説明

ガス放電光源用の電極デバイス、及びこの電極デバイスをもつガス放電光源を作動させる方法

本発明は、ガス放電光源用の電極デバイスに関しており、また、当該ガス放電光源を作動させる方法に関している。電極デバイスは、回転軸3の周りで回転可能な電極車輪1と、前記電極車輪1の回転の間、電極車輪1の外周表面18の少なくとも一部に適用される液体材料の膜の厚みを限定するために配置されたワイパー・ユニット11 と、を有する。ワイパー・ユニット11は、外周表面18とワイパー・ユニット11の拭き取り端19との間にギャップ17を形成するよう、及び回転の間、電極車輪1の側面から外周表面18への液体材料の移行を禁止又は少なくとも減じるよう、設計され、配置されている。提案された電極デバイスがあると、電極車輪1は、液滴の形成も無く、より高い回転速度で回転することができ、結果として、斯様な電極デバイスをもつガス放電光源のより高い出力パワー及びより高いパルス周波数を生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転軸の周りに回転可能で、二つの側面の間に外周表面をもつ電極車輪と、前記電極車輪の回転の間、前記外周表面の少なくとも一部に適用される液体材料の膜の厚みを限定するために配置されているワイパー・ユニットと、を少なくとも有する、ガス放電光源用の電極デバイスに関する。本発明は更に、斯様な電極デバイスを有するガス放電光源と、この電極デバイスを備えたガス放電光源を作動させる方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス放電光源が、例えば、EUV照射(EUV:極紫外線)、又は軟X線用の光源として用いられている。EUV照射光及び/又は軟X線を発する照射源が、EUVリソグラフィの分野において、特に必要とされている。照射光は、パルス電流によって生成された熱いプラズマから発される。これまでに知られている最も強力なEUV照射源は、必要とされるプラズマを生成するために、金属蒸気によって動作する。斯様なEUV照射源の例が、国際特許公開公報WO 2005/025280 A2に示されている。この既知の照射源では、金属蒸気は、放電空間の表面に適用された金属溶融部から生成され、エネルギー・ビーム、特にレーザー光線によって、少なくとも部分的に蒸発される。この照射源の好ましい実施例では、二つの電極が、照射源の動作の間、回転する電極車輪を形成し、回転可能に取り付けられている。当該電極車輪は回転の間、溶融金属を有する容器内へと浸漬する。付着した溶解金属から金属蒸気を生成するため、及び放電に着火するために、パルス状のレーザビームが、放電領域の電極のうちの一つの表面へと直接導かれる。金属蒸気は、所望のイオン化ステージが励起され、所望の波長の光が発されるよう、数kA乃至最高数十kAの電流によって加熱される。電極車輪の外周表面上に形成された液体金属の膜は、放電中の放射媒体として役立ち、同時に、再生された膜として、電極車輪を侵蝕から保護する。
【0003】
斯様なEUV放電ランプの安定なEUV照射出力のために、連続的な放電パルスが常に電極表面の新しく滑らかな部分に当たることが必要である。動いている電極の表面上での連続的な放電パルスの距離は、十分の数mm乃至数mmのオーダーである。ランプのパワーを増すことは、主に放電の繰返し比率を増すことによって可能である。これ故、電極の回転速度が、相応して増大されねばならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転している電極上の液体金属の膜の膜厚が、より高い遠心力に起因して、回転周波数の増加と共に増すことが、実験的に見いだされた。高回転周波数では、膜厚は数百μmにも達し、結果として、電極表面を離脱する液体金属の液滴が形成される。これらの液滴は、ランプの短絡、したがってランプの故障を引き起こすことがある。更に、液体金属の膜の変動する膜厚は、電極間の有効距離に影響を及ぼす。これは、各々の回転周波数に対して、ランプの動作パラメータの最適化を必要とする。国際特許公開公報WO 2005/025280 A2は、電極車輪の外周表面に適用された液体材料の膜の限定された厚みを確実にするために、ストリッパ、又はワイパーの使用を開示している。にもかかわらず、より高い回転速度での液滴の形成、又はより高い回転速度での液体金属の膜の不安定性に起因して、電極車輪の回転周波数は、限定される
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、ガス放電光源用の電極デバイスを提供すること、及び斯様な電極デバイスを有するガス放電光源を作動させる方法を提供することであり、これは、より高い出力を達成するために、より高い回転周波数での安定な動作を可能にする。
【0006】
本目的は、電極デバイス、ガス放電光源、及び請求項1、14、及び16によるガス放電光源を作動させる方法によって達成される。電極デバイス、ガス放電光源、及び方法の好都合な実施例が、従属請求項の主題となっているか、又は、後続する説明の部分で開示されている。
【0007】
提案された電極デバイスは少なくとも、二つの側面の間に外周表面をもった、回転軸の周りに回転可能な電極車輪と、前記電極車輪の回転の間、前記外周表面の少なくとも一部に適用された液体材料の膜の厚みを限定するためのワイパー・ユニットと、を有する。当該ワイパー・ユニットは、前記外周表面とワイパー・ユニットの拭き取り端との間にギャップを形成するように設計され、配置されており、また、電極車輪の回転の間、液体材料の前記側面から外周表面への移行を禁止、又は少なくとも減じるように設計され、配置されている。
【0008】
斯様な電極デバイスの電極車輪は、国際特許公開公報WO 2005/025280 A2で開示されている既知の電極デバイスと比較して、電極車輪の側面から外周表面への液体材料の流れを阻止、又は少なくとも減じるワイパー・ユニットがあることにより、より高い回転速度で回転できることが分かった。斯様な手段は国際特許公開公報WO 2005/025280 A2のワイパーでは実現されておらず、当該公報は、外周表面上の膜厚を制御するのみである。この流れ又は移行の減少は、電極車輪の外周表面上の液体材料の総量、及び当該表面上の液体材料の分布の、改善された制御を可能にする。これ故、回転する電極車輪上の液体材料の膜の厚みは、放電領域で充分な厚みが維持される安定な膜を形成するために、より高い回転速度においてさえ、効果的に限定されることができる。この手段を用いることにより、側面から外周表面への液体材料の移行を抑制、又は減じ、及び外周表面上の液体金属の量を減じる斯様なワイパー・ユニットをもたない電極デバイスと比較して、より高い回転速度が達成される。
【0009】
斯様な電極デバイスを、ガス放電光源で少なくとも電極の一つとして用いることにより、電極車輪のより高い回転速度が、液体材料を蒸発させるための二つの連続的なパルスが電極表面で重なり合わない限りは、パルス化されたガス放電を形成するためのパルス周波数を増すことを可能にする。斯様なガス放電光源は、放電領域で最小距離をもつよう配置された2個の電極と、当該2個の電極間に高圧を印加するための電源と、電極車輪の外周表面上の少なくとも一部に液体材料の膜を適用する(添加する)ための装置と、を好ましくは有する。代替的には、材料は、電極車輪の外周表面上に固体材料として適用することができ、続いて、液体材料の膜をこの外周表面上の少なくとも一部に形成するために、加熱される。好ましい実施例では両方の電極が、提案された電極デバイスによる対応するワイパー・ユニットを有する電極車輪である。
【0010】
ワイパー・ユニットは、1個のワイパー・エレメントで形成されるか、又は一緒に働く複数のワイパー・エレメントで形成されてもよい。1個のワイパー・エレメント、又は複数のワイパー・エレメントは、前記電極車輪の回転の間、外周表面に隣接する前記側面の部分で液体材料を取り除くよう、好ましくは設計され、配置される。このために、対応するワイパー・エレメントは、電極車輪の外周表面に面している部分でフォーク状の形状をもつように形成されてもよい。ワイパー・エレメントは、外周表面とワイパー・エレメントの拭き取り端との間のギャップを規定している。当該ギャップは、電極車輪の側面に触れているか、又は殆ど触れているワイパー・エレメントの側部品によって、両側に近接している。外周表面と、ワイパー・エレメントの拭き取り端との間にあるこのギャップは、液体材料の膜の厚みを、所望の高さに限定するために必要である。ワイパー・エレメントの拭き取り端、及び/又はこのギャップに接している電極車輪を特別に加工することによって、所望の形状の液体材料の膜が実現されることができる。例えば、電極車輪の外周表面は平面的な形状をもつか、又は外周表面の幅にわたって湾曲形状をもつことができる。更にまた、外周表面は、電極車輪の外周方向に延在する溝を有することもできる。好ましい実施例のうちの一つでは、外周表面は、外周表面の幅にわたって平面的な形状をもち、同時に、ワイパー・ユニットは、外周表面の幅にわたって一定の厚みのギャップを形成するよう設計されている。
【0011】
上記の例、又は好ましい実施例では、ワイパー・エレメントのうちの一つがギャップを形成するように設計されていて、同時に、電極車輪の側面から液体材料を取り除くように設計されているにもかかわらず、ワイパー・エレメントのうちの一つをギャップを形成するために用い、一つ又は複数の更なるワイパー・エレメントを電極車輪の側面部分で液体材料を取り除くために使用することも可能である。更にまた、外周表面上の液体材料の膜の形状を更に改善するために、複数のワイパー・ユニットが、回転方向に対して外周表面の種々異なる位置に配置されてもよい。好ましくは、斯様な更なるワイパー・ユニットは、電極車輪の表面上の液体材料の膜の厚みを限定する、一つ又は複数のワイパー・エレメントをもつ主ワイパー・ユニットと同様に設計される。前記更なるワイパー・ユニットは次に、回転方向において、前記主ワイパー・ユニットの前に配置される。
【0012】
好ましくは更なる手段が、電極車輪の回転の間に側面から外周表面へと移行するかもしれない液体材料の量を減じるために、とられる。これらの手段のうちの一つは、外周表面でT字状の断面をもつ電極車輪を使用することである。このT字状の形によって、液体材料は、直接外周表面にアクセスすることができず、隆起部の周囲を移動せねばならない。更に好ましい手段は、電極車輪の側面上に、非湿潤性の層、又はコーティングを加えることである。他方、外周表面は非湿潤性の材料から構成されねばならないこと、又は斯様な材料で被覆されていなければならないことは言うまでもない。
【0013】
ワイパー・ユニットと放電領域との間で、液体材料の膜は、膜厚プロフィールに動的に影響する、遠心力、粘着力、及び表面張力を受け、液体材料の液滴の形成に至ることがある。液体材料の膜の成長を最大限制御するため、及び/又は液滴の形成なしで可能な最も高い回転周波数を実現するために、この特許出願において開示される手段の全てが同時に適用されてもよい。種々異なる手段が、個々に組み合わせられることもできる。
【0014】
外周表面上の液体材料の膜厚を制御する目的で、ギャップの最適調整を可能にするために、このギャップを規定している拭き取り端と電極車輪の外周表面との間の距離は、調節が可能なワイパー・エレメントを用いて好ましくは調節可能である。こうすることにより、ガス放電光源を作動させるとき、回転周波数に応じ、及び使用される液体材料の特性に応じて、ギャップの適切な設定ができる。
【0015】
回転方向に対して垂直な面にあるギャップの断面積が、最大面積Amaxを超えない場合、最も高い回転周波数が安定な液体材料の膜と共に実現されることが分かった。ここで、
Amax=8σ/(ρω2R)
但し、σ及びρは各々、液体材料の表面張力と密度とであり、ω=2πfは回転角速度であり、Rは電極車輪の半径である。このギャップは、ワイパーのある場所での液体材料の膜のプロフィールを規定し、液体材料の総量と、放電場所での液体材料の膜のプロフィールとを制御している。高い回転速度での膜の高い安定性のために、小さなギャップが必要とされる。他方、ギャップは、十分な液体材料が、放電場所で数十μmのオーダーの必要膜厚を確実にするために、利用できるよう、十分に大きく選択されなければならない。提案された電極デバイスをもつガス放電光源を作動させる提案された方法では、ギャップ面積は、これ故、上記の式を満足させるよう制御される。提案されたガス放電光源の実施例の一つでは、ギャップの一定の厚さは、ガス放電光源の動作の間、適切なセンサ及び適切なコントロールユニットによって自動的に制御される。
【0016】
斯様なガス放電光源を作動させる提案された方法では、好ましくは、外周表面をもつ電極車輪が用いられる。当該電極車輪は、矩形状の断面をもつか、又は断面プロフィールの一部で少なくとも矩形の形状をもつ。電極車輪の幅D、又は電極車輪の断面の少なくとも矩形部の幅Dは、D<D<10・D*の範囲にあるよう選ばれる。ここで、

である。上記の式を満たす電極車輪があると、液滴の形成のない最大の回転周波数が、上記の更なる手段の幾つか又はすべての組み合わせで達成されることがわかった。
【0017】
ワイパー・エレメントと電極車輪の外周表面との間で規定されたギャップ厚を維持するために、ワイパーは、流体力学ベアリングのような効果になるバネ状の弾性エレメントによって、電極車輪面に押圧されることができる。この場合、規定の膜厚が、回転速度に応じ、及び表面に対してワイパー・エレメントを押圧している弾性力に応じて実現される。代替的には、ギャップ厚、従って液体材料層の厚みは、例えばワイパー・ユニット上の転動エレメントによって、制御されることができる。当該転動エレメントは、電極車輪の外周表面に対するワイパー・エレメントの距離を規定している。
【0018】
放電領域又は放電の場所で、液体材料の膜厚の最大の制御を実現するために、ワイパー・ユニットはこの放電の場所に可能な限り近接して配置されることが望ましい。更にまた、ワイパー材料は、熱い液体材料に対して、機械的に安定で、化学的及び熱的に耐性がなければならない、液体スズ(Sn)の場合、適切な材料の例は、タングステン又はモリブデンである。更にまた、最も高い可能な円周速度v=ωRを実現するために、及びこれ故、最高の放電繰り返し周波数を実現するために、電極車輪の半径は、できるだけ大きくて、他の要件と互換性をもって選択されなければならない。
【0019】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、本願明細書でこれ以降説明される実施例を参照して明らかにされ、解明されることであろう。
【0020】
提案された電極デバイス、ガス放電光源、及び作動方法は、請求項で規定された保護の範囲を限定することなく、添付の図に関連して例の態様で以下に説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による電極デバイスを備えたガス放電光源の概観図を示す。
【図2】ワイパー・ユニットと、プリ・ワイパーとして役立つ追加のワイパー・エレメントとを備えた電極車輪の概観的な側面図を示す。
【図3】提案された電極デバイスのワイパー・ユニットの第1の例の断面を示している外観図を示す。
【図4】提案された電極デバイスのワイパー・ユニットの第2の例の断面を示している概観図を示す。
【図5】提案された電極デバイスのワイパー・ユニットの第3の例の断面を示している概観図を示す。
【図6】提案された電極デバイスのワイパー・ユニットの第4の例の断面を示している概観図を示す。
【図7】提案された電極デバイスのワイパー・ユニットの第5の例の断面を示している概観図を示す。
【図8】従来技術による電極車輪の回転速度に対する、電極車輪上の膜厚の依存性を示している測定線図を示す。
【図9】本発明による電極デバイスを使用するとき、電極車輪の回転速度に対する電極車輪上の膜厚の依存性を示している測定線図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、パルス化されたガス放電光源の概観的な側面図を示し、本発明による電極デバイスが組み込まれている。この電極デバイスの詳細は、同図に示されてはいない。ガス放電光源は、予め規定可能なガス圧をもつ放電空間に配置された、二つの電極1、2を有する。車輪形状をした電極1、2が回転可能に取り付けられている。即ち、これらの電極1、2は、動作の間、回転軸3の周りに回転する。回転の間、電極1、2は、対応する容器4、5に、部分的に浸漬する。これらの容器4、5の各々は金属溶融部6、この事例では液体スズを含む。金属溶融部6は、およそ300℃の温度、即ちスズの融点の230℃よりも僅かに上に保たれている。容器4、5内の金属溶融物6は、前記容器に接続された加熱装置又は冷却装置(図には示されていない)によって、上記の動作温度に維持されている。回転の間、電極1、2の外周表面は、液体金属の膜が前記電極上に形成するよう、液体金属によって湿潤される。電極1、2の外周表面上の液体金属の膜の厚みは、図1で概観的に示されているに過ぎないワイパー・ユニット11によって制御されている。このワイパー・ユニット11の例が、図3乃至図7に示されている。電極1、2への電流は金属溶融部6を介して供給される。金属溶融部6は絶縁フィードスルー8を経てコンデンサ・バンク7に接続されている。
【0023】
パルス状のレーザビーム9が、二つの電極の間の最も狭い点で、電極1、2のうちの一つに焦点を結んでいる。この結果、電極1、2に置かれた金属の膜の一部が蒸発し、電極のギャップをブリッジする。これは、この点での電気放電の着火に至り、コンデンサ・バンク7によって駆動された非常に速い電流上昇となる。高電流は、金属蒸気又は金属燃料を、後者がイオン化され、ピンチ・プラズマ15の所望のEUV照射光を発する高温まで加熱する。
【0024】
金属燃料がガス放電光源から逃げるのを防止するために、破片軽減ユニット10が、ガス放電光源の前部に配置されている。この破片軽減ユニット10は、ガス放電光源からの照射光の直線通過を可能にするが、しかし、多量の破片粒子を、これらが外へ出てゆく途中で保持する。ガス放電光源のハウジングの汚濁を回避するために、スクリーン12が、電極1、2とハウジングとの間に配置されてもよい。更にまた、金属遮蔽部13が、このギャップへの燃料の拡散を減じるために、2つの容器4、5の間のギャップ内部に配置されている。
【0025】
図2は、図1の電極車輪1の概観的な側面図を示している。回転する電極車輪1は、図1の容器5によって形成された液体金属供給部14と接触しており、電極車輪は、部分的に液体金属中に沈んでいる。液体金属供給部14と、各々のレーザパルスで液体金属の膜の一部が取り除かれるであろう、ピンチ・プラズマ15によって示される放電場所との間の途中で、電極車輪1の外周表面に形成された液体金属の膜は、図2に示すように、最初にオプションのプリ・ワイパー16によって加工され、次に主ワイパー11によって加工される。
【0026】
電極車輪1の外周表面の形状、及びワイパー11、16の拭き取り端の形状は、最適な液体金属の膜厚プロフィールが、放電場所で、電極車輪1の必要とされる回転周波数と共に達成されるように選択される。適切に設計された電極車輪の表面と組み合わされた(複数の)ワイパーを、適切な形状で配置することによって、液体金属の膜が、最高回転周波数で安定に留まるよう制御され、及び/又は液体金属の膜が、電極車輪の外周表面上の必要とされる場所に集中するよう制御されることができる。適切な形状の例が、図3乃至図7に示されている。
【0027】
本発明の主要な特徴は、電極車輪1の回転動に対して、放電の場所に最も近接したワイパー・ユニットであるワイパー・ユニット11の設計である。このワイパー・ユニット11は、車輪の回転の間、電極車輪の側面から外周表面への液体金属の流れを阻止、又は少なくとも減じるように設計されている。このために、当該ワイパー・ユニット11は、図3に示すようにフォーク状の形状をもつ一つのワイパー・エレメントで形成されることができる。斯様なワイパー・ユニット11があると、規定されたギャップ17が、電極車輪1の外周表面18と、ワイパー・エレメントの対向している拭き取り端19との間に形成される。同時に、電極車輪1の側面26及び側面27上の液体材料は、ワイパー・エレメントの側部品20によって取り除かれ、電極車輪の外周表面18上へと流れることはできない。
【0028】
図4は、ワイパー・ユニット11のフォーク状の形に加え、電極車輪1が、自身の外周表面の周りに延在する溝21をもつよう形成されている、更なる例示的な実施例を示している。この事例では、ワイパー・ユニット11の拭き取り端19と電極車輪1の外周表面18との間のギャップ17は、溝21の深さによって規定される。
【0029】
図4は、電極車輪1の側面上の非湿潤性のコーティング25も示しており、当該コーティングは、回転の間、これらの側面上での、より多量の液体材料の形成を回避する。
【0030】
電極車輪の側面から当該車輪の外周表面への液体材料の移行を更に制限するために、電極車輪は、図5に示すように、外周表面でT字状の断面をもってもよい。このT字状の形は、側面から外周表面への液体材料の移行を更に押える。図5の例では、ワイパー・ユニット11は、三つのワイパー・エレメント22、23、24から成る。第1のワイパー・エレメント22は、外周表面18と拭き取り端19との間のギャップ17を規定している。第2のワイパー・エレメント23及び第3のワイパー・エレメント24は、液体材料を電極車輪の側面から取り除く。
【0031】
図3乃至図5は、電極車輪の外周表面と、矩形の断面をもつワイパー・ユニット11の対応する拭き取り端との間のギャップを示した。にもかかわらず、放電の場所、及びこれ故最大の膜厚が、電極車輪の外周表面の中央部をはずれた所に意図されている場合、対応して適応されたワイパー・ユニットの設計に関連して、電極車輪の外周表面で他の車輪形状が使われてもよい。斯様なジオメトリの例が、図6及び図7に示されている。斯様な電極車輪及びワイパー・ユニットのジオメトリがあると、液体材料は、電極車輪の回転面の中心をはずれた所に蓄積することであろう。図6では、ワイパー・ユニット11は1個のワイパー・エレメントで形成されるが、図7では、異なるワイパー・エレメント22、23、24がワイパー・ユニット11を形成している。
【0032】
図8及び図9は、いかなるワイパーも備えていなかった従来技術による放電ガス光源と、本発明による放電ガス光源との間の、電極車輪の回転周波数に対する放電場所での膜厚の依存性の比較を示す。本発明の放電ガス光源は、図3によるワイパー・ユニットを使用した。図8の線図から分かるように、従来技術によるシステムの液体金属の膜の膜厚は、最高700μmまで、回転速度の増大と共に著しく増える。液滴が、12Hz以上の回転速度で形成されてしまう。電極車輪が同じジオメトリでも、本発明による放電光源の膜厚は、18Hzまでの広範囲の回転周波数にわたり、50μmと100μmとの間の厚みの範囲に留まっている。液滴の形成は、18Hzより大きな周波数から始まる。これは、最大回転周波数が、本発明による適切なワイパー・ユニットを備えた電極デバイスを用いることによって、12Hzから18Hzへと増すことができることを意味する。したがって、放電の繰返し比率の著しい増大が、安定なランプ動作で実現され、結果としてランプのより高い出力パワーを生じる。
【0033】
本発明が、図及び前述の説明で詳細に例示され説明された一方、斯様な例示及び説明は、例示的又は典型的であり、拘束性はないと看做され、本発明は開示された実施例に限定されることはない。上で説明され、また請求項で説明される異なる実施例が、組み合わせられることもできる。開示された実施例に対する他のバリエーションが、図、開示物、及び添付の請求項の範囲の研究から、請求された本発明を実施する際に当業者によって理解され、及び遂行されることができる。例えば、二つ以上のワイパー・ユニットを使用することも可能であり、又は図に示されたものとは異なるデザインをもつワイパー・ユニットを使用することも可能である。更にまた、本発明による放電光源において、一つの電極、又は両方の電極が、請求された電極デバイスのように設計されてもよい。
【0034】
請求項において、単語「有する」が他の要素、又はステップを除外することはなく、及び不定冠詞「a」又は「an」が、複数を除外することはない。複数の手段が相互に異なる従属請求項において列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが有効に使われることができないことを示してはいない。請求項中の引用符号は、これらの請求項の範囲を限定するものとして解釈されてはならない。
【符号の説明】
【0035】
1 電極車輪
2 電極車輪
3 回転軸
4 容器
5 容器
6 金属溶融部
7 コンデンサ・バンク
8 フィードスルー
9 レーザパルス
10 破片軽減ユニット
11 ワイパー・ユニット
12 スクリーン
13 金属遮蔽部
14 液体金属供給部
15 ピンチ・プラズマ
16 プリ・ワイパー
17 ギャップ
18 外周表面
19 拭き取り端
20 側部品
21 溝
22 第1のワイパー・エレメント
23 第2のワイパー・エレメント
24 更なるワイパー・エレメント
25 非湿潤性のコーティング
26 電極車輪の側面
27 電極車輪の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の周りに回転可能で、二つの側面の間に外周表面をもっている電極車輪と、
前記電極車輪の回転の間、前記外周表面及び前記側面の少なくとも一部に適用される液体材料の膜の厚みを限定するためのワイパー・ユニットと、
を少なくとも有するガス放電光源用の電極デバイスであって、
前記ワイパー・ユニットは、前記外周表面と当該ワイパー・ユニットの拭き取り端との間にギャップを形成し、前記電極車輪の回転の間、前記側面から前記外周表面への液体材料の移行を禁止又は少なくとも減じるよう設計されている、電極デバイス。
【請求項2】
前記ワイパー・ユニットが、前記電極車輪の回転の間、前記外周表面に隣接する前記側面の部分の液体材料を取り除くよう設計されている、請求項1に記載の電極デバイス。
【請求項3】
前記ワイパー・ユニットが、フォーク状の形状をもつワイパー・エレメントを有する、請求項2に記載の電極デバイス。
【請求項4】
前記ワイパー・ユニットが、一緒に働く複数のワイパー・エレメントを有する、請求項2又は3に記載の電極デバイス。
【請求項5】
前記ワイパー・エレメントのうちの一つが、前記ギャップを形成するよう設計され、
前記ワイパー・エレメントの他の一つ以上が、前記電極車輪の前記側面の部分の液体材料を取り除くよう設計された、請求項4に記載の電極デバイス。
【請求項6】
前記電極車輪が、前記外周表面においてT字状の断面をもつ、請求項1に記載の電極デバイス。
【請求項7】
前記外周表面が、円周方向に延在する溝を形成している、請求項1に記載の電極デバイス。
【請求項8】
前記ワイパー・ユニットが、前記外周表面の幅にわたって一定の厚みの前記ギャップを形成するよう設計されている、請求項1に記載の電極デバイス。
【請求項9】
前記側面が、非湿潤性の材料、又はコーティングで覆われている、請求項1に記載の電極デバイス。
【請求項10】
前記ワイパー・ユニットが、前記電極車輪の異なる回転周波数に対して、前記外周表面と前記拭き取り端との間の距離によって規定される前記ギャップの幅の調整ができるよう設計されている、請求項1に記載の電極デバイス。
【請求項11】
更なるワイパー・ユニットが、回転方向において、前記ワイパー・ユニットの前に配置されており、前記更なるワイパー・ユニットが、前記外周表面上の前記液体材料の膜の厚みを限定するように設計されている、請求項1に記載の電極デバイス。
【請求項12】
請求項1に記載の電極デバイスを有するガス放電光源であって、前記電極デバイスの前記電極車輪は前記ガス放電光源の二つの電極のうちの第1のものを形成し、前記二つの電極は放電領域で最小距離をもつよう配置され、当該ガス放電光源は、前記電極車輪の前記外周表面上の少なくとも一部に液体材料の膜を適用又は生成するための装置を更に有する、ガス放電光源。
【請求項13】
前記電極の両方が、請求項1に記載の電極デバイスで形成されている、請求項12に記載のガス放電光源。
【請求項14】
前記電極車輪が回転角周波数ω=2πfで駆動され、前記ワイパー・ユニットは、最大ギャップ面積Amax=8σ/(ρω2R)を超えることはないギャップ面積Aを伴うギャップを形成するために、前記電極車輪の前記外周表面までの距離が調整され、ここでσは、適用された液体材料の表面張力であり、ρは、適用された液体材料の密度であり、Rは、前記電極車輪の回転軸までの前記外周表面の距離として規定された、前記電極車輪の車輪半径である、請求項12に記載のガス放電光源を作動させる方法。
【請求項15】
前記電極車輪は、当該車輪の外周表面で、D<D<10・Dを満たす幅Dをもち、ここで、

である、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−539637(P2010−539637A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523619(P2010−523619)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【国際出願番号】PCT/IB2008/053560
【国際公開番号】WO2009/031104
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】