説明

ガス拡散層、膜−電極接合体及び燃料電池

【課題】 正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができ、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型で、発電性能の優れる燃料電池とすることのできるガス拡散層、膜−電極接合体、及び軽量・小型で、発電性能の優れる燃料電池を提供すること。
【解決手段】 本発明のガス拡散層は、撥水性の繊維多孔質基材に導電剤が充填されたガス拡散層であり、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、ピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在する。本発明の膜−電極接合体は前記ガス拡散層を備えている。また、本発明の燃料電池は前記ガス拡散層を備える膜−電極接合体を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス拡散層、膜−電極接合体及び燃料電池に関するものであり、特に、低湿度下においても発電性能の優れる燃料電池を製造することのできるガス拡散層、膜−電極接合体、及び低湿度下においても発電性能の優れる燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な形で利用されているエネルギーについては、石油資源の枯渇に対する懸念から、代替燃料の模索や省資源が重要な課題となっている。その中にあって、種々の燃料を化学エネルギーに変換し、電力として取り出す燃料電池について、活発な開発が続けられている。
【0003】
燃料電池は、例えば『燃料電池に関する技術動向調査』(非特許文献1)の第5頁に開示されるように、使用される電解質の種類によって、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化形燃料電池(SOFC)、固体高分子形燃料電池(PEFC)の4つに分類される。これら各種の燃料電池は、その電解質に応じて作動温度範囲に制約が有り、PEFCでは100℃以下の低温領域、PAFCでは180〜210℃の中温領域、MCFCでは600℃以上、SOFCは1000℃近くの高温領域で動作することが知られている。このうち、低温領域での出力が可能である一般的なPEFCは、燃料となる水素ガスと酸素ガス(若しくは空気)との化合反応に伴って生じる電力を取り出すが、比較的小型の装置構成で効率的に電力を取り出すことができる点で、実用化が急がれている。
【0004】
図1は、従来知られているPEFCの基本構成を示す、燃料電池の要部断面模式図である。図中、材質として実質的に同一の構成若しくは機能を有する構成成分には、同一のハッチングを付して示してある。PEFCは、図1に示すように、負極17a、固体高分子膜19及び正極17cからなる膜−電極接合体(MEA)を、1対のバイポーラプレート11a、11cで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。前記負極17aはプロトンと電子とに分解する触媒層15aと、触媒層15aに燃料ガスを供給するガス拡散層13aとからなり、正極17cはプロトン、電子及び酸素ガスとを反応させる触媒層15cと、触媒層15cに酸素ガスを供給するガス拡散層13cとからなる。
【0005】
前記バイポーラプレート11aは燃料ガスを供給できる溝を有するため、このバイポーラプレート11aの溝を通して燃料ガスを供給すると、燃料ガスはガス拡散層13aを拡散し、触媒層15aに供給される。供給された燃料ガスはプロトンと電子とに分解され、プロトンは固体高分子膜19を移動し、触媒層15cに到達する。他方、電子は図示しない外部回路を通り、正極17cへと移動する。一方、バイポーラプレート11cは酸素含有ガスを供給できる溝を有するため、このバイポーラプレート11cの溝を通して酸素含有ガスを供給すると、酸素含有ガスはガス拡散層13cを拡散し、触媒層15cに供給される。供給された酸素含有ガスは固体高分子膜19を移動したプロトン及び外部回路を通って移動した電子と反応し、水を生成する。
【0006】
このような膜−電極接合体(MEA)のガス拡散層として、直径が17〜90μmの細孔を有するもの(特許文献1)、1μm〜100μmの範囲に存在する第1のピークと、15nm〜1μmの範囲に存在する第2のピークとをもつ気孔分布を有するもの(特許文献2)、5μm〜50μmの間に水の排出パスとなるポア径のピークを有すると共に、100μm及びその近傍の範囲にガスの拡散パスとなるポア径のピークを有するもの(特許文献3)が知られている。これら従来のいずれのガス拡散層においても、1μmを超える大きな細孔直径を有するものであるため、生成された水又は加湿ガスにより供給された水が外部に排出されやすいものであった。前述の通り、PEFCにおいては、プロトンが固体高分子膜を移動するため、プロトンの速やかな移動のためには水分が必要であるが、従来のガス拡散層は水が外部に排出されやすいため、固体高分子膜が乾燥してプロトンが移動しにくく、十分な発電性能を得られない場合があった。プロトンが移動しやすいように、燃料ガス及び/又は酸素含有ガスを十分に加湿するという考え方もあるが、そのためには大型の加湿装置が別途必要になるため、軽量小型化が難しいという問題があった。
【0007】
そこで、本願出願人は「繊維を含む基材に、少なくとも導電性ペーストを被着焼成してなるガス拡散電極であって、前記基材が、ガラス繊維にアクリル樹脂及び/又は酢酸ビニル樹脂を含むバインダを付着せしめたガラス不織布からなるものである、ガス拡散電極(本発明におけるガス拡散層)」を提案した(特許文献4)。このガス拡散層は低湿度下においてもある程度の発電性能をもつ燃料電池を製造することのできるものであったが、更なる発電性能の向上が期待されていた。
【0008】
【非特許文献1】『燃料電池に関する技術動向調査』(特許庁技術調査課編,平成13年5月31日,<URL>http://www.jpo.go.jp/shiryou/index.htm)
【特許文献1】特許第3929146号公報(請求項2など)
【特許文献2】特開2000−182626号公報(請求項1など)
【特許文献3】特開2007−87651号公報(請求項2など)
【特許文献4】特開2008−204945号公報(請求項4など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の問題点を解決するためになされたものであり、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができ、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型で、発電性能の優れる燃料電池とすることのできるガス拡散層、膜−電極接合体、及び軽量・小型で、発電性能の優れる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1にかかる発明は、「撥水性の繊維多孔質基材に導電剤が充填されたガス拡散層であり、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、ピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在するガス拡散層。」である。
【0011】
本発明の請求項2にかかる発明は、「請求項1に記載のガス拡散層を備える膜−電極接合体。」である。
【0012】
本発明の請求項3にかかる発明は、「請求項1に記載のガス拡散層を備える膜−電極接合体を含む燃料電池。」である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1にかかる発明は、直径0.01〜1μmの細孔のみを有し、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができるため、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池を製造することができる。また、繊維多孔質基材が撥水性であるため、排水性が適度に高く、燃料ガス(例えば、水素)及び/又は酸素含有ガス(例えば、酸素、空気)の物質移動に基づく抵抗、いわゆる拡散抵抗が低下する結果、これらの物質移動に基づく過電圧、いわゆる拡散過電圧(濃度過電圧)が低下するため、発電性能の優れる燃料電池を製造することができる。
【0014】
本発明の請求項2にかかる発明は、前記のガス拡散層を備える膜−電極接合体であるため、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができ、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池を製造することができる。また、繊維多孔質基材が撥水性であるため、排水性が適度に高く、燃料ガス(例えば、水素)及び/又は酸素含有ガス(例えば、酸素、空気)の物質移動に基づく抵抗、いわゆる拡散抵抗が低下する結果、これらの物質移動に基づく過電圧、いわゆる拡散過電圧(濃度過電圧)が低下するため、発電性能の優れる燃料電池を製造することができる。
【0015】
本発明の請求項3にかかる発明は、前記ガス拡散層を備える膜−電極接合体を含む燃料電池であるため、正極で生成した水を電池内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができ、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池であることができる。また、繊維多孔質基材が撥水性であるため、排水性が適度に高く、燃料ガス(例えば、水素)及び/又は酸素含有ガス(例えば、酸素、空気)の物質移動に基づく抵抗、いわゆる拡散抵抗が低下する結果、これらの物質移動に基づく過電圧、いわゆる拡散過電圧(濃度過電圧)が低下するため、発電性能の優れる燃料電池であることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】固体高分子形燃料電池の要部断面模式図
【図2】ピークの考え方を説明するLog微分細孔容積分布グラフ
【図3】傾きの平均値IAVが0.3の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
【図4】傾きの平均値IAVが0.4の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
【図5】傾きの平均値IAVが0.5の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
【図6】傾きの平均値IAVが0.6の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
【図7】傾きの平均値IAVが0.7の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
【図8】傾きの平均値IAVが0.8の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
【図9】傾きの平均値IAVが0.9の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
【図10】傾きの平均値IAVが1.0の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
【図11】電位−電流曲線を表すグラフ
【図12】電位−電流曲線を表すグラフ
【図13】電位−電流曲線を表すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のガス拡散層は水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、ピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在するものである。このようにピークを1つだけ有するということは、その直径及びその近傍の直径を有する細孔のみから構成されていることを意味し、しかもその直径が0.01〜1μmと従来にはない非常に小さい細孔のみからなるため、水を電池内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができる。例えば、1μmよりも大きいピークを有すると、細孔の直径が大きいことを意味するため、外部に水が排出され、水が不足しやすい。逆に、0.01μmよりも小さいピークを有すると、細孔の直径が小さすぎることを意味するため、水が内部に留まり過ぎ、細孔を閉塞する結果、ガスの透過、供給又は拡散が阻害されやすい。より好ましくは、1つだけのピークが細孔直径0.01〜0.15μmの範囲に存在する。更に好ましくは、1つだけのピークが細孔直径0.05〜0.15μmの範囲に存在する。
【0018】
本発明において水銀圧入法を採用しているのは、好適な細孔直径が0.01〜1μmであることから、この範囲の細孔直径を測定するのに適した方法であるためである。なお、水銀圧入法は水銀ポロシメータにより実施できる。また、水銀圧入法による測定条件は次の通りである。
1.細孔直径の測定範囲:150〜0.003(μm)
2.水銀の接触角:130(°)
3.水銀の表面張力:485(mN/m)
【0019】
本発明においては、Log微分細孔容積分布グラフをもとにピークを読み取っている。Log微分細孔容積分布グラフは差分細孔容積(dV)を、細孔直径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値を求め、これを各区間の平均細孔直径に対してプロットしたものである。このように細孔直径の対数扱いの差分値d(logD)で割っているのは、差分細孔直径で割ると、細孔直径が小さい場合に分母が小さくなり、値が強調される一方で、細孔直径が大きい場合に分母が大きくなり、値が緩和されるためである。
【0020】
本発明における「ピーク」について、Log微分細孔容積分布グラフの一例である図2を参照しながら説明する。Log微分細孔容積分布グラフ上、上に凸の変曲点のうち、変曲点をPとし、この変曲点Pの左側で、変曲点Pに最も近い測定点をAとし、更にこの変曲点Pの右側で、変曲点Pに最も近い測定点をBとした時に、A−P間を結んでできる直線Lの傾きの絶対値とB−P間を結んでできる直線Lの傾きの絶対値の平均値が0.5以上である場合、その変曲点Pを「ピーク」という。つまり、次の式で表される傾きの平均値IAVが0.5以上である場合の変曲点Pをピークという。

【0021】
この傾きの平均値IAVが0.5以上である場合に、変曲点Pをピークというのは、図3〜10に示すように、視覚上、IAVが0.5以上である場合にピークと認識できることに起因している。なお、図3〜10においては、細孔直径(対数目盛、範囲:0.1〜1μm)を横軸にとり、Log微分細孔容積(範囲:0〜1cm/g)を縦軸にとり、両軸の長さを等しく描いたグラフである。
【0022】
なお、本発明におけるLog微分細孔容積分布グラフは、水銀圧入法において、次の順に圧力をかけた時に得られたものである。なお、圧力のかけ方によってグラフ上のプロットの数及び間隔が決まる。
1.5psia、2psia、2.5psia、3psia、3.5psia、4psia、5psia、6psia、7psia、8psia、9psia、10psia、12psia、14psia、16psia、18psia、20psia、25psia、30psia、40psia、50psia、60psia、70psia、80psia、90psia、100psia、120psia、140psia、170psia、200psia、250psia、300psia、350psia、400psia、450psia、500psia、600psia、700psia、800psia、900psia、1000psia、1200psia、1400psia、1600psia、1800psia、2000psia、2400psia、2800psia、3200psia、3600psia、4000psia、4500psia、5000psia、5500psia、6000psia、6500psia、7000psia、8000psia、9000psia、10000psia、11000psia、12000psia、13000psia、15000psia、16000psia、18000psia、20000psia、21000psia、23000psia、25000psia、28000psia、32000psia、35000psia、38000psia、45000psia、50000psia、60000psia
【0023】
このような細孔径分布をもつ本発明のガス拡散層は、撥水性の繊維多孔質基材に導電剤が充填されたものである。撥水性の繊維多孔質基材は排水性が適度に高く、燃料ガス(例えば、水素)及び/又は酸素含有ガス(例えば、酸素、空気)の物質移動に基づく抵抗、いわゆる拡散抵抗が低下する結果、これらの物質移動に基づく過電圧、いわゆる拡散過電圧(濃度過電圧)が低下し、発電性能の優れる燃料電池を製造することができる。
【0024】
この撥水性の繊維多孔質基材は撥水性であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、繊維多孔質基材を撥水処理したものを挙げることができる。撥水処理としては、例えば、フッ素系樹脂の撥水膜を形成する撥水処理、フッ素系樹脂微粒子を電着塗装する撥水処理、フッ化炭化水素プラズマにより超撥水性固体皮膜を形成する撥水処理、シランカップリング剤による撥水処理、表面自由エネルギー低減化による撥水処理、アクリルシリコーン/シリカ複合膜形成による撥水処理、化学吸着単分子膜による撥水処理、高分子の相分離を利用した撥水薄膜形成による撥水処理などがある。これらの中でもフッ素系樹脂の撥水膜を形成する撥水処理は簡便であり、フッ素系樹脂が燃料電池中で安定であるため好適である。
【0025】
また、撥水処理を施す繊維多孔質基材は特に限定するものではないが、例えば、ガラス繊維不織布、カーボンペーパー、耐酸性のある有機繊維不織布(例えば、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリフッ化ビニリデン繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維を代表とするポリエステル系繊維を単独で、又は2種類以上を含む不織布)を挙げることができる。これらの中でも、加工適性を有し、柔軟性があるガラス繊維不織布、耐酸性のある有機繊維不織布が好ましく、耐熱性を有し、酸性溶液やアルコール等に対する耐薬品性に特に優れ、また、極めて優れた強度並びに加工適性を有し、更には安価であるガラス繊維不織布が特に好ましい。
【0026】
この繊維多孔質基材として好適であるガラス繊維不織布は、ガラス繊維をアクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、及び/又はエポキシ樹脂を含むバインダで接着したものであるのが好ましい。塩素成分や金属イオンは燃料電池内において腐食性をきたす等の悪影響を及ぼすが、前記樹脂は塩素成分や金属イオンといった不純物の混入が少ない樹脂として知られており、前記悪影響を及ぼさないためである。特に、塩素成分が20ppm以下のバインダで接着したものであるのが好ましい。
【0027】
なお、バインダを構成する樹脂としてアクリル樹脂を用いる場合、自己架橋型アクリル樹脂を用いることが好ましい。燃料電池においては、触媒層での反応によりプロトンが生成し、ガス拡散層周辺も強酸(pH2程度)雰囲気に曝されるため、ガス拡散層も耐酸性を有するのが好ましく、前記自己架橋により硬化したアクリル樹脂は優れた耐酸性を示すためである。ここで、「自己架橋型アクリル樹脂」とは、同一又は異種のモノマー単位中に、1種又は2種以上の架橋可能な官能基を有するアクリル樹脂を意味し、この架橋可能な官能基の組み合わせとして、例えば、カルボン酸基とビニル基との組み合わせ、カルボン酸基とグリシジル基との組み合わせ、カルボン酸基とアミン基との組み合わせ、カルボン酸基とアミド基との組み合わせ、カルボン酸基とメチロール基との組み合わせ、カルボン酸基とエポキシ基との組み合わせを挙げることができる。これらの中でも窒素を含まず、耐酸化性に特に優れる、カルボン酸基とビニル基との組み合わせ、カルボン酸基とグリシジル基との組み合わせ、カルボン酸基とメチロール基との組み合わせ、又はカルボン酸基とエポキシ基との組み合わせが好ましい。
【0028】
また、ガラス繊維不織布における固形分接着剤量は、ガラス繊維不織布全体の質量を基準として3〜30質量%の範囲内であるのが好ましい。バインダの固形分接着剤量が3質量%未満の場合、ガラス繊維不織布としての機械的強度が低く、作業適性が著しく損なわれる傾向があり、一方で、固形分接着剤量が30質量%を超える場合、バインダに由来する皮膜が過度に形成され、導電剤を十分に充填することができない傾向があるためである。
【0029】
このようなガラス繊維不織布は周知の方法により製造することができるが、均一な地合いを有するガラス繊維不織布を製造できる湿式法により製造するのが好ましい。なお、ガラス繊維の繊維径及び繊維長は、湿式法により製造する際の分散性や機械的強度の優れるガラス繊維不織布であるように、4〜20μmの繊維径、5〜25mmの繊維長であるのが好ましい。また、ガラス繊維の成分としては、耐薬品性(特に耐酸性)の優れる、Eガラス、Cガラス又はQガラスを1種類以上使用することができる。ガラス繊維不織布の目付、厚さは特に限定するものではないが、目付はガス拡散層がガスの透過、供給又は拡散に支障をきたさない程度の多孔性を有する見掛密度としやすいように、4〜25g/mであるのが好ましく、厚さは強度を確保できるように、30〜300μmであるのが好ましい。なお、「目付」はガラス繊維不織布を10cm角に切断した試料の質量を測定し、1mの大きさの質量に換算した値をいい、「厚さ」はシックネスゲージ((株)ミツトヨ製:コードNo.547−321:測定力1.5N以下)を用いて測定した値をいう。
【0030】
以上は、繊維多孔質基材に対して撥水処理を施すことによって撥水性とした繊維多孔質基材についての説明であるが、本発明の撥水性の繊維多孔質基材は上述のような撥水性の繊維多孔質基材に限定されず、撥水性繊維を含むことによって撥水性能を発揮する繊維多孔質基材であっても良い。このような撥水性繊維を含む繊維多孔質基材として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリフッ化ビニリデン繊維、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体(FEP)繊維、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)繊維、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオライド共重合体繊維、テトラフルオロエチレン・ビニリデンフルオライド共重合体繊維等のフッ素系繊維を含む、不織布、ペーパーなどを挙げることができる。
【0031】
なお、本発明における撥水性とは、JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」に記載のはっ水度試験(スプレー試験)において、4級または5級に判定されるものとする。
【0032】
本発明のガス拡散層はこのような撥水性の繊維多孔質基材に導電剤が充填された、厚さおよび面方向への導電性に優れるものである。この導電剤は特に限定するものではないが、例えば、ホウ素固溶カーボンブラック、ホウ素修飾カーボンブラック、ホウ素が固溶あるいは修飾されていないカーボンブラック、カーボンナノチューブであることができる。
【0033】
これらの中でも、ホウ素固溶カーボンブラックあるいはホウ素修飾カーボンブラックが好適である。ホウ素固溶カーボンブラックは、不対電子を示すスピンがホウ素固溶量に比例して増加し、導電性が向上するので、ガス拡散層の厚さ及び面方向への導電性に優れ、発電性能の優れる燃料電池を製造することができるので好適である。カーボンブラックには、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラック、黒鉛化ブラックなどを用いることができる。また、ホウ素源には、ホウ素、ホウ酸、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチル、トリエチルボラン、トリブチルボラン、三塩化ホウ素、三弗化ホウ素、ジボランなどのホウ素を含む物質を用いることができる。このホウ素固溶カーボンブラックは、例えば、特開2000−281933号公報に記載の方法により作製できる。
【0034】
また、ホウ素修飾カーボンブラックは炭素とホウ素とが結合することにより正孔が形成された導電性の高いものであるため、ホウ素修飾カーボンブラックを含んでいることによって、ガス拡散層の厚さ及び面方向への導電性に優れ、発電性能の優れる燃料電池を製造することができるので好適である。このホウ素修飾カーボンブラックとは、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラック、黒鉛化ブラックなどのカーボンブラックの表面にホウ素が結合したものであり、例えば、特開2003−45434号公報に記載の方法、すなわちアセチレンガスとホウ酸トリメチルを予め所定量で混合し、約2000℃の反応層に噴霧して得ることができる。これらホウ素修飾カーボンブラックの中でも、不純物が少なく、導電性の低下を招かない、ホウ素修飾アセチレンブラックが好ましい。なお、ホウ素修飾カーボンブラックは比較的親水性が高く、保水性に優れるため、低湿度下における発電性能を高めることができるという付加的な効果も奏する。
【0035】
本発明のガス拡散層は撥水性の繊維多孔質基材に導電剤が充填されたものであるが、導電剤に加えて、フッ素樹脂も充填されているのが好ましい。フッ素樹脂が充填されていることによって、排水性が適度に向上し、燃料ガス(例えば、水素)及び/又は酸素含有ガス(例えば、酸素、空気)の物質移動に基づく抵抗、いわゆる拡散抵抗が低下する結果、これらの物質移動に基づく過電圧、いわゆる拡散過電圧(濃度過電圧)が低下しやすいためである。このフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオライド共重合体、テトラフルオロエチレン・ビニリデンフルオライド共重合体などを挙げることができる。
【0036】
以上のように、本発明のガス拡散層は撥水性の繊維多孔質基材に導電剤(好ましくはフッ素樹脂も)が充填されたものであり、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、ピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在するものである。例えば、導電剤(好ましくはフッ素樹脂も)の撥水性繊維多孔質基材への充填が不十分であると、撥水性繊維多孔質基材に起因する10μmを超えるような比較的大きい細孔直径のピークと、導電剤(フッ素樹脂を含む場合にはフッ素樹脂も)によって形成される多孔層に起因する1μm以下の比較的小さい細孔直径のピークの、2つのピークを有することになる結果、水を外部に排出してしまい、固体高分子膜の湿潤が不十分で、プロトンが移動しにくくなり、十分な発電性能を得られなくなるため、撥水性繊維多孔質基材全体に、十分かつ均一に導電剤(好ましくはフッ素樹脂も)充填し、前記細孔直径分布を有するようにする。
【0037】
このように十分かつ均一に導電剤(好ましくはフッ素樹脂も)を撥水性繊維多孔質基材に充填するには、例えば、導電剤を含む導電性ペースト(好ましくはフッ素樹脂も含む)を撥水性繊維多孔質基材に塗布し、ホットプレスするのが好ましい。また、ホットプレスにより見掛密度を調整することができ、表面を平滑にすることができる。表面が平滑であると、膜−電極接合体を作製するときに、ガス拡散層と触媒層、及びガス拡散層とセパレータとの接触面積を大きくすることができる。なお、ホットプレスの条件は特に限定するものではないが、例えば、温度50〜250℃、圧力6〜13MPaで10〜180秒間行うのが好ましく、温度50〜250℃、圧力8〜13MPaで10〜180秒間行うのがより好ましい。
【0038】
また、導電性ペーストが導電剤とフッ素樹脂とを含む場合、導電剤とフッ素樹脂との質量比率は50〜80:50〜20であるのが好ましく、60〜75:40〜25であるのがより好ましい。
【0039】
本発明のガス拡散層の見掛密度は0.5〜0.8g/cmであるのが好ましい。0.8g/cmよりも見掛密度が高いと、ガス拡散層本来の作用であるガスの透過、供給又は拡散が悪くなる傾向があるためで、他方、0.5g/cmよりも見掛密度が低いと、燃料電池のガス拡散層として実装する際に見掛密度が極端に変化し、バイポーラプレートのガスを供給する溝に食い込んで溝を塞いでしまい、効率的にガスを供給することが難しくなる傾向があり、また、見掛密度が低いと体積抵抗が高くなり、導電性が悪くなる傾向があるためである。なお、見掛密度は目付(単位:g/cm)を厚さ(単位:cm)で割った値である。
【0040】
なお、ガス拡散層の目付、厚さは特に限定するものではないが、体積抵抗が小さくなるように、目付は20〜120g/mであるのが好ましく、厚さは40〜150μmであるのが好ましい。
【0041】
本発明の膜−電極接合体は前述のようなガス拡散層を備えているため、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保ちやすいため、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池を製造できるものである。また、繊維多孔質基材が撥水性であるため排水性が適度に高く、燃料ガス(例えば、水素)及び/又は酸素含有ガス(例えば、酸素、空気)の物質移動に基づく抵抗、いわゆる拡散抵抗が低下する結果、これらの物質移動に基づく過電圧、いわゆる拡散過電圧(濃度過電圧)が低下し、発電性能の優れる燃料電池を製造することができる。
【0042】
本発明の膜−電極接合体は前述のようなガス拡散層を備えていること以外は従来の膜−電極接合体と全く同様であることができる。例えば、ガス拡散層と触媒層とからなるガス拡散電極は、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコールジメチルエーテルなどからなる単一あるいは混合溶媒中に、触媒(例えば、白金などの触媒を担持したカーボン粉末)を加えて混合し、これにイオン交換樹脂溶液を加え、超音波分散等で均一に混合して触媒分散懸濁液を調製し、この触媒分散懸濁液をガス拡散層表面にコーティング又は散布し、乾燥し、触媒層を形成することにより製造することができる。また、固体高分子膜としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂膜、スルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜、アルキルスルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜などを用いることができる。膜−電極接合体は、例えば、一対のガス拡散電極のそれぞれの触媒層の間に固体高分子膜を挟み、熱プレス法によって接合して製造できる。
【0043】
なお、本発明のガス拡散層を正極に使用した場合には、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができ、また、負極に使用した場合には、正極から逆拡散してきた水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができる。
【0044】
本発明の燃料電池は前述のガス拡散層を備える膜−電極接合体を含む燃料電池であるため、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保ちやすいため、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池である。また、繊維多孔質基材が撥水性であるため、排水性が適度に高く、燃料ガス(例えば、水素)及び/又は酸素含有ガス(例えば、酸素、空気)の物質移動に基づく抵抗、いわゆる拡散抵抗が低下する結果、これらの物質移動に基づく過電圧、いわゆる拡散過電圧(濃度過電圧)が低下し、発電性能の優れる燃料電池であることができる。
【0045】
本発明の燃料電池は前述のようなガス拡散層を備える膜−電極接合体を含んでいること以外は従来の燃料電池と全く同様であることができる。例えば、前述のような膜−電極接合体を1対のバイポーラプレートで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。バイポーラプレートとしては、導電性が高く、ガスを透過せず、ガス拡散層にガスを供給できる流路を有するものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、カーボン成形材料、カーボン−樹脂複合材料、金属材料などを用いることができる。なお、燃料電池は、膜−電極接合体を1対のバイポーラプレートで挟んで固定したセル単位を複数積層することによって製造することができる。
【実施例】
【0046】
(撥水性繊維多孔質基材の準備)
まず、ガス拡散層のベースとなる撥水性繊維多孔質基材を用意した。この撥水処理前の繊維多孔質基材として、ガラス繊維不織布、有機繊維不織布、及び市販のカーボンペーパー(東レ(株)製、商品名:TGP−H−060、目付:83.5g/m)を準備した。
【0047】
なお、ガラス繊維不織布は、Eガラス(繊維径:7μm、繊維長:13mm)を常法の湿式抄造法により繊維ウエブを形成した後、アクリル樹脂を主成分とするバインダとポリ酢酸ビニルバインダとを固形分質量比1:1で混合した混合バインダを含浸(固形分接着剤量:15mass%)し、乾燥し、接着して製造したガラス繊維不織布A(目付:11g/m、厚さ:110μm)、又は同様に形成した繊維ウエブにエポキシ樹脂を含浸(固形分接着剤量:15mass%)し、乾燥し、接着して製造したガラス繊維不織布B(目付:11g/m、厚さ:110μm)である。
【0048】
また、有機繊維不織布は、ポリプロピレン繊維(繊維径:7μm、繊維長:13mm)を常法の湿式抄造法により繊維ウエブを形成した後、アクリル樹脂を主成分とするバインダとポリ酢酸ビニルバインダとを固形分質量比1:1で混合した混合バインダを含浸(固形分接着剤量:15mass%)し、乾燥し、接着して製造した有機繊維不織布A(目付:4g/m、厚さ:110μm)、又はポリエチレンテレフタレート繊維(繊維径:7μm、繊維長:13mm)を用いて湿式抄造法により形成した繊維ウエブにエポキシ樹脂を含浸(固形分接着剤量:15mass%)し、乾燥し、接着して製造した有機繊維不織布B(目付:6g/m、厚さ:110μm)である。
【0049】
これらの不織布を市販のPTFEディスパージョン『D−210C』(ダイキン工業(株)製、商品名)を水で希釈した溶液(固体分2質量%)に含浸し、温度60℃の熱風乾燥機によって乾燥させた後、加熱炉にて、窒素雰囲気中、350℃で1時間焼結し、撥水性ガラス繊維不織布A、B、及び撥水性有機繊維不織布A、Bをそれぞれ製造した。この撥水処理により、いずれの撥水性不織布も撥水処理により目付が1g/m増加した。
【0050】
また、市販のカーボンペーパー(東レ(株)製、商品名:TGP−H−060)を用意し、前記と同様に撥水処理し、撥水性カーボンペーパーを製造した。この撥水性カーボンペーパーは撥水処理により目付が8g/m増加した。
【0051】
(導電性ペーストの準備)
(1)ホウ素固溶アセチレンブラックと、市販のPTFEディスパージョン『D−210C』(ダイキン工業(株)製、商品名)とを固形分質量比60:40で混合し、水・エタノール混合溶液(体積比2:3)を溶媒として撹拌・分散処理を行い、固形分10質量%の導電性ペースト(以下、「第1導電性ペースト」という)を調製した。
【0052】
(2)上記と同じホウ素固溶アセチレンブラックと、市販のPTFE『ルブロン(登録商標)L−5』(ダイキン工業(株)製、商品名)とを60:40の質量比で混合し、乳鉢で粉砕した後、水・エタノール混合溶液(体積比2:3)を溶媒として充分に撹拌・分散させ、固形分5.7質量%の導電性ペースト(以下、「第2導電性ペースト」という)を調製した。
【0053】
(3)上記と同じホウ素固溶アセチレンブラックと市販のPVDF((株)クレハ製、商品名:KFポリマー)とを質量比75:25で混合し、N−メチルピロリドン溶媒に攪拌・分散させ、固形分12質量%の導電性ペースト(以下、「第3導電性ペースト」という)を調製した。
【0054】
(実施例1〜14、比較例1〜6)
表1及び表2に示すように、前記撥水性繊維多孔質基材に対して、第1導電性ペースト、第2導電性ペースト又は第3導電性ペーストを塗布してガス拡散層を製造した。
【0055】
より具体的には、第1導電性ペーストを用いる場合には、ペーストを塗布し、温度60℃の熱風乾燥機によって乾燥させた後、加熱炉にて、窒素雰囲気中、350℃で1時間焼結し、圧力3〜15MPa、温度170℃、時間30秒間の条件でホットプレスを行い、見掛密度及び細孔直径を調節して、ガス拡散層を製造した。
【0056】
また、第2導電性ペーストを用いる場合には、ペーストを塗布し、温度60℃の熱風乾燥機によって乾燥させた後、加熱炉にて、窒素雰囲気中、350℃で1時間焼結し、ガス拡散層を製造した。
【0057】
更に、第3導電性ペーストを用いる場合には、ペーストを塗布し、水浴中に30分間浸漬して水溶媒置換した後に、温度60℃の熱風乾燥機によって乾燥させ、そして圧力6.5〜13MPa、温度170℃、時間30秒間の条件でのホットプレスを行い、見掛密度及び細孔直径を調節して、ガス拡散層を製造した。
【0058】
表1は、これらガス拡散層の材料構成、ホットプレス条件、目付、厚さ、見掛密度、並びに細孔直径(水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおけるピーク)をまとめたものである。同表中、撥水性ガラス繊維不織布Aについては「ガラスA」と表記し、撥水性ガラス繊維不織布Bについては「ガラスB」と表記し、撥水性有機繊維不織布Aについては「有機A」と表記し、撥水性有機繊維不織布Bについては「有機B」と表記し、撥水性カーボンペーパーは「炭素」とそれぞれ表記している。また撥水処理を施していないガラス繊維不織布Aについては「非撥水ガラスA」と表記した。さらに、第1導電性ペーストは「第1」と表記し、第2導電性ペーストは「第2」、第3導電性ペーストは「第3」とそれぞれ表記している。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
(触媒層の作製)
エチレングリコールジメチルエーテル10.4gに対して、市販の白金担持炭素粒子(石福金属(株)製、炭素に対する白金担持量40質量%)を0.8g加え、超音波処理によって分散させた後、市販の5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(米国シグマ・アルドリッチ社製、商品名)4.0gを加え、更に超音波処理により分散させ、更に攪拌機で攪拌して、触媒ペーストを調製した。
【0062】
次いで、この触媒ペーストを支持体(商品名:ナフロン(登録商標)PTFEテープ、ニチアス(株)製、厚さ0.1mm)に塗布し、熱風乾燥機によって60℃で乾燥し、当該支持体に対する白金担持量が0.5mg/cmの触媒層を作製した。
【0063】
(固体高分子膜−触媒層接合体の作製)
まず、固体高分子膜として、Nafion 112(登録商標、米国デュポン社製)を用意し、この固体高分子膜の両面に、前記触媒層を夫々積層した後、温度135℃、圧力2.6MPa、時間2分間の条件でホットプレスにより接合し、固体高分子膜−触媒層接合体を作製した。
【0064】
(燃料電池評価用セルによる発電評価)
前記固体高分子膜−触媒層接合体の両面に、実施例1〜14又は比較例1〜6のガス拡散層をそれぞれ積層し、膜−電極接合体(MEA)とした後、締め付け圧3.0N・mで固体高分子形燃料電池セル『As−510−C25−1H』(商品名、エヌエフ回路設計ブロック(株)製)に組み付けて、発電性能を評価した。この標準セルは、バイポーラプレートを含み、MEAの評価試験に用いるものである。なお、同じ膜−電極接合体(MEA)においては、同じガス拡散層を正極側、負極側の両方に使用した。
【0065】
発電は負側に水素ガス、正極側に酸素ガスを夫々500mL/分の流量で供給して行い、エヌエフ回路設計ブロック(株)製の発電評価装置によって、電位−電流曲線を測定した。この際、セル温度は80℃であり、負極並びに正極の加湿のために、水素ガス及び酸素ガスを温度40℃の飽和水蒸気で満たされた加湿機を通過させた後に、燃料電池内部に供給した。この電位−電流曲線は図11〜図13に示す通りであった。
【0066】
この図11から、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、1つだけピークを有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲にある実施例1〜7のガス拡散層を備えた膜−電極接合体は、前記細孔直径が0.01μm未満、又は1μmを超える比較例1〜3に比べて、大きな電流を流すことができ、優れた発電特性を発揮し得ることが確認された。
【0067】
また図12から、撥水性繊維多孔質基材を用いたガス拡散層を備えた膜−電極接合体と、撥水性ではない繊維多孔質基材を用いたガス拡散層を備えた膜−電極接合体との対比、つまり、実施例2と比較例4、実施例5と比較例5、及び実施例7と比較例6との対比から、高電流域においても、燃料ガス(水素)及び/又は酸素含有ガス(酸素)の物質移動に基づく抵抗、いわゆる拡散抵抗が低下する結果、これらの物質移動に基づく過電圧、いわゆる拡散過電圧(濃度過電圧)が低下することにより、発電性能の高いことが確認された。
【0068】
更に、図13から、撥水性繊維多孔質基材に撥水性ガラス繊維不織布B、撥水性有機繊維不織布A又は撥水性有機繊維不織布Bを用い、導電性ペーストに「第3導電性ペースト」を用いたガス拡散層を備えた膜−電極接合体(実施例8〜14)の発電特性は、実施例1〜7の場合と同等であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のガス拡散層及び膜−電極接合体は燃料電池用途に好適に使用できる。特に、本発明のガス拡散層及び膜−電極接合体を使用すれば、低湿度下においても発電性能の優れる燃料電池を製造することができる。
【符号の説明】
【0070】
11a (負極側)バイポーラプレート
11c (正極側)バイポーラプレート
13a (負極側)ガス拡散層
13c (正極側)ガス拡散層
15a (負極側)触媒層
15c (正極側)触媒層
17a 負極
17c 正極
19 固体高分子膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水性の繊維多孔質基材に導電剤が充填されたガス拡散層であり、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、ピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在するガス拡散層。
【請求項2】
請求項1に記載のガス拡散層を備える膜−電極接合体。
【請求項3】
請求項1に記載のガス拡散層を備える膜−電極接合体を含む燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−129290(P2011−129290A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284810(P2009−284810)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】