説明

ガス検出器用硫化水素除去フィルタ

【課題】高濃度の硫化水素を確実に除去してシアン化水素を高い精度で検出することができるフィルタを提供すること。
【解決手段】ガス透過性の基材に酢酸鉛と硝酸鉛とを担持させて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出器のガス口に配置して硫化水素を除去するフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
シアン化合物はメッキ工場などで広く使用されている物質で、非常に強い毒性のために水質環境基準や排水基準などの規制値が定められ,排水,河川水,下水道水,浄水場取水口などで常時監視されているが、高濃度の硫化水素が共存する現場などでは測定結果に影響を与えるため、通気性基材に酢酸鉛(II)三水和物((CH3COO)2Pb3H2O)を含浸させて構成されフィルタがガス検出器のガス口に配置されいる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら硫化水素の濃度が高い場合には長時間、例えば8時間程度に亘って十分に硫化水素を除去することができず、シアン化水素の検出誤差が生じるという不都合がある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであってその目的とするところは高濃度の硫化水素を確実に除去してシアン化水素を高い精度で検出し、かつ代替えの基準ガスを用いて校正することができるフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を達成するために本発明においては、ガス透過性の基材に酢酸鉛と硝酸鉛を担持させるようにした。
【発明の効果】
【0005】
基材に含まれている硝酸鉛が、硫化水素吸収剤である酢酸鉛の活性を維持させるように作用するため、酢酸鉛が単独で存在する場合よりも高濃度の硫化水素が通過するのを長時間防止できる。そればかりでなく硝酸鉛はホスフィン(PH3)に対する吸着性が低いため、ホスフィン(PH3)を使用して校正することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
そこで以下に本発明の詳細を実施例に基づいて説明する。
フィルタは、耐酸性に優れた通気性基材、たとえばガラス繊維製ろ紙(アドバンテック社製 厚さ7.4mm)に酢酸鉛(II)三水和物((CH3COO)2Pb3H2O)及び硝酸鉛(Pb(NO3)2)を担持させて構成されている。
【0007】
すなわち、0.79mol/lの酢酸鉛及び0.20mol/lの硝酸鉛を含む水溶液に通気性基材を浸漬して各繊維間に浸透するに必要な時間、例えば3分間、浸漬し、通気性基材を溶液から引き上げて室温よりも若干高い温度、例えば40℃で自然乾燥させる。そしてガス検出器のガス取り入れ口のサイズに裁断してフィルタに構成されている。
【0008】
このようにして構成されたフィルタは、酢酸鉛(II)三水和物((CH3COO)2Pb3H2O)だけではなく、硝酸鉛(Pb(NO3)2)を含むため、硫化水素の吸着量を向上させようとして酢酸鉛(II)三水和物だけを単独に増量した場合に比較してシアン化水素の検出感度の低下を防止できる。
【0009】
すなわち、酢酸鉛(II)三水和物だけをその含浸量を変えてフィルタを構成し、このフィルタを用いて一定濃度のシアン化水素を検出すると、図1の●で示したように酢酸鉛の量が増加すると検出感度が徐々に低下する。
【0010】
一方、本発明のように酢酸鉛(II)三水和物に硝酸鉛を規定量だけ添加すると、図1の▲で示したように酢酸鉛(II)三水和物に対する硝酸鉛の量が1/4程度までは感度が若干低下するものの、90%以上を維持できるため十分に実用に供することができる。
【0011】
すなわち0.79mol/lの酢酸鉛(II)三水和物の溶液に硝酸鉛の濃度を変えた溶液を用意してそれぞれの溶液の通気性基材を浸漬し、上述と同様にフィルタを構成して硫化水素に対する感度を測定したところ図2のような結果を得た。
これにより、フィルタが存在しない状態でのシアン化水素の検出感度の85%程度の感度を得るには硝酸鉛を酢酸鉛(II)三水和物に対して0.75〜1.0の割合で添加することは、シアン化水素の検出感度の低下を可及的に抑えて酢酸鉛(II)三水和物の担持量を増加させてフィルタの寿命を延長することができる。
【0012】
一方、所定濃度(500ppm)の硫化水素を流してシアン化水素換算出力が0.5ppmの出力が出るまでの時間を調べたところ、図3に示したような結果となった。
すなわち、酢酸鉛(II)三水和物だけでフィルタを構成した場合には、シアン化水素の濃度に換算して0.5ppmの出力が192分程度で発生した。
これに対して硝酸鉛(Pb(NO3)2)を添加した本発明のフィルタでは218分程度まではシアン化水素の濃度に換算して0.5ppmの出力は発生しなかった。
このことから硝酸鉛を添加することにより寿命を14%程度延長できることが確認された。
なお、通気性基材に含浸させる薬剤の量は、硝酸鉛と酢酸鉛(II)三水和物との比率を上述の範囲に維持して適宜に調整、つまり通気性の低下や析出の発生を可及的に抑えつつ最大量とするなり、フィルタの交換期間まで硫化水素を除去できる量に調整されることは言うまでも無い。
【0013】
ところでガス検出器やガス測定装置、ガス警報機は、定期的に既知濃度の基準ガスを用いて校正を行う必要があるが、検出対象ガスであるシアン化水素は有毒ガスであるため安易に校正ガスとして使用することができない。
【0014】
そのため、シアン化水素の代替えガスとしてシアン化水素に比較して毒性の低いホスフィン(PH3)が用いられている。
このため、シアン化水素検出器の硫化水素除去用フィルタとしては、硫化水素を確実に吸着する一方、シアン化水素だけではなくホスフィン(PH3)も透過させるものであることが望まれる。
【0015】
本発明のフィルタをガス検出器のガス口に装着してホスフィン(PH3)の検量線を求めたところ、図4に示したようにシアン化水素と一定の比例関係で直線性を維持していることが確認できた。
このことから硫化水素を確実に除去しつつ、ホスフィン(PH3)により校正できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】酢酸鉛に対する硝酸鉛の添加量とシアン化水素の検出感度との関係を示す線図である。
【図2】酢酸鉛の濃度とシアン化水素の検出感度との関係、及び酢酸鉛に対する硝酸鉛の添加量を変化させた場合のシアン化水素の検出感度との関係を示す線図である。
【図3】本発明と従来のフィルタの寿命を示す線図である。
【図4】本発明のフィルタによるホスフィンとシアン化水素との検量線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス透過性の基材に酢酸鉛と硝酸鉛を担持させて構成されたガス検出器用硫化水素除去フィルタ。
【請求項2】
前記硝酸鉛が前記酢酸鉛(II)三水和物((CH3COO)2Pb3H2O)に対してモル比で0.75〜1.0の割合で添加されている請求項1に記載のガス検出器用硫化水素除去フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−142706(P2010−142706A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320847(P2008−320847)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】