説明

ガス成分の分離方法及びガス成分の分離装置

【課題】窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなるガスを、酸素と、窒素酸化物と、反磁性体成分とに分離することのできるガス成分の分離方法及びガス成分の分離装置を提供する。
【解決手段】窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなる排ガスが流通する排気管6と、排気管6に設けられた6つの管路9a〜9fと、排気管6に沿って設けられた電磁石11とを備え、各管路9a〜9fは、電磁石11の磁界によって排ガス中の常磁性体成分が力を受ける方向に延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス成分の分離方法及びガス成分の分離装置に係り、特に、各ガス成分の磁化率の違いを利用して各ガス成分を分離する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素、一酸化窒素及び二酸化窒素は、気体ではまれな常磁性体である。このような特性を活用して、燃焼機関、特に内燃機関の排ガス処理において排ガスを冷却して磁化率を上げ、窒素酸化物及び酸素を磁力で分離し、燃焼室に還流させる技術が、特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平1−178713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の排ガス処理装置では、酸素及び窒素酸化物を分離せずに酸素及び窒素酸化物を共に燃焼室に戻すので、燃焼室内における酸素濃度が高くなり、急峻な燃焼が生じて内燃機関の運転状態が不安定になるといった問題点があった。
【0005】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなるガスを、酸素と、窒素酸化物と、反磁性体成分とに分離することのできるガス成分の分離方法及びガス成分の分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るガス成分の分離方法は、窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなるガスを、前記窒素酸化物と、前記酸素と、前記反磁性体成分とに分離するガス成分の分離方法であって、前記ガスの流通方向に沿って磁石部材を設ける工程と、前記ガスの流通方向に沿って複数の管路を設ける工程と、前記ガスを流通させる工程と
を含み、前記管路は、前記磁石部材の磁界によって前記ガス中の常磁性体成分が力を受ける方向に向かって延びる。窒素酸化物及び酸素の磁化率はそれぞれ大きく異なることより、窒素酸化物及び酸素が磁界から受ける力が異なるので、窒素酸化物及び酸素が流通管内を流通する際に、窒素酸化物及び酸素はそれぞれ、異なる管路に入り込む。ここで、反磁性体成分とは、窒素及び二酸化炭素などの不活性ガスを大量に含む成分のことである。
前記磁石部材の磁界強度は、前記流通方向に沿って調節可能であり、前記ガスの流通速度を検出する工程と、前記流通速度に基づいて、前記流通方向に沿って前記磁界強度を調整する工程とを含んでもよい。
前記磁石部材の磁界強度は、前記流通方向に沿って調節可能であり、前記ガスの温度を検出する工程と、前記ガスの温度に基づいて、前記流通方向に沿って前記磁界強度を調整する工程とを含んでもよい。
前記ガスを前記磁石部材に沿って流通させる前に、前記ガスを冷却する工程を含んでもよい。
前記ガスは、内燃機関で発生した排ガスであり、前記窒素酸化物と、前記酸素と、前記反磁性体成分とを前記内燃機関の吸気に個別に戻してもよい。
【0007】
この発明に係るガス成分の分離装置は、窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなるガスを、前記窒素酸化物と、酸素と、反磁性体成分とに分離するガス成分の分離装置であって、前記ガスが流通する流通管と、該流通管に設けられた複数の管路と、前記流通管に沿って設けられた磁石部材とを備え、前記管路は、前記磁石部材の磁界によって前記ガス中の常磁性体成分が力を受ける方向に向かって延びる。窒素酸化物及び酸素の磁化率はそれぞれ大きく異なることより、窒素酸化物及び酸素が磁界から受ける力が異なるので、窒素酸化物及び酸素が流通管内を流通する際に、窒素酸化物及び酸素はそれぞれ、異なる管路に入り込む。
前記磁石部材は電磁石であり、前記流通管内の前記ガスの流通速度を検出する流通速度検出手段と、前記流通管に沿って前記電磁石の磁界強度を調整する磁界強度調整手段とを備え、前記磁界強度調整手段は、前記ガスの流通速度に基づいて、前記流通管に沿って前記電磁石の磁界強度を調整してもよい。
前記磁石部材は電磁石であり、前記流通管を流通する前記ガスの温度を検出する温度検出手段と、前記流通管に沿って前記電磁石の磁界強度を調整する磁界強度調整手段とを備え、前記磁界強度調整手段は、前記ガスの温度に基づいて、前記流通管に沿って前記電磁石の磁界強度を調整してもよい。
前記管路とは反対方向に向かって延びる第2管路が前記流通管に設けられていてもよい。
前記流通管は、少なくとも部分的に非直管状部分を含んでもよい。
前記磁石部材の上流において、前記流通管には、冷却器が設けられていてもよい。
前記ガスは、内燃機関で発生した排ガスであり、前記流通管は、一端が前記内燃機関に接続された排気管であり、該排気管の他端は、前記管路側に位置する第1枝管と、前記管路とは反対側に位置する第2枝管とに分岐されており、前記第1枝管は、前記内燃機関の吸気手段に接続されていてもよい。
前記複数の管路はそれぞれ、前記内燃機関の外部へ開放した排気枝管と、前記管路に入り込んだ排ガスが前記排気枝管を介して排出される形態と、前記管路に入り込んだ排ガスが前記管路を流通する形態とを切り替える切替手段とを有し、前記ガス成分の分離装置は、前記切替手段のそれぞれの切替動作を制御する切替制御手段を有してもよい。
前記複数の管路はそれぞれ、該管路を流通する排ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段を有し、前記切替制御手段は、各酸素濃度検出手段によって検出された酸素濃度に基づいて、各切替手段を動作させてもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなるガスの流通方向に沿って、磁石部材及び複数の管路が設けられ、該複数の管路は、磁石部材の磁界によってガス中の常磁性体成分が力を受ける方向に向かって延びていることにより、窒素酸化物及び酸素の磁化率の違いに基づいて、窒素酸化物及び酸素がそれぞれ異なる管路に流入すると共に、反磁性体成分は、磁石部材の磁界によって常磁性体成分とは反対方向に力を受けて移動するので、当該ガスを、酸素と、窒素酸化物と、反磁性体成分とに分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
この実施の形態1に係るガス成分の分離装置が設けられた内燃機関の構成図を図1に示す。ディーゼルエンジン1のシリンダブロック2には、4つの気筒内に燃焼室2a,2b,2c,2dが設けられ、これらに連通するように吸気マニフォルド3及び排気マニフォルド4が設けられている。吸気マニフォルド3には、空気が流通する吸気管5が接続され、排気マニフォルド4には、燃焼室2a,2b,2c,2dで発生した排ガスが流通する排気管6が接続されている。ここで、吸気マニフォルド3及び吸気管5は、吸気手段を構成する。吸気管5には混合器14が設けられ、排気管6には、図示しないラジエータの冷却水によって排気管6内を流通する排ガスを冷却するための冷却器12が設けられている。
【0010】
排気管6には、冷却器12の下流において、6本の管路9a,9b,9c,9d,9e,9fが、間隔を空けて排気管6に垂直に設けられている。6本の管路9a〜9fはそれぞれ互いに平行に同じ方向に延びている。尚、管路9a〜9fが延びる方向については後述する。各管路9a〜9fにはそれぞれ、ディーゼルエンジン1の外部へ開放する排気枝管8a,8b,8c,8d,8e,8fが設けられている。また、各管路9a〜9fには、各管路9a〜9f内に入り込んだ排ガスが各排気枝管8a〜8fを介して排出される形態と、各管路9a〜9fに入り込んだ排ガスが各管路9a〜9fを流通する形態とを切り替えるための切替手段である三方弁10a,10b,10c,10d,10e,10fが設けられている。排気管6の下流側端部は、第1枝管7a及び第2枝管7bに分岐されており、第1枝管7aは管路9a〜9f側に位置する枝管であり、第2枝管7bは管路9a〜9fとは反対側に位置する枝管である。第1枝管7a及び6本の管路9a〜9fはそれぞれ、循環路13に接続され、循環路13は混合器14に接続されている。すなわち、第1枝管7a及び6本の管路9a〜9fはそれぞれ、循環路13及び混合器14を介して、吸気手段に接続されている。一方、第2枝管7bは、ディーゼルエンジン1の外部に開放されている。
【0011】
冷却器12の下流から第1枝管7aまでにかけて、排気管6に沿って磁石部材である電磁石11が設けられている。電磁石11は7つの電磁石11a、11b、11c,11d,11e,11f,11gに分割されており、それぞれが、冷却器12の下流及び管路9a間と、管路9a及び9b間と、管路9b及び9c間と、管路9c及び9d間と、管路9d及び9e間と、管路9e及び9f間と、管路9f及び第1枝管7a間とにおいて、排気管6を挟むように2個ずつ設けられている。
【0012】
また、ディーゼルエンジン1は、制御装置であるECU15を備えている。三方弁10a〜10f及び電磁石11a〜11gはそれぞれ、ECU15に電気的に接続されている。ここで、ECU15は、ディーゼルエンジン1の制御装置であると共に、三方弁10a〜10fの切替動作を制御する切替制御手段を兼務する。また、ECU15は、ディーゼルエンジン1の稼動状態、例えば回転数に基づいて、排気管6内を流通する排気ガスの流通速度を推測することができるので、流通速度検出手段も兼務する。さらに、ECU15は、電磁石11a〜11gそれぞれの磁界強度を調整する磁界強度調整手段も兼務する。
【0013】
次に、この実施の形態1に係るガス成分の分離装置が設けられた内燃機関の動作について説明する。
ディーゼルエンジン1が始動すると、吸気管5内を流通する空気は、吸気マニフォルド3を介して各燃焼室2a〜2dに吸入される。各燃焼室2a〜2dに吸入された空気は、図示しないピストンによって圧縮された後、図示しないインジェクションノズルから各燃焼室2a〜2dに燃料が噴射されて燃焼し、排ガスとなって各燃焼室2a〜2dから排気マニフォルド4に排出される。排気マニフォルド4に排出された排ガスは、排気管6を流通する。その際、排ガスは、冷却器12において冷却水と熱交換することにより冷却される。排ガス中の各成分は、温度が低いほど磁界による影響が大きいため、冷却器12を設けることにより、次に説明する各成分の分離性能が向上する。
【0014】
冷却器12によって冷却された排ガスは、排気管6内を流通する際に、電磁石11a〜11gの磁界の影響を受ける。一般に、排ガスには、一酸化窒素及び二酸化窒素等からなる窒素酸化物、窒素、酸素、一酸化炭素及び二酸化炭素等が含有されている。窒素酸化物及び酸素は常磁性体成分であるのに対し、窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素をはじめとするその他の成分は反磁性体成分である。すると、電磁石11a〜11gの磁界の作用により、窒素酸化物及び酸素が磁化される方向と、その他の成分が磁化される方向とが逆になる。これにより、図2に示されるように、一点鎖線で示された電磁石11a〜11gの磁界の作用により、常磁性体成分である窒素酸化物及び酸素(丸印)は、管路9a〜9f方向(矢印A方向)に力を受け、排気管6内における流通方向(矢印B方向)とベクトル合成されて、矢印Cの方向に移動するようになる。前述したように、管路9a〜9fは、排気管6に垂直に互いに平行に延びているが、その延びる方向は、電磁石11a〜11gの磁界の作用によって常磁性体成分が力を受ける方向、すなわち矢印A方向である。一方、反磁性体成分であるその他の成分(三角印)は、管路9a〜9fとは反対方向(矢印D方向)に力を受け、排気管6内における流通方向(矢印E方向)とベクトル合成されて、矢印Fの方向に移動するようになる。
【0015】
また、常磁性体成分のうち、酸素、一酸化窒素、二酸化窒素の磁化率はそれぞれ、107μcm/g、49μcm/g、3μcm/gと大きく異なっている。このため、最も磁化率の大きい酸素は、矢印Bに対する矢印Cの角度αが大きくなり、上流側の管路、すなわち管路9a〜9cに入り込みやすい傾向を有する。次に磁化率の大きい一酸化窒素は、酸素に比べて矢印Bに対する矢印Cの角度αが小さいので、下流側の管路、すなわち9d〜9fに入り込みやすい傾向を有する。そして、最も磁化率の小さい二酸化窒素は、矢印Bに対する矢印Cの角度αが最も小さいために、管路9a〜9fには入り込みにくく、排気管6の下流側端部で第1枝管7aに入り込む。一方、反磁性体成分は、管路9a〜9f及び第1枝管7aには入り込まずに、排気管6の下流側端部で第2枝管7bに入り込み、ディーゼルエンジン1の外部へ排出される。このようにして、酸素、一酸化窒素、二酸化窒素、その他の反磁性体成分が分離される。
【0016】
通常、酸素は吸気に戻す必要はないので、三方弁10a〜10cは排気枝管8a〜8c側になっており、管路9a〜9cに入り込んだ排ガスは、ディーゼルエンジン1の外部へ排出される。一方、三方弁10d〜10fは吸気手段側になっており、管路9d〜9fに入り込んだ排ガスは、循環路13を流通し、混合器14において吸気と混合されて、燃焼室2a〜2dに吸入される。また、第1枝管7aに入り込んだ排ガスは、同様にして燃焼室2a〜2dに吸入される。これにより、酸素をできる限り分離して窒素酸化物濃度の高い排ガスが吸気に戻されるようになる。窒素酸化物を選択的に吸気に戻すことにより、排気中の窒素酸化物濃度が徐々に上昇してしまうという懸念が生じるが、次の理由でこのような現象は生じない。すなわち、吸気に還流された窒素酸化物は、燃焼室2a〜2d内で燃焼に伴って分解され再生成されるが、その生成量は、主に吸気成分によらず、燃焼温度や速度によって決まる。また、排気中の窒素酸化物は数百から数千ppmであるので、吸気中の窒素(約80%)に対して非常に少ないため、還流された窒素酸化物の量に関係なく、窒素酸化物を吸気に戻しても戻さなくても、排ガス中の窒素酸化物濃度は、ディーゼルエンジン1の運転状態によって決まる。従って、排ガス中の窒素酸化物を選択的に吸気に戻すことにより、外部へ排出される窒素酸化物濃度が減少する。
【0017】
しかしながら、実際には、排ガスの流通速度(矢印BまたはEの長さに相当)により、窒素酸化物及び酸素における矢印Bに対する矢印Cの角度αが異なるため、各管路9a〜9fに入り込みやすい成分が変わってしまう。そこで、ECU15は、ディーゼルエンジン1の稼動状態、例えば回転数に基づいて、排出される排ガスの量を推測し、それから排気管6内を流通する排ガスの流通速度を算出する。この流通速度に基づいて、ECU15は、各電磁石11a〜11fの磁界強度を調整することにより、すなわち、排気管6に沿って電磁石11の磁界強度を調整することにより、各成分が磁界の作用によって受ける力を調整して、管路9a〜9cには主として酸素が、管路9d〜9fには主として一酸化窒素が、第1枝管7aには主として二酸化窒素が入り込むようにする。
【0018】
尚、通常、酸素は外部に排出すると説明したが、高地走行時のように吸気中の酸素濃度が低い場合には、ディーゼルエンジン1の運転状態に基づいて、ECU15が三方弁10a〜10cを吸気手段側に切り替えることにより、吸気中の酸素濃度が補充される。これにより、燃焼室2a〜2d内における燃焼が改善する。
また、その他の反磁性体成分は、外部に排出しても良いが、この反磁性体成分は、窒素、二酸化炭素等の不活性成分を主体とするガスなので、EGR(排ガス中の窒素酸化物を減らす排ガス環流を用いた燃焼)ガスとして用いても良い。通常のEGRガスは酸素を含むが、本発明のEGRガスは酸素をあまり含まないため、より効率的にEGR運転が可能であり、NOx低減が行える。
更に、分離した酸素や二酸化窒素は、酸化能力が高いので、DPF等のPM再生(煤の除去)等に用いても良い。
【0019】
このように、実施の形態1に係るガス成分の分離装置は、窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなる排ガスが流通する排気管6と、排気管6に設けられた6つの管路9a〜9fと、排気管6に沿って設けられた電磁石11とを備え、各管路9a〜9fは、電磁石11の磁界によって排ガス中の常磁性体成分が力を受ける方向に延びている。排気管6内を流通する排ガス中の常磁性体成分は、電磁石11の磁界によって受ける力と、流通方向とのベクトル合成により、管路9a〜9f側に傾きながら排気管6内を流通するので、管路9a〜9fに入り込む。しかも、常磁性体成分である酸素、一酸化窒素、及び二酸化窒素はそれぞれ、磁化率が大きく異なることにより、管路9a〜9f側への傾きが成分ごとに異なるので、各管路9a〜9fに入り込む成分が区別され、排ガスを、酸素と、窒素酸化物と、その他の成分である反磁性体成分とに分離することができる。
また、ECU15が、ディーゼルエンジン1の稼動状態から、排気管6内を流通する排ガスの流通速度を推測し、この流通速度に基づいて、各電磁石11a〜11gの磁界強度を調整するので、ディーゼルエンジン1の稼動状態が変動しても、管路9a〜9fに入り込む成分を制御することができる。
また、排気管6には、電磁石11の上流に冷却器12が設けられていることにより、排ガスは、電磁石11の磁界による影響を受ける前に冷却されるので、各成分は磁界による影響が大きくなり、各成分の分離性能を向上することができる。
また、排気管6の下流端部は、管路9a〜9f側に位置する第1枝管7aと、管路9a〜9fとは反対側に位置する第2枝管7bとに分岐されているので、第1枝管7aには窒素酸化物が流通し、第2枝管7bには反磁性体成分が流入する。第1枝管7aは、ディーゼルエンジン1の吸気手段に接続されていることにより、排ガス中の窒素酸化物がディーゼルエンジン1の吸気に戻されるので、排出される排ガス中の窒素酸化物濃度を低下することができる。
また、管路9a〜9fにはそれぞれ、ディーゼルエンジン1の外部へ開放した排気枝管8a〜8fと、管路9a〜9fに入り込んだ排ガスが排気枝管8a〜8fを介して排出される形態と、管路9a〜9fに入り込んだ排ガスが管路9a〜9fを流通する形態とを切り替える三方弁10a〜10fとを有し、ECU15が三方弁10a〜10fの切り替えを制御することにより、通常は、酸素が多いディーゼルエンジンの排ガスであっても、排ガス中の酸素を前段で分離放出することで排ガスの空燃比を制御することができ、三元触媒を用いた低コストの排ガス処理システムが導入可能となる。さらに、必要に応じて、酸素を吸気に戻すこともできるので、吸気中の酸素濃度が低い場合には、吸気中の酸素の補充をすることもできる。更に、EGR運転を行う場合は、EGRガスにその他の反磁性体成分を用いることができ、容易に低酸素運転が行える。すなわち、ディーゼルエンジン1の吸気ガス成分を制御することにより、ディーゼルエンジン1のエンジン特性を改善することができる。
【0020】
実施の形態1では、ECU15が、排気管6内を流通する排ガスの流通速度に基づいて、電磁石11a〜11fの磁界強度を調整するようにしたが、この形態に限定するものではない。当該流通速度に基づいて、三方弁10a〜10fの切り替えを制御するようにしても、同様の効果を得ることができる。尚、この場合には、電磁石11a〜11fの磁界強度の調整が不要になるので、電磁石11a〜11fの変わりに、磁界強度が不変の永久磁石を使用することもできる。また、排ガスの流通速度ではなく、排ガスの温度に基づいて、電磁石11a〜11fの磁界強度を調整することや、三方弁10a〜10fの切り替えを制御することもできる。この場合には、ECU15が、ディーゼルエンジン1の稼動状態に基づいて、排ガスの温度を推測することができるので、ECU15は、温度検出手段を兼務する。
【0021】
実施の形態1では、ECU15が、切替制御手段と、流通速度検出手段(または温度検出手段)と、磁界強度調整手段とを兼務していたが、それぞれ別個の装置を使用してもよい。この場合には、例えば、流通速度検出手段として、排気管6に流量計を設けてもよいし、温度検出手段として、排気管6に温度計を設けてもよい。そして、流量計や温度計に基づいて、三方弁10a〜10fの切り替えを行う装置を切替制御手段として使用するか、または、電磁石11a〜11gの磁界強度を調整する装置を磁界強度調整手段として使用してもよい。
【0022】
実施の形態1では、排気管6は直管形状であるが、直管形状に限定するものではない。螺旋形状や蛇行形状、ループ形状等にしてもよい。さらには、排気管を全体的に螺旋形状や蛇行形状、ループ形状等にするのではなく、部分的にこれらの形状を含むようにしてもよい。排気管をこのような形状にすることで、排気管を長くすることができるので、電磁石11を設ける範囲及び管路の数を増加することができ、排ガスの分離性能を向上することができる。
【0023】
実施の形態1では、管路9a〜9cには主として酸素が入り込み、管路9d〜9fには主として一酸化窒素が入り込み、第1枝管7aには主として二酸化窒素が入り込むと説明したが、この区別は、上流側の管路と下流側の管路とが明確になるように、説明の便宜上区別したものであり、必ずしも、酸素と、一酸化窒素と、二酸化窒素とが、そのように区別されて各管路9a〜9c及び第1枝管7aに入り込むものではない。例えば、管路9a及び9bに主として酸素が入り込み、管路9c〜9eに主として一酸化窒素が入り込み、管路9f及び第1枝管に主として二酸化窒素が入り込むように制御することも可能である。どのように制御するにしても、三方弁10a〜10fの切り替えを各成分の区別に応じて行えば、酸素と、一酸化窒素と、二酸化窒素とを分離することができる。
【0024】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係るガス成分の分離装置が設けられた内燃機関について説明する。尚、以下の実施の形態において、図1及び2の参照符号と同一の符号は、同一又は同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
この発明の実施の形態2に係るガス成分の分離装置が設けられた内燃機関は、実施の形態1に対して、磁石部材として永久磁石を使用すると共に各管路9a〜9fに酸素濃度検出手段を設けたものである。
【0025】
図3に示されるように、管路9a〜9fにはそれぞれ、三方弁10a〜10fの上流に、酸素濃度検出手段である酸素センサ22a、22b,22c,22d,22e,22fが設けられている。酸素センサ22a〜22fはそれぞれ、ECU15に電気的に接続されている。また、冷却器12の下流から第1枝管7aまでにかけて、排気管6に沿って磁石部材である永久磁石21が設けられている。永久磁石21は7つの永久磁石21a,21b,21c,21d,21e,21f,21gに分割されており、それぞれが、冷却器12の下流及び管路9a間と、管路9a及び9b間と、管路9b及び9c間と、管路9c及び9d間と、管路9d及び9e間と、管路9e及び9f間と、管路9f及び第1枝管7a間とにおいて、排気管6を挟むように2個ずつ設けられている。その他の構成は、実施の形態1と同じである。
【0026】
実施の形態1と同様に、永久磁石21a〜21gの磁界による作用によって、排気管6内を流通する排ガス中の酸素と、一酸化窒素と、二酸化窒素とは、管路9a〜9f及び第1枝管7aのいずれかに主として選択的に入り込み、排ガス中の反磁性体成分であるその他の成分は、第2枝管7bに入り込む。各管路9a〜9fに入り込んだ排ガスは、酸素センサ22a〜22fによって酸素濃度が検出される。各管路9a〜9f内の排ガスにおける検出された酸素濃度が、予めECU15に設定された酸素濃度よりも高い場合には、ECU15は、対応する管路の三方弁を排気枝管側にし、逆に低い場合には、ECU15は、対応する管路の三方弁をディーゼルエンジン1の吸気手段側にする。これにより、酸素濃度が高い排ガスは、ディーゼルエンジン1の外部に排出され、酸素濃度が低い排ガスは、ディーゼルエンジン1の吸気に戻される。尚、吸気中の酸素濃度が低い場合には、吸気中に酸素を補充する目的で、酸素濃度が高い排ガスが入り込んだ管路の三方弁を吸気手段側にする制御が行われる。
【0027】
このように、管路9a〜9fにはそれぞれ、管路9a〜9fを流通する排ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサ22a〜22fが設けられ、ECU15が、各酸素センサ22a〜22fによって検出された酸素濃度に基づいて、各三方弁10a〜10fを動作させるようにすることにより、酸素濃度が所定濃度よりも低い排ガスのみをディーゼルエンジン1の吸気に戻すことができるので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態1と同様に、吸気中の酸素濃度が低い場合には、酸素濃度が所定濃度よりも高い排ガスを吸気に戻すこともできる。
【0028】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3に係るガス成分の分離装置が設けられた内燃機関について説明する。この発明の実施の形態2に係るガス成分の分離装置が設けられた内燃機関は、実施の形態1に対して、排気管6に、管路9a〜9fとは反対方向に延びる第2管路を設けたものである。
【0029】
図4に示されるように、排気管6には、管路9a〜9fとは反対側、すなわち、電磁石11a〜11gの磁界によって反磁性体成分が受ける力の方向に延びる3つの第2管路30a,30b,30cが、排気管6に垂直に互いに平行に設けられている。その他の構成については、実施の形態1と同じである。
【0030】
実施の形態1と同様の原理で、排気管6内を流通する排ガス中の酸素と、一酸化窒素と、二酸化窒素とが分離される。一方、その他の反磁性体成分は、電磁石11a〜11gの磁界によって、第2管路30a〜30c側に傾きながら排気管6内を流通することにより、第2管路30a〜30cに入り込み、第2管路30a〜30cに入り込まなかった残りは、第2枝管に入り込む。反磁性体成分を構成する各成分も磁化率が異なるので、その磁化率の違いによって、各第2管路30a〜30cに主として入り込む成分が異なる。したがって、反磁性体成分を構成する各成分についても、成分ごとに分離することができる。
【0031】
実施の形態3では、第2管路30a〜30cの端部の接続先を明記しなかったが、それぞれ、ディーゼルエンジン1の外部に開放してもよいし、ディーゼルエンジン1の吸気手段に接続してもよい。また、第2管路30a〜30cに三方弁を設け、ディーゼルエンジン1の稼動状態に基づいて、第2管路30a〜30cに入り込んだ排ガスの送り先を切り替えてもよい。
【0032】
実施の形態1〜3では、排気枝管8a〜8f、管路9a〜9fと、三方弁10a〜10fと、電磁石11a〜11gと、永久磁石21a〜21gと、酸素センサ22a〜22fと、第2管路30a〜30cとの個数を特定して説明したが、これらの個数は単なる例示にすぎず、適宜変更することが可能である。
実施の形態2では、酸素センサ22a〜22fによって検出された酸素濃度に基づいて、各三方弁10a〜10fを動作させるフィードバック制御としたが、予めディーゼルエンジン1の稼動状態にて酸素濃度を測定しておき、酸素センサを用いずにディーゼルエンジン1の稼動状態から酸素濃度を予測する制御としてもよい。
【0033】
実施の形態1〜3では、内燃機関として、直列4気筒型のディーゼルエンジン1を用いて説明したが、これに限定するものではない。あらゆる形態のディーゼルエンジンでもよく、あらゆる形態のガソリンエンジンやボイラー等でもよい。
また、本発明のガス成分の分離装置及び分離方法は、内燃機関で発生した排ガスの分離のみに適用するものではなく、窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなるガスを、窒素酸化物と、酸素と、反磁性体成分とに分離する目的であれば、どのようなものに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施の形態1に係るガス成分の分離装置が設けられた内燃機関の構成図である。
【図2】実施の形態1に係るガス成分の分離装置の拡大構成図である。
【図3】実施の形態2に係るガス成分の分離装置の拡大構成図である。
【図4】実施の形態3に係るガス成分の分離装置の拡大構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ディーゼルエンジン(内燃機関)、3 吸気マニフォルド(吸気手段)、5 吸気管(吸気手段)、6 排気管(流通管)、7a 第1枝管、7b 第2枝管、8a〜8f 排気枝管、9a〜9f 管路、10a〜10f 三方弁(切替手段)、11,11a〜11g 電磁石(磁石部材)、12 冷却器、15 ECU(制御装置、切替制御手段、流通速度検出手段、磁界強度調整手段、温度検出手段)、21,21a〜21g 永久磁石(磁石部材)、22a〜22f 酸素センサ(酸素濃度検出手段)、30a〜30c 第2管路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなるガスを、前記窒素酸化物と、前記酸素と、前記反磁性体成分とに分離するガス成分の分離方法であって、
前記ガスの流通方向に沿って磁石部材を設ける工程と、
前記ガスの流通方向に沿って複数の管路を設ける工程と、
前記ガスを流通させる工程と
を含み、
前記管路は、前記磁石部材の磁界によって前記ガス中の常磁性体成分が力を受ける方向に向かって延びる、ガス成分の分離方法。
【請求項2】
前記磁石部材の磁界強度は、前記流通方向に沿って調節可能であり、
前記ガスの流通速度を検出する工程と、
前記流通速度に基づいて、前記流通方向に沿って前記磁界強度を調整する工程と
を含む、請求項1に記載のガス成分の分離方法。
【請求項3】
前記磁石部材の磁界強度は、前記流通方向に沿って調節可能であり、
前記ガスの温度を検出する工程と、
前記ガスの温度に基づいて、前記流通方向に沿って前記磁界強度を調整する工程と
を含む、請求項1に記載のガス成分の分離方法。
【請求項4】
前記ガスを前記磁石部材に沿って流通させる前に、前記ガスを冷却する工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス成分の分離方法。
【請求項5】
前記ガスは、内燃機関で発生した排ガスであり、
前記窒素酸化物と、前記酸素と、前記反磁性体成分とを前記内燃機関の吸気に個別に戻す、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガス成分の分離方法。
【請求項6】
窒素酸化物及び酸素を含む常磁性体成分と反磁性体成分とからなるガスを、前記窒素酸化物と、酸素と、反磁性体成分とに分離するガス成分の分離装置であって、
前記ガスが流通する流通管と、
該流通管に設けられた複数の管路と、
前記流通管に沿って設けられた磁石部材と
を備え、
前記管路は、前記磁石部材の磁界によって前記ガス中の常磁性体成分が力を受ける方向に向かって延びる、ガス成分の分離装置。
【請求項7】
前記磁石部材は電磁石であり、
前記流通管内の前記ガスの流通速度を検出する流通速度検出手段と、
前記流通管に沿って前記電磁石の磁界強度を調整する磁界強度調整手段と
を備え、
前記磁界強度調整手段は、前記ガスの流通速度に基づいて、前記流通管に沿って前記電磁石の磁界強度を調整する、請求項6に記載のガス成分の分離装置。
【請求項8】
前記磁石部材は電磁石であり、
前記流通管を流通する前記ガスの温度を検出する温度検出手段と、
前記流通管に沿って前記電磁石の磁界強度を調整する磁界強度調整手段と
を備え、
前記磁界強度調整手段は、前記ガスの温度に基づいて、前記流通管に沿って前記電磁石の磁界強度を調整する、請求項6に記載のガス成分の分離装置。
【請求項9】
前記管路とは反対方向に向かって延びる第2管路が前記流通管に設けられている、請求項6〜8のいずれか一項に記載のガス成分の分離装置。
【請求項10】
前記流通管は、少なくとも部分的に非直管状部分を含む、請求項6〜9のいずれか一項に記載のガス成分の分離装置。
【請求項11】
前記磁石部材の上流において、前記流通管には、冷却器が設けられている、請求項6〜10のいずれか一項に記載のガス成分の分離装置。
【請求項12】
前記ガスは、内燃機関で発生した排ガスであり、
前記流通管は、一端が前記内燃機関に接続された排気管であり、
該排気管の他端は、前記管路側に位置する第1枝管と、前記管路とは反対側に位置する第2枝管とに分岐されており、
前記第1枝管は、前記内燃機関の吸気手段に接続されている、請求項6〜11のいずれか一項に記載のガス成分の分離装置。
【請求項13】
前記複数の管路はそれぞれ、
前記内燃機関の外部へ開放した排気枝管と、
前記管路に入り込んだ排ガスが前記排気枝管を介して排出される形態と、前記管路に入り込んだ排ガスが前記管路を流通する形態とを切り替える切替手段と
を有し、
前記ガス成分の分離装置は、前記切替手段のそれぞれの切替動作を制御する切替制御手段を有する、請求項12に記載のガス成分の分離装置。
【請求項14】
前記複数の管路はそれぞれ、該管路を流通する排ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段を有し、
前記切替制御手段は、各酸素濃度検出手段によって検出された酸素濃度に基づいて、各切替手段を動作させる、請求項13に記載のガス成分の分離装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−154052(P2009−154052A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332323(P2007−332323)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】