説明

ガス拡散層及びそれを用いた燃料電池

【課題】フラッディングを抑制しガス透過性能が高いガス拡散層及びそれを用いた燃料電池を提供する。
【解決手段】複数の粒子を備えたガス拡散層であって、ガス拡散層の主面25に対して平行な面内に第1領域21と第2領域22とが設けられ、第1領域21における、水に対する接触角の平均の値、粒子どうしの間の間隔の平均の値、及び、粒子の粒径の平均の値、の少なくともいずれかは、第2領域22とは異なることを特徴とするガス拡散層が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス拡散層及びそれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス拡散層は、例えば燃料電池に用いられる。燃料電池の用途は家庭用から産業用まで多岐に渡り、自動車、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどのモバイル機器など様々な製品に応用されている。
【0003】
燃料電池においては、燃料のアルコールから水が生成される。液体の水が、ガス拡散層中に過多となると、水が凝集し、ガス拡散層の多孔質カーボンの空孔を塞ぎ、酸素ガスの透過を阻害するフラッディングが発生する。
【0004】
例えば、燃料電池において、アルコール濃度の分布が不均一となることがある。例えば、アルコール燃料の注入口に近い領域ではアルコール濃度が高く、注入口から離れた領域ではアルコール濃度が低くなる。アルコール濃度が高い領域では、空気極側電極触媒における反応で生成される液体水の量が多くなり、フラッディングが生じ易くなり、燃料電池の発電効率が低下する。
【0005】
なお、特許文献1では、ガス拡散層の厚さ方向に向かってガス透過性能を異ならせる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−324104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フラッディングを抑制しガス透過性能が高いガス拡散層及びそれを用いた燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、複数の粒子を備えたガス拡散層であって、前記ガス拡散層の主面に対して平行な面内に第1領域と第2領域とが設けられ、前記第1領域における、水に対する接触角の平均の値、前記粒子どうしの間の間隔の平均の値、及び、前記粒子の粒径の平均の値、の少なくともいずれかは、前記第2領域とは異なることを特徴とするガス拡散層が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、上記のガス拡散層と、前記ガス拡散層の前記主面に対向して設けられた空気極側電極と、前記ガス拡散層の前記空気極側電極とは反対の側に設けられた燃料極側電極と、前記ガス拡散層と前記燃料極側電極との間に設けられた空気極側電極触媒と、前記空気極側電極触媒と前記燃料極側電極との間に設けられた高分子固体電解質膜と、前記高分子固体電解質膜と前記燃料極側電極との間に設けられた燃料極側電極触媒と、前記燃料極側電極触媒と前記燃料極側電極との間に設けられた燃料極側ガス拡散層と、を備えたことを特徴とする燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フラッディングを抑制しガス透過性能が高いガス拡散層及びそれを用いた燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係るガス拡散層の構成を例示する模式図である。
【図2】第1の実施形態に係るガス拡散層が用いられる燃料電池の構成を例示する模式図である。
【図3】第1の実施形態に係るガス拡散層及び燃料電池の特性を例示する模式図である。
【図4】第1の実施形態に係る別のガス拡散層の特性を例示する模式図である。
【図5】第1の実施例に係るガス拡散層の特性を例示するグラフ図である。
【図6】第2の実施例に係るガス拡散層の特性を例示する模式図である。
【図7】第2の実施形態に係るガス拡散層の構成を例示する模式図である。
【図8】第2の実施形態に係る別のガス拡散層の構成を例示する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
また、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施形態に係るガス拡散層の構成を例示する模式図である。
すなわち、同図(a)は模式的斜視図であり、同図(b)は同図(a)の矢印Bの方向からみたときの模式的平面図であり、同図(c)は同図(a)及び(b)のA−A’線断面図である。
図2は、第1の実施形態に係るガス拡散層が用いられる燃料電池の構成を例示する模式図である。
すなわち、同図(a)は模式的斜視図であり、同図(b)は同図(a)のC−C’線断面図である。
まず、図2により、本実施形態に係るガス拡散層が用いられる燃料電池の概略の構成について説明する。
【0014】
図2に表したように、燃料電池110は、ガス拡散層20を有する。
燃料電池110においては、空気極側電極10、ガス拡散層20、空気極側電極触媒30、高分子固体電解質膜40、燃料極側電極触媒50、燃料極側ガス拡散層60、及び、燃料極側電極70がこの順に積層されている。ガス拡散層20は、空気極側のガス拡散層である。
【0015】
ここで、この積層方法をZ軸方向とし、Z軸方向に対して垂直な1つの軸をX軸方向とし、Z軸方向とX軸方向とに対して垂直な方向をY軸方向とする。
【0016】
ガス拡散層20の主面25は、Z軸方向に対して垂直であり、X−Y平面に対して平行である。
【0017】
なお、図2に例示したように、燃料電池110において、空気極側電極10のガス拡散層20とは反対の側には、カバー91がさらに設けられ、燃料極側電極70の燃料極側ガス拡散層60とは反対の側には、燃料極側プレート92がさらに設けられる。
【0018】
そして、燃料極側プレート92の燃料極側電極70とは反対の側には、燃料タンク80が設置される。また、燃料タンク80には、燃料注入口81が設けられる。
【0019】
また、ガス拡散層20及び空気極側電極触媒30の側面、並びに、燃料極側電極触媒50及び燃料極側ガス拡散層60の側面には、シール93が設けられる。なお、図2(a)では、シール93は省略されている。
【0020】
燃料電池110は、例えば、アルコールを直接燃料とした燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell、直接メタノール形燃料電池)である。
【0021】
燃料タンク80には、アルコール燃料として例えばメタノールが収容される。メタノールは、燃料極側ガス拡散層60を透過し、燃料極側電極触媒50で、例えば以下の化学反応式(1)に示す反応が生じる。
【0022】

CHOH + HO → CO + 6H + 6e (1)

化学反応式(1)で生成されたプロトン(H)が高分子固体電解質膜40を透過し、空気極側電極触媒30に到達する。外気中から取り込まれた酸素ガス(O)により、空気極側電極触媒30では、以下の化学反応式(2)に示す反応が生じる。
【0023】

1.5O + 6H +6e → 3HO (2)

化学反応式(2)で生成された水(HO)は、ガス拡散層20に侵入し、ガス拡散層20の内部で気液平衡の状態に達する。気液平衡状態においては、液体である水と、気体である水蒸気と、が存在する。
【0024】
ガス拡散層20は、複数の粒子を備える。この粒子は、例えばカーボン粒子である。ガス拡散層20は、例えば、複数のカーボン粒子を有する多孔質カーボン層である。
【0025】
図1に表したように、ガス拡散層20の主面25に対して平行な面内に第1領域21と第2領域22とが設けられる。第1領域21における、粒子どうしの間の間隔の平均の値、粒子の粒径の平均の値、及び、水に対する接触角の平均の値、の少なくともいずれかは、第2領域22とは異なる。
【0026】
ここで、「粒子どうしの間の間隔の平均の値」は、複数設けられる粒子に関しての「粒子どうしの間の間隔」を平均した値である。「粒子の粒径の平均の値」は、複数設けられる粒子に関しての「粒子の粒径」を平均した値である。「水に対する接触角の平均の値」は、局所的な領域における「水に対する接触角」を平均した値である。
以下では、「粒子どうしの間の間隔の平均の値」を単に「粒子どうしの間の間隔」と言い、「粒子の粒径の平均の値」を単に「粒子の粒径」と言い、「水に対する接触角の平均の値」を単に「水に対する接触角」と言うことにする。
【0027】
すなわち、ガス拡散層20の主面25に平行な面内で、粒子どうしの間の間隔、粒子の粒径、及び、水に対する接触角、の少なくともいずれかが、異なる。
【0028】
本具体例では、第1領域21は、ガス拡散層20の1つの角部に配置されており、その角部以外の部分が、第2領域22となる。そして、第1領域21は、例えば、燃料タンク80の燃料注入口81の位置に対応している。
【0029】
例えば、第1領域21においては、第2領域22に比べて、相対的に保湿性を低くする。
【0030】
例えば、ガス拡散層20に含まれる粒子の水に対する接触角が比較的小さい場合(例えば90度以下の場合)は、第1領域21においては、第2領域22に比べて、相対的に、粒子どうしの間隔を大きくする。これにより、第1領域21における保湿性は、第2領域22よりも低くなる。
【0031】
また、例えば、ガス拡散層20に含まれる粒子の水に対する接触角が比較的小さい場合(例えば90度以下の場合)は、第1領域21においては、第2領域22に比べて、相対的に、粒子の粒径を大きくする。これにより、第1領域21における保湿性は、第2領域22よりも低くなる。
【0032】
一方、例えば、ガス拡散層20に含まれる粒子の水に対する接触角が比較的大きい場合(例えば90度よりも大きい場合)は、第1領域21においては、第2領域22に比べて、相対的に、粒子どうし間隔を小さくする。これにより、第1領域21における保湿性は、第2領域22よりも低くなる。
【0033】
また、例えば、ガス拡散層20に含まれる粒子の水に対する接触角が比較的大きい場合(例えば90度よりも大きい場合)は、第1領域21においては、第2領域22に比べて、相対的に、カーボン粒子の粒径を小さくする。これにより、第1領域21における保湿性は、第2領域22よりも低くなる。
【0034】
また、第1領域21においては、第2領域22に比べて、相対的に、水に対する接触角を大きくし、撥水性を高める。第1領域21においては、第2領域22よりも水に対する濡れ性が低い。これにより、第1領域21における保湿性は、第2領域22よりも低くなる。
【0035】
このように、第1領域21における、粒子どうしの間の間隔、粒子の粒径、及び、水に対する接触角、の少なくともいずれかを、第2領域22とは異ならせることで、例えば、アルコール燃料の濃度分布を補償し、フラッディングを抑制し、ガス透過性能を向上することができる。
【0036】
燃料電池110において生成される水の量が、ガス拡散層20の面内方向で不均一になることがある。
例えば、燃料注入口81に近い領域ではアルコール濃度が高く、燃料注入口81からの距離が大きくなるにつれてアルコール濃度が低くなる濃度分布が形成される。アルコール濃度が高い領域近傍のガス拡散層20の内部では、化学反応式(2)により生成された液体水が過多となり易く、その液体水が凝集してフラッディングが生じ易い。そして、液体水によってガス拡散層20の空孔が塞がれてしまい、外界から取り込まれる酸素ガスの拡散が阻害され、燃料電池110の発電能力が低下する。
【0037】
また、例えば、ガス拡散層20の周縁部と内部とで、水の集まり易さが異なることがある。例えば、ガス拡散層20の周縁部において、内部よりも、水が集まり易い場合がある。これによっても、水が過多な部分でフラッディングが生じ易くなる。
【0038】
これに対し、本実施形態に係るガス拡散層20においては、例えば、アルコール燃料の不均一な濃度分布に対応させて、ガス拡散層20における空孔径(粒子どうしの間隔)や粒径や撥水性を面内方向で変化させることにより、フラッディングを抑制し、ガス透過性能を向上させる。
【0039】
また、後述するように、ガス拡散層20の周縁部と内部とで、水の貯まり易さが異なる場合に、これに対応させて周縁部と内部とで、ガス拡散層20における空孔径や粒径や撥水性を変化させることにより、フラッディングを抑制し、ガス透過性能を向上させる。
【0040】
なお、特許文献1では、厚さ方向に対して多孔質カーボンの粒径や空孔径を変更する方法が提案されているが、この方法では、例えば面内方向で変化するアルコール濃度分布を補償することはできない。
【0041】
ガス拡散層20におけるガス透過性能及び保湿性は、ガス拡散層20の空孔径や粒径や撥水性を制御することで調整することができる。
【0042】
例えば、ガス拡散層20における空孔径が小さいと、ガス拡散層20における液体水が過多となり、表面張力により凝集して空孔を完全に塞いでしまい、ガス透過性能が低下する。ガス拡散層20における空孔径が大きいと、液体水が表面張力により空孔に付着するが、完全に空孔を塞ぐことはなく、ガス透過性能の低下は抑制される。このように、空孔径が小さいと保湿性が高まり、ガス透過性能は低下する傾向を示し、空孔径が大きいと保湿性が低下しガス透過性能は高まる傾向を示す。
【0043】
例えば、燃料極側ガス拡散層60におけるアルコール濃度の高低により、ガス拡散層20における水の量が変化する。
【0044】
図3は、第1の実施形態に係るガス拡散層及び燃料電池の特性を例示する模式図である。
すなわち、同図(a)は、燃料電池110におけるアルコール燃料の濃度Cfを例示しており、同図(b)は発生する水の量Qwを例示しており、同図(c)は、ガス拡散層20における粒子どうしの間隔である空孔径DSを例示しており、同図(d)はガス拡散層20における粒子の粒径DPを例示しており、同図(e)はガス拡散層20における水に対する接触角CAを例示している。これらの図の横軸は、ガス拡散層20の主面25に対して平行な平面内における基準点からの距離Dfである。この例では、基準点は、例えば燃料注入口81とされ、距離Dfは、燃料注入口81からの距離に相当する。
同図(c)及び(d)は、ガス拡散層20の撥水性が比較的小さく、ガス拡散層20の水に対する接触角が90度以下の場合について例示している。
【0045】
図3(a)に表したように、燃料注入口81に近い領域21aではアルコール濃度Cfが高く、燃料注入口81から遠い領域22aではアルコール濃度Cfが低い傾向となる。
【0046】
このため、図3(b)に表したように、燃料注入口81に近い領域21aでは、発生する水の量Qwは多く、燃料注入口81に近い領域21aでは、発生する水の量Qwが少ない傾向となる。
【0047】
この時、図3(c)に表したように、燃料注入口81に近い領域21aに相当する第1領域21においては、ガス拡散層20の空孔径DSは、燃料注入口81から遠い領域22aに相当する第2領域22よりも相対的に大きく設定される。これにより、第1領域21において多く生成される液体水を、第1領域21から第2領域22に移動させることができ、第1領域21における液体水の量を低減し、フラッディングを抑制することができる。これにより、ガス拡散層20のガス透過性能を向上することができる。
【0048】
例えば、液体水が多い燃料注入口81に近い領域21aに対応する第1領域21では、ガス拡散層20の空孔径DSを50nm(ナノメートル)以上200nm以下とするのが好ましい。ガス拡散層20における空孔径DSが200nmよりも大きいと、ガス拡散層20に適度な保湿性を付与できない可能性がある。また、空孔径DSが50nmよりも小さいと、ガス拡散層20に適度な排水性を付与できない可能性がある。
【0049】
そして、液体水が少ない燃料注入口81から離れた領域22aに対応する第2領域22ではガス拡散層20の空孔径DSを5nm以上50nm以下とするのが好ましい。ガス拡散層20における空孔径DSが50nmよりも大きいと、ガス拡散層20に適度な保湿性を付与できない可能性がある。また、空孔径DSが5nmよりも小さいと、ガス拡散層20に適度な排水性を付与できない可能性がある。
【0050】
ただし、本発明は上記に限らず、燃料注入口81に近い領域21aに対応する第1領域21と、燃料注入口81から離れた領域22aに対応する第2領域22とで、相対的に空孔径DSが異なっていれば良い。そして、例えば第1領域21の空孔径DSが、第2領域22の空孔径DSよりも、相対的に大きくされる。
【0051】
また、図3(d)に表したように、燃料注入口81に近い領域21aに相当する第1領域21においては、ガス拡散層20の粒子の粒径DPは、燃料注入口81から遠い領域22aに相当する第2領域22よりも相対的に大きく設定される。これにより、第1領域21において多く生成される液体水を、第1領域21から第2領域22に移動させることができ、第1領域21における液体水の量を低減し、フラッディングを抑制することができる。これにより、ガス拡散層20のガス透過性能を向上させることができる。
【0052】
例えば、液体水の量が多い燃料注入口81から近い領域21aに対応する第1領域21では、ガス拡散層20に含まれる粒子の粒径DPを2.0μm(マイクロメートル)以上10μm以下とするのが好ましい。粒径DPが10μmよりも大きいと、ガス拡散層20に適度な保湿性を付与できない可能性がある。また、粒径DPが2μmよりも小さいと、ガス拡散層20に適度な排水性を付与できない可能性がある。
【0053】
また、液体水が少ない燃料注入口81から離れた領域22aに対応する第2領域22では、ガス拡散層20に含まれる粒子の粒径DPを0.5μm以上2.0μm以下とするのが好ましい。粒径DPが2.0μmよりも大きいと、ガス拡散層20に適度な保湿性を付与できない可能性がある。また、粒径DPが0.5μmよりも小さいと、ガス拡散層20に適度な排水性を付与できない可能性がある。
【0054】
ただし、本発明は上記に限らず、燃料注入口81に近い領域21aに対応する第1領域21と、燃料注入口81から離れた領域22aに対応する第2領域22とで、相対的に粒径DPが異なっていれば良い。そして、例えば第1領域21の粒径DPが、第2領域22の粒径DPよりも、相対的に大きくされる。これにより、ガス拡散層20のガス透過性能を向上させることができる。
【0055】
また、図3(e)に表したように、燃料注入口81に近い領域21aに相当する第1領域21においては、ガス拡散層20の水に対する接触角CAは、燃料注入口81から遠い領域22aに相当する第2領域22よりも相対的に大きく設定される。すなわち、第1領域21における撥水性が、第2領域22よりも相対的に高くされる。これにより、第1領域21において多く生成される液体水を、第1領域21から第2領域22に移動させることができ、第1領域21における液体水の量を低減し、フラッディングを抑制することができる。これにより、ガス拡散層20のガス透過性能を向上させることができる。
【0056】
なお、本実施形態に係るガス拡散層20において、第1領域21と第2領域22の2つの領域が設けられるが、第1領域21と第2領域22との間に、第1領域21及び第2領域22の中間の特性を有する中間領域を設けても良い。
【0057】
第1領域21と第2領域22とにおいて、粒子どうしの間の間隔、粒子の粒径、及び、水に対する接触角、の少なくともいずれかが、不連続に変化しても良く、また、連続的に変化しても良い。すなわち、ガス拡散層20の主面25に対して平行な平面に沿って、粒子どうしの間の間隔、粒子の粒径、及び、水に対する接触角、の少なくともいずれかが、漸減または漸増しても良い。
【0058】
ガス拡散層20の厚さは、任意である。例えば、ガス拡散層20の厚さは、25μm〜100μmが好ましい。これにより、ガス透過性能が特に良好となる。
【0059】
ガス拡散層20のカーボンの粒子には、工業用として一般的に用いられているチャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックなどを用いることができる。
【0060】
ガス拡散層20の製造においては、例えば、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene、以降これを省略する)を含有する水とアルコールとが混合されたアルコール系溶媒中にカーボンの粒子を分散させ、粒子状の固体と液体との混合物を調製し、空気極側電極10の上にこの混合物を塗布し、乾燥する手法を用いることができる。なお、この塗布と乾燥とは繰り返して行うことができる。
【0061】
このとき、例えば、粒径DPが異なる粒子を用いた異なる混合物を用いることで、第1領域21と第2領域22とで粒径DPを変えることができる。また、表面状態が異なる粒子を用いた異なる混合物を用いることで、第1領域21と第2領域22とで水に対する接触角CAを変えることができる。さらに、均一なガス拡散層を作製した後、部分的に表面処理を行い、第1領域21と第2領域22とで水に対する接触角CAを変えることができる。また、これらの方法のいずれか2つ以上を同時に実施しても良い。
【0062】
図4は、第1の実施形態に係る別のガス拡散層の特性を例示する模式図である。
すなわち、図4(a)は、ガス拡散層20aに設けられる領域を例示しており図1(b)の平面図に対応する平面図である。図4(b)は、ガス拡散層20aにおける粒子どうしの間隔である空孔径DSを例示しており、図4(c)はガス拡散層20aにおける粒子の粒径DPを例示しており、図4(d)はガス拡散層20aにおける水に対する接触角CAを例示している。図4(b)〜図4(d)の横軸は、ガス拡散層20の主面25に対して平行な平面内の基準点からの距離Dfである。この例では、基準点は、例えば燃料注入口81とされ、距離Dfは、燃料注入口81からの距離に相当する。この場合には、基準点からの距離Dfは、ガス拡散層20aの主面25の対角線(D−D’線)に沿って変化する。
この場合も、図4(b)及び(c)では、ガス拡散層20の撥水性が比較的小さく、ガス拡散層20の水に対する接触角が90度以下の場合について例示している。
【0063】
図4(a)に表したように、第1領域21は、ガス拡散層20の1つの角部に設けられる。そして、第3領域23が、ガス拡散層20の周縁に沿って設けられる。そして、その角部及び周縁部を除く中央部分が第2領域22となる。そして、上記の角部は、例えば、燃料タンク80の燃料注入口81の位置に対応している。
【0064】
図4(b)〜(d)に表したように、第1領域21における、粒子どうしの間の間隔DS、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CAは、第2領域22とは異なる。具体的には、第1領域21においては、粒子どうしの間の間隔DSは第2領域22よりも大きく、粒子の粒径DPは第2領域22よりも大きく、水に対する接触角CAは、第2領域22よりも小さい。
【0065】
さらに、図4(b)〜(d)に表したように、第3領域23における、粒子どうしの間の間隔DS、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CAは、第2領域22とは異なる。具体的には、第3領域23においては、粒子どうしの間の間隔DSは第2領域22よりも大きく、粒子の粒径DPは第2領域22よりも大きく、水に対する接触角CAは、第2領域22よりも小さい。そして、本具体例では、第3領域23においては、粒子どうしの間の間隔DSは第1領域21よりも小さく、粒子の粒径DPは第1領域21よりも小さく、水に対する接触角CAは、第1領域21よりも大きい。
【0066】
第1領域21における作用は上記と同じなので説明を省略する。
ガス拡散層20aの周縁に設けられる第3領域23においては、第2領域22に比べて、相対的に、保湿性が低くされる。
例えば、一般に、ガス拡散層20aの周縁の部分は、生成された水が集まり易い場所になり、フラッディングが生じ易い。これに対し、本実施形態に係るガス拡散層20aにおいては、保湿性が低い第3領域23を設けることで、ガス拡散層20aの周縁の第3領域23の水を第2領域22に移動させ、第3領域23のフラッディングを抑制する。これにより、ガス透過性能をさらに向上できる。
【0067】
なお、上記の第3領域23における粒子どうしの間の間隔DS、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CAは、第1領域21と同じでも良い。また、第3領域23においては、粒子どうしの間の間隔DSは第1領域21よりも大きく、粒子の粒径DPは第1領域21よりも大きく、または、水に対する接触角CAは、第1領域21よりも小さくでも良い。
【0068】
なお、本発明の実施形態に係るガス拡散層において、第1領域21が設けられる位置は任意であり、第1領域21は、ガス拡散層の燃料注入口81に対応する位置の他、ガス拡散層の周縁部に設けても良い。すなわち、図4に例示した第3領域23の部分を、第1領域21としても良い。
すなわち、第1領域21は、ガス拡散層の周縁部に配置され、第2領域22は、ガス拡散層の周縁部よりも内側の内側部に配置されることができる。
【0069】
また、例えば、燃料注入口81が、ガス拡散層の主面25における中央部に配置される場合は、第1領域21は、ガス拡散層の主面25の中央部に設けることができる。また、第1領域21の数は任意であり、例えば、第1領域21は複数設けることもできる。
【0070】
(第1の実施例)
粒径DPが5.0μmのカーボン粒子を、PTFEを含有する水と、アルコールと、を含むアルコール系溶媒に分散させることにより、粒子状の固体と液体との混合物A1を調製する。
【0071】
また、粒径DPが1.0μmのカーボン粒子を、PTFEを含有する水と、アルコールと、を含むアルコール系溶媒に分散させることにより、粒子状の固体と液体との混合物B1を調製する。
【0072】
空気極側電極10の、燃料注入口81に近い領域21aに相当する部分に、混合物A1を塗布し、乾燥させることによりカーボン層A11を作製する。カーボン層A11の厚さは、50μmである。カーボン層A11が、ガス拡散層の第1領域21となる。
【0073】
一方、空気極側電極10の、燃料注入口81から離れた領域22aに相当する部分に、混合物B1を塗布し、乾燥させることによりカーボン層B11を作成する。カーボン層B11の厚さは50μmである。カーボン層B11が、ガス拡散層の第2領域22となる。
【0074】
これにより、主面25に対して平行な平面内で異なる粒径DPを有するガス拡散層20bを得る。すなわち、ガス拡散層20bにおいては、第1領域21における粒径DPが5.0μmで、第2領域22における粒径DPが1.0μmである。このように、このガス拡散層20bにおいては、燃料注入口81に近い領域21aに相当する第1領域21における粒径DPが、燃料注入口81から離れた領域22aに相当する第2領域22よりも大きい。
【0075】
一方、比較例として、空気極側電極10の全面に混合物B1を塗布し、乾燥させることによりカーボン層B12を形成し、比較例のガス拡散層29を作製する。このカーボン層B12の厚さは、50μmである。
【0076】
図5は、第1の実施例に係るガス拡散層の特性を例示するグラフ図である。
すなわち、同図の横軸は、空気極側電極触媒30で生成される液体水の量Qw1である。縦軸は、燃料注入口81に近い領域21aにおけるガス透過性能Gteである。なお、同図には、第1の実施例に係るガス拡散層20bの特性に加え、上記の比較例のガス拡散層29の特性も示されている。
【0077】
図5に表したように、比較例のガス拡散層29においては、生成される液体水の量Qw1が多くなるにつれ、ガス透過性能Gteが急速に低下する。そして、液体水の量Qw1がある値以上になると、ガスが実質的に透過しない状態となる。これは、比較例のガス拡散層29においては、粒径DPが1.0μmで一定であるため、液体水が増えるに従って、燃料注入口81に近い領域21aに対応する部分の空孔が液体水により塞がれ、塞がれる空孔の数が増すためである。そして、液体水が一定以上になると、空孔の全てが液体水によって塞がれ、ガスは透過できない状態となる。
【0078】
これに対し、第1の実施例に係るガス拡散層20bにおいては、生成される液体水の量Qw1が多くなっても、ガス透過性能Gteはあまり低下しない。第1の実施例に係るガス拡散層20bにおいては、燃料注入口81に近い領域21aに対応する第1領域21の粒径DPが5.0μmで、燃料注入口81から遠い領域22aに対応する第2領域22の粒径DPが1.0μmであり、第1領域21における粒径DPが大きい。このため、生成された水は、第1領域21から第2領域22に向かって移動し、第1領域21において空孔が塞がれる状態が抑制される。これにより、液体水が増えたときにおいても、第1領域21の空孔が液体水により塞がれることが抑制され、ガス透過性能Gteは、高い値を維持できる。
【0079】
(第2の実施例)
粒径DPが5.0μmのカーボン粒子を、PTFEを含有する水と、アルコールと、を含むアルコール系溶媒に分散させることにより、粒子状の固体と液体との混合物A2を調製する。混合物A2においては、カーボン粒子とPTFEとの質量比は、7:3に設定される。
【0080】
粒径DPが5.0μmのカーボン粒子を、PTFEを含有する水と、アルコールと、を含むアルコール系溶媒に分散させることにより、粒子状の固体と液体との混合物B2を調製する。混合物B2においては、カーボン粒子とPTFEとの質量比は、9:1に設定される。
【0081】
空気極側電極10の、燃料注入口81に近い領域21aに相当する部分に、混合物A2を塗布し、乾燥させることによりカーボン層A21を作製する。カーボン層A21の厚さは、50μmである。カーボン層A21が、ガス拡散層の第1領域21となる。混合物A2におけるカーボン粒子とPTFEとの質量比が7:3なので、混合物A2を用いたカーボン層A21は撥水性が高くなり、水に対する接触角CAが大きくなる。
【0082】
一方、空気極側電極10の、燃料注入口81から離れた領域22aに相当する部分に、混合物B2を塗布し、乾燥させることによりカーボン層B21を作成する。カーボン層B21の厚さは50μmである。カーボン層B21が、ガス拡散層の第2領域22となる。混合物B2におけるカーボン粒子とPTFEとの質量比が9:1なので、混合物B2を用いたカーボン層B21は、混合物A2を用いたカーボン層A21に比べて、撥水性が低くなり、水に対する接触角CAが小さくなる。
【0083】
これにより、主面25に対して平行な平面内で水に対する接触角CAが異なるガス拡散層20cを得る。すなわち、ガス拡散層20cにおいては、第1領域21における接触角CAは、第2領域22における接触角CAよりも相対的に大きくなる。このように、このガス拡散層20cにおいては、燃料注入口81に近い領域21aに相当する第1領域21における水に対する接触角CAが、燃料注入口81から離れた領域22aに相当する第2領域22の接触角CAよりも大きく、第1領域21の撥水性は第2領域22よりも高い。
【0084】
図6は、第2の実施例に係るガス拡散層の特性を例示する模式図である。
すなわち、同図は、ガス拡散層20cにおけるカーボンの粒子26の水に対する濡れ性を例示しており、同図(a)は第1領域21に対応し、同図(b)は第2領域22に対応する。
【0085】
図6(a)に表したように、混合物A2を用いた第1領域21においては、カーボンの粒子26は水27を弾き易い。第1領域21における水に対する接触角CAは、例えば135度である。
【0086】
図6(b)に表したように、混合物B2を用いた第2領域22においては、カーボンの粒子26は水27に濡れ易く、カーボンの粒子26は水27に取り囲まれる。第2領域22における水に対する接触角CAは、例えば45度である。
【0087】
このため、第1領域21から第2領域22に向かって水27が移動し易くなる。
これにより、第1領域21において空孔が塞がれる状態が抑制される。これにより、液体水が増えたときにおいても、第1領域21の空孔が液体水により塞がれることが抑制され、フラッディングを抑制し、ガス透過性能が高い。
【0088】
上記の第1の実施例及び第2の実施例では、第1領域21が燃料注入口81に対応した位置に設けられているが、第1領域21が設けられる位置は任意であり、ガス拡散層の周縁部に設けても良い。
【0089】
(第2の実施の形態)
図7は、第2の実施形態に係るガス拡散層の構成を例示する模式図である。
すなわち、同図(a)は模式的斜視図であり、同図(b)は同図(a)のA−A’線断面図である。
図7に表したように、本実施形態に係るガス拡散層20dにおいては、厚み方向(主面25に対して垂直な方向)に沿って、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかがさらに異なる。
【0090】
例えば、ガス拡散層20dにおいて、第1上領域121aと第1下領域121bとが、設けられる。第1上領域121aは、例えば、主面25の側であり、第1下領域121bは、主面25とは反対の側である。第1上領域121aは、例えば、ガス拡散層20dの空気極側電極10に対向する側に配置され、第1下領域121bは、ガス拡散層20dの空気極側電極触媒30に対向する側に配置される。
【0091】
また、ガス拡散層20dにおいて、第2上領域122aと第2下領域122bとが、設けられる。第2上領域122aは、例えば、主面25の側であり、第2下領域122bは、主面25とは反対の側である。第2上領域122aは、例えば、ガス拡散層20dの空気極側電極10に対向する側に配置され、第2下領域122bは、ガス拡散層20dの空気極側電極触媒30に対向する側に配置される。
【0092】
そして、第1上領域121aにおける、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかは、第2上領域122aとは異なる、及び、第1下領域121bにおける、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかは、第2下領域122bとは異なる、の少なくともいずれかである。すなわち、ガス拡散層20dの主面25に平行な面内に沿って、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかが異なる。
【0093】
さらに、第1上領域121aにおける、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかは、第1下領域122bとは異なる、及び、第2上領域122aにおける、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかは、第2下領域122bとは異なる、の少なくともいずれかである。すなわち、主面25に対して垂直な方向に沿って、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかがさらに異なる。
【0094】
このような構成のガス拡散層20dは、カーボン層を多層の積層構造とし、上側の層と下側の層とで、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかを変えて上側の層と、下側の層とを形成することで作製される。
【0095】
これにより、第1領域21と第2領域22とで特性を変えることによってフラッディングを抑制しガス透過性能を向上させる効果に加え、ガス排出性を制御し、燃料電池の発電効率をさらに向上させることができる。
【0096】
例えば、空気極側電極触媒30で生成される水の量が多い場合は、ガス拡散層20dの水の排出性を積極的に高める。このときは、例えば、空気極側電極10側の濡れ性を、空気極側電極触媒30側よりも高め、ガス拡散層20dから空気極側電極10に向かって水を移動させやすくする。これにより、水の排出性が高まる。
【0097】
このときには、第1上領域121aにおける粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)を第1下領域121bよりも小さくし、第1上領域121aにおける粒子の粒径DPを第1下領域121bよりも小さくし、及び、第1上領域121aにおける水に対する接触角CAを第1下領域121bよりも大きくする、の少なくともいずれかとする。
【0098】
また、第2上領域122aにおける粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)を第2下領域122bよりも小さくし、第2上領域122aにおける粒子の粒径DPを第2下領域122bよりも小さくし、及び、第2上領域122aにおける水に対する接触角CAを第2下領域122bよりも大きくする、の少なくともいずれかとする。
【0099】
一方、空気極側電極触媒30で生成される水の量が少ない場合は、ガス拡散層20dの水の排出性を積極的に高めず、燃料電池110内で水が循環し易いようにする。このとき、例えば、空気極側電極10側の濡れ性を、空気極側電極触媒30側よりも低くし、ガス拡散層20dから空気極側電極10に向かって水を移動し難くする。これにより、水の循環性が高まる。
【0100】
この時の各領域の特性は、空気極側電極触媒30で生成される水の量が多い場合の逆にすれば良い。
【0101】
これにより、フラッディングを抑制しガス透過性能を向上させると共に、ガス排出性を制御し、燃料電池の発電効率をさらに向上させることができる。
【0102】
なお、第1上領域121aと第1下領域122bとの境界は、第2上領域122aと第2下領域122bとの境界と一致しても良く、また、異なっていても良い。また、第1上領域121aと第2上領域122aとの境界は、第1下領域121bと第2下領域122bとの境界と一致しても良く、また、異なっていても良い。
【0103】
本具体例では、ガス拡散層20dにおいて厚み方向に沿って2つの領域が設けられる例であるが、厚み方向に沿って3つ以上の領域が設けられても良い。また、各領域におけるける粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかは、不連続に変化させても良く、また、連続的に変化させても良い。
【0104】
例えば、ガス拡散層20dが、3層以上の積層構造である場合には、上層と下層との間の中間層における粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかは、上層と下層との値の中間の値とすることができる。
【0105】
また、厚み方向の中心部において、上面及び下面よりも、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)が大きく、粒子の粒径DPが大きく、及び、水に対する接触角CAが小さい、の少なくともいずれかであっても良く、また、その逆でも良い。
【0106】
図8は、第2の実施形態に係る別のガス拡散層の構成を例示する模式的断面図である。 すなわち、同図は、図7(a)のA−A’線断面に相当する断面図である。
図8に表したように、本実施形態に係るガス拡散層20eにおいては、第1上領域121aと第2上領域122aと、下側領域123とが設けられている。
【0107】
第1上領域121aにおける、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかは、第2上領域122aとは異なる。
【0108】
第1上領域121a及び第2上領域122aの少なくともいずれかにおける、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかは、下側領域123とは異なる。なお、燃料電池において、第1上領域121a及び第2上領域122aは、空気極側電極10の側に配置されても良く、また、空気極側電極触媒30の側に配置されても良い。
【0109】
この場合にも、厚み方向に沿って、粒子どうしの間の間隔(空孔径DS)、粒子の粒径DP、及び、水に対する接触角CA、の少なくともいずれかが異なる。
【0110】
これにより、フラッディングを抑制しガス透過性能を向上させると共に、ガス排出性を制御し、燃料電池の発電効率をさらに向上させることができる。
【0111】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、本発明の実施形態に係るガス拡散層を用いた燃料電池110である。燃料電池110においては、本発明の実施形態に係るガス拡散層及びその変形のガス拡散層のいずれかを用いることができるが、以下では、上記のガス拡散層20を用いる場合として説明する。
【0112】
燃料電池110の構成は、図2に関して説明した通りである。
すなわち、燃料電池110は、ガス拡散層20と、空気極側電極10と、空気極側電極触媒30と、高分子固体電解質膜40と、燃料極側電極触媒50と、燃料極側ガス拡散層60と、燃料極側電極70と、を備える。
【0113】
ガス拡散層20の主面25に対向して、空気極側電極10が設けられる。そして、ガス拡散層20の空気極側電極10とは反対の側に、燃料極側電極70が設けられる。ガス拡散層20と燃料極側電極70との間に、空気極側電極触媒30が設けられる。空気極側電極触媒30と燃料極側電極70との間に、高分子固体電解質膜40が設けられる。高分子固体電解質膜40と燃料極側電極70との間に、燃料極側電極触媒50が設けられる。燃料極側電極触媒50と燃料極側電極70との間に、燃料極側ガス拡散層60が設けられる。
【0114】
本実施形態に係る燃料電池110は、本発明の実施形態に係るガス拡散層20を用いているので、フラッディングが抑制され、ガス透過性能が向上され、発電効率が高い。
【0115】
燃料電池110は、燃料極側電極70に併置された燃料タンク80をさらに備えることができる。燃料タンク80は、燃料供給口81を有する。ガス拡散層20の第1領域21は、燃料供給口81に近い領域であり、第2領域22は、第1領域21よりも燃料供給口81からの距離が遠い領域とすることができる。これにより、燃料注入口81からの距離によって変化するアルコール燃料の濃度分布を補償することができ、フラッディングを抑制し、ガス透過性能を向上させ、高い発電効率を得ることができる。
【0116】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、ガス拡散層を構成する粒子、燃料電池を構成する空気極側電極、空気極側電極触媒、高分子固体電解質膜、燃料極側電極触媒、燃料極側ガス拡散層、燃料極側電極等の各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0117】
その他、本発明の実施の形態として上述したガス拡散層及びそれを用いた燃料電池を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全てのガス拡散層及びそれを用いた燃料電池も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0118】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【符号の説明】
【0119】
10…空気極側電極、 20、20a〜20e、29…ガス拡散層、 21…第1領域、 21a…領域、 22…第2領域、 22a…領域、 23…第3領域、 25…主面、 26…粒子、 27…水、 30…空気極側電極触媒、 40…高分子固体電解質膜、 50…燃料極側電極触媒、 60…燃料極側ガス拡散層、 70…燃料極側電極、 80…燃料タンク、 91…カバー、 92…燃料極側プレート、 93…シール、 110…燃料電池、 121a…第1上領域、 121b…第1下領域、 122a…第2上領域、 122b…第2下領域、 123…下側領域、 CA…接触角、 Cf…濃度、 DP…粒径、 DS…空孔径(粒子どうしの間の間隔)、 Df…距離、 Gte…ガス透過性能、 Qw、Qw1…量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子を備えたガス拡散層であって、
前記ガス拡散層の主面に対して平行な面内に第1領域と第2領域とが設けられ、
前記第1領域における、水に対する接触角の平均の値、前記粒子どうしの間の間隔の平均の値、及び、前記粒子の粒径の平均の値、の少なくともいずれかは、前記第2領域とは異なることを特徴とするガス拡散層。
【請求項2】
前記第1領域は、前記ガス拡散層の周縁部に配置され、前記第2領域は、前記ガス拡散層の前記周縁部よりも内側に配置されることを特徴とする請求項1記載のガス拡散層。
【請求項3】
前記主面に対して垂直な方向に沿って、水に対する接触角の平均の値、前記粒子どうしの間の間隔の平均の値、及び、前記粒子の粒径の平均の値、の少なくともいずれかが異なることを特徴とする請求項1または2に記載のガス拡散層。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のガス拡散層と、
前記ガス拡散層の前記主面に対向して設けられた空気極側電極と、
前記ガス拡散層の前記空気極側電極とは反対の側に設けられた燃料極側電極と、
前記ガス拡散層と前記燃料極側電極との間に設けられた空気極側電極触媒と、
前記空気極側電極触媒と前記燃料極側電極との間に設けられた高分子固体電解質膜と、
前記高分子固体電解質膜と前記燃料極側電極との間に設けられた燃料極側電極触媒と、
前記燃料極側電極触媒と前記燃料極側電極との間に設けられた燃料極側ガス拡散層と、
を備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
前記燃料極側電極に併置され、燃料供給口を有する燃料タンクをさらに備え、
前記第1領域は、前記燃料供給口に近い領域であり、
前記第2領域は、前記第1領域よりも前記燃料供給口からの距離が遠い領域であることを特徴とする請求項4記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−65917(P2011−65917A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216707(P2009−216707)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】