説明

ガス検出装置およびガス検出方法

【課題】被検出雰囲気中の被検出ガスの濃度が湿度に基づき変動することを考慮して、被検出ガスを精度よく検出するようにしたガス検出装置およびガス検出方法を提供すること。
【解決手段】まず、環境温度を検出し(S15,S20)、続いて、異なる目標温度となるように通電制御された2つの発熱抵抗体における各端子電圧を検出する(S25)。S25で検出した2つの端子電圧と、S15において検出された環境温度とから、2つの端子電圧に対応する各熱伝導率を熱伝導率演算値として演算する(S30)。続いて、S30で求めた2つの熱伝導率演算値に基づき、湿度を演算する(S35,S40,S45)。そして、S30で求めた2つの熱伝導率演算値のうち少なくともいずれか一方と、S45で求めた被検出雰囲気の湿度とに基づき、被検出ガスのガス濃度を演算する(S50,S55,S60)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出雰囲気に含まれる被検出ガスの濃度を検出(演算)するガス検出装置およびガス検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガスの濃度を検出するにあたって、被検出雰囲気による熱伝導率に基づいて当該可燃性ガスの濃度を検出するガス検出装置が知られている。しかし、従来のガス検出装置では、被検出雰囲気中の可燃性ガスの濃度が同じであっても、被検出雰囲気中の湿度の変動によって当該被検出雰囲気全体の熱伝導率が変動することにより、可燃性ガスの検出精度が低くなる問題があった。そこで、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガスの濃度が当該被検出雰囲気の湿度に基づき変動することを考慮した可燃性ガス検出装置および可燃性ガス検出方法が提案されている(例えば、非特許文献1,特許文献1参照)。この特許文献1において提案されている可燃性ガス検出装置においては、可燃性ガス検出装置が備える2つの発熱抵抗体の各端子電圧の比と、被検出雰囲気の温度(環境温度)とから、被検出雰囲気の湿度を求めている。
【非特許文献1】Masaaki Tada,他3名、「Hydrogen Sensor for Fuel Cell Vehicles(燃料電池自動車用水素ガスセンサ)」、SAE−2003−01−1137,p7−p8
【特許文献1】特開2006−10670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年では、可燃性ガス等の被検出ガスの検出精度をより高めることが望まれており、被検出雰囲気中の被検出ガスの濃度が当該被検出雰囲気の湿度の影響を考慮したガス検出装置およびガス検出方法のさらなる開発が一層強く望まれるようになっている。
【0004】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、被検出雰囲気に含まれる被検出ガスの濃度が当該被検出雰囲気の湿度に基づき変動することを考慮して、被検出ガスを精度よく検出するようにしたガス検出装置およびガス検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明のガス検出装置は、被検出雰囲気に晒される2つの発熱抵抗体を備えるガス検出装置において、異なる目標温度となるように、前記2つの発熱抵抗体を通電制御する通電制御手段と、前記被検出雰囲気の環境温度を検出する温度検出手段と、前記2つの発熱抵抗体における各端子電圧を検出する電圧検出手段と、前記電圧検出手段により検出された2つの前記端子電圧と、前記温度検出手段により検出された環境温度とから、当該2つの端子電圧に対応する各熱伝導率を熱伝導率演算値として演算する熱伝導率演算手段と、前記熱伝導率演算手段により演算された2つの前記熱伝導率演算値に基づき、前記被検出雰囲気の湿度を演算する湿度演算手段と、前記熱伝導率演算手段により演算された2つの前記熱伝導率演算値のうち少なくともいずれか一方と、前記湿度演算手段により演算された前記被検出雰囲気の湿度とに基づいて、前記被検出雰囲気に含まれる被検出ガスのガス濃度を演算する濃度演算手段とを備えている。
【0006】
また、請求項2に係る発明のガス検出装置は、請求項1に記載の発明の構成に加え、複数の開口部が形成された半導体基板と、前記半導体基板上に前記開口部を遮るように形成される絶縁部材とを備えるガス検出素子を備え、前記2つの発熱抵抗体は、互いに間隔をおきつつ、それぞれ異なる前記開口部と対向する部位において前記絶縁部材に内包されている。
【0007】
また、請求項3に係る発明のガス検出方法は、被検出雰囲気に含まれる被検出ガスを検出するガス検出方法において、前記被検出雰囲気の環境温度を検出する温度検出工程と、異なる目標温度となるように通電制御された2つの発熱抵抗体における各端子電圧を検出する電圧検出工程と、前記電圧検出工程において検出された2つの前記端子電圧と、前記温度検出工程において検出された環境温度とから、当該2つの端子電圧に対応する各熱伝導率を熱伝導率演算値として演算する熱伝導率演算工程と、前記熱伝導率演算工程において演算された2つの前記熱伝導率演算値に基づき、前記被検出雰囲気の湿度を演算する湿度演算工程と、前記熱伝導率演算工程において演算された2つの前記熱伝導率演算値のうち少なくともいずれか一方と、前記湿度演算工程において演算された前記被検出雰囲気の湿度とに基づき、前記被検出雰囲気における被検出ガスのガス濃度を演算する濃度演算工程とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明のガス検出装置によれば、異なる目標温度となるように、通電制御された2つの発熱抵抗体における各端子電圧に対応する各熱伝導率演算値と、環境温度とから、被検出雰囲気の湿度を演算する。各端子電圧に対応する熱伝導率演算値には、被検出雰囲気に含まれる水分の寄与分と、被検出ガスの寄与分とがそれぞれ含まれている。そして、水分が存在しない状況下で被検出ガス濃度を変化させた場合の熱伝導率の変化パターンと、可燃性が存在しない状況下で水分濃度(湿度)を変化させた場合の熱伝導率の変化パターンとは異なる。これらの変化パターンの相違を利用することにより、各端子電圧に対応する熱伝導率演算値を用いて被検出雰囲気の湿度を適切に演算することができる。そして、上述の2つの熱伝導率演算値のうち少なくともいずれか一方と、被検出雰囲気の湿度とに基づいて、被検出雰囲気に含まれる被検出ガスのガス濃度を演算する。これにより、被検出雰囲気に配置された発熱抵抗体の熱伝導率が当該被検出雰囲気の湿度に応じて変動することを回避するように処理して、被検出ガスを精度よく検出することができる。
【0009】
また請求項2に係る発明のガス検出装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、ガス検出装置は、昇温、降温を短時間で行うことができる発熱抵抗体を有するガス検出素子を備えているので、発熱抵抗体の消費電力を低減することができる。
【0010】
また請求項3に係る発明のガス検出方法によれば、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を達成し得るガス検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るガス検出装置を具体化した可燃性ガス検出装置10の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態として例示する可燃性ガス検出装置10は、熱伝導式ガス検出素子であるガス検出素子60を備え、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガスである水素の濃度を検出(演算)するガス検出装置である。この可燃性ガス検出装置10は、本発明の「ガス検出装置」に相当し、例えば、自動車の燃料電池ユニットが備える配管に搭載され、配管を通じて排出される被検出雰囲気に含まれる水素の濃度を検出する目的等に用いられる。また本実施形態において、可燃性ガスである水素は、本発明の「被検出ガス」に相当する。
【0012】
まず、可燃性ガス検出装置10の構成を図1〜図5を参照して説明する。図1は、可燃性ガス検出装置10の縦断面図である。なお、図1において、上下方向を上下方向、左右方向を左右方向と言う。図1に示すように、可燃性ガス検出装置10は、被検出雰囲気に含まれる水素の濃度を検出するためのガス検出素子60を収容する素子ケース20と、この素子ケース20を支持するとともに、ガス検出素子60と電気的に接続された回路基板41を収容する収容ケース40とを備えている。
【0013】
まず、収容ケース40の構成について図1を参照して説明する。この収容ケース40は、ケース本体42と、ケース本体42の上端部に設けられた開口を覆う蓋であるケース蓋44とを備えている。そして、収容ケース40は、その内部に、マイクロコンピュータ94が実装された回路基板41および、発熱体50,51を備えている。以下、収容ケース40を構成する各部材について詳述する。
【0014】
ケース本体42は、上面および下面に開口を有し、所定の高さを有する容器であり、素子ケース20のつば部38を保持する保持部46と、回路基板41の周縁部を保持する回路基板保持部45とを備えている。また、ケース本体42の上面における開口には、この開口を塞ぎ、合成樹脂からなるケース蓋44を配置可能に構成されている。
【0015】
また、ケース本体42は、ケース本体42の下部中央に形成された流路形成部43と、ケース本体42の側部に形成され、外部給電するためのコネクタ55とを備え、これらは一体に樹脂成形されている。この流路形成部43の内部には、図2を参照して後述する被検出雰囲気を導入および排出するための素子ケース20の導入部35が収納されている。このように、素子ケース20はその一部を収容ケース40内部に配置させた状態で保持部46により保持されている。また、この素子ケース20のつば部38と保持部46との間には、被検出雰囲気の流路と収容ケース40との間を密閉するシール部材47が配置されている。
【0016】
コネクタ55は、マイクロコンピュータ94を実装した回路基板41に電力を供給するための部材であり、ケース本体42の外側面に組み付けられている。このコネクタ55の内部には、ケース本体42の側壁から突出する複数のコネクタピン56,57が設けられている。コネクタピン56,57はそれぞれ、ケース本体42の側壁の内部を経由して回路基板41に接続されている。
【0017】
回路基板41は、被検出雰囲気中の可燃性ガスを検出するための制御回路200(図5参照)と、発熱体50,51の温度を制御するための温度制御回路(図示せず)とをそれぞれ備えている。この制御回路200は、接続端子24乃至28により、ガス検出素子60の電極371,373,391およびグランド電極372,392(図3および図4参照)とそれぞれ電気的に接続されている。また、温度制御回路と発熱体50,51とは、リード線52,53により電気的に接続されている。なお、図示していないが、リード線52,53はそれぞれ2本ずつ備えられている。回路基板41に備えられた制御回路200については、図5を参照して後述する。
【0018】
回路基板41の下面に実装されたマイクロコンピュータ94は、制御回路200からの出力に基づき、被検出雰囲気中の水素の濃度を演算するとともに、温度制御回路からの出力に基づき、発熱体50,51の発熱量(温度)を制御しているものである。マイクロコンピュータ94は、演算処理装置、記憶部、入出力部等を備える公知のマイクロコンピュータと同様の構成である。本実施形態のマイクロコンピュータ94は、図5に示すように、演算処理装置としてCPU941を備え、記憶部としてROM942およびRAM943を備えている。なお、プログラムを格納する記憶装置としては、外部記憶装置を用いるようにしてもよい。
【0019】
次に、発熱体50,51について、図1を参照して説明する。発熱体50,51は、収容ケース40を介し又は直接素子ケース20を加熱し、素子ケース20の内側面の温度を露点より高い温度に保つためのものであり、例えば、電子部品等で用いられる抵抗体や、フィルムヒータが用いられる。そして、発熱体50,51は、検出空間39を形成する素子ケース20の内側面を効率的に加熱するために、収容ケース40の内側面と素子ケース20の外側面とから構成されるとともに、回路基板41を収容する収容空間59を構成する収容空間形成面58のうち、検出空間39に接触する部材に熱を伝達できる部位に固着されるのが好ましい。
【0020】
この発熱体50,51は、例えば、公知の一定電圧制御、又はPWM制御(パルス幅変調制御)により制御される。また、発熱体50,51の制御方法を規定したプログラムはマイクロコンピュータ94が備える記憶装置(ROM942)に記憶され、CPU941により実行される。
【0021】
次に、可燃性ガス検出装置10を構成する素子ケース20について、図2を参照して説明する。図2は、可燃性ガス検出装置10の素子ケース20周辺部分を拡大した縦断面図である。なお、図2において、上下方向を上下方向、左右方向を左右方向と言う。
【0022】
図2に示すように、素子ケース20は、ガス検出素子60が設置される接続端子取出台21と、接続端子取出台21の周縁部を挟持するとともに、被検出雰囲気を導入する導入口に向かって突設された円筒状の検出空間形成部材22とを備えている。そして、素子ケース20の接続端子取出台21の周縁部には、被検出雰囲気の流路と素子ケース20との間をシールするシール部材48が配置されている。この接続端子取出台21および検出空間形成部材22により囲まれた空間は、被検出雰囲気を導入するための検出空間39となっている。
【0023】
接続端子取出台21は、その内側面においてガス検出素子60を支持するための部材であり、少なくとも一部は、外側面に設けられた発熱体50の熱を伝導する熱伝導性を有する部材にて形成されることが好ましい。また、接続端子取出台21には、接続端子24乃至28を個別に挿入するための挿入孔がそれぞれ設けられ、各挿入孔の周縁部は絶縁性部材により覆われている。
【0024】
この接続端子24乃至28は、図3および図4を参照して後述するガス検出素子60と回路基板41に備えられた各種回路とを電気的に接続するための部材である。各接続端子24乃至28の一端は接続端子取出台21に設けられた挿入孔にそれぞれ挿通され、接続端子取出台21に対して垂直に支持されている。
【0025】
また、検出空間形成部材22は、外側面にて被検出雰囲気と接する外筒36,接続端子取出台21の周縁部を挟持する取出台支持部37および、収容ケース40により支持されるつば部38を備えている。また、検出空間形成部材22の下端部には、被検出雰囲気を検出空間39に導入する開口である導入口34が設けられている。
【0026】
この導入口34の近傍には、被検出雰囲気をガス検出素子60に対して導入および排出するための流路を形成する導入部35が設けられている。そして、この導入部35には、導入口34から近い順に、撥水フィルタ29,スペーサ30および、2枚の金網31,32がそれぞれ装填されている。そして、これらの部材は、検出空間形成部材22とフィルタ固定部材33とにより挟持固定されている。以下、導入部35を構成する部材について詳述する。
【0027】
撥水フィルタ29は、導入口34に最も近い位置に取り付けられるフィルタであり、被検出雰囲気中に含まれている水滴を除去する撥水性を有する薄膜である。これより、水滴等が飛来する多湿環境下においても、ガス検出素子60が被水することを防ぐことができる。この撥水フィルタ29は、物理的吸着により水滴を除去するものであればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を利用したフィルタを適用することができる。
【0028】
スペーサ30は、フィルタ固定部材33の内周壁に備えられ、被検出雰囲気が導入される開口を有する平面視リング状の部材であり、所定の厚みを有することにより、撥水フィルタ29と金網31,32との位置を調整している。
【0029】
金網31,32は、所定の厚みと所定の開口部を有しており、ガス検出素子60に設けられた発熱抵抗体の温度が被検出雰囲気に含まれる水素ガスの発火温度よりも上昇して発火した場合であっても、火炎が外部に出るのを防止するフレームアレスタとしての機能を果たす。
【0030】
フィルタ固定部材33は、撥水フィルタ29,スペーサ30および、2枚の金網31,32を、検出空間形成部材22との間で挟持固定するための部材である。フィルタ固定部材33は、検出空間形成部材22の内壁面と当接する筒状の壁面を有するとともに、その壁面の軸方向に突出し、フィルタを固定するための凸部を備えている。なお、凸部は、撥水フィルタ29,スペーサ30および、2枚の金網31,32を検出空間形成部材22との間で挟持固定するために備えられている。
【0031】
次に、検出空間39内に配置され、被検出雰囲気に晒されるガス検出素子60の構成を、図3および図4を参照して説明する。図3は、ガス検出素子60の左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332の配置状態を説明するための模式平面図であり、図4は、左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332の配置状態を説明するための、図3のA−A線における矢視方向断面図である。なお、図4において、上側を上方、下側を下方とし、図3および図4において、左右方向を左右方向とする。
【0032】
図3に示すように、ガス検出素子60は、長方形の平面形状を有する熱伝導式ガス検出素子である。また、図3および図4に示すように、ガス検出素子60は、板状のシリコン基板310と、シリコン基板310の上面に形成された上側絶縁被膜層323と、シリコン基板310の下面に形成された下側絶縁被膜層324とを備えている。そして、上側絶縁被膜層323には、左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332がそれぞれ内包されている。このガス検出素子60は、例えば、マイクロマシニング技術により形成される。なお、左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332は、本発明の「2つの発熱抵抗体」に相当する。以下、ガス検出素子60を構成する各部材について詳述する。
【0033】
シリコン基板310は、シリコン製の平板であり、本発明の「半導体基板」に相当する部材である。このシリコン基板310は、左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332の下方に位置する部位に、シリコン基板310の一部が開口状に除去された1対の開口部313,314を備えており、当該開口部313,314の上部は、上側絶縁被膜層323の一部が露出している。つまり、左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332は、互いに間隔をおきつつ、それぞれ上側絶縁被膜層323のうちで異なる開口部313,314に対向する(図4において直上に位置する)部位に内包されている。また、上側絶縁被膜層323をシリコン基板310の板厚方向(図4において上下方向)に投影したときに、左側発熱抵抗体331に対応する位置に当該左側発熱抵抗体331より大きい開口部313が設けられ、右側発熱抵抗体332に対応する位置に当該右側発熱抵抗体332より大きい開口部314が設けられている。
【0034】
上側絶縁被膜層323は、シリコン基板310側(下側)から順に絶縁層321,322,350および保護層360により構成されている。この上側絶縁被膜層323(絶縁層321,322,350および保護層360)は、本発明の「絶縁部材」に相当する。一方、下側絶縁被膜層324は、シリコン基板310側(上側)から順に絶縁層325,326により構成されている。絶縁層321,325は酸化ケイ素(SiO)からなり、シリコン基板2を挟むように、その厚み方向両側の面上にそれぞれ形成されている。この絶縁層321,325の外側の面上には、窒化ケイ素(Si)からなる絶縁層322,326がそれぞれ形成されている。また、上側絶縁被膜層323を構成する絶縁層322の上面には酸化ケイ素からなる絶縁層350が形成され、さらにその上面に、窒化ケイ素からなる保護層360が形成されている。
【0035】
上側絶縁被膜層323を構成する絶縁層350には、左側発熱抵抗体331と右側発熱抵抗体332とがそれぞれ内包されている。また、左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332が形成された平面と同じ平面に形成された配線膜341,342,343がそれぞれ絶縁層350に内包されている。
【0036】
左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332は、それぞれ異なる目標温度となるように通電制御されるとともに、自身の温度変化により抵抗値が変化する抵抗体である。左側発熱抵抗体331は、シリコン基板310と平行な平面の開口部313の上部に対応する部位に平面視渦巻き状に形成されている。そして左側発熱抵抗体331は、低温側目標温度(例えば、300℃)となるように通電制御される。同様に、右側発熱抵抗体332は、シリコン基板310と平行な平面の開口部314の上部に対応する部位に平面視渦巻き状に形成されている。そして、右側発熱抵抗体332は高温側目標温度(例えば、400℃)となるように通電制御される。左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332は、例えば、白金(Pt)又はその合金、ポリシリコン等により形成される。本実施形態では、左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332は、配線膜341,342,343とともに、白金抵抗材料により形成されている。
【0037】
また、左側発熱抵抗体331の左端は配線膜341を介し、電極371と電気的に接続されている。一方、左側発熱抵抗体331の右端は、左側発熱抵抗体331と一体に形成された配線膜342を介し、グランド電極372と電気的に接続されている。同様に、右側発熱抵抗体332の左端は配線膜342を介し、グランド電極372と電気的に接続されている。そして、右側発熱抵抗体332の右端は配線膜343を介し、電極373と電気的に接続されている。電極371乃至373は、左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332に接続される配線の引き出し部位であり、コンタクトホール361を介して露出している。電極371乃至373の材料は、例えば、金(Au)が用いられる。
【0038】
また、ガス検出素子60は、図3に示すように測温抵抗体390を備えている。測温抵抗体390は、検出空間39内に存在する被検出雰囲気の温度(以下、「環境温度」とも言う。)を検出するためのものであり、絶縁層322と絶縁層350との間で、且つ、シリコン基板310と平行な平面上に形成されている。測温抵抗体390は、電気抵抗値が温度に略比例して変化する金属が用いられ、例えば、白金(Pt)が用いられる。本実施形態では、測温抵抗体390の温度抵抗係数は2つの発熱抵抗体331,332の各温度抵抗係数とほぼ同一となっている。
【0039】
また、測温抵抗体390は、測温抵抗体390の左右両端に形成された、電極391およびグランド電極392と電気的に接続されている。この電極391およびグランド電極392は、コンタクトホール(図示せず)を介して露出している。この電極391およびグランド電極392の材質は、例えば、金(Au)が用いられる。なお、測温抵抗体390は、電極391,392を介して、回路基板41に接続されている。
【0040】
次に、回路基板41に備えられた制御回路200の概略について、図5を参照して説明する。図5は、ガス検出素子60の検出信号を処理するための制御回路200の説明図である。図5に示すように、制御回路200は、低温側ガス検出回路91,高温側ガス検出回路92および温度測定回路93を備えている。以下、制御回路200が備える各回路について詳述する。
【0041】
低温側ガス検出回路91は、低温側ブリッジ回路210と、電流調整回路230と、演算増幅回路250とを備えている。低温側ブリッジ回路210は、ガス検出素子60に備えられた左側発熱抵抗体331と、回路基板41に備えられた固定抵抗212乃至214とによって構成される。左側発熱抵抗体331は、グランド電極372と接続されている側において接地され、左側発熱抵抗体331の他端側は固定抵抗212乃至214を介して接地されている。また演算増幅回路250は、回路基板41に備えられ、低温側ブリッジ回路210から得られる電位差を増幅する。この演算増幅回路250は、演算増幅器251,非反転入力端子用抵抗252,反転入力端子用抵抗253,帰還用抵抗254およびコンデンサ255を備えている。
【0042】
低温側ブリッジ回路210は、左側発熱抵抗体331および固定抵抗212の共通端子と、固定抵抗213および固定抵抗214の共通端子との間に生ずる電位差がゼロになるように、電流調整回路230から制御電圧が印加される。電流調整回路230は、直流電源280の出力電圧Vccを用いて、演算増幅回路250からの出力に応じて低温側ブリッジ回路210の制御電圧を形成する。これにより、左側発熱抵抗体331の抵抗値が一定に、即ち、左側発熱抵抗体331の温度が低温側目標温度となるように制御される。そして、低温側ガス検出回路91が備える演算増幅回路250は、左側発熱抵抗体331および固定抵抗212の共通端子(電極371)に生じる電圧を、マイクロコンピュータ94に出力信号(電位VL)として入力する。
【0043】
同様に、高温側ガス検出回路92は、高温側ブリッジ回路220と、電流調整回路240と、演算増幅回路260とを備えている。高温側ブリッジ回路220は、ガス検出素子60に備えられた右側発熱抵抗体332と、回路基板41に備えられた固定抵抗222乃至224とによって構成される。右側発熱抵抗体332は、グランド電極372と接続されている側において接地され、右側発熱抵抗体332の他端側は固定抵抗222乃至224を介して接地されている。また演算増幅回路260は、回路基板41に備えられ、高温側ブリッジ回路220から得られる電位差を増幅する。この演算増幅回路260は、演算増幅器261,非反転入力端子用抵抗262,反転入力端子用抵抗263,帰還用抵抗264およびコンデンサ265を備えている。
【0044】
高温側ブリッジ回路220は、右側発熱抵抗体332および固定抵抗222の共通端子と、固定抵抗223および固定抵抗224の共通端子との間に生ずる電位差がゼロになるように、電流調整回路240から制御電圧が印加される。電流調整回路は、直流電源280の出力電圧Vccを用いて、演算増幅回路260からの出力に応じて高温側ブリッジ回路220の制御電圧を形成する。これにより、右側発熱抵抗体332の抵抗値が一定に、即ち、右側発熱抵抗体332の温度が高温側目標温度となるように制御される。そして、高温側ガス検出回路92が備える演算増幅回路260は、右側発熱抵抗体332および固定抵抗222の共通端子(電極373)に生じる電圧を、マイクロコンピュータ94に出力信号(電位VH)として入力する。
【0045】
温度測定回路93は、温度測定ブリッジ回路931と、演算増幅回路932とを備えている。温度測定ブリッジ回路931は、ガス検出素子60に備えられた測温抵抗体390と、回路基板41に備えられた固定抵抗232乃至234によって構成される。測温抵抗体390は、グランド電極392と接続されている側において接地され、測温抵抗体390の他端側は固定抵抗232乃至234を介して接地されている。この温度測定ブリッジ回路931は、測温抵抗体390および固定抵抗232の共通端子(一端側出力端子)と、固定抵抗233および固定抵抗234の共通端子(温度測定ブリッジ回路931の他端側出力端子)との間に生ずる電位差を出力する。この電位差は、被検出雰囲気の環境温度に応じた値を示す。また演算増幅回路932は、回路基板41に備えられ、温度測定ブリッジ回路931から得られる電位差を増幅する。演算増幅回路932は、演算増幅器933,非反転入力端子用抵抗934,反転入力端子用抵抗935,帰還用抵抗936およびコンデンサ937を備えている。そして、この演算増幅回路932は、温度測定ブリッジ回路931の両出力端子間に生ずる電位差を増幅して、マイクロコンピュータ94に出力信号(電位VT)として入力する。この出力信号は、環境温度を演算するのに用いられ、演算された環境温度はさらに、被検出雰囲気に含まれ可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
【0046】
次に、以上のような構成を有する制御回路200の出力値に基づき、マイクロコンピュータ94により実行される可燃性ガスとして水素の濃度を演算するガス検出処理のガス検出処理の検出原理の概要について、図6および図7を参照して説明する。図6は、水分が存在しない状況下で水素濃度を0〜4体積%に変化させ、発熱抵抗体が目標温度400℃となるように電圧を印加した場合の端子電圧と、熱伝導率との関係を環境温度ごとにプロットしたグラフである。図7は、水分が存在しない状況下で水素濃度を0〜4体積%に変化させ、発熱抵抗体が目標温度300℃となるように電圧を印加した場合の端子電圧と、熱伝導率との関係を環境温度ごとにプロットしたグラフである。図6および図7では、水分が存在しない状況下で水素濃度を0,1,2,3および4体積%の5つ異なる濃度において、発熱抵抗体が目標温度となるように電圧を印加した場合の端子電圧と、熱伝導率との関係を環境温度ごとにプロットし、各測定点に基づき近似式(一次式)を求めている。図6に示すグラフ500において、環境温度が−20℃の場合をデータ501,20℃の場合をデータ502,50℃の場合をデータ503,80℃の場合をデータ504にてそれぞれ示している。同様に、図7に示すグラフ550において、環境温度が−20℃の場合をデータ551,20℃の場合をデータ552,50℃の場合をデータ553,80℃の場合をデータ554にてそれぞれ示している。
【0047】
本実施形態の可燃性ガス検出装置10においては、水分が存在しない状況下での水素濃度と、端子電圧との間には、正の相関がある。さらに上記条件における端子電圧と、熱伝導率との間には、図6および図7に示すように、一次式で表される正の相関がある。発熱抵抗体の目標温度が一定である場合、環境温度が高いほど、環境温度が低い場合に比べ、上記条件の端子電圧と熱伝導率との関係との関係を表す一次式における切片が小さくなる。したがって、端子電圧と環境温度から被検出雰囲気の熱伝導率を求めることができる。一方、水分が存在しない状況下で水素濃度を変えたときの、高温側目標温度400℃に対応する熱伝導率(高温側熱伝導率)と、低温側目標温度300℃に対応する熱伝導率(低温側熱伝導率)との比(高温側熱伝導率/低温側熱伝導率)をとると、この比は、水素濃度および環境温度によらずほぼ一定の値をとる。
【0048】
これに対して、可燃性ガスが存在しない状況下で、水分濃度(湿度)を変えたときの、高温側目標温度400℃に対する熱伝導率(高温側熱伝導率)と、低温側目標温度300℃に対応する熱伝導率(低温側熱伝導率)との比(高温側熱伝導率/低温側熱伝導率)をとると、環境温度によらず、水分濃度(湿度)と上記熱伝導率の比との間には正の相関がある。
【0049】
本実施形態のガス検出方法においては、上述のように、異なる目標温度となるように通電制御された2つの発熱抵抗体に対応する熱伝導率の比(高温側熱伝導率/低温側熱伝導率)が、可燃性ガスのガス濃度を変化させた場合にはほぼ一定であるのに対し、水分濃度(湿度)を変化させた場合では正の相関を有することを利用し、被検出雰囲気の湿度を演算する。なお、上記正の相関は、発熱抵抗体の材質や形状等のガス検出素子60の構成、発熱抵抗体の目標温度、被検出ガス等によっても異なる。このため、検出対象となる被検出ガスに応じて、2つの発熱抵抗体の目標温度を設定し、上記正の相関およびガス検出処理を実行するために必要なマップデータや計算式等の各種情報を、予め設定しておく。
【0050】
次に、以上詳述した可燃性ガス検出装置10において実行されるガス検出処理について図8のフローチャートを参照して説明する。図8は、本実施形態のガス検出処理の流れを示すフローチャートである。なお、図8のフローチャートに示す各処理を実行させるプログラムは、ROM942に記憶されており、プログラム実行時にはRAM943に読み込んで、図5に示すCPU941が実行する。また、ガス検出処理を実行するために必要なマップデータや計算式等の各種情報はROM942に記憶されており、プログラム実行時にはROM942から読み出され、RAM943に記憶されているものとする。また、ガス検出処理実行中に取得したり、演算したりして得られたデータは、随時RAM943の所定の記憶領域に記憶されるものとする。このガス検出処理は、電源スイッチ281がONにされ、マイクロコンピュータ94が直流電源280から給電されると、CPU941により起動される。
【0051】
図8のフローチャートに示すように、このガス検出処理ではまず、初期化処理を実行する(S5)。初期化処理では、別途実行される経時処理を司るソフトタイマを起動する処理や、ガス検出処理に用いる各種変数の初期値を設定する処理を実行する。また、電流調整回路230,240の各制御電圧の出力が開始される。
【0052】
続いて、ガス検出処理の起動時期から、予め定められた初期待ち時間が経過したか否かを判断する(S10)。この処理は、2つの発熱抵抗体331,332が、それぞれ目標温度に達した後に、ガス検出処理を実行させるための処理である。本実施形態では、左側発熱抵抗体331の目標温度は、低温側目標温度300℃に設定されており、右側発熱抵抗体の目標温度は、高温側目標温度400℃に設定されている。このように目標温度は、2つの発熱抵抗体(左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332)で異なる温度が設定され、高温側目標温度と、低温側目標温度との差は、被検出雰囲気に含まれる水分を精度よく検出する観点から50℃以上あることが好ましい。また、目標温度の下限値は、水の沸点を確実に上回る150℃以上とするのが好ましく、目標温度の上限値は、可燃性ガスの発火温度よりも低い温度とすることが好ましい。
【0053】
S10において、ガス検出処理の起動時期から、予め定められた初期待ち時間が経過していない場合には(S10:No)、ガス検出処理の起動時期から、予め定められた初期待ち時間が経過するまで待機する。一方、ガス検出処理の起動時期から、予め定められた初期待ち時間が経過した場合には(S10:Yes)、続いて、温度電圧VTの読み込み処理を実行する(S15)。
【0054】
温度電圧VTの読み込み処理では、図5に示す温度測定回路93から出力される電位VTを温度電圧VTとして読み込み、RAM943に記憶する(S15)。この温度電圧VTは、被検出雰囲気の環境温度に応じた値を示す。
【0055】
続いて、S15で読み込んだ温度電圧VTに基づき、被検出雰囲気の環境温度Tを求める温度換算処理を実行する(S20)。本実施形態の可燃性ガス検出装置10においては、温度電圧VTと、被検出雰囲気の環境温度Tとの関係は温度換算用データとして予め定められており、ROM942の所定の記憶領域に記憶されている。温度換算用データとしては、例えば、温度換算用マップデータや温度換算用計算式が用いられる。したがってS20では、S15で取得した温度電圧VTと、温度換算用データとに基づき、被検出雰囲気の環境温度Tを求める。上記S15,S20の処理は、本発明の「温度検出工程」に相当する。
【0056】
続いて、図5に示す高温側ガス検出回路92から出力される電位VHを高温側電圧VHとして読み込み、低温側ガス検出回路91から出力される電位VLを低温側電圧VLとして読み込む処理を実行する(S25)。読み込まれた高温側電圧VHおよび低温側電圧VLは、それぞれRAM943の所定の記憶領域に記憶される。このS25の処理は、本発明の「電圧検出工程」に相当し、高温側電圧VHおよび低温側電圧VLは、本発明の「2つの端子電圧」に相当する。
【0057】
続いて、S25で読み込んだ高温側電圧VHに対応する高温側熱伝導率演算値λHと、低温側電圧VLに対応する低温側熱伝導率演算値λLとを、それぞれ演算する(S30)。高温側熱伝導率演算値λHは、ROM942等の記憶部に予め記憶された演算用マップデータや演算用計算式等の高温側熱伝導率演算データと、S25において読み込んだ高温側電圧VHとに基づき演算される。高温側熱伝導率演算データとして用いられる演算用計算式は、例えば式(1)、λH=(VHmeasure−VH(t))×αH(t)+λHで表される。
【0058】
ここで式(1)におけるVHmeasureは、S25において読み込んだ高温側電圧VHである。またVH(t)は、予め可燃性ガス(水素)および水分が存在しない状況下(以下、可燃性ガス(水素)および水分が存在しない状況を「ドライAir条件」と言う。)で求めた、発熱抵抗体が高温側目標温度となるように電圧を印加した場合の端子電圧と、環境温度tとの相関を表す相関データ(マップデータや、二次式等で表される計算式)から算出した基準端子電圧である。本実施形態の可燃性ガス検出装置10においては、ドライAir条件において予め求めた端子電圧を基準端子電圧とする。図示しないが、ドライAir条件の端子電圧と、環境温度tとの間には、二次式等の計算式で表される負の相関がある。上記相関データはこの相関に基づき予め設定され、ROM942に記憶されている。
【0059】
またαH(t)は、予め水分が存在しない状況下で、可燃性ガス(水素)を添加し、発熱抵抗体が高温側目標温度となるように電圧を印加した場合の端子電圧変化ΔV(VHmeasure−VH(t))を熱伝導率変化ΔλHに変換するための係数である。図6のグラフ500に示すように、水分が存在しない状況下で、可燃性ガス(水素)を0〜4体積%添加し、発熱抵抗体が高温側目標温度400℃となるように電圧を印加した場合の端子電圧と、熱伝導率との間の関係は、環境温度tに依存する。このため、係数αH(t)は、環境温度tに応じて予め定められた温度演算データ(マップデータや、一次式等で表される計算式)により求められる。
【0060】
またλHは、ドライAir条件において、発熱抵抗体が高温側目標温度となるように電圧を印加した場合の熱伝導率(定数)である。本実施形態では、高温側目標温度となるように電圧が印加される右側発熱抵抗体332の目標温度(高温側目標温度)は400℃であり、λHは50.518[mW/(m・K)]である。
【0061】
高温側熱伝導率演算値λHの場合と同様に、低温側熱伝導率演算値λLは、ROM942等の記憶部に予め記憶された演算用マップデータや演算用計算式等の低温側熱伝導率演算データと、S25において読み込んだ低温側電圧VLとに基づき演算される。低温側熱伝導率演算データとして用いられる演算用計算式は、例えば式(2)、λL=(VLmeasure−VL(t))×αL(t)+λLに基づき算出される。ここで、VLmeasureは、S25において読み込んだ低温側電圧VLであり、VL(t)は、予めドライAir条件で求めた、発熱抵抗体が低温側目標温度となるように電圧を印加した場合の端子電圧と、環境温度tとの相関データから算出した基準端子電圧である。また、αL(t)は、予め水分が存在しない状況下で、可燃性ガス(水素)を添加し、発熱抵抗体が低温側目標温度となるように電圧を印加した場合の端子電圧変化ΔV(VLmeasure−VL(t))を熱伝導率変化ΔλLに変換するための係数であり、温度演算データにより求められる。またλLは、ドライAir条件において、発熱抵抗体が低温側目標温度となるように電圧を印加した場合の熱伝導率(定数)である。本実施形態では、低温側目標温度となるように電圧が印加される左側発熱抵抗体331の目標温度は300℃であり、λLは44.038[mW/(m・K)]である。なお、このS30の処理は、本発明の「熱伝導率演算工程」に相当し、高温側熱伝導率演算値λHおよび低温側熱伝導率演算値λLは、本発明の「2つの熱伝導率演算値」に相当する。
【0062】
続いて、S30において求めた高温側熱伝導率演算値λHを低温側熱伝導率演算値λLで除して、熱伝導率比Rλを演算する(S35)。
【0063】
続いて、S35において求めた熱伝導率比Rλと、基準の熱伝導率比Rλとの差分ΔRλを演算する(S40)。基準の熱伝導率比Rλは式(3)、Rλ=λH/λLにより演算され、本実施形態の可燃性ガス検出装置10においては、1.147である。
【0064】
続いて、被検出雰囲気に含まれる水分HO(被検出雰囲気の湿度)を算出する(S45)。図示しないが、ΔRλと被検出雰囲気に含まれる水分HOとの間には、二次式等の計算式で表される正の相関がある。この相関に基づき水分演算用の関係演算データ(マップデータや、二次式等で表される計算式)が予め設定され、ROM942に記憶されている。したがって、関係演算データおよびS40において求めたΔRλに基づき、被検出雰囲気中の水分(被検出雰囲気の湿度)を演算する。なお、上記S35,S40,S45の処理は、本発明の「湿度演算工程」に相当する。
【0065】
続いて、S30において求めた高温側熱伝導率演算値λHに含まれる水分による変化分ΔλHH2Oを演算する(S50)。図示しないが、被検出雰囲気に含まれる水分HOと、水分による熱伝導率の変化分ΔλHH2Oとの間には、二次式等の計算式で表される正の相関がある。この相関に基づき水分による変化分ΔλHH2O演算用の関係演算データ(マップデータや、二次式等で表される計算式)が予め設定され、ROM942に記憶されている。したがって、関係演算データおよびS45で求めた被検出雰囲気に含まれる水分HOに基づき、上記ΔλHH2Oを演算する。
【0066】
続いて、S30において求めた高温側熱伝導率演算値λHに含まれる可燃性ガス(水素)による変化分ΔλHH2を演算する(S55)。この処理では、S30において求めた高温側熱伝導率演算値λHに含まれる可燃性ガス(水素)による変化分ΔλHH2を式(4)、ΔλHH2=λH−ΔλHH2O−λHを用いて演算する。ここでλHは、S30において求めた高温側熱伝導率演算値であり、ΔλHH2Oは、S50において求めた、高温側熱伝導率演算値λHに含まれる水分による変化分である。またλHは、ドライAir条件における熱伝導率(定数)である。
【0067】
続いて、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガス(水素)を演算する(S60)。図示しないが、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガス(水素)と、可燃性ガス(水素)による熱伝導率の変化分ΔλHH2との間には、一次式等の計算式で表される正の相関がある。この相関に基づき、可燃性ガス(水素)演算用の関係演算データ(マップデータや、一次式等で表される計算式)が予め設定され、ROM942に記憶されている。したがって、関係演算データおよびS55において求めた可燃性ガス(水素)による変化分ΔλHH2に基づき、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガス(水素)を演算する。なお、上記S50,S55およびS60の処理は、本発明の「濃度演算工程」に相当する。
【0068】
続いて、所定の待ち時間が経過したかを判断する(S65)。この処理は、所定時間ごとに、ガス検出処理を実行するための処理である。待ち時間が経過していない場合には(S65:No)、待ち時間が経過するまで待機する。一方、待ち時間が経過した場合には(S65:Yes)、続いて、S15に戻り処理を繰り返す。
【0069】
以上詳述したように、本実施形態の可燃性ガス検出装置10においては、図8のフローチャートに示すガス検出処理が実施される。なお、ガス検出処理において、異なる目標温度(高温側目標温度、低温側目標温度)となるように、2つの発熱抵抗体を通電制御する、図5に示す電流調整回路230および演算増幅回路250並びに電流調整回路240および演算増幅回路260は本発明の通電制御手段に相当する。また、図8に示すフローチャートのS15において、被検出雰囲気の環境温度Tを検出する、図5に示す温度測定回路93およびCPU941は、本発明の温度検出手段に相当する。また、図8に示すフローチャートのS25において、2つの発熱抵抗体331,332における各端子電圧VH,VLを検出する、図5に示すCPU941は、本発明の電圧検出手段として機能する。
【0070】
また図8に示すフローチャートのS30において、S25において読み込んだ2つの端子電圧VH,VLと、S20で換算した環境温度Tとから、2つの端子電圧VH,VLに対応する各熱伝導率演算値λH,λLを演算する、図5に示すCPU941は、本発明の熱伝導率演算手段として機能する。また図8に示すフローチャートのS35,S40およびS45において、S30において演算した2つの熱伝導率演算値λH,λLに基づき、被検出雰囲気の湿度を演算する、図5に示すCPU941は、本発明の湿度演算手段として機能する。また図8に示すフローチャートのS50,S55およびS60において、S30において演算した2つの熱伝導率演算値λH,λLのうち、高温側熱伝導率演算値λHと、S45において演算した被検出雰囲気の湿度とに基づいて、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガスのガス濃度を演算する、図5に示すCPU941は、本発明の濃度演算手段として機能する。
【0071】
以上詳述した本実施形態の可燃性ガス検出装置10によれば、異なる目標温度(高温側目標温度および低温側目標温度)となるように、通電制御された2つの発熱抵抗体331,332における各端子電圧に対応する各熱伝導率演算値λH,λLと、環境温度Tとから、被検出雰囲気の湿度を演算する(S35,S40,S45)。各端子電圧に対応する熱伝導率演算値λH,λLには、被検出雰囲気に含まれる水分の寄与分と、可燃性ガスの寄与分とがそれぞれ含まれている。そして、水分が存在しない状況下で可燃性ガス濃度を変化させた場合の熱伝導率の変化パターンと、可燃性が存在しない状況下で水分濃度(湿度)を変化させた場合の熱伝導率の変化パターンとは異なる。これらの変化パターンの相違を利用することにより、各端子電圧に対応する熱伝導率演算値λH,λLを用いて被検出雰囲気の湿度を適切に演算することができる。そして、上述の2つの熱伝導率演算値λH,λLのうち、高温側熱伝導率演算値λHと、被検出雰囲気の湿度とに基づいて、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガスのガス濃度を演算する(S50,S55,S60)。これにより、検出空間39内に配置された発熱抵抗体の熱伝導率が被検出雰囲気の湿度に応じて変動することを回避するように処理して、被検出ガスである可燃性ガスを精度よく検出することができる。
【0072】
また可燃性ガス検出装置10において、可燃性ガスとして水素を検出する場合、発熱抵抗体331,332の目標温度を150℃以上に設定することで、被検出雰囲気において、水の沸点を確実に上回る温度範囲に制御でき、被検出雰囲気が多湿環境であっても水素ガスの濃度検知が可能となる。また、発熱抵抗体331,332の目標温度を500℃以下と設定することにより、被検出雰囲気が水素ガスの発火(爆発)温度まで上昇することを抑制し、水素ガスが発火することを防止できる。
【0073】
また可燃性ガス検出装置10は、昇温、降温を短時間で行うことができるガス検出素子60を備えているので、発熱抵抗体331,332の消費電力を低減することができる。
【0074】
なお、本発明は、以上詳述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、上記実施形態において、可燃性ガス検出装置10は、例えば、自動車の燃料電池ユニットに搭載され、水素の漏れを検出する目的等に用いられると例示したが、可燃性ガス検出装置10の設置場所や用途は、種々選択可能であり、これに限定されない。
【0075】
また、上記実施形態では、被検出ガスとして可燃性ガスである水素の濃度を検出するガス検出処理について説明したが、被検出ガスとしては可燃性ガスに限定されず、可燃性ガス以外のガスを被検出ガスとしてもよい。また、可燃性ガスを被検出ガスとする場合、可燃性ガスは、上記実施形態で例示した水素に限定されず、メタンやプロパン等の、少なくとも水素原子を含む可燃性ガスを被検出ガスとしてもよい。したがって、例えば、都市ガス等の可燃性ガスの漏洩検出や濃度検出に用いるガス検出装置に本発明を適用してもよい。
【0076】
また、ガス検出素子60の構成は、被検出ガスの濃度に応じて発熱抵抗体の電気抵抗値が変化することを利用して被検出ガスの濃度を検出するものであればよく、本実施形態に限定されない。したがって、例えば、本実施例の測温抵抗体390に代えて、ガス検出素子60とは別体の測温抵抗体やその他の温度センサを採用してもよい。ガス検出素子60とは別体の測温抵抗体やその他の温度センサを用いる場合、検出空間39内に設置されることが好ましい。
【0077】
可燃性ガス検出装置10およびガス検出素子60を構成する各部材の数、材質、形状、配置等も適宜変更可能である。例えば、ガス検出素子60の平面形状は矩形に限らず、多角形や円形であってもよい。また例えば、ガス検出素子60が3以上の発熱抵抗体を備えるようにしてもよい。また例えば、検出空間39内に発熱抵抗体を腐食させる成分が存在しない条件で可燃性ガス検出装置10を使用する場合、ガス検出素子60は保護層360を備えず、発熱抵抗体が被検出雰囲気に露出するようにしてもよい。
【0078】
また例えば、被検出雰囲気の湿度は、S30において演算した2つの熱伝導率演算値λH,λLに基づいた予め定められた演算方法で演算されればよく、上記実施形態のガス検出方法に限定されない。
【0079】
また例えば、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガスのガス濃度は、S30において演算した2つの熱伝導率演算値λH,λLのうち少なくともいずれか一方と、S45において演算した被検出雰囲気の湿度とに基づいた予め定められた演算方法で演算されればよく、上記実施形態のガス検出方法に限定されない。例えば、図8のフローチャートのS50,S55,S60において、S30において演算した低温側熱伝導率演算値λLと、S45で求めた被検出雰囲気の水分濃度(湿度)とに基づいて、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガスのガス濃度を演算してもよい。また例えば、2つの熱伝導率演算値λH,λLの差又は比と、被検出雰囲気の湿度とに基づいて、被検出雰囲気に含まれる可燃性ガスのガス濃度を算出してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】可燃性ガス検出装置10の縦断面図である。
【図2】可燃性ガス検出装置10の素子ケース20周辺部分を拡大した縦断面図である。
【図3】ガス検出素子60の左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332の配置状態を説明するための模式平面図である。
【図4】左側発熱抵抗体331および右側発熱抵抗体332の配置状態を説明するための、図3のA−A線における矢視方向断面図である。
【図5】ガス検出素子60の検出信号を処理するための制御回路200の説明図である。
【図6】水分が存在しない状況下で水素濃度を0〜4体積%に変化させ、発熱抵抗体が目標温度400℃となるように電圧を印加した場合の端子電圧と、熱伝導率との関係を環境温度ごとにプロットしたグラフである。
【図7】水分が存在しない状況下で水素濃度を0〜4体積%に変化させ、発熱抵抗体が目標温度300℃となるように電圧を印加した場合の端子電圧と、熱伝導率との関係を環境温度ごとにプロットしたグラフである。
【図8】本実施形態のガス検出処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0081】
1 可燃ガス検出装置
60 ガス検出素子
93 温度測定回路
94 マイクロコンピュータ
230,240 電流調整回路
250,260 演算増幅回路
331 左側発熱抵抗体
332 右側発熱抵抗体
310 シリコン基板
311,312 開口部
321,322,350 絶縁層
323 上側絶縁被膜層
360 保護層
941 CPU
942 ROM
943 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出雰囲気に晒される2つの発熱抵抗体を備えるガス検出装置において、
異なる目標温度となるように、前記2つの発熱抵抗体を通電制御する通電制御手段と、
前記被検出雰囲気の環境温度を検出する温度検出手段と、
前記2つの発熱抵抗体における各端子電圧を検出する電圧検出手段と、
前記電圧検出手段により検出された2つの前記端子電圧と、前記温度検出手段により検出された環境温度とから、当該2つの端子電圧に対応する各熱伝導率を熱伝導率演算値として演算する熱伝導率演算手段と、
前記熱伝導率演算手段により演算された2つの前記熱伝導率演算値に基づき、前記被検出雰囲気の湿度を演算する湿度演算手段と、
前記熱伝導率演算手段により演算された2つの前記熱伝導率演算値のうち少なくともいずれか一方と、前記湿度演算手段により演算された前記被検出雰囲気の湿度とに基づいて、前記被検出雰囲気に含まれる被検出ガスのガス濃度を演算する濃度演算手段と
を備えることを特徴とするガス検出装置。
【請求項2】
複数の開口部が形成された半導体基板と、前記半導体基板上に前記開口部を遮るように形成される絶縁部材とを備えるガス検出素子を備え、
前記2つの発熱抵抗体は、互いに間隔をおきつつ、それぞれ異なる前記開口部と対向する部位において前記絶縁部材に内包されていることを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項3】
被検出雰囲気に含まれる被検出ガスを検出するガス検出方法において、
前記被検出雰囲気の環境温度を検出する温度検出工程と、
異なる目標温度となるように通電制御された2つの発熱抵抗体における各端子電圧を検出する電圧検出工程と、
前記電圧検出工程において検出された2つの前記端子電圧と、前記温度検出工程において検出された環境温度とから、当該2つの端子電圧に対応する各熱伝導率を熱伝導率演算値として演算する熱伝導率演算工程と、
前記熱伝導率演算工程において演算された2つの前記熱伝導率演算値に基づき、前記被検出雰囲気の湿度を演算する湿度演算工程と、
前記熱伝導率演算工程において演算された2つの前記熱伝導率演算値のうち少なくともいずれか一方と、前記湿度演算工程において演算された前記被検出雰囲気の湿度とに基づき、前記被検出雰囲気における被検出ガスのガス濃度を演算する濃度演算工程と
を備えることを特徴とするガス検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−267948(P2008−267948A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110258(P2007−110258)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】