説明

ガス検出器用硫化水素除去フィルタ

【課題】有機ガスを吸着することなく硫化水素を除去するフィルタを提供すること。
【解決手段】一端から他端にガスの通過が可能な筒状体に、上流側から第1の薬剤と第2の薬剤とが層状に装填されており、前記第1の薬剤が硝酸銀をシリカ粒子に担持させて調製され、また第2の薬剤が酸化マグネシウムをシリカ粒子に担持させて調製されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境中のアルコールなどの有機ガスを検出する検出装置に適した硫化水素除去用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
大気中に存在する有機ガスを検出する場合に、電気化学式ガスセンサーを使用すると、このガスセンサーは硫化水素にも高い感度を有するため測定誤差が発生するという問題がある。
このため、特許文献1に見られるようにガス透過性を有する収容体に、硫化水素と化合しやすい金属の硫酸塩をアルミナ粒子に吸着させて収容して構成されたガス検出器用硫化水素除去フィルタが用いられている。
【特許文献1】特開2003−232770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このフィルタは、亜硫酸ガスを検出対象とし、硫化水素を除去対象とするものであるため、有機ガスを検出対象にする場合に利用すると、アルミナ粒子により有機ガスが吸着されてしまい測定誤差や応答遅れが生じるという不都合がある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであってその目的とするところは、有機ガスの吸着を可及的に少なくしたガス検出器用硫化水素除去用フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を達成するために請求項1の発明は、一端から他端にガスの通過が可能な筒状体に、上流側から第1の薬剤と第2の薬剤とが層状に装填されており、前記第1の薬剤が硝酸銀をシリカ粒子に担持させて調製され、また第2の薬剤が酸化マグネシウムをシリカ粒子に担持させて調製されている。
【0005】
また請求項2の発明は、前記第1の薬剤の層と第2の薬剤の層の間に通気性を有する仕切り材が配置されている。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、検出対象である有機ガスの濃度を変化や、吸着による応答遅れを生じさせることなくサンプリングガス中の硫化水素を除去することができる。
【0007】
請求項2の発明によれば、第2の薬剤で発生したMg(NO3)2による第1の薬剤の劣化、フィルタ寿命の短縮を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明のフィルタの一実施例を示すものであって、一端にガス流入口1が、他端にガス流出口2を有し一端から他端にガスの通過が可能な筒状体3に、ガス流入口1側から層状に第1の薬剤4と第2の薬剤5とを装填して構成されている。
【0009】
上流側に装填される第1の薬剤4は、担体となるシリカ粒子ゲル粒子に硝酸銀を吸着させて調製されており、また下流側の第2の薬剤5は担体となるシリカ粒子ゲル粒子に酸化マグネシウムを吸着させて構成されている。
なお、図中符号6乃至8は、それぞれガス流入口1、ガス流出口2、及び第1と第2の薬剤4、5との境界に配置されたガス透過可能な仕切り材を示す。
【0010】
(実施例)
まず、第1の薬剤4の調製方法について説明する。
硝酸銀23.3gを水100mlに溶解させた溶液に、シリカ粒子10gを投入する。次に300℃に加熱して水分を完全に揮散させる。
【0011】
次に第2の薬剤5の調製方法について説明する。
酸化マグネシウム10gを水100mlに溶解させた溶液に、シリカ粒子10gを投入する。次に300℃に加熱しながら水分を完全に揮散させる。さらに500℃で5時間ほど加熱して焼成する。
【0012】
一方、硝酸銀、及び酸化マグネシウムを担持させるシリカ粒子は、薬品の担持量と通気性の関係から60乃至80メッシュのものが望ましい。また300℃で加熱する関係上、硝酸銀、及び酸化マグネシウムとの反応を防止するため、シリカ粒子の少なくとの表面の金属成分を除去したもの(GLサイエンス社製 UniportB)が好適である。
【0013】
この実施例において、ガス検出器に本発明のフィルタを接続してサンプリングを開始すると、サンプリングガスに含まれている硫化水素は第1の薬剤4の層で
H2S + 2AgNO3 → Ag2S + 2HNO3
なる反応により硫化水素の硫黄分は硫化銀(Ag2S)として第1の薬剤4の層で固定され、同時に発生する硝酸(HNO3)は一部が気体となって第2の薬剤5の層に流入する。
【0014】
第1の薬剤4の層で発生した硝酸は第2の薬剤5の層の酸化マグネシウムと
2HNO3 + MgO → Mg(NO3)2 + H2O
なる反応により水と硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2)となり、硝酸が除去されたサンプリングガスがガス検出器に流入する。
なお、水分は、ガス検出器出力を左右しないから、測定誤差は生じない。
【0015】
なお、第1の薬剤の層4と第2の薬剤5の層との間の仕切り材8が存在するため、第2の薬剤5で発生したMg(NO3)2が第1の薬剤4の層の未使用領域に作用して第1の薬剤4を劣化させるのが防止されている。
【0016】
前述の通り調製された第1の薬剤4を1.0g、また第2の薬剤5を0.5グラムを内径11mm筒状体に充填してフィルタを構成し、100ppmの硫化水素を含むガスを 0.5L/mimで流してガス検出器の出力を調査したところ、図2に示したように1000乃至1100分の間、検出器の出力はベース値を示し、その後に検出器が硫化水素に感応して出力が上昇した。
ところで、測定環境中には100ppmという高濃度の硫化水素は存在しないから、本願発明のフィルタは実用的に十分な長さの寿命を有することが確認できた。
【0017】
一方、有機ガスの吸着の有無を調査するため、それぞれ濃度50%LELのメタン、イソブタン、ヘキサン、エタノールを、本発明のフィルタを接続していないガス検出器(図中 符号□で示す)、及び本発明のフィルタを接続したガス検出器(図中 符号○で示す)にパルス状に流して出力を調査したところを図3(a)、(b)、図4(a)、(b)のようになった。
これらのことから本発明のフィルタは有機ガスを吸着しないことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のフィルタの一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明のフィルタを検出器に接続して硫化水素を供給したときの検出器出力を示す線図である。
【図3】図(a)、(b)は、それぞれ本発明のフィルタを接続した検出器、及び検出器だけにメタン、ヘキサンを供給したときの検出器の出力を示す線図である。
【図4】図(a)、(b)は、それぞれ本発明のフィルタを接続した検出器、及び検出器だけにイソブタン、エタノールを供給したときの検出器の出力を示す線図である。
【符号の説明】
【0019】
4 第1の薬剤 5 第2の薬剤 6〜8 仕切り材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から他端にガスの通過が可能な筒状体に、上流側から第1の薬剤と第2の薬剤とが層状に装填されており、前記第1の薬剤が硝酸銀をシリカ粒子に担持させて調製され、また第2の薬剤が酸化マグネシウムをシリカ粒子に担持させて調製されていることを特徴とするガス検出器用硫化水素除去フィルタ。
【請求項2】
前記第1の薬剤の層と第2の薬剤の層の間に通気性を有する仕切り材が配置されている請求項1に記載のガス検出器用硫化水素除去フィルタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−122001(P2009−122001A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297369(P2007−297369)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】