体微粒子である金属酸化物微粒子の粒子(結晶子)径を小さくすることが有効であり(例えば、非特許文献1)、例えば、ガス感知体に酸化スズを用いた場合、酸化スズの粒子の直径が約10nm以下で増感効果が現れ、さらに約5nm以下に達したときに増感効果が顕著になる(非特許文献2)。
このように、粒子が小さくなることにより感度が高くなる理由は、半導体微粒子間に形成される微小な接続部分(ネック)が導電路として働き、この導電路の導電性がガスの吸着によって敏感に変化することによるものと考えられている。
【0005】
また、半導体ガスセンサの応答特性を向上させることや、消費電力を低減することを目的として、ガス感知体の小型化、薄膜化が行われている。ここで、ガス検知体を薄膜状にすることにより応答特性が改善される理由は、ガス検知体の比表面積が増加するとともに、ガス検知体内部における被検知ガスの拡散が効率的に行われるからであり、また小型・薄膜状にすることにより低消費電力化が可能になる理由は、消費される電力の多くがガス検知体を一定の温度に加熱するために消費されるからである。
しかしながら、単にガス感知体を小型化、薄膜化した場合、感度の低下やばらつきの増大が生じる。これは、小型化、薄膜化により、ガス感知体を構成する半導体微粒子の状態や特性の影響が大きくなるからである。したがって、感度を維持し、かつ、ばらつきを抑えた状態で小型化、薄膜化するためには、半導体微粒子の粒子径を小さくすることが有効である。
【0006】
一方、半導体微粒子の粒子径を小さくすると、ガス感知体の信頼性や耐久性が劣るようになり、センサ寿命が短くなるという弊害もあることが知られている。ここで、粒子径の微細化が信頼性や耐久性に問題を生じさせる理由としては、粒子が小さくなることにより、粒子が低温でも粒成長して粗大化し易くなるために、高感度のネック部分が減少したり、粒子の表面積が減少するためと考えられている。
【0007】
そこで、従来の半導体ガスセンサでは、ガス感知体を構成する半導体微粒子の粒成長を防ぐために、金属酸化物からなる半導体微粒子を一旦焼結した後、シリカ系等の絶縁性結合剤を含侵させ、再度焼結することで、半導体微粒子間を固定することが行われてきた(例えば、特許文献1)。
しかしながら、半導体ガスセンサの感度や応答特性を向上させることや、消費電力を低減することを目的として、この方法でガス感知体の小型化、薄膜化を行なおうとすると、均一なガス感知体を得ることが難しくなる。その理由は、複数回の焼結により粗大な粒子が形成され、この粗大粒子がガス感知体内に含まれるために、組織構造が不均一になるからである。そこで、粒成長を防ぐとともに、信頼性や耐久性を向上させることを目的として、次のような様々な提案がなされている。
【0008】
例えば、ガス感知体の小型化としては、酸化スズ等を主成分とする半導体層と、酸化ケイ素等を主成分とする絶縁体層とを交互に積層した積層構造(特許文献2)、ガス感知体の半導体部分を粒成長を生じさせない微細構造としたセラミックセンサ(特許文献3)、酸化スズ粉末にコロイド状シリカを添加して焼結した焼結体を感応膜としたガス検出素子(特許文献4)等が提案されている。これらの構造体によれば、半導体領域や半導体微粒子の形状変化が抑制されるとともに結晶子の粒成長も抑制されるので、ガス感知体の耐久性が改善されている。
【0009】
また、ガス感知体の薄膜化としては、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法等の各種成膜法を用いて成膜することも行われている。このような成膜法にて成膜された金属酸化物の半導体薄膜においては、結晶子の粒成長を防ぎ、ガスセンサとしての信頼性や耐久性を向上させる方法として、薄膜中に酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化マグネシウム等の絶縁性酸化物を分散させることが行われている。これらの絶縁性酸化物を半導体薄膜中に分散させる方法としては、成膜時に、半導体源と絶縁性酸化物源を同時に用いて成膜する方法が考えられており、例えば、スパッタリング法においては、酸化スズのターゲットと、絶縁性酸化物のターゲットを同時にスパッタリングする方法が提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−261947号公報
【特許文献2】特開平4−127047号公報
【特許文献3】特開2006−226860号公報
【特許文献4】特開平8−320302号公報
【特許文献5】特開2004−333289号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】軽部征夫監修、「バイオセンサ・ケミカル辞典」、テクノシステム、2007年8月発行、475頁
【非特許文献2】「DENKI KAGAKU」、電気化学会、1990年12月発行、58巻、12号、1143頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載のガスセンサでは、半導体薄膜間の電子伝導が絶縁性薄膜により妨げられるので、高感度を得ることが難しいという問題点があった。
また、特許文献3に記載のガスセンサでは、ガス感知体の半導体部分を100nm以下の微細構造としたので、この微細構造を形成するためには、フォトリソグラフィやナノインプリント等の複雑な加工装置を用いる必要があり、しかも、これらの装置が高価であり、工程も複雑になる等の点から高コスト化が避けられないという問題点があった。
【0013】
また、特許文献4に記載のガスセンサでは、ガス感知体の構造が従来のものと類似しているために小型化が難しく、したがって、消費電力が多く、応答性に劣るという問題点があった。さらに、ガス感知体の構造が、半導体微粒子が絶縁体によって隔離される構造であるから、ガス感知体の抵抗値が高くなるという問題点があった。
また、特許文献5に記載のガスセンサでは、複数種の成膜源を用いて同時に成膜を行う必要があるが、複数種の成膜源それぞれの成膜条件を厳密に管理することができなければ、均一な薄膜を成膜することができず、さらには、それぞれの成膜条件を管理することができたとしても、得られる膜の面内均一性や製造ロット間の再現性を取ることが難しいという問題点があった。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、高感度、長寿命という優れた特徴を有するとともに、小型化、薄膜化しても特性の良好なガス感知体を容易に製造することができるガス感知体の製造方法及びガス感知体並びにガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記の課題を解決するためにガス感知体に用いられる無機酸化物からなる半導体微粒子の接触状態に着目して鋭意検討を行った結果、半導体微粒子の接触状態を絶縁性物質にて制御することにより、高感度、長寿命のガス感知体が容易に得られること、さらには小型化、薄膜化しても良好な特性を維持することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明のガス感知体の製造方法は、半導体微粒子を含む分散液から分散媒を除去することにより、未焼結状態の半導体微粒子堆積物を生成し、次いで、この半導体微粒子堆積物に絶縁性物質形成成分を含む溶液を浸透させて前記絶縁性物質形成成分から絶縁性物質を生成させ、前記半導体微粒子及び前記絶縁性物質を含むガス感知体を得ることを特徴とする。
【0017】
前記分散液は、水系分散液であることが好ましい。
前記半導体微粒子は、水熱合成法により生成された金属酸化物微粒子であることが好ましい。
【0018】
本発明のガス感知体は、本発明のガス感知体の製造方法により得られたことを特徴とする。
本発明のガスセンサは、本発明のガス感知体を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガス感知体の製造方法によれば、半導体微粒子を含む分散液から分散媒を除去することにより、未焼結状態の半導体微粒子堆積物を生成し、次いで、この半導体微粒子堆積物に絶縁性物質形成成分を含む溶液を浸透させて前記絶縁性物質形成成分から絶縁性物質を生成させるので、高感度、長寿命であるという特徴を有し、さらには小型化、薄膜化しても良好な特性を維持することができるという特徴を有するガス感知体を、容易に得ることができる。
【0020】
本発明のガス感知体によれば、本発明のガス感知体の製造方法により得られたので、高感度、長寿命という特徴を有し、小型化、薄膜化も行うことができ、しかも製造が容易である。
【0021】
本発明のガスセンサによれば、本発明のガス感知体を備えたので、高感度、長寿命という特徴を有し、低消費電力で、しかも製造が容易なガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態のガス感知体の製造方法を示す過程図である。
【図2】図1のA領域の拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態のガス感知体の基本構造の一例を示す模式図である。
【図4】図3のB領域の拡大図である。
【図5】ガス感知体の抵抗値を測定するための測定装置を示す概略構成図である。
【図6】ガス感知体の抵抗値を測定するための測定回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のガス感知体の製造方法及びガス感知体並びにガスセンサを実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0024】
「ガス感知体の製造方法」
本実施形態のガス感知体の製造方法は、次の3工程により構成される。
(1)半導体微粒子を含む分散液から分散媒を除去することにより、未焼結状態の半導体微粒子堆積物を生成する、第1の工程。
(2)第1の工程で得られた半導体微粒子堆積物に絶縁性物質形成成分を含む溶液を浸透させた後、溶媒を除去する、第2の工程。
(3)第2の工程で浸透させた絶縁性物質形成成分から絶縁性物質を生成させ、前記半導体微粒子及び前記絶縁性物質を含むガス感知体を得る、第3の工程。
【0025】
次に、各工程について、図1及び図2に基づき詳細に説明する。
なお、本実施形態のガス感知体においては、ガス感知成分としての半導体微粒子以外に、必要に応じて、半導体によるガス感知能を向上させ測定感度を向上させるための金属触媒を含む場合がある。そこで、以下の説明においては、特段の記載がない限り、「半導体微粒子」には、「半導体微粒子」及び「触媒金属微粒子」を含むものとする。
また、図1及び図2では、半導体微粒子と触媒金属微粒子の両方を含む場合について示しているが、上述の通り触媒金属微粒子は、必要に応じて添加すれば良いものであって、必須ではない。
【0026】
[第1の工程]
第1の工程は、「半導体微粒子を含む分散液」または「半導体微粒子および触媒金属微粒子を含む分散液」から、未焼結状態の「半導体微粒子からなる堆積物」または「半導体微粒子および触媒金属微粒子からなる堆積物」を生成する工程である。
ここで注意する点は、生成されるものは「微粒子を堆積させた未焼結状態の堆積物」、すなわち力を加えると容易に変形する(形状が崩れる)脆いものであって、焼結体のように粒子同士が強固に結合して一体化したものではないということである。
【0027】
(半導体微粒子及びその製造方法)
この第1の工程では、まず、半導体微粒子を含む分散液を用意する。
半導体微粒子としては、被検知ガスの吸着/脱着により抵抗値が変化する半導体材料であればよく、無機酸化物微粒子が好適である。
この無機酸化物微粒子としては、例えば、スズ、アンチモン、鉄、タングステン、亜鉛等の金属を成分とする金属酸化物微粒子が好適に用いられ、特に、センサ材料として広く用いられている酸化スズ(SnO)、あるいは酸化タングステン(WO)等、被検知ガスに対して感度の高いものを選択すれば良い。
この半導体微粒子は、分散液、特に水系の分散液中に分散させることを考慮すると、表面が親水性であることが好ましい。
【0028】
また、この金属酸化物微粒子としては、水熱合成法にて得られたものであることが好ましい。水熱合成法は、金属塩を含む水溶液を、高温・加圧下にて反応させて金属酸化物微粒子を合成する方法であり、表面の親水性が高く、凝集も少なく、粒径が均一な金属酸化物微粒子を容易に得ることができるからである。
【0029】
この半導体微粒子の平均一次粒子径は、3nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、より好ましくは3nm以上かつ30nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ15nm以下である。半導体微粒子の平均一次粒子径が3nm以上かつ100nm以下であれば、安定した分散液が得られるので、この分散液から半導体微粒子からなる堆積物を良好な状態で得ることができる。
また、形状は球状に近いことが好ましい。
【0030】
形状が球状に近く、平均一次粒子径が3nm以上かつ100nm以下であれば、本方法により得られたガス感知体においては、半導体微粒子同士が接触する面積を小さくすることができ、また単位体積当たりの粒子数も多くすることができることから半導体微粒子同士の接触点も多くなり、高感度化が可能になるからである。
さらに、形状が球状に近く、平均一次粒子径が3nm以上かつ100nm以下であれば、得られた半導体微粒子からなる堆積物における半導体微粒子間の空隙の寸法及び形状を、後述する第2の工程で絶縁性物質形成成分を含む溶液を浸透させるのに適したものとすることができるからである。
前述の水熱合成法にて得られた金属酸化物微粒子は、その形状が略球状であり、平均一次粒子径も通常、数十nm程度であるから、本発明の半導体微粒子として用いることは非常に好適である。
【0031】
この半導体微粒子は、必要に応じて、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の測定感度を向上させる触媒金属微粒子を添加しても良い。この触媒金属微粒子は、ガス感知体中に均一に分散することが好ましいことから、その粒子径は半導体微粒子の粒子径を下回っていることが好ましい。
なお、この触媒金属微粒子についても、半導体微粒子と同様、表面が親水性であることが好ましいことから、触媒金属微粒子の製造方法としては、金属塩溶液に還元剤を加えて、この金属塩溶液中の金属イオンを還元し、金属微粒子を生成する方法が適している。
【0032】
(半導体微粒子を含む分散液)
半導体微粒子を含む分散液としては、上記の半導体微粒子と、必要に応じて触媒金属微粒子とを、分散媒中に均一に分散させた分散液であれば、特に制限は無い。
ただし、分散液中に含まれる成分としては、半導体微粒子や触媒金属微粒子を除く固形成分はできるだけ少ないことが望ましく、分散液中の全固形成分中における半導体微粒子の割合、または半導体微粒子および触媒金属微粒子の合計の割合は、95体積%以上である必要がある。
【0033】
その理由は、この分散液から得られる「半導体微粒子からなる堆積物」または「半導体微粒子および触媒金属微粒子からなる堆積物」においては、半導体微粒子や触媒金属微粒子を除く固形成分はできるだけ少ないことが望ましいからである。
この半導体微粒子や触媒金属微粒子を除く固形成分の割合が95体積%を下回ると、半導体微粒子や触媒金属微粒子以外の固形成分が、半導体微粒子表面に被膜を形成する等により半導体微粒子相互の接触、あるいは半導体微粒子と触媒金属微粒子との接触を阻害するようになる。本実施形態のガス感知体においては、半導体微粒子同士の接触部分がガス感知体の感度を左右するというガス感知体特有の機構のために、半導体微粒子相互の接触、あるいは半導体微粒子と触媒金属微粒子との接触が阻害されると、ガス感知体の感度低下をもたらす可能性があるので、好ましくない。
【0034】
この半導体微粒子や触媒金属微粒子を除く固形成分としては、バインダー成分、界面活性剤等を挙げることができる。
これらの固形成分は、塗膜の作製を容易にする等の目的により添加されるものであるが、上述した通り、半導体微粒子や触媒金属微粒子を含む全固形成分中における上記の固形成分の割合は5体積%未満である必要がある。
例えば、無機系のバインダー成分であるトリエトキシシランの加水分解物を5体積%以上含む場合、この加水分解物から酸化ケイ素が必要以上に生じ、作製されたガス感知体の抵抗値が増加したり、感度が低下する等の不具合を引き起こすので、好ましくない。
【0035】
この半導体微粒子を含む分散液から本実施形態のガス感知体を作製する場合、従来のガス感知体の製造方法と比べて、低温での処理が多く、高温での焼成がないので、得られたガス感知体には、従来の焼成過程で酸化等により散逸してしまう有機成分が残留し易い。したがって、有機成分のバインダー成分や界面活性剤を選択したとしても、このバインダー成分や界面活性剤自体、あるいはこれらの熱による変成物が半導体微粒子の表面に残留してしまい、絶縁性被膜を形成し易くなる。この点からも、半導体微粒子や触媒金属微粒子を除く固形成分は、最小限とすることが好ましい。
【0036】
この半導体微粒子を含む分散液としては、水系分散液であることが好ましい。
半導体微粒子や触媒金属微粒子は、本来、表面が親水性であり、水系分散媒中に安定に分散する。そこで、この半導体微粒子や触媒金属微粒子を水系分散媒中に分散させれば、分散剤や表面処理剤を用いることなく、均一に分散させることができ、凝集等もない分散液を得ることができるからである。
【0037】
また、親水性粒子の表面は自由エネルギーが高く、これらの粒子間の隙間に液体を吸引・浸透させ易い性質を有する。したがって、半導体微粒子の表面や触媒金属微粒子の表面が親水性であれば、後述する第2の工程においても、粒子間の隙間に絶縁性物質形成成分を含有する溶液を浸透させることが容易となるので好ましい。この点からも、水系分散液であれば、半導体微粒子の表面や触媒金属微粒子の表面の親水性を維持することができるので好ましい。
【0038】
このように、半導体微粒子の表面や触媒金属微粒子の表面が親水性を有していれば、本工程で生成される半導体微粒子からなる堆積物、または半導体微粒子および触媒金属微粒子からなる堆積物の性状や、後述する第2の工程における絶縁性物質形成成分を含有する溶液の半導体微粒子堆積物内への浸透性等、最終的に得られるガス感知体の特性に直接影響する項目において良好な結果が得られ、結果として得られるガス感知体の特性が向上する。したがって、半導体微粒子の表面や触媒金属微粒子の表面は、親水性を有していることが好ましく、これら微粒子の親水性を維持しつつ安定した分散液を得るという点から、水系の分散媒を用いた水系の分散液とすることが好ましい。
特に、半導体微粒子が水熱合成法で合成された金属酸化物微粒子であり、触媒金属微粒子が金属イオンを還元して生成された金属微粒子であれば、表面の親水性がより高められているので、水系の分散媒が好適である。
【0039】
一方、水系の分散媒の替わりに、有機系の分散媒、特に非極性の分散媒を用いる場合には、半導体微粒子の表面や触媒金属微粒子の表面に対する分散剤や表面処理剤の使用が不可欠となるが、これら半導体微粒子の表面や触媒金属微粒子の表面に形成された分散剤や表面処理剤からなる膜は絶縁性である。
さらに、本実施形態の製造方法では、高温での焼成工程がないために、半導体微粒子の表面や触媒金属微粒子の表面に分散剤や表面処理剤が残留し易い。
このため、分散剤や表面処理剤からなる膜がガス感知体の特性を劣化させる可能性が高く、好ましくない。
また、分散剤や表面処理剤は疎水性であり、後述する第2の工程において、半導体微粒子堆積物内への絶縁性物質形成成分を含有する溶液の浸透性も低下するので、好ましくない。
【0040】
半導体微粒子や触媒金属微粒子を水系分散媒に分散させる方法としては、従来より用いられている分散方法を用いることができ、例えば、ボールミル、攪拌ミル、ジェットミル、振動ミル、アトライタ、高速ミル、ハンマーミル等を挙げることができる。
【0041】
なお、本実施形態においては、半導体微粒子として水熱合成法により作製されたものを、また触媒金属微粒子として金属イオンを還元することにより作製されたものを、それぞれ用いることが好ましい。
これらの微粒子は、生成する時点では水系の反応溶液中に存在した状態であるから、この反応溶液中の溶媒を水に置換することで水系分散液とすれば、微粒子を乾燥させることなく、水系分散液を得ることができる。また、この方法は、乾燥による微粒子の凝集を防ぐことができる他、分散工程を簡略することができるので、より好ましい。
以上のようにして、半導体微粒子を分散させた分散液、または半導体微粒子と触媒金属微粒子を分散させた分散液、を得ることができる。
【0042】
図1(A)に示すように、この半導体微粒子を含む分散液1は、半導体微粒子2および触媒金属微粒子3が、分散媒4中に均一に分散された状態となっている。
なお、図1(A)においては、半導体微粒子2と触媒金属微粒子3の両方を含む場合について示しているが、上述の通り触媒金属微粒子3は必要に応じて添加すれば良いものであって、必須のものではない。
【0043】
(半導体微粒子堆積物の生成)
上記の半導体微粒子を含む分散液から分散媒を除去することにより、未焼結状態の半導体微粒子堆積物を生成する。
より具体的には、基板上に、上記の半導体微粒子を含む分散液を塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥させることにより、半導体微粒子堆積物を生成する。
【0044】
基板としては、後述する第3の工程で用いられる温度以上の耐熱性と電気的絶縁性を有していれば、特段の制限はないが、シリカ、アルミナ等からなるセラミック基板、石英ガラス等からなるガラス基板が好適に用いられる。また,通常では、予め金などによる検出用電極を基板上に形成しておくことが好ましい。
塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷法等の各種印刷法が好ましい。さらに、近年におけるガス感知体の小型化、薄膜化への進展に伴い、用いられる分散液(塗料)の使用量も減少しているので、微少量の分散液(塗料)を位置制御性良く塗布することができる装置、例えば、マイクロディスペンサ、インクジェット等を用いることが好ましい。
【0045】
このようにして得られた塗布膜を乾燥させて、未焼結状態の半導体微粒子堆積物を生成する。
乾燥方法も特段の制限はなく、通常の加熱乾燥機等を用いればよい。
加熱乾燥する際の加熱温度は、20℃以上かつ600℃以下が好ましく、より好ましくは20℃以上かつ300℃以下、さらに好ましくは30℃以上かつ150℃以下である。
加熱温度が600℃を超えると、半導体微粒子同士や半導体微粒子と触媒金属粒子との間に焼結が生じ、粒子間の接触面積が拡大してガス感知体の感度が低下してしまうので好ましくない。
また、300℃を超える高温乾燥や急速な加熱乾燥は、分散媒が急激に蒸発し、塗布膜に膨張や変形を生じさせる虞があるので好ましくない。
特に、水系分散媒を用いた場合、100℃以下にて乾燥もしくは加熱乾燥させることが好ましい。また、乾燥を促進するために、減圧乾燥もしくは減圧加熱乾燥を行っても良い。
【0046】
以上により、半導体微粒子堆積物を生成させることができる。
この工程では、乾燥温度を半導体微粒子同士、または半導体微粒子と触媒金属微粒子相互が熱融着(焼結)を起こさない600℃以下、好ましくは300℃以下としているので、半導体微粒子同士、または半導体微粒子と触媒金属微粒子相互の熱融着(焼結)は生ぜず、得られた半導体微粒子堆積物はあくまで堆積物であり、外力を加えると容易に変形する(形状が崩れる)ものである。
【0047】
なお、半導体微粒子分散液にバインダー成分が添加されている場合、得られた半導体微粒子堆積物はバインダー成分により半導体微粒子同士または半導体微粒子と触媒金属微粒子相互が固着されているので、力を加えても容易には変形しない(形状が崩れない)。この半導体微粒子同士または半導体微粒子と触媒金属微粒子相互の固着は、あくまでバインダー成分による固着であり、半導体微粒子同士、または半導体微粒子と触媒金属微粒子相互の熱融着ではない。
ただし、この場合においても、後述する第2の工程ないしは第3の工程において、バインダー成分が除去されるかあるいは流動性を有する状態となり、半導体微粒子同士、または半導体微粒子と触媒金属微粒子が、相互に動けるような状態となる必要がある。
【0048】
この半導体微粒子堆積物は、図1(B)に示すように、基板6上に、半導体微粒子2および触媒金属微粒子3からなる半導体微粒子堆積物5が形成されており、各微粒子間には空隙7が形成されている。ここで、半導体微粒子2同士の接触面および半導体微粒子2と触媒金属微粒子3との接触面では熱融着は発生しておらず、外力による接触面の移動や剥離が容易に発生しうる状態となっており、この移動や剥離により、半導体微粒子堆積物5は容易に変形する。
【0049】
[第2の工程]
第2の工程は、第1の工程で得られた半導体微粒子堆積物に絶縁性物質形成成分を含む溶液を浸透させ、半導体微粒子堆積物の粒子間空隙を絶縁性物質形成成分を含む溶液で満たした後、溶液中の溶媒を除去して絶縁性物質形成成分を固化して、半導体微粒子堆積物複合体を得る工程である。
【0050】
(絶縁性物質形成成分を含む溶液及びその製造方法)
絶縁性物質形成成分から得られる絶縁性物質は、絶縁性を有し、ガス感知体中の半導体微粒子同士あるいは触媒金属微粒子を含む半導体微粒子同士を接着する機能を有すること、常温からガスセンサの作動温度以上の温度範囲において安定であり、かつこの温度範囲で半導体微粒子や触媒微粒子の特性を劣化させることなくガス感知体としても動作が安定していること、という特性を有するものから選択される。なお、ガスセンサの作動温度とは、ガス検知時にガス感知体が加熱される温度であり、測定ガスの種類やガス感知体の特性により、通常200℃から400℃の範囲で選択される。
【0051】
上記のような特性を考慮すると、絶縁性物質としては酸化物系材料であることが好ましい。
この酸化物系の絶縁性物質としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ジルコニウム、チタン、アンチモン等を含む金属酸化物、あるいはこれらの元素を含む金属複合酸化物が好適である。この酸化物系の絶縁性物質は、通常、500℃ないしは1000℃以上まで安定である。
【0052】
また、これらの酸化物系絶縁性物質は、有機金属化合物(有機ケイ素化合物を含む)である金属アルコキシドの加水分解物を絶縁性物質形成成分とし、これを加熱することにより容易に得ることができる。
そこで、絶縁性物質形成成分を含む溶液に含まれる絶縁性物質形成成分としては、有機金属化合物(有機ケイ素化合物を含む)である金属アルコキシドの加水分解物を用いることが好ましい。
この金属アルコキシドは、式M(OR)n(M:ケイ素、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ジルコニウム、チタン、アンチモンの群から選択される1種または2種以上、R:CH3、C2H5等のアルキル基、n:金属元素の酸化数)で表せる化合物であり、例えば、テトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウム等が挙げられる。
【0053】
この金属アルコキシドに、水の他、アルコール、触媒として作用する酸またはアルカリ、等を添加して反応させることにより、金属アルコキシドの加水分解物を得ることができる。実際の反応では、金属アルコキシドが単に加水分解されるのではなく、加水分解により生じた金属アルコキシドの加水分解物の脱水重合、脱アルコール重合、あるいは脱水重合および脱アルコール重合等の加水分解重縮合が同時に進行し、金属アルコキシドの加水分解重縮合物が生成する。
【0054】
この加水分解重縮合の反応性を高めるために、イソシアネート化合物であるトリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、テトラメチルキシレンイソシアネート等のモノマーまたはこれらの誘導体を添加することとしても良い。
このようにして得られた金属アルコキシドの加水分解重縮合物は、比較的分子量の小さな高分子化合物であり、生成後の状態もゾル状であり、このゾルが絶縁性物質形成成分となる。
【0055】
この溶液に用いられる溶媒としては、表面張力が低い溶媒が好ましい。
この溶媒の表面張力が高い場合、粒子間隙への溶液の浸透が阻害されるために、この溶液が半導体微粒子堆積物の内部、または半導体微粒子及び触媒金属微粒子を含む堆積物の内部にまで浸透せず、したがって、半導体微粒子同士、または半導体微粒子及び触媒金属微粒子相互の結着性や接触状態が不十分なものとなり、得られたガス感知体の感度が低下したり、抵抗値が増大する等の不具合が生じるので好ましくない。
【0056】
この表面張力が低い溶媒としては、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類等の有機溶媒、あるいは、これらの有機溶媒と水とを混合した混合溶媒が挙げられる。
この混合溶媒における水の割合は50質量%以下が好ましい。その理由は、水の割合が50質量%を越えると、水の表面張力が高いために粒子間隙への溶液の浸透が十分に行えなくなるからである。
ただし、界面活性剤を添加して水の表面張力を低下させることにより、水の割合を50質量%を越えるようにすることもできる。
【0057】
この絶縁性物質形成成分を含む溶液は、次の様にして作製することができる。
この絶縁性物質形成成分である金属アルコキシドの加水分解重縮合物は、その生成を水およびアルコールの混合溶液中にて行っていることから、得られた加水分解重縮合物自体が水およびアルコールの混合溶液中に分散したゾル状態である。したがって、このゾルを上述した溶媒で希釈することにより、絶縁性物質形成成分を含む溶液を得ることができる。
希釈方法としては、絶縁性物質形成成分自体がゾル状であることから、希釈用溶媒を加えた後、通常の攪拌や超音波分散等の処理を行なえばよい。
【0058】
この溶液における絶縁性物質形成成分を含む固形分の濃度は、絶縁性物質形成成分の状態、溶媒の種類や添加物等の他、この溶液の半導体微粒子堆積物への浸透方法等により変わるので一概には規定できないが、固形分濃度が50質量%以下であることが好ましい。絶縁性物質形成成分を含む固形分濃度が50質量%以下であることが好ましい理由は、この濃度範囲の溶液を用いて形成したガス感知体において、感度向上が見られるからである。
【0059】
一方、固形分濃度が50質量%を越えると、得られるガス感知体において、半導体微粒子間や半導体微粒子と触媒金属微粒子間に形成されている空隙部分のかなりの部分を絶縁性物質が占めることになり、ガス自体の通気性が阻害されること、さらにガス感度を有する半導体微粒子表面や半導体微粒子接触部が厚い絶縁性物質の膜で覆われてしまい、感度が低下することが発生するため、好ましくない。
【0060】
このようなガス感知体自体の特性とは別に、製造時において固形分濃度が高くなると溶液の粘度が高くなるために、この溶液の半導体微粒子堆積物への浸透性が低下する。このため、溶液は低粘度であることが好ましいが、低粘度であるためには、絶縁性物質形成成分を含む固形分濃度が50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であればより好ましく、20質量%以下であればさらに好ましい。
【0061】
以上の点から、この溶液における絶縁性物質形成成分を含む固形分濃度は50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
また、濡れ性や粘度を調整するために、界面活性剤、添加剤等を添加しても良い。
【0062】
一方、この溶液における絶縁性物質形成成分を含む固形分濃度の下限値は、特に、この溶液を半導体微粒子堆積物へ浸透させる方法や条件により変わってくる。したがって、固形分濃度の下限値については特段の制限はなく、浸透方法や浸透条件により適した濃度に決定することが好ましい。
例えば、この溶液を半導体微粒子堆積物へ浸透させる際の方法として、最も単純な方法は、半導体微粒子堆積物にノズルを用いて過剰の溶液を滴下して浸透させる方法である。この方法を用いる場合においては、例えば半導体微粒子堆積物1mgに対して、固形分濃度が0.01質量%以上である溶液を1μL以上滴下するようにすることができる。これは、滴下・浸透工程を1回のみとした場合には、絶縁性物質形成成分を含む固形分濃度を0.01質量%以上とした溶液を用いてガス感知体を形成すれば、確実に感度向上が見られるからである。
【0063】
これは、滴下・浸透工程を1回のみとした場合、溶液中の固形分濃度が0.01質量%を下回る場合には、得られるガス感知体において、絶縁性物質による半導体微粒子同士や半導体微粒子と触媒金属微粒子との固定効果が得られにくくなるために、感度の向上が得られにくくなる上、使用時の経時劣化が発生する可能性が高くなるからであり、あまり好ましいものではない。特に十分な固定効果を得ようとする場合には、固形分濃度が0.02質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であればさらに好ましい。
ただし、半導体微粒子堆積物における微粒子自体の充填率が高く、また溶液の浸透状態や乾燥条件を選択することにより、より薄い溶液濃度、例えば半導体微粒子堆積物1mgに対して、固形分濃度が0.001質量%以上である溶液を1μL以上滴下するような条件であっても、微粒子同士の固定効果が発現し、感度の向上が得られる場合がある。
【0064】
また、この溶液を半導体微粒子堆積物へ浸透させる際の方法として、インクジェット法等を用いる場合には、溶液中の固形分濃度はより低い値、例えば0.001質量%、あるいはそれ以下であってもよい。これは、溶液の滴下量や滴下(浸透)領域が制御されていることから、同一領域に複数回の浸透工程を行うことができ、結果として、半導体微粒子堆積物中の絶縁性物質形成成分を含む固形分量を増加させて、感度が向上したガス感知体を得ることができるからである。
【0065】
(絶縁性物質形成成分を含む溶液の浸透および固化方法)
絶縁性物質形成成分を含む溶液を半導体微粒子堆積物中に浸透させるには、この溶液を半導体微粒子堆積物上に滴下し、この溶液が半導体微粒子堆積物中に浸透するまで静置すればよい。
上述したように、半導体微粒子の表面を親水性とすることで、半導体微粒子堆積物中の粒子間空隙が表面エネルギーの高い状態となっており、また、絶縁性物質形成成分を含む溶液の表面張力が低く浸透性が高まっているので、絶縁性物質形成成分を含む溶液は容易に半導体微粒子堆積物中の粒子間空隙に浸透することができる。
【0066】
この溶液の滴下量は、半導体微粒子堆積物中の粒子間空隙の合計体積より過剰であればよい。しかしながら、溶液の滴下量が全く制御されずに単に過剰であった場合、過剰の溶液が、半導体微粒子堆積物上に大量に残留してしまい、ガス感知体の特性に悪影響を及ぼす虞があり、また、この過剰の溶液が半導体微粒子堆積物の周囲に流出して、ガスセンサとするための組み立て時に悪影響を及ぼす虞がある。したがって、この溶液についても、マイクロディスペンサ等を用いて、必要量に対してやや過剰な程度に滴下量を制御することが好ましい。
【0067】
また、溶液の滴下量は、半導体微粒子堆積物の位置によらず略同一量であることが好ましい。滴下量が不均一な場合、得られたガス感知体内で特性のばらつきが生じたり、部分的な劣化が進行する虞があるので、好ましくない。
ここで、半導体微粒子堆積物の寸法が溶液の液滴に対して小さければ、半導体微粒子堆積物上に溶液を滴下するのみで、半導体微粒子堆積物全体に溶液が行き渡るので、特段の問題は無い。一方、半導体微粒子堆積物の寸法が大きい場合には、滴下した溶液を半導体微粒子堆積物全体に広げるための手段が必要になる。
【0068】
滴下した溶液を半導体微粒子堆積物全体に広げるための方法としては、スピンコーターを用いることが好ましい。半導体微粒子堆積物をあらかじめスピンコーターにセットした後、溶液を滴下して回転させることにより、回転に伴う遠心力により、溶液を半導体微粒子堆積物全体に広げることができる。
ここで回転数を高くすれば、強い遠心力により、短時間で溶液は広がるが、溶液が半導体微粒子堆積物中に十分に浸透するために必要な量が保持されずに除去されてしまったり、半導体微粒子堆積物の表面で溶液が乾燥固化してしまい、半導体微粒子堆積物内に十分に浸透できないといった問題が発生する虞がある。また、基板保持の点でも、回転数は低い方が好ましい。これらのことから、回転数としては500rpmから2000rpm程度の範囲から選択することが好ましい。
【0069】
なお、溶液の滴下方法として、インクジェット法等の、溶液の滴下量や滴下(浸透)領域を制御された方法を用いる場合には、溶液を半導体微粒子堆積物全体に均一に行き渡らせることができるので、スピンコーター等を用いて溶液を半導体微粒子堆積物全体に広げるための工程は、必ずしも必要ではない。
【0070】
このように、粒子間空隙が絶縁性物質形成成分を含む溶液にて満たされた半導体微粒子堆積物は、図1(C)に示すように、半導体微粒子堆積物5の内部に絶縁性物質形成成分を含む溶液8が浸透し、半導体微粒子堆積物5中の空隙7を埋める形となっている。なお、半導体微粒子堆積物5の上部には、絶縁性物質形成成分を含む溶液8の過剰分8’が存在するが、後述のように、この過剰分は一定の効果を生じさせる可能性がある。
【0071】
次いで、半導体微粒子堆積物中に浸透している絶縁性物質形成成分を含む溶液を、乾燥して固化させる。
この絶縁性物質形成成分を含む溶液は、溶媒としての水や有機溶媒を含むゾルであるから、その乾燥固化方法としては、加熱により、水や有機溶媒を除去すればよい。加熱温度としては、第3の工程で行われる熱処理より低い温度であればよく、溶媒の種類によって選定すればよい。ただし、主たる溶媒の沸点以上の温度で加熱すると、半導体微粒子堆積物中に浸透した溶液の溶媒が急激に気化膨張して、半導体微粒子堆積物の構造を壊す虞があり好ましくない。なお、使用する有機溶媒として比較的低沸点のもの(例えばエタノール:78.3℃、アセトン:56.3℃)を選定した場合には、室温での乾燥固化も可能である。
この乾燥固化により、絶縁性物質形成成分を含む溶液から、水や有機溶媒が除去された、絶縁性物質形成成分の乾燥固化物が得られる。
【0072】
以上のようにして、半導体微粒子堆積物と絶縁性物質形成成分を含む溶液から、半導体微粒子堆積物中に絶縁性物質形成成分の乾燥固化物が存在した、半導体微粒子堆積物複合体を得ることができる。
なお、実際の工程においては、上記に示した絶縁性物質形成成分を含む溶液の浸透および乾燥固化は、その作業内容上、連続した工程で行われることが多い。そこで、本説明ではこれらの工程を連続して説明し、次工程である乾燥固化物の熱分解工程とは分けている。
【0073】
これに対し、物質の状態や形状の変化においては、溶液の浸透と乾燥固化は明確に区分される一方で、溶液の乾燥固化と乾燥固化物の熱分解とは一連の熱処理工程としての連続した内容であり、分けて説明することが難しい。そこで、乾燥固化における物質の状態や形状の変化や、それによる効果については、第3の工程(次工程)である乾燥固化物の熱分解工程を説明した後に、まとめて説明することとする。
【0074】
[第3の工程]
第3の工程は、第2の工程で得られた半導体微粒子堆積物複合体中に含まれる絶縁性物質形成成分の乾燥固化物を熱分解させて絶縁性物質を生成させ、半導体微粒子及び絶縁性物質を含むガス感知体を得る工程である。
【0075】
この絶縁性物質形成成分の乾燥固化物の成分は、絶縁性物質形成成分自体、すなわち金属アルコキシドの加水分解重縮合物であるから、この加水分解重縮合物から結合水やアルコール成分を除去して、金属酸化物とする方法が好ましい。
さらに、乾燥固化物中に、溶媒である水や有機溶媒が残留している場合には,これらも完全に除去することになる。
【0076】
加熱温度の下限としては、これにより得られるガス感知体が適用されるガスセンサの作動温度、または絶縁性物質形成成分の乾燥固化物が熱分解して絶縁性物質が形成される最低温度の内、いずれか高い温度以上であることが好ましい。
加熱温度がガスセンサの作動温度より低い場合、ガスセンサの動作中に絶縁性物質の状態が変化してしまい、その結果、ガス感知体の特性が変化し、場合によっては劣化してしまうので好ましくなく、また、加熱温度が、乾燥固化物が熱分解して絶縁性物質が形成される最低温度より低い場合には、絶縁性物質が形成しないために半導体微粒子や金属触媒微粒子を含む半導体微粒子同士が十分に固定化されず、ガスセンサの動作中に半導体微粒子や金属触媒微粒子を含む半導体微粒子同士の状態が変化してしまい、やはりガス感知体の特性変化や劣化が生じるので好ましくない。
【0077】
一方、加熱温度の上限は、600℃以下であることが好ましく、より好ましくは500℃以下である。半導体ガス感知体が高感度を維持するためには、半導体微粒子間や半導体微粒子と触媒金属粒子間の接点(ネック部)が点接触状態であることが好ましいが、加熱温度が600℃を超えると、半導体微粒子同士や半導体微粒子と触媒金属粒子との間に焼結が生じ、粒子間の接触面積が拡大してガス感知体の感度が低下してしまうので好ましくない。
また、加熱雰囲気は、半導体微粒子、絶縁性物質共に酸化物系であるから、大気中で良い。
このようにして生成された絶縁性物質は、以下に示すように多孔質体となっていると考えられる。
【0078】
次に、第の2工程の後段である乾燥固化工程、および第3の工程である熱分解工程による絶縁性物質形成成分を含む溶液の状態変化とその効果について、検討する。
なお、この絶縁性物質形成成分を含む溶液を乾燥させて絶縁性物質形成成分の乾燥固化物を生成する工程と、乾燥固化物から多孔質体の絶縁性物質を形成するという内容は、乾燥から熱分解という一連の熱処理工程により得られるものであり、この工程中で発生する各変化も、それぞれが連続かつある程度並行して発生すると考えられる。すなわち、以下の説明では、乾燥固化物の生成工程と絶縁性物質形成工程とに工程を分けた上で、それぞれの状態変化を説明しているが、これらは一義的に対応するものではないということである。
【0079】
乾燥固化工程においては、絶縁性物質形成成分を含む溶液から溶媒成分である水や有機溶媒が除去される。溶媒成分の除去により、溶液には体積減少(収縮)が生じる。この体積減少量は、溶媒除去量に比例すると考えられるから、体積減少量は乾燥の進行に伴って連続的に増加すると考えられる。
さらに熱分解工程においても、絶縁性物質形成成分自体の一部が除去されて絶縁性物質が形成されるから、この際にも体積減少が生じると考えられる。
【0080】
ここで、半導体微粒子堆積物中に浸透している溶液において、体積減少が生じた場合を考える。
乾燥の初期段階で、溶液がゾル状であり流動性を有する状態であれば、体積減少分に対応した量の溶液を、外部から補充することが可能である。すなわち、半導体微粒子堆積物の表面に過剰に存在する溶液(例えば、図1(C)における、絶縁性物質形成成分を含む溶液の過剰分8’)が、体積減少した分だけ半導体微粒子堆積物中へ追加浸透していくことが考えられる。この点の確証はないが、得られたガス感知体における半導体微粒子同士の結合強度が予想よりも高いものがあり、結合剤としての絶縁性成分量が予測値より多く存在すると考えられることから、この追加浸透が生じているものと考えられる。
【0081】
一方、乾燥が進み溶液が流動性を失ってゲル化したゲル体となった後も、乾燥に伴う体積減少は進んでいくと考えられる。この状態において、絶縁性物質形成成分と残留している溶媒を含むゲル体内では、ゲル自体の収縮と、ゲル中で気化した溶媒ガスの圧力により微小な気孔が生じ、多孔体化すると考えられる。さらに乾燥が進めば、ゲル体の体積減少に伴って空隙の寸法や量が増し、気孔同士が互いに連通した連通孔状になると考えられる。そして、連通孔が形成されれば空隙中に残留していた気化した溶媒も外部へ除去されるので、ゲル体の乾燥がさらに進行するようになる。
【0082】
さらに、熱分解により体積減少が加わることにより、最終的に得られる絶縁性物質は、連通孔を有する多孔質体になっていると考えられる。
【0083】
ここで、絶縁性物質形成成分を含む溶液の固形分濃度は、例えば滴下・浸透工程を1回のみとした場合0.01質量%以上かつ50質量%以下が好ましいこと、また、固形分の比重は一般に溶媒より大きいことから、絶縁性物質形成成分の乾燥固化物の体積は、この場合で元の溶液に対して数分の1から数万分の1となり、大幅に減少する。さらに、乾燥固化物から絶縁性物質が形成される際には、更なる体積減少が生じる。これにより、絶縁性物質形成成分を含む溶液から絶縁性物質が形成されると、溶液における固形分が最大の50質量%であったとしても、乾燥固化物の体積は、基となる溶液の2ないし4割程度に減少すると考えられる。
【0084】
ここで、第2の工程においては、絶縁性物質形成成分を含む溶液を半導体微粒子堆積物中に浸透させ、溶液が半導体微粒子間または触媒金属微粒子を含む半導体微粒子間の空隙を満たした状態としている。上記のように、絶縁性物質形成成分を含む溶液から絶縁性物質が形成される際に大幅な体積減少が生じると考えられるので、乾燥の初期段階で追加浸透が生じたとしても、溶液が満たされていた微粒子間空隙の大半、少なくとも空隙の60体積%は、形成物であるガス感知体において連通孔として存在することとなり、空隙の残部、すなわち多くとも40体積%の部分に絶縁性物質が形成されることになる。
【0085】
さらに、溶液中の固形分濃度が、好ましい範囲である0.05質量%以上かつ20質量%以下であれば、形成した絶縁性物質の体積は、元となる溶液の体積の0.01から15%程度になると考えられることから、追加浸透を考慮しても、この場合のガス感知体においては、空隙の80体積%以上が連通孔として存在すると考えられる。
すなわち、本実施形態のガス感知体においては、ガス感知体として働く半導体微粒子、あるいは半導体微粒子と触媒金属微粒子以外の大部分は連通孔となっている。よって、被検知ガスは、この連通孔を通ってガス感知体の内部に容易に浸入し拡散することができるので、感度の向上や応答性の改善を行うことができることとなる。
【0086】
また、ゲル体や乾燥固化物が体積減少することにより、ゲル体や乾燥固化物が固着している外部、すなわち半導体微粒子や触媒金属微粒子に対して、引っ張り応力(半導体微粒子同士や半導体微粒子と触媒金属微粒子同士を引き付ける応力)与えることになると考えられる。すなわち、絶縁性物質形成成分から絶縁性物質を形成することで、この応力が発生し、半導体微粒子同士や半導体微粒子と触媒金属微粒子同士の密着性が向上すると考えられる。ここで、半導体微粒子同士の密着性が向上すれば、密着度が不十分な接触点が減少し、ガス感知作用の高い接触点(ネック部)が増加するので、ガス感知特性が向上すると考えられる。
したがって、絶縁性物質形成成分から絶縁性物質を形成することで、ガス感知体の感知特性を向上させることができる。
さらに、半導体微粒子同士や半導体微粒子と触媒金属微粒子同士の接触が強固になることから、抵抗値が低くかつ特性が安定したガス感知体を得ることができる。
【0087】
また、絶縁性物質は多孔質状となって、半導体微粒子および金属触媒微粒子間に存在するとともに、各微粒子自体にも固着している。このような絶縁性物質が存在することにより、半導体微粒子や金属触媒微粒子は相互に固定され、また接触点(ネック部)以外では互いに隔離されている。これにより、ガス感知体が高温に曝された状態となっても、半導体微粒子の粒成長や、半導体微粒子同士および半導体微粒子と金属触媒微粒子との焼結が抑制され、粒子間に形成される接点部分の形状変化も抑制することができる。すなわち、本実施形態の構成とすることにより、ガス感知体の経時的な特性変化を防止することができると考えられる。
【0088】
以上のようにして、半導体微粒子同士が互いに接触した状態で3次元格子状の集積体を形成し、この半導体微粒子間の一部に絶縁性物質が充填されるとともに、この絶縁性物質により、半導体微粒子同士が固定されており、さらに、半導体微粒子間の絶縁性物質が存在しない部分は、互いに連通する気孔となった、本実施形態のガス感知体を得ることができる。
【0089】
また、半導体微粒子に触媒金属微粒子が添加されている場合であれば、半導体微粒子同士、および半導体微粒子と触媒金属微粒子とが互いに接触した状態で3次元格子状の集積体を形成し、この半導体微粒子間および半導体微粒子と触媒金属微粒子間の一部に絶縁性物質が充填されるとともに、この絶縁性物質により、半導体微粒子同士や半導体微粒子と触媒金属微粒子とが固定されており、さらに、半導体微粒子間および半導体微粒子と触媒金属微粒子間の絶縁性物質が存在しない部分は、互いに連通する気孔となった、本実施形態のガス感知体を得ることができる。
【0090】
図1(D)に示すように、触媒金属微粒子が添加されたガス感知体9は、半導体微粒子2同士、および半導体微粒子2と触媒金属微粒子3とが互いに接触した状態で3次元格子状の集積体10を形成し、この半導体微粒子2間および半導体微粒子2と触媒金属微粒子3間に絶縁性物質11が充填されるとともに、この絶縁性物質11により、半導体微粒子2同士や半導体微粒子2と触媒金属微粒子3とが固定されている。さらに、図2に示すように、絶縁性物質11は多孔質状となっており、この空孔部12が互いに連通する気孔となっている。
【0091】
このようにして得られたガス感知体に、測定用の電極及び加熱用ヒータを取り付け、さらに、パッケージング及びケーシングを行うことにより、感度が高くかつ耐久性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0092】
これらのガス感知体では、本実施形態のガス感知体の製造方法の特徴である、未焼結の半導体微粒子堆積物を絶縁性物質を用いて固定するという工程を経ることにより、従来のガス感知体と比べて、以下の点において優れた特徴を有する。
【0093】
(1)本製造方法においては、半導体微粒子堆積物の形成時の加熱温度、及び絶縁性物質形成時の加熱温度も、半導体微粒子同士や半導体微粒子と触媒金属粒子との間に焼結が生じない温度である600℃以下である。したがって、半導体微粒子同士、および半導体微粒子と触媒金属微粒子との接点部分には、焼結による粒子間結合や接触面積の拡大は生じていない。
これにより、半導体微粒子同士、および半導体微粒子と触媒金属微粒子との接点部分は、高感度である点接触状態が維持される。すなわち、点接触状態であれば、その接触部分の導電性が被検知ガスに対して敏感に変化するので、高感度のガス感知体を得ることができる。
【0094】
(2)絶縁性物質形成成分を含む溶液から絶縁性物質を形成する際において、その体積は大きく減少する。この体積減少により、半導体微粒子間の空隙に存在する絶縁性物質は収縮し、半導体微粒子同士を強く引き付けることとなる。
これにより、接触が不十分であった半導体微粒子同士も確実に接触するようになり、半導体微粒子同士が互いに接触する接触部分の総数を増加させるとともに、その接続自体も強化することができる。すなわち、半導体ガスセンサの感度向上に最も寄与する半導体微粒子同士の接触部分(ネック部)の総数を増加させるとともに、その接触状態を安定化することができるので、被検知ガスに対する特性変化量も増大させることができ、被検知ガスに対する感度を増大させることができる。
このように、半導体微粒子同士や半導体微粒子と触媒金属微粒子同士の接触を確実かつ強固にすることにより、抵抗値が低くかつ特性が安定したガス感知体を得ることができる。
【0095】
(3)絶縁性物質形成成分を含む溶液と比べて生成する絶縁性物質の体積が大きく減少するので、半導体微粒子間、あるいは半導体微粒子と触媒金属微粒子間の大部分は空隙となる。この空隙は、除去された水や有機溶媒の逃げ道となることからも判るように、連通孔となっている。よって、被検知ガスは、この連通孔を通ってガス感知体の内部に容易に浸入し拡散することができるので、感度の向上や応答性の改善を行うことができる。
【0096】
「ガス感知体の構造」
次に、本実施形態のガス感知体の製造方法により得られたガス感知体の構造について説明する。
このガス感知体の基本構造は、半導体微粒子同士が互いに接触するように格子状に配列された、3次元構造の集積体であり、この集積体中の半導体微粒子間の空隙部分の一部を占有するように絶縁性物質が充填され、さらに、これら半導体微粒子間の空隙部分のうち絶縁性物質が存在しない部分が互いに連通する気孔とされた構造である。
【0097】
図3は、本実施形態のガス感知体の基本構造の一例を示すものであって、触媒金属微粒子が添加されている場合のガス感知体を示す模式図、図4は図3のB領域の拡大図である。なお、以下にも述べているが、触媒金属微粒子は必ずしも必要とするものではない。
【0098】
図3において、ガス感知体9は、半導体微粒子2同士、および半導体微粒子2と触媒金属微粒子3とが、互いに焼結等により広い接触面積で結合されることなく、互いに点接触した状態で3次元格子状の集積体10を形成しており、この半導体微粒子2間および半導体微粒子2と触媒金属微粒子3間の空隙部分に絶縁性物質11が充填されるとともに、この絶縁性物質11により、半導体微粒子2同士や半導体微粒子2と触媒金属微粒子3とが固定されている。さらに、図4に示すように、絶縁性物質11は多孔質状となっており、この空孔部12が互いに連通して、集積体10中に3次元の網目状の気孔を形成している。
【0099】
この半導体微粒子2としては、被検知ガスの吸着や脱着により抵抗値が変化する半導体材料であればよく、無機酸化物微粒子が好適である。
この無機酸化物微粒子としては、例えば、スズ、アンチモン、鉄、タングステン、亜鉛等の金属を成分とする金属酸化物微粒子が好適に用いられ、特に、センサ材料として広く用いられている酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)等、被検知ガスに対して感度の高いものを選択すれば良い。
【0100】
この半導体微粒子の平均一次粒子径は、3nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、より好ましくは3nm以上かつ30nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ15nm以下である。また、形状は球状に近いことが好ましい。
形状が球状に近く、平均一次粒子径が3nm以上かつ100nm以下であれば、半導体微粒子同士が接触する面積を小さくすることができ、また単位体積当たりの粒子数も多くすることができることから半導体微粒子同士の接触点も多くなり、高感度化が可能になるからである。
【0101】
この金属酸化物微粒子は、水熱合成法にて得られたものであることが好ましい。
この水熱合成法は、金属塩を含む水溶液を、高温・加圧下にて反応させて金属酸化物微粒子を合成する方法であり、表面の親水性が高く、凝集も少なく、粒径が均一で微細な金属酸化物微粒子を容易に得ることができる。
この半導体微粒子2は、必要に応じて、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の測定感度を向上させる触媒金属微粒子3を添加しても良い。この触媒金属微粒子は、集積体10中に均一に分散することが好ましいことから、その粒子径は半導体微粒子2の粒子径を下回っていることが好ましい。
【0102】
絶縁性物質11は、絶縁性を有し、半導体微粒子2同士あるいは触媒金属微粒子3を含む半導体微粒子2同士を固定する機能を有すること、常温からガスセンサの作動温度以上の温度範囲において安定であること、という特性を有するものであればよい。なお、ガスセンサの作動温度とは、ガス検知時にガス感知体が加熱される温度であり、測定ガスの種類やガス感知体の特性により、通常200℃から400℃の範囲で選択される。
【0103】
この絶縁性物質11としては、半導体微粒子2の特性を劣化させることがない点、及び400℃程度以下で安定して動作する点を考慮すると、酸化物系の絶縁性物質であることが好ましい。
この酸化物系の絶縁性物質としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ジルコニウム、チタン、アンチモン等を含む金属酸化物、あるいはこれらの元素を含む複合金属酸化物が好適である。
この酸化物系の絶縁性物質は、通常、500℃ないしは1000℃以上まで安定であり、有機金属化合物(有機ケイ素化合物を含む)である金属アルコキシド(アルコキシシランを含む)の加水分解物を絶縁性物質形成成分とし、これを加熱することにより容易に得ることができる。
【0104】
また、この絶縁性物質11は、多数の連通した気孔12を有する多孔体となっている。この気孔25の平均径は、十分な測定結果が得られていないが、半導体粒子径よりも十分に小さいと考えられることから、1nm以下であると予想される。また、この気孔5の平均径は、絶縁性物質24を形成する際の条件を制御することにより変更可能である。
【0105】
また、この絶縁性物質11は、半導体微粒子2および金属触媒微粒子3を含む半導体微粒子2自体に固着している。このように、絶縁性物質11が粒子間に存在することにより、半導体微粒子2や金属触媒微粒子3は相互に固定され、また各粒子の接触点(ネック部)以外では互いに隔離された構造となっている。
このように、各粒子同士が固定されまた隔離されていることから、ガス感知体9が高温に曝された状態となっても、半導体微粒子2や金属触媒粒子3の物質移動が抑制される。したがって、半導体微粒子2の粒成長や、半導体微粒子2同士および半導体微粒子2と金属触媒微粒子3との焼結が抑制され、粒子間に形成される接点部分の形状変化も抑制することができる。すなわち、絶縁性物質11が半導体微粒子2や金属触媒微粒子3を固定することにより、ガス感知体の経時的な特性変化を防止することができると考えられる。
【0106】
ここで、集積体23は、半導体微粒子22の形状が球状の場合に半導体微粒子22同士の接触部分の面積や形状を最適化するためには、集積体23における半導体微粒子22と絶縁性物質24との合計量に対する半導体微粒子22の比率は、30体積%以上が好ましく、より好ましくは50体積%以上である。半導体微粒子22の量が30体積%未満の場合は、絶縁性物質24の量が過大となるために半導体微粒子22同士の良好な接触状態が保てなくなり、半導体微粒子22同士の接触部分の面積が減少するので好ましくない。
また、同様の条件下において、集積体23における半導体微粒子22と絶縁性物質24との合計量に対する絶縁性物質24の比率は、1体積%以上が好ましく、より好ましくは3体積%以上である。絶縁性物質24の量が1体積%未満の場合は、絶縁性物質24により半導体微粒子22を固定する効果がほとんど得られず、半導体微粒子22同士の接触部分の面積が減少するので好ましくない。
【0107】
以上説明したように、本実施形態のガス感知体は、従来の半導体ガスセンサに用いられるガス感知体と比べて、次の様な特徴を有している。
(1)集積体を構成する半導体微粒子同士および半導体微粒子と金属触媒微粒子とは互いに接触しているのみで、焼結による粒子間結合や接触面積の拡大等がない。すなわち、半導体微粒子同士および半導体微粒子と金属触媒微粒子との接触部分の面積は非常に小さなもの(点接触状態)となり、被検知ガスに対して、その導電性が敏感に変化する。
これにより、ガス感知体1は被検知ガスに対して高い感度を示すこととなり、よって、被検知ガスを高感度にて検知することができる。
【0108】
(2)半導体微粒子や金属触媒微粒子は、絶縁性物質により相互に固定され、また各粒子の接触点(ネック部)以外では互いに隔離された構造となっている。
これにより、ガス感知体が高温に曝されても、半導体微粒子の粒成長や、半導体微粒子同士および半導体微粒子と金属触媒微粒子との焼結が抑制され、粒子間に形成される接点部分の形状変化も抑制することができので、ガス感知体の経時的な特性変化を防止することができる。
【0109】
(3)集積体内に連通する気孔が網目状に張り巡らされているので、ガス感知体に被検知ガスが触れた場合、この被検知ガスがガス感知体の表面から連通する気孔を通じて集積体内部に速やかに入り込み、内部の半導体微粒子と作用することとなる。
これにより、ガス感知体の全体でガス感知が行われ、かつ被検知ガスの流入が速やかに行われることから、感度が高く、かつ応答性に優れたガス感知体を得ることが可能になる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0111】
「実施例1」
(ガス感知体用基板の作製)
縦10mm、横10mm、厚み0.2mmの石英基板の表面に、金からなる縦6mm、横4mm、電極幅1mmの櫛形電極を間隔0.5mmにて対向させた検出用電極を蒸着法により形成し、ガス感知体用基板とした。
なお、通常のガス感知体においては、石英基板の裏面にガス感知体加熱用のヒータを形成するが、本実施例及び比較例では、ガス感知体の加熱を外部ヒータにより行ったため、ヒータの形成は行なっていない。
【0112】
(酸化スズ微粒子分散液の作製)
塩化第二スズ(SnCl・5HO)670質量部を、15℃に保持した熱水3000質量部に溶解した後、25%のアンモニア水溶液200質量部を混合しながら添加した。得られた沈殿物を濾過し、脱イオン水で洗浄後、脱イオン水を加えて1質量%の濃度に調整し、水熱合成用原料とした。
この水熱合成用原料をオートクレーブに入れて350℃にて5時間加熱し、水熱合成生成物である酸化スズ微粒子Aを含む反応液を得た。
この酸化スズ微粒子Aの粒子径を透過型電子顕微鏡により測定した結果、平均一次粒子径は約10nmであった。
【0113】
次いで、この反応液から限外濾過法により酸化スズ微粒子Aを分離した後、脱イオン水で洗浄し、その後、超音波分散装置を用いて純水中に0.2質量%の濃度になるように分散させ、酸化スズ微粒子分散液Aを得た。
【0114】
(シリカゾル溶液の作製)
テトラメトキシシラン TSL8114(GE東芝シリコーン社製)2.66g、メタクリル基含有シランカップリング剤 TSL8370(GE東芝シリコーン社製)0.20g、アルコール系溶媒 アルコゾールP−9(甘粕化学産業社製)84.34gを混合し、得られた混合溶液を攪拌しながら、1mol/L硝酸0.10gを純水6gに混合した希硝酸を滴下し、そのまま12時間攪拌した。
得られた溶液を、エチルアルコールにより希釈して固形分濃度(シリカ換算)を1%に調整し、シリカゾル溶液Aとした。
【0115】
(ガス感知体の作製)
酸化スズ微粒子分散液Aを30μL採取し、ガス感知体用基板の櫛形電極上に滴下した後、100℃にて3時間加熱し、ガス感知体用基板上に酸化スズ微粒子Aからなる半導体微粒子堆積物Aを形成した。
【0116】
次いで、この半導体微粒子堆積物Aが形成された基板を、スピンコーター上で60℃に加熱し、1000回転で回転させながら、半導体微粒子堆積物Aの上にシリカゾル溶液Aを1mL滴下し、半導体微粒子堆積物A中にシリカゾル溶液Aを浸透させた半導体微粒子堆積物複合体Aを得た。
次いで、この半導体微粒子堆積物複合体Aが形成された基板を、大気雰囲気中、500℃にて1時間加熱し、実施例1のガス感知体Aを得た。
【0117】
得られたガス感知体の抵抗値を下記のようにして測定し、抵抗値の測定結果を基にして、ガス感知体を評価した。
(抵抗値の測定)
ガス感知体の抵抗値は、次のようにして測定した。測定装置を図5に、測定回路を図6に示す。
測定装置は、ガス感知体21を収納し保持する内径30mmの石英製ガラス菅22とヒータ部23とからなる環状電気炉24と、ガス感知体21の抵抗値を測定する測定回路25とから構成されており、この環状電気炉33を測定温度まで昇温し、炉内に被測定ガス26(27)を導入したときのガス感知体21の抵抗値を測定した。
【0118】
また測定回路25は、ガス感知体21と固定抵抗器31とを直列に接続したものであって、ガス感知体21の入力側端子32と固定抵抗器31の出力側端子34との間に一定の電圧(1V)を印加し、固定抵抗器31の入力側端子33と出力側端子34との間の電圧を測定することにより、印加電圧(1V)と固定抵抗器31の両端の電圧および固定抵抗器31の抵抗値から、ガス感知体の抵抗値を算出した。なお、電圧測定にはデジタルマルチメーターを使用した。
【0119】
(感度の測定)
ガス感知体21の感度測定は、次のようにして行った。
まず、環状電気炉24内に固定したガス感知体21を300℃に保持した状態で、この環状電気炉24内に標準ガス27を導入し、このガス感知体21の抵抗値Raを測定した。標準ガス27としては、酸素を20体積%、窒素を80体積%含有し、露点が−70℃以下に制御された混合ガスを用いた。また、この標準ガス27の導入量は、毎秒10mLとした。
【0120】
次いで、この環状電気炉24内にサンプルガス26を導入し、抵抗値が安定する250秒後のガス感知体21の抵抗値Rgを測定した。サンプルガス26としては、標準ガス27に硫化水素を濃度3ppmとなるように混合した硫化水素含有混合ガスを用い、このサンプルガス26の導入量は毎秒10mLとした。
最後に、再び標準ガス34を導入し、ガス感知体21の抵抗値が回復し、測定に異常がないことを確認した。
得られた抵抗値Ra及び抵抗値Rgの値より、これらの比Ra/Rgを求め、この比Ra/Rgをガス感知体21の感度とした。
測定の結果、このガス感知体Aの感度は325であり、高い感度を有していた。
【0121】
(安定性の測定)
ガス感知体21の安定性測定は、次のようにして行った。
まず、環状電気炉24内に固定したガス感知体21を300℃に保持した状態で、この環状電気炉24内に標準ガス27を導入し、このガス感知体21の抵抗値Raを測定した。次いで、この環状電気炉24内にサンプルガス26を導入し、導入後250秒以上経過してから、ガス感知体21の抵抗値Rgを5分間連続して測定した。なお、使用した標準ガス及びサンプルガスの種類と導入量は、感度の測定に用いたものと同一とした。
得られた抵抗値Rgの連続測定値から、Rg値の平均値Rmとばらつき(標準偏差)Rsdを求め、これらの値と抵抗値Raの値より、Rsd/(Rm−Ra)を求め、この値Rsd/(Rm−Ra)をガス感知体21の安定性評価値とした。
測定の結果、このガス感知体Aの安定性評価値は0.007であり、安定と判断した。
【0122】
(経時劣化の測定)
ガス感知体21の経時劣化測定は、次のようにして行った。ガス感知体21を、電気炉中で300℃の乾燥空気中に保持しておき、一定時間保持後のガス感知体21について、上記「感度の測定」と同様の方法を用いてその感度を測定した。保持時間は、1日間及び500日間とした。
500日保持後の感度S500を1日保持後の感度Sと比較し、その劣化度S500/Sを求め、この値S500/Sをガス感知体の経時劣化度とした。
測定の結果、このガス感知体Aの経時劣化評価度は0.97であり、劣化は微少と判断した。
以上の結果をまとめて、表1に示す。
【0123】
「実施例2」
半導体微粒子堆積物の形成温度を180℃とした以外は実施例1と同様にして、実施例2のガス感知体Bを得た。
得られたガス感知体Bの感度、安定性及び経時劣化を、実施例1と同様の方法により測定した。測定の結果、このガス感知体Bの感度は435、安定性評価値は0.005、経時劣化評価度は0.98であった。これらの結果より、このガス感知体Bは高い感度を有し、安定であり、経時劣化は微少であると判断した。
以上の結果をまとめて、表1に示す。
【0124】
「比較例1」
実施例1と同様にして、ガス感知体用基板、酸化スズ微粒子分散液A、シリカゾル溶液Aを作製した。
得られた酸化スズ微粒子分散液Aを30μL採取し、ガス感知体用基板の櫛形電極上に滴下した後、650℃にて3時間加熱し、ガス感知体用基板上に酸化スズ微粒子からなる半導体微粒子焼結体Cを形成した。
【0125】
次いで、この半導体微粒子焼結体Cが形成された基板を、スピンコーター上で60℃に加熱し、1000回転で回転させながら、半導体微粒子焼結体Cの上にシリカゾル溶液Aを1mL滴下し、半導体微粒子焼結体C中にシリカゾル溶液Aを浸透させた半導体微粒子堆積物複合体Aを得た。
次いで、この半導体微粒子焼結体複合体Cが形成された基板を、大気雰囲気中、500℃にて1時間加熱し、比較例1のガス感知体Cを得た。
【0126】
得られたガス感知体Cの感度、安定性及び経時劣化を、実施例1と同様の方法に測定した。測定の結果、このガス感知体Cの感度は48、安定性評価値は0.004、経時劣化評価度は0.99であった。これらの結果より、このガス感知体Cは、実施例に比べて感度が低いことがわかった、また、安定性と経時劣化は、実施例と大幅な差異はなかった。
以上の結果をまとめて、表1に示す。
【0127】
「比較例2」
比較例1と同様にして、ガス感知体用基板上に酸化スズ微粒子からなる半導体微粒子焼結体Cを形成し、この半導体微粒子焼結体Cをそのまま比較例2のガス感知体Dとした。したがって、比較例2のガス感知体Dでは、シリカゾル溶液の浸透および加熱処理を行っていない。
【0128】
得られたガス感知体Dの感度、安定性及び経時劣化を、実施例1と同様の方法に測定した。測定の結果、このガス感知体Bの感度は64、安定性評価値は0.014、経時劣化評価度は0.84であった。これらの結果より、このガス感知体Dは、実施例に比べて感度が低く、また、安定性と経時劣化も実施例に比べて低下していた。
以上の結果をまとめて、表1に示す。
【0129】
「比較例3」
(酸化スズ微粒子分散液の作製)
実施例1と同様の水熱合成法により、酸化スズ微粒子Aを含む反応液を得た。
次いで、この反応液から限外濾過法により酸化スズ微粒子Aを分離した後、脱イオン水で洗浄し、その後、超音波分散装置を用いて純水中に2.0質量%の濃度になるように分散させ、酸化スズ微粒子分散液Bを得た。
【0130】
(シリカゾル溶液の作製)
テトラメトキシシラン TSL8114(GE東芝シリコーン社製)2.66g、メタクリル基含有シランカップリング剤 TSL8370(GE東芝シリコーン社製)0.20g、アルコール系溶媒 アルコゾールP−9(甘粕化学産業社製)84.34gを混合し、得られた混合溶液を攪拌しながら、1mol/L硝酸0.10gを純水6gに混合した希硝酸を滴下し、そのまま12時間攪拌した。
得られた溶液を、エチルアルコールにより希釈して固形分濃度(シリカ換算)を10%に調整し、比較例3用のシリカゾル溶液Bとした。
【0131】
(ガス感知体の作製)
酸化スズ微粒子分散液Bを10mL分取し、これにシリカゾル溶液Bを8mL加えて混合し、シリカゾル含有酸化スズ微粒子分散液Eを得た。
シリカゾル含有酸化スズ微粒子分散液Eを30μL採取し、これを実施例1と同様にして作製したガス感知体用基板の櫛形電極上に滴下した後、500℃にて1時間加熱し、比較例3のガス感知体Eを得た。
【0132】
得られたガス感知体Eの感度、安定性及び経時劣化を、実施例1と同様の方法に測定した。測定の結果、このガス感知体Eの感度は32、安定性評価値は0.007、経時劣化評価度は0.95であった。これらの結果より、このガス感知体Eは、実施例に比べて感度が大幅に低下していた。一方、安定性と経時劣化は、実施例と大幅な差異はなかった。
以上の結果をまとめて、表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
表1によれば、実施例1、2では、ガス感知体の感度は300以上と高く、安定性評価値は0.007以下、経時劣化評価度は0.97以上と高い安定性と低劣化性を示しており、ガス感知体としての特性に優れていることが分かった。
【0135】
一方、比較例1では、実施例に比べて感度が低下していた。これは、予め酸化スズ微粒子を650℃で焼結させているために、酸化スズ微粒子同士の間に焼結が生じ、粒子間の接触面積が拡大してガス感知体の感度が低下したからと考えられる。
また、比較例2では、実施例に比べて感度が低いだけでなく、安定性と経時劣化も低下していた。これは、予め酸化スズ微粒子を650℃で焼結させているために、ガス感知体の感度が低下している上に、絶縁性物質が無いために、ガス感知体が高温に曝された際に、酸化スズ微粒子の粒成長や酸化スズ微粒子同士の焼結が発生して粒子間に形成される接点部分の形状が変化し、ガス感知体が経時劣化したからと考えられる。
また、比較例3では、実施例に比べて感度が大きく低下していた。これは、予め酸化スズ微粒子にシリカゾルを添加していることから、酸化スズ微粒子表面にシリカ膜が形成しており、ガス感知体形成時において酸化スズ微粒子同士の接触が不十分になっているからと考えられる。
【符号の説明】
【0136】
1 半導体微粒子を含む分散液
2 半導体微粒子
3 触媒金属微粒子
4 分散媒
5 半導体微粒子堆積物
6 基板
7 空隙
8 絶縁性物質形成成分を含む溶液
8’ 絶縁性物質形成成分を含む溶液の過剰分
9 ガス感知体
10 集積体
11 絶縁性物質
12 空孔部
21 ガス感知体
22 石英製ガラス菅
23 ヒータ部
24 環状電気炉
25 測定回路
26 標準ガス
27 サンプルガス
31 固定抵抗器
32 ガス感知体の入力側端子
33 固定抵抗器の入力側端子
34 出力側端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体微粒子を含む分散液から分散媒を除去することにより、未焼結状態の半導体微粒子堆積物を生成し、次いで、この半導体微粒子堆積物に絶縁性物質形成成分を含む溶液を浸透させ、次いで、前記絶縁性物質形成成分から絶縁性物質を生成させ、前記半導体微粒子及び前記絶縁性物質を含むガス感知体を得ることを特徴とするガス感知体の製造方法。
【請求項2】
前記分散液は、水系分散液であることを特徴とする請求項1記載のガス感知体の製造方法。
【請求項3】
前記半導体微粒子は、水熱合成法により生成された金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1または2記載のガス感知体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のガス感知体の製造方法により得られたことを特徴とするガス感知体。
【請求項5】
請求項4記載のガス感知体を備えてなることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−95153(P2011−95153A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250531(P2009−250531)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】