説明

ガス条件を任意に変更可能とした組織培養装置

【課題】1台の培養器において、ガス環境、特に酸素濃度の個別管理を行うことの出来る組織培養装置を得る。
【解決手段】酸素濃度等の培養ガス条件により培養状態に影響のある組織細胞培養を行う培養装置において、1台の密閉培養器内の同温度条件下で、数種類の酸素濃度等の培養ガス条件を変更でき、かつ、該培養ガス条件の切換え時間を予め設定し得る切換部材を設け、1つの組織細胞に対し時間経過ごとに酸素濃度等の培養ガス条件を自動的に切換えることを可能とした。また、組織細胞培養を行うシャーレ等を個々の専用の密閉容器に入れ、その密閉容器へはガスラインヘパフィルターを介した無菌の培養ガスを供給することで、シャーレ等の上蓋やキャップをせず無菌状態を維持し培養ができ、組織細胞間の交叉汚染を防止することが図れ、かつ密閉容器内に供給される培養ガス濃度と組織細胞の培養ガス濃度を瞬時に平衡化することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の酸素濃度等のガス条件下において、細胞操作,培養を行うことを可能とした組織培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現行の低酸素培養を含む、酸素濃度が管理できる培養方法はCO2培養器等へ所定のガス濃度(例O2:2%、CO2:5%等)を供給し、それぞれの細胞培養に最適なガス平衡状態に置換していた。
しかし、従来方式の培養方法は、所定のガス濃度に混合された1種類の培養ガスを連続的に供給するため、同一培養器内にある全ての細胞に対する培養環境が同条件となり(特許文献1)、1台の培養器においてガス環境、とくに酸素濃度の個別管理はできなかった。
また、初代細胞,幹細胞においては、発生,分化誘導の過程で新たな遺伝子発現が起こり、代謝系の変化が誘導される。この現象はエネルギー代謝の変化、すなわち栄養要求性、環境要求性の変化が誘起する。すなわち初代細胞、幹細胞においては物理環境の経時的変更が求められ、とくに酸素濃度の変更は大きな課題であった。
【0003】
更に、従来式の場合は、培養器内のガス濃度が最適な培養環境に置換されたとしても細胞培養用ディッシュには落下菌等による汚染防止するため蓋をする(特許文献2)が、間隙は最小とされ、平衡化に40〜60分程度の時間を必要とする。さらに液体培地専用の組織培養フラスコ(特許文献3)は、細胞、培養液をフラスコ内に収納した後、ガスの侵透を促すため、キャップを半開の状態にして培養液内に設置する。わずかな隙間を介したガス侵透は平衡までに約20時間を要する。さらにキャップ部にフィルターを装着したフラスコにおいても同様の結果であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−125756号公報
【特許文献1】特開2010−80号公報
【特許文献1】特開平8−308556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点を鑑みて、1台の培養器において、ガス環境、特に酸素濃度の個別管理を行うことの出来る組織培養装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明にあっては、酸素濃度等の培養ガス条件により培養状態に影響のある組織細胞培養を行う培養装置において、1台の密閉培養器内の同温度条件下で、数種類の酸素濃度等の培養ガス条件を変更でき、かつ、該培養ガス条件の切換え時間を予め設定し得る切換部材を設けてなり、1つの組織細胞に対し時間経過ごとに酸素濃度等の培養ガス条件を自動的に切換えることを可能としている。
請求項2記載の発明にあっては、組織細胞培養を行うディッシュやシャーレ及び液体培地用フラスコ等を個々の専用の密閉容器に入れ、その密閉容器へはガスラインヘパフィルターを介した無菌の培養ガスを供給することで、ディッシュやシャーレ及び液体培地用フラスコ等の上蓋やキャップをせず無菌状態を維持して培養ができ、組織細胞間の交叉汚染を防止することが図れ、かつ密閉容器内に供給される培養ガス濃度と組織細胞の培養ガス濃度を瞬時に平衡化することを可能としている。
【発明の効果】
【0007】
本組織細胞培養装置の発明により、酸素濃度により培養状態に影響のある組織細胞培養において、培養ガスを間欠供給することで1台の培養装置内の同温度条件下で、数種類の酸素濃度等の培養ガス条件を変更でき、かつ1つの組織細胞に対しても培養の時間経過に伴う組織細胞の分裂や分化の状態に最適な酸素濃度等の培養ガス条件を自動的に切換えることが可能となった。
【0008】
組織細胞培養を行うディッシュやシャーレ及び液体培地用フラスコ等を個々の専用の密閉容器に入れ、その密閉容器へはヘパフィルターを介した無菌の培養ガスを供給しているので、専用の密閉容器内を無菌状態に維持することができ、ディッシュやシャーレ及び液体培地用フラスコ等の上蓋やキャップをせずに培養ができ、よって、密閉容器内に供給される培養ガス濃度と実際の組織細胞に接触する周囲環境(培養ガス環境)を瞬時に平衡化することが可能な組織細胞培養装置を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の組織細胞培養装置の縦断側面図。
【図2】密閉容器への培養ガスの供給配管図。
【図3】密閉容器の概略縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明、組織細胞培養装置1の実施形態について図面と共に次に説明する。
組織細胞培養装置1の縦断側面図を図1に示す。組織細胞培養装置1は全体形状が箱状の函体2よりなり、函体2の正面側に開閉扉3を有する培養室4を、その奥には機器室5を、それぞれ配している。
【0011】
培養室4内には、適宜の支持手段6により複数の密閉容器7を収納している。本組織細胞培養装置1に使用される専用の密閉容器7の例を図3に示す。密閉容器7は内部に入る培養用のシャーレやディッシュ又はフラスコ等7aの大きさにより任意に決定できる。
この密閉容器7への培養ガスの供給は、本組織細胞培養装置1の庫内にあるチューブ接続口9を密閉容器のチューブ8と接続することで為し得る。また、培養ガスの供給が停止中も本密閉容器7を完全な無菌空間とするため、密閉容器7の排気口7bにもメンブレンフィルター7cを取り付ける。密閉容器7は、その内部にディッシュやシャーレ及び液体培地用フラスコ等7a(図3に図示)を収容し、かつ、密閉容器7内部への後述する培養ガスの供給手段として前記チューブ8及びその接続口9等を有している。
密閉容器7の容積に対する培養ガスの供給量は、例えば酸素濃度を一般環境(約21%)より2%程度まで低下させるためには、酸素濃度が0%の培養(混合)ガスを密閉容器の内容積の約4倍の供給量が必要となり、その後の酸素濃度2%を維持する為には、酸素濃度2%の培養ガスを1時間当たり内容積の0.35倍を供給すれば維持できる。
培養室4の最奥部の機器室5との境には機器室5内のヘパフィルター10と対位して、ヘパフィルター10から吹き出し培養室4内に流入する噴気流を整流するための、多孔板状体よりなる整流板11が設けられている。
【0012】
機器室5内にはヘパフィルター10,ヒーターチャンバー12,ファン13が設けられ、ファン13の気流はヒーターチャンバー12に送り込まれ所定の温度に加熱され、ヘパフィルター10を経て培養室4に流出する。
培養室4の開閉扉3に近い位置には、機器室5に連なる気流通路14に開口する吸引スリット15を設けている。これにより、前記機器室5内のファン13で圧送された気流は、ヒーターチャンバー12,ヘパフィルター10,整流板11を通り培養室4に放出される。
培養室4内のガスは吸気スリット15,流路14を経て循環してファン13に戻る環状流路が構成される。
【0013】
次に密閉容器7への培養ガスの供給手段につき説明する。
各密閉容器7への培養ガスの供給手段を図2に示す。予め所定の酸素濃度等に調合検定された混合ガスタンク20(図示の例ではA,B,Cの3台)それぞれのガスライン21をガス接続口22を介してガス切換電磁弁23に接続し、各ガス切換電磁弁23を経たガスラインを流量調整弁24に集中する。
【0014】
一方、複数の密閉容器7(図示の例では、あ,いの2台)のそれぞれに設けられているチューブ8を、接続口9において、それぞれガスライン28に接続する。各ガスライン28はメンブレンフィルター26,容器切換電磁弁27を介してガスラインヘパフィルター29に集中し、ガスラインヘパフィルター29はガス切換電磁弁23と、流量調整弁24を介して連結する。ガスタンク20A,20B,20Cより供給される培養ガスABCは無菌ではあるが、電磁弁や配管中の菌や汚染物が混入する可能性があるので、装置内の配管中にはガスラインヘパフィルター29を設置し、密閉容器7へ接続されるガスライン28の直前にはメンブレンフィルター26を設置することで、完全に無菌・清浄化された培養ガスを密閉容器7内に供給することが可能となり、また各々の組織細胞を個別の密閉容器7に入れることで試料間の交叉汚染が防止できる。よって、密閉容器7は常時、無菌・清浄化され、その中に入る培養用のシャーレやディッシュ又は培養用フラスコ等の汚染防止用の上蓋やキャップが不要となり、密閉容器内と培養用フラスコ等7aの中のガス濃度が瞬時に平衡化できる。
【0015】
ガス切換電磁弁23と容器切換電磁弁27の開閉はプログラマブル論理制御回路(PLC)30によって制御され、それら電磁弁の開閉のタイミングは操作用タッチパネル(TPD)31にて予め設定が可能である。
【0016】
上記ガス切換電磁弁23の開閉のタイミング例を次に説明する。混合ガスタンク20Aの培養ガスAを密閉容器7(あ)に5分間供給し、55分間停止する間欠運転を行うとする。
この場合、操作用タッチパネル31に入力記録しておいたデータに基づき選択されたタンク20のいずれか(この場合A)のガス切換弁23a及び容器切換用電磁弁27aが開き、ガスタンク20A,ガス切換電磁弁23a,流量調節器24,ガスラインヘパフィルター29,容器切換電磁弁27a,メンブレンフィルター26aを通るガスライン21,28が構成される。流量調整弁24で流量が調整された混合ガスAを、供給されるべき密閉容器7(あ)へガスライン21,28で送ることになる。そして、容器切換電磁弁27aが開き、混合ガスタンク70Aの培養ガスは、流量調整弁24で流量を規制されガスラインヘパフィルター27で清浄化され、容器切換電磁弁27a,メンブレンフィルター26aを通り密閉容器7(あ)に送られる。この培養ガスAの供給は、前述の如く、5分間行われ55分間停止する間欠運転を行うよう設定しているが、密閉容器7(あ)のガス供給が停止している55分の間にガス切換電磁弁23を切換え、密閉容器7(い)にガスタンク20A又はガスタンク20B若しくはガスタンク20Cの培養ガスを5分間供給することができ、本例のような最大5分の培養ガス供給時間とした場合は、最大12個の密閉容器7にそれぞれ指定した培養ガスを供給することが可能となる。10分の供給時間の場合は、最大6台の密閉容器7を設置可能となる。
【0017】
更に、例として密閉容器(あ)にて培養する組織細胞が、培養の時間経過に伴う分裂や分化の状態に酸素濃度の変化が必要な場合、最初の3時間は培養ガスA(培養ガスAを5分間供給し55分間停止する制御を3回行う。)を供給し、その後3〜8の経過時間中は培養ガスB(培養ガスBを5分間供給し55分間停止する制御を5回行う。)を供給でき、更に8〜24の経過時間時には培養ガスC(培養ガスCを5分間供給し55分間停止する制御を16回行う。)を供給することで、組織細胞の分裂や分化の状態に最適な酸素濃度の培養条件にすることができる。
【0018】
次に本発明組織細胞培養装置1の作用について説明する。組織細胞培養装置1の培養室5内部には、常時所定温湿度に保つべく、循環気流を発生させている。即ち、図1に示すようにファン13によって加圧された空気はヒーターチャンバー12内に送風され電気ヒーターチャンバーにて所定の温度に制御される。温度制御された空気は、ヘパフィルター10にて無菌・清浄化され、整流板11にて均一な風速となり密閉容器7のある培養室4内に送風される。また、その空気は吸込みスリット15に吸い込まれ流路12を経てファン11に戻り再循環されることにて、各密閉容器7に対し無菌環境を維持でき、かつ均一で精密な温度管理が可能となる。
【0019】
各密閉容器7への培養ガスの供給は次の如く行なわれる。予め所定の酸素濃度等に調合、検定された混合ガスのタンク20より、それぞれの培養ガスA,B,Cを本組織細胞培養装置1のガス接続口22に接続し、供給された培養ガスはガス切換電磁弁23により供給する培養ガスの種類が切換えられ、容器切換電磁弁27にてその培養ガスを指定の密閉容器7に切換え供給する。
【符号の説明】
【0020】
1 組織細胞培養装置
2 函体
3 開閉扉
4 培養室
5 機器室
6 支持手段
7 密閉容器
7a フラスコ等
8 チューブ
9 接続口
10 ガスヘパフィルター
11 整流板
12 ヒーターチャンバー
13 ファン
14 気流通路
15 吸気スリット
20,20A,20B,20C 混合ガスタンク
21,28 ガスライン
22 ガス接続口
23 ガス切換電磁弁
24 流量調整弁
26 メンブレンフィルター
27 容器切換電磁弁
29 ガスラインヘパフィルター
30 PLC
31 操作用タッチパネル
A,B,C 培養ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素濃度等の培養ガス条件により培養状態に影響のある組織細胞培養を行う培養装置において、1台の密閉培養器内の同温度条件下で、数種類の酸素濃度等の培養ガス条件を変更でき、かつ、該培養ガス条件の切換え時間を予め設定し得る切換部材を設けてなり、1つの組織細胞に対し時間経過ごとに酸素濃度等の培養ガス条件を自動的に切換えることを可能とした組織培養装置。
【請求項2】
組織細胞培養を行うディッシュやシャーレ及び液体培地用フラスコ等を個々の専用の密閉容器に入れ、その密閉容器へはガスラインヘパフィルターを介した無菌の培養ガスを供給することで、ディッシュやシャーレ及び液体培地用フラスコ等の上蓋やキャップをせず無菌状態を維持して培養ができ、組織細胞間の交叉汚染を防止することが図れ、かつ密閉容器内に供給される培養ガス濃度と組織細胞の培養ガス濃度を瞬時に平衡化することを可能とした組織培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−160729(P2011−160729A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27378(P2010−27378)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(591066465)日本エアーテック株式会社 (27)
【Fターム(参考)】