説明

ガス検出素子及びガス検出装置

【課題】光導波路を構成する基材と、対象物質との反応により発色する発色層とを備えたガス検出素子において、発色層の表面に意図せず気体が供給されることを防止する。
【解決手段】ガス検出素子(30)は、基材(31)と発色層(32)に加えて、第1保持部材(21)と第2保持部材(22)と閉塞部材(26)とを備えている。第1保持部材(21)は、枠状に形成され、その開口に発色層(32)が臨むように基材(31)に積層されている。第2保持部材(22)は、基材(31)の第1保持部材(21)側とは反対側に積層され、第1保持部材(21)と共に基材(31)を保持している。閉塞部材(26)は、第1保持部材(21)の開口を塞ぐように第1保持部材(21)の基材(31)側とは反対側に積層され、第1保持部材(21)に囲われた気体室(20)へ気体を流入させるための流入通路(26a)と、気体室(20)から気体を流出させるための流出通路(26b)とが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路を構成する基材を備えたガス検出素子、及びそのガス検出素子を備えたガス検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、光導波路を構成する基材を備えたガス検出素子が知られている。例えば特許文献1には、この種のガス検出素子を備えたガス検出装置が記載されている。
【0003】
具体的に、特許文献1のガス検出装置は、ホルムアルデヒド検出体を構成する検出素子を備えたホルムアルデヒド検出装置である。このガス検出装置の検出素子は、光導波路を構成する平板状の基材と、ホルムアルデヒドとの反応により発色する検出試薬が担持されたメソポーラス層とを備えている。メソポーラス層は、基材の片面に積層されている。このガス検出装置では、光導波路へ入射した光が基材の表面で全反射する際にエバネッセント波が生じる。このため、メソポーラス層が発色している状態であれば、メソポーラス層が積層された光反射面で所定波長の光が吸収され、光導波路から出射する光の光学特性が変化する。このガス検出装置は、光導波路から出射する光の光学特性の変化を利用して、ホルムアルデヒドの濃度を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−82840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種のガス検出素子は、その外部に発色層が露出していると、意図せず、発色層の表面に気体が供給されてしまう。このため、例えば、対象物質の濃度を検出する場合に、その検出を行う前に、濃度を検出する対象の気体が発色層の表面に供給され、対象物質の濃度を正確に検出することができなくなる。また、例えば、揮発性の検出試薬を発色層に使用している場合には、検出試薬が揮発して、発色層の機能が損なわれるおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光導波路を構成する基材と、対象物質との反応により発色する発色層とを備えたガス検出素子において、発色層の表面に意図せず気体が供給されることを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、平板状に形成され、相対向する端面の一方の端面を光の入射面(31a)として他方の端面の光の出射面(31b)とする光導波路(12)を構成する基材(31)と、上記基材(31)の表面のうち上記光導波路(12)の光反射面に積層され、気体に含まれる所定の化学物質を対象物質として該対象物質との反応により発色する発色層(32)とを備えたガス検出素子(30)を対象とする。そして、このガス検出素子(30)は、開口を有する枠状に形成され、該開口に上記発色層(32)が臨むように上記基材(31)に積層され、上記開口が気体室(20)を構成する第1保持部材(21)と、上記基材(31)の上記第1保持部材(21)側とは反対側に積層され、上記第1保持部材(21)と共に上記基材(31)を保持する第2保持部材(22)と、上記第1保持部材(21)の開口を塞ぐように上記第1保持部材(21)の基材(31)側とは反対側に積層され、上記気体室(20)へ気体を流入させるための流入通路(26a)と、該気体室(20)から気体を流出させるための流出通路(26b)とが形成された閉塞部材(26)とを備えている。
【0008】
第1の発明では、基材(31)の片側に、第1保持部材(21)と閉塞部材(26)とが積層され、基材(31)のもう片側に第2保持部材(22)が積層されている。基材(31)は、第1保持部材(21)と第2保持部材(22)により保持されている。また、基材(31)の片側には、第1保持部材(21)及び閉塞部材(26)により、発色層(32)が露出する気体室(20)が形成されている。気体室(20)には、流入通路(26a)及び流出通路(26b)を通じて気体が出し入れされる。この第1の発明では、基材(31)を保持する第1保持部材(21)を利用して、発色層(32)が露出する気体室(20)が形成されている。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記第1保持部材(21)の開口の周囲が全周囲に亘って上記基材(31)の表面に当接している。
【0010】
第2の発明では、第1保持部材(21)の開口の周囲が全周囲に亘って基材(31)の表面に当接しているので、基材(31)と第1保持部材(21)との間から気体室(20)へ気体が流入せず、さらに、基材(31)と第1保持部材(21)との間から気体室(20)へ光も浸入しない。
【0011】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、開口を有する枠状に形成され、該開口に上記基材(31)を収容する状態で上記第1保持部材(21)と上記第2保持部材(22)との間に設けられ、上記光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)の対応部に光通路を有し、上記入射面(31a)及び出射面(31b)の周りの上記基材(31)の端面を閉塞する枠状閉塞部材(23)を備えている。
【0012】
第3の発明では、枠状閉塞部材(23)の開口に基材(31)が収容されている。基材(31)の端面は、枠状閉塞部材(23)の開口の縁面に対面している。相対向する光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)の周りの基材(31)の端面は、枠状閉塞部材(23)により塞がれている。
【0013】
第4の発明は、上記第1乃至第3の何れか1つの発明において、上記第2保持部材(22)は、その平面形状が上記基材(31)よりも大きい平板状に形成され、上記第2保持部材(22)には、上記光導波路(12)の入射面(31a)に入射させる光を通過させる入射用開口(22a)と、上記光導波路(12)の出射面(31b)から出射させる光を通過させる出射用開口(22b)とが形成されている。
【0014】
第4の発明では、平板状の第2保持部材(22)の平面形状が、基材(31)の平面形状よりも大きい。基材(31)の片面は、第2保持部材(22)に覆われている。そして、第2保持部材(22)には、入射用開口(22a)及び出射用開口(22b)が形成されている。光導波路(12)の入射面(31a)には、入射用開口(22a)を通過した光が到達する。また、光導波路(12)の出射面(31b)から出射される光は、出射用開口(22b)を通過する。この第4の発明では、基材(31)の第2保持部材(22)側において、基材(31)に到達する光が通過できる領域が、入射用開口(22a)及び出射用開口(22b)に制限されている。
【0015】
第5の発明は、上記第1乃至第3の何れか1つの発明において、上記第2保持部材(22)は、開口を有する枠状に形成され、該開口が上記光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)よりも外側へ延びるように形成される一方、上記第2保持部材(22)の開口を塞ぐように上記第2保持部材(22)の基材(31)側とは反対側に積層され、上記光導波路(12)の入射面(31a)に入射させる光を通過させる入射用開口(27a)と、上記光導波路(12)の出射面(31b)に入射させる光を通過させる出射用開口(27b)とが形成された開口形成部材(27)を備えている。
【0016】
第5の発明では、第2保持部材(22)の開口が、光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)よりも外側へ延びている。つまり、平面視において、第2保持部材(22)の開口の縁よりも内側に、光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)が位置している。そして、第2保持部材(22)の開口が、入射用開口(27a)及び出射用開口(27b)が形成された開口形成部材(27)により塞がれている。このため、入射用開口(27a)を通過した光は、第2保持部材(22)の開口を通過した後に入射面(31a)に到達し、出射面(31b)から出射される光は、第2保持部材(22)の開口を通過した後に出射用開口(27b)を通過することになる。この第5の発明では、基材(31)の第2保持部材(22)側において、基材(31)に到達する光が通過できる領域が、入射用開口(22a)及び出射用開口(22b)に制限されている。
【0017】
第6の発明は、上記第1乃至第5の何れか1つの発明において、透明な部材により構成され、上記入射用開口(22a,27a)及び上記出射用開口(22b,27b)を塞ぐように設けられる開口閉塞部材(28)を備えている。
【0018】
第6の発明では、入射用開口(22a,27a)及び上記出射用開口(22b,27b)が、透明な開口閉塞部材(28)により塞がれている。開口閉塞部材(28)は、入射用開口(22a,27a)及び上記出射用開口(22b,27b)を光が通過することを許容しつつ、入射用開口(22a,27a)及び上記出射用開口(22b,27b)を気体が通過することを阻止している。
【0019】
第7の発明は、第1乃至第6の何れか1つ発明のガス検出素子(30)と、上記光導波路(12)に入射させる光を発する発光体(41)と、上記光導波路(12)から出射される光を受光して、受光した光の光学特性を表す光信号を出力する受光体(42)と、上記光信号を受け、該光信号の変化に基づいて上記対象物質の濃度又は有無を検出する信号処理手段(17)とを備えているガス検出装置(10)である。
【0020】
第7の発明では、発光体(41)が発する光が、第1乃至第6の何れか1つ発明のガス検出素子(30)の光導波路(12)に入射する。光導波路(12)に入射した光は、反射を繰り返して伝搬して出射する。光導波路(12)から出射した光を受けた受光体(42)は、受光した光の光学特性を表す光信号を出力する。そして、光信号を受けた信号処理手段(17)は、光信号の変化に基づいて対象物質の濃度又は有無を検出する。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、基材(31)を保持する第1保持部材(21)を利用して、発色層(32)が露出する気体室(20)が形成されている。気体室(20)は、第1保持部材(21)及び閉塞部材(26)により周囲が区画されている。気体室(20)内の発色層(32)は、ガス検出素子(30)の外部に露出していない。また、気体室(20)は、第1保持部材(21)に閉塞部材(26)を積層するという簡単な作業で形成することが可能である。従って、発色層(32)の表面に意図せず気体が供給されることを防止できるガス検出素子(30)を比較的容易に製作することができる。
【0022】
また、本発明では、枠状の第1保持部材(21)に閉塞部材(26)を積層することによって気体室(20)が形成されているので、第1保持部材(21)の厚みにより気体室(20)の高さ(基材(31)の厚さ方向の長さ)が決定される。ここで、気体室(20)の高さが高いほど、隅角部等のデッドスペースの容積が大きくなる。このため、気体室(20)の高さが高いほど、対象物質の検出後の気体室(20)に多くの気体が残留し、次の対象物質の検出の際に、残留した気体が検出結果に与える影響が大きくなる。従って、気体室(20)の高さは、気体の流通が可能な高さであれば、なるべく低い方が望ましい。しかし、例えば、凹部が形成された部材を基材(31)に被せて気体室(20)を形成する場合は、凹部を精度良く加工することが困難であり、高さの低い気体室(20)を精度良く形成することが困難である。それに対して、本発明では、第1保持部材(21)の厚みを薄くするだけで、気体室(20)の高さを低くすることが可能である。従って、デッドスペースの容積が小さい、高さの低い気体室(20)を精度良く形成することが可能である。
【0023】
また、上記第2の発明では、基材(31)と第1保持部材(21)との間から気体室(20)へ気体が流入しない。従って、発色層(32)の表面に意図せず気体が供給されることをさらに確実に防止することができる。
【0024】
また、上記第2の発明では、基材(31)と第1保持部材(21)との間から気体室(20)へ光が浸入しない。ここで、基材(31)と第1保持部材(21)との間に隙間が存在している場合は、その隙間を抜けた光が、気体室(20)へ迷い込むおそれがある。気体室(20)へ迷い込んだ迷光は、光導波路(12)から出射される光の強度に影響を与え、対象物質の検出結果に影響を与えるおそれがある。それに対して、この第2の発明では、基材(31)と第1保持部材(21)との間から気体室(20)へ光が浸入しない。従って、光導波路(12)から出射される光の強度が迷光により変化することを抑制することができる。
【0025】
また、上記第3の発明では、相対向する光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)の周りの基材(31)の端面が、枠状閉塞部材(23)により塞がれている。基材(31)の端面では、光が入射できる領域が、枠状閉塞部材(23)により必要最小限に制限されている。このため、対象物質の検出とは関係のない光が基材(31)の端面から光導波路(12)へ浸入することを抑制することができる。
【0026】
また、上記第4、第5の各発明では、基材(31)の第2保持部材(22)側において、基材(31)に到達する光が通過できる領域が、入射用開口(22a,27a)及び出射用開口(22b,27b)に制限されている。このため、対象物質の検出とは関係のない光が基材(31)の第2保持部材(22)側から光導波路(12)に浸入することを抑制することができる。
【0027】
また、上記第6の発明では、入射用開口(22a,27a)及び上記出射用開口(22b,27b)を気体が通過することが、開口閉塞部材(28)により阻止されている。このため、入射用開口(22a,27a)及び上記出射用開口(22b,27b)を通じて気体がガス検出素子(30)の内部へ浸入することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本実施形態におけるガス検出素子の長手方向の断面が表されたガス検出装置の概略構成図である。
【図2】図2は、本実施形態のガス検出素子の斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態のガス検出素子の短手方向の断面図である。
【図4】図4は、光導波路における光の反射状態を示す基材の断面図である。
【図5】図5は、本実施形態のガス検出素子を構成する部材の平面図であり、(A)はガス導入プレートの平面図であり、(B)は第1保持プレートの平面図であり、(C)は基材枠プレートの平面図であり、(D)は第2保持プレートの平面図であり、(E)はスリットプレートの平面図であり、(F)はアクリル窓の平面図であり、(G)は窓枠プレートの平面図であり、(H)は窓保持プレートの平面図である。
【図6】図6は、発色層を省略した基材の斜視図である。
【図7】図7は、光信号の強度の経時変化を表す図表である。
【図8】図8は、検出動作の流れを表すフローチャートである。
【図9】図9は、本実施形態の変形例1におけるガス検出素子の長手方向の断面が表されたガス検出装置の概略構成図である。
【図10】図10は、本実施形態の変形例1におけるガス検出素子を構成する部材の平面図であり、(A)はガス導入プレートの平面図であり、(B)は第1保持プレートの平面図であり、(C)は基材枠プレートの平面図であり、(D)はスリットプレートの平面図であり、(E)はアクリル窓の平面図であり、(F)は窓枠プレートの平面図であり、(G)は窓保持プレートの平面図である。
【図11】図11は、本実施形態の変形例2におけるガス検出素子の長手方向の断面が表されたガス検出装置の概略構成図である。
【図12】図12は、本実施形態の変形例におけるガス検出素子を基材の端部で短手方向に切断した断面図である。
【図13】図13は、本実施形態の変形例におけるガス検出素子を貫通孔の位置で短手方向に切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
本実施形態は、本発明に係るガス検出素子(30)を備えたガス検出装置(10)である。このガス検出装置(10)は、気体に含まれる所定の化学物質を対象物質(例えば、ホルムアルデヒド)として、気体中における対象物質の濃度を検出するための装置である。このガス検出装置(10)は、対象物質と検出試薬(認識分子)との反応による発色に伴う光学特性の変化に基づいて、気体中における対象物質の濃度を検出するように構成されている。
【0031】
なお、本実施形態のガス検出装置(10)は、対象物質によって検出試薬を変えることで、ホルムアルデヒド以外に、例えばパラジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、アセトアルデヒド、メチルベンゼン等を、対象物質とすることができる。
【0032】
<ガス検出装置の全体構成>
図1に示すように、本実施形態のガス検出装置(10)は、ケーシング(11)とガス検出素子(30)と発光体(41)と受光体(42)と信号処理部(17)と入出力部(18)とを備えている。
【0033】
ケーシング(11)は、箱状に形成されている。ケーシング(11)は、ガス検出素子(30)と発光体(41)と受光体(42)と信号処理部(17)と入出力部(18)を収容している。ケーシング(11)の内部には、ガス検出素子(30)が着脱自在に取り付けられる取付部(図示省略)が設けられている。また、ケーシング(11)には、後述する気体室(20)へ被測定ガスを供給するための給気通路(14)と、気体室(20)のガスを排出するための排気通路(15)とが設けられている。給気通路(14)及び排気通路(15)は、配管により構成されている。排気通路(15)には、気体室(20)の気体を吸引する空気ポンプ(16)が設けられている。
【0034】
図2に示すように、上記ガス検出素子(30)は、複数の部材を積層することによって構成され、全体として矩形板状に形成されている。図1及び図3に示すように、ガス検出素子(30)は、光を閉じこめて伝送する光導波路(12)を構成する平板状の基材(31)と、該基材(31)の片面(図1において上面)に積層された発色層(32)とを備えている。ガス検出素子(30)の内部には、上記発色層(32)が露出して該発色層(32)に接触させる被測定ガスが導入される気体室(20)が形成されている。なお、ここでは、ガス検出素子(30)のうち基材(31)と発色層(32)について説明し、ガス検出素子(30)の詳細については後述する。
【0035】
上記基材(31)は、無色透明のガラス基板で構成されている。基材(31)には、対象物質と検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域(以下、「吸収帯域」という。)の光を透過する材質のものが用いられている。上記基材(31)の端面は、後述する基材枠プレート(23)により、光導波路(12)の入射面(31a)および出射面(31b)を残して閉塞されている。
【0036】
基材(31)は、正方形状に形成されている。基材(31)の一辺の長さは24mmである。また、基材(31)の外周の端面は、上下の両面に対して垂直に延びている。基材(31)の厚さは0.15mmである。なお、基材(31)は、0.05〜2mm程度の厚さであればよい。
【0037】
上記発色層(32)は、基材(31)の表面のうち光導波路(12)の光反射面に積層されている。発色層(32)は、上記対象物質との反応により発色する。発色層(32)は、基材(31)の片面に全面に亘って形成されている。
【0038】
発色層(32)は、直径が数nmである細孔を多数有するメソポーラスシリカ薄膜で構成されている。発色層(32)の細孔には、検出試薬が担持されている。つまり、発色層(32)は、検出試薬が担持されたメソポーラス層により構成されている。発色層(32)は、表面が被測定ガスの暴露面となり、裏面が基材(31)の接着面(測定面)となる。発色層(32)は、被測定空気中の対象物質が暴露面から細孔に侵入することにより対象物質と検出試薬とが反応し、発色するように構成されている。
【0039】
本実施形態では、ホルムアルデヒドとの反応により発色する検出試薬が用いられている。ホルムアルデヒドの検出試薬としては、下記i)〜v)に示す物質(特開2008−82840号公報に記載)を用いることができる。また、上記i)〜v)に示すものの他には、2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(2-aminopent-3-en-2-one)等のエナミノン誘導体から選ばれる1種を、ホルムアルデヒドの検出試薬として用いることができる。なお、ホルムアルデヒドとは別の化学物質を対象物質とする場合は、該対象物質との反応により発色する検出試薬を使用する。
【0040】
i) 4‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(4-aminopent-3-en-2-one)
ii) 4‐アミノ‐3‐オクテン‐2‐オン(4-aminooct-3-en-2-one)
iii)5‐アミノ‐4‐ヘプテン‐3‐オン(5-aminohept-4-en-3-one)
iv) 4‐アミノ‐4‐フェニル‐3‐ブテン‐2‐オン(4-amino-4-phenylbut-3-en-2-one)
v) 3‐アミノ‐1,3‐ジフェニル‐2‐プロペン‐1‐オン(3-amino-1,3-diphenylprop-2-en-1-one)
上記検出試薬は、ホルムアルデヒドとの化学反応により、ルチジンを生成することになる。そして、この生成物であるルチジンは、吸収ピークを示す特性を有し、波長405nm付近の光を最も吸収する。
【0041】
なお、発色層(32)は、対象物質と検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光を透過するように構成されている。また、発色層(32)の細孔は、対象物質と検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光の波長に対し、該波長の10分の1以下の平均直径に設定されている。また、発色層(32)は、対象物質と検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光に対応した厚さに構成され、例えば、上記発色層(32)は、厚さが0.01〜2μmに設定されている。
【0042】
上記発光体(41)は、レーザダイオード又は発光ダイオードで構成されている。発光体(41)は、光導波路(12)の入射面(31a)に対峙して配置されている。発光体(41)は、光導波路(12)に入射させる光を発する。発光体(41)が照射する光の入射面(31a)に対する入射角θは、基材(31)と発色層(32)との界面でエバネッセント波が発生するように設定されている。例えば、上記基材(31)の屈折率n=1.5とする場合に、入射角θ=61°に設定される。この場合、伝搬角は55°となる。
【0043】
上記発光体(41)が照射する光は、対象物質と検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の波長の光を含んでいる。具体的に、上記発光体(41)が照射する光は、波長が405nm付近の光である。つまり、上記ホルムアルデヒドと検出試薬との反応生成物がルチジンの場合、吸収帯域の光の波長が405nmであるところ、上記発光体(41)が照射する光は、発色によって吸収される光を含むように設定されている。
【0044】
上記受光体(42)は、フォトダイオードで構成されている。上記受光体(42)は、光導波路(12)の出射面(31b)に対峙して配置されている。上記受光体(42)は、光導波路(12)から出射される光を受光して、受光した光の光学特性を表す光信号を出力するように構成されている。なお、ガス検出装置(10)は、発光体(41)が照射する光を受光体(42)が直接受光することがないように構成されている。
【0045】
上記信号処理部(17)は、光信号の変化に基づいて対象物質の濃度を検出する信号処理手段(17)を構成している。信号処理部(17)は、光信号の強度に基づいて、発色層(32)の発色に伴う光学特性の変化、つまり、所定波長の光の強度低下を検出し、この低下に基づいて対象物質の濃度を検出するように構成されている。
【0046】
具体的に、上記信号処理部(17)は、レート法により対象物質の濃度を検出する第1動作と、エンドポイント法により対象物質の濃度を検出する第2動作とを実行可能に構成されている。また、信号処理部(17)には、第1動作と第2動作とのどちらにより対象物質の濃度を検出するかを決定するための判定用閾値が予め設定されている。判定用閾値は、レート法による検量線とエンドポイント法による検量線を用いて設定されている。判定用閾値は、所定の時間(例えば、3分)で光信号の強度が飽和する場合の検量線における、飽和後の光信号の強度に等しくなっている。
【0047】
上記入出力部(18)は、対象物質の濃度を表示する表示手段を構成すると共に、測定のON及びOFFなどの操作を行う操作手段を構成している。入出力部(18)は、信号処理部(17)からの検出信号を受けて対象物質の濃度の絶対値などをデジタル表示するように構成されている。
【0048】
以上の構成により、発光体(41)が光を発すると、図4に示すように、光導波路(12)では、相対向する端面の一方から入射した光が全反射を繰り返して伝搬し他方の端面から出射する。発色層(32)が対象物質との反応により発色している状態であれば、光導波路(12)を伝搬する光は、全反射する界面において発色層(32)にしみ出し、所定波長の光が吸収される。その結果、光導波路(12)から出射する光の光学特性が変化する。
【0049】
<ガス検出素子の構成>
図1に示すように、上記ガス検出素子(30)は、上記基材(31)と上記発色層(32)に加えて、第1保持プレート(21)と第2保持プレート(22)と基材枠プレート(23)と窓枠プレート(24)と窓保持プレート(25)とガス導入プレート(26)とスリットプレート(27)とアクリル窓(28)とを備えている。これらの8つの部材(21-28)は、何れも外周形状が長方形である。図5に示すように、これらの8つの部材(21-28)のうちガス導入プレート(26)とアクリル窓(28)とを除く6つの部材(21,22,23,24,25,27)は、外周形状が同じ大きさであり、平面視において外周が一致するように積層されている。また、これらの8つの部材(21-28)のうちアクリル窓(28)を除く7つの部材(21-27)には、ネジ穴(48)が2つずつ形成されている。上記ガス検出素子(30)では、これらの7つの部材(21-27)が、ネジ穴(48)に螺合させる固定ネジによって締結されている。また、これらの7つの部材(21-27)は、光の反射率が低い黒色の部材(反射率が1%程度の部材)により構成されている。
【0050】
本実施形態では、第1保持プレート(21)が第1保持部材(21)を構成している。第2保持プレート(22)が第2保持部材(22)を構成している。基材枠プレート(23)が枠状閉塞部材(23)を構成している。ガス導入プレート(26)が閉塞部材(26)を構成している。スリットプレート(27)が開口形成部材(27)を構成している。アクリル窓(28)が開口閉塞部材(28)を構成している。
【0051】
図1、図3及び図5に示すように、上記ガス検出素子(30)では、基材(31)が、第1保持プレート(21)と第2保持プレート(22)との間に設けられた基材枠プレート(23)の開口(23a)に収められている。基材(31)の端面は、基材枠プレート(23)により、光導波路(12)の入射面(31a)および出射面(31b)を残して閉塞されている。基材(31)には、基材枠プレート(23)により、ガス検出素子(30)の長手方向(図1において左右方向)に光が伝搬する光導波路(12)が構成されている。
【0052】
基材(31)は、第1保持プレート(21)と第2保持プレート(22)により挟み込まれている。第1保持プレート(21)と第2保持プレート(22)は、基材(31)を保持する保持手段(21,22)を構成している。ここで、基材(31)では、図3及び図6に示すように、その中央部(35)に光導波路(12)を構成する部分が存在している。保持手段(21,22)は、基材(31)の両側で且つ光導波路(12)の側方の基材側部(36,37)で基材(31)を保持している。保持手段(21,22)は、光導波路(12)に当接していない。
【0053】
第1保持プレート(21)は、図5(B)に示すように、矩形枠状に形成されている。第1保持プレート(21)の開口(21a)は、略長方形状に形成され、その角部が円弧状になっている。第1保持プレート(21)の開口(21a)は、長手方向の長さが基材(31)の一辺の長さ(光導波路(12)の光の伝搬方向の長さ)よりも長く、短手方向の長さが基材(31)の一辺の長さ(光導波路(12)の幅方向の長さ)よりも短い。第1保持プレート(21)は、その開口(21a)に発色層(32)が臨むように、基材(31)の第1面に積層されている。第1保持プレート(21)は、基材(31)の第1面側から基材側部(36,37)を保持している。
【0054】
また、第1保持プレート(21)では、光導波路(12)の幅方向において開口(21a)を挟んで対向する部分が、それぞれ幅方向対向部(21b,21c)を構成し、光導波路(12)の光の伝搬方向において開口(21a)を挟んで対向する部分が、それぞれ伝搬方向対向部(21d,21e)を構成している。第1保持プレート(21)では、各幅方向対向部(21b,21c)が各基材側部(36,37)を上記第1面側から保持している。また、平面視において、図5(B)において左側の伝搬方向対向部(21d,21e)が、光導波路(12)の入射面(31a)よりも左側に位置し、図5(B)において右側の伝搬方向対向部(21d,21e)が、光導波路(12)の出射面(31b)の右側に位置している。つまり、平面視において、第1保持プレート(21)の開口(21a)が、光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)よりも外側へ延びている。
【0055】
第2保持プレート(22)は、図5(D)に示すように、矩形枠状に形成されている。第2保持プレート(22)の開口(22a)の形状は、長方形である。第2保持プレート(22)の開口(22a)は、長手方向の長さが基材(31)の一辺の長さ(光導波路(12)の光の伝搬方向の長さ)よりも長く、短手方向の長さが基材(31)の一辺の長さ(光導波路(12)の幅方向の長さ)よりも短い。第2保持プレート(22)は、基材(31)の第1保持部材(21)側とは反対側の第2面に積層されている。第2保持プレート(22)は、基材(31)の第2面側から基材側部(36,37)を保持している。
【0056】
また、第2保持プレート(22)では、光導波路(12)の幅方向において開口(22a)を挟んで対向する部分が、それぞれ幅方向対向部(22b,22c)を構成し、光導波路(12)の光の伝搬方向において開口(22a)を挟んで対向する部分が、それぞれ伝搬方向対向部(22d,22e)を構成している。第2保持プレート(22)では、各幅方向対向部(22b,22c)が各基材側部(36,37)を上記第2面側から挟んでいる。また、平面視において、図5(D)において左側の伝搬方向対向部(22d,22e)が、光導波路(12)の入射面(31a)よりも左側に位置し、図5(D)において右側の伝搬方向対向部(22d,22e)が、光導波路(12)の出射面(31b)よりも右側に位置している。つまり、平面視において、第2保持プレート(22)の開口(22a)が、光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)よりも外側へ延びている。
【0057】
基材枠プレート(23)は、図5(C)に示すように、矩形枠状に形成されている。基材枠プレート(23)の厚さは、基材(31)と発色層(32)との合計厚さに概ね等しい。基材枠プレート(23)の開口(23a)は、正方形状に形成されている。基材枠プレート(23)の開口(23a)は、一辺の長さが基材(31)の一辺の長さに概ね等しい。基材枠プレート(23)の内周には、矩形状の切り欠きにより構成された切欠部(23b,23c)が2つ形成されている。各切欠部(23b,23c)は、光導波路(12)の光の伝搬方向において開口(23a)を挟んで対向する部分を内側から切り欠くことにより形成されている。各切欠部(23b,23c)は、光導波路(12)の幅方向における開口(23a)の中央部に形成されている。2つの切欠部(23b,23c)は、図5において左右対称に形成されている。
【0058】
本実施形態では、基材枠プレート(23)が、上記光導波路(12)の一方の端面に光導波路(12)の入射面(31a)を、該光導波路(12)の他方の端面に光導波路(12)の出射面(31b)を形成している。光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)は、基材枠プレート(23)の内面のうち基材(31)の端面から離れている各切欠部(23b,23c)により形成されている。各切欠部(23b,23c)は、入射面(31a)に入射する光又は出射面(31b)から出射した光の光通路となる。
【0059】
また、基材枠プレート(23)は、光を透過しない部材により構成され、光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)を残して基材(31)の端面を塞いでいる。基材(31)では、光導波路(12)の入射面(31a)と出射面(31b)との間が光導波路(12)を構成することになる。
【0060】
光導波路(12)には、発色層(32)以外のものが当接していない。つまり、光導波路(12)の表面のうち発色層(32)が積層されていない領域が全領域に亘って気体に接触している。なお、本実施形態では、光導波路(12)の幅が5mmに設定されている。レーザダイオードや発光ダイオードから発せられた光が光導波路(12)を伝搬する場合は、光導波路の幅は10mm以下に設定される。
【0061】
また、上記ガス検出素子(30)では、第1保持プレート(21)の基材(31)側とは反対側に、ガス導入プレート(26)が積層されている。ガス導入プレート(26)は、第1保持プレート(21)の開口(21a)を塞ぐように設けられている。ガス検出素子(30)では、基材(31)の発色層(32)側に、第1保持プレート(21)とガス導入プレート(26)により区画された気体室(20)が形成されている。
【0062】
ガス導入プレート(26)には、図5(A)に示すように、該ガス導入プレート(26)を厚さ方向に貫通する円形の第1貫通孔(26a)及び第2貫通孔(26b)が形成されている。第1貫通孔(26a)及び第2貫通孔(26b)は、図5(A)において左右対称に形成され、共に気体室(20)に開口している。第1貫通孔(26a)は、給気通路(14)に接続され、気体室(20)へ被測定ガスを流入させるための流入通路(26a)を構成している。第2貫通孔(26b)は、排気通路(15)に接続され、気体室(20)から被測定ガスを流出させるための流出通路(26b)を構成している。
【0063】
また、第2保持プレート(22)の基材(31)とは反対側には、基材(31)側から順番に、スリットプレート(27)と窓枠プレート(24)と窓保持プレート(25)とが積層されている。また、アクリル窓(28)は、窓枠プレート(24)の開口(24a)に収められた状態で、スリットプレート(27)と窓保持プレート(25)により挟み込まれている。
【0064】
スリットプレート(27)は、図5(E)に示すように、その平面形状が基材(31)の平面形状よりも一回り大きい矩形板状に形成されている。スリットプレート(27)は、第2保持プレート(22)の開口(22a)を塞ぐように、第2保持プレート(22)の基材(31)側とは反対側に積層されている。
【0065】
スリットプレート(27)には、短手方向に延びる矩形状の第1スリット(27a)及び第2スリット(27b)が形成されている。第1スリット(27a)及び第2スリット(27b)は、図5(E)において左右対称に形成さている。図1に示すように、第1スリット(27a)は、光導波路(12)の入射面(31a)の下方に位置している。第1スリット(27a)は、発光体(41)の出射光が光導波路(12)の入射面(31a)に真っ直ぐ到達可能に形成されている。第1スリット(27a)は入射用開口(27a)を構成している。一方、第2スリット(27b)は、光導波路(12)の出射面(31b)の下方に位置している。第2スリット(27b)は、光導波路(12)の出射面(31b)からの出射光が上記受光体(42)に真っ直ぐ到達可能に形成されている。第2スリット(27b)は出射用開口(27b)を構成している。
【0066】
窓枠プレート(24)は、図5(G)に示すように、矩形枠状に形成されている。窓枠プレート(24)の開口(24a)の形状は長方形である。窓枠プレート(24)の開口(24a)は、アクリル窓(28)の外周形状と概ね同じ大きさである。窓枠プレート(24)は、光を透過しない部材により構成され、アクリル窓(28)の端面に光が入射することを防止している。
【0067】
窓保持プレート(25)は、図5(H)に示すように、矩形枠状に形成されている。窓保持プレート(25)の開口(25b)の形状は長方形である。窓保持プレート(25)の開口(25b)は、長手方向の長さがアクリル窓(28)の長手方向の長さより短く、短手方向の長さがアクリル窓(28)の短手方向の長さよりも短い。窓保持プレート(25)は、アクリル窓(28)が外れることを防止している。
【0068】
アクリル窓(28)は、透明な部材により構成されている。アクリル窓(28)は、矩形板状に形成されている。アクリル窓(28)は、第1スリット(27a)及び第2スリット(27b)を塞ぐように設けられている。
【0069】
<検出動作>
ガス検出装置(10)は、被測定ガス中の対象物質の濃度を検出する検出動作を行う。ガス検出装置(10)では、検出動作の前に、空気ポンプ(16)が停止した状態で発光体(41)に電力が供給される。そうすると、発光体(41)が発する光が、入射面(31a)から光導波路(12)に入射し、光導波路(12)に入射した光が、全反射を繰り返して伝搬し出射面(31b)から出射する。そして、出射面(31b)から出射した光を受けた受光体(42)は、受光した光の光学特性を表す光信号を信号処理部(17)へ出力する。空気ポンプ(16)が停止した状態では、図7に示すように、光信号の強度は一定値となる。
【0070】
検出動作は、この状態から開始される。図8に示すように、ステップ1(ST1)では、空気ポンプ(16)の運転が開始される。空気ポンプ(16)の運転中は、気体室(20)のガスが排気通路(15)の空気ポンプ(16)に吸引され、それに伴って、例えば室内空気等の被測定空気が、給気通路(14)を通じて気体室(20)へ導入される。
【0071】
ここで、被測定空気が気体室(20)へ導入されると、被測定空気が発色層(32)に接触し、被測定空気に対象物質が含まれていれば、その対象物質が発色層(32)の細孔内へ浸入して検出試薬と反応する。発色層(32)は、検出試薬と対象物質との反応により発色する。そして、この反応の進行に従って、発色層(32)の裏面は、空気ポンプ(16)の運転開始から徐々に変色してゆく。
【0072】
例えば、対象物質をホルムアルデヒドとして検出試薬をエナミノン誘導体とする場合、ホルムアルデヒドと検出試薬の化学反応により、ルチジンが生成される。このルチジンの場合、発色によって吸収される帯域の光の波長が405nmとなる。このため、光導波路では、入射した光が発色層(32)の裏面で反射する度に、405nmの波長の光の強度が低下する。図7に示すように、信号処理部(17)に入力される光信号の強度は、徐々に低下してゆく。被測定空気中のホルムアルデヒドの濃度が高いほど、光信号の強度の時間当たりの低下率は大きくなり、光信号の強度は極小値へと達する。また、被測定空気中のホルムアルデヒドの濃度が高いほど、上記化学反応が飽和するのに長い時間が掛かり、光信号の強度が極小値に達するのに長い時間が掛かる。
【0073】
続いて、ステップ2(ST2)では、信号処理部(17)が、レート法による測定を開始する。そして、ステップ3(ST3)では、信号処理部(17)が、予め設定されたサンプリング時間で、受光体(42)から入力された光信号の強度を取得する。
【0074】
ステップ4(ST4)は、ステップ1(ST1)の実行時点からの経過時間が所定の設定時間(例えば、1分)に達すると行われる。つまり、ステップ4(ST4)は、空気ポンプ(16)の運転開始から所定の設定時間が経過すると行われる。ステップ4(ST4)では、信号処理部(17)が、現時点での光信号の強度と判定用閾値とを比較する。そして、信号処理部(17)は、現時点での光信号の強度が判定用閾値よりも小さい場合は、ステップ5(ST5)に移行し、現時点での光信号の強度が判定用閾値以上の場合は、ステップ5(ST5)に移行する。
【0075】
ステップ5(ST5)では、信号処理部(17)が、レート法を用いて対象物質の濃度を検出する第1動作を行う。第1動作では、時間当たりの光信号の強度の低下率(傾き)に基づいて対象物質の濃度が検出される。
【0076】
ステップ6(ST6)では、レート法による測定からエンドポイント法による測定へ切り換えられる。信号処理部(17)は、エンドポイント法を用いて対象物質の濃度を検出する第2動作を行う。第2動作では、空気ポンプ(16)の運転開始前の光信号の強度をI0とし、エンドポイントに達したときの光信号の強度をIとして、濃度Cに対して−log(I/I0)が算出され、光信号の強度の減少量から対象物質の濃度が検出される。
【0077】
−実施形態の効果−
本実施形態では、基材(31)を保持する第1保持プレート(21)を利用して、発色層(32)が露出する気体室(20)が形成されている。気体室(20)は、第1保持プレート(21)及び閉塞部材(26)により周囲が区画されている。気体室(20)内の発色層(32)は、ガス検出素子(30)の外部に露出していない。また、気体室(20)は、第1保持プレート(21)にガス導入プレート(26)を積層するという簡単な作業で形成することが可能である。従って、発色層(32)の表面に意図せず気体が供給されることを防止できるガス検出素子(30)を比較的容易に製作することができる。
【0078】
また、本実施形態では、枠状の第1保持プレート(21)にガス導入プレート(26)を積層することによって気体室(20)が形成されているので、第1保持プレート(21)の厚みにより気体室(20)の高さ(基材(31)の厚さ方向の長さ)が決定される。このため、第1保持プレート(21)の厚みを薄くするだけで、気体室(20)の高さを低くすることが可能である。従って、デッドスペースの容積が小さい、高さの低い気体室(20)を精度良く形成することが可能である。
【0079】
また、本実施形態では、基材(31)の端面が、相対向する光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)を残して、基材枠プレート(23)により塞がれている。基材(31)の端面では、光が入射できる領域が、基材枠プレート(23)により必要最小限に制限されている。このため、対象物質の検出とは関係のない光が基材(31)の端面から光導波路(12)へ浸入することを抑制することができる。
【0080】
また、本実施形態では、基材(31)の第2保持プレート(22)側において、基材(31)に到達する光が通過できる領域が、第1スリット(27a)及び第2スリット(27b)に制限されている。このため、対象物質の検出とは関係のない光が基材(31)の第2保持プレート(22)側から光導波路(12)に浸入することを抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態では、第1スリット(27a)及び第2スリット(27b)を気体が通過することが、アクリル窓(28)により阻止されている。このため、第1スリット(27a)及び第2スリット(27b)を通じて気体がガス検出素子(30)の内部へ浸入することを防止することができる。
【0082】
また、本実施形態では、対象物質の濃度の検出する方法が、空気ポンプ(16)の運転開始から所定の設定時間の経過後の光信号の強度によって、レート法とエンドポイント法から自動的に選択される。対象物質の濃度が高い場合はレート法が選択され、対象物質の濃度が低い場合はエンドポイント法が選択される。ここで、エンドポイント法だけを用いる場合は、対象物質の濃度を正確に測定することができるが、対象物質の濃度が高い場合に、検出時間が長くなる。また、レート法だけを用いる場合は、検出時間を短縮できるが、検出結果に誤差が生じるおそれがある。本実施形態では、対象物質の濃度の検出する方法が対象物質の濃度に応じてレート法とエンドポイント法から自動的に選択される。従って、対象物質の濃度が高い場合にはレート法により検出時間を短縮しつつ、対象物質の濃度が低い場合にはエンドポイント法により対象物質の濃度を正確に検出することができる。
【0083】
また、本実施形態では、空気ポンプ(16)が、給気通路(14)ではなく排気通路(15)に設けられている。このため、検出動作において気体室(20)に導入される気体が、空気ポンプ(16)に残留した気体により希釈されることがない。従って、ガス検出装置(10)の信頼性を向上させることができる。
【0084】
−実施形態の変形例1−
実施形態の変形例1について説明する。この変形例1では、第2保持部材(22)が、上記実施形態におけるスリットプレートにより構成されている。上記実施形態における枠状の第2保持プレートは、設けられていない。
【0085】
スリットプレート(22)は、図9及び図10に示すように、基材(31)の第1保持プレート(21)側とは反対側の第2面に積層されている。スリットプレート(22)には、上記実施形態と同様に、入射用開口(22a)を構成する第1スリット(22a)と、出射用開口(22b)を構成する第2スリット(22b)とが形成されている。第1スリット(22a)は、光導波路(12)の入射面(31a)に沿って延びている。第2スリット(22b)は、光導波路(12)の出射面(31b)に沿って延びている。基材(31)のスリットプレート(22)側では、基材(31)に到達する光が通過できる領域が、第1スリット(22a)及び第2スリット(22b)に制限されている。
【0086】
また、第1保持プレート(21)は、上記実施形態とは異なり、その開口(21a)の周囲が全周囲に亘って基材(31)の第1面に当接している。第1保持プレート(21)の開口(21a)は、その長手方向の長さが基材(31)の一辺の長さよりも短くなっている。第1保持プレート(21)は、光導波路(12)の光の入射面(31a)側の端部と光の出射面(31b)側の端部とに当接している。
【0087】
ここで、第1保持プレート(21)の表面には、ある程度の粗さがある。このため、光導波路(12)の光反射面のうち第1保持プレート(21)が当接する領域(以下、「当接領域」という。)では、光導波路(12)と気体の界面と同じ様に全反射が生じる。この点について以下に説明する。
【0088】
全反射がおこる臨界角は、気体よりも固体の方が絶対屈折率が大きいので、光導波路(12)と気体との界面よりも、光導波路(12)と固体の界面の方が大きい。このため、光導波路(12)における光の入射角をある程度小さくすると、理論上は、光導波路(12)と気体の界面では全反射が生じるが、光導波路(12)と固体の界面では全反射が生じない状態になる。しかし、この変形例1では、第1保持プレート(21)の表面にある程度の粗さがあるため、光導波路(12)における光の入射角をある程度小さくしても、光導波路(12)と気体の界面では全反射が生じる限りは、光導波路(12)に固体が当接する当接領域でも全反射が生じる。このため、エバネッセント波の電界強度が大きくなるように、光導波路(12)における光の入射角をある程度小さくすることができる。
【0089】
また、この変形例1では、基材(31)と第1保持プレート(21)との間から気体室(20)へ気体が流入しない。従って、発色層(32)の表面に意図せず気体が供給されることをさらに確実に防止することができる。
【0090】
また、この変形例1では、基材(31)と第1保持プレート(21)との間から気体室(20)へ光が浸入しない。従って、光導波路(12)から出射される光の強度が迷光により変化することを抑制することができる。
【0091】
−実施形態の変形例2−
実施形態の変形例2について説明する。この変形例2では、図11及び図12に示すように、第1保持プレート(21)の各伝搬方向対向部(21d,21e)が、光導波路(12)の光の入射面側の端部及び光の出射面側の端部の表面(図11において上面)に、隙間(46)を挟んで対面している。また、第2保持プレート(22)の各伝搬方向対向部(22d,22e)が、光導波路(12)の光の入射面側の端部及び光の出射面側の端部の表面(図11において下面)に、隙間を挟んで対面している。
【0092】
具体的に、ガス検出素子(30)は、平面視において矩形状に形成されている。ガス検出素子(30)は、上記基材(31)と上記発色層(32)に加えて、第1保持プレート(21)と第2保持プレート(22)とガス導入プレート(26)と底面プレート(29)と2つの側部プレート(38,39)とを備えている。ガス検出素子(30)では、ガス導入プレート(26)、第1保持プレート(21)、第2保持プレート(22)、底面プレート(29)の順番で、これらの4つの部材が積層されている。また、各側部プレート(38,39)は、ガス導入プレート(26)と底面プレート(29)とに挟まれている。
【0093】
この変形例2では、ガス検出素子(30)の短手方向に延びる各端面(図11における左右の端面)において、基材(31)の各端面が露出している。このため、基材(31)の光導波路(12)の一方の端面に外部から光を入射させて、該光導波路(12)の他方の端面から出射した光を外部で受光することができる。基材(31)には、ガス検出素子(30)の長手方向(図11において左右方向)に光が伝搬する光導波路(12)が構成されている。
【0094】
第1保持プレート(21)は、矩形枠状に形成されている。図13に示すように、第1保持プレート(21)では、各幅方向対向部(21b,21c)が各基材側部(36,37)を上記第1面側から保持している。また、各伝搬方向対向部(21d,21e)は、その厚みが幅方向対向部(21b,21c)に比べて薄くなっている。図12に示すように、各伝搬方向対向部(21d,21e)の基材(31)側の対向面(45)は、隙間(46)を挟んで、光導波路(12)の端部の上面(47)に対面している。この対向面(45)は、光導波路(12)の端部の上面(47)に平行な平坦面に形成されている。
【0095】
また、第2保持プレート(22)は、矩形枠状に形成されている。図13に示すように、第2保持プレート(22)では、各幅方向対向部(22b,22c)が各基材側部(36,37)を上記第2面側から保持している。また、各伝搬方向対向部(22d,22e)は、その厚みが幅方向対向部(22b,22c)に比べて薄くなっている。図12に示すように、各伝搬方向対向部(22d,22e)の基材(31)側の対向面は、隙間を挟んで、光導波路(12)の端部の下面に対面している。この対向面は、光導波路(12)の端部の下面に平行な平坦面に形成されている。
【0096】
−実施形態の変形例3−
実施形態の変形例3について説明する。この変形例3のガス検出装置(10)は、排気通路(15)の空気ポンプ(16)によりケーシング(11)内におけるガス検出素子(30)の周囲の気体をケーシング(11)外へ排出可能に構成されている。ケーシング(11)では、ガス検出素子(30)が設置空間(50)に配置されている。
【0097】
空気ポンプ(16)は、その吸入側が、気体室(20)だけでなく設置空間(50)にも接続されている。ガス検出装置(10)は、空気ポンプ(16)が気体室(20)の気体を吸入してケーシング(11)外へ排出する第1運転と、空気ポンプ(16)が設置空間(50)の気体を吸入してケーシング(11)外へ排出する第2運転とを切り換え可能に構成されている。第1運転は、検出動作の際に行われる。第2運転は、例えば検出動作の前に行われる。
【0098】
なお、排気通路(15)の空気ポンプ(16)とは別に、ケーシング(11)内におけるガス検出素子(30)の周囲の気体をケーシング(11)外へ排出する空気ポンプ(16)を設けてもよい。
【0099】
この変形例3では、気体室(20)に気体を導入する前に、ケーシング(11)内におけるガス検出素子(30)の周囲の気体がケーシング(11)外へ排出される。このため、検出動作の検出結果が、前回の検出動作の気体の影響を受けることを回避することができる。
【0100】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0101】
上記実施形態について、空気ポンプ(16)が、給気通路(14)に設けられていてもよい。この場合、被測定ガスは、空気ポンプ(16)によって気体室(20)に押し込まれる。
【0102】
また、上記実施形態について、発色層(32)が、対象物質との反応により発色する高分子膜又は単分子膜により構成されていてもよい。
【0103】
また、上記実施形態について、ガス検出装置(10)が、対象物質の有無を検出するように構成されていてもよい。
【0104】
また、上記実施形態について、光導波路(12)の入射面(31a)および出射面(31b)以外の基材(31)の端面を閉塞するのに、柔軟なシーリング材を使用してもよい。
【0105】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上説明したように、本発明は、光導波路を構成する基材を備えたガス検出素子、及びそのガス検出素子を備えたガス検出装置について有用である。
【符号の説明】
【0107】
10 ガス検出装置
12 光導波路
14 給気通路
15 排気通路
16 空気ポンプ
17 信号処理部(信号処理手段)
20 気体室
21 第1保持プレート(第1保持部材)
22 第2保持プレート(第2保持部材)
23 基材枠プレート(端面閉塞部材)
26 ガス導入プレート(閉塞部材)
27 スリットプレート(開口形成部材)
28 アクリル窓(開口閉塞部材)
30 ガス検出素子
31 基材
31a 入射面
31b 出射面
32 発色層
41 発光体
42 受光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状に形成され、相対向する端面の一方の端面を光の入射面(31a)として他方の端面の光の出射面(31b)とする光導波路(12)を構成する基材(31)と、
上記基材(31)の表面のうち上記光導波路(12)の光反射面に積層され、気体に含まれる所定の化学物質を対象物質として該対象物質との反応により発色する発色層(32)とを備えたガス検出素子であって、
開口を有する枠状に形成され、該開口に上記発色層(32)が臨むように上記基材(31)に積層され、上記開口が気体室(20)を構成する第1保持部材(21)と、
上記基材(31)の上記第1保持部材(21)側とは反対側に積層され、上記第1保持部材(21)と共に上記基材(31)を保持する第2保持部材(22)と、
上記第1保持部材(21)の開口を塞ぐように上記第1保持部材(21)の基材(31)側とは反対側に積層され、上記気体室(20)へ気体を流入させるための流入通路(26a)と、該気体室(20)から気体を流出させるための流出通路(26b)とが形成された閉塞部材(26)とを備えていることを特徴とするガス検出素子。
【請求項2】
請求項1において、
上記第1保持部材(21)は、上記開口の周囲が全周囲に亘って上記基材(31)の表面に当接していることを特徴とするガス検出素子。
【請求項3】
請求項1又は2において、
開口を有する枠状に形成され、該開口に上記基材(31)を収容する状態で上記第1保持部材(21)と上記第2保持部材(22)との間に設けられ、上記光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)の対応部に光通路を有し、上記入射面(31a)及び出射面(31b)の周りの上記基材(31)の端面を閉塞する枠状閉塞部材(23)を備えていることを特徴とするガス検出素子。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つにおいて、
上記第2保持部材(22)は、その平面形状が上記基材(31)よりも大きい平板状に形成され、
上記第2保持部材(22)には、上記光導波路(12)の入射面(31a)に入射させる光を通過させる入射用開口(22a)と、上記光導波路(12)の出射面(31b)から出射させる光を通過させる出射用開口(22b)とが形成されていることを特徴とするガス検出素子。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1つにおいて、
上記第2保持部材(22)は、開口を有する枠状に形成され、該開口が上記光導波路(12)の入射面(31a)及び出射面(31b)よりも外側へ延びるように形成される一方、
上記第2保持部材(22)の開口を塞ぐように上記第2保持部材(22)の基材(31)側とは反対側に積層され、上記光導波路(12)の入射面(31a)に入射させる光を通過させる入射用開口(27a)と、上記光導波路(12)の出射面(31b)に入射させる光を通過させる出射用開口(27b)とが形成された開口形成部材(27)を備えていることを特徴とするガス検出素子。
【請求項6】
請求項4又は5において、
透明な部材により構成され、上記入射用開口(22a,27a)及び上記出射用開口(22b,27b)を塞ぐように設けられる開口閉塞部材(28)を備えていることを特徴とするガス検出素子。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1つに記載のガス検出素子(30)と、
上記光導波路(12)に入射させる光を発する発光体(41)と、
上記光導波路(12)から出射される光を受光して、受光した光の光学特性を表す光信号を出力する受光体(42)と、
上記光信号を受け、該光信号の変化に基づいて上記対象物質の濃度又は有無を検出する信号処理手段(17)とを備えていることを特徴とするガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−13079(P2011−13079A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157016(P2009−157016)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】