説明

ガス検出装置

【課題】ガス濃度を推定するための値を得ることができるだけでなく、その推定精度も把握することができる。
【解決手段】アルコールセンサ24の検出値を検出値格納部40に格納し、最終到達値確率分布推定部42で、アルコールセンサの応答特性を表し、かつ最終到達値を示すパラメータaと、パラメータb及びcとを含む応答特性式を用い、パラメータa、b、及びcで表される状態xを異ならせたときの応答特性式の値が検出値になる確率で表される確率分布P(x|z)を算出し、これを最終到達値の確率分布として推定し、ガス濃度推定部46で、最終到達値の確率分布に基づいて、確率が最大のときの最終到達値に係数kを乗算してガス濃度を推定する。また、ガス有無判定部48で、最終到達値の確率分布において、基準値Thを超える面積率が判定閾値Ptha以上の場合に、呼気に基準値以上のエタノールガスが含まれていると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出装置に係り、特に人間の呼気に含まれるエタノール等の検出対象ガスを検出するガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属酸化物半導体の抵抗値変化を利用してガス検出を行うガスセンサにおいて、所定期間に取り込んだ抵抗値、センサ温度、及び時間のデータをニューラルネットワークにより学習させ、このネットワークの出力によりガスの種類及びガス濃度を検出し、検出結果に基づいて警報を行うガスセンサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、センサの加熱温度を変化させたときのセンサ出力値の微分波形からガス種毎のモデル値を算出して記憶しておき、実測値とモデル値とを比較してガスの種類を同定し、同定されたガスの種類に基づいて、センサ出力値からガス濃度を算出するガス検出装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−130017号公報
【特許文献2】特開平1−311261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2の技術では、算出されたガス濃度または警報の有無を知ることはできるものの、提示されたガス濃度がどの程度の精度で算出された値であるかということが不明である、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解消するためになされたもので、ガス濃度を推定するための値を得ることができるだけでなく、その推定精度も把握することができるガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明のガス検出装置は、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度に関連する物理量を検出して検出値を出力するガス検出手段と、前記ガス検出手段の応答特性を表し、かつ前記検出値が該応答特性に応じて最終的に到達する最終到達値を示す係数を含む応答特性式を用い、前記応答特性式の値が前記検出値になる確率で表され、かつ値が異なる前記係数毎に算出した確率で表される確率分布を算出する算出手段と、前記算出手段で算出された確率分布を、前記最終到達値の確率分布として推定する最終到達値確率分布推定手段と、を含んで構成されている。
【0008】
第1の発明のガス検出装置によれば、ガス検出手段が、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度に関連する物理量を検出して検出値を出力し、算出手段が、ガス検出手段の応答特性を表し、かつ検出値が該応答特性に応じて最終的に到達する最終到達値を示す係数を含む応答特性式を用い、応答特性式の値が検出値になる確率で表され、かつ値が異なる係数毎に算出した確率で表される確率分布を算出し、最終到達値確率分布推定手段が、算出手段で算出された確率分布を、最終到達値の確率分布として推定する。
【0009】
このように、ガス検出手段の応答特性式及び検出値に基づいて、検出値の最終到達値の確率分布が推定されることにより、最終到達値を用いてガス濃度を推定することができるだけでなく、その最終到達値となる確率もわかるため、推定精度も把握することができる。
【0010】
また、第1の発明のガス検出装置は、前記最終到達値確率分布推定手段で推定された前記最終到達値の確率分布に基づいて、確率が最大のときの最終到達値または期待値に対応する最終到達値に予め定めた値を乗算した値を、前記検出対象ガスの濃度として推定するガス濃度推定手段を含んで構成することができる。これにより、精度よくガス濃度を推定することができる。
【0011】
また、第1の発明のガス検出装置は、前記最終到達値確率分布推定手段で推定された前記最終到達値の確率分布において、予め定めた基準値を超える最終到達値の確率が予め定めた閾値以上の場合に、前記検出対象の気体中に前記検出対象ガスが含まれていると判定する判定手段を含んで構成することができる。このように、最終到達値の確率分布において、基準値を超える確率に基づいて、検出対象ガスが含まれているか否かを判定するため、判定の信頼度が向上する。
【0012】
第2の発明のガス検出装置は、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度に関連する物理量を検出して検出値を出力するガス検出手段と、前記ガス検出手段の応答特性を表し、かつ前記検出値が該応答特性に応じて最終的に到達する最終到達値を示す係数を含む応答特性式を用い、前記応答特性式の値が前記検出値になる確率で表され、かつ値が異なる前記係数毎に算出した確率で表される確率分布を算出する算出手段と、前記算出手段で算出された確率分布を、前記係数に予め定めた値を乗算した前記検出対象ガスの濃度を示す値毎の確率で表される確率分布に変換し、変換された確率分布を前記検出対象ガスの濃度の確率分布として推定するガス濃度確率分布推定手段と、を含んで構成されている。
【0013】
第2の発明のガス検出装置によれば、ガス検出手段が、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度に関連する物理量を検出して検出値を出力し、算出手段が、ガス検出手段の応答特性を表し、かつ検出値が該応答特性に応じて最終的に到達する最終到達値を示す係数を含む応答特性式を用い、応答特性式の値が検出値になる確率で表され、かつ値が異なる係数毎に算出した確率で表される確率分布を算出し、ガス濃度確率分布推定手段が、算出手段で算出された確率分布を、係数に予め定めた値を乗算した検出対象ガスの濃度を示す値毎の確率で表される確率分布に変換し、変換された確率分布を検出対象ガスの濃度の確率分布として推定する。
【0014】
このように、ガス検出手段の応答特性式及び検出値に基づいて、より把握しやすいガス濃度の確率分布が推定されることにより、ガス濃度を推定することができるだけでなく、そのガス濃度となる確率もわかるため、推定精度も把握することができる。
【0015】
また、第2の発明のガス検出装置は、前記ガス濃度確率分布推定手段で推定された前記検出対象ガスの濃度の確率分布に基づいて、確率が最大のときの値または期待値に対応する値を前記検出対象ガスの濃度として推定するガス濃度推定手段を含んで構成することができる。これにより、精度よくガス濃度を推定することができる。
【0016】
また、第2の発明のガス検出装置は、前記ガス濃度確率分布推定手段で推定された前記検出対象ガスの濃度の確率分布において、予め定めた基準値を超える濃度の確率が予め定めた閾値以上の場合に、前記検出対象の気体中に前記検出対象ガスが含まれていると判定する判定手段を含んで構成することができる。このように、ガス濃度の確率分布において、基準値を超える確率に基づいて、検出対象ガスが含まれているか否かを判定するため、判定の信頼度が向上する。
【0017】
また、本発明の前記ガス検出手段の応答特性式を、以下の式で表すことができる。
【0018】
【数1】

【0019】
ただし、aは、前記最終到達値を示す係数、b及びcは、係数である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、ガス濃度を推定するために用いる最終到達値の確率分布を推定することにより、ガス濃度を推定するための値を得ることができるだけでなく、その推定精度も把握することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態のエタノール濃度検出装置を運転席のステアリングコラムに取り付けた状態を示す概略図である。
【図2】本実施の形態を示す概略図である。
【図3】第1の実施の形態のエタノール濃度検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】第1の実施の形態のエタノール濃度検出装置におけるガス検出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図5】アルコールセンサの検出値の最終到達値の確率分布の一例を示す線図である。
【図6】第2の実施の形態のエタノール濃度検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施の形態のエタノール濃度検出装置におけるガス検出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図8】エタノールガスのガス濃度の確率分布の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、ドライバの呼気からアルコールの一種であるエタノールの濃度を検出するエタノール濃度検出装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0023】
図1に示すように、第1の実施の形態に係るエタノール濃度検出装置10は、運転席に設けられたステアリングコラム12のドライバの呼気が到達可能な位置に取り付けられている。エタノール濃度検出装置10は、先端部に拡径した吸い込み口20Aが形成された細長円筒状の呼気導入管20を備えており、呼気導入管20の中間部の内部にはアルコールセンサ24が取り付けられている。
【0024】
図2に示すように、呼気導入管20の内部であって、アルコールセンサ24より吸い込み口20A側には、ドライバの呼気を吸い込み口20Aから吸い込むために駆動される吸い込みファン22が設けられている。
【0025】
アルコールセンサ24は、呼気導入管20内を流れる気体中に含まれるエタノールガスを検出するセンサで、例えば酸化物半導体式ガスセンサを用いることができる。アルコールセンサ24は、呼気導入管20内を流れる気体中に含まれるエタノールガスの濃度が高くなるに従って、レベルが高い検出信号を出力し、呼気導入管20内を流れる気体中に含まれるエタノールガスの濃度が低くなるに従って、レベルが低い検出信号を出力する。
【0026】
本実施の形態によれば、吸い込みファン22を駆動することにより、ドライバから吐き出された呼気は呼気導入管20の吸い込み口20Aから呼気導入管20内に吸入されると共に、呼気が空気と混合されることで任意に希釈され、アルコールセンサ24へ一定流速で到達する。そして、呼気は、アルコールセンサ24に接触した後、呼気導入管20の外に排出される。
【0027】
呼気がアルコールセンサ24に接触することにより、アルコールセンサ24によって呼気を含む気体中のエタノールガスの濃度に関連した検出値が検出される。アルコールセンサ24で検出された検出値に基づいて、呼気中の検出対象ガスとしてのエタノールガスの濃度が推定される。
【0028】
図3に示すように、エタノール濃度検出装置10は、アルコールセンサ24、液晶ディスプレイ等の表示装置26、及びスピーカ28に接続され、かつ、エタノールガスの濃度を検出するエタノール濃度検出器30を備えている。
【0029】
エタノール濃度検出器30は、エタノール濃度検出装置10全体の制御を司るCPU、後述するガス検出プログラム等の各種プログラム等を記憶した記憶媒体としてのROM、ワークエリアとしてデータを一時格納するRAM、及びこれらを接続するバスを含むマイクロコンピュータで構成することができる。
【0030】
エタノール濃度検出器30を、ハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、アルコールセンサ24の検出値を格納する検出値格納部40と、検出値格納部40に格納された検出値とアルコールセンサ24の応答特性式とに基づいて、検出値の最終到達値の確率分布を推定する最終到達値確率分布推定部42と、最終到達値確率分布推定部42で推定された最終到達値の確率分布で確率が最大となる最終到達値に基づいてエタノールガスのガス濃度を推定するガス濃度推定部46と、最終到達値確率分布推定部42で推定された最終到達値の確率分布に基づいて、呼気中に基準値以上のエタノールガスが存在するか否かを判定するガス有無判定部48と、ガス濃度推定部46の推定結果及びガス有無判定部48の判定結果を表示装置26に表示するように制御する表示制御部50と、ガス有無判定部48の判定結果に基づいて、スピーカ28から警報を出力するように制御する出力部52とを含んだ構成で表すことができる。
【0031】
次に、図4を参照して、第1の実施の形態におけるガス検出処理ルーチンについて説明する。本ルーチンは、ROMに記憶されたガス検出プログラムをCPUが実行することにより行われる。
【0032】
ステップ100で、アルコールセンサ24のヒータをオンし、アルコールセンサ24から出力される検出値の取得を開始する。
【0033】
次に、ステップ102で、呼気が導入され続けた場合に、検出値が最終的に到達する値(最終到達値)の確率分布を推定する。以下にその具体的方法について説明する。
【0034】
アルコールセンサ24の応答特性式として、アルコールセンサ24の検出値が変化し始めた時刻をt=0としたときの時刻tにおける検出値f(t)を、パラメータa、b、及びcを用いて、下記(1)式のようにモデル化する。
【0035】
【数2】

【0036】
上記(1)式においてt→∞(呼気が導入され続けた場合)とすると、検出値f(t)の値は、パラメータaに収束する。すなわち、パラメータaが検出値の最終到達値であり、パラメータa、b、及びcを推定することにより、最終到達値を推定することができる。
【0037】
ここでは、ベイズフィルタの一種であるパーティクルフィルタを用いて上記パラメータa、b、及びcを推定する場合について説明する。
【0038】
時刻t=tでのパーティクルi(i=1、2、・・・、M:Mはパーティクルの数(例えば1000個))の状態xを、状態xにおける各パラメータを用いて下記(2)式のように表す。
【0039】
【数3】

【0040】
時刻t=tにおけるアルコールセンサ24の検出値をzとする。また、状態xにおいて、検出値zを観測する確率P(z|x)は、下記(3)式の平均f、分散σ=[0.001,0.25,0.05]の正規分布N(f,σ)に従うとする。
【0041】
【数4】

【0042】
さらに、状態xt−1の後に状態xが観測される確率P(x|xt−1)は、平均xt−1、分散σ=[0.002,0.05,0.01]の正規分布N(xt−1,σ)に従うとする。
【0043】
このとき、下記のアルゴリズムを計算することにより、状態xの確率分布P(x|z)を推定する。ただし、時刻t=0における確率分布P(x|z)は一様分布であり、t=0におけるパーティクルは、0<a<0.2、0<b<5.0、0<c<1.0の範囲でパラメータ空間に均等に存在するとする。
【0044】
I. M個全てのパーティクルについて下記の処理を行う。
【0045】
i 確率分布P(x|xt−1)に比例する確率でランダムにパーティクルiを1つ選択する。
【0046】
ii パーティクルiにおける重みw=P(z|x)を計算する。
【0047】
II. M個のパーティクルの中から重複を許して、重みwに比例する確率でM個のパーティクルを選択する。
【0048】
III.状態xの確率分布P(x|z)は、微小区間[x−Δx,x+Δx]におけるパーティクルの密度として近似する。
【0049】
上記アルゴリズムを各時刻において計算することにより、現時刻における状態xの確率分布P(x|z)が推定される。最終的に推定する状態xの確率分布P(x|z)は、例えば、アルコールセンサ24の検出値がピーク値となる時刻における状態xの確率分布P(x|z)とすることができる。
【0050】
次に、ステップ104で、上記ステップ102で推定された状態xの確率分布P(x|z)に基づき、確率が最大となる状態xmaxを選択する。状態xmaxにおける各パラメータは、(2)式より、下記(4)式となり、検出値の最終到達値は、amaxとなる。
【0051】
【数5】

このamaxを用いて下記(5)式により、アルコールセンサ24の検出値の最終到達値をエタノールガスのガス濃度Eに変換する。
【0052】
【数6】

【0053】
ここで、lnは自然対数、Eはエタノールガスのガス濃度、及びkは予め算出された検出値濃度変換係数である。
【0054】
次に、ステップ106で、上記ステップ104で推定されたガス濃度E、及びそのガス濃度となる確率を表示装置26に表示する。そのガス濃度となる確率は、上記ステップ104で検出値の最終到達値amaxを推定した際に用いた最大の確率である。なお、推定されたガス濃度E、及びそのガス濃度となる確率をスピーカ28から音声出力するようにしてもよい。
【0055】
次に、ステップ108で、上記ステップ102で推定された検出値の最終到達値の確率分布において、呼気に基準値以上のエタノールガスが含まれているか否かを判定するための基準値Thを超えている面積率Pを算出する。例えば、図5に示すような最終到達値の確率分布の場合、確率分布を示す曲線で囲まれた全体の面積の中における、図中斜線部の面積率を算出する。基準値Thは、呼気にエタノールガスが含まれていると判定されるときのエタノール濃度の値を、上記(5)式に基づいてアルコールセンサ24の検出値に換算した値として予め定めておく。
【0056】
次に、ステップ110で、上記ステップ108で算出された面積率Pが判定閾値Ptha以上か否かを判定する。判定閾値Pthaは、基準値Thを超えている確率がどの程度であるかを示す指標であり、例えば、Ptha=0.8のような値を予め定めておく。P≧Pthaの場合には、ステップ112へ進んで、スピーカ28からブザー音やメッセージなどの警報を出力して処理を終了する。P<Pthaの場合には、そのまま終了する。なお、表示装置26に警報メッセージを表示するようにしてもよい。
【0057】
以上説明したように、第1の実施の形態のエタノール濃度検出装置によれば、アルコールセンサの検出値の最終到達値の確率分布を推定するため、最終到達値を変換して推定されたガス濃度の値を知ることができるだけでなく、そのガス濃度がどの程度の精度で推定された値であるかということも把握することができ、ガス濃度の推定結果の提示や、推定結果を用いたガス有無の判定の信頼性が向上する。
【0058】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一の構成及び処理については、同一符号を付して説明を省略する。
【0059】
第1の実施の形態のエタノール濃度検出装置では、アルコールセンサの検出値の最終到達値の確率分布を推定する場合について説明したが、第2の実施の形態では、最終到達値をガス濃度に変換し、ガス濃度の確率分布を推定する点が、第1の実施の形態とは異なっている。
【0060】
図6に示すように、第2の実施の形態に係るエタノール濃度推定装置210は、アルコールセンサ24、表示装置26、及びスピーカ28に接続され、かつ、エタノールガスの濃度を検出するエタノール濃度検出器230を備えている。エタノール濃度検出器230は、検出値格納部40に格納された検出値とアルコールセンサ24の応答特性式とに基づいて、ガス濃度の確率分布を推定するガス濃度確率分布推定部44と、ガス濃度確率分布推定部44で推定されたガス濃度の確率分布で確率が最大となるときの値をガス濃度として推定するガス濃度推定部246と、ガス濃度確率分布推定部44で推定されたガス濃度の確率分布に基づいて、呼気中に基準値以上のガスが存在するか否かを判定するガス有無判定部248とを含んだ構成で表すことができる。
【0061】
次に、図7を参照して、第2実施の形態におけるガス検出処理ルーチンについて説明する。本ルーチンは、ROMに記憶されたガス検出プログラムをCPUが実行することにより行われる。
【0062】
ステップ100で、アルコールセンサ24のヒータをオンし、アルコールセンサ24から出力される検出値の取得を開始する。
【0063】
次に、ステップ300で、呼気に含まれるエタノールガスのガス濃度の確率分布を推定する。第1の実施の形態と同様に推定した最終到達値の確率分布を、上記(5)式に基づいて変換し、この変換された確率分布をガス濃度の確率分布として推定する。
【0064】
次に、ステップ302で、上記ステップ300で推定されたガス濃度の確率分布に基づき、確率が最大となる値を、エタノールガスのガス濃度Eとして推定する。次に、ステップ106で、上記ステップ302で推定されたガス濃度E、及びそのガス濃度となる確率を表示装置26に表示する。
【0065】
次に、ステップ306で、上記ステップ300で推定されたガス濃度の確率分布において、呼気に基準値以上のエタノールガスが含まれているか否かを判定するための基準値Thを超えている面積率Pを算出する。例えば、図8に示すようなガス濃度の確率分布の場合、確率分布を示す曲線で囲まれた全体の面積の中における、図中斜線部の面積率を算出する。基準値Thは、呼気にエタノール成分が含まれていると判定されるときのエタノール濃度の値(例えば、0.15mg)を予め定めておく。
【0066】
次に、ステップ308で、上記ステップ306で算出された面積率Pが判定閾値PthE以上か否かを判定する。判定閾値PthEは、基準値Thを超えている確率がどの程度であるかを示す指標であり、例えば、PthE=0.8のような値を予め定めておく。P≧PthEの場合には、ステップ112へ進んで、スピーカ28からブザー音やメッセージなどの警報を出力して処理を終了する。P<PthEの場合には、そのまま終了する。
【0067】
以上説明したように、第2の実施の形態のエタノール濃度検出装置によれば、エタノールガスのガス濃度の確率分布を推定するため、ガス濃度の値を知ることができるだけでなく、そのガス濃度がどの程度の精度で推定された値であるかということも把握することができ、ガス濃度の推定結果の提示や、推定結果を用いたガス有無の判定の信頼性が向上する。
【0068】
なお、上記の実施の形態では、最終到達値またはガス濃度の確率分布を推定する際にパーティクルフィルタを用いたが、これに限定されるものではない。例えば、下記のように拡張カルマンフィルタを用いても同様に確率分布を推定することができる。
【0069】
下記(8)式で表される系において、状態xを推定する。
【0070】
【数7】

【0071】
ここで、xは時刻kにおける状態、uは制御入力、wは平均ゼロ、共分散行列Qの正規分布に従う時間遷移に関するノイズ、zは観測量、及びvは平均ゼロ、共分散行列Rの正規分布に従う観測ノイズである。このとき、下記の手順に従い値を予測、更新していくことにより状態を推定する。
【0072】
【数8】

ただし、
【0073】
【数9】

【0074】
本実施の形態において、
【0075】
【数10】

とすることにより、パラメータa、b、及びcを推定することができる。
【0076】
また、上記の実施の形態では、最終到達値またはガス濃度の確率分布において確率が最大となる値を用いてガス濃度を推定する場合について説明したが、期待値を用いてガス濃度を推定するようにしてもよい。
【0077】
また、上記の実施の形態では、呼気中のエタノールガスの有無により警報を行う場合について説明したが、呼気中にエタノールガスが含まれていると判定された場合に、エンジンが始動できないようにする等の不正ができないように制御するようにしてもよい。
【0078】
また、上記の実施の形態では、ドライバの呼気からエタノールを検出する場合について説明したが、エタノール濃度検出装置を携帯可能に構成する等により、本発明をドライバ以外の人間の呼気からエタノールを検出する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
10、210 エタノール濃度検出装置
24 アルコールセンサ
26 表示装置
28 スピーカ
30、230 エタノール濃度検出器
40 検出値格納部
42 最終到達値確率分布推定部
44 ガス濃度確率分布推定部
46、246 ガス濃度推定部
48、248 ガス有無判定部
50 表示制御部
52 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度に関連する物理量を検出して検出値を出力するガス検出手段と、
前記ガス検出手段の応答特性を表し、かつ前記検出値が該応答特性に応じて最終的に到達する最終到達値を示す係数を含む応答特性式を用い、前記応答特性式の値が前記検出値になる確率で表され、かつ値が異なる前記係数毎に算出した確率で表される確率分布を算出する算出手段と、
前記算出手段で算出された確率分布を、前記最終到達値の確率分布として推定する最終到達値確率分布推定手段と、
を含むガス検出装置。
【請求項2】
前記最終到達値確率分布推定手段で推定された前記最終到達値の確率分布に基づいて、確率が最大のときの最終到達値または期待値に対応する最終到達値に予め定めた値を乗算した値を、前記検出対象ガスの濃度として推定するガス濃度推定手段を含む請求項1記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記最終到達値確率分布推定手段で推定された前記最終到達値の確率分布において、予め定めた基準値を超える最終到達値の確率が予め定めた閾値以上の場合に、前記検出対象の気体中に前記検出対象ガスが含まれていると判定する判定手段を含む請求項1または請求項2記載のガス検出装置。
【請求項4】
検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度に関連する物理量を検出して検出値を出力するガス検出手段と、
前記ガス検出手段の応答特性を表し、かつ前記検出値が該応答特性に応じて最終的に到達する最終到達値を示す係数を含む応答特性式を用い、前記応答特性式の値が前記検出値になる確率で表され、かつ値が異なる前記係数毎に算出した確率で表される確率分布を算出する算出手段と、
前記算出手段で算出された確率分布を、前記係数に予め定めた値を乗算した前記検出対象ガスの濃度を示す値毎の確率で表される確率分布に変換し、変換された確率分布を前記検出対象ガスの濃度の確率分布として推定するガス濃度確率分布推定手段と、
を含むガス検出装置。
【請求項5】
前記ガス濃度確率分布推定手段で推定された前記検出対象ガスの濃度の確率分布に基づいて、確率が最大のときの値または期待値に対応する値を前記検出対象ガスの濃度として推定するガス濃度推定手段を含む請求項4記載のガス検出装置。
【請求項6】
前記ガス濃度確率分布推定手段で推定された前記検出対象ガスの濃度の確率分布において、予め定めた基準値を超える濃度の確率が予め定めた閾値以上の場合に、前記検出対象の気体中に前記検出対象ガスが含まれていると判定する判定手段を含む請求項4または請求項5記載のガス検出装置。
【請求項7】
前記ガス検出手段の応答特性式を、以下の式で表した請求項1〜請求項6のいずれか1項記載のガス検出装置。
【数1】

ただし、aは、前記最終到達値を示す係数、b及びcは、係数である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−223587(P2010−223587A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67848(P2009−67848)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】