説明

ガス検出装置

【課題】塩素だけを選択的に除去して高い精度でシアン化水素を測定することができる呈色反応を利用したシアン化水素検出装置に適した塩素ガス除去フィルタを提供すること。
【解決手段】外部から色変化などを視認できる管状体13に、粒状パルプに塩素を吸収する剤であるN.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩を含浸させた塩素ガス吸収材14を収容して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガスと試薬との反応により被検出ガスの濃度を光学濃度の変化として検出するガス検出装置、より詳細には妨害成分を含む被検出ガスに対応できるガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検出ガスと試薬との呈色反応を利用したガス検出装置は、ベース材に試薬を含浸、または塗布して構成されたガス検知材に被検ガスを導入する手段と、ガス検知材の光学濃度を検出する手段とにより構成されており、ガス検知材と被検ガスとの接触時間を調整することにより極めて低濃度から高濃度まで広い濃度範囲の検出に対応できる。
ところで、このようなガス検知材は、たとえば、シアン化水素(HCN)を検出対象とするものに例を採ると、検出対象となるシアン化水素を試薬中で生じる酢酸銅(II)の水和物の一価の銅イオンと反応させ、つまり化1の反応により
【0003】
【化1】

【0004】
【化2】

【0005】
試薬中の酸化還元指示薬の分子構造の変化に伴う光学濃度として検出するように構成されている。
このため、酸化性ガス、例えば塩素(Cl2)とシアン化水素とを含む雰囲気のそれぞれのガス(塩素、シアン化水素)を検出しようとすると、シアン化水素用のガス検知材が塩素にも反応してシアン化水素の濃度に測定誤差を生じるという問題がある。
このような問題を解消するため、フィルタを用いることも考えられるが、塩素だけではなく被検出対象ガスであるシアン化水素までもが除去されてしまい検出誤差を生じるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであってその目的とするところは、塩素だけを選択的に除去して高い精度でシアン化水素を測定することができる呈色反応を利用したシアン化水素検出装置に適した塩素ガス除去フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を達成するために請求項1の発明は、シアン化水素を酢酸銅(II)の水和物と反応させ、試薬により光学濃度として検出するシアン化水素検出装置のフィルタであって、通気性を有する含浸材にN.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩を含浸させ、前記含浸材を通過する流れを生じる位置に接続口が形成された容器に前記含浸材を収容して構成されている。
【0008】
請求項2の発明は、前記含浸材がパルプからなる粒状体により構成されている。
【0009】
請求項3の発明は、前記含浸材が、外部から前記含浸材を視認できる管状体に収容されている。
【0010】
請求項4の発明は、前記含浸材が吸湿剤を含有している。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、N.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩は、塩素と反応して含浸材に固定される一方、被検出ガスであるシアン化水素には不感応であるため、塩素の影響を排除してシアン化水素を高い精度で検出することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、サンプリングガスとの接触面積を容易に確保でき、塩素ガスを確実に除去することができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、フィルタの破過時期を容易に知ることができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、含浸材が湿潤状態に維持できるため、N.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩が塩素と効率的に反応して確実に塩素を除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
そこで以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
図1は、本発明の塩素除去フィルタを用いたガス検出装置の一実施例を示すものであって、検知紙式ガス検出装置1は、発光素子2と受光素子3とを備えた測定ヘッド4と、テープ状に加工された検知紙5を測定ヘッド4に一定時間毎に搬送するテープ搬送機構6と、サンプリングポンプ7からの負圧を受けて、測定ヘッド4と共同して検知紙5に被検ガスを接触させる吸引ヘッド7とから構成されている。
【0016】
測定ヘッド4のガス流入側には、本発明が特徴とする塩素除去フィルタ10がコネクタ8を介して着脱可能に接続されている。
【0017】
塩素除去フィルタ10は、図2に示したように一端にガス流入口11が、他端にガス流出口12が形成され、ガラス、または高分子材料などの被検ガスに対して不活性で、好ましくは外部から色変化などを視認できる材料により形成された管状体13に、粒状体、例えば粒状パルプに塩素を吸収する剤を含浸させた塩素ガス吸収材14を収容して構成されている。
【0018】
塩素ガス吸収材は、廃棄が容易で、かつ吸水性の粒状体、たとえばパルプを粒状に整形した粒状パルプ(レンゴ株式会社の登録商標「ビスコパール」)に、N.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩(C2H5)2NC6H4NH2・H2SO4を含浸させ、溶媒を揮散させて構成されている。好ましくは、吸湿剤、例えばグリセリンなどの多価アルコールを混合してパルプが常時湿潤状態を維持させておくのが望ましい。
【0019】
なお、シアン化水素検知材は、特開2001-013076号公報に見られるように酢酸銅(II)、酸化防止剤、保湿剤、及びシアン化銅の酸化力により変色する発色剤をベース材に塗布、含浸させて構成されている。
【0020】
より詳細には、酢酸銅(II)〔(CH3COO)2Cu H2O〕水和物0.05wt%、酸化防止剤、例えばブチルヒドロキシルトルエン0.2wt%、発色剤、例えばテトラメチルジアミノジフェニルメタン0.15wt%、及び保湿剤、例えばグリセリンやエチレングリコール等の多価アルコール15mlを、全量が100mlとなるように易蒸発性有機溶媒、例えばメタノールに溶解して発色液を調製し、この発色液をベース材、たとえばセルロースを素材とするろ紙に含浸させ、必要に応じて加温しながら有機溶媒を揮散させて構成されている。
【0021】
なお、被検ガスとの反応を促進させるため、予めシリカゲルやアルミナ等の微粉末を混入したシート材を用いるか、シリカゲルやアルミナ等の微粉末を発色液に混入してシート材に担持させるのが望ましい。
【0022】
この実施例において、サンプリングポンプ7を作動させると、被検ガスが塩素除去フィルタ10に流入して含まれている塩素ガスは、N.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩と選択的に反応して塩素ガス吸収材14に固定され、下流側に流れ込むことができない。
【0023】
一方、塩素除去フィルタ10に流れ込んだ被検ガス中の検出対象であるシアン化水素は、フィルタ材を通過してガス検知材に移動し、シアン化銅を生成させてその酸化力により発色剤(酸化還元指示薬)であるテトラメチルジアミノジフェニルメタンに呈色反応を生じさせる。これによりシアン化水素の濃度、もしくは積算時間に比例した青色の反応痕がテープ1に形成されるから、発光素子4と受光素子5により反応痕の相対的光学濃度を検出することによりシアン化水素 の濃度を測定することができる。
【0024】
もとより、被検出ガス中の塩素が除去されているから、テープ1の反応痕の光学濃度は、シアン化水素だけに関連し、高い精度でシアン化水素の濃度を検出することができる。
【0025】
一方、管状体13に収容されている粒状体である塩素ガス吸収材14は、流入側から順番に塩素と反応して変色するため、変色領域はその長さがフィルタの破過状態(フィルタの寿命)を表すことになるので、塩素除去フィルタ10を交換、もしくは塩素ガス吸収材14を交換する時期の目安を示すことなる。
【0026】
図3(イ)は、N.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩0.5wt%、グリセリン15vol%、メタノール85vol%の溶液を調製し、これに粒状パルプを5分間、浸漬して十分に含浸させ、その後に粒状パルプを取り出して1時間程度自然乾燥によりメタノールを揮散させた塩素ガス吸収材14を、3g、内径22mm、長さ70mmの管状体に収容した塩素ガス除去フィルタを構成し、これを検知紙式ガス検出装置1に装着し、濃度2ppmの塩素ガスを毎分450ミリリットルで吸引したときの指示値の変化を示すものであって、この例では約5分程度まで塩素の影響を除去できることがわかる。
【0027】
言うまでもなくフィルタとしての寿命、つまり破過までの時間はN.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩の量に比例するからこれの量を調整することができる。
すなわち、N.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩の量を例えば5倍とするとともに、塩素の濃度を2.5倍とした場合には、その寿命は図3(ロ)に示したように濃度2ppmの塩素に換算した場合の5倍となる。
【0028】
なお、上述の実施例においてはN.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩を粒状体に含浸させて管状体13に収容しているため、破過の状態を検知管として判定することができるが、検出装置に吸引される塩素の量が予め判明している場合には、破過時点が明らかであるから、含浸材として通気性を有するシート、例えば濾紙などを使用し、シートを通過する流れを生じる位置に接続口が形成さた容器に収容してメンブレムフィルタ状に形成しても同様の作用を奏することは明らかである。
【0029】
また、上述の実施例においてはテープ状の検知材を用いているが、検知材を片に切断して開封可能な容器に収容したタブとして構成しても同様の作用を奏することは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の塩素ガス除去フィルタを用いたガス検出装置の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の塩素ガス除去フィルタの一実施例を示す断面図である。
【図3】図(イ)、(ロ)は、それぞれ塩素ガスの除去効果を示す線図である。
【符号の説明】
【0031】
1 検知紙式ガス検出装置
7 サンプリングポンプ
10 塩素ガス除去フィルタ
11 ガス流入口
12 ガス流出口
13 容器
14 塩素ガス吸収材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化水素を酢酸銅(II)の水和物と反応させ、試薬により光学濃度として検出するシアン化水素検出装置のフィルタであって、
含浸材にN.N−ジエチル−P−フェニレンジアミン硫酸塩を含浸させ、前記含浸材を通過する流れを生じる位置に接続口が形成された容器に前記含浸材を収容して構成されたシアン化水素検出装置用塩素ガス除去フィルタ。
【請求項2】
前記含浸材がパルプからなる粒状体により構成されている請求項1に記載のシアン化水素検出装置用塩素ガス除去フィルタ。
【請求項3】
前記含浸材が、外部から前記含浸材を視認できる管状体に収容されている請求項2に記載のシアン化水素検出装置用塩素ガス除去フィルタ。
【請求項4】
前記含浸材が吸湿剤を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載のシアン化水素検出装置用塩素ガス除去フィルタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−250700(P2006−250700A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67475(P2005−67475)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】