説明

ガス検出装置

【課題】 サンプリングに伴う質量分析計の汚損を低減することを目的とする。
【解決手段】 吸引ポンプ16により空気をサンプリングするサンプリング管10と、そのサンプリング管の基端側に設けられ、サンプリングされた空気をイオン化して分析する質量分析計MSとを備えたガス検出装置Gにおいて、サンプリング管10の質量分析計より手前に接続された吸引ポンプ16と質量分析計MSとの間に、常時は閉じた第1の開閉弁15を設けた。
また、サンプリング管10の先端部近傍には、常時は閉じた第2の開閉弁14を設けて、第1の開閉弁は、第2の開閉弁が開放される際、開放するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すような、質量分析計をセンサ部に使用したガス漏れ検知器がある。このガス漏れ検知器を図2に示す。図2において、質量分析計を構成する質量分析部300には、吸引ポンプ105を介してガス導入管103が接続され、吸引ポンプ105により監視区域から空気をサンプリングしている。
【0003】
また、質量分析部300には、ターボ分子ポンプ201と油回転ポンプ202とからなる真空排気部200が接続され、質量分析部内の圧力を高い真空状態に保っている。そして、この質量分析部300で、サンプリングされた空気をイオン化して分析して、対象となるガスの漏洩を検知するように構成されている。
【特許文献1】特開平6−137986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このガス漏れ検知器は、吸引ポンプにより、常時監視区域の空気をサンプリングして質量分析計内に導入している。このため質量分析計のチャンバやガス導入管の壁面などに対象となるガスが付着したりして汚れやすい。質量分析計は、半導体式などの通常のガス検知器に比べ、極めて精度の高い装置であるため、チャンバなどが汚損してしまうと、ガス検知の際、シャープな検出ピークがブロードになってしまい正確なガス漏れ検出を行うことができなくなってしまうという問題があった。そこで、本発明は、サンプリングに伴う質量分析計の汚損を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以上の課題を解決するためになされたもので、吸引ポンプにより空気をサンプリングするサンプリング管と、該サンプリング管の基端側に設けられ、サンプリングされた空気をイオン化して分析する質量分析計とを備えたガス検出装置において、サンプリング管の質量分析計より手前に接続された吸引ポンプと質量分析計との間に、常時は閉じた第1の開閉弁を設けたことを特徴とするものである。
【0006】
また、サンプリング管の先端部近傍に、常時は閉じた第2の開閉弁を設けたことを特徴とし、その第1の開閉弁は、第2の開閉弁が開放される際、開放されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
サンプリング管に接続された吸引ポンプと質量分析計との間に、常時は閉じた第1の開閉弁を設けたので、通常状態で吸引ポンプが動いていても、監視区域の空気は質量分析計内には入らないので、質量分析計のチャンバにガスが付着したりして汚損することはない。
【0008】
また、サンプリング管の先端部近傍に、常時は閉じた第2の開閉弁を設けることで、通常状態で吸引ポンプが動いていても、監視区域の空気はサンプリング管内には入らなくなるので、サンプリング管の壁面にガスが付着したりして汚損することはない。
【0009】
また、第2の開閉弁を開放して、監視区域の空気をサンプリングする際に、第1の開閉弁もほぼ同時に開放されるので、その2つの開閉弁が開放している間、吸引した空気は、質量分析計に導かれ、質量分析計でガスの検知が行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明のガス検出装置Gを説明するためのシステムブロック図である。本発明のガス検出装置Gは、質量分析計MSと、サンプリング管10とを備えている。
【0011】
図において、MSは質量分析計である。質量分析計MSは、イオン化部2、質量分離部4(分析部ともいう)、検出部6とで構成されており、サンプリング管10の基端側に設けられ、サンプリングされた空気をイオン化して質量分析する。
【0012】
質量分析計MSのイオン化部2としては、最も一般的な電子衝撃イオン化(EI)法が一例として使用される。これは、加速した電子を試料(中性)分子に衝突させ、イオン化させる方法である。なお、イオン化のイオン源には、放射性元素、例えばアメリシウムなどを使用してもよい。
【0013】
質量分離部4については、例えば、最も普及している、四重極型を使用している。四重極型は4本のポール状電極の対角線各2本に同一極性の同一電圧をかけ、この極性を高速で切り換えるときにポール内を通過できるイオンの質量数がポールにかけた電圧に比例することを利用して、特定の質量電荷比(m/z)をもつイオン(本実施形態の場合は水素イオン)のみを通過させ分離を行うものである。なお、mは分子量、zは電荷数である。
【0014】
検出部6は光電子増倍管などを備え、分離された1つのイオンを検出する。検出部6は、外部のデータ解析処理装置8と接続され、検出信号をデータ解析処理装置へ送るように構成されている。そして、イオンを質量ごとに分離して検出することにより、横軸(イオンの質量数)/縦軸(イオンの検出強度)からなるマススペクトルを得るように構成されている。データ解析処理装置8は、質量分析計MSからのスペクトルデータを処理して必要なピーク値のみ選択してデータ解析する。
【0015】
質量分析計MSを構成するイオン化部2、質量分離部4、及び検出部6は、ガス分析するにあたって、質量分析計内の圧力を高い真空状態に保つ必要がある。このため、真空ポンプとしてのターボ分子ポンプTMPとドライポンプ9を2台直結して、質量分析計MSに接続して、質量分析計MSの室内の圧力を10↑−5Torr程度の圧力にしている。この圧力は、10↑−4〜10↑−6Torrの範囲で調整され、その中で好ましい値が、10↑−5Torrである。
【0016】
なお、質量分析計MSの室内を10↑−5Torr程度の圧力にするにあたって、本実施形態では、まず大気圧(約10↑3Torr)にある監視区域の空気を吸引ポンプ16により吸引して、続いて後段のドライポンプ17により、10↑−1Torr程度まで圧力を低下させる差動排気系のシステムにより圧力を段階的に低下させるように構成している。
【0017】
以上で説明した質量分析計MSに関する部分は、既に知られている他の質量分析計MSに置き換えることが可能である。例えば、イオン化や質量分離の原理の異なる、ソフトイオン化法や、イオントラップ式や、磁場型、TOF式などの他の質量分析計を使用してもよい。
【0018】
続いて、サンプリング管10について説明する。サンプリング管10は、可撓性を有するチューブ11と、チューブ11と接続される配管12とから構成される。配管12の端部は質量分析計MSと接続され、チューブ11と配管12との接続部分には、分岐管を介して吸引ポンプ16が接続される。このようにしてサンプリング管10は、吸引ポンプ16により監視区域から空気をサンプリングしている。ここで監視区域は、例えば水素ステーションなどの水素を貯蔵した施設などである。
【0019】
サンプリング管10のチューブ11の先端にある吸引口には、高分子膜、セラミック多孔体からなるフィルタ13が設けられる。フィルタ13には、例えば、0.05μmという孔径の小さいものが使用される。このフィルタ13によりサンプリング管10内に塵埃や水分が入るのを防止する。
【0020】
サンプリング管10の質量分析計MSより手前に接続された吸引ポンプ16と質量分析計MSとの間には、より正確に言えば、配管12とチューブ11の接続部分の後段側には、常時は閉じた第1の開閉弁15が設けられる。また、フィルタ13のすぐ後ろ側、つまりチューブ11の先端部近傍には、常時は閉じた第2の開閉弁15が設けられる。
【0021】
第1の開閉弁15と第2の開閉弁14は信号線を介して制御装置19と接続され、この制御装置19からの信号により、2つの開閉弁14、15は、ほぼ同時に所定時間だけ開放される。なお、第1の開閉弁15は、第2の開閉弁14より僅かに遅れて開放させるようにしてもよく、つまり、第1の開閉弁15は、第2の開閉弁14が開放される際に、開放されればよい。なお、フィルタ13と開閉弁14の位置は、それぞれを逆にして、チューブ11の先端側に第1の開閉弁14を設けるようにしてもよい。
【0022】
サンプリング管10(チューブ11、配管12)の内径は、流速が低下しないように、できるだけ細くすることが望ましい。この内径は、サンプリング管10の長さ(監視区域から質量分析計までの長さ)によって調整され、例えばその距離が1m程度なら、内径が0.3mm〜0.5mm程度のサンプリング管が使用される。また、吸引ポンプ16の吸引量は、例えば1〜5L/minであり、所定時間内に一定流量の空気をサンプリングできるように管径は調整される。なお、チューブ11の長さを1m程度にして、開閉弁14、15を開放させてから、質量分析計内に空気が流入するまでの時間を、3秒以下になるように、ポンプの性能や、管径を調整することが好ましい。
【0023】
サンプリング管10の配管12において、質量分析計MSと接続される配管12の途中には、流量制御用のニードルバルブ22が設けられ、配管12の流路を絞っている。なお、ニードルバルブ22に変えてオリフィスを使用してもよい。ここで、サンプリング管10のドライポンプ側17の圧力は、10↑−1torrで、質量分析計MSの圧力は、10↑−5torrで、高い真空状態にあり、両者の圧力差は大きい。このため、サンプリング管10と質量分析計MSとを、ニードルバルブ22によってその流路を絞ってある。こうすることで、質量分析計MSの真空状態を保ち、かつガス成分も通過できるようにすることが可能となる。
【0024】
なお、図において、30は加熱手段としてのヒータである。ヒータ30は100℃で質量分析計MS全体と配管12の後端部を加熱するものである。これは、質量分析計MS内部では圧力が低いことから、質量分析計MS内のガス用の配管(キャピラリ)内に水滴が付着したりすると、大気圧下に比べ凍結しやすいからで、この凍結を防止するためである。特に、配管12おけるニードルバルブ22で絞られ、細くなった部分は凍結の可能性が高いので、ヒータ30による加熱が望まれる。
【0025】
次に、監視区域から空気をサンプリングする場合について説明する。通常状態では、吸引ポンプ16などのポンプ類は全て作動しているが、チューブ11の先端側にある第2の開閉弁14が閉じているため、監視空域から空気をサンプリングすることはできない。制御装置19は、所定の間隔で、第2の開閉弁14と第1の開閉弁15に制御信号を送って、2つの開閉弁をほぼ同時に、1〜10秒程度開放させる。
【0026】
この開閉弁14、15が開放される際、吸引ポンプ16により吸引された空気がチューブ11、配管12を通って、質量分析計MS側に流れる。吸引した空気は、ニードルバルブ22によって流路が絞られているので、その大部分は、吸引ポンプ16及びドライポンプ17から排気され、わずかな量だけが質量分析計MS内に入る。
【0027】
制御装置19が制御信号を出力して、開閉弁14、15の開放時間である1〜10秒が経過したら、再び、制御装置19から制御信号が出力され、開閉弁14、15を閉じる。ここで開閉弁14、15の閉止時間は、例えば、開放時間と同じ時間である1〜10秒程度閉止させるように制御すればよい。このようにして、開閉弁14、15は定期的に所定時間だけ開放するように制御され、その開放している時間のみサンプリングされた空気が質量分析計MSに入る。
【0028】
サンプリングした空気が、質量分析計MSに導入され、その空気の中に監視区域で漏洩した水素ガスが含まれていれば、空気中の水素がイオン化部2でイオン化される。そして、質量分離部4で、特定の質量電荷比をもつ水素イオンのみを通過させ分離を行い、検出部6が、その分離されたイオンを検出する。
【0029】
続いて、検出部6が、検出信号をデータ解析処理装置8へ送る。ここで、質量電荷比2にピークを有するマススペクトルが得られることから、そのピークを水素分子と認識して検出する。このようにして、質量分析計MSにより、空気中に漏洩した水素ガスを検知する。
【0030】
このように本実施形態では、サンプリング管10に接続された吸引ポンプ16と質量分析計MSとの間に、常時は閉じた第1の開閉弁を設けたので、通常状態で吸引ポンプ16が動いていても、監視区域の空気は質量分析計MS内には入らないので、質量分析計のチャンバにガスが付着したりして汚損することはない。
【0031】
また、サンプリング管10の先端部近傍に、常時は閉じた第2の開閉弁14を設けることで、通常状態で吸引ポンプ16が動いていても、監視区域の空気はサンプリング管10内には入らなくなるので、サンプリング管10の壁面にガスが付着したりして汚損することはない。また常時は閉じた第1の開閉弁15を設けることで、吸引ポンプ16との接続が遮断されるので、質量分析計MS内の圧力が高まるのを防止できる。
【0032】
なお、本実施形態では、第1の開閉弁14は、制御装置19からの信号により開閉する電磁弁などの自動弁で説明したが、この第1の開閉弁14は、手動の弁で構成するようにしてもよい。この場合には、第1の開閉弁14の二次側に、図示しない圧力スイッチを設けて、その圧力スイッチを制御装置19と接続する。そうして、第1の開閉弁14が手動で開放されて、吸引ポンプ16の吸引により、圧力が高まって、圧力スイッチが働くと、制御装置19では、第1の開閉弁14が開放されたことを検知できる。この第1の開閉弁14が開放されたことに伴い、制御装置19は制御信号を出力して、第2の開放弁15を開放させる。
【0033】
このような手動の第1の開閉弁14、チューブ11及び吸引ポンプ16を組み合わせたバキュームピンセットと呼ばれるものを使用するようにしてもよい。第1の開閉弁14を手動にして、質量分析計MSを可搬式にすることで、水素などの無色透明で臭いのないガスの漏洩する恐れのある場所に、この質量分析計MSを持ち込んで、手動で第1の開閉弁を開放してガスをサンプリングすれば、簡単にガス漏れを検知することができる。
【0034】
本実施形態では、サンプリング管に2つの開閉弁を設けた場合で説明したが、開閉弁は、少なくとも吸引ポンプと質量分析計の間にあればよい。また、2つの開閉弁を設けた場合において、それぞれの開閉弁は同時に同じ時間だけ開放させるように制御したが、例えば、サンプリング管の先端側にある第2の開閉弁を10秒間隔で開放させ、質量分析計の近傍にある第1の開閉弁は、その第2の開閉弁が開放している10秒間において、5秒ほど開放させるように制御してもよい。また、センサ部として質量分析計の代わりに、イオンモビリティスペクトロメータを使用してもよく、この装置であれば、チャンバ内の圧力を真空のように低くすることなく、大気圧に近い圧力でガスを検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のガス検出装置Gを説明するためのシステムブロック図である。
【図2】従来のガス検出装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0036】
2 イオン化部、 4 質量分離部、 6 検出部、 8 データ解析処理装置、
10 サンプリング管、 11 チューブ、 12 配管、 13 フィルタ、
14 第2の開閉弁、 15 第1の開閉弁、 16 吸引ポンプ、
17 ドライポンプ、 19 制御装置、 22 ニードルバルブ、
30 ヒータ、 MS 質量分析計、 TMP ターボ分子ポンプ、 tt

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引ポンプにより空気をサンプリングするサンプリング管と、該サンプリング管の基端側に設けられ、サンプリングされた空気をイオン化して分析する質量分析計とを備えたガス検出装置において、
前記サンプリング管の前記質量分析計より手前に接続された前記吸引ポンプと前記質量分析計との間に、常時は閉じた第1の開閉弁を設けたことを特徴とするガス検出装置。
【請求項2】
前記サンプリング管の先端部近傍に、常時は閉じた第2の開閉弁を設けたことを特徴とする請求項1記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記第1の開閉弁は、前記第2の開閉弁が開放される際、開放されることを特徴とする請求項2記載のガス検出装置。
【請求項4】
前記第1の開閉弁と前記第2の開閉弁を、ほぼ同時に所定時間だけ開放させる制御装置を設けたことを特徴とする請求項3記載のガス検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−198807(P2007−198807A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15696(P2006−15696)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】