説明

ガス捕集装置

【課題】給電設備がない場所であっても、大気に含まれる特定の捕集対象ガスを長期間にわたり継続して捕集できるようにする。
【解決手段】本発明は、大気に含まれる捕集対象ガスを捕集するためのガス捕集部Fと、ガス捕集部Fを通じて大気を吸引するためのエアポンプCと、大気の吸引動作を所定の捕集期間にわたり継続して行わせるようにエアポンプCを駆動制御する吸引制御部Dと、この吸引制御部DとエアポンプCとに電力を供給する電源部Eとをケース10内に収容し、かつ、当該ケース10外から取り入れた大気に含まれる捕集対象ガスの捕集動作を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中に含まれる捕集対象ガスを所定の捕集期間にわたり継続して捕集するガス捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学物質を扱う事業所やその所管行政機関等は、その事業所等から大気に排出される化学物質であって毒性や関心の高い化学物質に対し、適切なサンプリング地点での濃度を測定することにより、基準値若しくは自主管理目標値等が守られていることを確認するとともに、必要に応じて地域住民に情報開示することが期待されている。
【0003】
しかし、事業所近傍の適切な測定地点には給電設備がないことが多く、そのような地点での科学的裏づけに基づく説得力のある長期間(例えば1週間)にわたり、上記毒性や関心の高い化学物質を連続捕集して測定するための装置を、これを持ち運びできる重量、かつ、捕集時及び捕集後分析までの間に反応によるロス等がないように実現することは、従来の真空容器によるガス捕集や電池の対重量比容量の限界で実現されていない。
【0004】
上記諸事情のために、自社の事業所から排出される大気をモニタリングするという企業の社会的責任や地元自治体の住民の安全確認は、多くの場合最低限の活動範囲に留まってしまうというのが現状である。
【0005】
特許文献1に開示されたガス捕集装置は、携帯用エアポンプの吸気側に捕集用のインピンジャを設けて、測定ガスを溶液に吸収して分析する目的において、捕集した空気の体積をガスバルブが一杯になった体積に相当するように工夫することにより、装置の簡素化を狙っている。
従って、一回の測定で測れる空気の体積は、可搬型の場合せいぜい数リットルである。また、室内のホルムアルデヒド測定のような、やや高濃度のガス測定を想定したもので、500リットル程度の大気を集めないと測定できない低濃度の大気モニタには原理的に対応しにくく、かつ屋外で150(cm)の高さの測定や長期間測定するための耐候性、信頼性については視野の外であった。
【特許文献1】特開平10−148603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、100(V)の交流電源を供給する給電設備がある場合には、長期間にわたる継続したガス捕集が可能ではあるが、設置場所の制限を受けるという問題がある一方、特許文献1に開示されたガス捕集装置では設置場所の制限は受けないものの、十リットル以下の空気のサンプル量では、最も説得力のある一週間以上の長期間のガス測定に必要なサンプル量を捕集できない。
【0007】
さらに、大気(ガス)の捕集は、所定の高さ(通常150cm)位置において行われなければならないが、特許文献1に記載のものでは、所定の高さ位置において大気の捕集を行うことを想定していないために、空気取入れ口からインピンジャーまで空気を持ってくる際のチューブの壁面吸着や折れ曲がり等の問題点を解決することができない。
さらにまた、特許文献1に開示されたガス捕集装置では、屋外で一週間使用するのに必要な風雨に関する密閉性や転倒防止の工夫も記述されておらず、さらには屋外の測定地点までの運搬方法についての記述もない。
【0008】
さらに、上記特許文献1に開示されたものの他、従来のガス捕集装置は、操作スイッチやメータが外部に露出した構造が一般的であり、密閉性を担保できないために雨水や埃に対しての防御が不十分である上、1週間以上の連続使用に耐えうる堅牢性を確保しにくく、しかもメンテナンスに労力を要するという欠点もある。
【0009】
そこで本発明は、給電設備がない場所であっても、大気に含まれる特定の捕集対象ガスを長期間にわたり継続して捕集できるガス捕集装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、大気に含まれる捕集対象ガスを捕集するためのガス捕集部と、ガス捕集部を通じて大気を吸引するためのエアポンプと、大気の吸引動作を所定の捕集期間にわたり継続して行わせるようにエアポンプを駆動制御する吸引制御部と、この吸引制御部とエアポンプとに電力を供給する電源部とを密封ケース内に収容し、かつ、当該密封ケース外から取り入れた大気の吸引動作を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガス捕集部を通じた大気の吸引動作を所定の捕集期間にわたり継続して行わせるようにエアポンプを駆動制御しているので、給電設備がない場所であっても、大気中に含まれる特定の捕集対象ガスを所定の捕集期間にわたり継続して捕集できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るガス捕集装置の概略構成を示すものであり、(A)はその平面図、(B)はその一部を断面にして示す正面断面図、図2は、図1に示すガス捕集装置の接続関係を示すブロック図、図3は、図1(B)に包囲線Iで示す部分の拡大図である。
【0013】
本発明の一実施形態に係るガス捕集装置Aは、大気取入れ部Bを密封ケース10外に立設しているとともに、エアポンプC、吸引制御部D、電源部E及びガス捕集部Fを上記密封ケース10内に収容し、かつ、当該ケース10外から取り入れた大気の吸引動作を行う構成のものであり、それらの詳細は次のとおりである。
【0014】
密封ケース10は、ケース本体11に、これの開口11aを開閉するための蓋体12を取り付けた構造になっており、例えばアルミニウム等の対候性の良好な材質により構成されている。
ケース本体11は、詳細を後述するエアポンプC、吸引制御部D、電源部E及びガス捕集部Fを収容できる容量を備えたものであり、平面視方形の底壁13の周囲に側壁14〜17を囲繞形成したものである。
【0015】
蓋体12は、周壁15の上辺縁15aに開閉自在に取り付けられており、ケース本体11の開口11aを密封するようになっている。「密封」とは水密的かつほぼ気密的に封止できるという意味であり、少なくとも所定の捕集期間において風雨や埃の悪影響がない構造にしている。
なお、少なくとも所定の捕集期間において風雨や埃の悪影響がない構造であれば、ケース10を密封構造にしなくてもよい。
本実施形態における「所定の捕集期間」は、約一週間程度の期間を想定しているが、数日若しくは一週間以上の期間も含まれる。
【0016】
ケース本体11内は、2つの収容室α,βが区画形成される側壁15,17の中央位置に、区画板20を上下方向aで摺動自在に保持する互いに対となる保持用突起21,21が配設されている。
【0017】
収容室α,βのうち、収容室αにはエアポンプC、吸引制御部D及び電源部Eが収容され、また、収容室βにはガス捕集部Fが収容されるとともに、運搬時においては分解された状態の大気取入れ部Bを収容するようになっている。
【0018】
側壁16の中央底部側には、大気取入れ用チューブTを挿通するための円形の貫通孔16aが形成されているとともに、その貫通孔16aにはチューブガイド材30が装着されている。
チューブガイド材30は、貫通孔16aに嵌合された円筒形のガイド部材31と、蓋部材32とからなる。
【0019】
ガイド部材31は、これの内端31aをケース本体11内に、また、外端31bを当該ケース本体11外にそれぞれ突出させられる全長に形成しているとともに、外端31bの外周壁には蓋部材32を螺合できる溝部(図示しない)が形成されている。
【0020】
蓋部材32は、基板32aの外周縁部に鍔部32bを全周にわたり形成したものであり、基板32aの中央に大気取入れ用チューブTを挿通するための挿通孔32cが開口されている。
ガイド部材31に大気取入れ用チューブTを挿通した状態で蓋部材32を、ガイド部材31に螺合すると、気密的かつ水密的に大気取入れ用チューブTを保持することができる。
【0021】
上記側壁16の外面には、詳細を後述する大気取入れ部Bを起立支持するための支持具40,41が、下記の中空支持管50を起立保持できる所要の間隔をおいて固着されている。
【0022】
大気取込み部Bは、密封ケース10に着脱自在に装着された金属製の中空支持管50内に、上端部に大気取入れ口Taを開口形成した大気取入れ用チューブTを内装したものである。大気取入れ口Taは、本実施形態においては、図1に示すようにやや下向きに曲成した状態にして、雨水等が浸入することを防いでいる。
【0023】
本実施形態における大気取入れ用チューブTは、ガスが吸着しにくいフッ素系樹脂により形成したものであるが、これに限るものではなく、例えばガスの吸着が問題とならない場合や捕集対象ガスの種類によっては他の樹脂により形成してもよい。
【0024】
フッ素系樹脂製のチューブは、柔軟性に欠けるために作業性が悪いものの、本実施形態においては、当該チューブの上端部の大気取入れ口Taから基端部の着脱口Tbまで繋ぎ目のない一連のものを採用している。
これにより、当該チューブの着脱箇所をガス捕集部Fの一部をなす除湿管60との着脱箇所だけに限定するようにして、チューブの着脱によるトラブルを少なくしている。また、チューブを中空支持管50に挿通することにより、当該チューブTの大気取入れ口Taを一定の高さ位置1.5(m)に保持しているとともに、野外に露出する部分を極力少なくしている。
【0025】
なお、フッ素系樹脂製のチューブの例えば外表面に、スパイラル状の連続した凹凸又は蛇腹形状の凹凸を形成することにより、当該チューブを中空支持管50に柔軟に挿入しやすくすると同時に、除湿管60との着脱動作の作業性を向上させることもできる。
【0026】
中空支持管50は、上記支持具40,41に基端部を支持されたときに、大気取入れ用チューブTの大気取入れ口Taの地表Gからの高さHが1.5(m)となる全長に形成されており、本実施形態においては3つの分割パイプを上下に連結することにより構成されている。
【0027】
大気取込み部Bの一部をなす大気取入れ用チューブTの着脱口Tbには、大気取入れ部Bを通じて取り入れられた大気に含まれる捕集対象ガスを捕集するためのガス捕集部Fと、このガス捕集部Fを通じて大気を吸引する吸引制御部Dとが上流側から下流側に向けて順に連結されている。換言すると、大気の吸入経路に沿って上流側から下流側に向けて順に連結している。
【0028】
図4は、区画板20と、これに搭載配設されたガス捕集部Fの詳細を示す詳細説明図である。
雨天時等、相対湿度が70(%)以上の状態が長時間続くとジクロロメタン等の沸点が低い物質は吸着容量が低下して十分な捕集ができなくなる。そこで、ガス捕集部Fを次のような構成とした。
【0029】
ガス捕集部Fは、取り入れた大気の湿度を所要の値に低減するための除湿管60と、この除湿管60から流出する大気に含まれる異なる捕集対象ガスをそれぞれ吸着捕集するための2つの捕集カラム61,62とからなり、上記した区画板20であって収容室βに臨む面20aに搭載配設されている。
【0030】
除湿管60は、所要の容量にしたガラス製の細長い円管体63内に除湿剤を収容したものであり、円管体63の一端部(上端部)には流入口64が、また、他端部(下端部)には除湿後の大気を流出させるための流出口65がそれぞれ形成されている。
流出口65には、除湿後の大気を捕集カラム61,62に分岐させるための分岐具66が連結されており、その分岐具66と、捕集カラム61,62とは、連結チューブ67,68が配設されている。
【0031】
除湿剤としては吸着性のあるシリカゲル、モレキュラーシーブ、炭酸カルシウム、塩化カルシウム,五酸化リンが知られているが、これらを用いると、大気中ガスの一部が吸着若しくは吸収によってロスすることが明らかになり、本実施形態においては、過塩素酸マグネシウムを用いることとした。
【0032】
一方の捕集カラム61は、所要の容量を有する円管体内に揮発性有機化合物類を吸着する活性炭系吸着剤を収容したもの、また、他方の捕集カラム62は、所要の容量を有する円管体内にシリカの表面にDinitrophenyl hydrazine Hydrochloride (DNPH)が存在する捕集剤を充填したカートリッジを収容したものである。
なお、捕集剤としては、上記したものに限らず、必要に応じて他の捕集剤を組み合わせてもよい。
【0033】
以上の構成により、一般的な揮発性有機化合物類から、アルデヒド類等の活性炭上で不安定な物質を同時に捕集することができる。換言すると、異なる種類の捕集対象ガスの捕集を同時に行うことができる。
【0034】
ところで、上記した所定の捕集期間の終了後に上記捕集剤を取り出し、また、除湿剤を交換する必要があるが、ガス捕集部Fを区画板20に搭載しているので、それらをまとめて取り出すことができ、その取扱いを容易に行えるようにしている。
また、大気取入り用チューブTを除湿管60から取り外すことにより、区画板20をケース本体11の外部に取り出せるようになる。これにより、捕集カラム61,62の回収作業や除湿管60の交換作業を容易に行えるようになり、作業性の向上と誤操作等のトラブルを防ぐことができる。
【0035】
エアポンプCは所謂ダイアフラムポンプであり、本実施形態においては、2つの捕集カラム捕集カラム61,62に対する吸引動作を一台のポンプにより行っている。
具体的には、2つのダイアフラムを1つのモータ(いずれも図示しない)により駆動する構成になっており、各ダイアフラム毎に、換言すると各捕集カラム毎に排気口71,72と吸気口73,74とが設けられている。
本実施形態においては、2つの捕集カラム61,62に対する吸引動作を一台のポンプにより行うことにより、消費電力の大幅な削減を実現している。
【0036】
キャピラリ80は、大気の吸引流量を増減調整するためのものであり、上記した所定の捕集期間に対応する長さ及び内径にして形成されている。図5は、キャピラリにより大気の吸引流量を増減調整する原理を説明するための説明図である。表1(A)は、ポンプ圧力とキャピラリの長さLとの関係を示し、また、(B)は、流量Fと、キャピラリの長さLとの関係を示している。なお、(B)に示すキャピラリと流量の関係は100V運転時のものである。
【表1】

【0037】
図5に示すように、キャピラリ80の長さをL(cm)、内径d(mm)、流通する空気の線流速u、キャピラリ80の前後(両端面間)の圧力差ΔPとの間には、次の関係式が成立する。なお、μ、ρはそれぞれ空気の粘度,密度である。
ΔP=(3ρμ2)/4+(32μLu)/d
ここで、捕集流量を決定すると、流通する空気の線流速uは内径dの関数となるため、上式はキャピラリ80の長さLと内径dの関数となる。
表1から明らかなように、キャピラリ80の長さLと内径dを、上記所定の捕集期間において、捕集カラム61,62に吸着される捕集対象ガスの量が最適となるように設定するのである。
本実施形態においては、互いに異なる所定の捕集期間に対応する長さ及び内径にした複数種類のキャピラリを用意しておき、それらを各捕集期間に対応して選択的にエアポンプの排出側、本実施形態においては、排気口に着脱自在に装着するようにしている。
なお、本実施形態においては示していないが、エアポンプの吸入側に着脱自在に装着しても同じ効果を得ることができる。
【0038】
流量制御のための条件については、数1に示す式を用いて設計できる。
【数1】

流量Fは、キャピラリの長さLと内径d、及びポンプ性能を示すΔP、流体、すなわち空気の物性μ、ρから求められるので、他の条件が一定ならば、長さLと内径dの組み合わせの異なるキャピラリに交換して使用することで所定流量が実現する。
本発明の大気捕集装置運転において必要な流量は200(ml/min)以下であり、使用するポンプは差圧が30,000(Pa)で十分である。従って、仮に上限となる200(ml/min)を流すとして、常温常圧における空気の物性及びポンプ差圧60,000Pa、表1の式からキャピラリ長50(m)とすると、内径は1.2×10−3(m)となる。
キャピラリ長は50(m)を最大として任意であるから、長さの短縮に応じて内径は小さくなる。したがって、本装置におけるキャピラリは、長さ50(m)以下、内径は1.4×10−3(m)以下のものを使用すればよい。
キャピラリの材質としては、ガラス、ステンレス、フッ素系樹脂等のプラスチック、又はガスクロマトグラフィ等で使用されるキャピラリカラムを選択できる。
また、キャピラリを装置に組み込むときには、巻回して収納することも可能であり、この場合収納スペースを有効に活用できる。
長さについては、例えば巻回収納することことができるステンレスやフッ素系樹脂、キャピラリカラム等を考えた場合、容易に形状を変化させることにより例えば全長50(m)のものであっても装置内に組み込むことができる。また、ガラスカラム等であれば1(cm)程度まで短くすることも可能である。
数1を用いて設計したときの理論的流量と実測値は表1(B)に示すように非常によい一致を見ている。
また、本装置の流量安定性は表2に示すとおりであり、一週間捕集で3(%)未満の流量低下に収まっている。
【表2】

【0039】
・充電方法と動作時間
バッテリ(電源部)の充電はGS製BC−3A2−12VTにより行い、満充電からオートストップされるまで充電した。この時の電圧は約13(V)となった。
ここから、インバータ、キャピラリを付加したエアポンプで運転を開始した際の電圧変化を表3に示す。
【表3】

電圧は運転開始から穏やかに低下し、1週間で約12(V)、2週間で約11(V)になり、その後、11(V)を下回った辺りから急速に低下し、400時間弱で電圧が3(V)程度でエアポンプは停止した。よって、通常の鉛バッテリの性質から判断して、200回程度は1週間捕集が可能であると推測される。
【0040】
吸引制御部DはDC−AC変換回路を有し、電源部Eから出力される直流を発振回路(図示しない)によって所要の周波数からなる交流に変換する機能、すなわち、所謂インバーター制御を行うことにより、エアポンプCの回転を増減制御(可変)するものである。
具体的には、数十(V)の交流に変換してダイアフラムポンプを駆動することにより消費電力の大幅な節減を実現しており、これにより、10(kg)以下の小型の電池を使用しても、一週間以上の捕集動作を継続して行うことができる。
「捕集動作を継続して行う」とは、連続した捕集動作の他、例えば一定の時間間隔で断続する捕集動作を含むものである。
なお、DC−AC変換回路と交流ポンプを用いる代わりに、直流電圧変換回路と適切な省電力直流ポンプを組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本実施形態においては、一週間程度の捕集期間と、二週間程度の捕集期間の二つの捕集期間に対応する切替えスイッチ(図示しない)が設けられており、必要に応じて切り替えられるようにしているが、予め定めた一つの捕集期間に対応したものとしてもよい。
なお、一週間以上継続して捕集した測定は、気候変動等の影響を受けにくく、かつ年に数回の定期的な測定を行うだけで、ほぼ1年間全体についてのモニタリングを代表できることが知られており、科学的裏づけに基づく説得力、及び費用対効果の諸点から効率的なデータの取得を行うことができる。
【0042】
電源部Eは所謂Leadacid Batteryであり、上記したケース本体11内の他方の収容室αの底壁13上に載置固定されている。
<電圧と流量の関係>
本実施形態においては、12(V)の直流バッテリを電圧変換をして、交流40(V)程度で稼働している。そのため、100(V)電源の使用時とエアポンプの基本性能が変化していることが考えられる。そこで、電圧と流量の変化について確認した。
100V運転時に内径0.18(mm)、長さ1(cm)のキャピラリを装着した場合、流量は80(ml/min)であった。11.6〜12.3(V)運転時の流量は同一のキャピラリで48(ml/min)であった。
これは運転電圧を40(V)程度に低下させたために抵抗に対する駆動力が低下したため、上記流量とキャピラリの関係式におけるΔPが小さくなった結果であると考えられる。一方、8.1(V)から12.3(V)の範囲では流量変化は全く認められなかった。これはインバータによる出力電圧が安定していたためと推定される。
【0043】
上記した吸引制御部Dは、電源部E上に載置した衝撃緩衝材90上に、また、エアポンプEは、その吸引制御部D上に載置した衝撃緩衝材91上に配置されている。
【0044】
本実施形態においては、捕集対象ガスの捕集時に、150(cm)という高い地点でのサンプリングを実現しているが、断面が円形で空気抵抗が小さい金属製の中空支持管50を用いること、及び全体の重心が出来る限り低い位置になるように設計することにより、設置時の強風による事故・転倒を防止できる配慮がなされている。
本実施形態においては、地表Gから密封ケース10の重心までの距離と、地表Gから大気取入れ口Taまでの距離とを、想定される風に基づく外力の作用によって転倒しにくい比率にしている。具体的には、約1:8に設定しているが、それ以上の比率に設定するとさらに好適である。
【0045】
以下に一実施例を示す。
電源部E:重さ9(kg)で重心位置が地表Gから9(cm)。
密封ケース10:幅43(cm)、奥行き28(cm)、高さ46(cm)の寸法で重量4(kg)、重心が地表Gから24(cm)。
区画板20:400(g)で重心が18(cm)。
吸引制御部D:300(g)で重心の高さ28(cm)。
エアポンプC:600(g)で重心高さが32(cm)。
中空支持管50:300(g)で重心が地表Gから80(cm)。
上記の実施例について計算すると、大気取入れ用チューブT等のチューブ類の重量を無視したトータル重量は14.6(kg)となり、全体の重心は設置面から16(cm)の位置にあり、持ち運び可能な重量と転倒しにくい重心位置を実現している。
【0046】
上述した構成からなるガス捕集動作について説明する。
大気取入れ部B、エアポンプC、吸引制御部D、電源部E及びガス捕集部Fを密封ケース10内に収容した状態で測定地点に運搬する。上記したように、トータル重量を14.6(kg)程度にすることができるので、運搬を容易に行うことができる。
【0047】
密封ケース10の区画室βに収容していた中空支持管50を取り出して組み立て、ケース本体11の側壁16に固着されている支持具40,41に装着するとともに、その中空支持管50に大気取入れ用チューブTを挿通し、また、その着脱口Tbを除湿管60に連結する。これにより、ガス捕集の準備が完了する。
【0048】
そして、吸引制御部Dの図示しないスイッチをオン操作すると、捕集動作が開始される。このとき、エアポンプCは、吸引制御部Dにより大気の吸引動作を所定の捕集期間にわたり継続して行わせるように駆動制御される。
【0049】
エアポンプCの吸引力により取り入れられた大気は、大気取入れ部Bを通して、除湿管60に導かれて水分が除去された後、2つの補集カラム61,62において捕集対象ガスが吸着捕集される。
【0050】
また、エアポンプCの排気側に設置されたキャピラリ80,80によって、捕集期間中に補集カラム61,62に吸着される物質の量が、測定に適切になるようになるように大気の吸引流量が制御される。
従って、1台の装置で、捕集期間を変えて測定する際もキャピラリを交換するだけで常に最適のサンプル量が吸着・捕集することができる。
【0051】
また、ケース本体11に蓋体12が設けられているので、区画板20の取り出し及び電池Eの充電作業をケース本体11の上側から行うことができる。また、蓋体12が下向きであることから、雨や埃がケース本体11内部に侵入しにくくなっており、大気取入れ口Taが下向きになっていること、蓋体12が閉まった状態では開口が存在しないこととあわせて、水分・埃の侵入を防ぎ、野外使用でのメンテナンスの負担を軽減している。
【0052】
次に、キャピラリの連結構造の他例について、図6を参照説明する。図6は、エアポンプの排気口に、複数のキャピラリを切替え器を介して接続した構成を示す説明図である。なお、上記した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
エアーポンプCの排気口71,72には、互いに異なる捕集期間に対応する長さ及び内径にして形成されたキャピラリ81〜83が、それぞれ切替え器90〜92を介して連結されている。
【0054】
この構成においては、捕集期間毎にキャピラリを取り替える作業を行うことなく、使用するキャピラリ81〜83の切替え器90〜92のいずれかを開き、また、他の切替え器90〜92を閉じればよい。
【0055】
図7は、他例に係る大気取入れ用チューブと、側壁に形成したチューブ連結部を示す、上記図3に相当する部分拡大図である。
側壁16には、他例に係る大気取入れ用チューブ100を連結するためのチューブ連結部110が形成されている。
チューブ連結部110は、側壁16の内外面に貫通形成された貫通孔111を中心として外方に突出して外側チューブ嵌合部112と、内方に突出して内側チューブ嵌合部113とからなる。
【0056】
他例に係る大気取入れ用チューブ100は、内側チューブ嵌合部113に外端部を、また、上記除湿管60に内端部を連結する内側チューブ101と、外側チューブ嵌合部111に基端部を連結嵌合し、また、上端部に大気取入れ口102aを形成した外側チューブ102とからなるものである。
【0057】
以上の構成からなる大気取入れ用チューブ100とチューブ連結部110によれば、内側チューブ101の内側チューブ嵌合部113に対する着脱作業と、外側チューブ102の外側チューブ嵌合部112に対する着脱作業とを別に行えるので、密封ケース10の外側で行う作業と内側で行う作業とを分離することができ、上述した捕集カラム61,62や除湿管60の着脱に伴うトラブルの発生をさらに防止することができる。
【0058】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、次のような変形実施が可能である。
・上記実施形態においては、除湿管を捕集カラム61,62に対して共用となっているが、それら捕集カラム61,62に対して、それぞれ専用として合計2本を用いる構成にしてもよい。
【0059】
・上記実施形態においては、ガス捕集部、エアポンプ、吸引制御部及び電源部とをケース内に収容した例について説明したが、それらの構成に加えて、捕集流量を測定する流量測定部を組み込むようにしてもよい。
捕集流量を測定することには、瞬時流量のみ、積算流量のみ、瞬時流量と積算流量の双方の測定を含むものである。
具体的には、流量測定部を、実際の流量を確認するために吸引チューブの途中、例えば図1に示す捕集カラム61,62とエアポンプCとの間に配設するが、当該配設位置に限るものではない。
流量測定部には、瞬時流量のみ、積算流量のみ、瞬時流量と積算流量の双方の測定を行える流量計を設置するが、これを制御部と連動させることも可能である。
また、ポンプと流量測定部及びこれと連動した制御部を一体化することも可能である。
【0060】
上記実施形態においては、互いに異なる捕集期間に対応する長さ及び内径にした複数種類のキャピラリを、各捕集期間に対応して選択的にエアポンプの排出側に着脱自在に装着した例について説明したが、そのエアポンプの吸引側に着脱自在に装着してもよい。
具体的には、例えば2に示すエアポンプCと捕集カラム61,62の間の流路75,76に配設してもよい。また、エアポンプの排出側及び吸入側に上記のキャピラリを配設してもよい。
【0061】
・上記の実施形態においては、密封ケースをアルミニウム製のものを採用することにより対候性を向上させた例について説明したが、密封ケースの外表面に公知の対候性塗料を塗布するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係るガス捕集装置の概略構成を示すものであり、(A)はその平面図、(B)はその一部を断面にして示す正面断面図である。
【図2】図1に示すガス捕集装置の接続関係を示すブロック図である。
【図3】図1(B)に包囲線Iで示す部分の拡大図である。
【図4】区画板と、これに搭載配設されたガス捕集部の詳細を示す詳細説明図である。
【図5】キャピラリにより大気の吸引流量を増減調整する原理を説明するための説明図である。
【図6】エアポンプの排気口に、複数のキャピラリを切替え器を介して接続した構成を示す説明図である。
【図7】他例に係る大気取入れ用チューブと、側壁に形成したチューブ連結部を示す、上記図3に相当する部分拡大図である。
【符号の説明】
【0063】
10 密封ケース
50 中空支持管
61,62 捕集カラム
71,72 排気口
80 キャピラリ
110 大気取入れ用チューブ
B 大気取入れ部
C エアポンプ
D 吸引制御部
E 電源部
F ガス捕集部
T 大気取入れ用チューブ
Ta 大気取入れ口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気に含まれる捕集対象ガスを捕集するためのガス捕集部と、
ガス捕集部を通じて大気を吸引するためのエアポンプと、
大気の吸引動作を所定の捕集期間にわたり継続して行わせるようにエアポンプを駆動制御する吸引制御部と、
この吸引制御部とエアポンプとに電力を供給する電源部とを密封ケース内に収容し、かつ、その密封ケース外から取り入れた大気の吸引動作を行うことを特徴とするガス捕集装置。
【請求項2】
所定の高さ位置における大気を取り入れるための大気取入れ部を密封ケースの外部に立設していることを特徴とする請求項1に記載のガス捕集装置。
【請求項3】
大気取入れ部は、密封ケースの外部に着脱自在に装着された中空支持管内に、上端部に大気取入れ口を開口形成した大気取入れ用チューブを内装していることを特徴とする請求項2に記載のガス捕集装置。
【請求項4】
ガス捕集部は、大気に含まれる異なる捕集対象ガスをそれぞれ吸着捕集するための複数の捕集カラムを有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス捕集装置。
【請求項5】
大気の吸引流量を増減調整するためのキャピラリが、上記捕集カラム毎に配設されていることを特徴とする請求項4に記載のガス捕集装置。
【請求項6】
互いに異なる捕集期間に対応する長さ及び内径にした複数種類のキャピラリを、各捕集期間に対応して選択的にエアポンプの吸入側又は排出側に着脱自在に装着していることを特徴とする請求項5に記載のガス捕集装置。
【請求項7】
地表から密封ケースの重心までの距離と、地表から大気取入れ部の大気取入れ口までの距離とを、想定される風に基づく外力の作用によって転倒しにくい比率に設定していることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載のガス捕集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−128054(P2009−128054A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300575(P2007−300575)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(303034883)有限会社環境資源システム総合研究所 (3)
【出願人】(593016008)セントラル科学株式会社 (3)
【Fターム(参考)】