説明

ガス拡散電極およびそれを生産するプロセスおよびその使用

本発明は、円滑表面を有する触媒層を有するガス拡散電極を生産するプロセスを記載し、この触媒層の円滑表面は、湿潤状態にあるこの触媒層を移送膜と接触させる工程、および乾燥後移送膜を除去する工程によって生産される。改変例Aでは、触媒層は、最初、移送膜上で生成され、次に湿潤状態でガス拡散層に移送される。改変例Bでは、触媒層はガス拡散層に付与され、そして移送膜が次いで上部に配置される。両方の場合で、このように生産された構造物は、次いで乾燥される。さらなるプロセッシングの前に、移送膜が除去され、25ミクロン未満の最大プロフィールピーク高さ(Rp)を有する円滑触媒表面を有するガス拡散電極を与える。これら電極は、燃料電池またはその他の電気化学デバイスのための膜−電極アセンブリを生産するために用いられる。本発明のガス拡散電極を備える膜−電極アセンブリは非常に良好な長期間挙動を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(説明)
本発明は、電気化学の分野に関し、そして円滑面を有するガス拡散電極(GDE)およびそれを生産するプロセスおよびその使用を記載する。これらの電極は、燃料電池、膜燃料電池(PEM、DMFC)、電気分解槽(electrolyser)またはセンサーのような、電気化学デバイスのための膜電極アセンブリ(MEA)を生産するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、2つの電極で別個の位置にある燃料と酸化剤とを電力、熱および水に転換する。水素、水素リッチガスまたはメタノールが燃料として供され得、そして酸素または空気が酸化剤として供され得る。燃料電池におけるエネルギー変換のプロセスは、特に高い効率を有する。この理由のため、燃料電池は、乗物、静止および携帯適用のためにますます増加して重要になっている。膜燃料電池(PEMFC、DMFCなど)は、それらのコンパクトな構成、それらの電力密度およびそれらの高い効率のために、上記で述べた分野での使用に特に適している。
【0003】
PEM燃料電池の鍵となる構成要素は、膜電極アセンブリ(MEA)である。この膜電極アセンブリはサンドイッチ様構造を有し、そして一般に5つの層:(1)アノードガス拡散層、(2)アノード触媒層、(3)イオノマー膜、(4)カソード触媒層および(5)カソードガス拡散層を備える。ここで、上記アノードガス拡散層(1)は、上記アノード触媒層(2)とともに、アノード側にガス拡散電極(GDE)を形成し;上記カソードガス拡散層(5)は、上記カソード触媒層(4)とともにカソード側にガス拡散電極(GDE)を形成する。5層の膜電極アセンブリの概略構造は、図1aに示される。
【0004】
5層MEAの生産において、イオノマー膜(3)の前側および後側に2つの触媒で被覆されたガス拡散層(またはガス拡散電極、GDE)を位置決めし、そしてそれらを一緒にプレスしてMEAを形成することが通常である。しかし、MEAを生産するためのその他のプロセス、例えば、触媒で被覆されたイオノマー膜(触媒被覆膜間、CCM)を用いることもまた可能である。
【0005】
本特許出願は、触媒で被覆されたガス拡散層の生産に関し;このような層は、本明細書では以後、上記で示されたように、ガス拡散電極(GDE)と称される。本発明のGDEは、電気化学的デバイスのため、特に、膜燃料電池のための膜電極アセンブリの生産で有用である。
【0006】
ガス拡散電極(GDE)は、一般に、ガス拡散層を触媒インクで被覆することによって生産される。このガス拡散層は、カーボンファイバーペーパー、カーボンファイバー不織布、織られたカーボンファイバー織物、ファイバーガーゼなどのような、多孔性の電気的に伝導性の炭素含有材料を含み得、そして、通常、フッ素含有ポリマー(PTFE、ポリテトラフルオロエチレンなど)によって疎水性処理される。それらは、従って、反応ガスが触媒層への容易な接近を得ること、そして形成された電池電流および水が容易に離れて輸送されることを可能にする。さらに、上記ガス拡散層は、それらの表面上に、一般に伝導性カーボンブラックおよびフッ素含有ポリマーを含む補償層(「ミクロ層」)を有し得る。
【0007】
アノードおよびカソードのための触媒層は、個々の反応(水素の酸化または酸素の還元)を触媒する電気触媒を含む。触媒的に活性な成分として、優先度は、元素の周期表の白金族の金属(Pt、Pd、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Ir)を用いることに与えられる。大部分の事例では、使用は、支持された触媒からなされ(例えば、40重量%Pt/C)、そこでは、触媒として活性な白金族金属が、微細に分割された形態で伝導性支持材料、例えば、カーボンブラックの表面に付与された。これら触媒層は、さらに、プロトン伝導性ポリマーおよび/またはイオノマーを含み得る。
【0008】
一般に、上記ガス拡散電極は、積層プロセスによって、すなわち、高められた圧力および高められた温度の支援とともに物理的にポリマー電解質膜に結合される。この目的のために、上記電極およびポリマー電解質膜は、例えば、熱プレスプロセスで(例えば、特許文献1を参照のこと)、連続的または非連続的いずれかでプレスまたは積層される。
【0009】
上記ポリマー電解質膜(「イオノマー膜」とも呼ばれる)は、通常、プロトン伝導性ポリマー材料を含む。優先度は、酸官能基、特にスルホン酸基を有するテトラフルオロエチレン−フルオロビニルエーテルを用いることに与えられる。このような材料は、例えば、E.I.DuPontによって商標名Nafion(登録商標)の下で市販されている。しかし、その他、特に、スルホン酸化ポリエーテルケトンまたはアリールケトンまたはポリベンズイミダゾールのような、フッ素フリーのイオノマー材料を用いることもまた可能である。このような膜は、代表的には、30〜200ミクロンの厚みを有している。
【0010】
薄い膜(すなわち、50ミクロン未満の厚みを有する膜)は、強い熱ストレスおよび機械的ストレスのために積層の間に損傷され得る。
【0011】
従来のGDEの欠点は、それらが比較的粗く、不均質な触媒表面を有することである。このような粗い触媒表面を有するGDEがイオノマー膜と一緒にプレスされると、膜に対する上記に記載の損傷が生じ得る。
【0012】
GDEの触媒表面が突出する点または比較的粗い粒子を有するとき、これらは、積層の間に膜を穿孔し得、そしてこれら膜中にピンホールを形成し得る。これらのピンホールは、次いで、MEA中に熱スポットを生じ、短絡を生じ、そして全体のPEMスタックの未成熟欠陥に至り得る。この燃料電池の寿命は、結果として、顕著に短縮化される。
【0013】
しかし、膜穿孔のみならず、その他の膜損傷(例えば、不均質性、薄くなる領域)もまたこの積層プロセスで生じ得る。このような損傷はまた、長期間作動におけるMEAの性能の有意な低下に至り得る。
【0014】
非特許文献1を参照のこと。
【0015】
突出するカーボンファイバーに起因する膜損傷は、文献からかつて公知である。
【0016】
特許文献2は、ガス拡散層(GDL)およびガス拡散電極(GDE)を生産するプロセスを記載し、そこでは、連続的ローリングプロセスが、ミクロ層または触媒層の表面を円滑にするために用いられる。このプロセスは、100ミクロン未満の所定の表面粗さを有するGDLおよびGDEに至る(Rt;DIN ISO 4287に従う、プロフィールの総高さ)。
【0017】
特許文献3は、ガス拡散層が、触媒で被覆される前に基板を均一にするためにローリングプロセスにおいて特定厚みにするプロセスを記載している。
【0018】
特許文献4は、平坦な織られた繊維の布を備え、そして25%を超えて圧縮される予備圧縮されたガス拡散層を開示する。このようなガス拡散層は、短絡の低減されたリスクを示す。
【0019】
しかし、すべてが圧縮またはローリングステップを包含する上記で述べたプロセスは、ガス拡散層およびGDEが、高い圧縮圧力の結果として損傷され得るか、または変化し得るという欠点を有している。例えば、不適切な圧縮圧力では、感受性のカーボンファイバー材料はもろくなり得るか、またはその中にひびが形成され得る。さらに、圧縮条件に依存して、上記層の微細構造(ポアサイズ、ポア容量、疎水性/親水性性質)が変更され得る。上記触媒層の表面は、このような圧縮またはローリングプロセスによっては円滑にするのが不十分であることがまた見出されている。
【特許文献1】欧州特許第EP 1 198 021号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第EP 1 365 462 A2号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0197525号明細書
【特許文献4】国際公開第WO03/092095号パンフレット
【非特許文献1】V.StanicおよびM.Hoberecht、「水素および酸素で作動されるPEM燃料電池におけるMEA欠陥機構」 Abstracts Fuel Cell Seminar、San Antonio/Texas、2004年11月、85f頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、本発明の目的は、特に円滑な触媒表面を有するガス拡散電極(GDE)を提供することである。さらに、ガス拡散層が損傷され得る圧縮またはローリングステップなくして、このようなガス拡散電極を生産するためのプロセスが提供されるべきである。このプロセスは、実施するのが簡単で、多能かつ連続的製造のために適しているべきである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のGDEを用いて生産される膜−電極アセンブリは、膜燃料電池の長期間作動にために特に適している。
【0022】
この目的は、請求項1に提示されるようなガス拡散電極を生産するためのプロセスの提供によって達成される。このプロセスの有利な実施形態は、従属請求項2〜13に示されている。
【0023】
この目的はまた、請求項14〜16に提示されるような新規なガス拡散電極の提供により、そして膜−電極アセンブリを生産するためのその使用によって達成される。
【0024】
本発明は、カーボン含有ガス拡散層および円滑表面を有する触媒層を備えるガス拡散電極を生産するためのプロセスを記載し、ここで、この触媒層の円滑表面は、湿潤状態にあるこの触媒層を移送膜と接触させる工程、および、乾燥後、この移送膜を除去する工程によって生産される。
【0025】
第1の実施形態(改変例A)では、本発明は、ガス拡散電極を生産するためのプロセスを提供し、このプロセスは、以下のステップ:
a)移送膜を触媒インクで被覆すること、
b)移送膜とともに湿潤触媒層をガス拡散層の表面に移送すること、
c)この構造を乾燥すること、
d)上記触媒層から上記移送膜を除去すること、を包含する。
【0026】
第2の実施形態(改変例B)では、本発明は、ガス拡散電極を生産するためのプロセスを提供し、このプロセスは、以下のステップ:
a)ガス拡散層を触媒インクで被覆すること、
b)移送膜を湿潤触媒層の表面に付与すること、
c)この構造を乾燥すること、
d)上記移送膜を上記触媒層から除去すること、を包含する。
【0027】
両方のプロセス改変例では、ガス拡散電極は、カーボン含有ガス拡散層および触媒層を備え、そしてこの触媒層の表面に付与された移送膜を有するガス拡散電極がステップc)で得られる。移送膜の除去の後、本発明のガス拡散電極は、円滑表面を有する触媒層を有する。この円滑表面は、25ミクロンより少ない、好ましくは22ミクロンより少ない、最大プロフィールピーク高さ「Rp」(DIN ISO 4287に従って測定される)を有する。上記触媒層からの上記移送膜の除去は、上記プロセスの経過の間に直接実施され得るが、この移送膜はまた、このガス拡散電極のさらなるプロセッシングの前でのみ除去され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本出願人による、公開された欧州特許出願第1 365 464号は、ガス拡散層の表面を均一にするための連続ローリングプロセスを記載し、これらのガス拡散層は、触媒層とともに、またはそれなしで生産され得る。この表面粗さを特徴付けるために、DIN ISO 4287に従う、プロフィールの総高さ(「表面粗さ」、「Rt」)が採用される。この値は、以下の等式によって与えられる:
Rt=Rp+Rv (1)
ここで、この等式中の値「Rp」は、単一測定長さl内の最大プロフィールピーク高さである。同様に、値「Rv」は、単一測定長さl内の最大プロフィール谷深さである。プロフィールの総高さ「Rt」は、式(1)に従ってこれら2つのパラメーターの合計によって与えられる。
【0029】
欧州特許第1 365 464号では、この表面粗さ「Rt」は、ガス拡散層の表面の性質を特徴付けるために用いられ、Rt<100ミクロンの値は、低い表面粗さを表し、そしてMEA積層プロセスにおいて小さい程度の膜への損傷に至る。パラメーター「開放電池電圧」(OCV)が、積層プロセスにおける膜への損傷の尺度として採用される。高いOCV値(代表的には970mVを超える)は、欧州特許第1 365 464号のガス拡散層を用いて生産されたMEAの特徴である。
【0030】
さらなる研究の経過において、開放電池電圧(OCV)は、MEAの性質を説明するには十分でないことが見出された。GDLおよびGDEの表面の性質のより正確な特徴付けは、特に、MEAの長期間性質および寿命を特徴付けるために必要である。MEAの長期間性質は、<100ミクロンの低い表面粗さ(=プロフィールの総高さ「Rt」)に加え、値「Rp」(「最大プロフィールピーク高さ、測定l内の最も大きいプロフィールピークの高さ」)がまた特に低く、そして25ミクロン以下、好ましくは22ミクロン以下の範囲であるときさらに改善され得ることが見出された。
【0031】
驚くべきことに、プロフィールの総高さ(「Rt」)および最も大きいプロフィール谷の深さ(最大プロフィール谷深さ「Rv」)が、MEAの良好な長期間性質のために従属して重要であることが見出された。従って、従来法により、および本発明に従って生産されたGDEは、両方の場合で、<100ミクロンのRt値およびRv値を有するが、25ミクロン未満のRp値を有する電極のみが、それとともに生産された膜−電極アセンブリについて良好な長期間結果を与える(図3を参照のこと)。
【0032】
表面の性質を特徴付けるためのパラメーターの測定は、DIN ISO 4287に従うプロフィール法によって実施される。このプロセスは、非接触の、白色光距離測定を含む。この距離測定では、標本は、センサーによってキセノンまたはハロゲンランプからの焦点集めされた白色光で照射される。焦点集めされた光が表面に衝突するとき、この光は、焦点集めされない光とは対照的に、最適に反射される。大きな色収差(レンズの波長依存性屈折率)を有する受動光学は、白色光を、異なる色の焦点に垂直方向、そしてそれ故、高さに分解する。反射された光の波長(色)は、校正表を経由して、センサーから標本までの距離を示し、そしてそれ故、高さ情報を与える。本明細書で記載される測定値は、FRT、Fries Research & Technology、D−51429 Bergisch−Gladbachからの「MicroProf(登録商標)」器具を用いて実施された。測定長さ「l」は40mmであり、そして線当たり20.000測定点が記録される。
【0033】
特に低い最大プロフィールピーク高さ(「Rp」)を有する、本発明のガス拡散電極を生産するプロセスが以下に説明される。
【0034】
それは、基本的に、触媒層が、湿潤状態で移送膜の円滑表面と接触されるステップを包含する。この構造物は、次いで乾燥され、そして上記移送膜は、円滑表面を有する触媒層を生産するように除去される。このプロセスでは、上記触媒層は、インク/ペーストの手段によって生産される。ここで、2つの改変例が可能である:
改変例A(図2および実施例1を参照のこと)では、触媒インクは、最初、移送膜に付与され、そしてこの移送膜に付与された湿潤触媒層が、ガス拡散層(GDL)上に移される。これは、ガス拡散層を湿潤層に付与することにより、またはそれに代わって、移送膜を裏返しにし、そしてそれを湿潤触媒層とともにガス拡散層の下方に配置する。両方の場合において、結果として形成される複合構造物(移送フィルム/触媒層/ガス拡散層)は乾燥される。さらなる使用の前に、この移送膜は除去され、円滑触媒表面を有するGDEを生じる。このプロセスは、触媒インクでGDLを直接被覆する欠点(例えば、基板を通るインクの通過、またはポアのブロック)を防ぐ。さらに、付与される触媒の量(Ptのmg/cmで表される触媒負荷)は、ガス拡散層の性質とは大いに独立しており、これは、電極のEM負荷における減少した動揺をもたらす。
【0035】
改変例B(図2および実施例2を参照のこと)では、触媒インクがガス拡散層に付与される。適切な移送膜が、次いで、湿潤触媒層上に広げられる。複合構造(移送膜/触媒層/ガス拡散層)が次いで乾燥される。乾燥後、移送膜は除去され、円滑触媒表面を有するGDEを生じる。この改変例は、移送膜の直接被覆が免除されるという利点を有している。
【0036】
このプロセスで生産される中間産物(すなわち、GDL/触媒層/移送膜構造、図1bを参照のこと)は、乾燥前後で電極前駆体として貯蔵され得る。触媒層は、移送膜(6)によって被覆されるので、空気からの塵およびその他の粒子の堆積に対して保護される。移送膜は、ガス拡散電極のエッジと重複し得、そしてこの場合、保護および被覆機能を同時に実施し、その結果、このような電極中間産物の比較的長い貯蔵および輸送が問題なくして実施され得る。MEAを生産するために膜で被覆されたガス拡散電極の使用の前に、移送膜または保護膜(6)は除去される。
【0037】
両方の改変例AおよびBにおける本発明のプロセスは、連続的に、例えば、ロール−ロール(roll−to−roll)プロセスで実施され得、そして膜−電極アセンブリの製造のための連続ラインにおいて、さらなるプロセス、例えば、次の積層プロセスと一体化され得る。この場合、個々のプロセスステップは、ストリップ様材料を用いて実施され;このために必要な設備および手段は、当業者に周知である。
【0038】
移送膜またはガス拡散層への触媒インクの付与は、従来の被覆方法、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、ステンシル印刷、噴霧、ブラッシング、ドクターブレード被覆、ローラー被覆、ローリングなどによって連続的または非連続的に実施され得る。適切な方法は、当業者に公知である。
【0039】
触媒インクまたはペーストは、個々の付与方法に一致され、そして有機溶媒、例えば、グリコールおよびアルコール、イオノマーおよび添加物を含み得る;それはまた、水を基礎にし得る。適切な触媒インクは、例えば、欧州特許第EP 945 910号または欧州特許第EP 987 777に記載される。
【0040】
移送膜として、使用は、触媒インクまたは触媒層に一致される湿潤挙動および剥離挙動を有する少なくとも1つの表面を有する薄い基板からなされる。この表面は、非常に円滑で、かつ低い最大プロフィールピーク高さRpを有するべきである。触媒インクでの被覆上の表面の良好な湿潤性、そしてまた良好な剥離挙動、すなわち、膜が乾燥後容易に剥離されることを可能にすることの両方を示すプラスチック膜を用いることへの優先度が与えられる。このような膜は、特有の技法によって、表面処理され得、シールされ、または被覆され得る。
【0041】
特に適切な膜は、シリコン処理されたポリエチレンまたはポリプロピレン膜、シリコン処理されたポリエステル膜、種々の製造業者から市販され利用可能な剥離紙または特殊な剥離膜(例えば、「LPDE−4P剥離膜Film16.000」、Huhtamaki Deutschland GmbH、D−37077 Goettingen)である。勿論、それらが触媒層に対して良好な湿潤および剥離挙動を示す限り、その他の膜材料を用いることが可能である。移送膜は、一般に、10〜200ミクロン、好ましくは20〜100ミクロンの厚みを有する。
【0042】
移送膜の被覆の後(改変例A)、ミクロ層ありまたはなしのガス拡散層が、湿潤触媒層に付与される。これは、僅かに加圧下、例えば、ローラーを経由して制御されるか、または手動で円滑化することにより行われる。基板の全面積が湿潤触媒層と接触されることが所望される。GDLのタイプおよびその表面の性質に依存して、これは、代表的には、実質的に圧力なしに、または1N/cm未満である僅かな圧力下で行われる。この目的のために用いられるローラーは、加熱され得るか、または非加熱であり得る。類似の手順が、ガス拡散層が最初に触媒インクで被覆されるとき(改変例B)採用され得、そして移送膜が湿潤触媒層に付与される。
【0043】
両方の改変例で、複合構造(移送膜/触媒層/ガス拡散層)は、引き続き、乾燥プロセスに供される。乾燥は、従来方法、例えば、対流乾燥、熱空気乾燥、IR乾燥、照射乾燥、マイクロ波乾燥またはそれらの組み合わせによって実施され得;それは、連続または回分プロセスで実施され得、そして一般に50〜150℃の範囲で実施される。移送膜をともなうガス換算電極は、中間産物として得られる。GDEのさらなるプロセッシングの前に、移送膜は除去され、そして再び用いられることができるかも知れない。このプロセスによって単純な様式で生産されたガス拡散電極は、触媒層の非常に円滑な表面を有する。それらの最大プロフィールピーク高さ(「Rp」)は、25ミクロン未満、好ましくは22ミクロン未満である。このガス拡散電極は、膜−電極アセンブリを生産するために用いられ、その目的のためには、連続または非連続形態にある従来の積層およびローラープロセスを用いることが可能である。
【0044】
以下の実施例は、本発明を例示する。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
移送膜の被覆をともなうプロセス(改変例A)
ガス拡散層(Sigracet 30BC、疎水性処理、ミクロ層を備える、SGL、Meitingen、Germanyから)をサイズに切断し、そして秤量する。
【0046】
移送膜(シリコン処理PE膜、Nordenia International AG、D−48577 Gronauから)をサイズ(厚み:50ミクロン、寸法:10×10cm)に切断する。支持されたPt触媒を含む触媒インク(40重量%Pt/C、Umicore、Hanauから)、Nifion(登録商標)溶液(水中10重量%、DuPontから)、有機溶媒および水は、移送膜の被覆された側上にスクリーン印刷によって印刷される(印刷フォーマット:7.1×7.1cm、活性領域:50cm、触媒負荷:0.2mgのPt/cm、アノード側としての使用)。
【0047】
ガス拡散層は、ミクロ層ともに、湿潤触媒層に対して下方で中央に配置される。基板を、次いで、裏返しにし、そして移送膜の後側を、コットンクロスで円滑にする。任意の気泡はこのようにして除去される。
【0048】
この複合構造(移送膜/触媒層/ガス拡散層)は、次いで、ベルトドライヤー中、熱空気の下、最大95℃で数分間乾燥される。
【0049】
第2のガス拡散電極が、次いで、触媒負荷を2倍にして生産される(触媒負荷:0.4mgのPt/cm)。この第2のガス拡散電極は、カソード側のために用いられる。
【0050】
さらなるプロセッシング(イオノマー膜との積層)の前に、移送膜は除去され、そして触媒表面が剥き出る。GDEの触媒表面は、以下の表面性質を有している(DIN ISO 4287による線測定、測定長さ:40mm、20.000測定点/線、6測定の平均、FRT−Microprof(登録商標)):
最大プロフィールピーク高さRp: 21.5ミクロン
最大プロフィール谷深さRv: 63.1ミクロン
表面粗さ: 84.6ミクロン
膜−電極アセンブリは、得られるガス拡散電極(アノードGDEおよびカソードGDE)から、アノードGDE、イオノマー膜(Nafion(登録商標)NR111、DuPont、USAから)およびカソードGDEを、水力プレス中150N/cm、150℃で30秒間プレスすることにより生成される。このようにして生産されたMEAの電気化学的性質は、次いで、PEM燃料電池試験装置中の単一の電池中で測定される。
【0051】
このMEAは、水素/空気作動(電池温度:80℃、圧力:1.5barr、化学量論2/2)において非常に良好な長期間挙動を示す。従って、400mA/cmの電流密度における電池電圧は、500時間を超える長期間の作動の後に650mVで一定である(図3を参照のこと)。
【0052】
(実施例2)
ガス拡散膜の被覆をともなうプロセス(改変例B)
ガス拡散層(Sigracet 30BC、疎水性処理、ミクロ層を備える、SGL、Meitingen、Germanyから)をサイズに切断し、そして秤量する。
【0053】
支持されたPt触媒を含む触媒インク(40重量%Pt/C、Umicore、Hanau)、Nifion(登録商標)溶液(水中10重量%、DuPontから)、有機溶媒および水は、ガス拡散層上にスクリーン印刷によって印刷される(印刷フォーマット:7.1×7.1cm、活性領域:50cm、触媒負荷:0.2mgのPt/cm、アノード側としての使用)。
【0054】
移送膜(シリコン処理PE膜、Nordenia International AG、D−48577 Gronau)をサイズ(厚み:50ミクロン、寸法:10×10cm)に切断し、そして処理された側を湿潤触媒層湿潤触媒層に対して下方にして配置する。移送膜の後側を次いでコットンクロスで円滑にする。任意の気泡は、このようにして除去される。
【0055】
この複合構造は、次いで、ベルトドライヤー中、熱空気の下、最大95℃で数分間乾燥される。カソードのためのガス拡散電極が、触媒負荷を2倍にして生産される(触媒負荷:0.4mgのPt/cm)。さらなるプロセッシング(イオノマー膜との積層)の前に、移送膜は除去され、そして触媒表面が剥き出る。
【0056】
GDEの触媒表面は、以下の表面性質を有している(DIN ISO 4287による線測定、測定長さ:40mm、20.000測定点/線、6測定の平均、FRT−Microprof(登録商標)):
最大プロフィールピーク高さRp: 16.0ミクロン
最大プロフィール谷深さRv: 34.3ミクロン
表面粗さ: 50.3ミクロン
膜−電極アセンブリは、得られるガス拡散電極(アノードGDEおよびカソードGDE)から、実施例1に記載のように生産される。このMEAは、水素/空気作動(電池温度:80℃、圧力:1.5barr、化学量論2/2)において非常に良好な長期間挙動を示す。
【0057】
(比較例(比較例1))
この比較例は、触媒層の円滑化なくして従来の被覆プロセスを起債する。
【0058】
2つのガス拡散層(Sigracet 30BC、疎水性処理、ミクロ層を備える、SGL、Meitingen、Germanyから)をサイズに切断し、そして秤量する。
【0059】
支持されたPt触媒を含む触媒インク(40重量%Pt/C、Umicore、Hanau)、Nifion(登録商標)溶液(水中10重量%、DuPontから)、有機溶媒および水は、第1のガス拡散層上にスクリーンにより印刷される(印刷フォーマット:7.1×7.1cm、活性領域:50cm、触媒負荷:0.2mgのPt/cm、アノード側としての使用)。第2のガス拡散層が、触媒負荷を2倍にして生産される(触媒負荷:0.4mgのPt/cm、カソード側としての使用)。
【0060】
このようにして生産されたガス拡散電極は、次いで、ベルトドライヤー中、熱空気の下、最大95℃で数分間乾燥される。このGDEの触媒表面は、以下の表面性質を有している(DIN ISO 4287による線測定、測定長さ:40mm、20.000測定点/線、6測定の平均、器具:FRT−Microprof(登録商標)):
最大プロフィールピーク高さRp: 32.3ミクロン
最大プロフィール谷深さRv: 57.7ミクロン
表面粗さ: 90.0ミクロン
膜−電極アセンブリは、この2つのガス拡散電極から、実施例1に記載のように生産される。このMEAは、連続的水素/空気作動で乏しい長期間挙動を示す(電池温度:80℃、圧力1.5barr、化学量論:2/2、図3を参照のこと)。操作の開始後直ぐに、電池電圧における認知可能な減少が生じる;約220時間後、電池電圧は、300mV未満の値に低下する。これは、このMEAが長期間作動のために適切ではないことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】記載なし
【図2】記載なし
【図3】記載なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン含有ガス拡散層、および円滑表面を有する触媒層を備えるガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、該触媒層の円滑表面が、湿潤状態にある触媒層を移送膜と接触させる工程、および乾燥後該移送膜を除去する工程により産生される、プロセス。
【請求項2】
請求項1に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって:
a)移送膜を触媒インクで被覆する工程、
b)前記湿潤状態にある触媒層を前記移送膜とともにガス拡散層の表面に移送する工程、
c)得られた構造を乾燥する工程、
d)該触媒層から該移送膜を除去する工程、を包含する、プロセス。
【請求項3】
請求項1に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって:
a)ガス拡散層を触媒インクで被覆する工程、
b)前記湿潤状態にある触媒層の表面に移送膜を付与する工程、
c)得られた構造を乾燥する工程、
d)該触媒層から該移送膜を除去する工程、を包含する、プロセス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するプロセスであって、前記触媒層からの前記移送膜の除去が、該ガス拡散電極のさらなるプロセッシングの前に行われる、プロセス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、前記カーボン含有ガス拡散層が、カーボンファイバー不織布、織られたカーボンファイバー織物、カーボンファイバーペーパー、ファイバーガーゼまたは同等の基質を含む、プロセス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、前記カーボン含有ガス拡散層が、疎水性処理されているか、および/またはミクロ層を備える、プロセス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、前記触媒層が、貴金属、好ましくはカーボンブラック上に支持されたPt触媒を含む、プロセス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、前記触媒層が、スクリーン印刷、オフセット印刷、ステンシル印刷、噴霧、ブラッシング、ドクターブレード被覆、ローラー被覆またはローリングのような被覆方法によって、触媒含有インクの支援で前記移送膜または前記ガス拡散層に付与される、プロセス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、前記触媒層に対して良好な湿潤挙動および剥離挙動を有する少なくとも1つの表面を有する薄い基板が、移送膜として用いられる、プロセス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、シリコン処理ポリエチレン膜、シリコン処理ポリエステル膜、シリコン処理ポリプロピレン膜、被覆された剥離ペーパーもしくはその他の転写膜または保護膜のような表面処理膜が、移送膜として用いられる、プロセス。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、前記移送膜が、10〜200ミクロン、好ましくは20〜100ミクロンの範囲にある厚みを有する、プロセス。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、乾燥が、対流、熱空気、IR、照射、マイクロ波またはそれらの組み合わせによって実施され、該乾燥が、50〜150℃の範囲の温度で実施される、プロセス。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスであって、ここで、該プロセスの工程が、連続プロセスで実施される、プロセス。
【請求項14】
カーボン含有ガス拡散層および触媒層を備えるガス拡散電極であって、ここで、移送膜が該触媒層の表面に付与された、ガス拡散電極。
【請求項15】
前記触媒層が、前記移送膜の除去の後、25ミクロン未満、好ましくは22ミクロン未満の最大プロフィールピーク高さ(Rp、DIN ISO 4287に従って測定される)を有する円滑表面を有する、請求項14に記載のガス拡散電極。
【請求項16】
カーボン含有ガス拡散層、および円滑表面を有する触媒層を備え、該円滑表面が、25ミクロン未満、好ましくは22ミクロン未満の最大プロフィールピーク高さ(Rp、DIN ISO 4287に従って測定される)を有する、ガス拡散電極。
【請求項17】
膜燃料電池のための膜−電極アセンブリを生産するプロセスであって、カーボン含有ガス拡散層、および25ミクロン未満、好ましくは22ミクロン未満の最大プロフィールピーク高さ(Rp、DIN ISO 4287に従って測定される)を有する円滑表面を有する触媒層を備える少なくとも1つのガス拡散電極が、圧力および高められた温度下で、ポリマー電解質と積層される、プロセス。
【請求項18】
燃料電池、電気分解槽、センサーまたはその他の電気化学的デバイスのための膜−電極アセンブリを生産するための、請求項1〜13のいずれか1項に記載のガス拡散電極を生産するためのプロセスによって生産されたガス拡散電極の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−527659(P2008−527659A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550744(P2007−550744)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000157
【国際公開番号】WO2006/074901
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】