説明

ガス採取装置およびガス採取方法

【課題】 ガス発生源から発生するガスを、外からのガスが混入することを防ぎつつ採取する装置を提供する。
【解決手段】 収容口から試料の一部を収容し、前記試料の他の部は収容しない状態で、収容している前記試料の一部から放出されたガスを採取する採取容器を有するガス採取装置において、
前記採取容器を収容する外容器を有し、
前記外容器は、前記採取容器と前記外容器と間に流動物質を供給するための供給口を有することを特徴とするガス採取装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの採取装置及びガス採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料から放出されるガスのうち、生体表面から放出されるガス、例えば人の皮膚から放出されるガス(皮膚ガス)の測定が、近年注目されている。
【0003】
試料であるガス発生源の一部分を覆った状態でガス採取が行われることが特許文献1、2に開示されている。特許文献1は指サックで指を覆い、特許文献2では手首から手を覆うサンプリングバッグが示されている。特許文献2において、サンプリングバックはバッグ固定部とバッグ貯留部とからなる。サンプリングバックより外の環境中の空気がサンプリングバッグ内に含まれないように、バッグ貯留部の開口部にバッグ固定部が設けられ、開口部のバッグ固定部の圧力を高めることで手首とサンプリングバッグとの密着性をあげている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−195919号公報
【特許文献2】特開2007−155385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の場合、バッグ貯留部に傷があった場合、空気がその中に入ってしまう。
【0006】
本発明は空気等の外気が試料を覆っている容器や試料の挿入口の隙間を通過して容器内に侵入するという課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
よって本発明は、
収容口から試料の一部を収容し、前記試料の他の部は収容しない状態で、収容している前記試料の一部から放出されたガスを採取する採取容器を有するガス採取装置において、
前記採取容器を収容する外容器を有し、
前記外容器は、前記採取容器と前記外容器と間に流動物質を供給するための供給口を有することを特徴とするガス採取装置を提供する。
【0008】
また本発明は、
収容口から試料の一部を収容し、前記試料の他の部は収容しない状態で、収容している前記試料の一部から放出されたガスを採取する採取容器と、前記採取容器を収容する外容器を有するガス採取装置によって、前記放出されたガスを採取するガス採取方法であって、
前記採取容器と前記外容器と間に、前記放出されたガスとは異なる種類の流動物質を供給することを特徴とするガス採取方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外容器により、空気等の外気が試料を覆っている採取容器を通過して採取容器内に侵入することを防ぐことができる。また流動物質が外容器と採取容器の間に供給されるので、外気が採取容器に侵入することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係るガス採取装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るガス採取装置は、収容口から試料の一部を収容し、前記試料の他の部は収容しない状態で、収容している前記試料の一部から放出されたガスを採取する採取容器を有するガス採取装置において、前記採取容器を収容する外容器を有し、前記外容器は、前記採取容器と前記外容器と間に流動物質を供給するための供給口を有するガス採取装置である。
【0012】
図1に本実施形態に係るガス採取装置を模式的に示す。符号1は手、2は手から放出されたガス、3は対象物質、4は採取容器、5は外容器、6は流動物質、7は採取容器の入出口、8は外容器の入出口(供給口)である。
【0013】
試料である手はその一部が採取容器の収容口(図中に符号は無い)から採取容器4に収容されている。手の他の部分は採取容器4に収容されていない。収容口と手1は不図示のバンドで押さえることによって密着している。手1と収容口の間に隙間ができる場合は、ここにグリスなどを塗布することで密閉を高めることもできる。
【0014】
手から放出されたガス2は水分やアセトンなどを有している。本実施形態においてアセトンは対象物質3である。
【0015】
外容器5は採取容器4を収容している。これらはいわゆる二重構造である。外容器5は採取容器4を覆っており、採取容器4の収容口は手から放出されるガスを採取する際には、大気に触れることはない。外容器5の収容口(図中に符号は無い)と手1は不図示のバンドによって密着している。外容器5を硬質の素材で作成した場合は、収容口を柔軟性のある素材とする。
【0016】
外容器5は入出口8を有しており、ここから流動物質6が入出される。流動物質6は対象物質とは異なる種類の物質であり、採取容器4と外容器5の間に供給され、採取容器4と外容器5の間は陽圧になり膨れる。これにより採取容器4に傷があっても外気が採取容器4内に侵入することを防ぐことができる。また外容器5の収容口が採取容器4の収容口よりも広い範囲で手を覆うので(採取容器4が収容する範囲よりも体に近い範囲まで)、流動物質6は外容器5から外気へ放出されるか、あるいは採取容器4内に侵入する。そのため外気は外容器5内に入ることが防止され、採取容器4内に侵入することが防止される。
【0017】
また採取容器4と外容器5の間が流動物質により陽圧になるので採取容器4内へ流動物質6が侵入することがあっても、対象物質を含まない流動物質を用いることで手から放出された対象物質と同種の物質が採取容器4に侵入することを防ぐことができる。
【0018】
流動物質は対象物質以外であればいかなるものでもよい。流動物質はガス、液体、固体のいずれでもよい。流動物質はガスであることが軽量であるため好ましい。ガスは例えば同位体13Cで標識されたメタンガスでもよい。
【0019】
採取容器や外容器は、対象物質としてのガスを発生したり、特異的に吸着・透過したりする性質がなければいかなるものを用いてもよい。それぞれの容器は例えば、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ガラス、金属などからそれぞれ独立に選択することができる。フッ素樹脂としては、ポリビニールフルオライドを用いることができる。金属としては、ステンレスを用いることができる。本実施形態では採取容器の素材はポリビニールフルオライドであり、外容器の素材はパイレックス(登録商標)ガラスである。
【0020】
次に、本実施形態に係るガス採取方法を説明する。
【0021】
採取容器4に手1を入れる前に、採取容器の入出口7から高純度窒素ガスを採取容器4内に導入してクリーンアップする。次に、採取容器4に手1を入れ、採取容器の収容口と手1とを不図示のバンドによって密着させる。そして再び採取容器内の空気を高純度窒素ガスと置換することによりクリーンアップする。
【0022】
採取容器4の上から、採取容器4の開口部が外容器5内に納められるように外容器5を被せ、外容器5の開口部と手1とを不図示のバンドにより密着させる。この状態で外容器の入出口8から外容器5と採取容器4との間の空気を排気する。その後外容器の入出口8から濃度が既知の流動物質6を外容器5と採取容器4との間に充填する。採取容器の入出口7から採取容器4内を排気した後、排気を停止し一定時間(例えば5分)静置する。一定時間後、手1から数mL程度の発生したガス2を採取容器の入出口7から例えばシリンジポンプ等によって回収する。流動物質が供給される間とは、手が採取容器に収容され、上記の排気を行っているときから、発生したガスの回収が完了するまでの間である。なお、採取容器4からの排気を停止した後、高純度窒素ガスなど、対象物質を含まないガスを採取容器4内に一定量添加し、一定時間後に手から放出されたガスと添加したガスとの混合ガスを回収しても良い。
【0023】
回収時の採取容器4内には、手からの放出ガスが収容されている。採取容器4内にはこの放出ガスの他に、流動物質6が含まれていてもよい。
【0024】
すなわち回収時の採取容器4内のガスの総体積Qtotalと、対象物質の体積Q1と放出ガスのうち対象物質以外のガスの体積Q2と流動物質の体積Qeとは以下の関係を満たす。
Qtotal = Q1 + Q2 + Qe・・・(1)
Qtotalは、採取容器内のガス体積を測定し求められる。Qtotalの測定は採取容器内のガスの全量を回収することで可能である。次に流動物質の濃度を測定し、その濃度と流動物質の既知の濃度とから流動物質の流入体積Qeを計算する。濃度はガスクロマトグラフィーを用いることができる。件稜線を用い、ガスクロマトグラフィーのチャートに得られたガスの強度から濃度を求めることができる。こうして得られたQeと、Qtotalとから、手から放出されたガスの全量であるQ1+Q2が計算できる。このようにして求められた、手からの放出ガスの体積を元に、そして対象物質の濃度(単位はpptからppm程度)を求める。
【0025】
流動物質が液体あるいは固体の場合は採取容器4内のガスの総体積Qtotalに影響を与えない。
【0026】
本実施形態により手から放出されたガスのような数mL程度の体積のガスから、数ppt〜数ppmの程度の範囲のアセトンの濃度を測定することができる。
【0027】
本実施形態に係るガス採取装置は、人の手を試料として用いているが、本発明に係る試料は魚類、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類等の動物であってもよく、採取容器が収容する部位は手足等の四肢以外にも胴体等であってもよい。また試料は植物であってもよく、採取容器が収容する部位は葉、根、花、枝葉などであってもよい。
【0028】
あるいは本発明に係る試料は自動車の排気ガス等の工業製品であってもよい。
【0029】
本実施形態に係るガス採取装置は、採取容器と外容器が別体あるがこれはそれぞれが手を覆うことができるので好ましい。一方で本発明に係る採取容器と外容器は一体でもよい。
【0030】
本実施形態に係るガス採取装置は、外容器が採取容器を手先から手首まで覆う形態であるが、これにより採取容器のいかなる部分で傷が生じても外気が採取容器内に侵入する子を防ぐことができるので好ましい形態である。一方で本発明に係る外容器は採取容器の一部を覆う形態でもよい。その場合外容器は採取容器が覆われている部分に生じた傷に因る外気の浸入を防ぐことができる。外容器は採取容器の収容口を覆う、例えばリストバンドのような形状で採取容器の収容口を覆う形態であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のガス採取方法およびガス採取装置を用いることにより、物体の表面から放出される微量なガスを、環境中の空気の混入を防ぎながら、採取することができる。よって、人体から放出される微量ガスの計測による健康状態の観測、工業製品から放出される微量な成分の観測などに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 試料(手)
2 試料から放出されたガス
3 対象物質
4 採取容器
5 外容器
6 流動物質
7 入出口
8 供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容口から試料の一部を収容し、前記試料の他の部は収容しない状態で、収容している前記試料の一部から放出されたガスを採取する採取容器を有するガス採取装置において、
前記採取容器を収容する外容器を有し、
前記外容器は、前記採取容器と前記外容器と間に流動物質を供給するための供給口を有することを特徴とするガス採取装置。
【請求項2】
前記外容器は前記採取容器の前記収容口に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のガス採取装置。
【請求項3】
前記流動物質は、13Cで標識したメタンであることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載のガス採取装置。
【請求項4】
収容口から試料の一部を収容し、前記試料の他の部は収容しない状態で、収容している前記試料の一部から放出されたガスを採取する採取容器と、前記採取容器を収容する外容器を有するガス採取装置によって、前記放出されたガスを採取するガス採取方法であって、
前記採取容器と前記外容器と間に、前記放出されたガスとは異なる種類の流動物質を供給することを特徴とするガス採取方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−193993(P2012−193993A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56807(P2011−56807)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】