ガス検出装置
【課題】簡易な構成で、プロトン伝導膜の含水量に応じたガスの検出感度を推定することができるようにする。
【解決手段】ポテンショスタット22によって、アノード電極16及びカソード電極18の間に所定の直流電圧を印加すると共に、アノード電極16及びカソード電極18の間に流れる電流量を計測する。コンピュータ24によって、ポテンショスタット22によって計測された電流量に基づいて、プロトン伝導膜14の含水量に応じた感度係数を推定する。コンピュータ24によって、アノード電極16に検出対象ガスが供給されているときにポテンショスタット22によって計測された電流量に基づいて、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度を検出する。
【解決手段】ポテンショスタット22によって、アノード電極16及びカソード電極18の間に所定の直流電圧を印加すると共に、アノード電極16及びカソード電極18の間に流れる電流量を計測する。コンピュータ24によって、ポテンショスタット22によって計測された電流量に基づいて、プロトン伝導膜14の含水量に応じた感度係数を推定する。コンピュータ24によって、アノード電極16に検出対象ガスが供給されているときにポテンショスタット22によって計測された電流量に基づいて、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出装置に係り、特に、燃料電池を用いて検出対象ガスを検出するガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池を用いたアルコール検出器(カナダ Alcohol Countermeasure System社製)が知られている(例えば、非特許文献1)。このアルコール検出器では、プロトン伝導膜として硫酸を含浸させたポリマー膜を使用している。このアルコール検出器では、水のように揮発しない硫酸を用いることで、膜の経時変化を抑えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】" ALERT J4X.ec Portable Breath Alcohol Tester "、[online]、[平成23年6月14日検索]、インターネット<URL: http://www.acs-corp.com/index.cfm?id=6224 >
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の非特許文献1に記載のアルコール検出器では、現在の燃料電池技術で主に使われているフッ素系ポリマー方式に比べてプロトン伝導性が低く、センサとしての感度が低い、という問題がある。また、プロトン伝導膜としてフッ素系ポリマーを用いた燃料電池を用いた場合であっても、プロトン伝導膜の含水量が減少することにより、感度が低下してしまう、という問題点がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解消するためになされたもので、簡易な構成で、プロトン伝導膜の含水量に応じたガスの検出感度を推定することができるガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のガス検出装置は、プロトン伝導膜の一方の面にアノード電極を設け、前記プロトン伝導膜の他方の面にカソード電極を設けた燃料電池と、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に流れる電流量を計測する電流計測手段と、前記電流計測手段によって計測された第1の電流量に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する感度推定手段と、前記アノード電極に検出対象ガスが供給されているときに前記電流計測手段によって計測された第2の電流量に基づいて、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度を検出するガス検出手段と、を含んで構成されている。
【0007】
本発明によれば、電流計測手段によって、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に流れる電流量を計測する。
【0008】
そして、感度推定手段によって、前記電流計測手段によって計測された第1の電流量に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する。ガス検出手段によって、前記アノード電極に検出対象ガスが供給されているときに前記電流計測手段によって計測された第2の電流量に基づいて、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度を検出する。
【0009】
このように、検出対象ガスの濃度を検出するために計測される、燃料電池の両面に設けられたアノード電極及びカソード電極の間に流れる電流量に基づいて、プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定することにより、簡易な構成で、プロトン伝導膜の含水量に応じたガスの検出感度を推定することができる。
【0010】
本発明に係る感度推定手段は、前記電流計測手段によって計測された前記第1の電流量に基づいて、前記アノード電極、前記カソード電極、及び前記プロトン伝導膜で構成されるキャパシタの静電容量、前記キャパシタの比誘電率、又は電流積分値を算出し、前記算出した前記静電容量、前記比誘電率、又は前記電流積分値に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定するようにすることができる。
【0011】
本発明に係る感度推定手段は、前記電流計測手段によって計測された前記第1の電流量に基づいて、前記アノード電極、前記カソード電極、及び前記プロトン伝導膜の抵抗値を算出し、前記算出した前記抵抗値に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定するようにすることができる。
【0012】
本発明に係るガス検出手段は、前記感度推定手段によって推定された前記感度係数と、前記第2の電流量とに基づいて、前記検出対象ガスの濃度を検出するようにすることができる。これによって、ガスの検出感度が低下しても、検出対象ガスの濃度を精度良く検出することができる。
【0013】
本発明に係る電流計測手段は、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記第1の電流量を計測し、前記第1の電流量を計測した後に、前記第2の電流量を計測し、前記ガス検出手段は、前記感度推定手段によって前記第1の電流量に基づいて推定された前記感度係数と、前記計測された前記第2の電流量とに基づいて、前記検出対象ガスの濃度を検出するようにすることができる。これによって、検出対象ガスの濃度を検出する度に、感度係数を推定するため、検出対象ガスの濃度を精度良く検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、検出対象ガスの濃度を検出するために計測される、燃料電池の両面に設けられたアノード電極及びカソード電極の間に流れる電流量に基づいて、プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定することにより、簡易な構成で、プロトン伝導膜の含水量に応じたガスの検出感度を推定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態のガス検出装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態のガス検出装置のコンピュータ概略構成を示すブロック図である。
【図3】(A)ポテンショスタットにより印加される直流電圧の変化を示すグラフ、(B)ポテンショスタットにより計測される電流量の変化を示すグラフ、及び(C)分析ガスの濃度の変化を示すグラフである。
【図4】燃料電池の等価回路を示す図である。
【図5】抵抗R及び比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を示すテーブルを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態のガス検出装置におけるガス濃度推定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図7】抵抗Rと感度係数PSCとの関係を示すグラフである。
【図8】比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、プロトン伝導に使用するプロトン伝導膜を用いた固体分子型の燃料電池をセンサとして使用して、ドライバの呼気からアルコールの濃度を検出するガス検出装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0017】
本発明の第1の実施の形態に係るガス検出装置10は、運転席に設けられたステアリングコラム(図示省略)の、ドライバの呼気が到達可能な位置に取り付けられている。図1に示すように、ガス検出装置10は、先端部に吸い込み口が形成された細長円筒状の分析ガス供給ライン12を備えている。
【0018】
ガス検出装置10は、プロトン伝導膜14の一方の面にアノード電極16、他方の面にカソード電極18を設けた固体高分子型燃料電池20を備えている。分析ガス供給ライン12の吸い込み口とは反対側の開口部は、アノード電極16に向けられており、分析ガス供給ライン12によって、吸い込み口から吸い込まれた分析対象ガス(ドライバの呼気)が、アノード電極16に供給される。
【0019】
また、ガス検出装置10は、アノード電極16とカソード電極18との間に所定の直流電圧を印加し、その時にアノード電極16とカソード電極18との間に流れる電流量を計測するポテンショスタット22と、ポテンショスタット22から出力される電圧値及び電流量に基づいて、分析ガス濃度を推定するコンピュータ24と、コンピュータ24の演算結果を出力する出力装置26とを備えている。なお、ポテンショスタット22が、電流計測手段の一例である。
【0020】
ポテンショスタット22は、コンピュータ24により指定された電圧値を印加するように必要な電流量を流すと共に、そのときの電圧波形および電流波形を計測結果として出力する。
【0021】
なお、本実施の形態では、分析ガス供給時にアノード電極16とカソード電極18との間に正電圧を印加することにより、分析対象ガス中のアルコールの反応能力を上げる方式(限界電流方式)を用いる。
【0022】
コンピュータ24は、ガス検出装置10全体の制御を司るCPU、後述するガス濃度推定処理ルーチンを実行するためのプログラム等の各種プログラム等を記憶した記憶媒体としてのROM、ワークエリアとしてデータを一時格納するRAM、及びこれらを接続するバスを含むマイクロコンピュータで構成することができる。
【0023】
図2に示すように、コンピュータ24は、ポテンショスタット22により印加される電圧を制御するための電圧制御部30と、ポテンショスタット22の出力を取得するデータ取得部32と、ポテンショスタット22の出力に基づいて、燃料電池20に関する各種の値を算出するデータ算出部34と、データ算出部34の算出結果に基づいて、燃料電池20の感度係数を推定する感度推定部36と、ポテンショスタット22の出力に基づいて、分析ガス供給時のピーク電流量を算出するピーク電流量算出部38と、ピーク電流量及び燃料電池20の感度係数に基づいて、分析ガス(呼気)中のアルコールガスの濃度を算出して、出力装置26に表示するガス濃度推定部40とを備えている。なお、ガス濃度推定部40が、ガス検出手段の一例である。
【0024】
電圧制御部30は、非計測時にポテンショスタット22により電圧V0を印加するように制御し、計測を開始すると、ポテンショスタット22により印加される電圧をV0から正電圧V1に上昇させるように制御する。
【0025】
データ取得部32は、計測を開始すると、ポテンショスタット22により出力される電圧波形及び電流波形を取得する。
【0026】
ここで、本実施の形態のガス検出装置10における燃料電池20の感度係数算出の原理について説明する。図3は、燃料電池20の感度係数を算出した後にガス濃度を推定する場合に、ポテンショスタット22により計測されるアノード電極16とカソード電極18との間の電圧波形(図3(A)参照)、電流波形(図3(B)参照)、分析ガス濃度の変化(図3(C)参照)を示している。
【0027】
まず、プロトン伝導膜14、アノード電極16、及びカソード電極18からなる固体高分子型の燃料電池20を、図4に示すような、抵抗Rの抵抗器と静電容量Cのキャパシタを並列に接続した等価回路で表わすものとする。抵抗器の抵抗Rは、プロトン伝導膜14、アノード電極16、及びカソード電極18全体の抵抗値に相当し、キャパシタの静電容量Cは、プロトン伝導膜14、アノード電極16、及びカソード電極18で構成されるキャパシタの静電容量に相当する。このとき、アノード電極16とカソード電極18との間の電圧をV0からV1に切り替える時刻をt0、アノード電極16とカソード電極18との間を流れる電流量が安定する時刻(過渡応答による変化がなくなる時刻)をt1(t0<t1)とし、時刻tにおけるアノード電極16とカソード電極18との間の電位差をv(t)、アノード電極16とカソード電極18との間を流れる電流量をi(t)とする。オームの法則により、抵抗Rは、以下の(1)式、(2)式、または(3)式のように求められる。また、静電容量Cは、以下の(4)式のように求められる。
【0028】
【数1】
【0029】
さらに、静電容量Cは、アノード電極16及びカソード電極18の面積S、アノード電極16とカソード電極18との間の距離d、真空の誘電率ε0、及びプロトン伝導膜14の比誘電率εrを用いて、以下の(5)式のように表される。
【0030】
【数2】
【0031】
また、上記(4)式及び(5)式より、比誘電率εrは、以下の(6)式のように求められる。
【0032】
【数3】
【0033】
本実施の形態では、データ算出部34によって、ポテンショスタット22により印加される電圧をV0から正電圧V1に上げたときに取得された電圧波形及び電流波形に基づいて、上記(1)式、(2)式、又は(3)式に従って、抵抗Rを算出する。また、データ算出部34は、過渡応答による変化がなくなるまでの電圧値及び電流量を用いて、上記(6)式に従って、比誘電率εrを算出する。
【0034】
また、分析ガス供給開始時刻t2から分析ガス供給終了時刻t3の間に、電流i(t)がピークとなる時刻をtp(t2≦tp≦t3)とするとき、プロトン伝導膜14の含水率が100%の時のi(tp)と分析ガス中のアルコール濃度CGASとの関係を記述する関数をF100(i(tp))とすると、以下の(7)式が成り立つ。
【0035】
【数4】
【0036】
ただし、実際にはプロトン伝導膜14の含水率が時間の経過と共に低下する。ここで、含水量の変化に伴う感度変化を表す感度係数をPSC(0≦PSC≦1、含水率が100%のときPSC=1)とすると、アルコール濃度CGASは、以下の(8)式のように表される。
【0037】
【数5】
【0038】
ここで、プロトン伝導膜14の含水率が低下すると、プロトン伝導膜14の抵抗R及び比誘電率εrは増加する。このため、感度係数PSCは、抵抗R及び比誘電率εrの関数g(R、εr)で表すことができる。または、関数g(R、εr)に基づいて与えられる図5に示すような抵抗R及び比誘電率εrと感度係数PSCの関係を表すテーブルにより、抵抗R及び比誘電率εrから感度係数PSCを推定することも可能である。
【0039】
そこで、本実施の形態では、感度推定部36によって、データ算出部34により算出された抵抗R及び比誘電率εrと、予め求められた抵抗R及び比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を表すテーブルとに基づいて、感度係数PSCを推定する。
【0040】
ピーク電流量算出部38は、分析ガス(ドライバの呼気)が供給されているときに取得された電流波形に基づいて、ピーク電流量i(tp)を算出する。
【0041】
ガス濃度推定部40は、算出されたピーク電流量i(tp)と、推定された感度係数PSCとに基づいて、上記(8)式に従って、分析ガス中のアルコール濃度を算出し、算出されたアルコール濃度を、出力装置26に表示するように制御する。
【0042】
次に、図6を参照して、本実施の形態におけるガス濃度推定処理ルーチンについて説明する。本ルーチンは、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することにより行われる。
【0043】
ステップ100で、ポテンショスタット22により印加される直流電圧の電圧値を、V0からV1に変更するように制御する。
【0044】
そして、ステップ102で、ポテンショスタット22から、過渡応答が安定するまでの予め定められた所定期間分の電圧波形及び電流波形を取得する。次のステップ104では、上記ステップ102で取得した電圧波形及び電流波形に基づいて、燃料電池20の等価回路における抵抗値R及びキャパシタの比誘電率εrを算出する。
【0045】
そして、ステップ106において、上記ステップ104で算出した抵抗値R及び比誘電率εrに基づいて、感度係数を推定する。
【0046】
次のステップ108では、ドライバに対して呼気を吹きかけるように指示するメッセージを出力装置26に表示するように制御する。これによって、ドライバが、分析ガス供給ライン12の吸い込み口に呼気を吹きかけ、ドライバの呼気が、アノード電極16に供給される。
【0047】
そして、ステップ110では、ポテンショスタット22から、上記ステップ108で表示したメッセージに応じたドライバの呼気が吹きかけられているときの予め定められた所定期間分の電流波形を取得する。次のステップ112では、上記ステップ110で取得した電流波形に基づいて、ピーク電流量を算出する。
【0048】
そして、ステップ114において、上記ステップ106で推定した感度係数、及び上記ステップ112で算出したピーク電流量に基づいて、アルコール濃度を推定する。次に、ステップ116で、上記ステップ114の推定結果を出力装置26に表示して処理を終了する。
【0049】
以上説明したように、第1の実施の形態に係るガス検出装置によれば、アルコールガスの濃度を検出するために計測される、燃料電池の両面に設けられたアノード電極及びカソード電極の間に流れる電流量に基づいて、プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定することにより、特別な構成を付加することなく、簡易な構成で、プロトン伝導膜の含水量に応じたガスの検出感度を推定することができる。
【0050】
また、アルコールガスの濃度を検出する度に、まず、感度係数を推定するため、アルコールガスの濃度を安定して精度良く検出することができる。
【0051】
また、プロトン伝導膜を用いた燃料電池の感度が、プロトン伝導膜の含水量低下により低下した場合であっても、感度補正を行うことが可能になり、長期間安定して計測できる高感度なアルコール検出装置を実現することができる。
【0052】
また、高感度なプロトン伝導膜を用いた燃料電池を使用するため、吹きかけ式でも十分な感度を有するアルコール検出装置が実現可能になる。
【0053】
また、プロトン伝導膜の含水率が低下し、固体高分子型燃料電池のセンサとしての感度が低下した場合であっても、プロトン伝導膜の等価回路の抵抗R及び比誘電率εrより感度を推定することができるため、アルコール濃度の計測精度向上、センサの長寿命化、センサの交換時期の診断等、固体高分子型の燃料電池を用いたアルコールセンサの実現に不可欠な効果を得ることができる。
【0054】
なお、上記の実施の形態では、抵抗R及び比誘電率εrを用いて感度係数PSCを推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。本実施の形態では、アノード電極16及びカソード電極18の面積S、アノード電極16とカソード電極18との間の距離dは一定であるため、比誘電率εrを静電容量Cに置き換えて、抵抗R及び静電容量Cの関係を示す関数g(R、C)又はテーブルに基づいて、感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0055】
さらに、電圧V0及びV1を固定値とすることにより、以下の(9)式に示す電流の積分値Iは、静電容量Cに比例する。
【0056】
【数6】
【0057】
このことから、比誘電率εrまたは静電容量Cを電流積分値Iに置き換えて、抵抗R及び電流積分値Iの関係を示す関数g(R、I)又はテーブルに基づいて、感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0058】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態に係るガス検出装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0059】
第2の実施の形態では、燃料電池の等価回路における抵抗値のみを求めて、感度係数を推定している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0060】
第2の実施の形態に係るガス検出装置では、データ算出部34によって、ポテンショスタット22により取得された電圧波形及び電流波形に基づいて、上記(1)式、(2)式、又は(3)式に従って、抵抗Rを算出する。
【0061】
感度推定部36は、データ算出部34により算出された抵抗Rと、図7に示すような、抵抗Rと感度係数PSCとの関係を表わす予め求められた関数gR(R)とに基づいて、感度係数PSCを推定する。
【0062】
なお、第2の実施の形態に係るガス検出装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
なお、上記の実施の形態では、抵抗Rと感度係数PSCとの関係を表わす関数gR(R)を用いて、感度係数PSCを推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。関数gR(R)に基づいて与えられる抵抗Rと感度係数PSCの関係を表すテーブルにより、抵抗Rから感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0064】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第3の実施の形態に係るガス検出装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
第3の実施の形態では、燃料電池の等価回路における抵抗の存在を無視して、キャパシタの比誘電率のみを求めて、感度係数を推定している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0066】
燃料電池20の等価回路において、抵抗Rの存在を無視すると、上記(4)式は、以下の(10)式のように記述され、上記(6)式は、以下の(11)式のように記述される。
【0067】
【数7】
【0068】
そこで、第3の実施の形態に係るガス検出装置では、データ算出部34によって、ポテンショスタット22により印加される電圧をV0から正電圧V1に上げたときに取得された電圧波形及び電流波形から、過渡応答による変化がなくなるまでの電圧値及び電流量を用いて、上記(11)式に従って、比誘電率εrを算出する。
【0069】
感度推定部36は、データ算出部34により算出された比誘電率εrと、図8に示すような、比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を表わす予め求められた関数gC(εr)とに基づいて、感度係数PSCを推定する。
【0070】
なお、第3の実施の形態に係るガス検出装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0071】
なお、上記の実施の形態では、比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を表わす関数gC(εr)を用いて、感度係数PSCを推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。関数gC(εr)に基づいて与えられる比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を表すテーブルにより比誘電率εrから感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0072】
また、本実施の形態では、アノード電極16及びカソード電極18の面積S、アノード電極16及びカソード電極18の間の距離dは一定であるため、比誘電率εrを静電容量Cに置き換えて、同様の方法で感度係数PSCを推定するようにしてもよい。さらに、電圧V0及びV1を固定値とすることにより、以下の(12)式に示す電流の積分値Iは静電容量Cに比例する。
【0073】
【数8】
【0074】
このことから、比誘電率εrまたは静電容量Cを電流積分値Iに置き換えて、電流積分値Iと感度係数PSCとの関係を示す関数又はテーブルに基づいて、感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0075】
また、上記の第1の実施の形態〜第3の実施の形態において、算出された呼気中のアルコールの濃度を表示する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、算出したアルコールの濃度と予め定めた閾値とを比較し、算出したアルコールの濃度が閾値以上の場合に、エンジンが始動できないように制御することにより、飲酒運転予防のための安全システムを実現してもよい。
【0076】
また、上記の実施の形態では、ドライバの呼気から分析対象ガスを検出する場合について説明したが、ガス検出装置を携帯可能に構成する等により、本発明をドライバ以外の人間の呼気から分析対象ガスを検出する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 ガス検出装置
12 分析ガス供給ライン
14 プロトン伝導膜
16 アノード電極
18 カソード電極
20 燃料電池
22 ポテンショスタット
24 コンピュータ
30 電圧制御部
32 データ取得部
34 データ算出部
36 感度推定部
38 ピーク電流量算出部
40 ガス濃度推定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出装置に係り、特に、燃料電池を用いて検出対象ガスを検出するガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池を用いたアルコール検出器(カナダ Alcohol Countermeasure System社製)が知られている(例えば、非特許文献1)。このアルコール検出器では、プロトン伝導膜として硫酸を含浸させたポリマー膜を使用している。このアルコール検出器では、水のように揮発しない硫酸を用いることで、膜の経時変化を抑えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】" ALERT J4X.ec Portable Breath Alcohol Tester "、[online]、[平成23年6月14日検索]、インターネット<URL: http://www.acs-corp.com/index.cfm?id=6224 >
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の非特許文献1に記載のアルコール検出器では、現在の燃料電池技術で主に使われているフッ素系ポリマー方式に比べてプロトン伝導性が低く、センサとしての感度が低い、という問題がある。また、プロトン伝導膜としてフッ素系ポリマーを用いた燃料電池を用いた場合であっても、プロトン伝導膜の含水量が減少することにより、感度が低下してしまう、という問題点がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解消するためになされたもので、簡易な構成で、プロトン伝導膜の含水量に応じたガスの検出感度を推定することができるガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のガス検出装置は、プロトン伝導膜の一方の面にアノード電極を設け、前記プロトン伝導膜の他方の面にカソード電極を設けた燃料電池と、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に流れる電流量を計測する電流計測手段と、前記電流計測手段によって計測された第1の電流量に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する感度推定手段と、前記アノード電極に検出対象ガスが供給されているときに前記電流計測手段によって計測された第2の電流量に基づいて、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度を検出するガス検出手段と、を含んで構成されている。
【0007】
本発明によれば、電流計測手段によって、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に流れる電流量を計測する。
【0008】
そして、感度推定手段によって、前記電流計測手段によって計測された第1の電流量に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する。ガス検出手段によって、前記アノード電極に検出対象ガスが供給されているときに前記電流計測手段によって計測された第2の電流量に基づいて、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度を検出する。
【0009】
このように、検出対象ガスの濃度を検出するために計測される、燃料電池の両面に設けられたアノード電極及びカソード電極の間に流れる電流量に基づいて、プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定することにより、簡易な構成で、プロトン伝導膜の含水量に応じたガスの検出感度を推定することができる。
【0010】
本発明に係る感度推定手段は、前記電流計測手段によって計測された前記第1の電流量に基づいて、前記アノード電極、前記カソード電極、及び前記プロトン伝導膜で構成されるキャパシタの静電容量、前記キャパシタの比誘電率、又は電流積分値を算出し、前記算出した前記静電容量、前記比誘電率、又は前記電流積分値に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定するようにすることができる。
【0011】
本発明に係る感度推定手段は、前記電流計測手段によって計測された前記第1の電流量に基づいて、前記アノード電極、前記カソード電極、及び前記プロトン伝導膜の抵抗値を算出し、前記算出した前記抵抗値に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定するようにすることができる。
【0012】
本発明に係るガス検出手段は、前記感度推定手段によって推定された前記感度係数と、前記第2の電流量とに基づいて、前記検出対象ガスの濃度を検出するようにすることができる。これによって、ガスの検出感度が低下しても、検出対象ガスの濃度を精度良く検出することができる。
【0013】
本発明に係る電流計測手段は、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記第1の電流量を計測し、前記第1の電流量を計測した後に、前記第2の電流量を計測し、前記ガス検出手段は、前記感度推定手段によって前記第1の電流量に基づいて推定された前記感度係数と、前記計測された前記第2の電流量とに基づいて、前記検出対象ガスの濃度を検出するようにすることができる。これによって、検出対象ガスの濃度を検出する度に、感度係数を推定するため、検出対象ガスの濃度を精度良く検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、検出対象ガスの濃度を検出するために計測される、燃料電池の両面に設けられたアノード電極及びカソード電極の間に流れる電流量に基づいて、プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定することにより、簡易な構成で、プロトン伝導膜の含水量に応じたガスの検出感度を推定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態のガス検出装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態のガス検出装置のコンピュータ概略構成を示すブロック図である。
【図3】(A)ポテンショスタットにより印加される直流電圧の変化を示すグラフ、(B)ポテンショスタットにより計測される電流量の変化を示すグラフ、及び(C)分析ガスの濃度の変化を示すグラフである。
【図4】燃料電池の等価回路を示す図である。
【図5】抵抗R及び比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を示すテーブルを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態のガス検出装置におけるガス濃度推定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図7】抵抗Rと感度係数PSCとの関係を示すグラフである。
【図8】比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、プロトン伝導に使用するプロトン伝導膜を用いた固体分子型の燃料電池をセンサとして使用して、ドライバの呼気からアルコールの濃度を検出するガス検出装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0017】
本発明の第1の実施の形態に係るガス検出装置10は、運転席に設けられたステアリングコラム(図示省略)の、ドライバの呼気が到達可能な位置に取り付けられている。図1に示すように、ガス検出装置10は、先端部に吸い込み口が形成された細長円筒状の分析ガス供給ライン12を備えている。
【0018】
ガス検出装置10は、プロトン伝導膜14の一方の面にアノード電極16、他方の面にカソード電極18を設けた固体高分子型燃料電池20を備えている。分析ガス供給ライン12の吸い込み口とは反対側の開口部は、アノード電極16に向けられており、分析ガス供給ライン12によって、吸い込み口から吸い込まれた分析対象ガス(ドライバの呼気)が、アノード電極16に供給される。
【0019】
また、ガス検出装置10は、アノード電極16とカソード電極18との間に所定の直流電圧を印加し、その時にアノード電極16とカソード電極18との間に流れる電流量を計測するポテンショスタット22と、ポテンショスタット22から出力される電圧値及び電流量に基づいて、分析ガス濃度を推定するコンピュータ24と、コンピュータ24の演算結果を出力する出力装置26とを備えている。なお、ポテンショスタット22が、電流計測手段の一例である。
【0020】
ポテンショスタット22は、コンピュータ24により指定された電圧値を印加するように必要な電流量を流すと共に、そのときの電圧波形および電流波形を計測結果として出力する。
【0021】
なお、本実施の形態では、分析ガス供給時にアノード電極16とカソード電極18との間に正電圧を印加することにより、分析対象ガス中のアルコールの反応能力を上げる方式(限界電流方式)を用いる。
【0022】
コンピュータ24は、ガス検出装置10全体の制御を司るCPU、後述するガス濃度推定処理ルーチンを実行するためのプログラム等の各種プログラム等を記憶した記憶媒体としてのROM、ワークエリアとしてデータを一時格納するRAM、及びこれらを接続するバスを含むマイクロコンピュータで構成することができる。
【0023】
図2に示すように、コンピュータ24は、ポテンショスタット22により印加される電圧を制御するための電圧制御部30と、ポテンショスタット22の出力を取得するデータ取得部32と、ポテンショスタット22の出力に基づいて、燃料電池20に関する各種の値を算出するデータ算出部34と、データ算出部34の算出結果に基づいて、燃料電池20の感度係数を推定する感度推定部36と、ポテンショスタット22の出力に基づいて、分析ガス供給時のピーク電流量を算出するピーク電流量算出部38と、ピーク電流量及び燃料電池20の感度係数に基づいて、分析ガス(呼気)中のアルコールガスの濃度を算出して、出力装置26に表示するガス濃度推定部40とを備えている。なお、ガス濃度推定部40が、ガス検出手段の一例である。
【0024】
電圧制御部30は、非計測時にポテンショスタット22により電圧V0を印加するように制御し、計測を開始すると、ポテンショスタット22により印加される電圧をV0から正電圧V1に上昇させるように制御する。
【0025】
データ取得部32は、計測を開始すると、ポテンショスタット22により出力される電圧波形及び電流波形を取得する。
【0026】
ここで、本実施の形態のガス検出装置10における燃料電池20の感度係数算出の原理について説明する。図3は、燃料電池20の感度係数を算出した後にガス濃度を推定する場合に、ポテンショスタット22により計測されるアノード電極16とカソード電極18との間の電圧波形(図3(A)参照)、電流波形(図3(B)参照)、分析ガス濃度の変化(図3(C)参照)を示している。
【0027】
まず、プロトン伝導膜14、アノード電極16、及びカソード電極18からなる固体高分子型の燃料電池20を、図4に示すような、抵抗Rの抵抗器と静電容量Cのキャパシタを並列に接続した等価回路で表わすものとする。抵抗器の抵抗Rは、プロトン伝導膜14、アノード電極16、及びカソード電極18全体の抵抗値に相当し、キャパシタの静電容量Cは、プロトン伝導膜14、アノード電極16、及びカソード電極18で構成されるキャパシタの静電容量に相当する。このとき、アノード電極16とカソード電極18との間の電圧をV0からV1に切り替える時刻をt0、アノード電極16とカソード電極18との間を流れる電流量が安定する時刻(過渡応答による変化がなくなる時刻)をt1(t0<t1)とし、時刻tにおけるアノード電極16とカソード電極18との間の電位差をv(t)、アノード電極16とカソード電極18との間を流れる電流量をi(t)とする。オームの法則により、抵抗Rは、以下の(1)式、(2)式、または(3)式のように求められる。また、静電容量Cは、以下の(4)式のように求められる。
【0028】
【数1】
【0029】
さらに、静電容量Cは、アノード電極16及びカソード電極18の面積S、アノード電極16とカソード電極18との間の距離d、真空の誘電率ε0、及びプロトン伝導膜14の比誘電率εrを用いて、以下の(5)式のように表される。
【0030】
【数2】
【0031】
また、上記(4)式及び(5)式より、比誘電率εrは、以下の(6)式のように求められる。
【0032】
【数3】
【0033】
本実施の形態では、データ算出部34によって、ポテンショスタット22により印加される電圧をV0から正電圧V1に上げたときに取得された電圧波形及び電流波形に基づいて、上記(1)式、(2)式、又は(3)式に従って、抵抗Rを算出する。また、データ算出部34は、過渡応答による変化がなくなるまでの電圧値及び電流量を用いて、上記(6)式に従って、比誘電率εrを算出する。
【0034】
また、分析ガス供給開始時刻t2から分析ガス供給終了時刻t3の間に、電流i(t)がピークとなる時刻をtp(t2≦tp≦t3)とするとき、プロトン伝導膜14の含水率が100%の時のi(tp)と分析ガス中のアルコール濃度CGASとの関係を記述する関数をF100(i(tp))とすると、以下の(7)式が成り立つ。
【0035】
【数4】
【0036】
ただし、実際にはプロトン伝導膜14の含水率が時間の経過と共に低下する。ここで、含水量の変化に伴う感度変化を表す感度係数をPSC(0≦PSC≦1、含水率が100%のときPSC=1)とすると、アルコール濃度CGASは、以下の(8)式のように表される。
【0037】
【数5】
【0038】
ここで、プロトン伝導膜14の含水率が低下すると、プロトン伝導膜14の抵抗R及び比誘電率εrは増加する。このため、感度係数PSCは、抵抗R及び比誘電率εrの関数g(R、εr)で表すことができる。または、関数g(R、εr)に基づいて与えられる図5に示すような抵抗R及び比誘電率εrと感度係数PSCの関係を表すテーブルにより、抵抗R及び比誘電率εrから感度係数PSCを推定することも可能である。
【0039】
そこで、本実施の形態では、感度推定部36によって、データ算出部34により算出された抵抗R及び比誘電率εrと、予め求められた抵抗R及び比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を表すテーブルとに基づいて、感度係数PSCを推定する。
【0040】
ピーク電流量算出部38は、分析ガス(ドライバの呼気)が供給されているときに取得された電流波形に基づいて、ピーク電流量i(tp)を算出する。
【0041】
ガス濃度推定部40は、算出されたピーク電流量i(tp)と、推定された感度係数PSCとに基づいて、上記(8)式に従って、分析ガス中のアルコール濃度を算出し、算出されたアルコール濃度を、出力装置26に表示するように制御する。
【0042】
次に、図6を参照して、本実施の形態におけるガス濃度推定処理ルーチンについて説明する。本ルーチンは、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することにより行われる。
【0043】
ステップ100で、ポテンショスタット22により印加される直流電圧の電圧値を、V0からV1に変更するように制御する。
【0044】
そして、ステップ102で、ポテンショスタット22から、過渡応答が安定するまでの予め定められた所定期間分の電圧波形及び電流波形を取得する。次のステップ104では、上記ステップ102で取得した電圧波形及び電流波形に基づいて、燃料電池20の等価回路における抵抗値R及びキャパシタの比誘電率εrを算出する。
【0045】
そして、ステップ106において、上記ステップ104で算出した抵抗値R及び比誘電率εrに基づいて、感度係数を推定する。
【0046】
次のステップ108では、ドライバに対して呼気を吹きかけるように指示するメッセージを出力装置26に表示するように制御する。これによって、ドライバが、分析ガス供給ライン12の吸い込み口に呼気を吹きかけ、ドライバの呼気が、アノード電極16に供給される。
【0047】
そして、ステップ110では、ポテンショスタット22から、上記ステップ108で表示したメッセージに応じたドライバの呼気が吹きかけられているときの予め定められた所定期間分の電流波形を取得する。次のステップ112では、上記ステップ110で取得した電流波形に基づいて、ピーク電流量を算出する。
【0048】
そして、ステップ114において、上記ステップ106で推定した感度係数、及び上記ステップ112で算出したピーク電流量に基づいて、アルコール濃度を推定する。次に、ステップ116で、上記ステップ114の推定結果を出力装置26に表示して処理を終了する。
【0049】
以上説明したように、第1の実施の形態に係るガス検出装置によれば、アルコールガスの濃度を検出するために計測される、燃料電池の両面に設けられたアノード電極及びカソード電極の間に流れる電流量に基づいて、プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定することにより、特別な構成を付加することなく、簡易な構成で、プロトン伝導膜の含水量に応じたガスの検出感度を推定することができる。
【0050】
また、アルコールガスの濃度を検出する度に、まず、感度係数を推定するため、アルコールガスの濃度を安定して精度良く検出することができる。
【0051】
また、プロトン伝導膜を用いた燃料電池の感度が、プロトン伝導膜の含水量低下により低下した場合であっても、感度補正を行うことが可能になり、長期間安定して計測できる高感度なアルコール検出装置を実現することができる。
【0052】
また、高感度なプロトン伝導膜を用いた燃料電池を使用するため、吹きかけ式でも十分な感度を有するアルコール検出装置が実現可能になる。
【0053】
また、プロトン伝導膜の含水率が低下し、固体高分子型燃料電池のセンサとしての感度が低下した場合であっても、プロトン伝導膜の等価回路の抵抗R及び比誘電率εrより感度を推定することができるため、アルコール濃度の計測精度向上、センサの長寿命化、センサの交換時期の診断等、固体高分子型の燃料電池を用いたアルコールセンサの実現に不可欠な効果を得ることができる。
【0054】
なお、上記の実施の形態では、抵抗R及び比誘電率εrを用いて感度係数PSCを推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。本実施の形態では、アノード電極16及びカソード電極18の面積S、アノード電極16とカソード電極18との間の距離dは一定であるため、比誘電率εrを静電容量Cに置き換えて、抵抗R及び静電容量Cの関係を示す関数g(R、C)又はテーブルに基づいて、感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0055】
さらに、電圧V0及びV1を固定値とすることにより、以下の(9)式に示す電流の積分値Iは、静電容量Cに比例する。
【0056】
【数6】
【0057】
このことから、比誘電率εrまたは静電容量Cを電流積分値Iに置き換えて、抵抗R及び電流積分値Iの関係を示す関数g(R、I)又はテーブルに基づいて、感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0058】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態に係るガス検出装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0059】
第2の実施の形態では、燃料電池の等価回路における抵抗値のみを求めて、感度係数を推定している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0060】
第2の実施の形態に係るガス検出装置では、データ算出部34によって、ポテンショスタット22により取得された電圧波形及び電流波形に基づいて、上記(1)式、(2)式、又は(3)式に従って、抵抗Rを算出する。
【0061】
感度推定部36は、データ算出部34により算出された抵抗Rと、図7に示すような、抵抗Rと感度係数PSCとの関係を表わす予め求められた関数gR(R)とに基づいて、感度係数PSCを推定する。
【0062】
なお、第2の実施の形態に係るガス検出装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
なお、上記の実施の形態では、抵抗Rと感度係数PSCとの関係を表わす関数gR(R)を用いて、感度係数PSCを推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。関数gR(R)に基づいて与えられる抵抗Rと感度係数PSCの関係を表すテーブルにより、抵抗Rから感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0064】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第3の実施の形態に係るガス検出装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
第3の実施の形態では、燃料電池の等価回路における抵抗の存在を無視して、キャパシタの比誘電率のみを求めて、感度係数を推定している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0066】
燃料電池20の等価回路において、抵抗Rの存在を無視すると、上記(4)式は、以下の(10)式のように記述され、上記(6)式は、以下の(11)式のように記述される。
【0067】
【数7】
【0068】
そこで、第3の実施の形態に係るガス検出装置では、データ算出部34によって、ポテンショスタット22により印加される電圧をV0から正電圧V1に上げたときに取得された電圧波形及び電流波形から、過渡応答による変化がなくなるまでの電圧値及び電流量を用いて、上記(11)式に従って、比誘電率εrを算出する。
【0069】
感度推定部36は、データ算出部34により算出された比誘電率εrと、図8に示すような、比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を表わす予め求められた関数gC(εr)とに基づいて、感度係数PSCを推定する。
【0070】
なお、第3の実施の形態に係るガス検出装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0071】
なお、上記の実施の形態では、比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を表わす関数gC(εr)を用いて、感度係数PSCを推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。関数gC(εr)に基づいて与えられる比誘電率εrと感度係数PSCとの関係を表すテーブルにより比誘電率εrから感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0072】
また、本実施の形態では、アノード電極16及びカソード電極18の面積S、アノード電極16及びカソード電極18の間の距離dは一定であるため、比誘電率εrを静電容量Cに置き換えて、同様の方法で感度係数PSCを推定するようにしてもよい。さらに、電圧V0及びV1を固定値とすることにより、以下の(12)式に示す電流の積分値Iは静電容量Cに比例する。
【0073】
【数8】
【0074】
このことから、比誘電率εrまたは静電容量Cを電流積分値Iに置き換えて、電流積分値Iと感度係数PSCとの関係を示す関数又はテーブルに基づいて、感度係数PSCを推定するようにしてもよい。
【0075】
また、上記の第1の実施の形態〜第3の実施の形態において、算出された呼気中のアルコールの濃度を表示する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、算出したアルコールの濃度と予め定めた閾値とを比較し、算出したアルコールの濃度が閾値以上の場合に、エンジンが始動できないように制御することにより、飲酒運転予防のための安全システムを実現してもよい。
【0076】
また、上記の実施の形態では、ドライバの呼気から分析対象ガスを検出する場合について説明したが、ガス検出装置を携帯可能に構成する等により、本発明をドライバ以外の人間の呼気から分析対象ガスを検出する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 ガス検出装置
12 分析ガス供給ライン
14 プロトン伝導膜
16 アノード電極
18 カソード電極
20 燃料電池
22 ポテンショスタット
24 コンピュータ
30 電圧制御部
32 データ取得部
34 データ算出部
36 感度推定部
38 ピーク電流量算出部
40 ガス濃度推定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導膜の一方の面にアノード電極を設け、前記プロトン伝導膜の他方の面にカソード電極を設けた燃料電池と、
前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に流れる電流量を計測する電流計測手段と、
前記電流計測手段によって計測された第1の電流量に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する感度推定手段と、
前記アノード電極に検出対象ガスが供給されているときに前記電流計測手段によって計測された第2の電流量に基づいて、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度を検出するガス検出手段と、
を含むガス検出装置。
【請求項2】
前記感度推定手段は、前記電流計測手段によって計測された前記第1の電流量に基づいて、前記アノード電極、前記カソード電極、及び前記プロトン伝導膜で構成されるキャパシタの静電容量、前記キャパシタの比誘電率、又は電流積分値を算出し、前記算出した前記静電容量、前記比誘電率、又は前記電流積分値に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する請求項1記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記感度推定手段は、前記電流計測手段によって計測された前記第1の電流量に基づいて、前記アノード電極、前記カソード電極、及び前記プロトン伝導膜の抵抗値を算出し、前記算出した前記抵抗値に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する請求項1又は2記載のガス検出装置。
【請求項4】
前記ガス検出手段は、前記感度推定手段によって推定された前記感度係数と、前記第2の電流量とに基づいて、前記検出対象ガスの濃度を検出する請求項1〜請求項3の何れか1項記載のガス検出装置。
【請求項5】
前記電流計測手段は、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記第1の電流量を計測し、前記第1の電流量を計測した後に、前記第2の電流量を計測し、
前記ガス検出手段は、前記感度推定手段によって前記第1の電流量に基づいて推定された前記感度係数と、前記計測された前記第2の電流量とに基づいて、前記検出対象ガスの濃度を検出する請求項4記載のガス検出装置。
【請求項1】
プロトン伝導膜の一方の面にアノード電極を設け、前記プロトン伝導膜の他方の面にカソード電極を設けた燃料電池と、
前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に流れる電流量を計測する電流計測手段と、
前記電流計測手段によって計測された第1の電流量に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する感度推定手段と、
前記アノード電極に検出対象ガスが供給されているときに前記電流計測手段によって計測された第2の電流量に基づいて、検出対象の気体中に含まれる検出対象ガスの濃度を検出するガス検出手段と、
を含むガス検出装置。
【請求項2】
前記感度推定手段は、前記電流計測手段によって計測された前記第1の電流量に基づいて、前記アノード電極、前記カソード電極、及び前記プロトン伝導膜で構成されるキャパシタの静電容量、前記キャパシタの比誘電率、又は電流積分値を算出し、前記算出した前記静電容量、前記比誘電率、又は前記電流積分値に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する請求項1記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記感度推定手段は、前記電流計測手段によって計測された前記第1の電流量に基づいて、前記アノード電極、前記カソード電極、及び前記プロトン伝導膜の抵抗値を算出し、前記算出した前記抵抗値に基づいて、前記プロトン伝導膜の含水量に応じた感度係数を推定する請求項1又は2記載のガス検出装置。
【請求項4】
前記ガス検出手段は、前記感度推定手段によって推定された前記感度係数と、前記第2の電流量とに基づいて、前記検出対象ガスの濃度を検出する請求項1〜請求項3の何れか1項記載のガス検出装置。
【請求項5】
前記電流計測手段は、前記アノード電極及び前記カソード電極の間に所定の直流電圧を印加すると共に、前記第1の電流量を計測し、前記第1の電流量を計測した後に、前記第2の電流量を計測し、
前記ガス検出手段は、前記感度推定手段によって前記第1の電流量に基づいて推定された前記感度係数と、前記計測された前記第2の電流量とに基づいて、前記検出対象ガスの濃度を検出する請求項4記載のガス検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2013−7702(P2013−7702A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141775(P2011−141775)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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