説明

ガス検出装置

【課題】ガス検出手段の異常を検出して、ガス検出の信頼性及び保守性を向上させる。
【解決手段】アルコールセンサ24Aの出力値と、同時刻に出力されたガスセンサ24Bの出力値との組み合わせの時系列変化により得られるパターンとして抽出される楕円の長軸の傾きを演算し、演算した傾きと予め演算して記憶しておいたアルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bが正常状態のときの傾きとを比較することにより、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bの状態を判定する。正常状態と判定された場合には、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bの出力値に基づいて、呼気中のエタノールガスの濃度を算出して出力し、異常状態と判定された場合には、算出結果及び判定結果を出力するか、判定結果のみを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出装置に係り、特に、運転者の呼気に含まれるアルコールの濃度を検出することができるガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルコールセンサでドライバの呼気中のアルコールを検出してエンジン始動を停止することなどが行われている。このような場合に用いられるアルコールセンサなどは、使用期間や使用状況などによって検出感度が劣化していくため、アルコール検出の精度が低下してしまう。
【0003】
そこで、特許文献1では、アルコールセンサの使用期間及び使用回数の履歴情報を保存しておき、この履歴情報に基づいて、使用期間及び使用回数の少なくとも一方が所定の値を超えた場合に、アルコールセンサの交換を指示する案内を出力するアルコール検知システムが提案されている。
【0004】
また、同じく特許文献1のアルコール検知システムでは、同一の特性のセンサを複数用いて測定を行い、各センサの出力値の差異から正常動作しているか否かを判断することが提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、特性の異なる複数のガスセンサの出力のうち、最大値を示すセンサの出力を「1.0」として全てのセンサ出力を基準化し、これら基準化した出力の組み合わせをパターン認識してガスを識別するガス識別装置が提案されている。
【特許文献1】特開2007−212481号公報
【特許文献2】特開平6−242039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のガス検知システムでは、装置の使用環境や人の呼気に含まれるガスの多様性などにより、センサの交換時期となる使用期間や使用回数を一定の所定値として決定することは困難である、という問題がある。
【0007】
また、同じ環境で同一特性のセンサを複数使用した場合には、同じ時期に同じようにセンサが劣化する可能性が高く、検出対象気体中のガス濃度が薄いためにセンサ出力が低いのか、センサの劣化により出力が低いのかの区別ができない、という問題がある。
【0008】
また、特許文献2のガス識別装置では、ガスの識別能力を向上させることを目的としており、センサの異常や故障を検出することは考慮されていない、という問題がある。
【0009】
本発明は、上記問題を解消するためになされたもので、ガス検出手段の異常を検出して、ガス検出の信頼性及び保守性を向上させることができるガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のガス検出装置は、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度に関連した検出値を出力する第1のガス検出手段と、前記検出対象の気体中に含まれる前記検出対象ガス以外のガスの濃度に関連した検出値を出力する第2のガス検出手段と、前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段の一方の検出値の変化に対する他方の検出値の変化の割合を演算する演算手段と、前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段が正常なときの前記演算手段で演算した前記割合を記憶した記憶手段と、前記記憶手段に記憶された前記割合と前記演算手段で演算した前記割合とを比較して、前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段が正常状態であるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段で正常状態と判定された場合に、前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段の検出値に基づいて、検出対象ガスの濃度を算出して出力し、前記判定手段で前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段のいずれかが異常状態であると判定された場合に、前記検出対象ガスの濃度及び前記判定手段による判定結果、または前記判定結果を出力する出力手段とを含んで構成されている。
【0011】
本発明のガス検出装置によれば、第1のガス検出手段が、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度に関連した検出値を出力し、また、第2のガス検出手段が、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガス以外のガスの濃度に関連した検出値を出力する。そして、演算手段が、第1のガス検出手段及び第2のガス検出手段の一方の検出値の変化に対する他方の検出値の変化の割合を演算する。記憶手段が、第1のガス検出手段及び第2のガス検出手段が正常なときの演算手段で演算した割合を記憶し、判定手段が、記憶手段に記憶された割合と演算手段で演算した割合とを比較して、第1のガス検出手段及び第2のガス検出手段が正常状態であるか否かを判定する。そして、出力手段が、判定手段で正常状態と判定された場合に、第1のガス検出手段及び第2のガス検出手段の検出値に基づいて、検出対象ガスの濃度を算出して出力し、判定手段で第1のガス検出手段及び第2のガス検出手段のいずれかが異常状態であると判定された場合に、検出対象ガスの濃度及び判定手段による判定結果、または判定結果を出力する。
【0012】
このように、第1のガス検出手段及び第2のガス検出手段の一方の検出値の変化に対する他方の検出値の変化の割合と、2つのガス検出手段が正常状態のときの割合とを比較することでガス検出手段の状態を判定するため、検出対象の気体中に含まれるガスの濃度や検出対象の気体の入力時間に影響されることなくガス検出手段の状態を判定することができ、異常状態と判定された場合には、その判定結果とともにガス濃度の算出結果を出力するか、または、判定結果のみを出力してガス濃度の算出結果の出力を行わないので、ガス検出の信頼性及び保守性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の前記演算手段は、前記第1のガス検出手段がガスを検出する前のベース値と前記第2のガス検出手段がガスを検出する前のベース値とで示されるベース点と、前記第1のガス検出手段の検出値と前記第2のガス検出手段の検出値とで示され、かつ前記ベース点との距離が最大となる最大点とに基づいて、前記割合を演算するようにすることができる。このように、2つのガス検出手段の出力値の変化の割合を、ベース点と最大点とに基づいて演算することにより、容易に求めることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、ガス検出手段の異常を検出して、ガス検出の信頼性及び保守性を向上させることができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、ドライバの呼気からアルコールの一種であるエタノールの濃度を検出するエタノール濃度検出装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0016】
図1に示すように、第1の実施の形態に係るエタノール濃度検出装置10は、運転席に設けられたステアリングコラム12の、ドライバの呼気が到達可能な位置に取り付けられている。エタノール濃度検出装置10は、先端部に拡径した吸い込み口20Aが形成された細長円筒状の呼気導入管20を備えており、呼気導入管20の中間部の内部にはセンサ群24が取り付けられている。
【0017】
図2に示すように、呼気導入管20の内部であって、センサ群24より吸い込み口20A側には、ドライバの呼気を吸い込み口20Aから吸い込むために駆動される吸い込みファン22が設けられている。
【0018】
センサ群24は、呼気導入管20の中間部の内部に対向するように取り付けられた、アルコールセンサ24Aとガスセンサ24Bとで構成されている。
【0019】
アルコールセンサ24Aは、呼気導入管20内を流れる気体中に含まれるエタノールガスを検出するセンサである。アルコールセンサ24Aは、図3に示すような回路で構成されている。アルコールセンサ24Aでは、ヒータ電圧Vと回路電圧Vが印加され、センサ抵抗Rに直列に接続された負荷抵抗Rの両端電圧VOUTを、検出信号として出力する。従って、アルコールセンサ24Aは、呼気導入管20内を流れる気体中に含まれるエタノールガスの濃度が高くなるに従って、レベルが高い検出信号を出力し、呼気導入管20内を流れる気体中に含まれるエタノールガスの濃度が低くなるに従って、レベルが低い検出信号を出力する。
【0020】
また、アルコールセンサ24Aは、ガス成分の選択性が比較的低く、エタノールガス以外に、例えば、水素、一酸化炭素、メタン、イソブタンなどに感度を有し、各々のガス成分に対して異なる感度特性を有している。
【0021】
ガスセンサ24Bは、目的成分(エタノール)以外のガス成分に対する感度(変化特性)がアルコールセンサ24Aと異なり、多くのガス成分に感度を有している。ガスセンサ24Bは、呼気導入管20内に流れる気体中に含まれる、感度を有するガス成分の濃度が高くなるに従って、レベルが高い検出信号を出力し、呼気導入管20内を流れる気体中に含まれる、感度を有するガス成分の濃度が低くなるに従って、レベルが低い検出信号を出力する。
【0022】
この実施の形態によれば、吸い込みファン22を駆動することにより、ドライバから吐き出された呼気は呼気導入管20の吸い込み口20Aから呼気導入管20内に吸入されると共に、呼気が空気と混合されることで任意に希釈され、センサ群24へ一定流速で到達する。そして、呼気は、センサ群24に接触した後、呼気導入管20の外に排出される。
【0023】
呼気がアルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bに接触することにより、アルコールセンサ24Aによって呼気を含む気体中のエタノールガスの濃度が検出されると共に、ガスセンサ24Bによって呼気を含む気体中の感度を有するガス成分の濃度が検出される。アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bで検出された気体中のエタノールガスの濃度及び感度を有するガス成分の濃度は、後述するエタノール濃度判定器に入力され、検出したエタノールガスの濃度の大きさ及び感度を有するガス成分の濃度の大きさに基づいて、呼気中の検出対象ガスとしてのエタノールガスの濃度が検出される。
【0024】
図4に示すように、エタノール濃度検出装置10は、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bに接続され、かつ、エタノールガスの濃度を検出するエタノール濃度判定器30を備えている。
【0025】
エタノール濃度判定器30は、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bが正常状態のときの、アルコールセンサ24Aの検出信号が示す出力値と、同時刻に出力されたガスセンサ24Bの検出信号が示す出力値との組み合わせの時系列変化により得られるパターンを記憶した記憶部32と、実際の検出のときに、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bの出力値の組み合わせの時系列変化により得られるパターンと、記憶部32に記憶されたパターンとを比較することにより、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bが正常状態にあるか否かを判定するセンサ状態判定部34と、センサ状態判定部34で正常状態と判定された場合に、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bの出力値に基づいて、呼気中のエタノールガスの濃度を算出するエタノール濃度算出部36と、センサ状態判定部34による判定結果及びエタノール濃度算出部36による算出結果を表示する表示部38とを備えている。
【0026】
ここで、本実施の形態の原理について説明する。
【0027】
まず、図5(A)及び(B)に示すように、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bの出力値を所定時間間隔で取得する。アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bが各々の対象ガスを検出して出力値が変化し始める直前までの一定の出力値をベース値とする。
【0028】
次に、横軸にアルコールセンサ24Aの出力値、縦軸にガスセンサ24Bの出力値をとった座標系に、同時刻に出力されたアルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bの出力値の組み合わせで示される点をプロットして、2つのセンサの出力値の組み合わせの変化パターンを抽出する。抽出されるパターンは、図5(C)に示すように、楕円形状(リサジュー図形)となる。この楕円の長軸の一端は2つのセンサの出力値が共にベース値であるベース点となる。なお、ここでは、横軸にアルコールセンサ24Aの出力値、縦軸にガスセンサ24Bの出力値をとった座標系としているが、横軸にガスセンサ24Bの出力値、縦軸にアルコールセンサ24Aの出力値をとった座標系としてもよい。
【0029】
このように、同時刻に出力されたアルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bの出力値をプロットして出力値の組み合わせの変化パターンを抽出することにより、呼気導入管20への呼気入力時間の長さの違いによる影響を補償することができる。また、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bが正常状態である場合には、呼気導入管20へ入力されたガス濃度に差があっても、抽出される変化パターンは略相似形となり、変化パターンとして抽出される楕円の長軸の傾きは略一定となる。
【0030】
そこで、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bが正常状態のときの変化パターンから楕円の長軸の傾きを演算して記憶しておき、実際の判定時に演算された傾きと比較することにより、センサの状態を判定する。楕円の長軸は、ベース点と、ベース点からの距離が最大となる最大点とを端点とする線分であるため、抽出された変化パターンからベース点及び最大点を検出し、このベース点及び最大点に基づいて楕円の長軸の傾きを演算することができる。
【0031】
上記のように、横軸にアルコールセンサ24Aの出力値、縦軸にガスセンサ24Bの出力値をとった座標系の場合では、図6(A)に示すように、アルコールセンサ24Aに異常がある場合には、正常時より傾きが大きくなり、同図(B)に示すように、ガスセンサ24Bに異常がある場合には、正常時より傾きが小さくなる。
【0032】
次に、図7を参照して、センサ状態の判定の際に基準となる正常時の2つのセンサからの出力値の組み合わせの変化パターンを抽出して記憶するための正常時パターン記憶処理プログラムの処理ルーチンについて説明する。本ルーチンは、本実施の形態のエタノール濃度検出装置10を初めて利用するときなど、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bの検出感度に劣化が生じていない正常状態のときに実行する。
【0033】
ステップ100で、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bのヒータをオンし、次に、ステップ102で、2つのセンサの各々の出力値の取得を開始する。出力値は所定時間間隔毎に取得し、横軸にアルコールセンサ24Aの出力値、縦軸にガスセンサ24Bの出力値をとった座標系にプロットする。
【0034】
次に、ステップ104で、呼気導入管20に呼気が入力されたか否かを判断する。2つのセンサのいずれかの出力値が変化し始めた場合に、呼気が入力されたと判断する。呼気が入力された場合には、ステップ106へ進み、入力されない場合には、入力されるまで本ステップの判断を繰り返す。
【0035】
ステップ106で、アルコールセンサ24Aのベース値とガスセンサ24Bのベース値との組み合わせで示されるベース点を検出する。
【0036】
次に、ステップ108で、順次プロットされる2つのセンサからの出力値の組み合わせで示される点についてベース点からの距離を算出し、算出した距離に基づいてベース点との距離が最大となる最大点を検出したか否かを判断する。2つのセンサからの出力値の組み合わせの変化パターンは楕円形状となるため、順次プロットされる2つのセンサからの出力値の組み合わせで示される点のベース点からの距離は徐々に増加し、一端をベース点とする楕円の長軸の他端をピークとして徐々に減少する。従って、最大点を検出することにより、プロットされる変化パターンの長軸を抽出することができる。最大点が検出された場合には、ステップ110へ進み、検出されない場合には、検出されるまで本ステップの判断を繰り返す。
【0037】
ステップ110で、2つのセンサからの出力値の取得を終了する。最大点が検出されれば、出力値の変化終了までの全ての値をプロットしなくても、変化パターンとして抽出されるべき楕円の長軸の傾きを演算することができるため、以降の出力値の取得は不要となる。
【0038】
次に、ステップ112で、ベース点と最大点とに基づいて、楕円の長軸の傾きを演算し、次に、ステップ114で、演算した傾きを所定の記録領域に記憶して処理を終了する。
【0039】
次に、図8を参照して、センサが正常か否かを判定するためのセンサ状態判定処理プログラムの処理ルーチンについて説明する。本ルーチンは、エンジン始動時など、ドライバの呼気にアルコールが含まれるか否かを検出する際に実行される。
【0040】
ステップ200〜210で、正常時パターン記憶処理(図7)のステップ100〜108及びステップ112と同様の処理により、2つのセンサからの出力値の組み合わせの変化パターンである楕円の長軸の傾きを演算する。なお、本ルーチンでは後述するエタノール濃度算出処理も実行されるため、正常時パターン記憶処理のステップ110の出力値の取得終了の処理は省略して、変化終了まで出力値の取得を継続する。
【0041】
次に、ステップ212で、予め記憶された正常時の変化パターンである楕円の傾きを読み出し、ステップ210で演算された傾きと比較する。
【0042】
次に、ステップ214で、比較結果に基づいて、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bのいずれかに異常があるか否かを判定する。例えば、正常時の傾きをαとし、α±a(aは所定値)をセンサが正常な場合の傾きの範囲とする。ステップ210で演算した傾きをα’とすると、α’>α+aであれば、アルコールセンサ24Aに異常があり、α’<α−aであれば、ガスセンサ24Bに異常があると判定する。いずれかのセンサに異常ありと判定された場合には、ステップ216へ進んで、表示部38にセンサに異常がある旨の判定結果を表示して、ステップ218へ進む。正常と判定された場合には、判定結果を表示することなくステップ218へ進む。
【0043】
ステップ218で、後述するエタノール濃度算出処理を実行して、処理を終了する。なお、ステップ214で異常ありと判定された場合には、ステップ218の処理を実行することなく処理を終了するようにしてもよい。
【0044】
次に、エタノール濃度算出処理について説明する。エタノール濃度の算出は、異なる特性のセンサからの出力値に基づいてエタノール濃度を算出することができるものであればよい。例えば、以下の方法により算出することができる。
【0045】
センサからの出力値の変化パターンの特徴のうち、変化開始からピークまでの出力値の変化特性、すなわちガス吸着時の変化特性は、ガス成分の吸着特性のみならず、ガス拡散、反応の特性を反映するため、ガス成分の種類による違いが生じにくい。一方、出力値のピークから変化終了までの変化特性、すなわちガス脱着時の変化特性は、主にガス成分の脱着特性を反映しており、一定流速下における一過性のガスに対する出力値の変化特性であっても、ガス成分の種類による違いが生じやすい。
【0046】
そこで、アルコールセンサ24Aからの出力値の変化開始からピークとなるまでの時間Tp−th2と、ガスセンサ24Bからの出力値のピークから変化終了までの時間T2p−th2との比が、以下の(1)式で表される条件を満たす場合には、呼気導入管20内を流れる気体中にエタノールガス成分が含まれていると判定する。一方、以下の(1)式で表される条件を満たさない場合には、呼気導入管20内を流れる気体中にエタノールガス成分が含まれていないと判定する。
【0047】
< Tp−th2/T2p−th2 < G ・・・(1)
【0048】
なお、閾値Gには、例えば、0.8〜1の範囲の値を設定しておくのが好ましく、本実施の形態では、閾値Gとして、0.9が設定されている。また、閾値Gには、例えば、1〜1.2の範囲の値を設定しておくのが好ましく、本実施の形態では、閾値Gとして、1.1が設定されている。
【0049】
エタノール濃度算出部36は、(1)式に基づいて、エタノールガス成分が含まれていると判定した場合には、アルコールセンサ24Aからの出力値がピークとなるように変化しているときの出力値の変化パターンを抽出する。抽出した変化パターンを用いてシステム同定を行い、アルコールセンサ24Aからの出力値の飽和出力値を予測する。予測された飽和出力値に基づいて、呼気導入管20内を流れる気体中に含まれるエタノール成分の濃度を算出して、表示部38に算出結果を表示する。
【0050】
また、エタノール濃度算出処理を以下のように実行することもできる。ここでは、ガスセンサ24Bは対象気体中に含まれる酸素の濃度を検出する酸素センサを用いる。
【0051】
まず、呼気中のエタノールガスの濃度をd、酸素の濃度をd、センサ計測地点tで観測される呼気量の時間変化をb(t)、酸素センサ24B及びアルコールセンサ24Aの各々の出力をe(t)、e(t)とすると、酸素センサ24B及びアルコールセンサ24Aの各々からの出力値のインパルス応答h(t)、h(t)は、以下の(2)式で表される。
【0052】
【数1】

【0053】
ここで、呼気量を図9のようにパルス波形で近似すると、呼気量の時間変化b(t)は、以下の(3)式で表わされる。
【0054】
【数2】

【0055】
上記(2)式及び(3)式により、酸素センサ24B及びアルコールセンサ24Aの各々からの出力値e(t)、e(t)は、以下の(4)式で表される。
【0056】
【数3】

【0057】
ただし、Tは、酸素センサ24Bのインパルス応答持続時間、Tは、アルコールセンサ24Aのインパルス応答持続時間である。また、T、Tは、呼気継続時間Tより長いと仮定した。
【0058】
上記(4)式により、酸素センサ24B及びアルコールセンサ24Aの各々からの出力値の時間微分e(t)のドット、e(t)のドットは、以下の(5)式で表される。
【0059】
【数4】

【0060】
従って、上記(5)式により、呼気中のエタノールガスの濃度dは、0<t<Tの区間で、以下の(6)式で表される。
【0061】
【数5】

【0062】
エタノール濃度算出部36は、上記(6)式を用いて、算出された呼気導入管20内を流れる呼気を含む気体中のエタノールガスの濃度の変化の時間微分、算出された呼気導入管20内を流れる呼気を含む気体中の酸素の濃度の変化の時間微分、アルコールセンサ24Aからの出力値のインパルス応答の特性、及び酸素センサ24Bからの出力値のインパルス応答の特性に基づいて、呼気中のエタノールガスの濃度を算出する。
【0063】
また、下記(7)式で示すように、アルコールセンサ24Aのセンサ出力のピーク値(expeak)と酸素センサ24Bのセンサ出力のピーク値(eapeak)との比でアルコール濃度を算出するようにしてもよい。
アルコール濃度=expeak/eapeak ・・・(7)
【0064】
以上説明したように、第1の実施の形態のエタノール濃度検出装置によれば、アルコールセンサ及びアルコールセンサとは特性の異なるガスセンサのそれぞれの出力値を組み合わせた時系列の変化パターンを抽出し、この変化パターンの傾きと、正常時に記憶しておいた変化パターンの傾きとを比較することによりセンサの状態を判定するため、入力されるガスの濃度や入力時間による影響を防止して、適切にセンサの異常を判定することができる。また、センサに異常ありと判定された場合には、その判定結果を出力するか、判定結果を出力した上でエタノール濃度の算出を行わないため、ガス検出の信頼性及び保守性を向上させることができる。
【0065】
なお、第1の実施の形態では、2つのセンサの出力値の変化パターンとして楕円の長軸を抽出するために、ベース点からの距離が最大となる最大点が検出された時点で、出力値の取得を終了する場合について説明したが、一旦センサの出力値をすべてプロットして楕円形状のパターンを抽出してから、最大点を求めるようにしてもよい。
【0066】
次に、第2の実施の形態に係るエタノール濃度検出装置について説明する。第1の実施の形態に係るエタノール濃度検出装置10と同一の構成及び処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
第1の実施の形態では、2つの出力センサからの出力値の組み合わせの変化パターンとして抽出される楕円の長軸の傾きに基づいて、センサの状態を判定する場合について説明したが、第2の実施の形態では、長軸の切片に基づいて判定する場合について説明する。
【0068】
正常時パターン記憶処理(図7)のステップ112では、ベース点と最大点とに基づいて、楕円の長軸の延長線の縦軸との切片を演算し、ステップ114で所定領域に演算した切片を記憶する。
【0069】
センサ状態判定処理(図8)のステップ210でも、同様にベース点と最大点とに基づいて、楕円の長軸の延長線の縦軸との切片を算出し、ステップ212で、正常時の切片と比較する。
【0070】
次に、ステップ214で、比較結果に基づいて、アルコールセンサ24A及びガスセンサ24Bのいずれかに異常があるか否かを判断する。例えば、図10に示すように、正常時の切片をβとし、β±b(bは所定値)をセンサが正常な範囲とする。ステップ210で算出した切片をβ’とすると、β’<β−bであれば、アルコールセンサ24Aに異常があり、β’>β+bであれば、ガスセンサ24Bに異常があると判定する。
【0071】
このように、2つのセンサからの出力値の組み合わせの変化パターンとして抽出される楕円の長軸の延長線の縦軸との切片に基づいても、センサの状態を判定することができる。
【0072】
なお、第2の実施の形態では、長軸の延長線の縦軸との切片を演算する場合について説明したが、短軸の傾きや、ベース点を通り長軸に直交する直線の縦軸との切片または横軸との切片を演算するようにしてもよい。
【0073】
また、上記の実施の形態では、算出された呼気中のエタノールガスの濃度を表示する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、算出したエタノールガス濃度と予め定めた閾値とを比較し、算出したエタノールガス濃度が閾値以上の場合にエタノールの濃度が高いと判定し、エンジンが始動できないようにする等の不正ができないように制御するようにしてもよい。
【0074】
また、上記の実施の形態では、ドライバの呼気からエタノールを検出する場合について説明したが、エタノール濃度検出装置を携帯可能に構成する等により、本発明をドライバ以外の人間の呼気からエタノールを検出する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1の実施の形態のエタノール濃度検出装置を運転席のステアリングコラムに取り付けた状態を示す概略図である。
【図2】第1の実施の形態を示す概略図である。
【図3】アルコールセンサの構成を示す回路図である。
【図4】第1の実施の形態のエタノール濃度判定器の構成を示すブロック図である。
【図5】(A)アルコールセンサの出力値の時間変化を示す線図、(B)ガスセンサの出力値の時間変化を示す線図、及び(C)2つのセンサの出力値の組み合わせをプロットすることにより抽出される変化パターン示す線図である。
【図6】第1の実施の形態において、(A)アルコールセンサに異常がある場合の変化パターンを示す線図、及び(B)ガスセンサに異常がある場合の変化パターンを示す線図である。
【図7】第1の実施の形態のエタノール濃度検出装置における正常時パターン記憶処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施の形態のエタノール濃度検出装置におけるセンサ状態判定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図9】呼気量の時間変化を示す線図である。
【図10】第2の実施の形態において、(A)アルコールセンサに異常がある場合の変化パターンを示す線図、及び(B)ガスセンサに異常がある場合の変化パターンを示す線図である。
【符号の説明】
【0076】
10 エタノール濃度検出装置
24A アルコールセンサ
24B ガスセンサ
30 エタノール濃度判定器
32 記憶部
34 センサ状態判定部
36 エタノール濃度算出部
38 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度に関連した検出値を出力する第1のガス検出手段と、
前記検出対象の気体中に含まれる前記検出対象ガス以外のガスの濃度に関連した検出値を出力する第2のガス検出手段と、
前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段の一方の検出値の変化に対する他方の検出値の変化の割合を演算する演算手段と、
前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段が正常なときの前記演算手段で演算した前記割合を記憶した記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記割合と前記演算手段で演算した前記割合とを比較して、前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段が正常状態であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段で正常状態と判定された場合に、前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段の検出値に基づいて、検出対象ガスの濃度を算出して出力し、前記判定手段で前記第1のガス検出手段及び前記第2のガス検出手段のいずれかが異常状態であると判定された場合に、前記検出対象ガスの濃度及び前記判定手段による判定結果、または前記判定結果を出力する出力手段と、
を含むガス検出装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記第1のガス検出手段がガスを検出する前のベース値と前記第2のガス検出手段がガスを検出する前のベース値とで示されるベース点と、前記第1のガス検出手段の検出値と前記第2のガス検出手段の検出値とで示され、かつ前記ベース点との距離が最大となる最大点とに基づいて、前記割合を演算する請求項1記載のガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−121946(P2010−121946A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293102(P2008−293102)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】